特許第6847861号(P6847861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6847861改良した微細構造および熱膨張性を有し透明で本質的に無色でスズで清澄化したLASガラスセラミック
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  • 特許6847861-改良した微細構造および熱膨張性を有し透明で本質的に無色でスズで清澄化したLASガラスセラミック 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6847861
(24)【登録日】2021年3月5日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】改良した微細構造および熱膨張性を有し透明で本質的に無色でスズで清澄化したLASガラスセラミック
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20210315BHJP
   F24C 15/04 20060101ALI20210315BHJP
   F24C 15/10 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C03C10/12
   F24C15/04 Z
   F24C15/10 B
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-561826(P2017-561826)
(86)(22)【出願日】2016年5月27日
(65)【公表番号】特表2018-523624(P2018-523624A)
(43)【公表日】2018年8月23日
(86)【国際出願番号】EP2016062071
(87)【国際公開番号】WO2016193171
(87)【国際公開日】20161208
【審査請求日】2019年5月27日
(31)【優先権主張番号】1554891
(32)【優先日】2015年5月29日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】501059442
【氏名又は名称】ユーロケラ
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】モリエール,エステル マデリーン
(72)【発明者】
【氏名】コント,マリー ジャクリーン モニーク
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−354446(JP,A)
【文献】 特表2012−528063(JP,A)
【文献】 特開平04−228451(JP,A)
【文献】 特表2014−522367(JP,A)
【文献】 特表2012−520226(JP,A)
【文献】 特表2010−520136(JP,A)
【文献】 特表2007−517753(JP,A)
【文献】 特開2011−256109(JP,A)
【文献】 特開2010−001206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミノケイ酸リチウム型ガラスセラミックにおいて、
β‐石英固溶体を主結晶相として含み、
前記ガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO
18から24%までのAl
4から5%までのLiO、
0から0.6%までのSnO
1.9より高く4%までのTiO
1から2.5%までのZrO
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNaO、
0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1を満たしながら、0から2%までのKO、
0から3%までのP、および、
0ppm未満のFeを、
含有し、
前記β‐石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満の平均サイズを有するものである、ガラスセラミック。
【請求項2】
前記組成が、0.1から0.6%までのSnOを含有する、請求項1に記載のガラスセラミック。
【請求項3】
前記組成が、4%より高いLiO、および、2から3%までのTiOを含有する、請求項1または2に記載のガラスセラミック。
【請求項4】
前記組成が、少なくとも0.1%のMgO、および/または、ZnO、並びに、1%未満のPを含有する、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項5】
前記組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化希土類、酸化ストロンチウム、および、酸化リンを、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から68%までのSiO
20から24%までのAl
4より高く5%までのLiO、
0.1から0.4%までのSnO
2から3%までのTiO
1.5から2%までのZrO
0.1から0.5%までのMgO、
0.1から1.5%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0.5から1.5%までのBaO、
0から1.5%までのNaO、
0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1を満たしながら、0から2%までのKO、および、
200ppm未満のFe
含有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項6】
厚さ5mmについて81%より高い全光線透過率、厚さ5mmについて14未満の黄色度、および、厚さ5mmについて2.5%未満のヘイズパーセント、並びに、
+3.5と−3.5×10−1の間である、25℃と、300と700℃の間の任意の温度との間の熱膨張係数(CTE25℃−[300−700℃])、
を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載のガラスセラミック。
【請求項7】
物品において、
少なくとも部分的に、請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックから構成され、
煙突窓、暖炉挿入装置、ストーブまたは炉の窓、調理用コンロ、遮蔽物、および、耐火性ガラスを構成する、物品。
【請求項8】
アルミノケイ酸リチウムガラスにおいて、
請求項1から6のいずれか1項に記載の前記ガラスセラミックの前駆体であって、
前記アルミノケイ酸リチウムガラスの組成は、請求項1から6のいずれか1項に記載のガラスセラミックの取得を可能にするものである、アルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項9】
前記組成が、少なくとも0.1%のZnO、および、1%未満のPを含有する、請求項8に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【請求項10】
1,640℃未満で30Pa.sの粘度(T@30Pa.s<1,640℃)、1,400℃未満の液相温度、および、300Pa.sより高い液相粘度を有する、請求項8または9に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、β‐石英ガラスセラミックの1つに関する。特に、本願は、以下に関する:
‐ β‐石英固溶体を主結晶相として含み、組成中にAsもSbも含まず、非常に興味深い光学特性(透明性、無着色性、および、非散乱性)、非常に興味深い熱膨張性、および、非常に興味深い製造(溶融および形成)特性などの非常に興味深い物性を有する、アルミノケイ酸リチウム(LAS)型ガラスセラミックと、
‐ 上記ガラスセラミックの物品と、
‐ そのようなガラスセラミックの前駆体である、アルミノケイ酸リチウムガラスと、
‐ 上記ガラスセラミック、および、上記ガラスセラミックの物品の生成方法。
【背景技術】
【0002】
β‐石英固溶体を主結晶相として含む低熱膨張ガラスセラミック(β‐石英ガラスセラミックとよく称される)は、例えば、調理用コンロと、調理器具と、電子レンジ底部と、煙突窓と、暖炉挿入装置と、ストーブおよび炉、特に熱分解または触媒作用炉の窓と、遮蔽物と、特にドアまたは窓に一体化されるか、若しくは、間仕切りとして使用する耐火性ガラスとして有用である。そのようなガラスセラミックは、着色してあるか(例えば、黒色の調理用コンロ)、または、透明で無色であってもよい(例えば、耐火性ガラス、(完全に見えるのが望ましい着色した下層を有する)誘導加熱用調理天板、ストーブおよび炉の窓、並びに、遮蔽物)。
【0003】
そのようなガラスセラミックを取得するために(より詳しくは、前駆体溶融ガラスバルク中の気体包有物を除去するために)、従来のガラスセラミック組成物においては、従来の清澄剤であるAs、および/または、Sbを使用してきた。これらの従来の清澄剤の使用は、特に、特許文献1、特許文献2、および、特許文献3に示されている。Asの毒性、および、一段と厳しくなっている現行の規制を考慮すると、この毒性清澄化合物を前駆体ガラスの生成に使用するのは、もう望ましくなくなった。環境を考慮すると、従来の清澄剤Asの代わりのSbの使用、並びに、FおよびBrなどのハロゲンの使用も、それらを少なくとも部分的には使用できたかもしれないが、もう望ましくない。
【0004】
SnOを、(As、および、Sbの)代わりの清澄剤として使用してもよい。特許文献4、特許文献5、および、特許文献6は、SnOを清澄剤として含むガラスセラミック組成物を、記載している。
【0005】
しかしながら、SnOの清澄剤としての使用には欠点がある。例えば、この化合物は、Asより効率が低く、(したがって、絶対量で、比較的多量に使用して、この非効率さを相殺すべきであり、問題、特に失透の問題を生じないということはなく、)更に、セラミック化中に望ましくない黄色がかった着色の発生の原因となる。特に、透明で本質的に無色のガラスセラミックを取得することを目標とする場合には、黄色がかった着色は望ましくない(本願は、そのような透明で本質的に無色のガラスセラミックの取得に関する、一方、特許文献7および特許文献8は、着色したガラスセラミックに関する)。この黄色がかった着色は、TiとFeの(電荷移動による)相互作用の結果によるものであり、この相互作用は、スズ存在下で増加したことが観察された。概して、ガラスセラミックの前駆体ガラス組成物は、核形成剤として、TiO、更に、不純物として、(例えば、原料、および、ガラスカレットによって)含まれた鉄も含む。したがって、この望ましくない黄色がかった着色現象を避ける、透明で本質的に無色のガラスセラミック組成物を必要としている。
【0006】
(上記の)特許文献6、および、特許文献9は、ガラスセラミックの透光性を害する、高価な色補償剤の使用を記載している。
【0007】
特許文献10、および、特許文献11は、前駆体ガラスの組成物中に存在するTiOを制限すること、または、更に回避することを記載している。
【0008】
特許文献12は、透明で、本質的に無色で、非散乱性のβ‐石英ガラスセラミックを記載している。それらの組成物は、清澄剤として、SnOを含有し、MgOを含有しないか、または、低含有量のMgOを含む。
【0009】
特許文献13、および、特許文献14は、SnOで清澄化した前駆体ガラスを使用したガラスセラミックを、例えば、炉の窓として記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,438,210号明細書
【特許文献2】米国特許第5,070,045号明細書
【特許文献3】国際公開第2005/058766号
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0071011号明細書
【特許文献5】米国特許第6,846,760号明細書
【特許文献6】米国特許第8,053,381号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第2088130号明細書
【特許文献8】国際公開第2010/136731号
【特許文献9】米国特許第8,685,873号明細書
【特許文献10】米国特許第8,759,239号明細書
【特許文献11】米国特許第8,143,179号明細書
【特許文献12】国際公開第2013/171288号
【特許文献13】国際公開第2012/020678号
【特許文献14】国際公開第2012/066948号
【発明の概要】
【0011】
したがって、そのような状況において、出願人は、AsもSbも含まない組成(ハロゲンも含まない組成)の新しいβ‐石英ガラスセラミックを提案する。これらの新しいガラスセラミックは、非常に興味深い光学特性、特に最も、透光性、光の非散乱性、および、低残留着色性を有する。これらの新しいガラスセラミックは、透明で、本質的に無色で、非散乱性である。これらの新しいガラスセラミックは、その前駆体ガラスが、形成方法と適合しうる高温での低い粘度、低い液相温度、および、高い液相粘度を有し、(組成中に、有効量の核形成剤、特にTiOが存在するのが適切である)短時間セラミック化サイクルを行って結晶化しうるので、産業規模でも取得が容易である。光学特性、および、それらを取得するための容易な条件について得られた好ましい結果は、特許文献12に記載されたガラスセラミックで得たものと同じ程度である。しかしながら、好ましい結果を得られたのは、全く異なるアプローチ(以下を参照)に基づくものであり、特に、(CTEに関する)更なる条件を考慮しなくてはならなかった。本願のガラスセラミックは、非常に興味深い光学特性、および、それらを取得するための容易さに加えて、非常に興味深い熱膨張性も有する。したがって、本願の新しいガラスセラミックは、多数の条件を含む仕様、特に、以下の条件を満たす:
‐ それらを、低コスト原料(その組成は、高価な珍しい要素を含まず、特に、Ndなどの酸化希土類を含まない)から取得することと、
‐ As、Sb、および、ハロゲンを含まない組成物と、
‐ 非常に興味深い光学特性:高い透明性(厚さ5mmについて、81%より高い、または、更に84%より高い全光線透過率(TL))、非常に低い黄色度(YI)(=本質的に無色性)(厚さ5mmについて、14未満、または、更に12未満)、および、低い散乱度(厚さ5mmについて、2.5%未満、または、更に1.5%未満のヘイズパーセント)と、
‐ それらの取得の容易さ:それらの前駆体ガラスの高温での低い粘度(T@30Pa.s<1,640℃)、(前駆体ガラスの)低い液相温度(<1,400℃)、(前駆体ガラスの)高い液相粘度(概して、>300Pa.s)、および、(前駆体ガラスの)短時間(3時間未満)でありうるセラミック化サイクルと、
‐ 低いCTE25℃−[300−700℃](+3.5と−3.5×10−1の間)とである。尚、この熱膨張率(CTE)に関する条件は、通常より厳しいものであることに留意すべきである。25℃と、300から700℃の任意の温度との間で課されている。これについて、添付の図1を検討してもよい。特に最も、異なる温度範囲で耐熱衝撃性を要する(ガラスセラミックの)特定の利用例について、この条件が最も必要である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来のガラスセラミックおよび本願のガラスセラミックの熱膨張率の温度に対する変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
したがって、第1の目的よれば、本願は、ガラスセラミックに関し:
‐ アルミノケイ酸リチウム型(LAS)であり、LiO、Al、および、SiOを、β‐石英固溶体の不可欠な要素として含み(上記参照)、
‐ β‐石英固溶体を主結晶相として含み、β‐石英固溶体は、結晶化した部分全体の80質量%より高くを示す。更に、結晶化した部分全体の略90質量%より高くを示す。更に、
‐ 上記仕様(特に、上記仕様の光学特性およびCTEに関する条件)を、特に満足に適合する。
【0014】
特徴的には、
‐ 本願のガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO
18から24%までのAl
4から5%までのLiO、
0から0.6%までのSnO
1.9より高く4%までのTiO
1から2.5%までのZrO
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNaO、
0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1を満たしながら、0から2%までのKO、
0から3%までのP、および、
250ppm未満のFeを、
含有し、
‐ (大部分が結晶相である)β‐石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満、好適には35nm未満、非常に好適には30nm未満の平均サイズを有する。
【0015】
この平均晶子サイズの概念は、当業者に知られている。従来から、X線回折スペクトルのリートベルト精密分析を用いて測定される。
【0016】
本願の(LAS型)ガラスセラミックの組成は、
‐ 64から70%までのSiO
‐ 18から24%までのAl、および、
‐ 4から5%までのLiOを含有する。
【0017】
失透の問題を限定的にするために、SiO含有量(≧64%)は、十分な粘性の前駆体ガラスを取得するのに適した量であるべきである。SiO含有量が高いほど、組成物を溶融するのが難しいので、SiO含有量は70%までに制限される。好適には、含有量は、(境界値を含む)64と68%の間である。
【0018】
Alについて、多すぎる量(>24%)は、組成物をもっと失透させ易くし(ムライト、または、他の結晶相)、望ましくない。逆に、少なすぎる量(<18%)は、核形成、および、小さなβ‐石英晶子の形成には好ましくない。(境界値を含む)20と24%の間の含有量が有利である。
【0019】
LiOについて、多すぎる量(>5%)は、失透については好ましい、一方、少なすぎる量(<4%)は、高温での粘度を非常に高める。4%より高い含有量が有利である。したがって、特徴的には、本願のガラスセラミックは、特に最も、高温での低粘度について、かなりの量のLiO(4〜5%、好適には4より高くから5%まで)を含有する。
【0020】
本願のガラスセラミックの組成は、AsもSbも含まないか、または、これらの毒性化合物の少なくとも1つを微量だけ含有する。概して、SnOが、これらの従来の清澄剤の代わりに、および、代替して存在している(以下を参照)。これらの化合物の少なくとも1つが微量で存在する場合は、不純物としてである。これは、例えば、ガラス化可能な原料投入物(=バッチ混合物)の中に、リサイクル材料(例えば、これらの化合物で清澄化した古いガラスセラミック)が存在するからである。いかなる場合も、これらの毒性化合物は、微量だけで存在しうる:As+Sb<1,000ppm。同様の記載が、ハロゲンについても当てはまる。原料としては、ハロゲンを使用しない。微量のハロゲンだけが存在しうる(1,000ppm未満)。
【0021】
本願のガラスセラミックの組成は、清澄剤としてのSnO存在下で、酸化希土類、つまり、変色剤または補償着色剤の役割を確実なものにしうるNdなどの着色剤(酸化物)も含まない。不可避な微量では存在しうるが、変色についての有効量には相当しない。
【0022】
上記SnO、(化学的)清澄剤存在下で、実現したい結果、特に最も、非常に興味深い透光性、非散乱性、および、低残留着色性を実現するために、本発明者は、独自のアプローチを提案する:
‐ 酸化希土類が存在しないという点で(上記参照)、特許文献6、および、特許文献9によるものと異なり、
‐ 本願のガラスセラミックの組成は、かなりの量のTiOを含有するという点で、特許文献10、および、特許文献11によるものと異なり、
‐ 更に、特許文献12、特許文献13、および、特許文献14によるものとも異なる。
【0023】
本願のガラスセラミックの組成は、以下を含有する:
‐ 有効量の清澄剤である略0.1から0.6%までのSnO(これに付随して、本願は、組成中に、SnOを含まないか、または、少量(<0.1%)のSnOを含有するガラスセラミックを包含することも、ここで記載しておく)。上記ガラスセラミックの前駆体ガラスを、熱によって、または、本質的に熱によって、かなり清澄化してもよい。しかしながら、熱による清澄(または、本質的に熱による清澄)は、特に産業規模では、熱および(SnOを用いた)化学的清澄より適用にかなり注意を要することを、当業者であれば知っており、したがって、本願のガラスセラミックは、概して、有効量のSnOを清澄剤として含有し、SnOの存在に伴う問題(上記参照)を有する。更に
‐ 有効量の核形成剤である、1.9より高く4%までのTiO、および、1から2.5%までのZrO(以下参照)。
【0024】
本発明者の独自のアプローチは、(特に最も、上記仕様で挙げた多数の条件について、)本質的に、1)かなりの量のLiOおよびCaOが組み合わさって、(MgO+NaO+KO)/LiOの比についての上記条件で存在すること、2)低含有量のFeが存在すること(250ppm未満)、並びに、3)小さいβ‐石英晶子が存在することに、基づいている。
【0025】
1)本発明者は、示した量のLiO、CaO、MgO、NaO、および、KOを関連させる利点を示した。
【0026】
2)Fe含有量<250ppmは、Ti−Feの相互作用を制限しうるので、着色を最小にして、透光性を最大にする。
【0027】
3)β−石英晶子が小さい平均サイズ(<40nm、好適には<35nm、および、非常に好適には<30nm)を有することは、高い透光性、低い着色性、および、低い散乱度を実現するのに有利であることも、観察された。この晶子の小さい平均サイズは、核形成の質に関係し、したがって、核形成剤、つまり、1.9より高く4質量%まで(好適には2から3質量%まで)のTiO、および、1から2.5質量%まで(好適には1.5と2質量%の間)のZrOの存在に、並びに、セラミック化熱処理に関係している。更に、清澄剤、SnO(概して存在する、上記参照)も核形成工程に関わることが知られている。
【0028】
本願のガラスセラミックが示した低い散乱度(ヘイズパーセント)について、それは、晶子サイズ、および、晶子数にも関係している。更に、核形成の質にも依存し、したがって、核形成剤の存在、および、セラミック化熱処理に依存している。
【0029】
したがって、特徴的には、本願のガラスセラミックは、以下の特性を示す:
‐ (大部分が結晶相のβ‐石英固溶体中に存在する)晶子の平均サイズが、40nm未満、好適には35nm未満、非常に好適には30nm未満である(これらの値を、特許文献5のガラスセラミックの例示的晶子について示された40〜61nmの値と、比較しうる)、更に、
‐ As、Sb、ハロゲン、および、酸化希土類を含まず、(上記質量パーセントのSiO、Al、および、LiOに加えて、)以下を含有する組成:
+ 好適には0.1から0.6質量%まで(非常に好適には、0.1から0.4質量%まで)の清澄剤としてのSnOであり、(従来の清澄剤が存在せずに、)SnOが存在することは、清澄剤の利用について有利である(上記参照)。上記SnO、(化学的)清澄剤は、核形成にも貢献する。しかしながら、ガラスセラミックの(「黄色」)着色という技術的問題について(上記参照)、更に、高温での失透の技術的問題について、それは、制限された量(≦0.6%)で介入する。ここで、本願は、組成中にSnOを含まないか、または、少量(<0.1%)のSnOを含有するガラスセラミックも包含することが想起される。上記ガラスセラミックを、熱により、または、本質的に熱により清澄化する。その非常に満足な光学特性は、困難なく実現される。非常に興味深いことに、上記仕様の他の条件も満たす。
【0030】
+ 核形成剤としてのTiOおよび、ZrOであり、TiOについては、1.9より高く4質量%まで(好適には2から3質量%まで)であり、ZrOについては、1から2.5質量%まで(好適には1.5から2質量%まで)である。ZrOが存在することで、TiOの存在を制限しうる。上記TiOが、(妥当な時間内の)核形成について実現したい効果のために適切な量で存在するが、技術的な着色の問題については、(上記のように)制限された量においてである。上記ZrOは、上記TiOの核形成についての作用を完成するが、もっと多量では、次に失透の問題を生じてしまうので介入できない。本願のガラスセラミックの組成物内で、晶子サイズ、および、セラミック化の時間について、核形成剤(TiO+ZrO)の全体量は、適切には3.8質量%より高く(>3.8%)、好適には4質量%以上(≧4%)で、非常に好適には4.2質量%以上(≧4.2%)で、更に好適には4.5質量%以上(≧4.5%)である。
【0031】
+ 0から1.5質量%まで(好適には少なくとも0.1質量%、特に好適には0.1から0.5質量%まで)の量のMgOであり、実現したい熱膨張率の興味深い値を実現するために、MgOは、好適にはCaOと、更に、NaO、および、KOと(列挙した条件を参照)介入する。1.5質量%より多く存在すると、上記熱膨張率の高すぎる値、および、黄色の着色の原因となる。
【0032】
+ 0から3質量%まで(好適には少なくとも0.1質量%、非常に好適には0.1から1.5質量%まで)のZnOである。ZnOは、高温で低い粘度を実現するために、LiOの作用を好適に強化する。光学特性、および、実現したい熱膨張率の値について、ZnOは、3質量%より多く使用されるべきではない。
【0033】
上記のように、MgO、および、ZnOは、各々独立に、好適には少なくとも0.1質量%で介入する。いかなる場合も、最小のMgO+ZnOは、少なくとも0.1質量%を示すことを、高く推奨する。
【0034】
+ CaOであり、この成分は、特に最も、実現したい熱膨張率の興味深い値について、かなりの量(0.3質量%より多く)存在し、特に最も、実現したい光学特性について、過剰には存在しない(最高で1質量%)。更に、前駆体ガラスの低い液相温度を実現するために、NaOと介入し、前駆体ガラスの高温での低い粘度を実現するために、NaO、および、KOと介入する。好適には0.4から0.7質量%までで存在する。
【0035】
+ BaO、および、SrOであり、各々、0から3質量%までの量で(好適には、各々、0.5から1.5質量%までで)存在する。SrOは、高価な製品なので、追加された原料としては、概して存在しない。そのような(SrOが、追加された原料としては存在しない)状況でSrOが存在する場合は、使用した原料の少なくとも1つの中に、または、使用したカレットの中に含まれていた不純物として、不可避な微量(<1000ppm)で加わったものである。多すぎる量のBaO、および/または、SrO(3質量%より高い)は、高い残留ガラス含有量で、黄色の着色を有するガラスセラミックを生成しうる。
【0036】
+ NaO、および、KOであり、各々、NaOについては、0から1.5質量%までの量で、KOについては、0から2質量%までの量である。これらの示した最大値を超えると、熱膨張率が高すぎて、実現したい光学特性を損なう(色および散乱の発生)。これらの要素の1つ、または、両方が存在することは必須ではないが、上記熱膨張率に関する仕様の条件ついて、0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1という条件に従うべきであることが想起される。尚、本願のガラスセラミックの低い液相温度について、NaOは、CaOとも好適に介入する。
【0037】
+ Pであり、0から3質量%までの量で、ZrOの溶解を促進するため、および、失透を制限するための製造補助製品として有益に介入する。しかしながら、光学特性を損なわせうるものであり、存在しうる量は、略1質量%より少ない量であり、いかなる場合も、3質量%までに制限される。好適な代替例によれば、本願によるガラスセラミックの組成物は、(使用した原料の少なくとも1つから、または、使用したカレットからの不純物として含まれうる明らかに不可避な微量(<1000ppm)以外には、)Pを、含まない。
【0038】
+ Feであり、250ppm未満である(好適には200ppm未満、非常に好適には180ppmで、使用した原料に鉄が存在するので、100ppm未満になるのは概して難しい)。実際、本願のガラスセラミックの組成は、概して100から200ppm未満のFeを含有する。ここで、((最小にするか、回避しようとさえされる)着色の原因である)Ti−Feの電荷移動を制限しなくてはならないと理解されてきた。その事実について、本願のガラスセラミックは、その組成中のFeを非常に低いレベルにする必要なく、非常に興味深い光学特性を有することを強調する。
【0039】
熱膨張率についての特定の条件(低いCTE25℃−[300−700℃](+3.5と−3.5×10−1の間)に関して、CaOが存在すること、および、LiO、MgO、NaO、および、KOが、0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1の条件を満たすことが理解された。この比について、0.2未満の値では、ガラスセラミックは負に大きすぎる熱膨張率(<−3.5×10−1)を有し、この比について、1より大きい値では、ガラスセラミックは高すぎる熱膨張率(>3.5×10−1)を有する。
【0040】
特定の有利な代替例によれば、本願のガラスセラミックの組成は、不可避な微量以外には、酸化ヒ素を含まず、酸化アンチモンを含まず、酸化希土類を含まず、酸化ストロンチウムを含まず、更に、酸化リンを含まず、質量パーセントで表した以下の酸化物を含有する:
64から68%までのSiO
20から24%までのAl
4より高く5%までのLiO、
0.1から0.4%までのSnO
2から3%までのTiO
1.5から2%までのZrO
0.1から0.5%までのMgO、
0.1から1.5%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0.5から1.5%までのBaO、
0から1.5%までのNaO、
0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1を満たしながら、0から2%までのKO、および、
200ppm未満のFe
【0041】
本願のガラスセラミックの組成物に入る、または、入りうる上記成分(SiO、Al、LiO、SnO、TiO、ZrO、MgO、ZnO、CaO、BaO、SrO、NaO、KO、P、および、Fe)は、本願のガラスセラミックの組成物の完全に100質量%を示してもよいが、少なくとも1つの他の化合物が少量で(3質量%以下で)、ガラスセラミックの物性に(興味深い光学特性にも、低いCTEにも)実質的に影響せずに存在することを、論理的には全く排除しうるもではない。特に、以下の化合物:Nb、Ta、WO、および、MoOが、3質量%以下の全含有量で存在し、各化合物は、2質量%以下の全含有量を有してもよい。無着色という実現したい(非常に低い黄色度を実現したい)点について、本願のガラスセラミックの原料は、Vなどの着色剤を明らかに使用していない。上記着色剤の使用禁止について、CoOを例外(1つの例外)としなくてはならない。CoOは、光学特性を最適にするために、存在(追加)してもよい。CoOは、高価でない着色酸化物であり(酸化希土類ではない)、それが、非常に少量で(≦30ppm、略≦10ppm)存在することで、既にかなり小さい黄色度を、更に改善しうる。CoOが30ppmより多く存在すると、ガラスセラミックをピンク色にし、透光性が低下する。
【0042】
したがって、本願のガラスセラミックの組成物に入る、または、入りうる上記成分(SiO、Al、LiO、SnO、TiO、ZrO、MgO、ZnO、CaO、BaO、SrO、NaO、KO、P、および、Fe)は、本願のガラスセラミックの組成物の少なくとも97質量%、更に、少なくとも98質量%、更に、少なくとも99質量%、または、更に100質量%を示してもよい(上記参照)。
【0043】
全ての実用的な目的のためには、本願のガラスセラミックは、アルミノケイ酸リチウム(LAS)型であり、β‐石英固溶体を、主結晶相として含むことが想起される。上記β‐石英固溶体は、結晶化した部分全体の80質量%より高くを示す。実際、上記β‐石英固溶体は、概して、上記結晶化した部分全体の90質量%より高くを示す。上記ガラスセラミックの組成は、不可避な微量以外には、As、Sb、および、酸化希土類(更に、ハロゲンも)含まない。
【0044】
したがって、本願のガラスセラミックは、この仕様の上記異なる条件を十分に満足する。本願の上記ガラスセラミック(その前駆体ガラスを、有効量のSnOで好適に清澄化したもの)は、透明で、本質的に無色で、非散乱性なので、以下の想起した光学特性を有する:
‐ 厚さ5mmについて、81%より高い、好適には84%より高い全光線透過率であり、このパラメータ(%で表したTL)は、透明性を定量化する。それは、当業者に知られている。それは、ASTM D1003−13規格に基づいて定義されている。標準全光線透過率測定は、380〜780nmのスペクトルの範囲を網羅する。
【0045】
‐ 厚さ5mmについて、14未満、好適には12未満(更に、非常に好適には10未満)の黄色度である。この当業者に知られたパラメータ(YI)は、残留黄色着色の強さを定量化する。この指標の14未満の値は、非常に低い残留着色を有するガラスセラミックの特徴を表す。この指標を計算する当業者に知られた式は、以下の通りである:
YIASTMD1925=[100×(1.28X−1.06Z)]/Y、但し、X、Y、および、Zは、CIEのC光源、および、2°の観察者について計算した、試料の三刺激値の座標を示す。更に、
‐ (散乱度を測定する)ヘイズパーセントは、厚さ5mmについて、2.5%未満、好適には1.5%である。散乱が低いほど、材料の外観(したがって、光学的品質)が良いと理解される。ヘイズは、以下のように計算される:
ヘイズ(%)=(Tdiffuse/Ttotal)×100であり、Tdiffuseは、拡散透過率(%)、Ttotalは、全透過率(%)である。ヘイズを、(積分球を用いて)ASTM D1003−13規格に基づいて測定する。これは、当業者に知られている。当業者は、または平均的な証人でさえ、いかなる場合でも、いかに裸眼で、材料の拡散または非拡散性を評価するかを知っている。
【0046】
更に、本願のガラスセラミックは、低い熱膨張率(CTE)、より詳しくは、+3.5と−3.5×10−1の間である、25℃と、300と700℃の間の任意の温度との間の熱膨張率(CTE25℃−[300−700℃])を有する。
【0047】
この点で、本願のガラスセラミックは、特に興味深い。更に、前駆体ガラスの物性(上記および下記参照)を考慮すると、取得の容易さが想起される(上記参照)。
【0048】
第2の目的によれば、本願は、少なくとも部分的、好適には全体が、上記のような本願のガラスセラミックで構成された物品に関する。上記物品は、好適には、本願のガラスセラミックで全て構成される。特に、上記物品は、煙突窓、煙突挿入装置、ストーブおよび炉、特に熱分解または触媒作用炉、調理用コンロ(誘導加熱用で、着色された下層を有し、それが完全に見えるのが望ましい)、遮蔽物、または、耐火性ガラス(特に、ドアまたは窓に一体にされるか、若しくは、間仕切りとして使用される)を構成してもよい。確かに、本願のガラスセラミックを、光学特性、および、有利な熱膨張性が適切な状況で使用することが、論理的に完全に理解される。
【0049】
第3の目的によれば、本願は、上記のような、本願のガラスセラミックの前駆体である、アルミノケイ酸リチウム(LAS)ガラスに関する。上記ガラスは、特徴的には、上記ガラスセラミックを取得しうる組成を有する。上記ガラスは、概して、上記ガラスセラミックの組成に対応する組成を有するが、当業者は、ガラスセラミックを取得するためにガラスに課せられる熱処理が材料の組成に何らかの影響を与えると完全に分かり、その範囲において、完全に一致するものではない。
【0050】
有利な変形例によれば、
‐ 上記ガラスの組成は、少なくとも0.1%のZnO、好適には、0.1から1.5%までのZnOを含有する、および/または、
‐ 上記ガラスの組成は、1%未満のPを含有し、上記ガラスの組成は、好適には、不可避な微量以外には、Pを含有しない。
【0051】
上記ガラスは、ロールおよびフロートによる形成方法の利用に適合する、興味深い失透物性に加え、有利な高温での粘度(低い粘度)を有する点で、特に興味深い。上記のように、上記ガラスは、低い高温での粘度(T@30Pa.s<1,640℃)、低い液相温度(<1,400℃)、および、高い液相粘度(>300Pa.s)を有することが分かった。更に、短時間(3時間未満)のセラミック化サイクルを適用して、本願の上記前駆体ガラスから本願のガラスセラミックを取得しうる。本願のガラスを、その組成物に(適切な割合で)入れられる原材料を溶融することによって、従来の方法で取得する。
【0052】
第4および第5の目的によれば、本願は、各々、本願の上記ガラスセラミックの生成方法、および、本願のガラスセラミックで少なくとも部分的に構成された物品の生成方法に関する。
【0053】
上記方法は、類似している。
【0054】
従来から、ガラスセラミックの上記生成方法は、好適には清澄剤としてSnOを含有するガラス化可能な原料のバッチ混合物の熱処理を含み、それは、溶融と、清澄(熱による清澄(SnO=0)、(または、本質的に熱による清澄(SnO<0.1%))、好適には、熱による、および、化学的清澄(SnO≧0.1%))と、第1の核形成工程および第2の結晶成長工程による結晶セラミック化とが連続して確実に行われる条件下で行われる。清澄化したガラス(ガラスセラミックの前駆体)取得工程、および、清澄化したガラスをセラミック化する工程の両方の連続した工程を、互いに続けて、または、時間をずらして(同じ場所で、または、異なる場所で)行ってもよい。
【0055】
特徴的には、ガラス化可能な(=ガラス化できる)原料のバッチ混合物は、本願のガラスセラミックを取得しうる上記質量組成を有し、上記セラミック化が行われる:
‐ 650と850℃の温度の間で、15分間から4時間までの核形成工程、および、
‐ 860と950℃の温度の間で、10分間から2時間までの結晶成長工程。
【0056】
上記条件で、示した組成を有するガラスに行われるセラミック化は、特に、β‐石英晶子サイズについて、期待通りの結果を生じる。
【0057】
本願の範囲において、ガラスセラミックの光学特性の最適化は、投入物の正確な組成、および、セラミック化サイクルのパラメータに作用することによって実現しうる。
【0058】
従来から、物品の上記生成方法は、連続して以下の工程を含む:
‐ ガラス化可能な(=ガラス化できる)原料のバッチ混合物を溶融する工程であり、そのバッチ混合物は、好適には、SnOを清澄剤として含有し、取得した溶融ガラスの清澄工程(熱による清澄(SnO=0)、(または、本質的に熱による清澄(SnO<0.1%))、好適には、熱による、および、化学的清澄(SnO≧0.1%))が続く、
‐ 取得した清澄化した溶融ガラスを冷却し、同時に、目標とする物品の望ましい形状に形成する工程、
‐ 上記形成したガラスをセラミック化するための熱処理であり、熱処理は、第1の核形成工程、および、第2の結晶成長工程を含む。
【0059】
これらの清澄化して形成されたガラス(ガラスセラミックの物品の前駆体)取得工程、および、清澄化して形成されたガラスをセラミックする工程の連続した工程の両方を、互いに続けて、または、時間をずらして(同じ場所で、または、異なる場所で)行ってもよい。
【0060】
特徴的には、ガラス化可能な(=ガラス化できる)原料の投入物は、本願のガラスセラミックを取得しうる上記質量組成を有し、上記セラミック化熱処理が行われる:
‐ 650と850℃の温度の間で、15分間から4時間までの核形成工程、および、
‐ 860と950℃の温度の間で、10分間から2時間までの結晶成長工程。
【0061】
上記条件で、示した組成を有するガラスに行われるセラミック化は、特に、β‐石英晶子サイズについて、期待通りの結果を生じる。
【0062】
本願の範囲において、ガラスセラミックの光学特性の最適化は、投入物の組成、および、セラミック化サイクルのパラメータに作用することによって実現しうる。
【0063】
ここで、付随して、方法は有効量のSnOを使用しても、使用しなくてもよいことが想起される。SnOについての有効量(0.1〜0.6%、上記参照)を、好適に使用する。
【0064】
示したセラミック化サイクルについての概略を、以下のように記載しうる。
【0065】
上記のような特徴を有するセラミック化熱処理は、核形成(少なくとも650℃で行う核形成)、および、β‐石英固溶体を主結晶相として含有するガラスセラミックの取得(950℃を越えない温度で結晶成長を行う工程)を確実に行う。
【0066】
核形成温度間隔が適切でない(つまり、650〜850℃の範囲外の)場合、または、この間隔での時間が短すぎる(15分未満の)場合、不十分な数のシードが形成されて、次に、材料が拡散する傾向がある。
【0067】
更に、成長温度が低すぎる(860℃未満の)場合、取得したガラスセラミックは、大きな散乱性を有する傾向があり、逆に、成長温度が高すぎる(つまり、>950℃の)場合には、取得したガラスセラミックは、不透明になる傾向がある。
【0068】
尚、フロート法により形成した前駆体ガラスから、本願のガラスセラミックを取得することを排除するものではない。しかしながら、フロートガラス法(フローティング)は、通常、大量生産で行われると共に、製造されるガラスセラミックの透光性を損ないうるので、好ましくない。本発明者は、ロール法など、他の形成方法を推奨する。
【0069】
ここで、以下の例を用いて、本願を説明する。
【0070】
添付の図1は、従来のガラスセラミック(以下、比較例Aのガラスセラミック(=特許文献12によるガラスセラミック)))、および、本願のガラスセラミック(以下、実施例2)の25(℃)と温度T(℃)の間の熱膨張率(CTE)の、温度(T)に対する変化を示す。2つの曲線を検討すると、本願の利点が分かる:
‐ 例Aのガラスセラミックは、実現したい範囲の25と700℃の間のCTE(CTE25℃−700℃=−2.1×10−7−1)を有するが、25と300℃の間のCTE(CTE25℃−300℃=−6.2×10−7−1)は、低すぎる。
【0071】
‐ 実施例2のガラスセラミックは、適切なCTE(CTE25℃−700℃=1.2×10−7−1、および、CTE25℃−300℃=−2.6×10−7−1)を有する。
【0072】
以下の表1−Aおよび1−Bは、本願のガラスセラミックが、CTE25℃−700℃、および、CTE25℃−300℃の適切な値を有することを示している。これは、組成を綿密に制御したことに因るものであり、異なる構成要素(特に、LiO、CaO、MgO、NaO、および、KOが関わる)の量を組み合わせた効果に因るものである。
【実施例】
【0073】
1kgの前駆体ガラスのバッチを製造するために、以下の表1(表1−Aおよび表1−B)、並びに、表2(表2−Aおよび表2−B)の最初の部分に記録した割合(酸化物で示した割合)で、原料を注意深く混合した。
【0074】
混合物を溶融するために、白金の坩堝に入れた。次に、これらの混合物を含む坩堝を、1,550℃に予熱した炉に入れた。そこで、以下のような溶融サイクルを行った:
‐ 1,550℃から1,670℃まで、1時間で昇温させた。
【0075】
‐ 1,670℃で、5時間30分維持した。
【0076】
次に、坩堝を炉から取り出して、溶融ガラスを、予熱した鋼板上に注いだ。厚さ6mmで表面に積層した。それによって、ガラス板を取得した。それらを、650℃で1時間、アニーリングして、次に、ゆっくりと冷却した。
【0077】
取得したガラスの物性を、以下の表1(表1−Aおよび表1−B)、並びに、表2(表2−Aおよび表2−B)の第2の部分に示した。
【0078】
粘度を、回転粘度計(Gero)を用いて計測した。
【0079】
30Pa.s(℃)は、ガラスの粘度が30Pa.sの温度に対応する。
【0080】
liq(℃)は、液相温度に対応する。実際、液相温度は、関連付けられた温度と粘度の範囲で示され、その最高温度は、結晶が観察されない最低温度に対応し、その最低温度は、結晶が観察される最高温度に対応する。
【0081】
失透性(低い、および、高い液相温度)を、以下のように決定した。ガラス試料(0.5cm)に、以下の熱処理を行った:
‐ 1,430℃に予熱した炉に入れる工程、
‐ この温度で30分間維持する工程、
‐ 10℃/分の速度で、試験温度Tまで冷却する工程、
‐ この温度で、17時間維持する工程、および、
‐ 試料を急冷する工程。
【0082】
結晶が存在するかを、光学顕微鏡で観察した。
【0083】
行ったセラミック化サイクルを、以下に具体的に示す:
‐ 30℃/分の加熱速度で、室温(25℃)から650℃まで、昇温させる工程、
‐ 650℃から820℃まで、40分以内に(4.3℃/分の速度で)、昇温させる工程、
‐ 820℃から900℃まで、17分以内に(4.7℃/分の速度で)、昇温させる工程、
‐ この温度900℃で、15分間維持する工程、および
‐ 炉の余熱中で、降温させる工程。
【0084】
取得したガラスセラミックの物性を、以下の表1(表1−Aおよび表1−B)、並びに、表2(表2−Aおよび表2−B)の最後の部分に示した。
【0085】
全光線透過率、および、拡散透過率を、5分間、一体化した球を備えたVarian分光計(Cary500Scanモデル)を使用して測定した。これらの測定結果から、光線透過率(TL%)、および、散乱度(Haze%)を、ASTM D1003−13規格(光源Cを用いて、2°で観察)に基づいて測定した。実施例3および6のガラスセラミックについて、厚さ4mmの試料の測定も行った。その取得した結果を、各々、表1−A、および、表1−Bに、括弧付きで示した。
【0086】
黄色度(YI)を、光源Cを用いて、ASTM D1925規格により、透過率の測定結果(色の点)に基づいて計算した。
【0087】
β−石英の平均サイズに加え、(結晶化した部分全体に対する)β−石英相パーセントを、X線回折スペクトルのリートベルト精密分析を用いて取得した。括弧付き数字は、結晶の平均サイズをナノメータで表したものである。
【0088】
CTE(熱膨張率)(室温(25℃)と300℃の間=CTE25℃−300℃、および、室温(25℃)と700℃の間=CTE25℃−700℃)を、ロッド形状のガラスセラミック試料に対し、加熱速度3℃/分で、高温膨張計(DIL 402C、Netzsch)を使用して測定した。
【0089】
実施例1から9(表1−Aおよび1−B)は、本願を示している。実施例3が好ましい。実施例3、7、8、および、9は、同様の組成のガラスおよびガラスセラミックに関し、異なる鉄含有量(各々、140ppm、100ppm、170ppm、および、220ppmのFe)を含む。鉄は、本質的に当該ガラスセラミックの光学特性に作用する(セラミック化にも、熱膨張率にも作用しない)。実施例9のガラスセラミックの光学特性は、興味深いままである。
【0090】
例AからE(表2−Aおよび2−B)は、比較例である。
【0091】
比較例Aは、特許文献12のガラスセラミックに対応する。このガラスセラミックの組成は、CaOを含有せず、本願のガラスセラミックの組成について要求される条件、0.2≦(MgO+KO+NaO)/LiO≦1も満たさない。このガラスセラミックは、負に大きすぎるCTE25℃−300℃の値を有する。
【0092】
比較例Bのガラスセラミックの組成は、3.55%だけのLiOを含有する。ガラス(そのガラスセラミックの前駆体)の30Pa.sの粘度に対する温度は高い。
【0093】
比較例Cのガラスセラミックの組成は、63%未満のSiO、および4.81%のZnOを含有し、ガラス(そのガラスセラミックの前駆体)の30Pa.sの粘度に対する温度は、わずか1,573℃であるが、ガラスセラミックは黄色を有する。4.81%のZnOを含有する組成は、CaO、MgO、KO、NaOのどれも含有せず、ガラスセラミックのCTE25℃−700℃、および、CTE25℃−300℃の値は、満足しうるものではない。
【0094】
比較例Dのガラスセラミックの組成は、本願のガラスセラミックの組成と、要求される条件、0.2≦(MgO+KO+NaO)/LiO≦1を満たさないという点においてのみ異なる。確かに、この組成によれば、(MgO+KO+NaO)/LiO=0.142である。ガラスセラミックのCTE25℃−300℃の値は、低すぎる。
【0095】
比較例Eのガラスセラミックの組成は、MgOの含有量が多すぎる。このガラスセラミックは、興味深いCTE値も、光学特性も有さない。
【0096】
【表1A】
【0097】
【表1B】
【0098】
【表2A】
【0099】
【表2B】
【0100】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0101】
実施形態1
アルミノケイ酸リチウム型ガラスセラミックにおいて、
β‐石英固溶体を主結晶相として含み、
前記ガラスセラミックの組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、および、酸化希土類を、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から70%までのSiO
18から24%までのAl
4から5%までのLiO、
0から0.6%までのSnO
1.9より高く4%までのTiO
1から2.5%までのZrO
0から1.5%までのMgO、
0から3%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0から3%までのBaO、
BaO+SrO≦3%を満たしながら、0から3%までのSrO、
0から1.5%までのNaO、
0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1を満たしながら、0から2%までのKO、
0から3%までのP、および、
250ppm未満のFeを、
含有し、
前記β‐石英固溶体中に存在する晶子が、40nm未満、好適には35nm未満、非常に好適には30nmの平均サイズを有するものである、ガラスセラミック。
【0102】
実施形態2
前記組成が、0.1から0.6%までのSnO、好適には0.1から0.4%までのSnOを含有する、実施形態1に記載のガラスセラミック。
【0103】
実施形態3
前記組成が、4%より高いLiOを含有する、実施形態1または2に記載のガラスセラミック。
【0104】
実施形態4
前記組成が、2から3%までのTiOを含有する、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0105】
実施形態5
前記組成が、少なくとも0.1%のMgO、および/または、ZnOを含有する、実施形態1から4のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0106】
実施形態6
前記組成が、少なくとも0.1%のZnO、好適には0.1から1.5%までのZnOを含有する、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0107】
実施形態7
前記組成が、1%未満のPを含有し、該組成は、好適には、不可避な微量以外にはPを含有しない、実施形態1から6のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0108】
実施形態8
前記組成は、酸化ヒ素、酸化アンチモン、酸化希土類、酸化ストロンチウム、および、酸化リンを、不可避な微量以外には含まず、質量パーセントで表した酸化物:
64から68%までのSiO
20から24%までのAl
4より高く5%までのLiO、
0.1から0.4%までのSnO
2から3%までのTiO
1.5から2%までのZrO
0.1から0.5%までのMgO、
0.1から1.5%までのZnO、
0.3より高く1%までのCaO、
0.5から1.5%までのBaO、
0から1.5%までのNaO、
0.2≦(MgO+NaO+KO)/LiO≦1を満たしながら、0から2%までのKO、および、
200ppm未満のFe
含有する、実施形態1から7のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0109】
実施形態9
厚さ5mmについて、81%より高い、好適には84%より高い全光線透過率、厚さ5mmについて、14未満、好適には12未満の黄色度、および、厚さ5mmについて、2.5%未満、好適には1.5%未満のヘイズパーセント、並びに、
+3.5と−3.5×10−1の間である、25℃と、300と700℃の間の任意の温度との間の熱膨張係数(CTE25℃−[300−700℃])、
を有する、実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラスセラミック。
【0110】
実施形態10
物品において、
少なくとも部分的に、好適には全体的に、実施形態1から9のいずれか1つに記載の前記ガラスセラミックから構成され、
特に、煙突窓、暖炉挿入装置、ストーブまたは炉の窓、調理用コンロ、遮蔽物、および、耐火性ガラスを構成する、物品。
【0111】
実施形態11
アルミノケイ酸リチウムガラスにおいて、
実施形態1から9のいずれか1つに記載の前記ガラスセラミックの前駆体であって、
前記アルミノケイ酸リチウムガラスの組成は、実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミックの取得を可能にするものである、アルミノケイ酸リチウムガラス。
【0112】
実施形態12
前記組成が、少なくとも0.1%のZnO、好適には0.1から1.5%までのZnOを含有する、実施形態11に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【0113】
実施形態13
前記組成が、1%未満のPを含有し、該組成は、好適には、不可避な微量以外にはPを含有しない、実施形態11または12に記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【0114】
実施形態14
1,640℃未満で30Pa.sの粘度(T@30Pa.s<1,640℃)、1,400℃未満の液相温度、および、300Pa.sより高い液相粘度を有する、実施形態11から13のいずれか1つに記載のアルミノケイ酸リチウムガラス。
【0115】
実施形態15
実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミックを生成する方法において、
溶融と、清澄と、第1の核形成工程および第2の結晶成長工程によるセラミック化とが連続して確実に行われる条件下で、ガラス化可能な原料のバッチ混合物の熱処理工程を、
含み、
前記バッチ混合物は、実施形態1から8のいずれか1つに記載の質量組成を有するガラスセラミックを取得しうる組成を有し、
上記セラミック化が、
‐ 前記核形成工程については、650と850℃の間の温度で、15分間から4時間で、および、
‐ 前記結晶成長工程については、860と950℃の間の温度で、10分間から2時間で、
行われるものである、方法。
【0116】
実施形態16
実施形態10に記載の物品を実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミックから生成する方法において、
前記方法は連続して、
‐ ガラス化可能な原料のバッチ混合物を溶融する工程、次に、取得した前記溶融ガラスを清澄する工程と、
‐ 取得した前記清澄した溶融ガラスを冷却し、同時に、該溶融ガラスを、目標とする物品の望ましい形状に形成する工程と、
‐ 第1の核形成工程、および、第2の結晶成長工程を含む、上記形成したガラスをセラミック化するための熱処理工程と、
を含み、
前記バッチ混合物は、実施形態1から8のいずれか1つに記載の質量組成を有するガラスセラミックを取得しうる組成を有し、
前記熱処理が、
‐ 核形成工程については、650と850℃の間の温度で、15分間から4時間で、および、
‐ 結晶成長工程については860と950℃の間の温度で、10分間から2時間で、
行われるものである方法。
【0117】
実施形態17
ガラス化可能な原料の前記バッチ混合物が、清澄剤として、SnOを含有する、実施形態15または16に記載の方法。
図1