特許第6847904号(P6847904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6847904逐次型A/D変換回路及び逐次型A/D変換方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6847904
(24)【登録日】2021年3月5日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】逐次型A/D変換回路及び逐次型A/D変換方法
(51)【国際特許分類】
   H03M 1/38 20060101AFI20210315BHJP
【FI】
   H03M1/38
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-194546(P2018-194546)
(22)【出願日】2018年10月15日
(65)【公開番号】特開2020-65119(P2020-65119A)
(43)【公開日】2020年4月23日
【審査請求日】2019年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】391016358
【氏名又は名称】東芝情報システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100074147
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】菅原 悠平
【審査官】 及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−088171(JP,A)
【文献】 特開2010−045723(JP,A)
【文献】 特開2014−143639(JP,A)
【文献】 特開2012−227775(JP,A)
【文献】 特開2008−263318(JP,A)
【文献】 特開2009−105578(JP,A)
【文献】 特開2017−055276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M 1/00−1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A/D変換のビットを少なくとも上位ビットと下位ビットに分けて結果を得る逐次型A/D変換回路において、
A/D変換対象のアナログ入力信号をサンプリングして蓄積するための第1のコンデンサであって、上位ビットのA/D変換に用いる第1のコンデンサと、
A/D変換対象のアナログ入力信号をサンプリングして蓄積するための第2のコンデンサであって、下位ビットのA/D変換に用いる第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサに蓄積された電位を用いてA/D変換を行う第1のA/D変換部と、
前記第2のコンデンサに蓄積された電位を用いてA/D変換を行う第2のA/D変換部と、
前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとで、同時にサンプリングを開始させた後、前記第1のコンデンサのサンプリングを前記第2のコンデンサのサンプリングに先行して停止し、前記下位ビットのA/D変換に先行して前記上位ビットのA/D変換を行い、前記上位ビットのA/D変換が終了すると前記下位ビットのA/D変換を行う制御を行う指定制御部とを具備し、
前記指定制御部によって前記上位ビットのA/D変換に用いる前記第1のコンデンサが指定されると、前記第1のA/D変換部がA/D変換を行い、通常はA/D変換の結果であるディジタル値を、あるいは最上位ビットの変換における中央値近傍に前記アナログ入力信号の値がある場合には、比較の結果をA/D変換の情報として、次にA/D変換を行う前記第2のA/D変換部へ送ると共に、
最上位ビットから所定の範囲の上位ビットを得る場合のみに、前記第1のA/D変換部の比較器において閾値に誤判定許容範囲を持たせて比較を行う冗長型の処理方式により比較を行うことを特徴とする
逐次型A/D変換回路。
【請求項2】
前記第1のA/D変換部は、前記第1のコンデンサの電位と閾値を比較する第1の比較器と、前記第1の比較器の比較結果に基づきA/D変換のビット値を得る第1の演算回路と、を具備し、
前記第2のA/D変換部は、前記第2のコンデンサの電位と閾値を比較する第2の比較器と、前記第2の比較器の比較結果に基づきA/D変換のビット値を得る第2の演算回路と、を具備する
ことを特徴とする請求項1に記載の逐次型A/D変換回路。
【請求項3】
A/D変換のビットを少なくとも上位ビットと下位ビットに分け、A/D変換対象のアナログ入力信号をサンプリングして蓄積するための第1のコンデンサであって、上位ビットのA/D変換に用いる第1のコンデンサと、A/D変換対象のアナログ入力信号をサンプリングして蓄積するための第2のコンデンサであって、下位ビットのA/D変換に用いる第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサに蓄積された電位を用いてA/D変換を行う第1のA/D変換部と、前記第2のコンデンサに蓄積された電位を用いてA/D変換を行う第2のA/D変換部と、を用いて結果を得る逐次型A/D変換方法において、
前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとで、同時にサンプリングを開始させた後、前記第1のコンデンサのサンプリングを前記第2のコンデンサのサンプリングに先行して停止し、前記下位ビットのA/D変換に先行して前記第1のA/D変換部において上位ビットのA/D変換を行い、前記上位ビットのA/D変換が終了すると前記下位ビットのA/D変換を行う制御を行い、
前記制御によって前記上位ビットのA/D変換に用いる前記第1のコンデンサが指定されると、前記第1のA/D変換部がA/D変換を行い、通常はA/D変換の結果であるディジタル値を、あるいは最上位ビットの変換における中央値近傍に前記アナログ入力信号の値がある場合には、比較の結果をA/D変換の情報として、次にA/D変換を行う前記第2のA/D変換部へ送ると共に、
最上位ビットから所定の範囲の上位ビットを得る場合のみに、前記第1のA/D変換部の比較器において閾値に誤判定許容範囲を持たせて比較を行う冗長型の処理方式により比較を行うことを特徴とする逐次型A/D変換方法。
【請求項4】
前記第1のA/D変換部では、第1の比較器により、前記第1のコンデンサの電位と閾値を比較し、第1の演算回路により、前記第1の比較器の比較結果に基づきA/D変換のビット値を得るようにし、
前記第2のA/D変換部では、第2の比較器により、前記第2のコンデンサの電位と閾値を比較し、第2の演算回路により、前記第2の比較器の比較結果に基づきA/D変換のビット値を得る
ことを特徴とする請求項3に記載の逐次型A/D変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、逐次型A/D変換回路及び逐次型A/D変換方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の逐次型A/D変換回路としては、ディジタル化したビット桁の最大値と最小値の中央値を閾値とする2分法により、閾値と入力アナログ信号との比較を行い、上位ビット側からディジタル変換を行うものが知られている。しかしながら、閾値を1つの値とすると、例えば閾値に近い入力信号に対しては誤差による変換エラーが生じる。特に、上位ビットにおいて変換エラーが生じるとA/D変換結果が実際の値から大きく外れた値となり、使い物にならないことになる。
【0003】
そこで、従来においては、非2進検索アルゴリズムによるSDR ADCとして紹介されている手法が知られている(非特許文献1)。この手法では、A/D変換の各ビットの比較の閾値に誤判定許容範囲を持たせてあり、例えば24(16)のA/D変換に通常は4ステップであるが、これに補正の1ステップを加えた5ステップでA/D変換を行うものである。しかしながら、この手法では補正の処理が必要であり、時間を要するという問題がある。
【0004】
特許文献1には、上位ビットと下位ビットを分けてA/D変換を行うものが開示されている。即ち、この特許文献1の発明では、所定ビットを上位ビットと下位ビットとに分け、上位ビットは逐次比較によりA/D変換を行い、下位ビットは上位ビットの変換で得られた残差電圧を一定量で変化させて所定値になるまでの時間を計測することにより変換を行う。この発明では、探索範囲が狭く精度が必要な下位ビットを異なる制御方法で処理を行うため、一般的な手法に比べて回路構成の簡素化、高速化、消費電力の低減を期待できるというものである。
【0005】
また、特許文献2には、Nビットの分解能をもつ第一のD/A変換部と、2の冪乗でほぼN/2の分解能を有する第二のD/A変換部と、複数個のサンプリングホールドアンプ回路を有するA/D変換器が開示されている。この発明によれば、2種類のD/A変換部を有しパイプライン動作させることで、高速変換が可能であり、且つ回路規模を縮小することができるというものである。
【0006】
また、特許文献3には、アナログ入力信号をディジタル化したディジタル出力信号を出力するAD変換器であって、上記ディジタル出力信号の上位ビットから下位ビットへと順番に変換対象ビットを選択するビット選択部と、変換対象ビットの0および1の境界値を表す閾値データを、変換対象ビットより上位のビットの決定済みの値に基づいて決定する閾値制御部と、閾値データをDA変換してアナログ閾値を生成するDA変換部と、変換対象ビットの値を決定する変換期間中における異なる複数のタイミングで、アナログ入力信号とアナログ閾値とを比較し、それぞれのタイミングにおいて比較された複数の比較結果を出力する比較部と、複数の比較結果に基づき変換対象ビットの値を決定するビット決定部とを備えるAD変換器が開示されている。
【0007】
上記の特許文献3の発明において、複数の比較結果に基づき変換対象ビットの値を決定する場合には、複数の変換結果の多数決をとる処理が開示されている。
【0008】
更に、特許文献4には、消費電力及び回路面積を抑制し、高速化を図るA/D変換器が開示されている。このA/D変換器は、3つのコンデンサを比較器に接続し、3つの異なる参照電圧を上記3つのコンデンサにそれぞれ入力する3つの切り替え回路を設け、各コンデンサの浮遊容量のチャージ期間においては3つの切り替え回路のうち少なくとも2つの切り替え回路を選択し、その選択した切り替え回路のスイッチング素子のいずれか1つを同時にオンさせ、比較器による比較期間においては、3つのコンデンサのうちいずれか1つを一回の比較動作時に選択させ、次回の比較動作では異なるコンデンサを選択するものである。
【0009】
この特許文献4の発明によれば、コンデンサの2つに参照電圧をチャージし、残りの1つに入力アナログ信号をチャージして、これらを比較してA/D変換を行うので、上記のように消費電力及び回路面積を抑制し、高速化を図ることができるというものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】小川 智彦、外5名、“冗長アルゴリズム逐次比較近似ADCでのコンパレータ・オフセットのデジタル補正技術”、[online]、2009年12月15日(火)、電子情報通信学会 集積回路研究会、静岡大学、[平成30年10月15日検索]、インターネット<URL:http://kobaweb.ei.st.gunma-u.ac.jp/news/pdf/2009/2009sizuoka.pdf>
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−251700号公報
【特許文献2】特開平4−77118号公報
【特許文献3】国際公開第2008/032694号
【特許文献4】特開2010−16466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の特許文献に記載の技術は、コンデンサのチャージにより入力信号の電位が確定するまでのサンプリング期間(時間)を待つことは当然であり、時間短縮には限界があるものであった。
【0013】
本発明は、上記のような従来のA/D変換回路の現状に鑑みなされたもので、その目的は、高精度でありながら、現状よりも更に高速な処理を実現することのできる逐次型A/D変換回路及び逐次型A/D変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態に係る逐次型A/D変換回路は、A/D変換のビットを少なくとも上位ビットと下位ビットに分けて結果を得る逐次型A/D変換回路において、A/D変換対象のアナログ入力信号をサンプリングして蓄積するための第1のコンデンサであって、上位ビットのA/D変換に用いる第1のコンデンサと、A/D変換対象のアナログ入力信号をサンプリングして蓄積するための第2のコンデンサであって、下位ビットのA/D変換に用いる第2のコンデンサと、前記第1のコンデンサに蓄積された電位を用いてA/D変換を行う第1のA/D変換部と、前記第2のコンデンサに蓄積された電位を用いてA/D変換を行う第2のA/D変換部と、前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとで、同時にサンプリングを開始させた後、前記第1のコンデンサのサンプリングを前記第2のコンデンサのサンプリングに先行して停止し、前記下位ビットのA/D変換に先行して前記上位ビットのA/D変換を行い、前記上位ビットのA/D変換が終了すると前記下位ビットのA/D変換を行う制御を行う指定制御部とを具備し、前記指定制御部によって前記上位ビットのA/D変換に用いる前記第1のコンデンサが指定されると、前記第1のA/D変換部がA/D変換を行い、通常はA/D変換の結果であるディジタル値あるいは最上位ビットの変換における中央値近傍に前記アナログ入力信号の値がある場合には、比較の結果をA/D変換の情報として、次にA/D変換を行う前記第2のA/D変換部へ送ると共に、最上位ビットから所定の範囲の上位ビットを得る場合のみに、前記第1のA/D変換部の比較器において閾値に誤判定許容範囲を持たせて比較を行う冗長型の処理方式により比較を行うことを特徴とする

【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1の実施形態に係る逐次型A/D変換回路の構成図。
図2】本実施形態に係る逐次型A/D変換回路によるサンプリング時間の説明図。
図3】第1の実施形態に係る逐次型A/D変換回路の処理手順を示すフローチャート。
図4】第2の実施形態に係る逐次型A/D変換回路の構成図。
図5】第2の実施形態に係る逐次型A/D変換回路の処理手順を示すフローチャート。
図6】本実施形態と従来例の処理時間の対比を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下添付図面を参照して、本発明に係る逐次型A/D変換回路の実施形態を説明する。各図において、同一の構成要素には同一の符号を付して重複する説明を省略する。図1に、第1の実施形態に係る逐次型A/D変換回路のブロック図を示す。本実施形態に係る逐次型A/D変換回路10の前段には、フィルタ20が接続され、更に、フィルタ20の前段にはバッファ回路30が接続される。バッファ回路30の入力側に接続された入力端子40からA/D変換対象のアナログ入力信号VINが入力される。
【0017】
バッファ回路30は、アナログ入力信号VINをそのまま逐次型A/D変換回路10へ入力すると、サンプリングホールド時に入力インピーダンスが瞬時的に低下する場合などへの対策として設けられる。また、フィルタ20は、折り返し雑音を除去するためのフィルタであり、アナログ信号の段階でナイキスト周波数を超える周波数成分を除去するために設けられる。
【0018】
逐次型A/D変換回路10には、2つのコンデンサC1、C2と、A/D変換部50と、指定制御部60とが備えられている。本実施形態において指定制御部60は、A/D変換部50内に設けているが、A/D変換部50の外であっても良い。A/D変換部50には、コンデンサC1、C2の電位と閾値を比較する比較器51と、上記比較器51の比較結果に基づきA/D変換のビット値を得る演算回路52とが備えられている。
【0019】
上記の指定制御部60は、各コンデンサ毎に異なって定められた終了値ビットの値に応じてそれぞれのコンデンサでサンプリングを行わせると共に、終了値が最も少ないコンデンサから指定をして上記A/D変換部50にA/D変換を行わせ、指定したコンデンサについて終了値となる毎に、次に終了値が少ないコンデンサを指定して上記A/D変換部50にA/D変換を行わせる処理を行うものである。
【0020】
本実施形態では、コンデンサはC1とC2の2つであるから、例えば最上位ビットが8ビットであるとすると、コンデンサC1は最上位ビットから3ビット目(終了値ビット)までのA/D変換に用い、コンデンサC2は4ビット目から8ビット目(終了値ビット)までのA/D変換に用いるというように終了値ビットが定められている場合を考える。この場合には、図2に示されるように、コンデンサC2に高精度でA/D変換を行うことが可能な量(電位)のチャージは所定時間TFまで行われる必要があるものとする。一方、最上位ビットから3ビット目までのA/D変換に用いるコンデンサC1には、最上位ビットから3ビット目までのA/D変換を行うために必要十分な電荷がコンデンサC1に蓄積されていれば良いので、この時間としてT1までコンデンサC1にサンプリングを行わせる。従って、コンデンサを3つ以上用いる場合には、各コンデンサに定められた終了値ビットの値に応じてそれぞれのコンデンサでサンプリングを行わせることになる。
【0021】
更に、指定制御部60は、終了値が最も少ないコンデンサから指定をして上記A/D変換部50にA/D変換を行わせ、指定したコンデンサについて終了値となる毎に、次に終了値が少ないコンデンサを指定して上記A/D変換部50にA/D変換を行わせる。
【0022】
本実施形態では、コンデンサはC1、C2の2つであるから、例えば、まず、コンデンサC1の電位に対して終了値(3ビット目)までのA/D変換を行い、終了値が次に少ないコンデンサC2を指定して上記A/D変換部50にA/D変換を行わせる。コンデンサが3つ以上である場合も同様である。
【0023】
上記A/D変換部50は、最上位ビットから所定の範囲の上位ビットを得る場合に、先に非特許文献1に紹介されている、非2進検索アルゴリズムによるSDR ADCの手法(冗長型の処理方式という)を用いるものとする。
【0024】
所定範囲の上位ビットのA/D変換が終了すると(比較器51による比較結果が得られると)、次に、コンデンサC2に高精度でサンプリングを行うことが可能な量のチャージが行われているので(所定時間TFとなっているので)、コンデンサC2の電位に対するA/D変換に移行する。このコンデンサC2の電位に対するA/D変換においては、比較器において閾値に誤判定許容範囲を持たせて比較を行う冗長型の処理方式を採用しないで処理を行うが、必要であれば冗長型の処理方式を採用して比較を行っても良い。
【0025】
本実施形態では、サンプリングホールドのために図1に示すようにスイッチS1、S2、S3、S4が設けられており、このスイッチS1、S2、S3、S4をオンオフすることにより、サンプリングホールド及びA/D変換の処理の指示制御を指定制御部60が行う。
【0026】
即ち、スイッチS1はコンデンサC1の入力側とアナログ入力信号VINが入力する側(フィルタ20の出力側)との間に配置されている。スイッチS2はコンデンサC2の入力側とアナログ入力信号VINが入力する側(フィルタ20の出力側)との間に配置されている。
【0027】
スイッチS3はコンデンサC1の出力側とA/D変換部50の入力側との間に配置されている。スイッチS4はコンデンサC2の出力側とA/D変換部50の入力側との間に配置されている。なお、A/D変換部50に接続されている閾値REF1は、上記の上限閾値や各下限閾値をまとめて示したものである。
【0028】
このように構成された第1の実施形態においては、図3に示されるフローチャートに示すように動作が行われる。つまり、図1の状態からスイッチS1、S2をオン(閉成)として、コンデンサC1、C2にてアナログ入力信号VINをサンプリングホールドする(S11)。コンデンサC1の電位をA/D変換するタイミングか(TF時間か)を検出し(S12)、YESとなると、スイッチS1をオフ(開放)すると共にスイッチS3をオンとして、コンデンサC1の電位をA/D変換する(S13)。
【0029】
次のコンデンサC2によるビットへの変換のタイミングであるかを検出し(S14)、YESとなると、スイッチS2をオフ(開放)すると共にスイッチS4をオンとして、コンデンサC2の電位をA/D変換する(S15)。
【0030】
以上のように、1つのコンデンサに対して行われていた従来のサンプリング時間が到来する前に、アナログ入力信号VINをA/D変換して上位ビットを得るために概ね十分なサンプリング時間の間チャージされたコンデンサの電位を用いたA/D変換を先行させて行う。その後に、従来と同じレベルでサンプリング時間が経過したコンデンサC2の電位を用いたA/D変換へ移行するので、高精度でありながら、現状よりも更に高速な処理を実現することのできる逐次型A/D変換が可能である。
【0031】
次に、図4に示す第2の実施形態に係る逐次型A/D変換回路を説明する。この第2の実施形態に係る逐次型A/D変換回路80では、A/D変換部がコンデンサとペアで複数設けられる。本実施形態ではペアが2ペア設けられるが、3ペア以上であっても良い。即ち、逐次型A/D変換回路80は、コンデンサC1と第1のA/D変換部70Aとにより構成される第1のペアと、コンデンサC2と第2のA/D変換部70Bとにより構成される第2のペアが備えられる。
【0032】
第1のA/D変換部70Aには、コンデンサC1の電位と閾値を比較する比較器51Aと、上記比較器51Aの比較結果に基づきA/D変換のビット値を得る演算回路52A、A/D変換のコンデンサを指定する指定制御部60Aとが備えられている。第2のA/D変換部70Bには、コンデンサC2の電位と閾値を比較する比較器51Bと、上記比較器51Bの比較結果に基づきA/D変換のビット値を得る演算回路52B、A/D変換のコンデンサを指定する指定制御部60Bとが備えられている。この第2の実施形態においても第1の実施形態と同様に、最上位ビットから所定の範囲の上位ビットを得る場合に、比較器において閾値に誤判定許容範囲を持たせて比較を行う冗長型の処理方式により比較を行うものである。なお、第1のA/D変換部70Aのみが冗長型の処理方式により比較を行うようにしても良い。
【0033】
指定制御部60Aは、自らが属するペアのコンデンサC1を指定し、指定制御部60Bは、自らが属するペアのコンデンサC2を指定する。指定制御部60Aは、第1のA/D変換部70Aの外に設けられていても良い。指定制御部60Bは、第2のA/D変換部70Bの外に設けられていても良いし、この場合には指定制御部60Aと指定制御部60Bを1つとしても良い。
【0034】
本実施形態では、指定制御部60Aによってコンデンサが指定されると、このコンデンサとペアのA/D変換部がA/D変換を行い、A/D変換の情報を次に指定されたコンデンサとペアのA/D変換部へ送る。つまり、ここでは、最初にコンデンサC1の電位のA/D変換が行われるので、第1のA/D変換部70Aから第2のA/D変換部70BへA/D変換の情報が送られる。ここに、A/D変換の情報とは通常はA/D変換の結果であるディジタル値とすることができるが、最上位ビットの変換における中央値近傍にアナログ入力信号VINの値があるような場合には、比較の結果をA/D変換の情報とすることができる。
【0035】
この第2の実施形態においても、コンデンサC1、C2に対するサンプリングホールド制御のためにスイッチS1、S2が設けられる。即ち、スイッチS1はコンデンサC1の入力側とアナログ入力信号VINが入力する側(フィルタ20の出力側)との間に配置されている。スイッチS2はコンデンサC2の入力側とアナログ入力信号VINが入力する側(フィルタ20の出力側)との間に配置されている。
【0036】
なお、第1のA/D変換部70Aに接続されている閾値REF1と第2のA/D変換部70Bに接続されている閾値REF2とは、上記の冗長型の処理方式により比較を行う場合やその他の比較に用いる上限閾値や各下限閾値をまとめて示したものである。
【0037】
このように構成された第2の実施形態においては、図5に示されるフローチャートに示すように動作が行われる。つまり、図4の状態からスイッチS1、S2をオン(閉成)として、コンデンサC1、C2にてアナログ入力信号VINをサンプリングホールドする(S21)。次に、コンデンサC1の電位をA/D変換するタイミングか(TF時間か)を検出し(S22)、YESとなると、スイッチS1をオフ(開放)し、コンデンサC1の電位をA/D変換する(S23)。
【0038】
次のコンデンサC2の電位によるビットへの変換のタイミングであるかを検出し(S24)、YESとなると、第1のA/D変換部70Aから第1のA/D変換部70BへA/D変換の情報を送る(S25)。次に、スイッチS2をオフ(開放)し、コンデンサC2の電位をA/D変換して、送られたA/D変換の情報を合わせてアナログ入力信号VINの全体のA/D変換結果を得る(S26)。
【0039】
この第2の実施形態によって、1つのA/D変換部に対しコンデンサC1、C2の接続切換を行うことなく、高精度でありながら、現状よりも更に高速な処理を実現することのできる逐次型A/D変換が可能である。
【0040】
以上の2つの実施形態と従来例との比較を図6を用いて説明する。図6(a)に示すように従来は、1つのコンデンサに対しA/D変換のときに誤差が生じないための最小限のサンプリング時間TS1をかけてサンプリングを行う。このサンプリング時間TS1の後に、逐次比較によるA/D変換を行う逐次比較期間TC1が設けられる。
【0041】
本実施形態では、図6(b)に示すように1つのコンデンサC1に対し所定範囲の上位ビットのA/D変換に誤差が生じないための必要十分なサンプリング時間TS2をかけてサンプリングを行う。このサンプリング時間TS2の後に、コンデンサC1の電位に対し逐次比較によるA/D変換を行う逐次比較期間TC2が設けられる。
【0042】
上記サンプリング時間TS2と逐次比較期間TC2を加えた間に、コンデンサC2に対しA/D変換のときに誤差が生じないための必要十分なサンプリング時間TS3をかけてサンプリングが行われる。上記サンプリング時間TS2と逐次比較期間TC2を加えた時間が終了すると、サンプリング時間TS3も終了となり、比較対象であるコンデンサの電位の切り換え期間、或いはコンデンサの電位を含むA/D変換部の切り換え期間である期間TINTを経て、コンデンサC2の電位に対し逐次比較によるA/D変換を行う逐次比較期間TC3が設けられる。
【0043】
上記図6から明らかな通り、従来は、A/D変換のときに誤差が生じないための最小限のサンプリング時間TS1であったのに対し、本実施形態では、A/D変換のときに誤差が生じないための必要十分なサンプリング時間TS3をかけてサンプリングが行われるので、高精度な変換結果が得られるものである。また、A/D変換のときに誤差が生じないための必要十分なサンプリング時間TS3が経過したときには、所定範囲の上位ビットのA/D変換が逐次比較期間TC2において行われている。従って、この後の処理に必要な時間はコンデンサC2の電位に対し逐次比較によるA/D変換を行う逐次比較期間TC3だけであり、全体の処理時間を従来よりも大幅に短縮できる効果がある。
【0044】
また、第2の実施形態によれば、2つ以上のA/D変換部に用いられる比較器を同程度の性能を有するものとせずに、第1のA/D変換部70Aに備えられている比較器51Aを精度の低いものとして回路構成を簡素に小型にすることも可能である。
【0045】
上記実施形態では、コンデンサを2つ設けるものと、コンデンサを含むA/D変換部を2つ設けるものを示したが、既に述べた通り、コンデンサを3つ以上設けるようにしても良く、またはコンデンサを含むA/D変換部を3つ以上設けるようにしても良い。このような構成によっても、本実施形態である第1の実施形態や第2の実施形態と同様の効果を得られるものである。
【符号の説明】
【0046】
10 逐次型A/D変換回路
20 フィルタ
30 バッファ回路
40 入力端子
50、70A、70B A/D変換部
51、51A、51B 比較器
52、52A、52B 演算回路
60、60A、60B 指定制御部
80 逐次型A/D変換回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6