(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高圧側が電力系統に接続される変圧器の低圧側の電源に固定子巻線を接続した巻線形誘導機の回転子巻線と交流励磁装置との間の回路に接続され、当該回路に過電圧が発生したときに当該回路を短絡させる短絡器を備え、前記短絡器の短絡動作中の通電電流が予め規定した電流規定値以下であり、且つ、前記短絡器の短絡動作の経過時間が予め規定した動作継続時間規定値以上であることを条件に、前記短絡器の短絡状態を強制的に解除する制御を行う制御装置を備えた可変速揚水発電システムの過電圧保護装置において、
前記制御装置は、当該過電圧保護装置の動作継続時間が予め規定した過電圧保護装置連続動作規定時間以上であることを条件に、当該可変速揚水発電システムを前記電力系統から切り離す制御を行い、
前記過電圧保護装置連続動作規定時間を、当該可変速揚水発電システムの系統事故前のすべりまたはすべり周波数もしくは回転速度の関数としてあるいは有効電力の関数として規定した、可変速揚水発電システムの過電圧保護装置。
【背景技術】
【0002】
二次励磁式の可変速揚水発電システムの過電圧保護装置においては、発電システムが電力系統に連系する地点またはその至近端での三相短絡故障などの事故電流が大きい重大故障の場合、二次回路に誘起される過大な電圧を二次回路中に設けた短絡器を用いて短絡することによってその過電圧を抑制する。
【0003】
可変速揚水発電システムの交流励磁装置(二次励磁装置)は、周波数変換器により構成され、当該短絡中に動作を継続させると短絡電流により損傷が起きる可能性があるため、上記故障の際には当該二次励磁装置を停止する。
【0004】
上記二次回路の短絡状態が継続すると、可変速揚水発電システムの発電電動機は二次短絡した誘導機の構成となり、励磁電源を系統から受けるとともに、系統との間で大きな有効電力の授受を行うため、系統の安定のために、早期に系統と連系する主回路遮断器を解列し、二次回路の短絡継続により励磁源を喪失した可変速揚水発電システムを保護停止させる必要がある。
【0005】
しかし、このような至近端の重大事故においても系統遮断器によって事故が除去された後は、その主回路遮断器を遮断することなく運転を継続できるようにすることは、大容量の発電設備である可変速揚水発電システムにおいて重要な課題であった。
【0006】
このような解題を解決するものとしては、系統事故が系統遮断器により除去された後、二次回路の短絡器による短絡状態を二次励磁装置として用いる周波数変換器により強制的に解除し、二次励磁装置による安定な運転を早期に再開させ、主機の運転を継続させることができる可変速揚水発電システムの過電圧保護装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、一実施形態に係る過電圧保護装置を含む可変速揚水発電システムの構成の一例を示す図である。
【0017】
図1に示されるように、本実施形態に係る可変速揚水発電システムは、巻線形誘導機1、周波数変換器4、制御装置5、短絡器6、主変圧器8、並列用遮断器9A、励磁用変圧器16および電流検知器11を含む。周波数変換器4は、巻線形誘導機1の交流励磁装置(二次励磁装置)に相当し、自励式のコンバータ2および自励式のインバータ3を含むほか、直流リンクコンデンサ12や、抵抗器13およびパワー半導体素子14からなるチョッパ15を含む。ここでは、自励式の周波数変換器を例に説明しているが、サイクロコンバータ等の他励式の変換器を用いても良い。制御装置5は、可変速揚水発電システムの通常の運転中は巻線型誘導機1の運転状態に対応した二次励磁電流を与えるように周波数変換器4のインバータ3、コンバータ2を制御し、系統事故時に二次回路に過電圧が発生したときは短絡器6を直ちに短絡させる制御と、後述する条件が成立した後に短絡器6を開放する制御を行う。制御装置5および短絡器6は、本実施形態に係る可変速揚水発電システムの過電圧保護装置(以下、「OVP」と称す場合がある)を構成する。過電圧保護装置は、例えば、周波数変換器4、短絡器6、制御装置5、および電流検知器11で構成してもよく、その制御には可変速揚水発電システムにて検出するインバータ出力電流、二次回路電圧、直流リンク電圧も使用できる。
【0018】
巻線形誘導機1の固定子巻線端子(一次巻線端子)には、並列用遮断器9Aを介して主変圧器8が接続され、巻線形誘導機1の固定子巻線端子の電圧は、主変圧器8により電力系統10の電圧に昇圧されたのち、系統遮断器9を介して電力系統10に接続されている。
【0019】
一方、巻線形誘導機1の回転子巻線端子(二次巻線端子)には、周波数変換器4が接続されている。この周波数変換器4は、巻線形誘導機1の回転子巻線端子と主変圧器8との間の回路に励磁用変圧器16を介して接続され、三相交流電圧を取り込む。
【0020】
周波数変換器4内では、コンバータ2によって三相交流電圧が直流電圧に変換され、直流リンクコンデンサ12の直流電圧が維持される。直流電圧はインバータ3を介してすべり周波数相当の周波数の三相交流電圧に変換される。また、周波数変換器4は、二次巻線に誘起される故障電流が比較的小さい系統事故時の直流リンク電圧上昇を抑制しコンバータ2/インバータ3の運転継続能力を高めるため、抵抗器13とパワー半導体素子14(たとえばGTO、IGBT)とで構成されるチョッパ15を備えている。
【0021】
短絡器6は、巻線形誘導機1の回転子巻線端子と周波数変換器4との間の回路に接続され、当該回路あるいは直流リンク回路にあらかじめ規定した値を超える過電圧が発生したときに当該回路を制御装置5の制御のもとで短絡させる。この短絡器6は、具体的には、周波数変換器4と巻線形誘導機1の回転子巻線端子とを結ぶ励磁電源供給線の各線間に電気的に接続されており、例えば
図2に示されるようにサイリスタ等の他励素子を用いて構成される。なお、
図2の例では、U相、V相、W相の各相間にそれぞれ1個のサイリスタを設けた場合が示されているが、この例に限定されるものではない。
【0022】
制御装置5は、各所に設置された各種センサを通じて、直流リンクコンデンサ12における電圧(コンデンサ電圧)または二次回路電圧の計測値、周波数変換器4から流れる電流(変換器電流)の計測値、短絡器6を流れる電流の計測値を取得する。例えば、短絡器6を流れる電流は、電流検知器11を通じて検知することができる。制御装置5は、取得した各種の計測値に基づき、短絡器6、コンバータ2/インバータ3を構成する各素子を駆動制御する。なお、電流検知器11は、より具体的には、
図2に示されるように短絡器6の各線間に設けたサイリスタ等の短絡スイッチにそれぞれ流れる電流を検出する複数の電流検知器11a、11b、11cで構成しても良い。
【0023】
特に本実施形態の制御装置5は、電力系統10の事故(例えば発電所至近端送電線における短絡事故)の発生に応じて巻線形誘導機1の二次側回路の過電圧を前述のセンサを通じて検出した場合には、短絡器6を短絡させ、その後、短絡器6の短絡動作中の通電電流が予め規定した電流規定値Ith以下であり、且つ、短絡器6の短絡動作の経過時間が予め規定した動作継続時間規定値Tth以上であることを条件に、周波数変換器4により短絡器6を構成するサイリスタに逆電圧を印加することにより短絡器6の短絡状態を強制的に解除する制御を行う(以下、「特徴1」と呼ぶ)。
【0024】
ここで、上述の電流規定値Ithは、周波数変換器4が素子破壊などの支障をきたさないレベルであれば、周波数変換器4の定格電流を超える値とする(以下、「特徴2」と呼ぶ)。このようにすると、短絡器6の短絡状態をより早く解除させることが可能となる。この場合、電流規定値Ithは、周波数変換器4に備えられる素子の最大遮断電流以下の値とする(以下、「特徴3」と呼ぶ)か、あるいは周波数変換器4に対して過電流からの保護を保証するレベルとして予め設定した過電流保護設定値以下の値とする(以下、「特徴4」と呼ぶ)。
【0025】
一方、上述の動作継続時間規定値Tthは、電力系統10の系統事故の除去にかかる時間である事故除去時間以上とする(以下、「特徴5」と呼ぶ)。このときの事故除去時間を、系統保護リレー装置が正常に動作している場合に当該系統事故の除去を行う系統遮断器9が解列し事故除去するまでの最長時間とすることができる。このようにすることにより、確実に事故の除去がなされた後に短絡器6を復帰させる制御を行うことができる。ここで、動作継続時間規定値Tthは、電力系統10の系統事故の除去処理の中で最も早く除去が完了する時間(最短事故除去時間)以上としてもよい(以下、「特徴6」と呼ぶ)。例えば系統事故を除去するまでの保護リレーや遮断器の開路動作を実際に行う時間は、通常上記最長時間より早い場合が多く、Tthをその最短の事故除去時間とすることができる。
【0026】
さらに、動作継続時間規定値Tthをより短くするために、例えば当該過電圧保護装置が過電圧保護処理にかける動作時間(当該過電圧保護装置が二次側回路の過電圧を検出してから短絡器6を短絡させるまでにかかるタイムラグ)をも考慮し、動作継続時間規定値Tthを、上記最短事故除去時間から当該過電圧保護装置が過電圧保護処理にかける動作時間を差し引いた時間以上にしてもよい(以下、「特徴7」と呼ぶ)。このようにすると、短絡器6の短絡動作後の短絡状態の強制解除動作を、系統事故除去後、より早く実施することができる。当該強制解除動作をより早く実施するのは、周波数変換器4を用いた安定運転をできる限り速く再開することが可変速揚水発電システムの安定運転には好ましいからである。
【0027】
電流規定値Ithを大きくし、動作継続時間規定値Tthを短くすると、一旦短絡器6の短絡状態を周波数変換器4により強制的に解除しても、再度二次回路や直流リンク電圧に過電圧が発生し、短絡器6が再動作する場合が考えられる。そこで、制御装置5は、周波数変換器4により短絡器6の短絡状態を強制的に解除した後、予め規定した過電圧保護装置再動作規定時間Tr以内に当該過電圧保護装置の過電圧保護機能が再動作した場合は、短絡器6の短絡再動作中の通電電流が電流規定値Ith以下であり、且つ、短絡器6の短絡再動作の経過時間が動作継続時間規定値Tthよりも短い時間にあらかじめ定めた再動作継続時間規定値Tth2以上であることを条件に、短絡器6の短絡状態を強制的に解除する制御を行う(以下、「特徴8」と呼ぶ)。このようにすることにより、事故除去前に過電圧保護装置の過電圧保護機能が再動作しても、周波数変換器4または短絡器6の通電耐量の範囲内で、短絡器6の短絡動作および短絡状態の強制解除動作を繰り返し実施することができる。
【0028】
また、制御装置5は、短絡器6の短絡動作および短絡状態の強制解除動作の繰り返しを行う場合、当該繰り返しの動作を、短絡器6または周波数変換器4の通電耐量を保証する回数、通電時間または素子温度以内で実施する(以下、「特徴9」と呼ぶ)。このようにすることにより、際限ない繰り返しによって装置故障が発生することを未然に防ぐことができる。
【0029】
また、動作継続時間規定値Tthは、電力系統10の系統事故の中で最も早く除去が完了する事故の除去にかかる時間(最短事故除去時間)より短い時間としてもよい(以下、「特徴10」と呼ぶ)。このようにした場合、動作継続時間規定値Tthを、系統遮断器9が解列し事故除去する時間よりも早くすることができる。系統事故継続中のため過電圧保護装置の短絡動作を繰り返す可能性が高くなるが、周波数変換器4または短絡器6の通電耐量の範囲内での運用のため、機器の損傷することなく、能力限界での運転が可能となる。
【0030】
また、制御装置5は、当該過電圧保護装置の動作継続時間が予め規定した過電圧保護装置連続動作規定時間Tc以上であることを条件に、並列用遮断器9Aを開路し当該可変速揚水発電システムを電力系統10から切り離す制御を行う(以下、「特徴11」と呼ぶ)。このようにすることにより、当該可変速揚水発電システムにおける装置故障等の不具合の発生を未然に防ぐことができる。
【0031】
この場合、過電圧保護装置連続動作規定時間Tcは、例えば短絡器6の通電耐量を保証する動作継続時間Taとするか、あるいはたとえば周波数や電圧の系統保護リレーが動作レベルに到達する時間のように当該可変速揚水発電システムが安定に運転できることを保証する動作継続時間Tbとするか、もしくは両者のうちいずれか短い方としてもよい(以下、「特徴12」と呼ぶ)。また、過電圧保護装置連続動作規定時間Tcは、一定値としても良いが、代わりに例えば当該可変速揚水発電システムの系統事故前のすべりまたはすべり周波数もしくは回転速度の関数としてあるいは有効電力の関数として規定してもよい(以下、「特徴13」と呼ぶ)。
【0032】
ここで、過電圧保護装置連続動作規定時間(OVPリセット時間)Tcを当該可変速揚水発電システムの系統事故前のすべりの関数として表現した場合の例を
図3のグラフに示す。
図3のグラフは、揚水運転中の系統の至近端での系統事故時に二次回路に流れる電流をEMTP等の瞬時値解析で求め、前記Ith以下になったところで、周波数変換器4にて逆電圧をかけて短絡器6を強制的に開放する場合の最大時間をすべりの関数としてプロットして求めたものである。このような関数を使用することにより、短絡器6の強制的な開放による可変速揚水発電システムの運転継続の成否を即座に判断でき、運転継続できない場合には、当該可変速揚水発電システムを電力系統10から即座に切り離して系統への影響を軽減でき、系統の安定運用が可能になる。
【0033】
さらに、上記すべりまたはすべり周波数もしくは回転速度の関数として規定した過電圧保護装置連続動作規定時間Tcが、短絡器6の通電耐量を保証する動作継続時間Taもしくは当該可変速揚水発電システムが安定に運転できることを保証する動作継続時間Tbのうちいずれか短い方を超える場合は、そのときの過電圧保護装置連続動作規定時間Tcを、上記動作継続時間Ta,Tbの内、最も短い時間としてもよい(以下、「特徴14」と呼ぶ)。このようにすることにより、並列用遮断器9Aにより当該可変速揚水発電システムを電力系統10から切り離すべきか否かの判別を、より一層適正に行うことができる。また、このようにした場合、つまり、すべりまたはすべり周波数もしくは回転速度の関数としてあるいは有効電力の関数として規定した時間よりも過電圧保護装置連続動作規定時間Tcが短くなる範囲がある場合、当該すべりまたはすべり周波数もしくは回転速度あるいは有効電力の運転制限域をあらかじめ規定し、当該運転制限域での運転を除外する機能(以下、「特徴15」と呼ぶ)、あるいは、その運転制限域での運転中に系統事故が発生した場合、短絡器6の強制的な解除制御をすることなく、並列用遮断器9Aを開路し可変速揚水発電システムを電力系統10から即座に切り離す機能(以下、「特徴16」と呼ぶ)を備えることができる。
【0034】
また、過電圧保護装置連続動作規定時間(OVPリセット時間)Tcを当該可変速揚水発電システムの系統事故前の運転出力(有効電力)の関数として表現した場合の例を
図4のグラフに示す。
図4のグラフは、発電運転中の系統の至近端での系統事故時に二次回路に流れる電流をEMTP等の瞬時値解析で求め、前記Ith以下になったところで、周波数変換器4にて逆電圧をかけて短絡器6を強制的に開放する場合の最大時間を運転出力(有効電力)の関数としてプロットして求めたものである。このような関数を使用することにより、上記運転制限域がある場合でも当該運転制限域での運転を回避しつつ、万一当該運転制限域を通過中に事故が発生した場合でも、短絡器6の開放を待つことなく瞬時に系統から可変速揚水発電システムを解列して系統への影響を軽減でき、系統の安定運用が可能になる。
【0035】
次に、このように構成された巻線形誘導機1の過電圧保護装置の動作を、
図5を用いて説明する。
図5(a)は制御装置5が生成する各種信号のタイムチャートを、
図5(b)は周波数変換器4の直流リンク回路の電圧の波形を、
図5(c)は短絡器6の通電電流(の大きさ)の波形をそれぞれ示す。
【0036】
図5(a)に示すように時刻T1で電力系統10に事故が発生し、巻線形誘導機1の一次側巻線に事故電流が流れると、巻線形誘導機1の二次巻線にも当該事故電流が誘起される。この事故電流はインバータ3を介して直流リンクコンデンサ12を充電し、軽微な系統事故では十分な電圧抑制能力を有するチョッパ15の能力を超えると、
図5(b)に示すように周波数変換器4の直流電圧が大きく上昇する。
【0037】
制御装置5は、
図5(a)に示すように周波数変換器4の直流電圧が規定値を超えたタイミング(時刻T2)で過電圧を検出し、OVPゲート信号により短絡器6を動作させ、それと同時にOVP動作継続要求信号を出力して動作継続時間規定値Tth(例えば60ms)のカウントを開始する。これにより、短絡器6には
図5(c)に示すように通電電流が流れ、周波数変換器4の直流電圧は
図5(b)に示すように下降する。
【0038】
その後、系統保護リレーシステムが動作することで、電力系統10内の系統遮断器9が開路し、時刻T0で系統事故の除去が完了すると、系統電圧が定格電圧近くに復帰し、故障電流は一旦小さくなるが、短絡器6を短絡させたままではその後急速に増加していく。
【0039】
次に、制御装置5は、
図5(a)に示す動作継続時間規定値Tthが経過し、且つ、
図5(c)に示す短絡器6の短絡動作中の通電電流が予め規定した電流規定値Ith以下となるタイミング(時刻T3)で、OVPリセット制御信号により周波数変換器4を再起動する指令を出し、さらに短絡器6の各相に流れる電流を電流検知器11により観測することにより電流の極性の情報を取得し、周波数変換器4の点弧するアームを適切に決定することにより電流を打ち消す方向に直流電圧を印加し、瞬時に短絡器6に通電している電流を零にすることにより短絡器6の短絡状態の解除を実施し、時刻T4で短絡器6の短絡状態の解除を完了させる。これにより、
図5(c)に示すように短絡器6には通電電流が流れなくなり、
図5(b)に示すように周波数変換器4の直流電圧は一瞬下がった後に定常の値に戻る。
【0040】
正常に短絡状態が解除された時点で周波数変換器4を通常運転とすることで、事故前と同様にすべり周波数と同等の周波数の交流電圧を周波数変換器4から出力させ、事故点が除去された時点で当該可変速揚水発電システムを通常の運転状態に復帰させる。
【0041】
前述した特徴1乃至4は、このように動作する過電圧保護装置のIthの設定に関する特徴を示したものであり、従来技術では通常運転時の最大電流としていた設定値をより大きくすることにより、短絡器6を短絡状態から解除する能力を向上させることができるという効果がある。さらに、前述した特徴5乃至7は、Tthの設定に関する特徴を示したものであり、短絡器6の短絡状態からの解除をより早くすることにより、短絡器を短絡状態から解除する能力を向上させることができるという効果がある。
【0042】
次に、短絡器6の短絡動作および短絡状態の強制解除動作を繰り返し実施する場合の動作を、
図6を用いて説明する。
図6(a)は制御装置5が生成する各種信号のタイムチャートを、
図6(b)は周波数変換器4の直流リンク回路の電圧の波形を、
図6(c)は短絡器6の通電電流(の大きさ)の波形をそれぞれ示す。
【0043】
図6(a)に示す時刻T1からT4までの動作は
図5(a)と同様となる。ただし、Ithをより大きく、Tthをより短くしたこととも相まって、短絡状態を解除した後の過渡直流分の影響が大きく、タイミングT4の後の処理において、周波数変換器4が通常の運転を再開した後に直流電圧の上昇を抑制しきれずに、
図6(b)に示すように時刻T5で過電圧となり、
図6(c)に示すように短絡器6が再動作し通電電流が再度流れる場合がある。この場合も、二次電流には概系統周波数の交流成分が存在するため、次の周期で再度Ith以下になることがあり、そのタイミング(時刻T6)を捉えることができれば、再度変換器4により短絡器6に逆電圧をかけて強制的に通電電流をゼロにすることにより、時刻T7で短絡状態を解除し、その後変換器4にて通常運転を再開することができる。
【0044】
この短絡器6の再動作は系統事故による大きな故障電流によるものではないため、再度の運転再開のために最初の動作と同様の時間をTthとして待つ必要は無いが、短絡器6の再動作のときに過電圧または過電流発生で一旦停止した周波数変換器4の素子が安全に運転再開できる時間以上経過した後にするべきである。
【0045】
一例として、T2からT3までの最初のTthを系統遮断器9の動作保証時間を考慮して50msとし、二回目のT5からT6までの再動作時継続時間規定値Tth2を5msとしている。
【0046】
この再動作時継続時間規定値Tth2は、系統事故の場合に誘起しされる大きな故障電流が事故除去や過渡直流分の減衰により十分小さくなる時間ではないため、系統事故時にこの時間で短絡器を強制的に短絡解除すると、再度過電圧が発生することが十分考えられる。したがって、この時間を採用する期間は必要十分な期間に制限を加えるべきである。上記一例では、この期間である過電圧保護装置再動作規定時間Trを二次電流に含まれる概系統周波数成分の1周期に必要に応じて余裕を加えた期間以下として30msとしたものである。この場合、制御装置5は、短絡器6の再度の動作後、前述した動作継続時間規定値Tthよりも短い時間である再動作継続時間規定値Tth2が経過し、且つ、短絡器6の短絡動作中の通電電流が予め規定した電流規定値以下となるタイミングT6で、周波数変換器4を再起動する指令を出し、さらに短絡器6の各相に流れる電流を電流検知器11により観測することにより電流の極性の情報を取得し、周波数変換器4の点弧するアームを適切に決定することにより電流を打ち消す方向に直流電圧を印加し、瞬時に短絡器6に通電している電流を零にすることにより短絡状態を解除させる。
【0047】
正常に短絡状態が解除されたタイミング(時刻T7)で周波数変換器4を通常運転とすることで、事故前と同様にすべり周波数と同等の周波数の交流電圧を周波数変換器4から出力させ、事故点が除去された時点で当該可変速揚水発電システムを通常の運転状態に復帰させる。
【0048】
前述した特徴8,特徴9は、このように短絡器6が再動作する場合の制御の特徴を示したものであり、前述した特徴1乃至7のように短絡器6の短絡を早期化したことにより短絡器6の再動作が発生しても、再度その後系統周波数の1周期程度の間に再度短絡を解除して運転の継続を可能とするため、当該特徴1乃至7を含む制御において用いるIthをより大きく、Tthをより短く選定することが可能になる。
【0049】
また、上記再動作が複数回連続的に発生すると、半導体素子で構成する短絡器6、変換器4の温度が上昇し誤動作や損傷をする可能性があるため、前述した特徴9のようにこれらの通電耐量を保証することができるあらかじめ決めた時間内での繰り返し回数、通電時間、または素子温度以内に制限することもできる。
【0050】
前述した特徴8,特徴9によれば、過電圧保護装置の耐量以内での短絡器6の動作と解除の高速な繰返しを安全に実施することができることから、短絡器6の再動作になる可能性が高い系統故障中であっても、二次回路電流が一旦Ithを下回れば短絡器6の強制解除を行ない、より早期に通常の運転を再開できる可能性を高めることができる。例えば、前述した特徴10のようにすれば、系統故障発生時の動作継続時間規定値Tthを系統事故除去後に限定することなくより短くして系統事故継続中の強制解除動作を行える。
【0051】
なお、上述した動作において、制御装置5は、短絡器6の短絡状態から、電源電圧に対するすべりに応じて予め規定した時間以内に短絡解除が出来ない場合はそれを検出し、電力系統10に及ぼす悪影響を回避するために並列用遮断器9Aを開路し電力系統10から当該可変速揚水発電システムを切り離すことができる。また、制御装置5は、過電圧保護装置連続動作規定時間Tcを経過しても復帰が出来ない可能性があるものとして予め定めたすべりの範囲(運転範囲)を運転禁止帯として運転を回避するかあるいは所定時間内に高速に通過させるように制御することもできる。過電圧保護装置連続動作規定時間Tcは、
図5、
図6に記載していないが、当該図のリセット完了のタイミングより前記Tcが早い場合が上記の状態であり、
図3にはその運転状態になることを回避するかあるいは所定時間内に高速に通過させる制御を行う運転範囲の一例が示されている。
【0052】
このように、種々な運転条件に応じて運転方法を適切に決定することにより、巻線形誘導機1の二次巻線や周波数変換器4の保護の観点からも電力系統10への悪影響という観点からも安全に運転でき、さらに短絡状態の長期化にはつながらず、短時間での復帰を実現することができる。このような効果は、例えば前述した特徴11乃至16からも得ることができる。
【0053】
以上詳述したように、上述した実施形態によれば、故障電流の影響が大きい発電所連系点付近での三相短絡故障時においても、二次回路の短絡器の短絡状態を高速で解除し交流励磁装置による安定な運転を再開させることで、系統遮断器による事故除去が成功した後には並列用遮断器による系統からの解列や主機の停止を必要としない可変速揚水発電システムの過電圧保護装置を提供することができる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。