(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1の実施形態≫
以下、第1の実施形態を、図面を用いて説明する。説明には、相互に直交するX軸、Y軸、Z軸からなる直交座標系を用いる。
【0010】
図1は、本実施形態に係るインクジェットヘッド10を示す斜視図である。インクジェットヘッド10は、シェアードウォール型のインクジェットヘッドである。
図2は、インクジェットヘッド10の展開斜視図である。
図2に示されるように、インクジェットヘッド10は、ケーシング20、基板30、流路ブロック40、オリフィスプレート50を有している。
【0011】
ケーシング20は、長手方向をY軸方向とするケーシング本体21と、ケーシング本体21に取り付けられる2本の管路22A,22Bを有している。
図3は、ケーシング20を、下方(−Z側)から見たときの斜視図である。ケーシング本体21は、Y軸方向の寸法が50mm程度で、下方(−Z側)が開放された長方形の中空部材である。ケーシング本体21には、長手方向をY軸方向とする長方形の開口23が形成されている。ケーシング本体21は、例えば、表面に絶縁被膜を形成したアルミニウムやステンレス鋼などの金属や、プラスティックなどの樹脂、或いはセラミックなどからなる。
【0012】
図1に示されるように、管路22A,22Bは、Z軸方向を長手方向とし、ケーシング20の上面のY軸方向両端部に固定されている。管路22A,22Bは、ケーシング20の内部空間に通じている。管路22A,22Bは、インクジェットヘッド10に供給されるインクの循環系を構成する。インクジェットヘッド10へ供給されるインクは、管路22Aから供給され、管路22Bから排出される。これにより、インクジェットヘッド10と不図示のインクタンクとの間をインクが循環する。
【0013】
図2に示されるように、基板30は、長手方向をY軸方向とする長方形の基板である。基板30の下面には、Y軸に沿って並ぶ複数のアクチュエータ32が固定されている。基板30は、例えばガラス繊維にエポキシ樹脂を含浸させた部材や、アルミナ或いはセラミックなどからなる。基板30のY軸方向の寸法は、ケーシング20に形成された開口23のY軸方向の寸法とほぼ等しい。また、基板30の厚さは、開口23のX軸方向の寸法とほぼ等しい。
【0014】
図4は、基板30に設けられたアクチュエータ32を拡大して示す図である。
図4に示されるように、アクチュエータ32は、長方形板状の部材である。アクチュエータ32は、長手方向をX軸方向とする長方形に整形された2つの圧電素子32a,32bから構成されている。圧電素子32a,32bは、圧電素子32aの下面と圧電素子32bの上面とが接着剤等によって接着さることで一体化されている。
【0015】
アクチュエータ32は、圧電素子32aの上面が、接着剤によって基板30の下面に接着されることで、基板30に固定されている。各アクチュエータ32は、Y軸に沿って等間隔に並んでいる。このため、アクチュエータ32によって挟まれる空間Sは、相互に容積が同じ空間となる。
【0016】
例えば、圧電素子32a,32bは、チタン酸ジルコン酸鉛を主成分とするピエゾ素子である。圧電素子32a,32bそれぞれの分極方向はZ軸に平行であり、圧電素子32aの極性と、圧電素子32bの極性は逆になっている
【0017】
図4では、図示が省略されているが、
図5示さるように、各空間Sの内壁面から基板30の+X側の面に渡って、電極パターン33が形成されている。この電極パターン33は、例えば、ニッケル膜からなるパターンであり、アクチュエータ32に電圧を印加するための電極として機能する。
【0018】
各電極パターン33に選択的に電圧を印加することで、
図6に示されるように、直線的になっているアクチュエータ32を、
図7に示されるように、屈曲させることができる。アクチュエータ32が屈曲すると、空間Sの体積が小さくなり、後述するオリフィスプレート50に設けられた開口51からインクが噴出する。
【0019】
図2に示されるように、流路ブロック40は、長手方向をY軸方向とする部材である。流路ブロック40は、矩形枠状のフレーム部41と、フレーム部41から内側に突出する突出部42の2部分を有する部材である。フレーム部41のX軸方向及びY軸方向の寸法は、ケーシング本体21のX軸方向及びY軸方向の寸法とそれぞれ等しい。突出部42は、フレーム部41の−X側に設けられた突出部42と、フレーム部41の+X側に設けられた突出部42とが対抗するように、フレーム部41の内側に設けられている。
【0020】
図8は、基板30とアクチュエータ32に固定された流路ブロック40を示す図である。
図8に示されるように、流路ブロック40が、基板30とアクチュエータ32に固定されているときには、流路ブロック40の突出部42が、2つのアクチュエータ32及び基板30の−X側の側面と+X側の側面に密着する。これによって、アクチュエータ32によって挟まれる空間Sが交互に突出部42によって閉塞される。
【0021】
図9に示されるように、2つのアクチュエータ32によって規定される空間Sは、流路ブロック40によって閉塞された空間Sが、インクが流れこまないダミー室Dとなる。また、流路ブロック40によって閉塞されていない空間Sが、インクが流れこむ圧力室Pとなる。圧力室Pを循環するインクは、隣接する突出部42同士の隙間を流路Fとして圧力室Pに供給され、その後排出される。
【0022】
図2に示されるように、オリフィスプレート50は、ポリイミド等を素材とし、長手方向をY軸方向とする長方形のシートである。オリフィスプレート50のX軸方向の寸法、及びY軸方向の寸法は、流路ブロック40のX軸方向の寸法、及びY軸方向の寸法にそれぞれ等しい。
【0023】
オリフィスプレート50には、Y軸に沿って等間隔に円形の開口51が形成されている。開口51は、インクジェットヘッド10を循環するインクを、紙などの記録媒体に吐出するためのノズルとして機能する。これらの開口51の配列間隔は、
図9に示される圧力室Pの配列間隔に等しい。
【0024】
図10は、インクジェットヘッド10のXZ断面を示す図である。上述のように構成されるケーシング20、基板30、流路ブロック40、オリフィスプレート50においては、
図10に示されるように、流路ブロック40が、基板30とアクチュエータ32に固定されることで、基板30と流路ブロック40と一体化する。そして、ケーシング20が、開口23に基板30が挿入された状態で、基板30の側面と流路ブロック40の上面に固定される。流路ブロック40に固定されたケーシング20の内部空間は、すべての圧力室Pに通じる共通インク室Cとなる。オリフィスプレート50は、流路ブロック40の下面と、アクチュエータ32の下面に固定される。
【0025】
以上のように、ケーシング20、基板30、流路ブロック40、オリフィスプレート50が一体化されることで、
図1に示されるインクジェットヘッド10が組み立てられる。この状態のときには、
図9に示されるように、オリフィスプレート50の開口51が、圧力室Pと通じた状態になる。また、ダミー室Dは、流路ブロック40の突出部42とオリフィスプレート50によって、インクに対して密閉された状態になる。
【0026】
図10に示されるように、インクジェットヘッド10では、管路22Aからインクが供給され、管路22Bからインクが排出されることで、インクジェットヘッド10をインクが循環する。
図10の実線で示されるように、インクジェットヘッド10では、管路22Aから流入したインクは、ケーシング20の内部を通った後、流路ブロック40によって、圧力室Pに流入する。そして、圧力室Pに流入したインクは、流路ブロック40によって、ケーシング20の内部へ導かれ、管路22Bから排出される。
【0027】
インクが、
図10の実線で示されるように循環しているときに、
図5に示される電極パターン33に選択的に電圧を印加すると、アクチュエータ32が、
図6に示される状態から、
図7に示される状態に変形する。これにより、圧力室Pとして機能する空間Sが収縮して、
図10の白抜き矢印に示されるように、オリフィスプレート50に形成された開口51からインクが噴出する。
【0028】
次に、上述のように構成されたインクジェットヘッド10の製造方法について説明する。
【0029】
まず、
図11に示されるように、圧電素子32aと同じチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とするシート321と、圧電素子32bと同じチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とするシート322をそれぞれ張り合わせて、2層構造の多層フィルム300を形成する。シート321,322の接着には、例えば、熱硬化性を有する接着材などを用いることができる。
【0030】
多層フィルム300を構成するシート321,322の分極方向はシート321,322の法線に平行な方向(Z軸方向)であり、本実施形態では、例えばシート321の極性が+Z方向となり、シート322の極性が−Z方向となっている。
【0031】
次に、多層フィルム300を、
図11の点線で示される位置で切断する。これにより、
図12に示されるように、2枚のシート321,322からなり、長手方向をX軸方向とするシートブロック320が形成される。
【0032】
次に、シートブロック320を、例えば、熱硬化性を有する接着剤或いは紫外線硬化性を有する接着材を用いて、
図13に示されるように、基板30の上面に接着する。
【0033】
次に、ダイヤモンドソーを用いて、シートブロック320に、上面から基板30に達し、Y軸に平行な溝を複数形成する。これにより、
図14に示されるように、シートブロック320を構成するシート321,322は、圧電素子32a,32bとなる。圧電素子32a,32bは、アクチュエータ32を構成する。ダイヤモンドソーを用いて、アクチュエータ32を形成すると、
図4に示されるように、アクチュエータ32の間の基板30の表面は凹面となる。
【0034】
次に、
図15に示されるように、アクチュエータ32の表面と、基板30の+X側の面に、例えばメッキ膜330を形成する。そして、アクチュエータ32の上面(+Z側の面)と、アクチュエータ32の側面(+X側及び−X側の面)を研磨することにより、メッキ膜330を除去し、基板30のメッキ膜330をパターニングする。これにより、
図5に示されるように、アクチュエータ32に電圧を印可するための電極パターン33が形成される。
【0035】
次に、
図16に示されるように、アクチュエータ32と基板30の上端が露出するように、型枠100を基板30に設ける。
【0036】
次に、
図17に示されるように、型枠100に、紫外線に対して硬化性を有する紫外線硬化樹脂400を充填し、紫外線を透過するガラスなどの板410で、型枠100に蓋をする。そして、紫外線硬化樹脂400にマスクMを介して紫外線を照射して、紫外線硬化樹脂400を硬化せる。これにより、
図18に示されるように、紫外線硬化樹脂400からなる流路ブロック40が形成される。
【0037】
次に、型枠100と未硬化の紫外線硬化樹脂400を除去する。これにより、
図8に示されるように、基板30及びアクチュエータ32と一体化した流路ブロック40が形成される。流路ブロック40が形成されたら、流路ブロック40の表面をアクチュエータ32とともに研磨する。これにより、アクチュエータ32の表面に残る紫外線硬化樹脂が除去されるとともに、オリフィスプレート50が接着される面が平坦化される。
【0038】
次に、
図2を参照するとわかるように、基板30及び流路ブロック40にケーシング20を固定し、流路ブロック40にオリフィスプレート50を固定する。これにより、インクジェットヘッド10が完成する。
【0039】
インクジェットヘッド10は、以上の工程を経て、製造される。インクジェットヘッド10では、電極パターン33に、ドライバICが接続され、管路22A,22Bに、インク循環系が接続される。
【0040】
以上説明したように、本実施形態では、
図9に示されるように、流路ブロック40の突出部42によって、アクチュエータ32の間に形成される空間Sが密閉されることにより、ダミー室Dが形成される。また、流路ブロック40では、隣接する2つの突出部42によって、各圧力室Pを循環するインクの流路Fが形成される。突出部42は、流路ブロック40としてフレーム部41と一体的に成形されている。このため、アクチュエータ32に規定される空間を密閉してダミー室を設けるために、アクチュエータ32の間に一か所ずつ樹脂を充填する等の煩雑な作業が不要となる。したがって、インクジェットヘッド10を容易に製造することが可能となる。
【0041】
また、インクジェットヘッド10の製造が容易になるので、装置の製造コストを削減するとともに、歩留りを向上することができる。
【0042】
本実施形態では、
図9に示されるように、2つのアクチュエータ32に接する突出部42の当接面が平面である場合について説明した。これに限らず、例えば
図19に示されるように、突出部42の対抗面に凹部43を形成し、凹部43を挟む一対の支持部44で、アクチュエータ32をそれぞれ支持することとしてもよい。支持部44は弾性によりある程度自由に変形する。このため、アクチュエータ32を駆動するときの抵抗が少なくなるため、結果的にアクチュエータ32に印可する電圧が少なくてすむ。したがって、インクジェットヘッド10で消費される電力を削減することが可能になる。
【0043】
図19に示されるように、支持部44で、アクチュエータ32をそれぞれ支持する場合には、ダミー室DのX軸方向の寸法の方が、アクチュエータ32のX軸方向の寸法よりも大きくなる。そのため、基板30の厚さは、アクチュエータ32のX軸方向の寸法よりも大きくする必要がある。
【0044】
本実施形態では、
図10に示されるように、流路ブロック40の上面と、ケーシング20の下面とが接着されている場合について説明した。これに限らず、
図20に示されるように、流路ブロック40がケーシング20に包囲されていてもよい。
【0045】
この場合には、インクジェットヘッド10のX軸方向の寸法が大きくなるが、インクジェットヘッドの製造工程を簡略化することができる。例えば、
図21に示されるように、基板30にケーシング20を固定した後に、ケーシング20の下面側を、紫外線を透過するガラスなどの板410で塞ぐ。次に、ケーシング20の内部に紫外線硬化樹脂400を充填し、下方からマスクMを介して紫外線を照射する。これにより、ケーシング20及び基板30と一体となった流路ブロック40を形成することができる。この方法によれば、型枠100を用いることなく、流路ブロック40を形成することができる。そのため、製品の製造コストを削減することが可能となる。
【0046】
≪第2の実施形態≫
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一又は同等の構成については、同等の符号を用いるとともに、その説明を省略又は簡略する。
【0047】
図22は、第2の実施形態に係るインクジェットヘッド11の斜視図である。本実施形態に係るインクジェットヘッド11は、基板30がオリフィスプレート50を兼ねている点で、第1の実施形態に係るインクジェットヘッド10と相違している。
【0048】
図23は、インクジェットヘッド11の展開斜視図である。
図23に示されるように、オリフィスプレートを兼ねる基板30は、長手方向をY軸方向とする基板である。基板30の上面には、−X側の外縁に沿って台形に整形されたアクチュエータ32が等間隔に配置されている。アクチュエータ32に電圧を印可するための電極パターンは、基板30の上面に、アクチュエータ32から基板30の+X側端に渡って形成される。
【0049】
基板30の上面には、アクチュエータ32を包囲するように流路ブロック40が固定される。そして、流路ブロック40に、ケーシング20が固定される。
【0050】
図24は、インクジェットヘッド11のXZ断面を示す図である。
図24に示されるように、ケーシング20の内部には、天井面の中央部から下方に突出する凸部24が形成されている。凸部24の下面は、各アクチュエータ32の上面に接着され、凸部24の周囲の空間が共通インク室Cとして機能する。
【0051】
アクチュエータ34の間の空間Sは、交互に、圧力室Pとダミー室Dとなる。圧力室Pは、基板30、アクチュエータ32、及びケーシング20の凸部24によって囲まれる空間である。また、ダミー室Dは、基板30、アクチュエータ32、ケーシング20の凸部24、流路ブロック40の突出部42によって囲まれる空間である。
【0052】
図24に示されるように、管路22Aからインクが供給され、管路22Bからインクが排出されることで、インクジェットヘッド11をインクが循環する。
図24の実線で示されるように、インクジェットヘッド11では、管路22Aから流入したインクは、ケーシング20の内部を通った後、流路ブロック40によって、圧力室Pに流入する。そして、圧力室Pに流入したインクは、流路ブロック40によって、ケーシング20の内部へ導かれ、管路22Bから排出される。
【0053】
インクが、
図24の実線で示されるように循環しているときに、アクチュエータ32を駆動すると、白抜き矢印に示されるように、基板30に形成された開口51からインクが噴出する。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、流路ブロック40の突出部42によって、アクチュエータ32の間に形成される空間Sが密閉されることによりダミー室Dが形成される。また、流路ブロック40では、隣接する2つの突出部42によって、各圧力室Pを循環するインクの流路が形成される。突出部42は、流路ブロック40としてフレーム部41と一体的に成形されている。このため、従来のように、アクチュエータ32に規定される空間を密閉してダミー室を設けるために、アクチュエータ32の間に一か所ずつ樹脂を充填する等の煩雑な作業が不要となる。したがって、インクジェットヘッド10を容易に製造することが可能となる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態によって限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、流路ブロック40を、紫外線硬化樹脂400を用いて製造する場合について説明した。これに限らず、流路ブロック40は、紫外線硬化樹脂以外の樹脂から構成されていてもよい。
【0056】
上記実施形態では、圧力室Pとダミー室Dが交互に配置される場合について説明した。しかしながら、圧力室Pとダミー室Dは、必ずしも交互に配置される必要はない。
【0057】
上記実施形態に係るインクジェットヘッド10,11は一例であり、基板30に設けられるアクチュエータ32の数や大きさ、圧力室P及びダミー室Dの数や大きさなどは、インクジェットヘッド10,11の用途や解像度に応じて、適宜変更することができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施しうるものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。