(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態に係る乾燥システム10及び未乾燥成形体1の乾燥方法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、乾燥システム10の構成を示す模式図である。
【0011】
(未乾燥成形体1)
未乾燥成形体1は、乾燥システム10において乾燥処理が実施される対称である。
【0012】
図1に示すように、未乾燥成形体1は、内部を貫通する貫通孔11を有する。貫通孔11は、最終製品において、例えば流体(気体、液体など)の流路として利用される。ただし、最終製品に流路が不要であれば、未乾燥成形体1は貫通孔11を有していなくてよい。
【0013】
未乾燥成形体1は、セラミックス粉末及び/又は金属粉末、有機バインダ及び溶媒を含む。未乾燥成形体1は、セラミックス粉末及び/又は金属粉末、有機バインダ、及び溶媒を含む成形用スラリーを成形型に充填した後、成形型内でスラリーを成形(固化又は硬化)することによって形成される。成形用スラリーには、可塑剤、分散助剤などが含まれてもよい。
【0014】
未乾燥成形体1における各成分の割合は特に制限されないが、例えば、セラミックス原料粉体及び/又は金属粉体が10〜60体積%、有機バインダが3〜20体積%、溶媒が30〜70体積%、可塑剤が5体積%以下、分散助剤が0.5〜10体積%とすることができる。未乾燥成形体1は、多孔質であってもよい。未乾燥成形体1が多孔質である場合、未乾燥成形体1の気孔率は、20体積%〜90体積%とすることができる。
【0015】
セラミックス原料粉体は、酸化物系セラミックスであってもよいし、非酸化物系セラミックスであってもよい。セラミックス原料粉体としては、金属化合物、窒化物、炭化物、又はこれらの組み合わせを用いることができる。金属化合物は、焼成により所望の組成を有するセラミックスを構成するものであり、例えば、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化カルシウム、酸化錫、二酸化珪素、酸化イットリウム、酸化コバルト、酸化銅、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化クロム、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどが挙げられる。窒化物としては、窒化珪素、窒化チタン、窒化アルミニウムなどが挙げられる。炭化物としては、炭化珪素、炭化チタンなどが挙げられる。セラミックス原料粉体の粒子径は特に制限されず、スラリーを調製した場合に、溶媒中に安定的に分散可能であればよい。
【0016】
金属粉体は、導電性を有するものであればよい。金属粉体としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅、タングステン、モリブデン、又はこれらの合金からなる粉末を用いることができる。金属粉末には、1種類の金属粉末を用いてもよいし、2種類以上の金属粉末を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
有機バインダは、溶媒に溶解するものであればよい。有機バインダとしては、例えば、ブチラール系樹脂(ポリビニルブチラールなど)、アクリル系樹脂(アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチルなど)、セルロース系樹脂(エチルセルロース、メチルセルロースなど)、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、又はこれらの組み合わせを用いることができる。また、有機バインダとしては、イソシアネート及びポリオールに代表されるような、化学反応によってウレタン樹脂となるウレタン前駆体を用いることもできる。
【0018】
溶媒は、有機バインダ、可塑剤、及び分散助剤を溶解するものであればよい。溶媒としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソピルアルコール、ブタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノールなど)、エーテル類(2−メトキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレンエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなど)、エステル類、及び2塩基酸エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)、炭化水素類(トルエン、キシレン、シクロヘキサンなど)、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、スルフォランなどが挙げられる。溶媒には、1種類の溶媒を用いてもよいし、2種類以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
溶媒の1気圧での沸点は、120℃以上であることが好ましい。上記のうち1気圧での沸点が120℃以上である溶媒は、アルコール類(オクタノール、2−エチルヘキサノール)、エーテル類(2−メトキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(ジイソブチルケトン)、エステル類および2塩基酸エステル類(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、炭化水素類(キシレン)である。
【0020】
可塑剤としては、例えば、フタル酸誘導体、イソフタル酸誘導体、テトラヒドロフタル
酸誘導体、アジピン酸誘導体、マレイン酸誘導体、フマル酸誘導体、ステアリン酸誘導体、オレイン酸誘導体、イタコン酸誘導体、リシノール誘導体などを用いることができ、フタル酸誘導体が特に好適である。可塑剤の具体例としては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジフェニルフタレートなどが挙げられる。
【0021】
分散助剤は、成形用スラリーの粘度を下げて流動性を向上させるために用いられる。分散助剤としては、例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン酸エステル塩系共重合体、スルホン酸塩系共重合体、3級アミンを有するポリウレタンポリエステル系共重合体などを用いることができ、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩などが特に好適である。
【0022】
このような成形用スラリーは、上記の各組成物を混合した時点から硬化し始めるため、射出成形に用いられる熱可塑性樹脂などとは異なり、急速に粘度が増大する。具体的には、成形用スラリーは、各組成物の混合から2分経過後の粘度をE1(せん断速度1sec
−1)とし、各組成物の混合から12分経過後の粘度をE2(せん断速度1sec
−1)としたとき、0.01Pa・sec≦E1≦3.0Pa・sec、2.0Pa・sec≦E2≦2000Pa・sec、E2/E1≧5.0の関係を満たすものである。
【0023】
(乾燥システム10)
乾燥システム10は、未乾燥成形体1の乾燥に用いられる。本実施形態において、未乾燥成形体1の乾燥は、溶媒を含む未乾燥成形体1を置換液体に浸漬することによって溶媒を置換液体と置換した後、未乾燥成形体1から置換液体を揮発除去することによって達成される。未乾燥成形体1の乾燥方法については後述する。
【0024】
乾燥システム10は、貯留槽20、支持部30、蒸留部40、ポンプ50、濃度センサ60、及び制御部70を備える。
【0025】
1.貯留槽20
貯留槽20は、貯留された置換液体に未乾燥成形体1を浸漬した状態で、置換液体を循環可能な容器である。貯留槽20には、置換液体の供給と排出とが行われる。このような貯留槽20を用いることにより未乾燥成形体1の内部及び周辺に置換液体の流れを作ることができるため、未乾燥成形体1に含まれる溶媒と置換液体との置換を促進することができる。
【0026】
貯留槽20は、
図1に示すように、貯留部21と、供給路22と、排出路23とを有する。
【0027】
貯留部21は、置換液体を貯留する。貯留部21は、完全密封された空間内に配置されていてもよい。置換液体とは、未乾燥成形体1に含まれる溶媒より揮発性が高く、かつ、当該溶媒と相溶する液体である。置換液体は、未乾燥成形体1に含まれる有機バインダを溶解しないことが好ましい。これによって、置換液体に浸漬された未乾燥成形体1の形状及び機械的強度を維持することができる。
【0028】
ここで、本明細書において、置換液体が溶媒より揮発性が高いとは、置換液体の1気圧での沸点が溶媒の1気圧での沸点より低いことを意味する。置換液体の1気圧での沸点の上限値は特に制限されないが、95℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。これにより、溶媒と置換された置換液体を揮発除去するのに要する時間を短縮できる。置換液体の1気圧での沸点の下限値は特に制限されないが、30℃以上が好ましい。これにより、貯留部21から置換液体が過剰に揮発することを抑制できる。
【0029】
本明細書において、置換液体が溶媒と相溶するとは、100ccの置換液体に対して溶媒が1cc以上溶解することを意味する。100ccの置換液体に溶解する溶媒の量は、5cc以上が好ましく、20cc以上がより好ましい。これにより、未乾燥成形体1に含まれる溶媒を置換液体と置換するのに要する時間を短縮できる。なお、置換液体に溶媒が溶解するとは、溶媒が置換液体中に分散して均一な単一相を形成することを意味する。
【0030】
本明細書において、置換液体が有機バインダを溶解しないとは、100ccの置換液体に対して有機バインダが0.5cc以上溶解しないことを意味する。100ccの置換液体に溶解する有機バインダの量は0.2cc未満であることが好ましい。これによって、置換液体に浸漬された未乾燥成形体1の形状及び機械的強度をより維持することができる。
【0031】
このような特性を有する置換液体としては、代替フロン又はノンフロンが好適である。代替フロンの具体例としては、例えば、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などが挙げられる。ノンフロンの具体例としては、例えば、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、炭化水素などが挙げられる。
【0032】
本実施形態において、置換液体の密度は、未乾燥成形体1に含まれる溶媒の密度より大きい。そのため、未乾燥成形体1から放出された溶媒には浮力が生じて上方に向かって流れる。置換液体の密度は、未乾燥成形体1に含まれる溶媒の密度に応じて設定すればよく、特に制限されない。
【0033】
供給路22は、貯留部21に置換液体を供給するための配管である。供給路22の一端部は、貯留部21に接続される。供給路22の他端部は、ポンプ50に接続される。供給路22は、貯留部21の内面21Sに開口する供給口22aを有する。ポンプ50から送出される置換液体は、供給口22aから貯留部21に供給される。
【0034】
排出路23は、貯留部21から置換液体及び溶媒を排出するための配管である。排出路23の一端部は、貯留部21に接続される。排出路23の他端部は、蒸留部40に接続される。排出路23は、貯留部21の内面21Sに開口する排出口23aを有する。排出口23aは、鉛直方向において置換液体及び溶媒の液面よりも下方に配置される。
【0035】
本実施形態において、排出口23aは、鉛直方向において供給口22aから離れている。これによって、置換液体に供給口22aから排出口23aへの流れを作ることができるため、より効率的に未乾燥成形体1に含まれる溶媒を置換液体と置換することができる。
【0036】
本実施形態では、置換液体の密度が未乾燥成形体1に含まれる溶媒の密度より大きいため、
図1に示すように、排出口23aは、鉛直方向において供給口22aより上方に配置されることが特に好ましい。これによって、上方に浮かびやすい溶媒を、供給口22aから排出口23aへと上方に向かう置換液体の流れに乗せて効率的に排出できるため、貯留部21内における溶媒の濃度を速やかに低減できる。その結果、未乾燥成形体1に含まれる溶媒をより効率的に置換液体と置換することができる。
【0037】
2.支持部30
支持部30は、未乾燥成形体1を支持する。
図1に示すように、支持部30は、複数の未乾燥成形体1を支持可能であることが好ましい。
【0038】
支持部30は、貯留部21内に出し入れ可能である。支持部30の上下動は、制御部70によって制御される。
【0039】
支持部30は、置換液体を流通可能な構造を有する。支持部30としては、例えば、網状部材によって構成される籠、棒状部材によって構成される枠体などを用いることができる。
【0040】
支持部30は、
図1に示すように、未乾燥成形体1の貫通孔11が鉛直方向に沿って配置されるように未乾燥成形体1を支持することが好ましい。これによって、置換液体及び溶媒の密度差によって貫通孔11内に置換液体の流れを発生させることができるため、未乾燥成形体1に含まれる溶媒をより効率的に置換液体と置換することができる。
【0041】
3.蒸留部40
蒸留部40は、排出路23に接続される。蒸留部40には、排出路23を介して貯留部21から排出された置換液体及び溶媒が流入する。蒸留部40は、置換液体及び溶媒の沸点差を利用して、置換液体と溶媒とを分離する。
【0042】
蒸留部40は、分離した置換液体をポンプ50に供給する。蒸留部40は、分離した置換液体を貯留する貯留タンクを有していてもよい。
【0043】
4.ポンプ50
ポンプ50は、供給路22に接続される。ポンプ50は、連通路51を介して蒸留部40に接続される。ポンプ50は、蒸留部40から貯留部21に置換液体を送出する。ポンプ50は、制御部70によって駆動制御される。
【0044】
ポンプ50は、固定容量式ポンプであってもよいし、可変容量式ポンプであってもよい。ポンプ50としては、例えば、ギヤポンプ、ベーンポンプ、ピストンポンプ、ねじポンプなどを用いることができる。
【0045】
5.濃度センサ60
濃度センサ60は、貯留部21内における溶媒の濃度を検出する。濃度センサ60は、本発明に係る「検出部」である。濃度センサ60は、検出した溶媒の濃度を制御部70に出力する。
【0046】
6.制御部70
制御部70は、支持部30を上下動させる。制御部70は、ポンプ50を駆動制御する。
【0047】
制御部70は、支持部30を下降させて未乾燥成形体1を置換液体に浸漬した後、ポンプ50を駆動させて貯留槽20に置換液体を循環させる。これによって、未乾燥成形体1に含まれる溶媒が置換液体と置換されて、溶媒は置換液体とともに排出路23から排出されるため、濃度センサ60によって検出される溶媒の濃度は徐々に低下する。
【0048】
制御部70は、濃度センサ60によって検出される溶媒の濃度が0.005%以上3.0%以下の範囲まで低下した場合、ポンプ50を停止するとともに、支持部30を上昇させて未乾燥成形体1を置換液体から取り出すことが好ましい。
【0049】
溶媒の濃度が0.005%以上のときに未乾燥成形体1を取り出すことによって、後述する乾燥済み成形体に適度な可塑性を付与できるため、乾燥済み成形体の表面外縁にクラックや欠けなどの損傷が生じることを抑制できる。この観点から、未乾燥成形体1を貯留部から取り出すときの貯留部21内における溶媒の濃度は、0.02%以上がより好ましく、0.07%以上が特に好ましい。
【0050】
また、溶媒の濃度が3.0%以下のときに未乾燥成形体1を取り出すことによって、乾燥済み成形体の脱脂工程及び/又は焼成工程における溶媒の蒸発に伴う体積膨張に起因するクラックが発生してしまうことを抑制できる。この観点から、未乾燥成形体1を貯留部から取り出すときの貯留部21内における溶媒の濃度は、1.8%以下がより好ましく、1.1%以下が特に好ましい。
【0051】
なお、制御部70は、溶媒の濃度が0.005%以上3.0%以下の範囲に低下するまでの間、ポンプ50を適宜停止してもよい。すなわち、制御部70によるポンプ50の駆動は、断続的に行われてもよい。
【0052】
(未乾燥成形体1の乾燥方法)
次に、未乾燥成形体1の乾燥方法について説明する。なお、未乾燥成形体1の作製方法は特に制限されず、例えば、国際公開第2014/156768号に記載のモールドキャスト法を用いることができる。
【0053】
図2は、未乾燥成形体1の乾燥方法を説明するためのフロー図である。
【0054】
ステップS1において、制御部70は、支持部30を下降することによって、置換液体(貯留部21)に各未乾燥成形体1を浸漬させる。未乾燥成形体1の内部では、置換液体が溶媒と相溶することによって置換液体が徐々に浸潤して、溶媒と置換液体との置換が始まる。
【0055】
この際、各未乾燥成形体1の全体を置換液体に浸漬させることが好ましい。これによって、各未乾燥成形体1に含まれる溶媒が未乾燥成形体1中に残留することを抑制できる。また、貯留部21に貯留された置換液体の体積に対する各未乾燥成形体1の合計体積の割合は、30%以下であることが好ましい。これによって、置換液体を溶媒と効率的に相溶させることができる。また、置換液体が有機バインダを溶解しない場合には、置換液体に浸漬された未乾燥成形体1の形状及び機械的強度を維持することができる。
【0056】
ステップS2において、制御部70は、ポンプ50を駆動することによって、置換液体を貯留部21に循環させる。これによって、未乾燥成形体1の周囲及び内部に置換液体の流れを作ることができるため、未乾燥成形体1に含まれる溶媒と置換液体との置換を促進することができる。
【0057】
この際、本実施形態では、置換液体の密度が溶媒の密度より大きく、かつ、排出口23aが供給口22aより上方に配置されているため、上方に浮かびやすい溶媒を、供給口22aから排出口23aへと上方に向かう置換液体の流れに乗せて効率的に排出できる。
【0058】
ステップS3において、制御部70は、濃度センサ60によって検出される溶媒の濃度が0.005%以上3.0%以下の範囲まで低下したか否かを判定する。溶媒の濃度が0.005%以上3.0%以下の範囲まで低下していない場合、処理はステップS2に戻る。溶媒の濃度が0.005%以上3.0%以下の範囲まで低下した場合、処理はステップS4に進む。
【0059】
ステップS4において、制御部70は、ポンプ50を停止して置換液体の循環を終了させるとともに、支持部30を上昇させて置換液体(貯留部21)から各未乾燥成形体1を取り出す。
【0060】
ステップS5において、浸漬後の未乾燥成形体1から置換液体を揮発させる。これにより、未乾燥成形体1の乾燥が完了して、乾燥済み成形体が形成される。置換液体は溶媒よりも揮発性が高いため、置換液体は常温で揮発させることができる。或いは、未乾燥成形体1を加熱するとしても、未乾燥成形体1に熱応力が生じるほどの高温で加熱する必要はない。なお、未乾燥成形体1を支持部30で支持したまま乾燥させてもよいし、未乾燥成形体1を支持部30から取り出して別途乾燥させてもよい。
【0061】
以上のとおり、本実施形態では、未乾燥成形体1に含まれる溶媒を置換液体に置換する工程と、この置換液体を揮発させる工程とを経て未乾燥成形体1が乾燥され、これによって乾燥済み成形体が形成される。
【0062】
乾燥済み成形体は、セラミックス粉末及び/又は金属粉末及び有機バインダに加えて、少量の溶媒を含有している。具体的には、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合は、0.1%以上20%以下であることが好ましい。
【0063】
乾燥済み成形体における溶媒の体積割合を0.1%以上とすることによって、乾燥済み成形体に適度な可塑性を付与することができる。その結果、乾燥済み成形体の表面外縁にクラックや欠けなどの損傷が生じることを抑制できる。この観点から、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合は、0.3%以上がより好ましく、1.0%以上が特に好ましい。
【0064】
また、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合を20%以下とすることによって、乾燥済み成形体の脱脂工程及び/又は焼成工程における溶媒の蒸発に伴う体積膨張に起因するクラックが発生してしまうことを抑制できる。この観点から、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合は、12.0%以下がより好ましく、8.0%以下が特に好ましい。
【0065】
乾燥済み成形体における溶媒の体積割合は、上述したとおり、未乾燥成形体1を置換液体から取り出す際の貯留部21における溶媒濃度を0.005%以上3.0%以下とすることによって調整できる。
【0066】
乾燥済み成形体における溶媒の体積割合は、置換液体に浸漬する前の未乾燥成形体1の重量と乾燥済み成形体の重量との差分から残留する溶媒の体積を算出し、残留する溶媒の体積を乾燥済み成形体の体積で除することによって算出される。
【0067】
(特徴)
本実施形態に係る乾燥システム1は、未乾燥成形体1に含まれる溶媒より揮発性が高く、かつ、当該溶媒と相溶する置換液体を循環可能な貯留槽20を備える。よって、貯留部21内において置換液体に流れを作ることができるため、未乾燥成形体1に含まれる溶媒と置換液体との置換を促進することができる。その結果、未乾燥成形体1の乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0068】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0069】
[変形例1]
上記実施形態において、置換液体の密度は、未乾燥成形体1に含まれる溶媒の密度より大きいこととしたが、これに限られない。置換液体の密度は、溶媒の密度と同じであってもよいし、溶媒の密度より小さくてもよい。
【0070】
置換液体の密度が溶媒の密度より小さい場合、
図3に示すように、排出口23aは、鉛直方向において供給口22aより下方に配置されることが好ましい。これによって、下方に沈みやすい溶媒を、供給口22aから排出口23aへと下方に向かう置換液体の流れに乗せて効率的に排出できるため、貯留部21内における溶媒の濃度を速やかに低減できる。その結果、未乾燥成形体1に含まれる溶媒をより効率的に置換液体と置換することができる。
【0071】
[変形例2]
上記実施形態では、置換液体に各未乾燥成形体1を浸漬(ステップS1)させた後に、置換液体を貯留部21に循環(ステップS2)させることとしたが、各未乾燥成形体1の浸漬と置換液体の循環とは同時に行われてもよいし、置換液体の循環開始後に各未乾燥成形体1を浸漬してもよい。
【0072】
[変形例3]
上記実施形態では、複数の未乾燥成形体1を置換液体に浸漬することとしたが、処理する未乾燥成形体1の数は1以上であればよい。
【0073】
[変形例4]
上記実施形態では、濃度センサ60によって検出される溶媒の濃度が0.005%以上3.0%以下の範囲まで低下した場合に、未乾燥成形体1を置換液体から取り出すこととしたが、これに限られない。例えば、予め設定された浸漬時間が経過したときに、未乾燥成形体1を置換液体から取り出してもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明に係る成形体の実施例について説明する。本実施例では、置換液体を循環可能な貯留槽を用いることにより、未乾燥成形体に含まれる溶媒と置換液体との置換を促進できることは前提として、貯留槽内の溶媒の濃度と乾燥済み成形体におけるクラックの発生との関係について検証する。
【0075】
(実施例1〜8の作製)
まず、国際公開第2014/156768号に記載のモールドキャスト法を用いて、セラミックス粉末(酸化アルミニウム)、有機バインダ(ウレタン系樹脂)及び溶媒(2塩基酸エステル類)によって構成される未乾燥成形体1を作製した。セラミックス粉末、有機バインダ及び溶媒の含有率は、30体積%:15体積%:55体積%とした。
【0076】
次に、置換液体(ハイドロフルオロカーボン(HFC))を貯めた貯留部21に未乾燥成形体1を浸漬させ、貯留部21内に置換液体を循環させた。
【0077】
次に、貯留部21内の溶媒の濃度が表1に示す値になったときに、未乾燥成形体1を貯留部21から速やかに取り出した。
【0078】
次に、浸漬後の未乾燥成形体1から置換液体を常温で完全に揮発させることによって、乾燥済み成形体を形成した。
【0079】
そして、浸漬前の未乾燥成形体1と乾燥済み成形体との重量差から残留する溶媒の体積を求め、溶媒の体積を乾燥済み成形体の体積で除することによって乾燥済み成形体における溶媒の体積割合を算出した。算出結果は表1に示す通りであった。
【0080】
なお、以下に説明する破断歪及びクラックの評価のため、実施例1〜8それぞれの乾燥済み成形体を2つずつ作製した。
【0081】
(乾燥済み成形体の破断歪の測定)
実施例1〜8それぞれの乾燥済み成形体から、幅5.2mm、厚み3.9mm、長さ25mmの試験片を10個ずつ切り出した。
【0082】
そして、JISR1601:2008に規定された3点曲げ試験の手法に従って試験片を破断させ、10個の試験片の破断歪(試験片が破断したときの歪)の平均値を測定した。測定結果は、表1に示すとおりであった。なお、破断歪は、脆性破壊のし難さを示す指標であり、破断歪が大きいほど脆性破壊し難い傾向がある。
【0083】
(クラックの確認)
実施例1〜8の乾燥済み成形体の表面におけるクラックの有無を確認した。確認結果を表1に示す。表1では、長さ1mm以上のクラックが1つ以上確認されたものを「×」と評価し、長さ1mm未満0.5mm以上のクラックが1つ以上確認されたものを「△」と評価し、長さ0.5mm未満0.2mm以上のクラックが1つ以上確認されたものを「〇」と評価し、長さ0.2mm以上のクラックが確認されなかったものを「◎」と評価した。
【0084】
また、実施例1〜8の乾燥済み成形体に脱脂処理(400℃、3時間)及び焼成処理(1600℃、2時間)を施した後、焼成済み成形体の表面を観察してクラックの有無を確認した。確認結果を表1に示す。表1では、長さ1mm以上のクラックが1つ以上確認されたものを「×」と評価し、長さ1mm未満0.5mm以上のクラックが1つ以上確認されたものを「△」と評価し、長さ0.5mm未満0.2mm以上のクラックが1つ以上確認されたものを「〇」と評価し、長さ0.2mm以上のクラックが確認されなかったものを「◎」と評価した。
【0085】
【表1】
【0086】
実施例7では、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合が0.01%と少なすぎたため、乾燥済み成形体にクラックが発生した。この結果は、実施例7の乾燥済み成形体において、破断歪が低かったこととも整合している。
【0087】
実施例8では、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合が35.0%と多すぎたため、溶媒の蒸発に伴う体積膨張に起因するクラックが焼成済み成形体に発生した。
【0088】
一方、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合を0.1%以上20.0%以下とした実施例1〜6では、乾燥済み成形体及び焼成済み成形体の両方においてクラックが生じることを抑制できた。このことから、未乾燥成形体1を貯留部から取り出すときの貯留部21内における溶媒の濃度は、0.005%以上3.0%以下が好ましいことが分かった。
【0089】
また、実施例1〜6の乾燥済み成形体におけるクラック確認結果より、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合は、0.3%以上がより好ましく、1.0%以上が特に好ましいことが分かった。このことから、未乾燥成形体1を貯留部から取り出すときの貯留部21内における溶媒の濃度は、0.02%以上がより好ましく、0.07%以上が特に好ましいことも分かった。
【0090】
また、実施例1〜6の焼成済み成形体におけるクラック確認結果より、乾燥済み成形体における溶媒の体積割合は、12.0%以下がより好ましく、8.0%以下が特に好ましいことが分かった。このことから、未乾燥成形体1を貯留部から取り出すときの貯留部21内における溶媒の濃度は、1.8%以下がより好ましく、1.1%以下が特に好ましいことも分かった。