特許第6847327号(P6847327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6847327-樹脂組成物の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6847327
(24)【登録日】2021年3月4日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/12 20060101AFI20210315BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20210315BHJP
   C08K 5/21 20060101ALI20210315BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210315BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20210315BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C08L1/12
   C08L23/26
   C08K5/21
   C08L101/00
   C08G81/00
   C08B15/06
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2020-556981(P2020-556981)
(86)(22)【出願日】2020年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2020029190
【審査請求日】2020年10月21日
(31)【優先権主張番号】特願2019-140651(P2019-140651)
(32)【優先日】2019年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】福田 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】角田 惟緒
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−032137(JP,A)
【文献】 特表2005−525437(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/230600(WO,A1)
【文献】 特開2019−065167(JP,A)
【文献】 特開2010−235905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B15/06
C08G81/00
C08L1/00−101/16
C08K5/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加重平均繊維長が0.20mm〜1.50mmのアセチル化セルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程を有し
前記相溶化樹脂は、酸無水物を形成することが可能なジカルボン酸を、ポリオレフィン鎖上に有する高分子樹脂である樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第1混練工程で得られた混練物と、希釈用樹脂とを混練する第2混練工程をさらに有する請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記尿素の配合量は、前記アセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量100重量%に対して10〜100重量%である請求項1又は2に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記アセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の配合量は、前記アセチル化セルロース繊維、前記相溶化樹脂、及び前記尿素の合計量に対して、35〜85重量%である請求項1〜3の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細化したアセチル化セルロース繊維を含有するポリオレフィン樹脂、特にポリプロピレン樹脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物繊維を細かく解すことで得られる微細繊維状セルロースは、ミクロフィブリルセルロース及びセルロースナノファイバーを包含するものであり、約1nm〜数10μm程度の繊維径の微細繊維である。微細繊維状セルロースは、軽量で、且つ、高い強度および高い弾性率を有し、低い線熱膨張係数を有することから、樹脂組成物の補強材料として好適に使用されている。
【0003】
微細繊維状セルロースは、通常、水に分散している状態で得られるものであり、樹脂等と均等に混合させることが困難であった。そのため、樹脂との親和性・混和性を向上させるために、セルロース原料を化学変性する試みがなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1では、セルロース原料と尿素とを加熱処理することにより、セルロースのヒドロキシ基の一部をカルバメート基で置換したセルロース原料を得て、これを機械的処理により微細化し、微細繊維状セルロースを得ている。この方法で得られた微細繊維状セルロースは、従来の微細繊維状セルロースと比較して親水性が低く、極性の低い樹脂等との親和性が高いため、樹脂に均一性高く分散し、高い強度を有する複合体を与える。
【0005】
しかし、より高い曲げ弾性率、及び高い曲げ強度を有する樹脂成型体を得ることが可能な樹脂組成物の製造方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019−1876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い曲げ弾性率、及び高い曲げ強度を有する樹脂成型体を得ることが可能な樹脂組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)加重平均繊維長(長さ平均繊維長)が0.20mm〜1.50mmのアセチル化セルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程を有する樹脂組成物の製造方法。
(2)前記第1混練工程で得られた混練物と、希釈用樹脂とを混練する第2混練工程をさらに有する(1)に記載の樹脂組成物の製造方法。
(3)前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記尿素の配合量は、前記アセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量100重量%に対して10〜100重量%である(1)又は(2)に記載の樹脂組成物の製造方法。
(4)前記第1混練工程で前記混練機に投入する前記アセチル化セルロース繊維のうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の配合量は、前記アセチル化セルロース繊維、前記相溶化樹脂、及び前記尿素の合計量に対して、35〜85重量%である(1)〜(3)に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、曲げ弾性率、及び曲げ強度の高い樹脂成型体を得ることが可能な樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の製造方法に用いることができる粉砕機の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明において「〜」は端値を含む。すなわち「X〜Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0012】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、加重平均繊維長(長さ平均繊維長)が0.20mm〜1.50mmのアセチル化セルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程を含む。
【0013】
(アセチル化セルロース繊維)
本発明に用いるアセチル化セルロース繊維は、セルロース原料のセルロース表面に存在する水酸基の水素原子がアセチル基(CH−CO−)で置換されているものである。アセチル基で置換されることにより疎水性が高まり、乾燥時の凝集が減少するため作業性が高まり、混練後の樹脂中で分散や解繊しやすくなる。アセチル化セルロース繊維のアセチル基置換度(DS)は、作業性およびセルロース繊維の結晶性維持の観点から、好ましくは0.4〜1.3、より好ましくは0.6〜1.1となるように調整する。
【0014】
(セルロース原料)
本発明において、セルロース原料とは、セルロースを主体とした様々な形態の材料をいい、リグノセルロース(NUKP)を含むものであり、パルプ(晒又は未晒木材パルプ、晒又は未晒非木材パルプ、精製リンター、ジュート、マニラ麻、ケナフ等の草本由来のパルプなど)、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等の天然セルロース、セルロースを銅アンモニア溶液、モルホリン誘導体等の何らかの溶媒に溶解した後に再沈殿された再生セルロース、及び上記セルロース原料に加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル等の機械的処理等をすることによってセルロースを解重合した微細セルロース、アセチル化変性に影響を及ぼさない程度の各種セルロース誘導体などが例示される。
【0015】
なお、リグノセルロースは、植物の細胞壁を構成する、複合炭水化物ポリマーであり、主に多糖類のセルロース、ヘミセルロースと、芳香族高分子であるリグニンから構成されている。リグニンの含有量は、原材料となるパルプ等に対して、脱リグニン、又は漂白を行うことにより、調整することができる。
【0016】
本発明において、セルロース原料としてパルプを用いる場合、未叩解及び叩解のいずれでもよいが、叩解処理を行ったパルプを用いる方が好ましい。これによりパルプの比表面積が増加し尿素反応量が増加することが期待できる。叩解処理の程度としては、濾水度(C.S.F)400mL以下が好ましく、より好ましくは100mL〜200mL程度となる。400mLを超える濾水度では、その効果を発揮することが出来ず、100mL未満では、セルロース繊維へのダメージによる短繊維化のため、強化樹脂にしたときに強度向上効果が阻害される。また本叩解処理を行うことで、後述するアセチル化反応、洗浄処理、乾燥処理を行った際、加重平均繊維長(長さ平均繊維長)の範囲が0.2〜1.5mm、好ましくは0.3〜1.0mmの範囲に入る場合、後述する粉砕工程を省略してもよい。
【0017】
叩解処理の方法としては、例えば、公知の叩解機を用いてパルプ繊維を機械的(力学的)に処理することが挙げられる。叩解機としては、パルプ繊維を叩解する場合に通常使用される叩解機を使用することができ、例えば、ナイアガラビーター、PFIミル、ディスクリファイナー、コニカルリファイナー、ボールミル、石臼型ミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、家庭用ジューサーミキサー、乳鉢である。中でも、ナイアガラビーターやディスクリファイナー、コニカルリファイナーが好ましく、ディスクリファイナーやコニカルリファイナーがさらに好適である。
【0018】
(アセチル化反応)
アセチル化反応は、セルロース原料を膨潤させることのできる無水非プロトン性極性溶媒、例えばN−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中に原料を懸濁し、無水酢酸、アセチルクロリド等のハロゲン化アセチル等を使用して、塩基の存在下で行うと短時間で反応を行うことが可能となる。このアセチル化反応で用いる塩基としては、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等が好ましく、炭酸カリウムがより好ましい。また、無水酢酸などのアセチル化試薬を過剰に使用することで無水非プロトン性極性溶媒や塩基を使用しない条件で反応を行うことも可能である。
【0019】
アセチル化反応は、例えば、室温〜100℃で撹拌しながら行うことが好ましい。反応処理後はアセチル化試薬の除去のため減圧乾燥を行ってもよい。また目標のアセチル基置換度に到達していない場合、アセチル化反応とそれに続く減圧乾燥を任意の回数繰り返し行ってもよい。
【0020】
(洗浄)
アセチル化反応により得られたアセチル化セルロース繊維は、アセチル化処理後に水置換などの洗浄処理を行うことが好ましい。
【0021】
(脱水)
洗浄処理においては必要に応じて脱水を行ってもよい。脱水法としてはスクリュープレスを用いた加圧脱水法、揮発などによる減圧脱水法などで実施も可能だが、効率の点から遠心脱水法が好ましい。脱水は、溶媒中の固形分が10〜60%程度になるまで行うことが好ましい。
【0022】
(乾燥)
本発明に用いるアセチル化セルロース繊維は、上記脱水工程の後、必要に応じて実施される粉砕工程に用いる前に乾燥処理が施される。乾燥処理は、例えば、マイクロ波乾燥機、送風乾燥機や真空乾燥機を用いて行うことができるが、ドラム乾燥機、パドルドライヤー、ナウターミキサー、攪拌羽根のついた回分乾燥機など、攪拌しながら乾燥することができる乾燥機が好ましい。乾燥は、アセチル化セルロース繊維の含水率が1〜5%程度になるまで行うことが好ましい。
【0023】
本発明の特徴の一つにアセチル化セルロース繊維と相溶化樹脂とともに、尿素の同時添加による混練がある。この操作によるポリオレフィン樹脂中でのアセチル化セルロース繊維による強度が向上する現象のメカニズムは現時点では未解明であるが、以下のように考察することでその一部を説明することが可能となる。すなわち、尿素は温度が135℃を超える状態でアンモニアとイソシアン酸に分解されるが、尿素をアセチル化セルロース繊維と同時に混練することにより、混練によって新たにセルロース繊維内部から現れた未変性水酸基と発生したイソシアン酸とが反応しウレタン結合の生成を促すと考えられ、尿素処理を行わないアセチル化セルロース繊維と比較して疎水性が高まることが推測される。さらに酸無水物を有する相溶化樹脂と同時に溶融混練することで、アセチル化セルロース繊維の表面に尿素処理によって新たに導入されたアミノ基と相溶化樹脂が有するカルボン酸のイオン結合を促し、より強固にアセチル化セルロース繊維と相溶化樹脂との複合体を形成することが可能となっていると考えられる。
【0024】
以上のようなメカニズムを達成するために必要な尿素の配合量は、曲げ弾性率を向上させる観点、及び、尿素の配合量が多すぎるために繊維が凝集し、曲げ強度が低下することを抑制する観点から、アセチル化セルロース繊維に含まれるセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース繊維分の量(以後これを「セルロース量」と呼ぶことがある)100重量%に対して10〜100重量%が好ましく、20〜100重量%がより好ましく、30〜70重量%がさらに好ましい。
【0025】
(相溶化樹脂)
本発明の特徴の一つにアセチル化セルロース繊維と尿素とともに、相溶化樹脂の同時添加による混練がある。相溶化樹脂とは、親水性であるアセチル化セルロース繊維と疎水性であるポリオレフィンの希釈用樹脂との均一混合や密着性を高める働きをするものである。本発明に用いる相溶化樹脂(以下、「マスターバッチ用樹脂」ということがある)としては、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸などの酸無水物を形成することが可能な低分子量のジカルボン酸を、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン鎖上に有する高分子樹脂であり、中でもマレイン酸を付加させた無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)や無水マレイン酸変性ポリエチレン(MAPE)を、それぞれポリプロピレンやポリエチレンと共に用いることが好ましい。
【0026】
相溶化樹脂としての特徴を決める要素には、ジカルボン酸の付加量と母材となるポリオレフィン樹脂の重量平均分子量がある。ジカルボン酸の付加量が多いポリオレフィン樹脂はセルロースのような親水性高分子との相溶性を高めるが、付加の過程で樹脂としての分子量が小さくなってしまい成形物の強度が低下する。最適なバランスとしてジカルボン酸の付加量は、20〜100mgKOH/gであり、さらに好ましくは45〜65mgKOH/gである。付加量が少ない場合、樹脂中で尿素とのイオン結合量が少なくなる。また付加量が多い場合、樹脂中のカルボキシル基同士の水素結合などによる自己凝集や、過大な付加反応による母材となるオレフィン樹脂の分子量の減少により強化樹脂としての強度が未達となる。ポリオレフィン樹脂の分子量としては35,000〜250,000が好ましく、50,000〜100,000がさらに好ましい。分子量がこの範囲から小さい場合は樹脂として強度が低下し、この範囲から大きい場合は溶融時の粘度上昇が大きく、混練時の作業性が低下するとともに成形不良の原因となる。
【0027】
上記の特徴を有する相溶化樹脂の添加量は、セルロース量に対し10〜70重量%が好ましく、20〜50重量%がさらに好ましい。添加量が70重量%を超えると尿素由来のイソシアン酸のセルロース繊維への導入阻害や、相溶化剤と尿素の複合体形成が促進されると考えられ、本発明の効果が発揮されない。
【0028】
また相溶化樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合樹脂として用いてもよい。
【0029】
(第1混練工程前処理−粉砕工程)
本発明においては、後述する第1混練工程の前に粉砕工程を設けてもよい。粉砕工程で粉砕されたアセチル化セルロース繊維を用いることで、混練機に投入する際に、アセチル化セルロース繊維の繊維塊が適度に解れた状態となり、投入口(シュート部)におけるブリッジ(詰まり)やパルプのスクリューへの食い込み不良の発生を抑制することができる。
【0030】
本発明の粉砕工程に用いることができる粉砕機の概略を図1に示す。図1に示す粉砕機2は、被粉砕材料を投入するための投入口4を有する本体6、本体6に固定された固定刃8、投入口4から投入された被粉砕材料を粉砕室10に引き込むブレード12aを有する回転刃12、粉砕された材料の排出粒度を調整するスクリーン14を備えている。
【0031】
本発明の粉砕工程においては、粉砕機2の投入口4から、乾燥した状態のアセチル化セルロース繊維の綿状塊3を投入する。投入されたアセチル化セルロース繊維の綿状塊3は、回転刃12により粉砕室10に引き込まれ、回転刃12のブレード12aと固定刃8との間に作用するせん断力により粉砕される。さらに、回転刃12の全体で、スクリーン14に対してアセチル化セルロース繊維を押し付けながら粉砕し、スクリーン14の径より小さくなると、粉砕機2から排出される。スクリーン14の径以上のアセチル化セルロース繊維は、回転刃12で持ち上げられて、粉砕が繰り返される。
【0032】
ここで、本発明においては、径が1mm以上、5mm以下、好ましくは径が3mm以上、5mm以下のスクリーン14を用いることが好ましい。スクリーンの径が小さすぎると、このスクリーンを通して得られるアセチル化セルロース繊維の平均繊維長が短くなりすぎるため、得られる成型体は曲げ強度が低いものとなる。また、スクリーン径が大きすぎると、平均繊維長が長く綿状の塊の量が増えるため、混練機への食い込み性が劣ることに起因する作業性の低下や、得られる成型体中に未解繊繊維量が増えて強度低下が発生する。このようにして得たアセチル化セルロース繊維の加重平均繊維長(長さ平均繊維長)が0.20〜1.5mm程度になるのが好ましく、さらに好ましくは0.3〜1.0mmである。
【0033】
粉砕工程において粉砕するアセチル化セルロース繊維は、混練時の乾燥負荷軽減の観点から、乾燥させたものを用いることが好ましい。粉砕機2に投入する前段階の乾燥させたアセチル化セルロース繊維は、通常、綿状の繊維塊である。
【0034】
(第1混練工程)
本発明の第1混練工程においては、加重平均繊維長が0.20〜1.50mm、好ましくは0.30〜1.00mmのアセチル化セルロース繊維、相溶化樹脂、及び尿素を同時に混練機に投入し、溶融混練を行う。アセチル化セルロース繊維の加重平均繊維長(長さ平均繊維長)は、ファイバーテスター(L&W社製)などを用いて測定することができる。混練機に投入する際には、市販されている各種フィーダーやサイドフィーダーを用いることができる。相溶化樹脂と尿素はあらかじめ粉末化しておいた場合は、投入前にアセチル化セルロース繊維、相溶化樹脂、及び尿素を市販の混合機などにより混合して投入することができる。相溶化樹脂等が粉末化していない場合でも、例えばペレット用のフィーダーとアセチル化セルロース繊維用のフィーダーのように、複数台のフィーダーを準備することで投入することができる。第1混練工程において、混練機に投入するアセチル化セルロース繊維のセルロース繊維分の配合量は、アセチル化セルロース繊維、相溶化樹脂、及び尿素の合計量に対して、35〜85重量%であることが好ましく、40〜65重量%であることがより好ましい。
【0035】
(混練機)
本発明の第1混練工程で用いる混練機としては、相溶化樹脂、及び尿素を溶融混練可能であることに加え、アセチル化セルロース繊維のナノ化を促す混練力の強いものが好ましく、二軸混練機、四軸混練機等の多軸混練機を使用し、スクリューを構成するパーツにニーディングやローターなどを複数含む構成であることが望ましい。上記と同等の混練力を確保できれば、例えば、ベンチロール、バンバリーミキサー、ニーダー、プラネタリーミキサー等の混練機を使用してもよい。
【0036】
溶融混練の設定温度は使用する相溶化樹脂の溶融温度に合わせて調整することができる。相溶化樹脂として本発明に適した無水マレイン酸変性ポリプロピレンを使用する場合、尿素の分解を促すため135℃以上であることが好ましく、酸無水物形成能を有するジカルボン酸残基を有する相溶化樹脂が溶融しかつ一部末端が脱水による閉環している160℃以上であることがさらに好ましい。上記の温度設定により尿素からイソシアン酸が生成し、セルロース繊維上の未変性水酸基とウレタン結合を形成する。それによってセルロース繊維上にアミノ基の導入が達成され、相溶化樹脂とのイオン的相互作用を促すことが可能となる。また上記温度により、その相溶化樹脂中ジカルボン酸残基が閉環し酸無水物となることで、アセチル化セルロース繊維とのエステル化反応が起こり、より強固な樹脂複合物を形成することが可能となる。一方、混練温度が200℃を超えると母材となるポリプロピレン樹脂の劣化が始まり、強度が低下する。
【0037】
本発明においては、第1混練工程で混練機に投入されたアセチル化セルロース繊維、相溶化樹脂及び尿素は、溶融混練され、この溶融混練時に発生するせん断力により少なくとも一部のアセチル化セルロース繊維が解繊され、アセチル化セルロースナノファイバーを含有する樹脂組成物が調製される。
セルロースナノファイバーは、繊維径が1〜1000nm程度、アスペクト比が100以上の微細繊維であることが好ましい。本発明による樹脂組成物は上記セルロースナノファイバーが過半を占めていればよく、樹脂組成物中に未解繊の繊維を含んでいてもよい。
【0038】
(第2混練工程)
本発明の樹脂組成物の製造方法は、上記の第1混練工程で得られた混練物と、希釈用樹脂とを混練する第2混練工程をさらに含んでいても良い。第2混練工程を含む場合、第1混練工程によって作製した混練物をマスターバッチとして使用することが可能である。
【0039】
(希釈用樹脂)
希釈用樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン(以下「PP」とも記す)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリオレフィン樹脂を主成分とし、目的に応じてポリオレフィン樹脂と比較的同程度の疎水性を有し、かつ溶融温度が100〜200℃程度である熱可塑性樹脂を添加することが可能である。添加可能な熱可塑性樹脂の例として、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド(PA、ナイロン樹脂)、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とエステルとの共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、(熱可塑性)ポリウレタン、ポリアセタール、ビニルエーテル樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂(トリアセチル化セルロース、ジアセチル化セルロース等)等が挙げられる。
【0040】
相溶化樹脂(マスターバッチ用樹脂)としてMAPPを用いる場合、希釈用樹脂としてポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0041】
第1混練工程で得られた混練物をマスターバッチとして使用する場合は、マスターバッチに希釈用樹脂を加えて溶融混練することにより、希釈用樹脂をさらに含む樹脂組成物を得ることができる。希釈用樹脂を加えて溶融混練する場合、両成分を室温下で加熱せずに混合してから溶融混練しても、加熱しながら混合して溶融混練しても良い。
【0042】
希釈用樹脂を加えて溶融混練する場合における混練機としては、上記の第1混練工程で用いる混練機と同様のものを使用することができる。また、溶融混練温度は、第1混練工程で使用する相溶化樹脂に合わせて調整することができる。溶融混練時の加熱設定温度は、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度±10℃程度が好ましい。希釈用樹脂としてポリプロピレンを用いる場合は、溶融混練温度を140〜230℃とすることが好ましく、160〜200℃とすることがより好ましい。混合温度をこの温度範囲に設定することにより、アセチル化セルロース繊維と樹脂を均一に混合することができる。
【0043】
本発明の製造方法により製造される樹脂組成物は、更に、例えば、界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;着色剤;可塑剤;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤、酸化防止剤等の添加剤を配合してもよい。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されてもよい。
【0044】
(樹脂組成物)
本発明の製造方法により得られる樹脂組成物は、第1混練工程で得られた混練物(マスターバッチ)であってもよく、第1混練工程で得られた混練物(マスターバッチ)と希釈用樹脂とを混練する第2混練工程で得られた樹脂組成物であってもよい。
【0045】
本発明によれば、曲げ弾性率、及び曲げ強度の高い樹脂成型体を得ることができる樹脂組成物の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0047】
(アセチル基置換度(DS)の測定方法)
(逆滴定方法によるDSの測定)
アセチル化セルロース繊維の試料を乾燥し、0.5g(A)を正確に秤量した。そこにエタノール75mL、0.5NのNaOH 50mL(0.025mol)(B)を加え、3〜4時間撹拌した。これを濾過、水洗、乾燥し、濾紙上の試料のFT−IR測定を行い、エステル結合のカルボニルに基づく吸収ピークが消失していること、つまりエステル結合が加水分解されていることを確認した。
濾液を下記の逆滴定に用いた。
濾液には加水分解の結果生じた酢酸ナトリウム塩及び過剰に加えられたNaOHが存在する。このNaOHの中和滴定を1NのHClを用いて行った(指示薬にはフェノールフタレインを使用)。
【0048】
・0.025mol(B)−(中和に使用したHClのモル数)
=セルロースなどの水酸基にエステル結合していたアセチル基のモル数(C)
・(セルロース繰り返しユニット分子量162
×セルロース繰り返しユニットのモル数(未知(D))
+(アセチル基の分子量43×(C))
=秤量した試料0.5g(A)
上記式より、セルロースの繰り返しユニットのモル数(D)を算出した。
【0049】
DSは、下記式により算出した。
・DS=(C)/(D)
【0050】
(曲げ弾性率、及び曲げ強度の測定)
実施例および比較例で得られた樹脂組成物をペレタイザーに投入し、ペレット状の樹脂成形体を得た。ペレット状の樹脂成型体150gを小型成形機(Xplore Instruments社製「MC15」)に投入し、加熱筒(シリンダー)の温度200℃、金型温度は40℃の条件で、バー試験片を成形した。(厚さ4mm、平行部長さ80mm)得られた試験片について、精密万能試験機(島津製作所(株)製「オートグラフAG−Xplus」)を用いて、試験速度10mm/分、標点間距離は64mmで、曲げ弾性率、及び曲げ強度を測定した。測定値のうち希釈樹脂であるPPの曲げ弾性率値および曲げ強度値を100としたときの各サンプルの測定値の比率を補強率とし、その結果を表1に示す。曲げ弾性率では125以上、曲げ強度では110以上であると強度に優れていることを示す。
【0051】
(アセチル化セルロース繊維の粉砕に使用した粉砕機)
(株)ホーライ製「UGO3−280XKFT」
回転刃形式:オープンストレートカッタ
【0052】
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した混練機と運転条件)
(株)テクノベル製「MFU15TW−45HG−NH」二軸混練機
スクリュー径:15mm、L/D:45、処理速度:300g/時
スクリュー回転数は、200rpmで運転した。
【0053】
(実施例1)
(アセチル化セルロース繊維の調製)
叩解処理を行っていない含水針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)20kg(固形分10kg)を、撹拌機(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、80℃で減圧脱水した。次いで、無水酢酸20kgを加え、80℃で1時間反応させた。反応後、80℃で減圧乾燥したのち、水で洗浄しアセチル化セルロース繊維(アセチル化修飾NUKP)を得た。次いでアセチル化セルロース繊維を乾燥機に投入し、60〜70℃で減圧乾燥した。得られたアセチル化セルロース繊維の含水率を、赤外水分計で測定した。含水率は、2.3重量%であった。アセチル化セルロース繊維のアセチル基置換度(DS)は0.7であった。
【0054】
(アセチル化セルロース繊維の粉砕機による処理)
この時点で上記アセチル化セルロース繊維は綿状の繊維塊となっていた。この繊維塊を解す目的で粉砕機による処理を実施した。粉砕機は上記の装置を用い、径が1mmのスクリーンを通したアセチル化セルロース繊維を準備した。アセチル化セルロース繊維の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.771mmであった。
【0055】
(マスターバッチ及び樹脂組成物の製造に使用した材料)
(a)アセチル化セルロース繊維
(b)相溶化樹脂(マスターバッチ用樹脂)
・無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP):(東洋紡(株)製 トーヨータックPMA−H1000P:ジカルボン酸の付加量 57mgKOH/g)
(c)尿素:(和光純薬工業製)
(d)希釈用樹脂
・ ポリプロピレン(PP):(日本ポリプロ(株)製PP MA04A)
【0056】
(マスターバッチの製造)
上記の粉砕機による処理を行ったアセチル化セルロース繊維(絶対乾燥物として26g、このうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース量:20g)、粉末状の相溶化樹脂(MAPP:6g)、及び粉末状の尿素(6g:セルロース量に対し30%の配合量)を、ポリエチレン製の袋に入れ、振り交ぜて混合した。得られた混合物38gを前述の二軸混練機に付属するフィーダー((株)テクノベル製)を用いて混練機に投入し、180℃で混練し、マスターバッチを製造した。
【0057】
(樹脂組成物の製造)
得られたマスターバッチと希釈用樹脂(PP)とを、アセチル化セルロース繊維に由来するセルロース繊維分の量が、樹脂(相溶化樹脂、及び希釈用樹脂)、アセチル化セルロース繊維、及び尿素の合計量の10%となる配合で混合し、前記二軸混練機にて180℃で混練して樹脂組成物を得た。
【0058】
(実施例2)
尿素の配合量を14g(セルロース量に対し70%の配合量)に変更したこと以外は、実施例1と同様にマスターバッチの製造、及び樹脂組成物の製造を行った。
【0059】
(実施例3)
尿素の配合量を20g(セルロース量に対し100%の配合量)に変更したこと以外は、実施例1と同様にマスターバッチの製造、及び樹脂組成物の製造を行った。
【0060】
(実施例4)
(アセチル化セルロース繊維の調製)
CSFが150mLになるまで叩解処理を行った含水針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)20kg(固形分10kg)を、撹拌機(日本コークス工業(株)製「FM150L」)に投入した後、撹拌を開始し、80℃で減圧脱水した。次いで、無水酢酸4.0kgを加え、80℃で2時間反応させた。反応後、水で洗浄しアセチル化セルロース繊維(アセチル化修飾NUKP)を得た。次いでアセチル化セルロース繊維を乾燥機に投入し、60〜70℃で減圧乾燥した。得られたアセチル化セルロース繊維の含水率を、赤外水分計で測定した。含水率は、2.3重量%であった。アセチル化セルロース繊維のアセチル基置換度(DS)は0.7であった。アセチル化セルロース繊維の繊維長をファイバーテスター(L&W社製)で測定した加重平均繊維長は0.664mmであった。
【0061】
上記のようにして得られたアセチル化セルロース繊維を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてマスターバッチの製造、及び樹脂組成物の製造を行った。
【0062】
(実施例5)
尿素の配合量を14g(セルロース量に対し70%の配合量)にしたこと以外は、実施例4と同様にマスターバッチの製造、及び樹脂組成物の製造を行った。
【0063】
(実施例6)
尿素の配合量を2g(セルロース量に対し10%の配合量)にしたこと以外は、実施例1と同様にマスターバッチの製造、及び樹脂組成物の製造を行った。
【0064】
(比較例1)
尿素を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にマスターバッチの製造、及び樹脂組成物の製造を行った。
【0065】
(比較例2)
上記の粉砕機による処理を行ったアセチル化セルロース繊維(絶対乾燥物として26g)、相溶化樹脂に代えて粉末状のPP(6g)及び粉末状の尿素(6g:セルロース量に対して30%の配合量)を、ポリエチレン製の袋に入れ、振り交ぜて混合した。得られた混合物38gを前述の二軸混練機に付属するフィーダー((株)テクノベル製)を用いて混練機に投入し、180℃で混練し、アセチル化セルロース繊維とPPを含む混練物を製造した。
得られた混練物と、MAPPと、希釈用樹脂(PP)とを、アセチル化セルロース繊維に由来するセルロース繊維分の量が、樹脂(MAPP、相溶化樹脂に代えて用いたPP、及び希釈用樹脂(PP))、アセチル化セルロース繊維、及び尿素の合計量の10%となる配合で混合し、前記二軸混練機にて180℃で混練して樹脂組成物を得た。なお、MAPPとPP(相溶化樹脂に代えて用いたPP及び希釈用樹脂として用いたPPの合計)の配合比率は、3:81とした。
【0066】
(比較例3)
比較例2で得られたアセチル化セルロース繊維とPPを含む混練物と希釈用樹脂(PP)とを、アセチル化セルロース繊維に由来するセルロース繊維分の量が、樹脂、アセチル化セルロース繊維、及び尿素の合計量の10%となる配合で混合し、前記二軸混練機にて180℃で混練して樹脂組成物を得た。
【0067】
(比較例4)
尿素を配合しなかったこと以外は、実施例4と同様にマスターバッチの製造、及び樹脂組成物の製造を行った。
【0068】
(比較例5)
上記の粉砕機による処理を行ったアセチル化セルロース繊維(絶対乾燥物として26g、このうちアセチル化された部分を含まないセルロースとヘミセルロースを合わせたセルロース量:20g)、粉末状の尿素(6g:セルロース量に対し配合量30%の配合量)を、ポリエチレン製の袋に入れ、振り交ぜて混合した。得られた混合物32gを前述の二軸混練機に付属するフィーダー((株)テクノベル製)を用いて混練機に投入し、180℃で混練したが、混練機の電流が上限を超え、異音がしたため、混練を中止した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、本発明のアセチル化セルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程を有する樹脂組成物の製造方法によれば、尿素の添加部数がセルロース量100重量%に対し10〜100重量%の添加により曲げ強度が向上し、30〜100重量%の添加によりさらに曲げ弾性率が向上した優れた成形体を与える樹脂組成物を得ることができる。またこの効果は使用するパルプの叩解によってさらに曲げ弾性率や曲げ強度が向上することがわかる。一方、尿素を添加しない比較例1や4では向上効果が小さいことがわかる。また相溶化樹脂を尿素と同時に添加しない比較例2や3では強度向上効果が小さいことがわかる。
【要約】
加重平均繊維長が0.20mm〜1.50mmのアセチル化セルロース繊維と、相溶化樹脂と、尿素とを混練機に投入し、混練する第1混練工程を有する。
図1