特許第6847994号(P6847994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6847994
(24)【登録日】2021年3月5日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 3/02 20060101AFI20210315BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210315BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20210315BHJP
   H05K 3/12 20060101ALI20210315BHJP
   B22F 9/24 20060101ALN20210315BHJP
【FI】
   C01G3/02
   H01B13/00 Z
   H05K1/09 D
   H05K3/12 610B
   !B22F9/24 B
【請求項の数】9
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-50679(P2019-50679)
(22)【出願日】2019年3月19日
(65)【公開番号】特開2019-178059(P2019-178059A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2018-52575(P2018-52575)
(32)【優先日】2018年3月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 雅典
(72)【発明者】
【氏名】湯本 徹
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−511274(JP,A)
【文献】 特開2011−089153(JP,A)
【文献】 特開2018−041697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
H01B 13/00
H05K 1/09
H05K 3/12
B22F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅と、分散剤とを含む分散体中に含まれるヒドラジンを分解させて、前記ヒドラジンの含有量がゼロとならず残されるように、前記ヒドラジンの含有量を低減させることを特徴とする分散体の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤が、リン含有有機物であることを特徴とする請求項1に記載の分散体の製造方法。
【請求項3】
前記分散剤の含有量が、下記式(2)の範囲であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の分散体の製造方法。
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【請求項4】
前記ヒドラジンを、酸素、又は、過酸化物により分解させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の分散体の製造方法。
【請求項5】
前記分散体を、空気中で撹拌し、前記空気中の酸素で、前記ヒドラジンの含有量を低減させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の分散体の製造方法。
【請求項6】
前記分散体を、空気でバブリングし、前記ヒドラジンの含有量を低減させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の分散体の製造方法。
【請求項7】
マイクロバブル発生装置を用いて、バブリングすることを特徴とする請求項6に記載の分散体の製造方法。
【請求項8】
スタティックミキサーを用いて、バブリングすることを特徴とする請求項6に記載の分散体の製造方法。
【請求項9】
前記過酸化物は、過酸化水素であることを特徴とする請求項4に記載の分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板は、基板上に導電性の配線を施した構造を有する。回路基板の製造方法は、一般的に、次の通りである。まず、金属箔を貼り合せた基板上にフォトレジストを塗布する。次に、フォトレジストを露光及び現像して所望の回路パターンのネガ状の形状を得る。次に、フォトレジストに被覆されていない部分の金属箔をケミカルエッチングにより除去してパターンを形成する。これにより、高性能の回路基板を製造することができる。
【0003】
しかしながら、従来の方法は、工程数が多く、煩雑であると共に、フォトレジスト材料を要する等の欠点がある。
【0004】
これに対し、金属微粒子及び金属酸化物微粒子からなる群から選択された微粒子を分散させた分散体で基板上に所望の配線パターンを直接印刷する直接配線印刷技術(以下、PE(プリンテッド エレクトロニクス)法と記載する)が注目されている。この技術は、工程数が少なく、フォトレジスト材料を用いる必要がない等、極めて生産性が高い。
【0005】
分散体としては、金属インク及び金属ペーストが挙げられる。金属インクは、平均粒子径が数〜数十ナノメートルの金属超微粒子を分散媒に分散させた分散体である。金属インクを基板に塗布乾燥させた後、これを熱処理すると、金属超微粒子特有の融点降下によって、金属の融点よりも低い温度で焼結し、導電性を有する金属膜(導電性パターン)を形成できる。金属インクを用いて得られた金属膜は、膜厚が薄く、金属箔に近いものになる。
【0006】
一方、金属ペーストは、マイクロメートルサイズの金属の微粒子と、バインダ樹脂と共に分散媒に分散させた分散体である。微粒子のサイズが大きいので、沈降を防ぐために、通常はかなり粘度の高い状態で供給される。そのため、粘度の高い材料に適したスクリーン印刷やディスペンサーによる塗布に適している。金属ペーストは、金属粒子のサイズが大きいため、膜厚が厚い金属膜を形成できるという特徴を有する。
【0007】
このような金属粒子に利用される金属として銅が注目されている。特に、投影型静電容量式タッチパネルの電極材料として広く用いられているITO(酸化インジウムスズ)の代替として、抵抗率、イオン(エレクトロケミカル)マイグレーション、導体としての実績、価格、埋蔵量等の観点から、銅が最も有望である。
【0008】
しかしながら、銅は、数十ナノメートルの超微粒子では酸化が起こりやすく酸化防止処理が必要である。酸化防止処理は、焼結の妨げになるという課題があった。
【0009】
このような課題を解決するために、銅酸化物の超微粒子を前駆体とし、適切な雰囲気下で、熱、活性光線等のエネルギーによって銅酸化物を銅に還元し、銅膜を形成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2003/051562号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の発明では、ヒドラジンを、還元剤の一つとして用いることが記載されている(段落0087参照)。
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載の発明には、安全性の面から、分散体中のヒドラジンの含有量を低減させる方法について特に開示がなされていない。
【0013】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、酸化銅を含む分散体中の、ヒドラジンの含有量を低減できる分散体の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明における分散体の製造方法は、酸化銅と、分散剤とを含む分散体中に含まれるヒドラジンを分解させて、前記ヒドラジンの含有量がゼロとならず残されるように、前記ヒドラジンの含有量を低減させることを特徴とする。本発明では、前記分散剤が、リン含有有機物であることが好ましい。本発明では、前記分散剤の含有量が、下記式(2)の範囲であることが好ましい。
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0015】
本発明では、前記ヒドラジンを、酸素、又は、過酸化物により分解させることが好ましい。
【0016】
本発明では、前記分散体を、空気中で撹拌し、前記空気中の酸素で、前記ヒドラジンの含有量を低減させることが好ましい。
【0017】
本発明では、前記分散体を、空気でバブリングし、前記ヒドラジンの含有量を低減させることが好ましい。
【0018】
本発明では、マイクロバブル発生装置を用いて、バブリングすることができる。
【0019】
本発明では、スタティックミキサーを用いて、バブリングすることができる。
【0020】
本発明では、前記過酸化物は、過酸化水素であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分散安定性を維持したまま、酸化銅を含む分散体中のヒドラジンの含有量を低減することができる。したがって、分散体を取り扱う際の安全性を高めることができる。優れた分散安定性と相まって、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施の形態の分散体の製造工程を示す説明図である。
図2】本実施の形態に係る酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。
図3】本実施の形態に係る導電性パターン付き構造体を示す断面模式図である。
図4】本実施の形態の分散体を用い、レーザ照射により焼成して導電性パターン付き構造体を製造する各工程の説明図である。
図5】本実施の形態の分散体を用い、プラズマにより焼成して導電性パターン付き構造体を製造する各工程の説明図である。
図6】本実施の形態に係る塗膜の転写工程を示す説明図である。
図7】本実施の形態に係る塗膜の転写工程を示す説明図である。
図8】本実施の形態に係る印刷パターンを反転印刷で形成する工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施の形態」という。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
【0024】
図1は、本実施の形態の分散体の製造工程を示す説明図である。図2は、本実施の形態に係る酸化銅とリン酸エステル塩との関係を示す模式図である。図3は、本実施の形態に係る導電性パターン付き構造体を示す断面模式図である。図4は、本実施の形態の分散体を用い、レーザ照射により焼成して導電性パターン付き構造体を製造する各工程の説明図である。図5は、本実施の形態の分散体を用い、プラズマにより焼成して導電性パターン付き構造体を製造する各工程の説明図である。
【0025】
<分散体の製造方法>
本実施の形態の分散体は、酸化銅が分散された分散体中にヒドラジンを含む。「分散体」とは、分散媒中に、酸化銅が分散した状態のインクやペーストである。このうち、酸化銅インク(ナノインク)として定義されることが好適である。分散体の詳細については後述する。
【0026】
本実施の形態は、分散体中に含まれるヒドラジンを分解させて、ヒドラジンの含有量を低減させることに特徴点がある。
【0027】
以下、図1を用いて、分散体の製造方法を具体的に説明する。図1中(a)において、例えば、水、プロピレングリコール(PG)の混合溶媒中に酢酸銅を溶かし、ヒドラジンを加えて撹拌する。
【0028】
次に、図1中(b)、(c)において、遠心分離で上澄みと沈殿物に分離する。次に、図1中(d)において、得られた沈殿物に、分散剤やアルコール等を加え、分散する。
【0029】
次いで、図1中(e)、(f)において、UF膜モジュールによる濃縮及び希釈を繰り返し、溶媒を置換し、酸化銅を含有する分散体I(酸化銅インク)を得る。
【0030】
次に、図1中(g)において、分散体I中のヒドラジンを、例えば、酸素との化学反応により、分解させる。これにより、図1中(h)において、分散体I中のヒドラジンの含有量を低減させることができる。なお、本実施の形態では、ヒドラジンを低減させるものの、ヒドラジン含有量は、ゼロでなく僅かながらも残される。
【0031】
本実施の形態では、ヒドラジンを含む還元剤の含有量は、下記式(1)の範囲を満たすことが好ましい。
0.0001≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
【0032】
還元剤の質量比率を、0.0001以上0.10以下とすることで、分散体の分散安定性を向上させることができ、ひいては、導電性パターンの抵抗を効果的に低下させることができる。また、還元剤の質量比率を0.1以下とすることで、長期にわたって分散体の分散安定性を向上させることができる。
【0033】
以上により、本実施の形態では、分散安定性を維持したまま、ヒドラジンの含有量を低減することができる。したがって、分散体を取り扱う際の安全性を高めることができる。また、優れた分散安定性と相まって、作業性を向上させることができる。
【0034】
例えば、酸化銅は、1nm〜100nm程度の粒子径であると凝集しやすいが、本実施の形態では、酸化銅の凝集を抑制しつつ、ヒドラジンを適切に分解できる。このように、本実施の形態では、ヒドラジンの含有量を、所望の範囲内に制御することができ、後述する各焼成方法に適したプロセス制御が可能になる。
【0035】
図1中(g)の工程では、例えば、分散体を、空気中で撹拌し、空気中の酸素で、ヒドラジンの含有量を低減させることができる。ヒドラジンは、酸素と反応することが知られている。
【0036】
また、図1中(g)の工程では、分散体を、空気でバブリングし、ヒドラジンの含有量を低減させることができる。
【0037】
バブリング方法としては、マイクロバブル発生装置、或いは、スタティックミキサーを用いることができる。
【0038】
マイクロバブル発生装置を用いて、分散体中にマイクロバブルを発生させ、酸素との化学反応により、ヒドラジンを分解させることができる。また、スタティックミキサーを用いて、分散体中に対流を起こし、空気と接触することで、化学反応を起こし、ヒドラジンを分解させることができる。
【0039】
また、本実施の形態では、図1中(g)に代えて、分散体中のヒドラジンを、過酸化物により分解させてもよい。例えば、過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル、クメンヒドロキシパーオキサイド、過酸化アセチル、過酸化t−ブチル、過安息香酸t−ブチルが挙げられ、過酸化水素であることが好ましい。
【0040】
図1では、図1中(f)において、酸化銅を含有する分散体Iを生成した後、図1中(g)の工程で、ヒドラジンを分解しているが、図1中(a)、(d)の混合溶液に対して、例えば、上記した酸素や過酸化物との化学反応より、ヒドラジンを分解させ、ヒドラジンの含有量を低減させてもよい。
【0041】
上記では、ヒドラジンを化学的に分解させたが、物理的に分解させてもよい。物理的なヒドラジンの分解方法としては、活性炭やPVPへのヒドラジンの物理吸着等がある。
【0042】
次に、分散体の具体例を示す。
【0043】
<分散体>
分散体は、酸化銅と、分散剤と、還元剤と、分散媒と、を含むことが好ましい。「還元剤」は、酸化銅に対する還元作用を有するものであり、銅への還元を促進する。還元剤は、分散剤及び分散媒よりも還元作用が強い物質として選択される。「分散媒」は、溶媒として機能する。また、「分散剤」は、酸化銅同士が互いに凝集しないように分散媒中に分散させることに寄与する。
【0044】
本実施の形態では、既に記載した上記式(1)に加え、分散剤の含有量が、下記式(2)の範囲を満たすことが好ましい。
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0045】
分散剤の質量比率を、0.0050以上0.30以下とすることで、酸化銅の凝集を抑制でき、分散体の分散安定性を効果的に向上させることができる。ひいては、導電性パターンの抵抗を効果的に低下させることができる。
【0046】
以下、酸化銅、分散剤、還元剤、及び分散媒について更に詳しく説明する。
【0047】
[(1)酸化銅]
本実施の形態においては、金属酸化物成分の一つとして酸化銅を用いる。酸化銅としては、酸化第一銅(CuO)を用いることが好ましい。酸化第一銅は、金属酸化物の中でも還元が容易であり、更に、酸化第一銅の微粒子を用いることで、焼結を容易にできる。また、酸化銅は、価格的にも銅であるがゆえに、銀などの貴金属類と比較し安価であり、マイグレーションに対し有利である。
【0048】
酸化銅の平均二次粒子径は、特に制限されないが、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。酸化銅の平均二次粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは15nm以上である。ここで、平均二次粒子径とは、一次粒子が複数個集まって形成される凝集体(二次粒子)の平均粒子径のことである。
【0049】
この平均二次粒子径が500nm以下であると、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。平均二次粒子径が1nm以上であれば、長期にわたって分散体の分散安定性を向上させることができ好ましい。酸化銅の平均二次粒子径は、例えば、大塚電子製FPAR−1000を用いて、キュムラント法によって測定することができる。
【0050】
また、酸化銅の平均一次粒子径の好ましい範囲は、これを還元処理することにより得られる金属の緻密性、電気的特性の観点から、さらには、焼成条件を樹脂基板の使用を考慮して基板に与えるダメージを低減する観点から、より低温化する必要がある。このため、好ましい平均一次粒子径は、100nm以下であり、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。平均一次粒子径が100nm以下の場合、後述する焼成処理において、基板にダメージを与えないよう投入エネルギーを低減できる。酸化第一銅の平均一次粒子径の下限値は、特に制限はないが、取り扱いの容易性から1nm以上が好ましい。これにより、粒子径が小さ過ぎることから分散安定性を保つために、分散剤使用量が増大することを抑えられるため、焼成処理が容易になる。平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡、又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0051】
分散体に含まれる酸化銅は、プラズマ処理、熱処理、又は光処理により容易に還元され金属になり、金属同士の焼結により導電性を得ることができる。また、本実施の形態では、分散体に銅粒子を添加することができるが、焼結により酸化銅を還元してなる銅は、添加された銅粒子に対し結合剤として働き一体化することで、低抵抗化、強度の向上に寄与する。
【0052】
酸化第一銅に関しては、市販品を用いてもよいし、合成して用いてもよい。市販品として、(株)希少金属材料研究所製の平均一次粒子径5〜50nmのものがある。合成法としては、次の方法が挙げられる。
【0053】
(1)ポリオール溶剤中に、水と銅アセチルアセトナト錯体を加え、いったん有機銅化合物を加熱溶解させ、次に、反応に必要な水を後添加し、さらに昇温して有機銅の還元温度で加熱する加熱還元する方法。
(2)有機銅化合物(銅−N−ニトロソフェニルヒドロキシアミン錯体)を、ヘキサデシルアミンなどの保護材存在下、不活性雰囲気中で、300℃程度の高温で加熱する方法。
(3)水溶液に溶解した銅塩をヒドラジンで還元する方法。
【0054】
この中では(3)の方法は操作が簡便で、かつ、平均粒小径の小さい酸化第一銅が得られるので好ましい。
【0055】
得られた酸化第一銅は、軟凝集体であるため、分散媒に分散させた酸化銅分散体を作製し、印刷、塗布に用いられる。合成終了後、合成溶液と酸化第一銅の分離を行うが、遠心分離などの既知の方法を用いればよい。また、得られた酸化第一銅を後述の分散剤、分散媒を加えホモジナイザーなど既知の方法で撹拌し分散する。分散媒によっては、分散し難く分散が不充分な場合があるが、このような場合は一例として、分散しやすいアルコール類、例えばブタノールなどの分散媒を用い分散させた後、所望の分散媒への置換と所望の濃度への濃縮を行う。方法の一例としてUF膜による濃縮、所望の分散媒による希釈、濃縮を繰り返す方法が挙げられる。このようにして得られた酸化銅分散体は、後述の方法で銅粒子などと混合してもよく、本実施の形態の分散体とすることができる。この分散体が印刷、塗布に用いられる。
【0056】
[(2)分散剤]
次に分散剤について説明する。分散剤は、リン含有有機物であることが好ましい。リン含有有機物は、酸化銅に吸着してもよく、この場合、立体障害効果により凝集を抑制する。また、リン含有有機物は、絶縁領域において電気絶縁性を示す材料である。リン含有有機物は、単一分子であってよいし、複数種類の分子の混合物でもよい。
【0057】
分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上である。分散剤の数平均分子量は、特に制限はないが、好ましくは30000以下、より好ましくは20000以下、さらに好ましくは10000以下である。300以上であると、絶縁性に優れ、得られる分散体の分散安定性が増す傾向があり、30000以下であると、焼成しやすい。また、構造としては酸化銅に親和性のある基を有する高分子量共重合物のリン酸エステルが好ましい。例えば、化学式(1)の構造は、酸化銅、特に、酸化第一銅と吸着し、また、基板への密着性にも優れるため、好ましい。
【0058】
【化1】
化学式(1)
【0059】
リン含有有機物は、光や熱によって、分解又は蒸発しやすいものであることが好ましい。光や熱によって分解又は蒸発しやすい有機物を用いることによって、焼成後に有機物の残渣が残りにくくなり、抵抗率の低い導電性パターンを得ることができる。
【0060】
リン含有有機物の分解温度は、限定されないが、600℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。リン含有有機物の沸点は、限定されないが、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、150℃以下であることがさらに好ましい。
【0061】
リン含有有機物の吸収特性は、限定されないが、焼成に用いる光を吸収できることが好ましい。例えば、焼成のための光源としてレーザ光を用いる場合は、その発光波長の、例えば、355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nmなどの光を吸収するリン含有有機物を用いることが好ましい。基板が樹脂の場合、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nmの波長である。
【0062】
分散剤としては公知のものを用いることができ、例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸などの高分子のアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩などが挙げられる。このような分散剤としては、市販されているものを使用することもできる。
【0063】
上記市販品としては、例えば、DISPERBYK(登録商標)―101、DISPERBYK―102、DISPERBYK−110、DISPERBYK―111、DISPERBYK―112、DISPERBYK−118、DISPERBYK―130、DISPERBYK―140、DISPERBYK−142、DISPERBYK―145、DISPERBYK―160、DISPERBYK―161、DISPERBYK―162、DISPERBYK―163、DISPERBYK―2155、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、DISPERBYK―180、DISPERBYK―2000、DISPERBYK―2025、DISPERBYK―2163、DISPERBYK―2164、BYK―9076、BYK―9077、TERRA−204、TERRA−U(以上ビックケミー社製)、フローレン(登録商標)DOPA−15B、フローレンDOPA−15BHFS、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−33、フローレンDOPA−44、フローレンDOPA−17HF、フローレンTG−662C、フローレンKTG−2400(以上共栄社化学社製)、ED−117、ED−118、ED−212、ED−213、ED−214、ED−216、ED−350、ED−360(以上、楠本化成社製)、プライサーフ(登録商標)M208F、プライサーフDBS(以上、第一工業製薬製)などを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0064】
分散剤の必要量は、酸化銅の量に比例し、要求される分散安定性を考慮し調整する。本実施形態の分散体に含まれる分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下であり、好ましくは0.050以上0.25以下であり、より好ましくは0.10以上0.23以下である。分散剤の量は、分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施の形態の分散体における分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電性パターンにおいて分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
【0065】
分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下が好ましい。より好ましくは30以上、100以下である。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合に有効である。具体的には、ビックケミ―社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK−140」(酸価73)、「DISPERBYK−142」(酸価46)、「DISPERBYK−145」(酸価76)、「DISPERBYK−118」(酸価36)、「DISPERBYK−180(酸価94)などが挙げられる。
【0066】
また、分散剤のアミン価(mgKOH/g)と酸価の差(アミン価−酸価)は−50以上0以下であることが好ましい。アミン価は、遊離塩基、塩基の総量を示すものであり、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すものである。アミン価、酸価はJIS K 7700あるいはASTM D2074に準拠した方法で測定する。−50以上0以下であると分散安定性に優れるため、好ましい。より好ましくは−40以上0以下であり、さらに好ましくは−20以上0以下である。
【0067】
[(3)還元剤]
次に、還元剤について説明する。還元剤としては、ヒドラジン、又は、ヒドラジン水和物の少なくとも一方を含む。加えて、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、及び亜硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1つを含めてもよい。焼成において、酸化銅、特に、酸化第一銅の還元に寄与し、より抵抗の低い銅膜を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジン、又はヒドラジン水和物を少なくとも含む。また、ヒドラジン、又はヒドラジン水和物を用いることにより、分散体の良好な分散安定性を維持でき、ひいては、導電性パターンの抵抗を低くできる。
【0068】
還元剤の必要量は、酸化銅の量に比例し、要求される還元性を考慮し調整する。本実施の形態の分散体に含まれる還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、0.0001以上0.10以下が好ましく、より好ましくは0.0001以上0.05以下、さらに好ましくは0.0001以上0.03以下である。還元剤の質量比率は、0.0001以上であると分散安定性を向上させることができ、ひいては、導電性パターンの抵抗を低下させることができる。また、還元剤の質量比率は、0.10以下であると、長期にわたって、分散体の分散安定性を向上させることができる。
【0069】
また、本実施の形態では、低減後におけるヒドラジンの含有量を特に限定するものではないが、好ましくは、10000ppm(1.0質量%)以下、より好ましくは、8000ppm(0.8質量%)以下、更に好ましくは、5000ppm(0.5質量%)以下、更に好ましくは、3000ppm(0.3質量%)以下、更により好ましくは、1000ppm(0.1質量%)以下、に調整することができる。
【0070】
[(4)分散媒]
本実施の形態の分散体は、上述の構成成分の他に、分散媒(溶媒)を含み、分散媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸、水、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−3−メチル−ブチルアセテート、エトキシエチルプロピオネート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、、1,3−ブチレングリコール、2−ペンタンジオール、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、トリエチレングリコール、トリ−1,2−プロピレングリコール、グリセロール、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノール、2−メチルブタノール、2−ペンタノール、t−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、2−エチルブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、n−ノニルアルコール、2、6ジメチル−4−ヘプタノール、n−デカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3、3、5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコールなどから少なくとも1種が挙げられる。これらに具体的に記載したもの以外にも、アルコール、グリコール、グリコールエーテル、グリコールエステル類溶剤を分散媒に用いることができる。使用する分散媒を、印刷方式に応じ蒸発性や、印刷機材、被印刷基板の耐溶剤性を考慮し選択する。
【0071】
本実施の形態に用いられる分散媒は、分散という観点から分散剤の溶解が可能なものの中から選択する。一方、分散体を用いて導電性パターンを形成するという観点からは、分散媒の揮発性が作業性に影響を与えるため、導電性パターンの形成方法、例えば、印刷や塗布の方式に適するものである必要がある。従って、分散媒は、分散性と印刷や塗布の作業性に合わせて上記の分散媒から選択すればよい。
【0072】
分散媒として、炭素数10以下のモノアルコールがより好ましく、さらに炭素数8以下が好ましい。炭素数8以下のモノアルコール中でも、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノールが分散性、揮発性及び粘性が特に適しているのでさらに好ましい。これらのモノアルコールを単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。酸化銅の分散性の低下を抑制するため、さらに分散剤との相互作用により、より安定に分散させるためにもモノアルコールの炭素数は8以下であることが好ましい。また、炭素数は8以下を選択すると抵抗値も低くなり好ましい。
【0073】
ただし、沸点は溶剤の作業性に影響を与える。沸点が低すぎれば揮発が速いため、固形物の析出による欠陥の増加や清掃頻度の増大により作業性が悪化する。このため、塗布、ディスペンサー方式では沸点が40℃以上、インクジェット方式、スクリーン方式、オフセット方式では120℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上がよく、沸点の上限としては、乾燥の観点から300℃以下が好ましい。
【0074】
分散媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸、及び水から3種以上選択することが好ましい。
【0075】
次に、分散体における酸化銅と分散剤の状態について、図2を用いて説明する。図2に示すように、分散体1において、酸化銅2の周囲には、分散剤としての例えばリン含有有機物の一例であるリン酸エステル塩3が、リン3aを内側に、エステル塩3bを外側にそれぞれ向けて取り囲んでいる。リン酸エステル塩3は電気絶縁性を示すため、隣接する酸化銅2との間の電気的導通は妨げられる。また、リン酸エステル塩3は、立体障害効果により分散体1の凝集を抑制する。
【0076】
また、本実施の形態では、分散体1中に、ヒドラジンを含む。本実施の形態では、ヒドラジンに対する分解処理に基づいて、ヒドラジンの含有量を低減できている。本実施の形態では、分散安定性を維持したまま、ヒドラジンを低減化でき、安全性に優れた分散体1を得ることができる。
【0077】
また、酸化銅2は半導体であり導電性であるが、電気絶縁性を示すリン酸エステル塩3で覆われているので、分散体1は電気絶縁性を示し、導電性パターン付き構造体の断面視(図5中に示す上下方向に沿った断面)で、分散体1の両側に隣接する導電性パターン(後述)の間の絶縁層を確保することができる。
【0078】
一方、導電性パターンは、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗膜の一部の領域に光照射し、当該一部の領域において、酸化銅を銅に還元して構成される。このように、酸化銅が還元された銅を還元銅という。また、当該一部の領域において、リン含有有機物は、リン酸化物に変性する。リン酸化物では、上述のエステル塩3b(図2参照)のような有機物は、レーザなどの熱によって分解し、電気絶縁性を示さないようになる。
【0079】
また、図2に示すように、酸化銅2が用いられている場合、レーザなどの熱によって、酸化銅が還元銅に変化すると共に焼結し、隣接する酸化銅2同士が一体化する。これによって、優れた電気導電性を有する導電性パターンを形成することができる。
【0080】
<酸化銅と銅を含む分散体の調整>
酸化第一銅と銅粒子を含む分散体を得るには、前述の酸化銅分散体に、銅微粒子、必要に応じ分散媒を、それぞれ所定の割合で混合し、例えば、ミキサー法、超音波法、3本ロール法、2本ロール法、アトライター、ホモジナイザー、バンバリーミキサー、ペイントシェイカー、ニーダー、ボールミル、サンドミル、自公転ミキサーなどを用いて分散処理することにより調整することができる。
【0081】
分散媒の一部は、既に生成した酸化銅分散体に含まれているため、分散媒の量が、この酸化銅分散体に含まれている分で充分な場合は、銅粒子との混合工程で、分散媒を添加する必要はない。ただし、分散体の粘度を低下させることが必要な場合等は、必要に応じ、分散媒を、銅粒子との混合工程に加えればよい。もしくは、分散媒の添加を、銅粒子との混合工程以降で加えてもよい。分散媒は、前述の酸化銅分散体作製時に加えたものと同じものを添加してもよく、或いは、異なるものを添加してもよい。
【0082】
この他に必要に応じ、有機バインダ、酸化防止剤、還元剤、金属粒子、金属酸化物を加えてもよく、不純物として金属や金属酸化物、金属塩及び金属錯体を含んでもよい。
【0083】
また、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子は、クラック防止効果が大きいため、単独であるいは球状、サイコロ状、多面体などの銅粒子や他の金属と複数組み合わせて加えてもよく、その表面を酸化物や他の導電性のよい金属、例えば銀などで被覆してもよい。
【0084】
なお銅以外の金属粒子で、形状が針金状、樹枝状、鱗片状の一種もしくは複数を加える場合、同様な形状の銅粒子と同様にクラック防止効果を有するため、同様の形状の銅粒子の一部との置き換え、もしくは同様の形状の銅粒子に追加して使うこともできる。ただし、銅以外の金属粒子の種類は、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、及びコストなどを考慮する必要がある。銅以外の金属粒子としてとしては、例えば、金、銀、錫、亜鉛、ニッケル、白金、ビスマス、インジウム、及びアンチモン等を挙げることができる。
【0085】
金属酸化物粒子としては、酸化第一銅を、酸化銀や、酸化第二銅などと置き換え、もしくは追加して用いることができる。しかしながら、使用する金属酸化物粒子としては、金属粒子の場合と同様に、マイグレーション、粒子強度、抵抗値、銅食われ、金属間化合物の形成、コストなどを考慮する必要がある。これら金属粒子および金属酸化物粒子の添加は、導電性パターンの焼結、抵抗、導体強度、及び光焼成の際の吸光度などの調整に用いることができる。これらの金属粒子および金属酸化物粒子を加えても、針金状、樹枝状、鱗片状銅粒子の存在により、クラックは充分抑制される。これらの金属粒子および金属酸化物粒子は、単独でもしくは二種類以上組み合わせて用いてもよく、形状の制限は無い。例えば、銀や酸化銀は、抵抗低下や焼成温度低下などの効果が期待される。
【0086】
しかしながら、銀は貴金属類でありコストがかさむことや、クラック防止の観点から、銀の添加量は、銅粒子を超えない範囲が好ましい。また、錫は安価であり、また融点が低いため焼結しやすくなるという利点を有する。しかしながら、分散体を焼成して成る導電パターンの抵抗が上昇する傾向がある。このため、クラック防止の観点からも、錫の添加量は、銅粒子と酸化第一銅の合計添加量を超えない範囲が好ましい。酸化第二銅は、フラッシュランプや、レーザなどの光や、赤外線を用いた方法では光吸収剤、及び熱線吸収剤として働く。しかしながら、酸化第二銅は、酸化第一銅より還元し難いこと、還元時のガス発生が多いことによる基板からの剥離を防ぐ観点から、酸化第二銅の添加量は、酸化第一銅より少ない方が好ましい。
【0087】
本実施の形態においては、銅以外の金属や、針金状、樹枝状、及び鱗片状以外の銅粒子、また、酸化銅以外の金属酸化物を含んでいても、クラック防止効果、及び抵抗の経時安定性の向上効果は発揮される。しかしながら、銅以外の金属や、針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、並びに酸化銅以外の金属酸化物の合計添加量としては、針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅の合計添加量より少ない方が好ましい。また、針金状、樹枝状、鱗片状の銅粒子と酸化銅との合計に対する、銅以外の金属や、針金状、樹枝状、鱗片状以外の銅粒子、及び酸化銅以外の金属酸化物を合計した添加割合は、50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下がよい。
【0088】
<塗膜を含む製品>
本実施の形態の製品は、上記に記載した分散体が塗布されてなることを特徴とする。分散体は、酸化銅と、分散剤と、還元剤と、分散媒と、を含む。本実施の形態の製品は、前記還元剤の含有量が、下記式(1)の範囲であり、前記分散剤の含有量が、下記式(2)の範囲である分散体が塗布されて成ることが好ましい。
0.0001≦(還元剤質量/酸化銅質量)≦0.10 (1)
0.0050≦(分散剤質量/酸化銅質量)≦0.30 (2)
【0089】
また、本実施の形態の製品に使用される、分散体に含まれる酸化銅は、酸化第一銅であることが好ましい。
【0090】
また、本実施の形態の製品に使用される、分散体に含まれる還元剤は、ヒドラジン、又はヒドラジン水和物を少なくとも含む。このほか、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、及び亜硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0091】
本実施の形態では、基板上に、上記した分散体を塗布した塗膜が形成されており、この塗膜は、いわゆるベタ膜であってもよいし、所望のパターンに形成されたものであってもよい。或いは、塗膜を転写して基板上に形成することもできる。
【0092】
そして、本実施の形態の塗膜に対し、プラズマや光、レーザ光を用いて焼成処理を行うことができ、これにより、酸化銅中の有機物を分解でき、酸化銅の焼成を促進することができる。したがって、抵抗の低い導電性パターンを得ることができる。また、分散体を織布、不織布のような構造体に含浸後の塗膜に対し、焼成処理を行うことで、熱伝導性の高い放熱材料を得ることができる。
【0093】
[基板]
本実施の形態で用いられる基板は、特に限定されるものではなく、無機材料又は有機材料で構成される。
【0094】
無機材料としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、石英ガラスなどのガラスや、アルミナなどのセラミック材料が挙げられる。
【0095】
有機材料としては、高分子材料、紙、不織布などが挙げられる。高分子材料としては樹脂フィルムを用いることができ、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアセタール(POM)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリカルボジイミド、ポリシロキサン、ポリメタクリルアミド、ニトリルゴム、アクリルゴム、ポリエチレンテトラフルオライド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリブテン、ポリペンテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−ジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ブチルゴム、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリスチレン(PS)、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フェノールノボラック、ベンゾシクロブテン、ポリビニルフェノール、ポリクロロピレン、ポリオキシメチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)、シクロオレフィンポリマー(COP)、アクリロ二トリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)、ナイロン樹脂(PA6、PA66)ポリブチルテレフタレート樹脂(PBT)ポリエーテルスルホン樹脂(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びシリコーン樹脂などを挙げることができる。特に、PI、PET及びPENは、フレキシブル性、コストの観点から好ましい。基板の厚さは、例えば1μm〜10mmとすることができ、好ましくは25μm〜250μmである。基板の厚さが250μm以下であれば、作製される電子デバイスを、軽量化、省スペース化、及びフレキシブル化できるため好ましい。
【0096】
紙としては、一般的なパルプを原料とした上質紙、中質紙、コート紙、ボール紙、段ボールなどの洋紙やセルロースナノファイバーを原料としたものが挙げられる。紙の場合は高分子材料を溶解したもの、もしくはゾルゲル材料などを含浸硬化させたものを使うことができる。また、これらの材料はラミネートするなど貼り合わせて使用してもよい。例えば、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスコンポジット基材、ガラスエポキシ基材などの複合基材、テフロン(登録商標)基材、アルミナ基材、低温低湿同時焼成セラミックス(LTCC)、シリコンウェハなどが挙げられる。なお、本実施の形態における基板は、配線パターンを形成するための回路基板シートの基板材料、または配線付き筐体の筐体材料を意味する。
【0097】
不織布としては、繊維を織らずに絡みあわせたシートのことであり、不織布の原料には繊維に加工できるほとんどの物質を使用することができる。また、複数の原料を組み合わせたり、繊維長や太さなどの形状を調整することで特性に応じた機能を持たせることもできる。原料としては、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、熱可塑性樹脂を不織布状に形成したものは、通気性を維持したまま布を接着するホットメルト接着剤として利用される。たとえば、低密度ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂がある。具体的には、プレシゼ(旭化成社製)やスマッシュ(旭化成社製)が利用できる。
【0098】
導電パターンを形成するための基板表面は、平坦面であっても、非平坦面であってもよい。非平坦面は、凹凸面、湾曲面、球面、円柱面、傾斜面、粗面等であり、平坦でない面は全て含まれる。
【0099】
基板は、板材であってもよいし、上記した紙のように形状をフレキシブルに変化可能な形態であってもよい。また、一般的な回路基板ではなく、例えば、自動車のボディや各種パネルを構成する筐体、電子機器の筐体、及び住宅の壁面、床面等に直接、導電パターンを形成する形態も、導電性パターン付き構造体に含まれる。
【0100】
[酸化銅を含む塗膜]
塗膜は、酸化銅及び分散剤とともに、ヒドラジンを含む。ヒドラジンを用いることで、焼成において、酸化銅の還元に寄与し、より抵抗の低い塗膜を形成することができる。
【0101】
塗膜中での酸化銅を含む微粒子の平均二次粒子径は、特に制限されないが、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。微粒子の平均二次粒子径は、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上である。ここで、平均二次粒子径とは、一次粒子が複数個集まって形成される凝集体(二次粒子)の平均粒子径のことである。
【0102】
この平均二次粒子径が500nm以下であると、基板上に微細パターンを形成し易い傾向があるので好ましい。平均二次粒子径が5nm以上であれば、長期にわたって分散体の分散安定性を向上させることができ好ましい。微粒子の平均二次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0103】
二次粒子を構成する一次粒子の平均一次粒子径は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。平均一次粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、さらに好ましくは5nm以上である。平均一次粒子径が100nm以下の場合、後述する焼成の温度を低くすることができる傾向にある。このような低温焼成が可能になる理由は、粒子の粒子径が小さいほど、その表面エネルギーが大きくなって、融点が低下するためと考えられる。また、平均一次粒子径が1nm以上であれば、良好な分散性を得ることができるため好ましい。基板に配線を形成する場合、基板との密着性や低抵抗化の観点で、平均一次粒子径は、2nm以上、100nm以下が好ましく、5nm以上、50nm以下がより好ましい。この傾向は基板が樹脂の際に顕著である。平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡によって測定することができる。
【0104】
本実施の形態の塗膜に含まれる分散剤の質量比率(分散剤質量/酸化銅質量)は、0.0050以上0.30以下であり、好ましくは0.050以上0.25以下であり、より好ましくは0.10以上0.23以下である。分散剤の量は分散安定性に影響し、量が少ないと凝集しやすく、多いと分散安定性が向上する傾向がある。但し、本実施の形態の塗膜における分散剤の含有率を35質量%以下にすると、焼成して得られる導電性パターンにおいて分散剤由来の残渣の影響を抑え、導電性を向上できる。
【0105】
分散剤の酸価(mgKOH/g)は20以上、130以下が好ましく、30以上、100以下がより好ましい。この範囲に入ると分散安定性に優れるため好ましい。特に平均粒子径が小さい酸化銅の場合に有効である。分散剤としては、具体的には、ビックケミ―社製「DISPERBYK―102」(酸価101)、「DISPERBYK−140」(酸価73)、「DISPERBYK−142」(酸価46)、「DISPERBYK−145」(酸価76)、「DISPERBYK−118」(酸価36)、「DISPERBYK−180(酸価94)などが挙げられる。
【0106】
次に、塗膜中の還元剤について説明する。還元剤としては、ヒドラジン、又はヒドラジン水和物を少なくとも含む。このほか、ナトリウム、カーボン、ヨウ化カリウム、シュウ酸、硫化鉄(II)、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、塩化スズ(II)、水素化ジイソブチルアルミニウム、蟻酸、水素化ホウ酸ナトリウム、亜硫酸塩などから更に、選択することもできる。焼成において、酸化銅、特に酸化第一銅の還元に寄与し、より抵抗の低い銅膜を作製することができる観点から、還元剤は、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物が最も好ましい。また、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を用いることにより、分散体の分散安定性を維持でき、銅膜の抵抗を低くできる。
【0107】
本実施の形態では、安全性の面からヒドラジンの含有量を低減させるものの、ヒドラジンは、塗膜中にわずかながらでも含まれている。この結果、安全性を維持しつつ上記した効果を適切に発揮することができる。
【0108】
本実施の形態の塗膜に含まれる還元剤の質量比率(還元剤質量/酸化銅質量)は、0.0001以上0.10以下が好ましく、より好ましくは0.0001以上0.05以下、さらに好ましくは0.0001以上0.03以下である。還元剤の質量比率は、0.0001以上であると分散安定性が向上し、かつ銅膜の抵抗が低下する。また、0.10以下であると塗膜の長期安定性が向上する。塗膜における還元剤の必要量は酸化銅の量に比例し、要求される還元性を考慮し調整する。
【0109】
本実施の形態の塗膜は、フィルム基板、ガラス基板、成形加工物など様々な材料、加工品に作製できる。本膜に別な樹脂層を重ねてもよい。
【0110】
<導電性パターン付き構造体>
本実施の形態に係る導電性パターン付き構造体の第1の製造方法は、本実施の形態に係る分散体を基板上に塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜にレーザ光を照射し、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0111】
この第1の製造方法では、上記に記載の塗膜を含む製品を用い、塗膜にレーザ光を照射し、基板上に導電性パターンを形成することができる。
【0112】
また、本実施の形態に係る導電性パターン付き構造体の第2の製造方法は、本実施の形態に係る分散体を、所望のパターンで基板上に塗布して、塗膜を形成する工程と、塗膜を焼成処理して、基板上に導電性パターンを形成する工程と、を具備することを特徴とする。
【0113】
この第2の製造方法では、上記に記載の塗膜を含む製品を用い、塗膜は、所望のパターンにて塗布されており、塗膜を焼成処理して、基板上に導電性パターンを形成することができる。
【0114】
上記した第1、第2の製造方法によれば、基板上に導電性パターンを所定形状にて高精度に直接形成することができる。このため、従来のフォトレジストを用いた手法と比較し、生産性を向上させることができる。
【0115】
第1、第2の製造方法ともに、基板側に一部の酸化銅が還元されずに残ることで、導電性パターンと基板との密着性が向上するため好ましい。すなわち、基板の表面には、酸化銅含有層が形成され、更に、酸化銅含有層の表面に、導電性パターンとしての導電性層が形成される。酸化銅含有層は、酸化第一銅含有層であることが好ましい。
【0116】
導電性パターン(導電性層)は、配線のことであり、配線幅は、0.5μm以上、10000μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以上、1000μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上、500μm以下である。また、導電性パターンは、メッシュ状に形成されていてもよい。メッシュ状とは、格子状の配線のことで、これにより、透過率が高くなり、透明になるため好ましい。
【0117】
第1の製造方法においては、レーザ光の中心波長は、300nm以上800nm以下であることが好ましい。これにより、焼成に必要な最適な出力を得ることができ、精度よく低抵抗の導電性パターンを形成することができる。基板や筐体が樹脂の場合、本実施の形態の酸化銅含有層の吸収領域から、特に好ましくは、355nm、405nm、445nm、450nm、532nmのレーザ波長である。レーザ光を用いることで所望のパターンを平面、立体に自由に作製することができる。
【0118】
また、第2の製造方法では、焼成処理は、還元性ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させて行うことが好ましい。このように、焼成をプラズマ照射で行うことにより、分散体に含まれる有機物を効果的に分解でき、精度よく低抵抗の導電性パターンを形成することができる。
【0119】
また、第2の製造方法では、焼成処理は、光照射法により行うこともできる。或いは、焼成処理は、100℃以上の熱で前記塗膜を加熱することにより行うこともできる。いずれにおいても、分散体に含まれる有機物を効果的に分解でき、精度よく低抵抗の導電性パターンを形成することができる。
【0120】
また、第2の製造方法では、基板上に分散体を、所望のパターン形状に直接、塗布するが、その塗布方法としては、例えば、分散体を、エアロゾル法によって塗布したり、或いは、スクリーン印刷によって塗布することが好ましい。これにより、所望のパターンを基板上に直接、高精度に形成することができる。
【0121】
[導電性パターン付き構造体の構成]
本実施の形態においては、上記した第1、第2の製造方法により、2種類の導電性パターン付き構造体を得ることができる。図3Aは、第1の製造方法により得られた導電性パターン付き構造体の断面図である。
【0122】
図3Aに示すように、導電性パターン付き構造体10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁層12と、還元銅を含む導電性パターン13と、が互いに隣接して配置された表層14と、を具備していてもよい。導電性パターン13には、分散剤としてのリン含有有機物に由来するリン元素が含まれている。導電性パターン13は、分散体を焼成することにより形成されるため、焼成の工程で分散体に含まれる有機物が分解され、得られる導電性パターン13を低抵抗化できると共に、ハンダぬれ性を高くすることができる。よって、導電性パターン13の表面には、後述するハンダ層を容易に形成することができる。
【0123】
また、図3Aに示す絶縁層12には、酸化銅やリン含有有機物の他、わずかに、ヒドラジンも分析される。
【0124】
図3Bは、第2の製造方法により得られた導電性パターン付き構造体の断面図である。図3Bに示すように、導電性パターン付き構造体10は、基板11と、基板11が構成する面上に、断面視において、還元銅を含む導電性パターン13と、を具備して構成される。導電性パターン13には、分散剤としてのリン含有有機物に由来するリン元素が含まれている。導電性パターン13は、分散体の焼成の工程で、分散体に含まれる有機物が分解されるため、導電性パターン13において、ハンダぬれ性を高くすることができる。よって、導電性パターン13の表面には、後述するハンダ層を容易に形成することができる。
【0125】
<基板への分散体の塗布方法>
分散体を用いた塗布方法について説明する。塗布方法としては特に制限されず、インクジェット印刷、スクリーン印刷、凹版ダイレクト印刷、凹版オフセット印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷などの印刷法やディスペンサー描画法などを用いることができる。ただし、上記したように、第2の製造方法では、基板上に直接、パターンを印刷するために、本実施の形態の分散体を用い、エアロゾル法或いはスクリーン印刷法にて所望のパターンを形成することが好ましい。また、塗布法としては、ダイコート、スピンコート、スリットコート、バーコート、ナイフコート、スプレーコート、ディツプコートなどの方法を用いることができる。
【0126】
<導電性パターン形成方法>
本実施の形態の導電性パターンの製造方法では、塗膜における酸化銅を還元し銅を生成し、これ自体の融着、及び分散体に加えられている銅粒子との融着や、一体化により、導電性パターンを形成する。この工程を焼成と呼ぶ。従って、酸化銅の還元と融着、及び銅粒子との一体化による導電性パターンの形成ができる方法であれば特に制限はない。本実施の形態の導電性パターンの製造方法における焼成は、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、赤外線、フラッシュランプ、レーザなどを単独もしくは組み合わせて用いて行ってもよい。焼成後には、導電性パターンの一部に、後述するハンダ層の形成が可能となる。
【0127】
図3を参照して、本実施の形態に係る焼成にレーザ照射を用いた場合の導電性パターン付き構造体の第1の製造方法について、より具体的に説明する。図3中(i)には、図1(h)に示した、酸化銅を分散した分散体中のヒドラジンを分解させ、ヒドラジンの含有量を低減させてなる分散体Iが示されている。
【0128】
図3中(j)、(k)において、分散体Iを、例えば、スプレーコート法により、PET製の基板(図3(k)中、「PET」と記載する)上に塗布し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗膜(図3(k)中、「CuO」と記載する)を形成する。
【0129】
次に、図3中(l)において、塗膜に対して、例えば、レーザ照射を行い、塗膜の一部を選択的に焼成し、酸化銅を銅(図3(l)中、「Cu」と記載する)に還元する。この結果、図3中(m)において、基板上に、酸化銅及びリン含有有機物を含む絶縁層(図3(m)中、「A」と記載する)と、銅及びリン元素を含む導電性パターン(図3(m)中、「B」と記載する)と、が互いに隣接して配置された表層が形成された導電性パターン付き構造体が得られる。導電性パターンは、例えば、配線として利用できる。
【0130】
このように、第1の製造方法では、焼成をレーザ照射で行うことにより、分散体の銅粒子の焼成と、導電性パターンの形成を一度に行うことができる。また、銅粒子の焼成により、分散体に含まれる有機物を分解することができ、得られた導電性パターンにおいて、ハンダぬれ性を高くすることができる。
【0131】
次に、図4を参照して、本実施の形態に係る焼成にプラズマを用いた場合の導電性パターン付き構造体の第2の製造方法について、より具体的に説明する。図4中(n)には、図1(h)に示した、酸化銅を分散した分散体中のヒドラジンを分解させ、ヒドラジンの含有量を低減させてなる分散体Iが示されている。
【0132】
図4中(o)、(p)において、例えばPET製の基板上に、分散体Iを、例えば、インクジェット印刷により所望のパターンで印刷し、酸化銅及びリン含有有機物を含む塗膜(図4(p)中、「CuO」と記載する)を形成する。
【0133】
次に、図4中(p)において、塗膜に対して、例えば、プラズマ照射を行い、塗膜を焼成し、酸化銅を銅に還元する。この結果、図4中(q)において、基板上に、銅及びリン元素を含む導電性パターン(図4(q)中、「B」と記載する)が形成された導電性パターン付き構造体が得られる。
【0134】
このように、焼成をプラズマ照射で行うことにより、分散体に含まれる有機物を効果的に分解することができ、得られた導電性パターンにおいて、ハンダぬれ性を効果的に高くすることができる。
【0135】
図4に示す第2の製造方法では、図3に示す第1の製造方法と異なって、基板上に絶縁層が形成されず、導電性パターンのみを形成することができる。
【0136】
図3及び図4に示す各製造方法を用いて、導電性パターンを形成することにより、線幅が0.1μm以上、1cm以下の導電性パターンを描くことができる。導電性パターンを、銅配線またはアンテナ等として利用できる。酸化銅粒子のナノ粒子の特長をいかし、銅配線の線幅は、0.1μm以上、500μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上、100μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以上、5μm以下がさらにより好ましい。線幅を5μm以下にすると、導電性パターンの視認ができなくなり、意匠性の観点から好ましい。
【0137】
本実施の形態では、基板上に塗膜を形成する工程において、塗膜を転写にて形成することができる。転写方法の一例を説明する。
【0138】
図6、及び図7は、本実施の形態に係る塗膜の転写工程を示す説明図である。図8は、本実施の形態に係る印刷パターンを反転印刷で形成する工程を示す説明図である。
【0139】
図6に示すように、例えば、本実施の形態の分散体を用いて、所望のパターン31を転写体30上に形成する。そして、例えば円柱状の基板40(断面視円形状)を、転写体30と押圧板50との間に挟んだ状態で、押圧板50から転写体30方向に圧力を加えながら押圧板50をスライドさせ、基板40を転写体30上で回転させる。これにより、転写体30の表面に形成されたパターンを、基板40に転写することができる。
【0140】
図6では、転写体30が板状であったが、図7Aでは、転写体30は曲面を備え、その曲面上に沿って、本実施の形態の分散体から成る所望のパターン31が形成されている。図7Aの矢印に示すように、転写体30を基板40に押し当て、その後、図7Bに示すように、転写体30を基板40から離すことで、基板40の表面にパターン31を転写することができる。
【0141】
基板40は、図7に示す断面円形状のみならず、基板表面が、平坦面、凹凸面、曲面、傾斜面と平面との連続面等、様々な形状表面に、パターン31を転写することができる。
【0142】
図7に示すように、転写体30の曲面上にパターン31を形成する場合、例えば、図8に示すように、転写体(ブランケット)30の表面に分散体からなる塗膜31を塗布し、塗膜31に凸部60を接触させることにより、凸部60が接触した部分の塗膜31を、転写体30の表面から取り除く。これにより、転写体30の表面に、所望のパターンを形成することができる。
【0143】
転写体30の材質を問うものではないが、ポリメタクリル酸メチル(PDMS)製であることが、転写性、反転印刷性を向上させることができ、好ましい。
【0144】
図6図7では、転写体30の表面に、所望のパターン31を形成しており、基板40に所望のパターン31を転写することができる。そして、上記したように、パターン31に対して、プラズマ照射等で焼成することで、導電性パターンを形成することができる。
【0145】
或いは、転写体30の表面に塗布された塗膜を、基板40の表面に転写し、基板40の表面に転写された塗膜にレーザ光を照射して導電性パターンを形成することができる。この場合、図2Bと同様に、導電性パターンと絶縁層とが基板上に形成される。
【0146】
[導電性パターンへのハンダ層の形成]
本実施の形態に係る分散体を用いて作製された導電性パターン付き構造体は、ハンダぬれ性を低下させる分散剤や、分散媒が、焼成処理の工程で分解しているため、導電性パターンに被接合体(例えば、電子部品等)をハンダ付けするとき、溶融ハンダがのりやすいという利点がある。
【0147】
本実施の形態において、電子部品とは、半導体、集積回路、ダイオード、液晶ディスプレイなどの能動部品、抵抗、コンデンサ等の受動部品、及び、コネクタ、スイッチ、電線、ヒートシンク、アンテナなどの機構部品のうち、少なくとも1種である。
【0148】
また、導電性パターンへのハンダ層の形成は、リフロー法で行われることが好ましい。リフロー法では、まず、ハンダ付けは、図4(m)及び図5(q)で形成された導電性パターンの一部、例えば、ランドの表面にソルダペースト(クリームハンダ)を塗布する。ソルダペーストの塗布は、例えば、メタルマスク及びメタルスキージを用いたコンタクト印刷により行われる。これにより、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される。すなわち、図4(m)の工程の後、導電性パターンの表面の一部にハンダ層が形成される導電性パターン付き構造体が得られる。また、図5(q)の工程の後、導電性パターンの表面の一部に、ハンダ層が形成される導電性パターン付き構造体が得られる。ハンダ層が形成される導電性パターンの表面の一部は、特に面積は限定されず、導電性パターンと電子部品とが接合可能な面積であればよい。
【0149】
次に、塗布されたソルダペースト(ハンダ層)の一部に、電子部品の被接合部を接触させた状態になるように電子部品を導電性パターン付き構造体上に載置する。その後、電子部品が載置された導電性パターン付き構造体を、例えば、リフロー炉に通して加熱して、導電性パターンの一部(ランド等)及び電子部品の被接合部をハンダ付けする。
【0150】
本実施の形態に係る導電性パターン付き構造体及び製品の製造方法によれば、分散体を焼成して導電性パターンを形成するため、分散体に含まれる有機物を分解できる。これにより、得られた導電性パターンにおいて、ハンダぬれ性を高くでき、導電性パターンの表面にハンダ層を容易に形成することができる。このため、電子部品を容易にハンダ付けすることができる。この結果、導電性パターンと、電子部品の被接合部とを接合するハンダ層の不良の発生を防ぎ、高い歩留まりで、電子部品がハンダ付けされた導電性パターン付き構造体を製造することができる。
【0151】
焼成処理の方法には、本発明の効果を発揮する導電性パターンを形成可能であれば、特に限定されないが、具体例としては、焼却炉、プラズマ焼成法、光焼成法などを用いる方法が挙げられる。光焼成におけるレーザ照射においては、分散体で塗膜を形成し、塗膜にレーザ照射することで、銅粒子の焼成と、パターニングを一度に行うことができる。その他の焼成法においては、分散体で所望のパターンを印刷し、これを焼成することで、導電性パターンを得ることができる。
【0152】
[焼成炉]
酸素の影響を受けやすい焼成炉などで焼成を行う方法では、非酸化性雰囲気において分散体の塗膜を処理することが好ましい。また、分散体中に含まれる有機成分だけでは酸化銅が還元されにくい場合、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。非酸化性雰囲気とは、酸素などの酸化性ガスを含まない雰囲気であり、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性ガスで満たされた雰囲気である。また還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素などの還元性ガスが存在する雰囲気を指すが、不活性ガスと混合して使用してよい。これらのガスを焼成炉中に充填し密閉系でもしくはガスを連続的に流しながら分散体の塗膜を焼成してもよい。また、焼成は、加圧雰囲気で行ってもよいし減圧雰囲気で行ってもよい。
【0153】
[プラズマ焼成法]
本実施形態のプラズマ法は、焼成炉を用いる方法と比較し、より低い温度での処理が可能である。したがって、プラズマ法は、耐熱性の低い樹脂フィルムを基材とする場合の焼成法として、よりよい方法の一つである。またプラズマにより、パターン表面の有機物質除去や酸化膜の除去が可能であるため、良好なハンダぬれ性を確保できるという利点もある。具体的には、還元性ガスもしくは還元性ガスと不活性ガスとの混合ガスをチャンバ内に流し、マイクロ波によりプラズマを発生させ、これにより生成する活性種を、還元または焼結に必要な加熱源として、さらには分散剤などに含まれる有機物の分解に利用し導電性パターンを得る方法である。
【0154】
特に、金属部分では活性種の失活が多く、金属部分が選択的に加熱され、基板自体の温度は上がりにくいため、基板として樹脂フィルムにも適用可能である。分散体は金属として銅を含み、酸化銅は焼成が進むにつれ銅に変化するためパターン部分のみの加熱が促進される。また導電性パターン中に分散剤やバインダ成分の有機物が残ると焼結の妨げとなり、抵抗が上がる傾向にあるが、プラズマ法は導体パターン中の有機物除去効果が大きい。プラズマ法により、塗膜の表面の有機物及び酸化膜の除去が可能であるため、導電性パターンのハンダぬれ性を効果的に改善できるという利点もある。
【0155】
還元性ガス成分としては水素など、不活性ガス成分としては窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができる。これらは単独で、もしくは還元ガス成分と不活性ガス成分を任意の割合で混合して用いてもよい。また不活性ガス成分を二種以上混合し用いてもよい。
【0156】
プラズマ焼成法は、マイクロ波投入パワー、導入ガス流量、チャンバ内圧、プラズマ発生源から処理サンプルまでの距離、処理サンプル温度、処理時間での調整が可能であり、これらを調整することで処理の強度を変えることができる。従って、上記調整項目の最適化を図れば、無機材料の基板はもちろんのこと、有機材料の熱硬化性樹脂フィルム、紙、耐熱性の低い熱可塑性樹脂フィルム、例えば、PET、PENを基板として利用し、抵抗の低い導電性パターンを得ることが可能となる。但し、最適条件は、装置構造やサンプル種類により異なるため、状況に合わせ調整する。
【0157】
[光焼成法]
本実施形態の光焼成法は、光源としてキセノンなどの放電管を用いたフラッシュ光方式やレーザ光方式が適用可能である。これらの方法は強度の大きい光を短時間露光し、基板上に塗布した分散体を短時間で高温に上昇させ焼成する方法で、酸化銅の還元、銅粒子の焼結、これらの一体化、及び有機成分の分解を行い、導電性パターンを形成する方法である。焼成時間がごく短時間であるため基板へのダメージが少ない方法で、耐熱性の低い樹脂フィルム基板への適用が可能である。
【0158】
フラッシュ光方式とは、キセノン放電管を用い、コンデンサーに蓄えられた電荷を瞬時に放電する方式で、大光量のパルス光を発生させ、基板上に形成された分散体に照射することにより酸化銅を瞬時に高温に加熱し、導電性パターンに変化させる方法である。露光量は、光強度、発光時間、光照射間隔、回数で調整可能であり基板の光透過性が大きければ、耐熱性の低い樹脂基板、例えばPET、PENや紙などへも、分散体による導電性パターンの形成が可能となる。
【0159】
発光光源は異なるが、レーザ光源を用いても同様な効果が得られる。レーザの場合は、フラッシュ光方式の調整項目に加え、波長選択の自由度があり、パターンを形成した分散体の光吸収波長や基板の吸収波長を考慮し選択することも可能である。またビームスキャンによる露光が可能であり、基板全面への露光、もしくは部分露光の選択など、露光範囲の調整が容易であるといった特徴がある。レーザの種類としてはYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、YVO(イットリウムバナデイト)、Yb(イッテルビウム)、半導体レーザ(GaAs、GaAlAs、GaInAs)、炭酸ガスなどを用いることができ、基本波だけでなく必要に応じ高調波を取り出して使用してもよい。
【0160】
特に、レーザ光を用いる場合、その発光波長は、300nm以上1500nm以下が好ましい。例えば355nm、405nm、445nm、450nm、532nm、1056nmなどが好ましい。本実施品の酸化銅含有層の吸収領域から、特に好ましくは355nm、405nm、445nm、450nm、532nmのレーザ波長である。レーザを用いることで所望のパターンを平面、立体に自由に作製することができる。本発明の分散体は、分散安定性に優れており、抗菌抗カビ用途、配線作製、パターン作製等に好ましく適用することができる。また、プラズマや光焼成、レーザー焼成により、断線や破損が少ない導電性パターンを平面または立体に得ることができる。例えば、プリント配線板、電子デバイス、透明導電性フィルム、電磁波シールド、帯電防止膜、アンテナなどの製造に好適に用いられる。
【実施例】
【0161】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0162】
[ヒドラジン定量方法]
標準添加法によりヒドラジンの定量を行った。
サンプル(酸化銅インク)50μLに、ヒドラジン33μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%を含有したアセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0163】
同じく、サンプル(酸化銅インク)50μLに、ヒドラジン66μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%を含有したアセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0164】
同じく、サンプル(酸化銅インク)50μLに、ヒドラジン133μg、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%を含有したアセトニトリル溶液1mlを加えた。最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0165】
最後に、サンプル(酸化銅インク)50μLに、ヒドラジンを加えず、サロゲート物質(ヒドラジン15)33μg、ベンズアルデヒド1%を含有したアセトニトリル溶液1mlを加え、最後にリン酸20μLを加え、4時間後、GC/MS測定を行った。
【0166】
上記4点のGC/MS測定からm/z=207のクロマトグラムラムよりヒドラジンのピーク面積値を得た。次にm/z=209のマスクロマトグラムよりサロゲートのピーク面積値を得た。x軸に、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量、y軸に、ヒドラジンのピーク面積値/サロゲート物質のピーク面積値をとり、標準添加法による検量線を得た。
【0167】
検量線から得られたY切片の値を、添加したヒドラジンの重量/添加したサロゲート物質の重量で除し、ヒドラジンの重量を得た。
【0168】
[粒子径測定]
酸化銅インクの平均粒子径は、大塚電子製FPAR−1000を用いてキュムラント法によって測定した。
【0169】
(実施例1)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2−プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を−5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK−145(ビッグケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液1365gを得た。さらに空気で24時間バブリングした。
【0170】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は26nmであった。ヒドラジン割合は600ppmであった。
【0171】
(実施例2)
実施例1で得られた酸化第一銅分散液を、酸素で24時間バブリングした。
【0172】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は27nmであった。ヒドラジン割合は、500ppmであった。
【0173】
(実施例3)
実施例1で得られた酸化第一銅分散液を、大気下でホモジナイザーを用いて5分間攪拌した。
【0174】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は、2200ppmであった。
【0175】
(実施例4)
実施例1で得られた酸化第一銅分散液30gに、30%過酸化水素水(和光純薬製)0.64gを添加し、5分間攪拌した。
【0176】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は、1600ppmであった。
【0177】
(実施例5)
実施例1で得られた酸化第一銅分散液3000gに、マイクロバブル発生装置(エンバイロ・ビジョン株式会社YJ−6−MBSA−R)を使ってマイクロバブルバブリングを30分間行った。
【0178】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、粒子径は23nmであった。ヒドラジン割合は、500ppmであった。
【0179】
(比較例1)
蒸留水(共栄製薬株式会社製)7560g、1,2−プロピレングリコール(関東化学株式会社製)3494gの混合溶媒中に酢酸銅(II)一水和物(関東化学株式会社製)806gを溶かし、外部温調器によって液温を−5℃にした。得られた溶液にヒドラジン一水和物(東京化成工業株式会社製)235gを窒素雰囲気中で20分間かけて加え、30分間攪拌した後、外部温調器によって液温を25℃にし、窒素雰囲気中で90分間攪拌した。攪拌後、得られた分散液を遠心分離で上澄みと沈殿物に分離した。得られた沈殿物390gに、DisperBYK−145(ビッグケミー製)54.8g、サーフロンS611(セイミケミカル製)13.7g及びエタノール(関東化学株式会社製)907gを加え、窒素雰囲気下でホモジナイザーを用いて分散し酸化第一銅分散液(酸化銅インク)1365gを得た。
【0180】
分散液は良好に分散されていた。酸化第一銅の含有割合は20%であり、平均二次粒子径は22nmであった。ヒドラジン割合は3000ppmであった。
【0181】
以上のように、実施例は、比較例に対して、良好な分散安定性を維持しつつ、ヒドラジンの含有量を低減できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0182】
本発明の分散体は、分散安定性に優れており、本発明の分散体を用いることで、プラズマや光焼成処理により、断線や破損が少ない導電性パターンを得ることができる。そのため、本発明の分散体は、抗菌抗カビ用途、配線作製、パターン作製等に好ましく適用することができる。例えば、プリント配線板、電子デバイス、透明導電性フィルム、電磁波シールド、帯電防止膜、アンテナなどの製造に好適に用いられる。また、本発明では、分散体を取り扱う際の安全面に優れており、作業性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0183】
1 分散体
2 酸化銅
3 リン酸エステル塩
10 導電性パターン付き構造体
11 基板
12 絶縁層
13 導電性パターン
14 表層




図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8