(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6848164
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】冷却曲線からの粗大介在物判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/205 20190101AFI20210315BHJP
G01N 25/02 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
G01N33/205
G01N25/02 B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2020-114547(P2020-114547)
(22)【出願日】2020年7月2日
【審査請求日】2020年7月2日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509012636
【氏名又は名称】エコ・システム有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146020
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 善光
(74)【代理人】
【識別番号】100062328
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 剛啓
(72)【発明者】
【氏名】鋤田 敏雄
【審査官】
北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−228340(JP,A)
【文献】
特開2012−032178(JP,A)
【文献】
特開2010−162547(JP,A)
【文献】
特開2019−157231(JP,A)
【文献】
北岡 山治,溶湯処理技術、溶湯品質とその評価−Kモールド法による介在物の管理−,SOKEIZAI,2011年,Vol.52 No.9,2-8
【文献】
北岡 山治,Kモールド法によるアルミニウム合溶湯中の介在物挙動調査,第146回全国講演会講演概要集,社団法人 日本鋳造工学会,2005年,セッションID:14,16,DOI:https://doi.org/10.11279/jfeskouen.146_16
【文献】
小林 能直,介在物のナノ化プロセス−急冷プロセスを用いた鉄鋼中不純物有効利用−,NIMS NOW,独立行政法人 物質・材料研究機構,2005年 9月10日,Vol.5 No.9
【文献】
天野 勝太,窒素含有鋼におけるTi系介在物の生成挙動,鉄と鋼,2014年,Vol.100 No.4,116-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00〜25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造に利用する溶湯の冷却曲線において、共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から、機械加工性に影響する粗大介在物の含有割合を予め設定した複数の区分の中のどの区分に該当するかを判定することを特徴とする冷却曲線からの粗大介在物判定方法。
【請求項2】
鋳造に利用する溶湯の冷却曲線において、
共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から粗大介在物の含有割合を判定する第一判定ステップと、
前記第一判定ステップの判定結果に応じて、溶湯内の粗大介在物の除去をする介在物削減処理を実施する溶湯改善ステップと、
前記溶湯改善ステップ後に、共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から粗大介在物の含有割合を判定する第二判定ステップと、を備えることを特徴とする冷却曲線からの粗大介在物判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造の溶湯の冷却曲線において切削加工等の機械加工性に悪影響を与える粗大介在物を判定する、冷却曲線からの粗大介在物判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶湯が冷却され凝固された材料を旋盤やフライス盤等で切削加工をするときに、切削工具の刃が粗大介在物に当たり切り込んでいくと刃先が欠け、加工対象の製品は寸法精度等で加工不良になるという問題があった。
【0003】
特許文献1には、鋳造に利用する溶湯の清浄度判定方法において、該溶湯の冷却曲線上の初晶過冷度幅から該溶湯の清浄度の判定をする冷却曲線から溶湯の清浄度判定をする方法が開示されている。また、前記溶湯の冷却曲線上において液相中に固相が晶出するまでの範囲内で設定した第一の凝固温度に到達した時間と、固相の状態になった直後の温度から温度降下中の範囲内で設定した第二の凝固温度に到達した時間との差の判定凝固時間から、あるいは、前記差の判定凝固時間及び初晶過冷度幅からから、前記溶湯の清浄度の判定をする冷却曲線から溶湯の清浄度判定をする方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、鋳造に利用する溶湯の清浄度を冷却曲線から得られるデータから判定する清浄度判定方法において、初晶温度到達時から共晶温度到達時までの間で設定した任意の2つの温度間の凝固速度から、その時点における結晶の核とならない不要物質を判定し、共晶温度到達時から固相状態になるまでの共晶反応時間から、その時点における結晶の核とならない不要物質を判定し、及び、固相状態になった直後の温度から温度降下中の範囲で設定した任意の2つの温度間の共晶完了後冷却速度から、その時点における結晶の核とならない不要物質を判定することで、溶湯の清浄度の判定をする冷却曲線から溶湯の清浄度判定方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、試料用ルツボを収納する試験チャンバーと、前記試験チャンバーの内部を減圧する減圧手段と、前記試験チャンバー内の圧力を検出する圧力検出手段とを用い、前記試料用ルツボに試料溶湯を採取し、前記減圧手段による減圧開始以降の、前記圧力検出手段によって検出された圧力変化パターンに基づいて、前記試料溶湯中の介在物量、同介在物外径、または溶存ガス量を判定する溶湯品質評価方法であって、前記圧力変化パターンに含まれる前記減圧開始後から最初の圧力上昇ピーク発生までの初期時間長さ又は最初の前記圧力上昇ピークの高さに基づいて前記試料溶湯の温度条件を合否判定する試料温度エラー判定工程を有する溶湯品質評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4368933号公報
【特許文献2】特許第5427973号公報
【特許文献3】特開2012−32178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の発明は、凝固したときの合金が材料としての欠陥を有することになる原因となる介在物が溶湯中に浮遊する量的レベルを判定する、すなわち溶湯に液相が存する段階で清浄度を判定する方法であり、清浄度が高い判定は介在物が少ないという判定であるが、微細な介在物と粗大介在物との両方含めた介在物しか判定することができないという問題があった。
【0008】
特許文献2の発明は、初晶温度から共晶温度までの間で設定した任意の2つの温度間の凝固速度から、その時点における結晶の核とならない介在物の有無を対象としており、凝固した後に残存する粗大介在物を判定することができないという問題があった。
【0009】
特許文献1の発明及び特許文献2の発明ともに、溶湯に液相が存する段階で清浄度の判定をするので、清浄度の高い溶湯を型に流し込むという有利な効果を奏するが、清浄度を低く許容した設定で使用しようとしたときに、鋳物の切削加工等の機械加工時に切削工具が刃欠けする懸念に対して、粗大介在物の存在や量を判定できないという問題があった。
【0010】
特許文献3の発明は、溶湯中の介在物量や介在物外径を判定するが、坩堝を入れるチャンバーや真空ポンプを準備しなければならないという煩わしさ、溶湯を坩堝に入れた後に採取溶湯温度エラー等のエラーが4か所のうち1か所でもでると、その時点で判定作業を中止しなければならないなどの実用性に欠けるという問題があった。
【0011】
本発明はこうした問題に鑑み創案されたもので、凝固組織になったときの材料の機械加工時の切削工具の刃欠けを生じさせる粗大介在物を溶湯の改善に織り込みできるように判定できる、冷却曲線からの粗大介在物判定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の冷却曲線からの粗大介在物判定方法は、鋳造に利用する溶湯の冷却曲線において、共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度
から、機械加工性に影響する粗大介在物の含有割合を予め設定した複数の区分の中のどの区分に該当するかを判定することを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の冷却曲線からの粗大介在物判定方法は、鋳造に利用する溶湯の冷却曲線において、共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から粗大介在物の含有割合を判定する第一判定ステップと、前記第一判定ステップの判定結果に応じて、溶湯内の粗大介在物の除去をする介在物削減処理を実施する溶湯改善ステップと、前記溶湯改善ステップ後に、共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から粗大介在物の含有割合を判定する第二判定ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明は、粗大介在物が多く存在する材料になる溶湯か、又は、粗大介在物がほとんど存在しない材料になる溶湯かを判定することができる。材料に粗大介在物が多く存在すると、切削工具の刃が欠け加工製品が品質不良になるが、切削工具の刃が欠ける原因となる粗大介在物を有する材料と、切削工具の刃が欠ける原因となる粗大介在物がほとんど存在しない材料とを溶湯工程で選別することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、溶湯工程の段階で、万一粗大介在物が多く存在する材料になることが判定されると、溶湯に対して必要な処置を実施して、切削工具の刃が欠ける原因となる粗大介在物がほとんど存在しない溶湯に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】共晶合金となる溶湯の共晶型2元系状態図及び冷却曲線である。
【
図2】
図1における共晶温度から冷却完了までの範囲Rの拡大説明図である。
【
図3】共晶温度以下の温度域における、粗大介在物が含有されない結晶組織の説明模式図である。
【
図4】共晶温度以下の温度域における、粗大介在物の含有割合が少し見られる結晶組織の説明模式図である。
【
図5】共晶温度以下の温度域における、粗大介在物の含有割合が多く見られる結晶組織の説明模式図である。
【
図6】共晶温度以下の温度域における、粗大介在物の含有割合がさらに多くみられる結晶組織の説明模式図である。
【
図7】
図4〜
図6のいずれかにおける介在物の熱伝導の説明図で、(a)が微細介在物の場合の説明図で、(b)が粗大介在物の場合の説明図である。
【
図8】本発明の冷却曲線からの粗大介在物判定方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
アルミニウム等の非鉄鋳物の凝固組織には、用途に応じて強度、靭性、機械加工性等を付与するため、脱酸処理、脱窒処理、脱水素処理などが実施され、溶解時に介在物が形成される。また、清浄度のみに着目して溶湯の改善処理をすると、介在物の含有割合は減少し微細介在物も減少するが粗大介在物が残存することがある。
【0018】
また、介在物には大きさで分けると、大きさが5μm以下の微細粒子の微細介在物zと、大きさが5μm超の粗大粒子の粗大介在物Zとに分けられ、前記粗大介在物Zの中には大きさが約0.1mmのものもあり目視で視認できる大きさもある。微細介在物zは結晶の核になったりするので有効に利用できるし、核にならなくても機械加工性には悪影響を及ぼさないが、粗大介在物Zは切削工具の刃先に接触し刃先を欠けさせ刃の摩耗が進み刃の寿命を短くするという悪影響がある。
【0019】
発明者は、溶湯の段階で、鋳物の凝固組織に含有される粗大介在物Zの前記凝固組織に対する含有割合を減少させる制御ができるように、炉から汲みだして坩堝(型式ES−CP05、エコ・システム有限会社製)に注入した溶湯の冷却曲線2と粗大介在物Zとの関係性を探るべく種々トライして本発明を想到するに至った。
【0020】
図1の冷却曲線2における共晶の結晶組織ができて温度低下する領域Rでは、
図3〜
図6のいずれかに示すように結晶Gができた組織の中や結晶間の境界付近等に微細介在物zや粗大介在物Zが含有されることがある。
【0021】
ここで各介在物の温度低下の冷却速度rを考えると、
図7(a)に示すように、微細介在物zの場合はその微細介在物zの表面積m1が小であるので、体積が小さい微細介在物z内部の熱伝導の速度が速く、先に温度低下する表面の温度に後から温度低下する中心部n1の温度が同じ温度になるまで極めて短時間で到達すると考え、冷却速度rは速くなると推定した。また、
図7(b)に示すように、粗大介在物Zの場合はその粗大介在物Zの表面積m2が大であるので、体積が大きい粗大介在物Z内部の熱伝導の速度が遅く、先に温度低下する表面の温度に後から温度低下する中心部n2の温度が同じ温度になるまで時間がかかると考え、冷却速度rは遅くなると推定した。
【0022】
本発明の冷却曲線2からの粗大介在物Z判定方法は、鋳造に利用する溶湯の冷却曲線2において、共晶温度T3から常温に至るまでの範囲Rの固相段階における冷却速度rから粗大介在物Zの含有割合を判定する方法である。
【0023】
ここで、
図1において、元素Aと元素Sとの共晶合金となる溶湯の共晶型2元系状態
図1及び冷却曲線2について説明する。液相Lは元素Aと元素Sが溶解しており、固相線Pはα相への元素Sの固溶限界を示し、液相線Qは液相から固相に変わる温度を示す。α相の元素Sの濃度を、C0、C1、C2で表す。
【0024】
図1において、例えば元素Aと元素Sの2元素の共晶型の亜共晶の場合で、α相の元素Sの濃度が濃度C0%の場合、温度T0の液相Lの溶湯が冷却されて液相線Qに達して初晶温度T1になって固相αの初晶が晶出し、さらに温度が下がって共晶温度T3になると固相αと固相βとの結晶組織ができ、さらに固相αと固相βとの結晶組織の状態を維持しながら温度が常温まで低下する。
【0025】
また、
図1において、温度T0から初晶温度T1までの範囲の温度低下は、固相α及び固相βが析出していない液相Lのみの状態であり、液相Lの温度低下が現れる。
【0026】
次に、初晶温度T1と共晶温度T3との間の温度T2のときは、α相と液相Lとの量比は、(固相α):(液相L)=(C2−C0):(C0−C1)で変化する。よって、初晶温度T1と共晶温度T3との間においては、温度降下になるに従い、固相αが液相線Qの変化によって徐々に形成されることが示されている。したがって、初晶温度T1から共晶温度T3までの範囲の温度低下は、固相αと液相Lの温度低下が現れる。
【0027】
次に、共晶温度T3から常温までの範囲Rの温度低下は、固相α及び固相βの結晶G組織の温度低下が現れる。
【0028】
一方、発明者は冷却曲線2の範囲Rの冷却速度rが、同じ非鉄金属の溶湯であっても溶湯によって異なることに気づいた。そこで、前記範囲Rにおける温度低下の冷却速度rには、結晶G及び介在物(微細介在物z、粗大介在物Z)が影響を与えると考え、結晶群の範囲を同一とし結晶Gの冷却速度が同一と仮定すると、介在物の影響で冷却速度rが異なると仮説した。
【0029】
また、前記共晶温度T3から常温に至るまでの範囲Rの固相段階とは、
図1又は
図2において、凝固組織の冷却が進行している範囲Rをいい、共晶温度T3から常温までの範囲W1でも、その冷却途中の任意の範囲W2でもよい。前記範囲W1でも範囲W2での冷却速度は同一溶湯であれば略同一であるのでよい。
【0030】
次に、鋳造に利用する溶湯を坩堝に注入した後の冷却曲線2において、共晶温度T3から常温に至るまでの範囲Rの固相段階における冷却速度rから粗大介在物Zの含有割合を判定するためのデータを把握し仮説を立証した。
【0031】
前記データ把握のために、アルムニウム合金鋳物AC4C(アルミニウム90.1〜93.3%、珪素6.5〜7.5%、その他元素0.2〜2.4%)を使用し、測定装置はアルミ熱分析装置(型式ALTEC−12ST、エコ・システム有限会社製)と坩堝(型式ES−CP05、エコ・システム有限会社製)を使用し、前記坩堝から取り出した試料の切断面の観察に使用した顕微鏡写真は公的機関で撮影した。
【0032】
溶湯の試料は、清浄化溶湯処理して介在物が少ない溶湯の試料群IV、脱酸剤を多く添加して介在物をかなり多くした溶湯の試料群I、前記試料群Iと前記試料群IVの中間の介在物が中程度で少なめの試料群IIIと多めの試料群IIを造り、その結果を表1に示す。
【0034】
図3〜
図6に示す結晶組織は、切断時の試料の断面をほぼ同一の面積とする結晶群の範囲とするので、結晶Gの構成はほぼ同一とみなすことができ、微細介在物zと粗大介在物Zとの含有割合を変化させた。
【0035】
まず、試料群IVは、溶湯の清浄度を高めかつ粗大介在物Zをほとんど含有しない試料群とし、この試料群IVの場合は、
図3に示すように粗大介在物Zはほとんど含有されず、
図2に示すように冷却速度r1を含む冷却速度範囲D1は最も速かった。
【0036】
次に、試料群Iは、溶湯の脱水素処理などの処理後の溶湯に必要な除滓処理をせず凝固させて、粗大介在物Zの含有割合をかなり多くし、この試料群Iの場合は、
図6に示すように粗大介在物Zの含有割合はかなり多く、
図2に示すように冷却速度r4を含む冷却速度範囲D4は最も遅かった。なお、大きさが100μm程度になると試料の表面を磨くと光るので目視でも確認できる。
【0037】
次に、試料群Iと試料群IVとの中間の介在物が中程度で多めの試料群IIは、
図5に示すように粗大介在物Zの含有割合は中程度で、
図2に示すように冷却速度r3を含む冷却速度範囲D3は遅かった。
【0038】
次に、試料群Iと試料群IVとの中間の介在物が中程度で少なめの試料群IIIは、
図4に示すように粗大介在物Zの含有割合は少なく、
図2に示すように冷却速度r2を含む冷却速度範囲D2は少し遅かった。
【0039】
ここで、微細介在物zの冷却速度rへの影響については、その大きさが核になり得る大きさである5μm以下であることから、表面積が極めて小であり体積も極めて小であるので、熱伝導が極めて速いので周囲の結晶Gの冷却速度rに強く影響を受けて結晶Gとほぼ同じ速度で冷却され結晶G(固相α及び固相βの結晶組織)の冷却速度rに影響をほとんど与えないと考えられる。
【0040】
したがって、表1、
図2、
図3〜
図6から、粗大介在物Zが固相α及び固相βの共晶組織の冷却速度に影響を与えることが示され、粗大介在物Zの含有割合がほとんどない場合は冷却速度r1が含まれる冷却速度範囲D1が最も速く、粗大介在物Zの含有割合がかなり多い場合は冷却速度r4が含まれる冷却速度範囲D4が最も遅いことが示された。
【0041】
以上の結果から、まず冷却速度r1を含む冷却速度範囲D1を設定し、次に冷却速度r4を含む冷却速度範囲D4を設定し、その後に、冷却速度範囲D1と冷却速度範囲D4との間を冷却速度範囲D1より少し遅い冷却速度範囲D2と、冷却速度範囲D4より少し遅い冷却速度範囲D3とに分けて、冷却速度範囲D1は粗大介在物Zの含有割合はほとんどない判定とし、冷却速度範囲D4は粗大介在物Zの含有割合がかなり多い判定とし、冷却速度範囲D2は粗大介在物Zの含有割合は少ないという判定をし、冷却速度範囲D3は粗大介在物Zの含有割合は中程度という判定をするように判定基準を策定した。
【0042】
なお、冷却速度範囲D1〜D4は4区分としたが、3区分でもよく、5区分でもよい。機械加工性などの品質評価を考慮して設定すればよい。また、機械加工性を重視する観点からは試料の冷却速度範囲D1が最も好ましい。
【0043】
次に、本発明の冷却曲線からの粗大介在物判定方法10は、
図8に示すように、鋳造に利用する溶湯の冷却曲線2において、共晶温度T3から常温に至るまでの範囲Rの固相段階における冷却速度rから粗大介在物Zの含有割合を判定する第一判定ステップ11と、前記第一判定ステップ11の判定結果に応じて、溶湯内の粗大介在物Zの除去をする介在物削減処理を実施する溶湯改善ステップ12と、前記溶湯改善ステップ12後に、共晶温度T3から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から粗大介在物Zの含有割合を判定する第二判定ステップ13と、を備える。
【0044】
前記溶湯内の粗大介在物Zの除去をする介在物削減処理を実施する溶湯改善は、例えば、介在物を除去する改善をしたいときは除滓処理を実施する。
【0045】
よって、第一判定ステップ11での冷却速度から粗大介在物Zの含有割合を判定結果から、溶湯改善ステップ12で前記判定結果に適する介在物削減処理を実施し、その効果を第二判定ステップ13で確認し、例えば粗大介在物Zの含有割合がほとんどない結果の溶湯になっていれば鋳造工程を進める。
【0046】
なお、第二判定ステップ13で粗大介在物Zの含有割合が目標に達していない場合は、前記目標に到達させるまで溶湯改善ステップ12と第二判定ステップ13のサイクルを繰り返し実施する。
【符号の説明】
【0047】
1 共晶型2元系状態図
2 冷却曲線
10 粗大介在物判定方法
11 第一判定ステップ
12 溶湯改善ステップ
13 第二判定ステップ
D 範囲
G 結晶
L 液相
m 表面積
n 中心部
P 固相線
Q 液相線
R 範囲
T1 初晶温度
T3 共晶温度
r 冷却速度
W 範囲
Z 粗大介在物
z 微細介在物
【要約】 (修正有)
【課題】凝固組織になったときの材料の機械加工時の切削工具の刃欠けを生じさせる粗大介在物を溶湯の改善に織り込みできるように判定できる、冷却曲線からの粗大介在物判定方法を提供する。
【解決手段】鋳造に利用する溶湯の冷却曲線において、共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から粗大介在物の含有割合を判定する第一判定ステップ11と、第一判定ステップ11の判定結果に応じて、溶湯内の粗大介在物の除去をする介在物削減処理を実施する溶湯改善ステップ12と、溶湯改善ステップ12の後に、共晶温度から常温に至るまでの範囲の固相段階における冷却速度から粗大介在物の含有割合を判定する第二判定ステップ13と、を備えることを特徴とする冷却曲線からの粗大介在物判定方法。
【選択図】
図8