(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の鋼材と第2の鋼材とが、共通の軸線上で対向配置されており、前記第1の鋼材から前記第2の鋼材に向けて延びる連結部と前記第2の鋼材との接合部を、当該接合部の境界線に沿って、前記軸線方向から電子ビーム溶接で接合する接合方法であって、
前記境界線上に、溶接範囲の始点と終点を設定し、
電子ビームの照射位置を、前記始点から前記終点に向けて前記境界線に沿って変位させたのち、前記境界線から離れる方向に変位させて、前記電子ビームの照射位置が、前記境界線に沿うと共に前記境界線から離れた位置に設定された仮想線まで到達すると、以降、前記電子ビームの照射位置を、前記仮想線に沿って変位させつつ、前記電子ビームの照射を終了することを特徴とする接合方法。
前記始点から前記終点に向けた変位と、前記境界線から離れる方向の変位の過渡期では、前記電子ビームの照射位置の変位速度を、前記過渡期外での変位速度よりも遅くすることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の接合方法。
前記キャリアプレートは、前記ベースプレートよりも炭素の含有量が少ない鋼材であり、前記電子ビームの照射位置の前記境界線から離れる方向の変位は、前記キャリアプレートの連結部側への変位であることを特徴とする請求項6に記載の接合方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】キャリアプレートとベースプレートを説明する図である。
【
図3】キャリアプレートとベースプレートとの溶接範囲を説明する図である。
【
図5】従来例にかかる方法で電子ビーム溶接を実施した場合における溶接範囲を説明する図である。
【
図6】実施の形態にかかる電子ビーム溶接を説明する図である。
【
図7】実施の形態にかかる電子ビーム溶接の変形例を説明する図である。
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、キャリアプレート2から延びる脚部21を、ベースプレート3に電子ビーム溶接で連結して作製するキャリア組立体1の場合を例に挙げて説明する。
【0011】
図1は、キャリア組立体1を説明する図であり、ベースプレート3を、キャリアプレート2から離間させて配置した分解斜視図である。
図2は、キャリアプレート2とベースプレート3を説明する図であり、(a)は、キャリアプレート2の平面図であり、(b)は、ベースプレート3の平面図である。
【0012】
キャリア組立体1は、遊星歯車組のピニオンギヤを支持するものであり、共通の回転軸X上で対向配置されたキャリアプレート2と、ベースプレート3と、を有している。
【0013】
ここで、キャリアプレート2とベースプレート3は、機械構造用の炭素の含有量が多い鋼材(以下、炭素鋼鋼材とも標記する)で作製したものである。
ここで、本明細書における用語「炭素鋼鋼材」は、炭素の含有量が0.18質量%以上である鉄系の鋼材を意味しており、炭素の含有量の上限は、鋼材が含有することができる最大質量%を想定している。
なお、質量%は、鋼材の総質量に対する割合を百分率で示したものである。
【0014】
実施の形態では、炭素の含有量の代表値が、0.25質量%である25C材で、キャリアプレート2が作製され、炭素の含有量の代表値が、0.35質量%である35C材で、ベースプレート3が作製されている。
なお、これらキャリアプレート2とベースプレート3の作製に用いる炭素鋼鋼材は、ここで例示したもの(25C材、35C材)に限定されない。要求性能や用途などに応じて決まる任意の炭素含有量の炭素鋼鋼材が選択される。
【0015】
回転軸X方向から見て、キャリアプレート2はリング状の基部20を有しており、この基部20の外周に、回転軸X方向で隣接する他の遊星歯車組のインターナルギヤ4が、固定されている。
【0016】
基部20の外径側には、ベースプレート3側に突出して連結用の脚部21(連結部)が設けられている。
基部20において脚部21は、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数設けられており、周方向で隣接する脚部21、脚部21の間には、ピニオンシャフトの支持孔22が、基部20を厚み方向に貫通して設けられている。
この支持孔22もまた、脚部21と同様に、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0017】
図2の(a)に示すように、回転軸X方向から見て脚部21の各々は、基部20の外周201に沿う弧状に形成されている。
回転軸X方向から見て、脚部21の先端部21aは、基部20の外周201に沿う弧状の内周210と外周211とを有しており、これら内周210と外周211の周方向の両端部は、円弧状の周縁212で互いに接続されている。
【0018】
先端部21aは、回転軸X周りの周方向に所定長さL1を有しており、回転軸X周りの周方向の全長に亘って同じ径方向の幅W1を有している。
【0019】
図2の(b)に示すように、ベースプレート3は、回転軸X方向から見てリング状を成す基部30を有している。
この基部30の外径側には、基部30を厚み方向に貫通する貫通孔31が設けられており、この貫通孔31に、キャリアプレート2の脚部21が、回転軸X方向から挿入されるようになっている。
【0020】
基部30において貫通孔31は、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数設けられており、周方向で隣接する貫通孔31、貫通孔31の間には、ピニオンシャフトの支持孔32が、基部30を厚み方向に貫通して設けられている。
この支持孔32もまた、貫通孔31と同様に、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数設けられている。
【0021】
回転軸X方向から見て、貫通孔31は、基部30の外周301に沿う弧状に形成されている。
回転軸X方向から見て貫通孔31は、基部30の外周301に沿う弧状の内周310と内周311とを有しており、内径側の内周310と外径側の内周311の周方向の両端部は、弧状の周縁312で互いに接続されている。
【0022】
貫通孔31は、回転軸X周りの周方向に所定長さL2を有しており、回転軸X周りの周方向の全長に亘って同じ径方向の幅W2を有している。
貫通孔31は、前記した脚部21の先端部21aの長さL1および幅W1よりも大きい長さL2および幅W2で形成されている(L2>L1、W2>W1:
図2の(a)、(b)参照)。
【0023】
キャリア組立体1を構成するキャリアプレート2とベースプレート3とは、キャリアプレート2のから延びる脚部21を、ベースプレート3の貫通孔31に挿入し、脚部21と貫通孔31との接合部を溶接することで、互いに連結される。
【0024】
実施の形態のキャリア組立体1の場合、
図3の(b)に示すように、脚部21の外周211と、貫通孔31の外径側の内周311とが、回転軸Xを中心とする仮想円Im1上で互いに接している。
そして、これら外周211と内周311との接合部では、仮想円Im1に重なる領域が、外周211と内周311との境界線となっており、この境界線に沿って接合部を、回転軸X方向から溶接することで、キャリアプレート2とベースプレート3とを互いに連結している。
【0025】
ここで、以下においては、説明の便宜上、外周211と内周311との接合部の境界線を、仮想円Im1と同じ符号を用いて、境界線Im1とも標記する。
【0026】
実施の形態では、キャリアプレート2とベースプレート3とを、電子ビーム溶接で連結している。
電子ビーム溶接は、例えば、
図4に示すような構成の電子ビーム溶接装置10を用いて実施される。この電子ビーム溶接装置10では、支持台15載置されたワーク(
図4の場合には、キャリア組立体1)における溶接される領域に、ワークに対向配置された電子銃11から電子ビームEBを照射して電子ビーム溶接を実施する。
【0027】
この電子ビーム溶接装置10の制御装置12は、数値制御(NC:Numerically Controlled)のプログラムにより、動作するように構成されている。
電子銃11から照射された電子ビームEBの照射位置と、電子銃11から照射される電子ビームEBの照射出力は、数値制御(NC制御)のプログラムに従って制御装置12が制御する。
【0028】
ここで、キャリアプレート2の脚部21の外周211と、ベースプレート3の貫通孔31の外径側の内周311との接合部を、従来例にかかる方法で電子ビーム溶接した場合を説明する。
【0029】
図3は、キャリアプレート2とベースプレート3との溶接範囲を説明する図である。
図3の(a)は、キャリアプレート2の脚部21の外周211と、ベースプレート3の貫通孔31の外径側の内周311とを、従来例にかかる方法で溶接した場合の溶接痕Wを説明する図であり、(b)は、キャリアプレート2の脚部21の外周211と、ベースプレート3の貫通孔31の外径側の内周311との接合部の境界線Im1を説明する図であり、(c)は、境界線Im1上に設定された溶接範囲の始点Psと終点Peを説明する図である。
【0030】
図3の(b)に示すように、回転軸X方向から見て、脚部21の外周211は、貫通孔31の内周311に、回転軸X周りの周方向の略全長に亘って接している。
脚部21の外周211と貫通孔31の内周311とが互いに接触した領域が、電子ビーム溶接により接合される接合部となっており、外周211と内周311との境界を通る仮想円Im1の位置が、この接合部の境界線となっている。
この仮想円Im1における境界線の部分は、回転軸Xを中心とした円弧状を成している。
【0031】
図3の(c)に示すように、脚部21の外周211と貫通孔31の内周311との接合部では、当該接合部の境界線Im1上に、溶接範囲の始点Psと終点Peとが設定されている。そして、この境界線Im1上の始点Psと終点Peとの間が、電子ビーム溶接により、実際に溶接される範囲となっている。
【0032】
従来例にかかる方法で電子ビーム溶接を行う場合、電子ビームEBの照射位置が、始点Psから終点Peまで変位させられる。
そうすると、脚部21の外周211と貫通孔31の内周311の互いの接合部が溶解したのちに固化する結果、脚部21の外周211と貫通孔31の内周311とが接合されると共に、
図3の(a)に示すような溶接痕Wが形成される。
【0033】
しかし、電子ビームEBの照射位置を、溶接範囲の始点Psから終点Peまで単純に変化させる従来の電子ビーム溶接の場合には、終点Peの近傍に、割れKや、孔が生じることがあった。
【0034】
図5は、従来例にかかる方法で電子ビーム溶接を実施した場合における溶接範囲の終点Pe近傍の状態を説明する図である。
図5の(a)は、溶接範囲の終点Peの近傍を、電子ビームEBの照射位置の変位方向(溶接方向)に沿って切断した断面を模式的に示した図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面を模式的に示した図である。
この
図5において、固液共存領域は、電子ビームEBの照射により溶解した鋼材と、溶解していない鋼材とが混在している領域を意味し、溶解領域は、電子ビームEBの照射により溶解した鋼材の領域を意味している。
【0035】
本願発明者は、電子ビームEBの照射位置を、溶接範囲の始点Psから終点Peまで単純に変化させる従来の電子ビーム溶接を行った際に、溶接痕Wに割れKや孔が生じる原因を鋭意検討した結果、以下の点を見いだした。
【0036】
(a)電子ビームEBの照射を終了する直前では、電子ビームの照射量(エネルギー量)が、一定の割合でゼロに向けて減少するため、終点Peの近傍での鋼材(キャリアプレート2を構成する鋼材、ベースプレート3を構成する鋼材)の溶解量が少なくなる。
(b)鋼材の溶解量が少なくなると、終点Peの近傍領域では、溶解領域に隣接して形成される固液共存領域が小さくなり、溶解領域の鋼材が、固化する過程で固液共存領域側に鋼材が引き寄せられて、割れKや孔が生じる。
(c)鋼材における炭素の含有量が多くなる。例えば0.18質量%よりも多くなると、鋼材の延性の低下及び凝固温度の低下により、割れKや孔が生じ易くなる。
【0037】
そして、本願発明者は、溶接範囲の終点Peの近傍での溶解領域と固液共存領域の分布に着目して、割れKや孔を生じさせないようにする方法を鋭意検討した。
その結果、電子ビーム溶接を、従来例の場合に設定されていた終点Peで終了させるのではなく、設定されていた終点Peから離れた位置で終了させることで、割れKや孔の発生を抑制できることを見いだした。
【0038】
以下、割れKや孔を発生させずに電子ビーム溶接を行う方法を、具体例を挙げて説明する。
図6は、実施の形態にかかる電子ビーム溶接を説明する図であり、(a)は、電子ビーム溶接を行う過程における電子ビームEBの照射位置の変位例を説明する図であり、(b)は、(a)の場合における溶接痕Wを説明する図である。
図6の(c)は、電子ビーム溶接を行う過程における電子ビームEBの照射位置の他の変位例であり、(d)は、(c)の場合における溶接痕Wを説明する図である。
【0039】
図6の(a)、(b)に示すように、脚部21の外周211と貫通孔31の内周311との接合部では、当該接合部の境界線Im1上に、溶接範囲の始点Psと終点Peとが設定されている。そして、この境界線Im1上の始点Psと終点Peとの間が、電子ビーム溶接の際に、脚部21と貫通孔31との接合に実際に関与する範囲(溶接範囲)となっている。
【0040】
そして、境界線Im1よりも内径側の仮想線Im2上に、電子ビームEBの照射を終了する照射終了点Pxが設定されている。ここで、仮想線Im2は、脚部21の先端部21aの径方向の厚みの中央を通ると共に回転軸Xを中心とした円弧状の仮想線である。
【0041】
そのため、
図6の(a)に示す照射位置の変位例の場合は、電子ビームEBの照射位置を、溶接範囲の始点Psから終点Peに向けて変位させ、電子ビームEBの照射位置が、終点Peに達した時点で、照射位置の変位方向が境界線Im1から離れる方向(仮想線Im2に近づく方向)に変更される。
【0042】
そして、電子ビームEBの照射位置が、仮想線Im2に到達した時点(点P2)で、照射位置の変位方向が、仮想線Im2に沿う方向であって、始点Psに近づく方向(
図6の(a)における左方向)に変更される。
これにより、電子ビームEBの照射位置は、仮想線Im2上を始点Psに近づく方向に変位し、最終的に仮想線Im2上に設定された照射終了点Pxに達した時点で、電子ビームEBの照射が終了する。
【0043】
なお、実施の形態では、電子ビームEBの照射位置の変位は、照射の開始位置である始点Psから照射終了点Pxまで、一定の速度で実施している。
ここで、照射の開始位置である始点Psから終点Peに向けた変位と、境界線Im1から離れる方向の変位との過渡期では、電子ビームEBの照射位置の変位速度を、過渡期外での変位速度よりも遅くするようにしても良い。
この場合には、終点Peの近傍での照射位置の変位速度が遅くなって、終点Peの近傍領域への電子ビームEBの照射量が増えるので、終点Pe近傍において、溶解領域に隣接して形成される固液共存領域が小さくなることを好適に防止できるからである。
【0044】
このように、電子ビームEBの照射位置を、
図6の(a)に示した軌跡に沿って変位させると、
図6の(b)に示すような溶接痕Wが、キャリアプレート2の脚部21の先端部21aと、ベースプレート3の貫通孔31の周縁とに跨がって、始点Psから終点Peまでの溶接範囲に形成されることになる。
【0045】
ここで、従来例にかかる電子ビーム溶接では、溶接範囲の終点Peで溶接を終了(電子ビームEBの照射を終了)していたため、終点Peの近傍での鋼材(キャリアプレート2を構成する鋼材、ベースプレート3を構成する鋼材)の溶解量が少なくなっていた。
そのため、終点Peの近傍領域では、固液共存領域(溶解した鋼材と、溶解していない鋼材との混合領域)が小さくなり、溶解領域(溶解した鋼材の領域)の鋼材が固化する過程で、固液共存領域側に鋼材が引き寄せられて、割れKや孔が生じていた。
【0046】
実施の形態では、電子ビームEBの照射位置を、
図6の(a)に示した軌跡に沿って変位させて、電子ビームEBの照射を、溶接範囲の終点Peで終了させずに、終点Peが設定された境界線Im1から離れた位置(照射終了点Px)で終了させるようにした。
【0047】
これにより、終点Peの近傍での電子ビームEBの照射量が、他の領域よりも少なくなることに起因して、終点Peの近傍に形成される固液共存領域が小さくなることを防止できる。
よって、溶接痕Wにおける終点Peの近傍領域での割れKや孔の発生を抑制できる。
なお、この場合の溶接痕Wは、始点Psから終点Peまでの接合に寄与する溶接範囲に加えて、終点Peから照射終了点Pxまでの範囲にも形成される(
図6の(b)参照)。
【0048】
以上の通り、実施の形態では、
(1)キャリアプレート2(第1の鋼材)とベースプレート3(第2の鋼材)とが、遊星歯車組のピニオンギヤを支持するために共通の回転軸X(軸線)上で対向配置されており、キャリアプレート2からベースプレート3に向けて延びる脚部21(連結部)と、ベースプレート3の貫通孔31との接合部を、当該接合部の境界線Im1に沿って、回転軸X方向から電子ビーム溶接で接合する接合方法であって、
キャリアプレート2の脚部21の外周211と、ベースプレート3の貫通孔31の外径側の内周311との接合部の境界線Im1上に、溶接範囲の始点Psと、終点Peを設定し、
電子ビームEBの照射位置を、始点Psから終点Peに向けて境界線Im1に沿って変位させたのち、境界線Im1から離れる方向に変位させて、電子ビームEBの照射を、境界線Im1から離れた位置に設定した照射終了点Pxで終了する構成とした。
【0049】
溶接範囲の終点Peの近傍で割れKや孔が発生する傾向が高いという点に着目して、溶接された領域(溶接痕W)に割れKや孔が発生する原因を鋭意検討した。
その結果、溶接範囲の終点Peで電子ビームEBの照射を止めると、終点Peの近傍では、溶解した鋼材と溶解していない鋼材とが混在する領域(固液共存領域)が小さくなること、この固液共存領域に、隣接する溶解した鋼材の領域(溶解領域)から、固化する途中の鋼材が引き寄せられることで割れKや孔が生じる傾向があること、を見いだした。
そのため、上記のように構成して、電子ビームEBの照射を、溶接範囲の終点Peで終了させるのではなく、接合部の境界線Im1から離れた位置に設定した照射終了点Pxで終了させるようにした。
これにより、電子ビームEB溶接を実施した際に、溶接範囲の終点Peの近傍に生じる固液共存領域が小さくならないようにすることができ、固液共存領域が小さくなることに起因する割れKや孔の発生を抑制できる。
【0050】
さらに、遊星歯車組を介して伝達するトルクを大きくするために、炭素の含有量が多い機械構造用の炭素鋼(炭素鋼鋼材)を用いて、キャリアプレート2とベースプレート3とが作製されているが、炭素の含有量が多くなると、電子ビームEBの照射による溶解速度が遅くなる。
上記のように構成して、電子ビームEBの照射位置が、溶接範囲の終点Peを通過するようにすることで、溶接範囲の終点Peの近傍での電子ビームEBの照射量が少なくならないようにした。
これにより、キャリアプレート2とベースプレート3を、溶解速度の遅い炭素鋼鋼材で作製した場合であっても、キャリアプレート2の脚部21の外周211と、ベースプレート3の貫通孔31の外径側の内周311との接合部の溶接範囲をより確実に溶解させて、溶接範囲の終点Pe近傍に発生する固液共存領域が小さくなることを好適に防止できる。
よって、溶接範囲(溶接痕W)での割れKや孔の発生を抑制できるので、キャリアプレート2とベースプレート3を溶接で連結したキャリア組立体1を十分な強度を持って作製することができる。
【0051】
(2)キャリアプレート2と、ベースプレート3は、炭素の含有量が、0.18質量%以上、キャリアプレート2とベースプレート3を構成する鋼材に含有可能な上限質量%以下である炭素鋼鋼材である構成とした。
【0052】
炭素の含有量が多い炭素鋼鋼材では、炭素の含有量が少ない鋼材よりも、電子ビームEBの照射による溶解後の凝固速度が遅くなる。延性も低い。
上記のように構成して、電子ビームEBの照射位置が溶接範囲の終点Peを通過するようにすることで、溶接範囲の終点Peの近傍での電子ビームEBの照射量を、電子ビームEBの照射を溶接範囲の終点Peで終了する従来例の場合よりも多くすることができる。
よって、炭素の含有量が多く凝固速度が速く延性も高い炭素鋼鋼材でキャリアプレート2とベースプレート3を作製した場合であっても、溶接範囲(溶接痕W)における割れKや孔の発生を好適に抑制できる。
【0053】
(3)キャリアプレート2は、ベースプレート3を構成する鋼材(35C材)よりも炭素の含有量が少ない鋼材(25C材)で作製されており、電子ビームEBの照射位置の境界線Im1から離れる方向の変位は、キャリアプレート2の脚部21側への変位である構成とした。
【0054】
キャリア組立体1の作製にあたり、キャリアプレート2から延びる脚部21を加工する必要がある場合には、炭素の含有量が多くて硬い炭素鋼鋼材になると、脚部21の成型性が悪化してしまう。
そのため、キャリアプレート2を、ベースプレート3を作製する炭素鋼鋼材(35C材)よりも炭素の含有量が少ない炭素鋼鋼材(25C材)に変更して、脚部21の成型性を確保したのち、キャリアプレート2の脚部21の外周211とベースプレート3の貫通孔31の内周311とを溶接している。
【0055】
上記のように構成すると、電子ビームEBの照射位置が、溶接範囲の終点Peを通過した後は、ベースプレート3よりも溶解し易いキャリアプレート2のほうに電子ビームEBが照射されることになる。
よって、溶接範囲の終点Pe近傍の鋼材を適切に溶解させて、固液共存領域が小さくなることを防止することで、電子ビーム溶接後の溶接範囲(溶接痕W)に、割れKや孔が生じる頻度を、好適に抑制できる。
【0056】
(4)電子ビームEBの照射位置の境界線Im1から離れる方向の変位は、電子ビームEBの照射位置が、溶接範囲の終点Peに達した時点から開始され、
電子ビームEBの照射位置が溶接範囲の終点Peに達した時点から、電子ビームEBの照射位置を境界線Im1から離れる方向に直線状に変位する構成とした。
【0057】
このように構成すると、溶接範囲の終点Pe周りへの入熱量を適切にコントロールすることができるので、割れKや孔の発生を好適に抑制できる。
【0058】
(5)電子ビームEBの照射位置を境界線Im1から離れる方向に変位させたのち、
電子ビームEBの照射位置が、境界線Im1に沿うと共に境界線から離れた位置に設定された仮想線Im2(他の仮想線:
図6の(a)点P2参照)まで到達すると、以降、電子ビームEBの照射位置を、仮想線Im2に沿って、溶接領域の始点Psに近づく方向に変位させつつ、仮想線Im2上に設定した照射終了点Pxで電子ビームEBの照射を終了する構成とした。
【0059】
電子ビームEBの照射を終了する際には、照射位置に作用する電子ビームEBの照射量は、一定の割合で減少したのちに最終的にゼロになる。
よって、上記のように構成することで、電子ビームEBの照射位置が、溶接範囲の終点Peの近傍にあるときから、電子ビームEBの照射量を減少させずに済むことになる。
よって、溶接範囲の終点Peの近傍領域への電子ビームEBの照射量が減少して、鋼材の溶解量が不十分になることを好適に防止できる。
【0060】
(6)境界線Im1上の溶接範囲の始点Psから終点Peに向けた変位と、境界線Im1から離れる方向の変位の過渡期では、電子ビームの照射位置の変位速度を、過渡期外での変位速度よりも遅くする構成とした。
【0061】
このように構成すると、溶接範囲の終点Peの近傍での電子ビームの照射位置の変位速度が遅くなる。
そうすると、終点Peの近傍領域への電子ビームの照射量が増えるので、終点Pe近傍において、溶解領域に隣接して形成される固液共存領域が小さくなることを好適に防止できる。これにより、溶接領域(溶接痕W)に割れKや孔が生じる割合を好適に抑制できる。
【0062】
前記した実施の形態では、電子ビームEBの照射位置の境界線Im1から離れる方向の変位が、電子ビームEBの照射位置が溶接範囲の終点Peに達した時点から開始される場合を例示した。
本願発明は、この態様に限定されるものではなく、溶接範囲の終点Peの近傍に生じる固液共存領域が小さくならないようにすることができる範囲内で、照射位置を変位させる態様を変更しても良い。
【0063】
例えば、
図6の(c)に示すように、電子ビームEBの照射位置を、溶接範囲の始点Psと終点Peが設定された境界線Im1に沿って、始点Psから終点Peに変位させている際に、電子ビームEBの照射位置が、終点Peの手前の境界線Im1上に設定された開始点P1に達した時点から、電子ビームEBの照射位置の境界線Im1から離れる方向の変位を開始するようにしても良い。
【0064】
この場合には、境界線Im1上において開始点P1を、電子ビーム溶接後の溶接痕Wを、溶接範囲の終点Peまで及んで形成することができる位置に設定することが好ましい。
キャリアプレート2の脚部21の外周211と、ベースプレート3の貫通孔31の外径側の内周311との接合部の境界線Im1上の溶接範囲を、予め設定した始点Psから終点Peまでの確実に溶接して接合するためである。
【0065】
さらに、この場合における電子ビームEBの照射位置の変位の態様は、境界線Im1上の開始点P1を通ると共に、境界線Im1と仮想線Im2とに跨がる半径rの仮想円
Im4に沿って、境界線Im1から離れる方向に変位させたのち、仮想線Im2上を、溶接範囲の始点Ps側に向けてさせることが好ましい。
電子ビームEBの照射位置を滑らかに変位させることができるからである。
【0066】
そして、電子ビームEBの照射位置を境界線Im1から離れる方向に変位させたのち、
電子ビームEBの照射位置が仮想線Im2まで到達すると、以降、電子ビームEBの照射位置を、仮想線Im2に沿って、溶接領域の始点Psに近づく方向に変位させつつ、仮想線Im2上に設定した照射終了点Pxで電子ビームEBの照射を終了することが好ましい。溶接範囲の終点Peの近傍領域への電子ビームEBの照射量が減少して、鋼材の溶解量が不十分になることを好適に防止できるからである。
【0067】
このように、
(7)境界線Im1から離れる方向の変位は、電子ビームEBの照射位置が終点Peの手前の開始点P1(所定位置)に達した時点から開始され、
電子ビームEBの照射位置が開始点P1に達した時点から、電子ビームEBの照射位置を、電子ビームEBの照射側から見て円弧状を成す仮想円
Im4に沿って境界線Im1から離れる方向に変位させる構成とした。
【0068】
このように構成すると、溶接範囲の始点Psから終点Peに向けた変位と、境界線Im1から離れる方向の変位との過渡期において、電子ビームEBの照射位置を滑らかに変位させることができる。
これにより、過渡期において照射位置の変位方向を急激に変化させる場合に比べて、照射位置の変位方向がなめらかに変化することで、変位方向の変化の過程において、照射位置の変位に一瞬の静止が生じないようにすることができる。
これにより、溶接範囲の終点Peの近傍を適切に溶解させて、割れKや孔の発生を好適に抑制できる。
【0069】
図7の(a)から(d)は、電子ビームEBの照射位置の他の変位例を説明する図である。
前記した実施の形態では、電子ビームEBの照射位置の境界線Im1から離れる方向への変位がキャリアプレート2の脚部21側に設定されている場合を例示した(
図6参照)。
本願発明は、この態様に限定されるものではなく、溶接範囲の終点Peの近傍に生じる固液共存領域が小さくならないようにすることができる範囲内で、照射位置を変位させる態様を変更しても良い。
【0070】
例えば、
図7の(a)、(b)に示すように、電子ビームEBの照射位置を、溶接範囲の始点Psと終点Peが設定された境界線Im1に沿って、始点Psから終点Peまで変位させたのち、電子ビームEBの照射位置を、脚部21と反対側、すなわちベースプレート3の基部30側に変位させることで、境界線Im1から離れる方向に変位させるようにしても良い。
【0071】
この場合には、境界線Im1の外径側に設定された仮想線Im3上に、照射位置が到達した時点で、電子ビームEBの照射位置の変位方向を、仮想線Im3上を溶接範囲の始点Psに近づく方向(
図7の(a)参照)、始点Psから離れる方向(
図7の(b)参照)にすることが好ましい。
電子ビームEBの照射位置が、溶接範囲の終点Peの近傍にあるときから、電子ビームEBの照射量を減少させずに済むからである。また、溶接範囲の終点Peの近傍領域への電子ビームEBの照射量が減少して、鋼材の溶解量が不十分になることを好適に防止できるからである。
【0072】
さらに、
図7の(c)、(d)に示すように、電子ビームEBの照射位置を、ベースプレート3の基部30側に変位させたのち、仮想線Im3上を変位させる場合には、
図6の(c)の場合と同様に、照射位置を仮想円に沿って変位させるようにしても良い。
すなわち、電子ビームEBの照射位置が終点Peの手前の所定位置に達した時点から、電子ビームEBの照射位置を、電子ビームEBの照射側から見て円弧状を成す仮想円に沿って境界線Im1から離れる方向に変位させる構成としても良い。
溶接範囲の始点Psから終点Peに向けた変位と、境界線Im1から離れる方向の変位との過渡期において、電子ビームEBの照射位置を滑らかに変位させることができるからである。
【0073】
前記した実施の形態では、電子ビーム溶接により接合される接合部の境界線が、回転軸Xを中心とした仮想円Im1上に位置しており、境界線が円弧状を成している場合を例示したが、本願発明に係る電子ビームEBを用いた溶接による接合は、接合部の境界線が、直線状である場合にも好適に適用可能である。