特許第6848029号(P6848029)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6848029
(24)【登録日】2021年3月5日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】回転電機の回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 17/16 20060101AFI20210315BHJP
   H02K 3/24 20060101ALI20210315BHJP
   H02K 9/02 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   H02K17/16 A
   H02K3/24 C
   H02K9/02 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-185091(P2019-185091)
(22)【出願日】2019年10月8日
【審査請求日】2020年12月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中濱 敬文
(72)【発明者】
【氏名】清水 伸一
(72)【発明者】
【氏名】村上 理
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 紘和
(72)【発明者】
【氏名】小山 泰平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暁
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−233784(JP,A)
【文献】 特開2002−125352(JP,A)
【文献】 特開平6−284608(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0073216(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 17/16
H02K 3/24
H02K 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線の回りで回転自在な回転シャフトと、
前記回転シャフトに同軸的に固定され、軸方向の一端側に位置する第1端面および軸方向の他端側に位置する第2端面と、前記中心軸線と同軸の外周面と、それぞれ軸方向に貫通して形成され前記第1端面および前記第2端面に開口し前記外周面の周方向に間隔を置いて設けられた複数のスロットと、それぞれ前記外周面に形成され前記軸方向に延在しているとともに前記スロットに連通している複数の開口部と、を有する回転子鉄心と、
それぞれ前記スロットに挿通され前記第1端面から軸方向に延出する第1バーエンドおよび前記第2端面から軸方向に延出する第2バーエンドを有する複数本のロータバーと、
前記第1バーエンドの延出端に固定された環状の第1エンドリングと、
前記第2バーエンドの延出端に固定された環状の第2エンドリングと、を備え、
前記ロータバーの各々は、前記軸方向に延在し前記開口部に対向したスエージ溝と、前記スエージ溝に連続して前記第1バーエンドに形成された第1エンドスエージ溝と、を有し、前記第1エンドスエージ溝は、前記第1端面の位置から前記第1エンドリングに向かって前記回転子鉄心の径方向の外方に傾斜して延びている
回転電機の回転子。
【請求項2】
前記ロータバーの各々は、前記スエージ溝に連続して前記第2バーエンドに形成された第2エンドスエージ溝を有し、前記第2エンドスエージ溝は、前記第2端面の位置から前記第2エンドリングに向かって前記回転子鉄心の径方向の外方に傾斜して延びている請求項1に記載の回転電機の回転子。
【請求項3】
前記第1エンドスエージ溝の前記第1端面から溝端までの軸方向の長さを第1長さとし、前記第2エンドスエージ溝の前記第2端面から溝端までの軸方向の長さを第2長さとすると、前記第1長さと前記第2長さとは互いに異なる請求項2に記載の回転電機の回転子。
【請求項4】
前記ロータバーは、前記開口部に対向する第1辺の長さが前記第1辺と対向する第2辺の長さよりも大きい多角形の断面形状を有している請求項1から3のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【請求項5】
前記開口部は前記周方向の幅を有し、前記周方向の幅は、前記外周面の側から前記スロットの側に向かうに従って拡大している請求項1から4のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【請求項6】
前記ロータバーは、前記周方向の第1幅を有し前記開口部に対向した第1面を備え、前記開口部の前記スロットの側の端の前記周方向の幅は、前記第1幅よりも小さい請求項1から4のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【請求項7】
前記第1エンドスエージ溝は、前記第1端面の位置から溝の延出端まで湾曲して延びている請求項1から6のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【請求項8】
前記第1エンドスエージ溝は、前記第1端面の位置から溝の延出端まで直線的に傾斜して延びている請求項1から6のいずれか1項に記載の回転電機の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、ロータバーを有する回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の一例として、かご型の回転子構造を有する誘導電動機が知られている。かご形の回転子は、ロータ鉄心と、ロータ鉄心に埋め込まれた複数本のロータバーと、ロータ鉄心外で各ロータバーを接続するエンドリングと、を備えている。ロータバーは、ロータ鉄心に設けられたスロットに挿通されている。ロータバーの軸方向両端部(バーエンド)は、ロータ鉄心の両端面からそれぞれ外方に突出している。ロータバーにスエージ加工を施すことにより、例えば、スエージ溝を形成することにより、ロータバーはロータ鉄心のスロットに固定される。通常、スエージ溝は、ロータ鉄心の範囲内に形成され、バーエンドには形成されない。
【0003】
ロータ鉄心の端面からエンドリングまでの間には複数のバーエンドが円周状に並んだ状態であり、回転子の回転に伴い、バーエンドはラジアルファンのように作用する。すなわち、回転子の回転に伴い、風が径方向に流れると共に、バーエンドの外周側では回転子の周速に近い流れの風が生じる。電動機の運転稼働時、ロータバーに電流が流れジュール損によって発熱するが、上記風の流れによりロータバーおよびロータが冷却される。近年、ロウ付け技術の進歩と共に、バーエンド長さは小さくなってきている。これによりバーエンドの放熱面積が減少し冷却性能が低下する。その結果、回転子の温度上昇が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−18344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の実施形態の課題は、冷却性能の向上を図ることが可能な回転電機の回転子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、回転電機の回転子は、中心軸線の回りで回転自在な回転シャフトと、
前記回転シャフトに同軸的に固定され、軸方向の一端側に位置する第1端面および軸方向の他端側に位置する第2端面と、前記中心軸線と同軸の外周面と、それぞれ軸方向に貫通して形成され前記第1端面および前記第2端面に開口し前記外周面の周方向に間隔を置いて設けられた複数のスロットと、それぞれ前記外周面に形成され前記軸方向に延在しているとともに前記スロットに連通している複数の開口部と、を有する回転子鉄心と、それぞれ前記スロットに挿通され前記第1端面から軸方向に延出する第1バーエンドおよび前記第2端面から軸方向に延出する第2バーエンドを有する複数本のロータバーと、前記第1バーエンドの延出端に固定された環状の第1エンドリングと、前記第2バーエンドの延出端に固定された環状の第2エンドリングと、を備えている。前記ロータバーの各々は、前記軸方向に延在し前記開口部に対向したスエージ溝と、前記スエージ溝に連続して前記第1バーエンドに形成された第1エンドスエージ溝と、を有し、前記第1エンドスエージ溝は、前記第1端面の位置から前記第1エンドリングに向かって前記回転子鉄心の径方向の外方に傾斜して延びている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係る回転電機の一部を示す縦断面図。
図2図2は、図1の線A−Aに沿った、前記回転電機の回転子の一部を拡大して示す断面図。
図3図3は、前記回転子の軸方向の一端部を一部破断して示す側面図。
図4図4は、図3の線B−Bに沿った前記回転子の外周部の断面図。
図5図5は、前記ロータバーの一方のバーエンドを模式的に示す断面図。
図6A図6Aは、図3の線C−C沿ったロータバーエンドの断面図。
図6B図6Bは、前記ロータバーエンドのスエージ溝部分を拡大して示す断面図。
図7A図7Aは、図3の線D−Dに沿ったロータバーエンドの断面図。
図7B図7Bは、前記ロータバーエンドのスエージ溝部分を拡大して示す断面図。
図8図8は、前記ロータバーおよびスエージ溝を模式的に示す図。
図9図9は、第1変形例に係る回転子のバーエンド部分を拡大して示す断面図。
図10図10は、第2変形例に係る回転子のロータバー部分を示す断面図。
図11図11は、第3変形例に係る回転子のロータバー部分を示す断面図。
図12図12は、第4変形例に係る回転子のロータバー部分を示す断面図。
図13図13は、第5変形例に係る回転子のロータバー部分を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、図面を参照しながら、この発明の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0009】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る回転電機の中心軸線に沿って半分に分割した部分を示す縦断面図である。
図1に示すように、回転電機10は、例えば、インナーロータ型の回転電機として構成されている。回転電機10は、内部が密閉されたケース12と、ケース12内に配置された固定子(ステータ)14と、かご型の回転子(ロータ)16と、を備えている。
ケース12は、ほぼ円筒状のフレーム18と、フレーム18の軸方向の一端に取付けられこの一端を閉塞した円盤状の第1ブラケット19と、フレーム18の軸方向の他端に取付けられこの他端を閉塞した円盤状の第2ブラケット20と、を有している。第1ブラケット19の中心部に、軸受B1を内蔵した第1軸受ハウジング22aがボルト止めされている。第2ブラケット20の中心部に、軸受B2を内蔵した第2軸受ハウジング22bがボルト止めされている。軸受B1および軸受B2は、回転電機10の中心軸線C1に沿って整列して配置されている。
【0010】
固定子14は、円筒状のステータ鉄心24とステータ鉄心24に巻回されたステータコイル28とを有している。ステータ鉄心24は、その外周面がフレーム18の内周面に係合した状態でフレーム18に支持され、中心軸線C1と同軸的に配置されている。ステータ鉄心24の軸方向両端面には、環状の一対の鉄心押え26a、26bが固定されている。ステータ鉄心24は、磁性材、例えば、珪素鋼板からなる環状の金属板を多数枚積層して構成されている。ステータ鉄心24の内周部に、それぞれ軸方向に延びた複数のスロットが形成されている。ステータコイル28はこれらのスロットに埋め込まれた状態でステータ鉄心24に取付けられている。ステータコイル28のコイルエンド28eはステータ鉄心24の両端面から軸方向に張り出している。
【0011】
回転子16は、回転シャフト30と、回転子鉄心(ロータ鉄心)32と、ロータ鉄心32に埋め込まれた複数本のロータバー40と、ロータバー40に両端に接続された一対のエンドリング42a、42bと、を備えている。回転シャフト30は、中心軸線C1と同軸的にケース12内に配置され、軸方向の一端部および他端部がそれぞれ軸受B1、B2により回転自在に支持されている。回転シャフト30の駆動側端部30aは機外に延出している。駆動歯車装置等を接続するための継手が駆動側端部30aに取り付けられる。
【0012】
ロータ鉄心32は、磁性材、例えば、珪素鋼板からなる環状の金属板を多数枚積層して構成され、ほぼ円筒形状に形成されている。ロータ鉄心32は、回転シャフト30の軸方向のほぼ中央部に取付けられ、ステータ鉄心24の内側に、中心軸線C1と同軸的に配置されている。ロータ鉄心32の外周面は、隙間Gを置いて、ステータ鉄心24の内周面に対向している。ロータ鉄心32の軸方向長さは、ステータ鉄心24の軸方向長さとほぼ等しく形成されている。また、ロータ鉄心32は、軸方向の一端に位置する第1端面32aおよび軸方向の他端に位置する第2端面32bを有している。第1端面32aおよび第2端面32bは、中心軸線C1とほぼ直交して延在している。
ロータ鉄心32は、回転シャフト30に取り付けられた一対の鉄心押え34a、34bにより、軸方向両端側から挟まれるように支持されている。鉄心押え板34a、34bは、環状に形成され、その外径は、ロータ鉄心32の外径よりも小さく形成されている。
【0013】
図2は、図1の線A−Aに沿った回転子の断面図、図4は、回転子のロータバー部分を拡大して示す断面図である。
図1および図2に示すように、ロータ鉄心32および鉄心押え34a、34bには、これらを軸方向に貫通する通風ダクト44が複数個形成されている。複数の通風ダクト44は、中心軸線C1の回りで、円周方向に一定の間隔を置いて設けられている。
ロータ鉄心32の外周部には、それぞれ軸方向に延びる複数のスロット(溝)50が形成され、円周方向に一定の間隔を置いて並んでいる。各スロット50は、ロータ鉄心32を軸方向に貫通して延び、第1端面32aおよび第2端面32bに開口している。また、各スロット50は、周方向の幅W2を有する開口部52を介してロータ鉄心32の外周に開口している。開口部52は、ロータ鉄心32の軸方向の全長に亘って延在している。スロット50の断面形状は、例えば、矩形状に形成されている。スロット50の周方向の幅W1は、開口部52の周方向の幅W2よりも大きく設定されている。
【0014】
ロータバー40は各スロット50に挿通され、ロータ鉄心32の軸方向に延在している。ロータバー40の断面形状は、例えば、スロット50の断面形状に対応した大きさ(寸法)の矩形状に形成されている。図2および図4に示すように、ロータバー40は、互いに対向する一対の短辺側面(上面41aおよび下面41b)および互いに対向する一対の長辺側面(一対の側面41c)を有している。ロータバー40は、上面41aがロータ鉄心32の外周面に向いた状態で、すなわち、上面41aが開口部52に対向した状態で、スロット50の中に配置されている。
図1に示すように、ロータバー40の長手方向の一端部(第1バーエンド)40aは、ロータ鉄心32の第1端面32aから外方に延出している。ロータバー40の長手方向の他端部(第2バーエンド)40bは、ロータ鉄心32の第2端面32bから外方に延出している。第1バーエンド40aの延出長さと第2バーエンド40bの延出長さとはほぼ等しく設定されている。
スエージ加工の一例として、ロータバー40の上面41aにスエージ溝60を形成することにより、ロータバー40をかしめてロータ鉄心32のスロット50に固定している。すなわち、ロータバー40の一対の側面41cをロータ鉄心32に押し付け、ロータ鉄心32に固定する。
【0015】
第1バーエンド40aの延出端に円環状のエンドリング42aが固定されている。エンドリング42aは中心軸線C1と同軸的に配置され、複数のバーエンド40aを互いに連結している。第2バーエンド40bの延出端に円環状のエンドリング42bが固定されている。エンドリング42bは中心軸線C1と同軸的に配置され、複数のバーエンド40bを互いに連結している。ロータバー40およびエンドリング42a、42bは、例えば、アルミニウム、銅など導電性を有する金属材料により形成されている。
複数本のロータバー40および一対のエンドリング42a、42bは、誘導電動機のかご型ロータを構成している。ステータコイル28に通電することにより、ロータ鉄心32が誘導されて回転し、回転軸11がロータ鉄心32と一体に回転される。
【0016】
次に、スエージ溝60について詳細に説明する。
図3は、回転子の軸方向の一端部を一部破断して示す側面図、図4は、図3の線B−Bに沿った回転子の外周部の断面図、図5は、ロータバーの一方のバーエンドを模式的に示す断面図である。
図3および図4に示すように、スエージ溝60は、例えば、三角形状に尖った外周縁を有する円盤状の押圧ローラRを用いて形成する。押圧ローラRの外周部をロータ鉄心32の開口部52を通してロータバー40の上面41aに押し当て、押圧ローラRを回転しながら開口部52に沿って移動させることにより、ロータバー40の上面41aにスエージ溝60を形成する。この際、押圧ローラRをロータバー40の長手方向のほぼ中央から第1バーエンド40aに向かって軸方向に移動させ、次いで、押圧ローラRをロータバー40の長手方向のほぼ中央から第2バーエンド40bに向かって軸方向に移動させる。これにより、ロータバー40において、ロータ鉄心32のスロット50内に位置する領域の全長に亘り、一定深さのスエージ溝60が形成される。スエージ溝60は、三角形の断面形状を有し、三角形の頂点が溝の底縁61を形成している。
【0017】
図3に示すように、スエージ溝60の加工において、押圧ローラRの回転中心C2がロータ鉄心32の第1端面32aと一致する位置まで押圧ローラRを第1バーエンド40a側に移動させる。これにより、スエージ溝60に連続する第1エンドスエージ溝60aが第1バーエンド40aに形成される。図3および図5に示すように、第1エンドスエージ溝60aは、第1端面32aから第1バーエンド40aの延出端に向かって長さL1だけ延出している。第1エンドスエージ溝60aは、第1端面32aから第1溝端S2まで、徐々に深さが浅くなるように形成されている。すなわち、第1エンドスエージ溝60aの底縁61aは、第1端面32aの位置でスエージ溝60の底縁61(基端S1)から上面41a上の第1溝端S2までロータ鉄心32の径方向外方に向かって傾斜して延びている。本実施形態では、底縁61aは、円弧状に湾曲して延在している。
【0018】
図6Aは、図3の線C−C沿ったロータバーエンドの断面図、図6Bは、図6Aに示すロータバーエンドのスエージ溝部分を拡大して示す断面図、図7Aは、図3の線D−Dに沿ったロータバーエンドの断面図、図7Bは、図7Aに示すロータバーエンドのスエージ溝部分を拡大して示す断面図である。
図5図6A図6Bに示すように、第1バーエンド40aに設けられた第1エンドスエージ溝60aにおいて、ロータ鉄心32に近い位置(基端部)では、溝の深さは、スエージ溝60の深さとほぼ等しく、深く形成されている。回転子16が回転することにより、第1バーエンド40aの外周側を流れる空気流CFが発生する。この空気流CFにより、第1エンドスエージ溝60a内に、流速の高い大きな渦流れSW1が生成される。
一方、図7A図7Bに示すように、第1エンドスエージ溝60aにおいて、ロータ鉄心32から離れた位置(先端部)では、溝の深さは前記基端部における溝の深さよりも浅く形成されている。そのため、空気流CFにより、先端部の第1エンドスエージ溝60aの内に、流速の低い小さな渦流れSW2が生成される。
【0019】
図5に示すように、第1エンドスエージ溝60a内では、基端側と先端側とで発生する渦流れの流速および静圧が互いに相違している。すなわち、第1エンドスエージ溝60aの基端側においては渦流れの流速が高く静圧PS1が小さくなり、逆に、第1エンドスエージ溝60aの先端部においては渦流れの流速が低く静圧PS2が大きくなる(PS2>PS1)。これにより、第1エンドスエージ溝60a内では、流速が低く静圧PS2の大きい先端部側から、流速が高く静圧PS1の小さい基端部側へ、軸方向流れAFが生じる。この軸方向流れAFによって、第1エンドスエージ溝60a内の空気は、第1エンドスエージ溝60aの第1溝端(終端)S2の外周側から第1エンドスエージ溝60a内へ空気が流入し、第1エンドスエージ溝60aの立上がり開始点(基端)S1側から第1バーエンド40aの外周側へ流出する。第1エンドスエージ溝60aに流入して循環する空気は第1バーエンド40aから熱を受熱して昇温するものの高温にはならない。このように、スエージ溝60および第1エンドスエージ溝60aを設けることによりロータバー40の放熱面積が増加し、かつ、第1エンドスエージ溝60a内の空気温度が高くならないため、第1バーエンド40aからの放熱が促進される。従って、ロータバー40およびロータ鉄心32の冷却性能が向上し、回転子の温度を低下することが可能となる。
【0020】
なお、上述したように、スエージ溝加工用の押圧ローラRをロータ鉄心32の中央側から第1端面32aに向かって回転させながら押しつけると、ロータバー40は外周側に反ろうとするが、押圧ローラRの回転中心C2がロータ鉄心32の第1端面32aと一致する位置まで押圧ローラRを回転させながら押しつけることによって、ロータバー40の反りを抑え込むことが可能となる。反りの発生を抑制し、ロータバーの先端部を切削するなどの後加工が不要となる。
【0021】
図8は、ロータバーおよびスエージ溝を模式的に示す図である。
スエージ溝は、一方の第1バーエンド40aのみに設けてもよいが、両方のバーエンドに設けても良い。図8に示すように、本実施形態によれば、第2バーエンド40bには、中央のスエージ溝60に連続する第2エンドスエージ溝60bが形成されている。前述した押圧ローラRをロータバー40bの上面41aに押し付けた状態で、ロータ鉄心32の軸方向の中央部から第2バーエンド40bに向けて軸方向に連続して回転させながら移動することにより、ロータバー40の上面41aにスエージ溝60を形成する。スエージ溝60の加工において、押圧ローラRの回転中心C2がロータ鉄心32の第2端面32bよりも僅かに手前に位置するまで押圧ローラRを第2バーエンド40b側に移動させる。これにより、スエージ溝60に連続する第2エンドスエージ溝60bが第2バーエンド40bに形成される。
【0022】
第2エンドスエージ溝60bは、第2端面32bの位置から第2バーエンド40bの延出端に向かって長さL2だけ延出している。軸方向の長さL2は、他端側の第1エンドスエージ溝60aの軸方向の長さL1と異なる。すなわち、長さL2は長さL1よりも短く設定されている(L2<L1)。第2エンドスエージ溝60bは、第2端面32bの位置から第2溝端まで、徐々に深さが浅くなるように形成されている。すなわち、第2エンドスエージ溝60bの底縁61bは、第2端面32bの位置でスエージ溝60の底縁61から上面41a上の第2溝端までロータ鉄心32の径方向外方に向かって傾斜して延びている。本実施形態では、底縁61bは、円弧状に湾曲して延在している。
【0023】
図8に矢印で示すように、回転子16が回転すると、第1エンドスエージ溝60aにおいては、前述したように、軸方向流れAFによって、第1スエージ溝60aの立上がり終端(第1溝端)S2の外周側から第1エンドスエージ溝60a内へ空気が流入し、第1エンドスエージ溝60aの立上がり開始点(基端)S1側から第1バーエンド40aの外周側へ流出する。
第2エンドスエージ溝60bにおいては、軸方向流れによって、第2エンドスエージ溝60bの立上がり終端(第2溝端)の外周側から第2エンドスエージ溝60b内へ空気が流入し、第2エンドスエージ溝60bの立上がり開始点(基端)側から第2バーエンド40bの外周側へ流出する。
【0024】
また、軸方向長さL1が長い第1エンドスエージ溝60aではロータ鉄心32の第1端面32a近傍のスエージ溝は深く、第1バーエンド40aの外周側を流れる空気によって、流速の高い大きな渦流れが生成される。一方、軸方向長さL2が短い第2エンドスエージ溝60bでは、ロータ鉄心32の第2端面32b近傍のスエージ溝は浅く、第2エンドスエージ溝60b内には流速の低い小さな渦流れが生成される。更に、ロータバー40の中央部に形成されているスエージ溝60内では、流速が低く静圧の大きい第2エンドスエージ溝60b側から反対側の流速の高く静圧の低い第1エンドスエージ溝60aの側へ流れる軸方向流れが生起される。空隙、ロータ鉄心32、開口部52の空気がスエージ溝60を通って第1バーエンド40a側へ流れ、第2エンドスエージ溝60b側からスエージ溝60に低温空気が流れ込む。よって、空隙、ロータ鉄心32、開口部52近傍のロータ鉄心、ロータバー40は、より低い温度の空気へ放熱することになるため、回転子16からの放熱が促進され、回転子16の温度低減を図ることが可能となる。
【0025】
以上のように構成された本実施形態に係る回転電機10の回転子16によれば、ロータバー40のスエージ溝60を工夫することによって、ロータバー40およびロータ鉄心32の冷却を促進し、冷却性能の向上を図ることができる。これにより、冷却性能が向上し、温度低減を図ることが可能な回転電機の回転子が得られる。
【0026】
次に、この発明の変形例に係る回転電機の回転子について説明する。なお、以下に説明する変形例において、前述した実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化し、実施形態と異なる部分を中心に詳しく説明する。
(第1変形例)
図9は、第1変形例に係る回転子のバーエンド部分を拡大して示す断面図。
第1エンドスエージ溝60aの底縁61aは、円弧上に傾斜している場合に限らず、図示のように、基端S1から終端S2まで直線的に傾斜して延びていてもよい。
上記のような第1エンドスエージ溝60aにおいても、前述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0027】
(第2変形例)
図10は、第2変形例に係る回転子のロータバー部分を拡大して示す断面図である。
図示のように、第2変形例によれば、ロータバー40の断面形状は、開口部52に対向する上面(第1辺)41aの長さ(周方向の幅)が反対側の下面(回転シャフト側の面)(第2辺)41bの長さ(周方向の幅)よりも大きくなる多角形、例えば、台形に形成されている。一対の側面41cは、下面41bに向かって先細となるように傾斜している。ロータ鉄心32のスロット50は、ロータバー40に対応した寸法および形状の断面形状に形成されている。上面41aの幅W1は、開口部52の幅W2よりも大きい。
【0028】
スエージ溝加工用の押圧ローラRの周縁部を開口部52を通してロータバー40の上面41aに押し付けると、ロータバー40は、一対の側面41cがスロット50の斜辺51cへ押圧され、同時に、ロータバー40の上面41a側の肩部43bが塑性変形してスロット50の肩部51bへ押圧された状態で、ロータ鉄心32に固定される。ロータ鉄心32の軸方向の一端から他端に亘り、ロータバー40の側面41cとスロット50の斜面51cとが当接し、およびロータバー40の肩部43bとスロット50の肩部51bとが当接し、ロータバー40とロータ鉄心32との間の接触熱抵抗が小さくなる。これにより、ロータバー40の発熱は、熱容量の大きいロータ鉄心32および回転シャフトへ伝わり易くなり、ロータバー40からの放熱が促進され、ロータバー40およびロータ鉄心32の温度を低減することが可能となる。その他、第2変形例においても前述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0029】
(第3変形例)
図11は、第3変形例に係る回転子のロータバー部分を拡大して示す断面図である。
図示のように、第3変形例によれば、ロータ鉄心32の開口部52は、ロータ鉄心32の外周面からスロット50の上端、すなわち、ロータバー40の上面41aに向かって徐々に幅が広くなるように形成されている。開口部52のスロット50側の端の幅は、上面41aの幅W1とほぼ同一としている。このように開口部52の幅を拡大することにより、開口部52の断面積が大きくしている。
軸方向通風方式の回転子、またはロータ鉄心をスキューさせる構造の回転電機において、ロータ鉄心32の軸方向の両側で圧力に差がある場合、機内の空気が開口部52を軸方向に通風する。この際、上記のように開口部52の断面積を大きく設定することにより、通風抵抗が小さくなり流量が増加する。これにより、ロータ鉄心32およびロータバー40からの放熱が促進され、回転子の温度低減を図ることが可能となる。
【0030】
(第4変形例)
図12は、第4変形例に係る回転子のロータバー部分を拡大して示す断面図である。
図示のように、第3変形例によれば、ロータ鉄心32の開口部52は、ロータ鉄心32の外周面からスロット50の上端、すなわち、ロータバー40の上面41aに向かって徐々に幅が広くなるように形成されている。開口部52のスロット50側の端の幅は、上面41aの幅W1よりも小さく設定されている。このように開口部52の幅を拡大することにより、開口部52の断面積が大きくしている。
【0031】
ロータバー40の上面41aの幅W1が開口部52の下端の幅よりも大きいため、押圧ローラRの周縁部をロータバー40の上面41aに押し付けると、ロータバー40は、一対の側面41cがスロット50の斜辺51cへ押圧され、同時に、ロータバー40の上面41a側の肩部43bが塑性変形してスロット50の肩部51bへ押圧された状態で、ロータ鉄心32に固定される。ロータ鉄心32の軸方向の一端から他端に亘り、ロータバー40の側面41cとスロット50の斜面51cとが当接し、およびロータバー40の肩部43bとスロット50の肩部51bとが当接し、ロータバー40とロータ鉄心32との間の接触熱抵抗が小さくなる。また、開口部52の幅を拡大することにより、軸方向流れの通風抵抗が小さくなり、通風流量が増大する。これにより、ロータバー40およびロータ鉄心32の放熱を促進し、回転子の冷却性の向上を図ることができる。
【0032】
(第5変形例)
図13は、第5変形例に係る回転子のロータバー部分を拡大して示す断面図である。
図示のように、ロータバー40の断面形状は、台形に限らず、他の多角形、例えば、5角形の断面としても良い。ロータバー40は、開口部52に対向する上面41aと反対側の下面41bとを有し、上面41aにスエージ溝60が設けられている。ロータバー40は、上面41aと下面41bとのほぼ中間で幅W1が最も大きくなっている。そして、それぞれ屈曲して傾斜する側面41cがスロット50の対応する斜面に押し付けられている。開口部52のスロット側の端部は、周方向の幅が徐々に拡大し、ロータバー40の上面と幅とほぼ一致している。
上記構成の第5変形例においても、前述した第3および第4変形例と同様の作用効果を得ることができる。
【0033】
なお、本発明のいくつかの実施形態および変形例を説明したが、これらの実施形態および変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
10…回転電機、14…固定子、16…回転子、24…固定子鉄心、
28…電機子巻線、30…回転シャフト、32…回転子鉄心、
32a…第1端面、32b…第2端面、40…ロータバー、
40a…第1バーエンド、40b…第2バーエンド、42a、42b…エンドリング、
50…スロット、52…開口部、60…スエージ溝、60a…第1エンドスエージ溝、
60b…第2エンドスエージ溝、61、61a、61b…底縁
【要約】
【課題】冷却性能の向上を図ることが可能な回転電機の回転子を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、回転電機の回転子は、回転シャフト30と、回転シャフトに同軸的に固定された回転子鉄心32と、それぞれ回転子鉄心のスロット50に挿通され回転子鉄心の第1端面32aから軸方向に延出する第1バーエンド40aおよび回転子鉄心の第2端面から軸方向に延出する第2バーエンドを有する複数本のロータバー60と、第1バーエンドの延出端に固定された環状の第1エンドリング42aと、第2バーエンドの延出端に固定された環状の第2エンドリングと、を備えている。ロータバーの各々は、軸方向に延在し開口部に対向したスエージ溝61と、スエージ溝に連続して第1バーエンドに形成された第1エンドスエージ溝61aと、を有し、第1エンドスエージ溝は、第1端面32aの位置から第1エンドリングに向かって回転子鉄心の径方向の外方に傾斜して延びている。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13