(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施例1〕
図1は、実施例1の自動変速機の構成を表す概略図、
図2は、実施例1のシフトバイワイヤシステムの構成及び油圧回路の一部を表す概略図である。実施例1の自動変速機は、ベルト式無段変速機であるが、他の有段式変速機でもよく特に限定しない。自動変速機は、エンジンから出力された回転を変速して駆動輪に伝達する。変速機ケーシング20内には、トルクコンバータ、前後進切替機構FRA、プライマリプーリPP、ベルトVB、セカンダリプーリSP、ディファレンシャルギヤDEF等を収容する。また、変速機ケーシング20内には、セカンダリプーリSPと同軸上に配置されたパーキングギヤPGと、パーキングギヤPGと噛み合うことで変速機出力軸をロック可能なパーキングポール7と、からなるパーキングロック機構を有する。
【0010】
変速機ケーシング20の上方には、運転者が操作するシフトレバー30の動作に応じて作動するシフトバイワイヤアクチュエータ3を有する。シフトバイワイヤアクチュエータ3内には、後述するマニュアルバルブ6を駆動するシフトアクチュエータ4と、パーキングポール7を駆動するパーキングロックアクチュエータ9と、を有する(
図2参照)。
【0011】
コントロールバルブボディ1は、変速機ケーシング20の下方に設置されている。コントロールバルブボディ1の内部には、エンジンにより駆動されるオイルポンプOP及び電動モータM1により駆動される電動オイルポンプEOPを油圧源とし、油圧源側への逆流を防止するチェック弁101,102を介して供給されたポンプ吐出圧を、各種制御油圧を調圧して油圧アクチュエータに供給する複数の制御弁を有する(
図2参照)。尚、後述する二つの摩擦締結要素に供給する発進クラッチ締結油圧は、コントロールバルブボディ1内に設けられたクラッチレギュレータバルブ10により調圧される。
【0012】
コントロールバルブボディ1の上方には、油圧アクチュエータであるプライマリプーリPPとセカンダリプーリSPが設置されている。プライマリプーリPPと同軸上には、前後進切替機構FRAが設置されている。前後進切替機構FRAは、遊星歯車組と、油圧アクチュエータである二つの摩擦締結要素(締結により前進状態を達成するフォワードクラッチFWDCと、締結により後進状態を達成するリバースブレーキREVB)を有する。フォワードクラッチFWDCは、フォワードクラッチピストンに押圧力を発生させるフォワードクラッチ圧室を有する。リバースブレーキREVBは、リバースブレーキピストンに押圧力を発生させるリバースブレーキ圧室を有する。
【0013】
変速機コントローラATCUは、シフトレバー30の位置に応じて自動変速機内の前後進切替機構FRA内の摩擦締結要素の締結状態を制御し、車速とアクセルペダル開度に応じてベルト式無段変速機の変速比を制御し、シフトレバー30のレンジ位置信号及びイグニッションスイッチIGNのON・OFF信号に応じて、複数の制御弁、電動オイルポンプEOP,シフトアクチュエータ4及びパーキングロックアクチュエータ9の作動を制御する。
【0014】
マニュアルバルブボディ2は、変速機ケーシング20内のプライマリプーリPPよりも上方に設置されている。マニュアルバルブボディ2内には、発進クラッチ締結油圧の供給先を切り替えるマニュアルバルブ6を有する。マニュアルバルブ6は、シフトアクチュエータ4との間でリンク機構5を介して接続され、シフトアクチュエータ4の作動に応じてマニュアルバルブ6の軸方向位置を切り替える。コントロールバルブボディ1とマニュアルバルブボディ2と間には、配管により発進クラッチ締結油圧を供給する第1導入油路11を有する。マニュアルバルブボディ2とフォワードクラッチ圧室との間には、発進クラッチ締結油圧を供給する第2導入油路12を有する。マニュアルバルブボディ2とリバースブレーキ圧室との間には、発進クラッチ締結油圧を供給する第3導入油路14を有する。尚、変速機ケーシング20の油面は、コントロールバルブボディ1の一部とディファレンシャルギヤDEFの下端が接触する程度の高さに設定されており、マニュアルバルブボディ2は、変速機ケーシング20の油面よりも高い位置に設定されている。
【0015】
オイルポンプOPもしくは電動オイルポンプEOPから吐出された油は、プレッシャレギュレータバルブにより調圧された油圧が各プーリに供給され、プレッシャレギュレータバルブよりも下流側のクラッチレギュレータバルブ10により調圧された発進クラッチ締結油圧がコントロールバルブボディ1から第1導入油路11を介してマニュアルバルブ6に供給される。
【0016】
マニュアルバルブボディ2は、マニュアルバルブ6を収容するシリンダ200には、第1ドレン油路201と、第3導入油路14と接続されたリバース油路202と、第1導入油路11と接続された発進油路203と、第2導入油路12と接続されたフォワード油路204と、シリンダ200の先端に設定された第2ドレン油路207と、を有する。
【0017】
マニュアルバルブ6は、リンク機構5と係合する係合部61と、第1スプール62と、第2スプール63と、を有する。第1スプール62は、リバース油路202の接続先を切り替えるスプールであり、第1ドレン油路201と発進油路203との間を切り替える。第2スプール63は、発進油路203の接続先を切り替えるスプールであり、リバース油路202とフォワード油路204との間を切り替える。
【0018】
コントロールバルブボディ1とシフトアクチュエータ4との間には、シフトアクチュエータ作動用の信号油圧を供給するシフト用油路17を有する。シフトアクチュエータ4は、リンク機構5の一端が接続され、揺動中心01を介して揺動するリンクプレート53を有する。リンクプレート53は、リンク機構5と接続された第1揺動端部51と、揺動中心O1を介してリンク機構5と反対側に位置する第2揺動端部52と、を有する。第1揺動端部51には、第1ピストンピン43が当接し、第2揺動端部52には、第2ピストンピン44が当接する。第1ピストンピン43には、シフト用油路17から供給された油圧が第1ソレノイド41を介して供給され、第2ピストンピン44には、シフト用油路17から供給された油圧が第2ソレノイド42を介して供給される。
【0019】
第1ソレノイド41及び第2ソレノイド42は、非通電状態(以下、OFF状態とも記載する。)でシフト用油路17とドレンとの間を遮断し、シフト用油路17から供給された油圧を第1ピストンピン43及び第2ピストンピン44にそのまま供給する。一方、通電状態(以下、ON状態とも記載する。)では、シフト用油路17から供給された油圧をドレンする。
【0020】
第1ソレノイド41及び第2ソレノイド42を共にOFF状態とすると、リンクプレート53の両端に第1ピストンピン43及び第2ピストンピン44から押し出す力が作用して中立位置となり、マニュアルバルブ6の位置を、第1導入油路11と第2導入油路12との間及び第1導入油路11と第3導入油路14との間の両方を遮断したNレンジ位置となる。
【0021】
第1ソレノイド41のみON状態とすると、第2ピストンピン44が第2揺動端部52を押し出し、第1ピストンピン43は第1揺動端部51から押し戻されるため、第1導入油路11と第3導入油路14との間を連通し、リバースブレーキREVBに発進クラッチ締結油圧が供給されるRレンジ位置となる。
【0022】
第2ソレノイド42のみON状態とすると、第1ピストンピン43が第1揺動端部51を押し出し、第2ピストンピン44は第2揺動端部52から押し戻されるため、第1導入油路11と第2導入油路12との間を連通し、フォワードクラッチFWDCに発進クラッチ締結油圧が供給されるDレンジ位置となる。すなわち、シフトアクチュエータ4は、変速機コントローラATCUによって制御された第1ソレノイド41及び第2ソレノイド42のON・OFF状態の組み合わせに応じてマニュアルバルブ6の位置をバイワイヤ制御する。
【0023】
コントロールバルブボディ1とパーキングロックアクチュエータ9との間には、パーキングポール作動用の信号油圧を供給するパーキング用油路16を有する。パーキングロックアクチュエータ9は、パーキング用油路16から供給された油圧をパーキング作動油圧に調圧する調圧部96と、調圧部96からパーキング作動油圧を供給するパーキング油路95と、パーキング作動油圧に基づいて作動するパーキングピストン91と、パーキングピストン91に付勢力を付与可能なパーキングソレノイド90と、パーキングピストン91の位置をロックするロック機構92と、を有する。ロック機構92は、パーキングロック状態もしくはパーキングアンロック状態で、パーキングピストン91の位置を固定し、油圧状態に係らずパーキングピストン91の位置を維持する。
【0024】
パーキングロックアクチュエータ9は、パーキングポール7とパーキングギヤPGとの係合状態を制御するパーキングロッド8の一端が接続され、揺動中心を介して揺動するリンクプレート93を有する。リンクプレート93のパーキングロッド8が接続された他端には、パーキングロッド8を押し出す方向に付勢する弾性体94を有する。リンクプレート93の他端には、パーキングピストン91が当接する。ロック機構92が解除された状態で、パーキングピストン91にパーキングソレノイド90から付勢力が作用すると、この付勢力とパーキング作動油圧により、リンクプレート93を弾性体94の力に抗して押し出し、パーキングロッド8を引き戻す。
【0025】
これにより、パーキングポール7とパーキングギヤPGとの噛み合いを解除する。一方、パーキングソレノイド90からの付勢力が作用しない場合、弾性体94の作用によりパーキングロッド8が押し込まれ、これによりパーキングポール7とパーキングギヤPGとが噛み合う。パーキングロックアクチュエータ9は、シフトレバー30の位置によらず変速機コントローラATCUによってパーキングロック状態を切り替え可能である。
【0026】
(エア抜き制御処理について)
マニュアルバルブボディ2を変速機ケーシング20の上方に設置する場合、変速機ケーシング20内の油面よりも上方に設置されるため、エンジン停止状態で長期間放置した場合、マニュアルバルブボディ2内の油が抜け落ち、油圧回路内に空気が混入するおそれがある。そうすると、次回にエンジンを作動させ、セレクト操作を行った際、発進クラッチへの油の供給が遅れ、車両の発進応答性が悪化するおそれがあった。そこで、実施例1では、エンジン停止中は、オイルポンプOPが停止しているため、電動オイルポンプEOPを作動させ、パーキングロックアクチュエータ9をロック状態としたままで、シフトアクチュエータ4をNレンジ位置からDレンジ位置もしくはRレンジ位置に作動させ、フォワードクラッチFWDC及びリバースブレーキREVBに油圧を供給する経路に油を供給するエア抜き制御を行うこととした。
【0027】
尚、パーキングロックアクチュエータ9やシフトアクチュエータ4を備えていない通常の車両では、マニュアルバルブとパーキングロック機構とがマニュアルシャフトを介して連結されており、マニュアルバルブを作動させるとパーキングロック機構もロック解除してしまい、車両が移動するおそれがある。よって、イグニッションスイッチIGNがOFFのときにエア抜き制御を行うことはできない。これに対し、実施例1では、シフトアクチュエータ4とパーキングロックアクチュエータ9とが独立して作動可能な構成としたため、エア抜き制御中に車両が移動するという問題は生じない。
【0028】
図3は、実施例1のエア抜き制御処理を表すフローチャートである。
ステップS1では、イグニッションスイッチIGNがONか否かを判断し、ONの場合は本制御フローを終了し、OFFの場合はステップS2に進む。
ステップS2では、待機状態とする。
ステップS3では、設定時間T1が経過したか否かを判断し、設定時間T1が経過したと判断したときはステップS4へ進み、それ以外の場合はステップS2に戻って待機状態を継続する。ここで、設定時間T1とは、油圧回路内から油が抜け落ちるまでにかかる時間であり、実験等により定められる。油が抜け落ちていなければ、油圧回路内に油を充填する必要が無いからである。
【0029】
ステップS4では、電動オイルポンプEOPを作動する。
ステップS5では、シフトアクチュエータ4によりマニュアルバルブ6を作動し、Nレンジ位置からDレンジ位置へのN→Dセレクトを行う。これにより、第1導入油路11と第2導入油路12とが接続され、フォワードクラッチFWDCに至る油圧回路内のエア抜きが実施される。すなわち、イグニッションスイッチIGNがOFFのときに、定期的にエア抜き制御を実施することで、エンジン停止状態で長期放置した後に乗車し、エンジン再始動した場合であっても、車両の発進応答性を確保できる。
【0030】
ステップS6では、待機状態とする。
ステップS7では、設定時間T2が経過したか否かを判断し、設定時間T2が経過したと判断したときはステップS7に進み、それ以外の場合はステップS6に戻って待機状態を継続する。ここで、設定時間T2とは、フォワードクラッチFWDCに至る油圧回路内のエア抜きにかかる時間であり、実験等により定められる。
ステップS8では、シフトアクチュエータ4によりマニュアルバルブ6を作動し、Dレンジ位置からNレンジ位置へのD→Nセレクトを行う。
【0031】
ステップS9では、シフトアクチュエータ4によりマニュアルバルブ6を作動し、Nレンジ位置からRレンジ位置へのN→Rセレクトを行う。これにより、第1導入油路11と第3導入油路14とが接続され、リバースブレーキREVBに至る油圧回路内のエア抜きが実施される。
【0032】
ステップS10では、待機状態とする。
ステップS11では、設定時間T3が経過したか否かを判断し、設定時間T3が経過したと判断したときはステップS12に進み、それ以外の場合はステップS10に戻って待機状態を継続する。ここで、設定時間T3とは、リバースブレーキREVBに至る油圧回路内のエア抜きにかかる時間であり、実験等により定められる。
ステップS12では、シフトアクチュエータ4によりマニュアルバルブ6を作動し、Rレンジ位置からNレンジ位置へのR→Nセレクトを行う。尚、車両設計上、リバースブレーキREVBの応答性が必要ないと判断したときは、ステップS9からS11の処理を行わなくてもよい。
ステップS13では、電動オイルポンプEOPを停止する。
【0033】
上述のエア抜き制御処理が実行されている間は、以下のフローを割り込み処理として実施する。
ステップS21では、イグニッションスイッチIGNがONか否かを判断し、ONの場合はステップS22に進み、それ以外の場合は本制御フローを終了し、ステップS21から繰り返す。
ステップS22では、シフトアクチュエータ4によりマニュアルバルブ6を作動し、マニュアルバルブ6のレンジ位置がどの位置であって、Nレンジ位置に戻す。
ステップS23では、電動オイルポンプEOPの作動を停止する。
【0034】
すなわち、エア抜き制御処理中であっても、イグニッションスイッチIGNがONとなった場合は、マニュアルバルブ6をNレンジ位置に戻し、電動オイルポンプEOPを停止することで、通常時の制御に移行する。これにより、運転者の意図と異なる各アクチュエータの作動を終了することで、運転者に与える違和感がない。
【0035】
以上説明したように、実施例1にあっては、下記の作用効果が得られる。
(1)変速機ケーシング20の下方に設置され、フォワードクラッチFWDC及びリバースブレーキREVB(発進クラッチ)に供給する油圧を調圧するクラッチレギュレータバルブ10(調圧弁)を備えたコントロールバルブボディ1と、変速機ケーシング20の上方に設置され、コントロールバルブボディ1からフォワードクラッチFWDC及びリバースブレーキREVBへ供給する油圧の経路を、フォワードクラッチFWDC及びリバースブレーキREVBへ油圧を供給する供給位置と非供給位置とに切り替えるマニュアルバルブ6を備えたマニュアルバルブボディ2と、運転者のシフトレバー30の操作にかかわらず、マニュアルバルブ6の位置を切り替え可能なシフトアクチュエータ4と、シフトアクチュエータ4の作動と独立してパーキングロック機構の作動を実行可能なパーキングロックアクチュエータ9と、エンジンの停止時に、コントロールバルブボディ1に油圧を供給可能な電動オイルポンプEOPと、クラッチレギュレータバルブ10と、シフトアクチュエータ4と、パーキングロックアクチュエータ9と、電動オイルポンプEOPと、の作動状態を制御する変速機コントローラATCUと、を有し、変速機コントローラATCUは、エンジンの停止時に、パーキングロックアクチュエータ9をロック状態とし、電動オイルポンプEOPを作動し、シフトアクチュエータ4によりマニュアルバルブ6の位置を非供給位置から供給位置に所定時間(T2もしくはT3)切り替えて、フォワードクラッチFWDC及びリバースブレーキREVBへ油圧を供給するエア抜き制御を行う。
よって、エンジン停止時に、オイルポンプOPが停止している状態であっても、エア抜き制御を実施することで、エンジン停止状態で長期放置した後に乗車し、エンジン再始動した場合であっても、車両の発進応答性を確保できる。
【0036】
(2)変速機コントローラは、イグニッションスイッチIGNのオフ時に、エア抜き制御を定期的に実施する。よって、エンジン停止状態が継続していたとしても、電力消費を抑制しつつ、油圧回路内の油を充填しておくことができる。
【0037】
〔実施例2〕
次に、実施例2について説明する。基本的な構成は実施例1と同じであるため、異なる点についてのみ説明する。
図4は、実施例2のエア抜き制御処理を表すフローチャートである。実施例1では、イグニッションスイッチIGNがOFF時に、定期的な割り込み処理としてエア抜き制御を実施した。これに対し、実施例2では、運転者の乗車タイミング、すなわち、イグニッションスイッチIGNをONとする直前であり、運転者が車両を発進させる蓋然性が高い状況か否かを検出し、車両を発進させる蓋然性が高いと判断したときは、イグニッションスイッチIGNがONとなる前に、エア抜き制御を実施することとした。
【0038】
具体的には、実施例1のステップS3に代えて、ステップS31とし、ドアロックが解除されたか否かを判断する。ドアロックが解除された場合は、車両を発進させる蓋然性が高いと判断してステップS4に進み、それ以外の場合はステップS2に戻って待機状態を継続する。これにより、イグニッションスイッチIGNがOFFのときに、定期的にエア抜き制御を実施する場合に比べて、電力消費量を抑制することができる。また、ドアロックの解除に基づいて判断することで、運転者の乗車タイミングを容易に検出できる。
【0039】
〔他の実施例〕
以上、本発明を実施するための形態を実施例に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は実施例に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。例えば、実施例1では、シフトアクチュエータ4やパーキングロックアクチュエータ9を油圧により作動する構成としたが、電動モータや電磁的アクチュエータにより作動する構成としてもよい。