特許第6848191号(P6848191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848191
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】粉末状大豆蛋白組成物を含む水産練製品
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20210315BHJP
【FI】
   A23L17/00 101C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-52832(P2016-52832)
(22)【出願日】2016年3月16日
(65)【公開番号】特開2017-163908(P2017-163908A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】馬場 司
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和人
(72)【発明者】
【氏名】中村 靖
【審査官】 小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/129839(WO,A1)
【文献】 特開2011−254702(JP,A)
【文献】 特開2006−141231(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/094608(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/013170(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 11/00−17/60
A23J 1/00− 7/00
A07K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A,B,C及びDの要件を満たす粉末状大豆蛋白組成物が配合されていることを特徴とする、水産練製品。
A)粉末状大豆蛋白組成物の蛋白質含量が固形分中60〜85重量%、
B)粉末状大豆蛋白組成物の18.2重量%水溶液に対して1.64重量%の塩化ナトリウムを添加し、調製したペーストをケーシングチューブに密封後、80℃で30分間湯浴中で加熱し、一晩冷蔵静置して得られるゲルのゼリー強度が100gf・cm以上、
C)粉末状大豆蛋白組成物の5重量%水溶液を30,000×gで1時間遠心分離したときの蛋白質の沈殿率が、遠心分離前の蛋白質濃度に対して5重量%以下、
D)粉末状大豆蛋白組成物の炭水化物含量が固形分中〜40重量%であり、不溶性食物繊維含量が1重量%以下である
【請求項2】
該粉末状大豆蛋白組成物がトランスグルタミナーゼで架橋されている、請求項1記載の水産練製品。
【請求項3】
該粉末状大豆蛋白組成物がトランスグルタミナーゼで架橋されていない、請求項1記載の水産練製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状大豆蛋白組成物を含む水産練製品に関する。
【背景技術】
【0002】
水産物などを原料とした食品には、煮魚、フィッシュフライ、スルメなど様々なものがある。これらの食品の中には、原料から採取した魚肉などをサイレントカッターやニーダーなどで練り、必要に応じ塩溶性蛋白の結着力を利用して、消費者に嗜好される食感が付与されて定着してきたものがある。具体的には、蒲鉾や魚肉ソーセージなどの水産練製品などである。
【0003】
粉末状大豆蛋白は、その加熱ゲル化性や栄養機能が注目され、各種の食品に利用されている。例えば水産練製品の場合、一般に蒲鉾の製造工程では、魚肉すり身に粉末状大豆蛋白を混合あるいは粉末状大豆蛋白をあらかじめ水と油とで混合しエマルジョンの生地にしたものを混合することにより、水産練製品の保水性,抱脂性,結着性などの物性の改良や、あるいは硬さや弾力性などの食感の改良が行われている。この水産練製品の製造時に配合される粉末状大豆蛋白は、水産練製品をメーカーが製造する際のコストを下げる観点から、水産練製品の配合中での加水量をできるだけ高められる、加水能が高いタイプが好まれている。[0]
【0004】
例えば特許文献1〜3では、大豆蛋白素材にトランスグルタミナーゼなどの架橋型の酵素を作用させる方法が用いられている。また、特許文献4では、脱脂豆乳の酸沈処理を経て得られたカードを中和して得られた中和蛋白溶液をBrixが10%未満の状態で加熱処理することにより、ゲル強度や弾力性を高める方法が開示されている。また、水産練製品の食感及び製造時の作業性の向上を目的として、例えばオカラを配合した濃縮大豆蛋白を利用する方法が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2005/094608号
【特許文献2】特開2000−60431号公報
【特許文献3】特開平2−257831号公報
【特許文献4】特開2011−254703号公報
【特許文献5】特開昭54−107553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3のようにトランスグルタミナーゼにより架橋処理した粉末状大豆蛋白では、ゲル強度を高くすることができ、水産練製品への硬さや弾力性の付与と加水量の向上が可能となる。
しかし、粉末状大豆蛋白のゲル化力を発揮させるためにそのゲル化力を高めようとするほど、粉末状大豆蛋白を製造する際の工程中の粘度が上昇してしまい、効率的に製造することが困難となってしまい、その結果粉末状大豆蛋白の製造コストが高くなってしまう。酵素反応度を極端に高めた場合にはかえって粉末状大豆蛋白が水和しにくくなり、機能を発揮できないうえにダマも多く品質が悪化してしまう。
【0007】
そのため製造工程中の粘度を低下させるために、特許文献4のように製造工程中の蛋白質溶液の蛋白質濃度を薄くして加熱処理を行うと粘度を下げることはできるが、製造工程中の乾燥工程に負荷がかかり製造効率が低下する問題がある。
【0008】
一方、特許文献5のような濃縮大豆蛋白の場合には保水性が高いため高加水が可能となるが、ゲル化力が低く弾力もないため、特に水産練製品ではすり身の食感から逸脱してしまう。
このように、従来の粉末状大豆蛋白を水産練製品に配合する場合、製造コストを抑えて高い加水能を実現することは困難である。
【0009】
以上の実情に鑑み、本発明は、水産練製品に使用した際に高加水を可能とすると共に、さらに蛋白質含量が比較的低い領域であっても硬さと弾力性に富んだ食感に改良することができる、水産練製品に適した粉末状大豆蛋白を提供することを目的とする。そして該大豆蛋白素材を使用した水産練製品並びに該大豆蛋白素材を使用した品質に優れた水産練製品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
通常、保水性が高く高加水が可能な粉末状大豆蛋白の場合、蛋白質含量は固形分中90重量%以上必要である。これに対し、本発明者らは、前記の課題を解決すべく研究する中で、比較的低い領域の蛋白質含量を有する粉末状大豆蛋白組成物であっても、水溶液にしたときに30,000×gという極めて高い遠心力で1時間遠心分離した後の上清蛋白質濃度が高い、すなわち遠心沈殿率の低い粉末状大豆蛋白素材組成物は、蛋白質含量が比較的低い領域であっても、保水性が高く加熱ゲルのゼリー強度も高い性質を有する知見を得た。
そしてさらに鋭意研究したところ、当該粉末状大豆蛋白組成物を魚肉すり身に混合し、水産練製品とすることで前記課題を何れも解決することができることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち本発明は、下記の発明を包含する。
(1)下記A,B及びCの要件を満たす粉末状大豆蛋白組成物が配合されていることを特徴とする、水産練製品、
A)粉末状大豆蛋白組成物の蛋白質含量が固形分中60〜85重量%、
B)粉末状大豆蛋白組成物の18.2重量%水溶液に対して1.64重量%の塩化ナトリウムを添加し、調製したペーストをケーシングチューブに密封後、80℃で30分間湯浴中で加熱し、一晩冷蔵静置して得られるゲルのゼリー強度が100gf・cm以上、
C)粉末状大豆蛋白組成物の5重量%水溶液を30,000×gで1時間遠心分離したときの蛋白質の沈殿率が、遠心分離前の蛋白質濃度に対して5重量%以下、
(2)該粉末状大豆蛋白組成物がトランスグルタミナーゼで架橋されている、前記(1)記載の水産練製品、
(3)該粉末状大豆蛋白組成物がトランスグルタミナーゼで架橋されていない、前記(1)記載の水産練製品、
(4)該粉末状大豆蛋白組成物の炭水化物含量が固形分中1〜40重量%である、前記(1)〜(3)の何れか1項記載の水産練製品、
(5)該粉末状大豆蛋白組成物中に、炭水化物として澱粉を含む、前記(4)記載の水産練製品。
【発明の効果】
【0012】
蒲鉾等の水産練製品の製造の際に広く採用されている粉末状大豆蛋白を混合する際に、本発明の特定の組成及び物性を有する粉末状大豆蛋白組成物を選択することにより、該水産練製品は高加水の配合で組み立てることが可能となり、さらに硬さと弾力性にも優れた食感の水産練製品に改良することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0014】
(粉末状大豆蛋白)
一般に「粉末状大豆蛋白」の用語は、粉末状の製品形態を有し、大豆を原料とした蛋白質を主体とする蛋白質素材をいう。
例えば典型的には大豆原料として脱脂大豆フレークを用い、これを適量の水中に分散させて水抽出を行い、繊維質を主体とする不溶性画分を除去して得られる抽出大豆蛋白(脱脂豆乳)や、または該抽出大豆蛋白を塩酸等の酸でpH4.5前後に調整し、蛋白質を等電点沈澱させて酸可溶性画分(ホエ−)を除去し、酸不溶性画分(カード)を再度適量の水に分散させてカードスラリーを得、水酸化ナトリウム等のアルカリで中和して中和スラリーを得、該中和スラリーから得られる分離大豆蛋白である。これらの抽出大豆蛋白や分離大豆蛋白は溶液の状態で高温加熱処理装置によって加熱殺菌を行い、スプレードライヤー等で噴霧乾燥され、粉末状大豆蛋白として最終的に製品化される。本発明においては、特に粉末状大豆蛋白の製造工程において、大豆原料以外の副原料を混合し組成を調製したものを「粉末状大豆蛋白組成物」と称することがある。
ただし、上記の製造法に限定されるものではなく、蛋白質の純度が大豆原料から高められる方法であればよい。また脱脂大豆からエタノールや酸でホエーを除去して得られる濃縮大豆蛋白も粉末状大豆蛋白に含まれる。これらのうち、分離大豆蛋白は、蛋白質含量が通常固形分中90重量%程度と高く、ゲル化力が強い点で、水産練製品の分野では抽出大豆蛋白よりもよく利用されている。
【0015】
(本発明の粉末状大豆蛋白組成物)
本発明で用いられる粉末状大豆蛋白組成物は、上記粉末状大豆蛋白のうち、少なくとも下記A,B及びCの要件を満たすことが特徴であり、要件D,Eはより具体的な態様を特定する追加的要件である。以下、要件A〜Cと要件D,Eについて具体的に説明する。
【0016】
<A>蛋白質含量
本発明の粉末状大豆蛋白組成物の蛋白質含量は、固形分中60〜85重量%である。すなわち、蛋白質含量が固形分中90重量%以上の通常市販されている一般的な分離大豆蛋白よりも蛋白質含量が低い領域のものであることが一つの特徴であり、かつ蛋白質含量が固形分中50重量%以上60重量%未満程度の脱脂豆乳よりも蛋白質含量が高い領域のものである。なお、本発明における蛋白質含量はケルダール法により総窒素量を測定し、これに窒素換算係数(6.25)を乗じて算出するものとする。
【0017】
蛋白質含量は固形分中60〜85重量%の範囲のうち、上限を固形分中83重量%以下とすることができ、さらに固形分中80重量%以下に下げることもできる。一方、下限は固形分中62重量%以上とすることができ、さらに固形分中64重量%以上に調整することもできる。また別の選択範囲として、低蛋白質含量域(固形分中60重量%以上70重量%未満)、中蛋白質含量域(固形分中70重量%以上80重量%未満)又は高蛋白質含量域(固形分中80重量%以上85重量%未満)の範囲を適宜選択することができる。
いずれの蛋白質含量とすることは当業者が該粉末状大豆蛋白組成物のゲル化力、弾力性、加水量や製造コストのバランスを考慮して適宜決定することができる。例えば、より製造コストを下げたいときには蛋白質含量を低たんぱく質含量域に調整すれば良い。
【0018】
蛋白質含量を上記範囲に調整するには、粉末状大豆蛋白の製品と蛋白質以外の副原料を水系下で混合するか、粉末状大豆蛋白の製造工程中に該副原料を加え、粉末状大豆蛋白組成物を調製すれば良い。副原料の混合時期は特に限定されない。従って、大豆原料の抽出段階、抽出後の脱脂豆乳の段階、酸沈殿後のカードスラリーの段階、アルカリ剤でpH調整後の中和スラリーの段階などの製造工程中でも良いし、噴霧乾燥後の粉末状大豆蛋白に対して混合しても良い。
副原料としては、炭水化物がより好ましく、例えばグルコース等の単糖類,マルトースやシュクロースやトレハロースやラフィノース等の少糖類,デキストリン,デンプン等の多糖類などの糖質、ポリデキストロース,難消化性デキストリン等の水溶性食物繊維が好ましい。炭水化物は粉末状大豆蛋白組成物中の蛋白質含量を下げるために多量に用いることができ、保水性を向上させることができる。特にデンプンは水産練製品の用途において保水性、食感、色調を向上させる点で好ましい。デンプンの種類は限定されず、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、タピオカデンプン、サツマイモデンプン等を用いることができるが、特にタピオカデンプンがより好ましい。
また炭水化物以外の副原料として、パーム油,大豆油,菜種油等の油脂、レシチン,シュガーエステル等の乳化剤などを適宜添加することもできる。
【0019】
<B>加熱ゲルのゼリー強度特性
本発明で用いる粉末状大豆蛋白組成物は、18.2重量%水溶液を加熱して得られるゲルのゼリー強度が100gf・cm以上、好ましくは150gf・cm以上という高ゼリー強度であることが特徴であり、特に水産練製品に使用することにより硬さや弾力を付与することができる。従来の分離大豆蛋白も水産練製品の用途で高ゼリー強度のものは存在しているが、本発明で用いる粉末状大豆蛋白組成物は蛋白質含量が固形分中60〜85重量%という比較的低い蛋白質含量の領域で、このレベルのゼリー強度を発揮するものである。
なお、ゼリー強度の測定における加熱ゲルは、粉末状大豆蛋白組成物の20重量%水溶液をロボクープを用いて3分間撹拌する。さらに全重量に対して1.64重量%の塩化ナトリウムを添加して2分間撹拌してペーストを調製し、折り幅35mmのケーシングチューブに充填して密閉し、80℃で30分間湯浴中で加熱して得られるゲルを用いるものとする。また、得られた加熱ゲルは該チューブから出して23mmにカットし、これをサンプルとしてゼリー強度を測定する。ゼリー強度の測定は、粘弾性測定装置「レオナ―」((株)山電製)で行い、破断強度(gf)と歪(cm)の積をゼリー強度とする。下記の測定条件で行うものとする。なお、上記装置が入手できない場合においては同等の測定が可能な装置で代替してもよい。
【0020】
○ゼリー強度の測定条件
・プランジャー:球形プランジャー(直径5mm)
・進入速度 :1mm/秒
【0021】
<C>水溶液を遠心分離したときの蛋白質の沈殿率
本発明で用いられる粉末状大豆蛋白組成物としては、30,000×gという極めて高い遠心力で1時間という長時間の遠心分離を行ったときでも、蛋白質が沈殿せず上清の蛋白質濃度が高く維持されており、蛋白質の沈殿率が非常に低いものを選択することが特徴である。
ここで、蛋白質の沈殿率は以下に示す方法で算出する。ホモゲナイザー「EXCEL-AUTO HOMOGENIZER ED-7」((株)日本精機製作所製)を用いて、蒸留水190gに粉末状大豆蛋白組成物10gを10分間撹拌し、5重量%水溶液を得る。次に30,000rpmで1時間遠心分離する。母液と遠心分離後の一定容量おける蛋白質含量をケルダール法により測定し、以下の式に従って算出する。
式1) 沈殿率(%)={1−(上清蛋白質含量/母液蛋白質含量)}×100
【0022】
すなわち本発明で用いられる粉末状大豆蛋白組成物は、上記の方法により算出した沈殿率が遠心分離前の蛋白質濃度に対して5重量%以下、好ましくは4.5重量%以下、より好ましくは4重量%以下であること、つまり蛋白質の溶解性が極めて高いものを選択することが重要である。かかる特性を有する粉末状大豆蛋白組成物は、蛋白質含量が比較的低い領域であっても、要件Bの通り加熱して得られるゲルは高いゼリー強度を有するという、水産練製品の製造に非常に好適なものである。
【0023】
<D>炭水化物含量
本発明の粉末状大豆蛋白組成物において、要件Aの蛋白質含量を満たすために上述した糖質や食物繊維等を増量する場合に、炭水化物含量は粉末状大豆蛋白組成物の固形分中、下限値で1重量%以上、5重量%以上、10重量%以上などが好ましく、上限値で40重量%以下、35重量%以下、30重量%以下などが好ましい。本発明の粉末状大豆蛋白組成物中に炭水化物が上記の適量の範囲に含まれることにより、粉末状大豆蛋白組成物の保水性を高めることができ、この効果は水産練製品において高加水が可能となる点で特に有利である。
なお、炭水化物の含量は差し引き法により求めるものとし、<A>の蛋白質含量と、水分、脂質及び灰分の合計を100gから差し引いた値とする。水分、脂質、灰分は「五訂日本食品標準成分表分析マニュアル」(科学技術庁資源調査会食品成分部会資料(平成9年))に従い測定するものとする。
【0024】
<E>架橋酵素反応
本発明の粉末状大豆蛋白組成物は、噴霧乾燥前の何れかの工程において、常法により大豆蛋白質にトランスグルタミナーゼ等の蛋白質架橋酵素を作用させて蛋白質の分子を適宜架橋させたものを用いることができる。蛋白質架橋酵素は粉末状大豆蛋白組成物のゲル強度を高めて保水性を高くすることができる。市販のトランスグルタミナーゼ製剤を使用する場合、例えば「アクティバTG」(味の素(株)製)のシリーズを使用することができる。ただし、ゲル強度を高める手段はこれに限られず、例えば後述するカードを水で洗浄する方法なども用いることができる。
【0025】
(粉末状大豆蛋白組成物の製造)
本発明の要件A〜Cをすべて満たす粉末状大豆蛋白組成物の製造態様を以下に示す。ただし、本発明の技術的思想はA〜Cの要件を満たす組成及び特性を有する粉末状大豆蛋白組成物を魚肉練製品の原料とすることを本質とするものであり、もとより一製造態様に拘束されるものではないことは無論である。
本発明の特定の組成及び特性を満たす粉末状大豆蛋白組成物を製造するには、下記のように従来の分離大豆蛋白を製造する工程をベースとすることができる。ただし、蛋白質を濃縮する方法としては、一般的な酸沈殿による方法のみ寄らず、膜ろ過による濃縮法や濃縮大豆蛋白から水抽出する方法なども用いることができる。
蛋白質を抽出するための大豆原料としては、脱脂大豆を使用するのが一般的であるが、全脂大豆や部分脱脂大豆を使用することもできる。全脂大豆や部分脱脂大豆を使用した場合には、抽出工程後に高速遠心分離を行って上層に分離した油分を除去し、低油分化することができる。
次に大豆原料と水とを混合し、スラリー状態に分散させ、必要により撹拌しつつ蛋白質を抽出する。
次に、該スラリーから不溶性食物繊維(オカラ)を遠心分離機やろ過等の分離手段により除去し、抽出大豆蛋白溶液(豆乳)を得る。
次に、該抽出大豆蛋白溶液からオリゴ糖や酸可溶性蛋白質などの酸可溶性画分(ホエー)を除去し、大豆蛋白質を高濃度に濃縮する。典型的な手段としては酸沈殿法を用いることができ、該抽出大豆蛋白溶液のpHを塩酸やクエン酸等の酸により4〜5の等電点付近に調整し、蛋白質を不溶化させ、沈殿させる。次いで遠心分離やろ過等の分離手段により酸可溶性画分である「ホエー」を除去し、酸不溶性画分である「カード」を回収して再度適量の水に分散させてカードスラリーを得る。
そして、得られたカードスラリーを最終的にpH7付近に調整した中和スラリーを得、高温加熱処理によって加熱殺菌を行った後、スプレードライヤー等で乾燥し、粉末状大豆蛋白を得る。スプレードライヤーによる乾燥の方法としては、ディスク型のアトマイザー方式や1流体、2流体ノズルによるスプレー乾燥のいずれも利用することができる。
ここで、本発明のA〜Cの要件を全て満たす粉末状大豆蛋白組成物を得るには、下記の付加工程が必要である。すなわち、粉末状大豆蛋白組成物の蛋白質含量を固形分中60〜85重量%に調整する。そのための好ましい態様として、粉末状大豆蛋白の製造工程中の、該カードスラリー等の蛋白質濃縮液を得た以降の工程において、該濃縮液に上述の炭水化物等の副原料を加えることができ、あるいは粉末状大豆蛋白の製品を再度水に分散させた蛋白質濃縮液に加えることができ、あるいは噴霧乾燥した粉末状大豆蛋白の製品に対して粉末状の副原料を混合することなどもでき、これらの態様等によって組成物が得られる。副原料を加える対象の蛋白質濃縮液や粉末状大豆蛋白の製品の蛋白質含量は固形分中90重量%以上であることが好ましい。粉末状大豆蛋白組成物のゼリー強度を高め、また蛋白質の水溶性を高めるために、粉末状大豆蛋白組成物の製造工程中において、高温加熱処理は製品化の前に少なくとも1回行われる。1回以上の加熱処理は副原料が加えられる前の段階で行われて良い。また2回目以降の加熱処理は行わなくてもよく、行う場合には副原料が加えられた後の段階で行われてもよい。この1回以上の加熱処理は、何れも直接蒸気吹込み式高温瞬間加熱処理で行うのが好ましい。該加熱処理は、高温高圧の水蒸気を直接大豆蛋白溶液に吹き込み、加熱保持した後、真空フラッシュパン内で急激に圧力開放させるUHT殺菌の方式である。この加熱処理条件は、100〜170℃、好ましくは110〜165℃の範囲で、加熱時間は0.5秒〜5分、好ましくは1秒〜60秒の範囲で実施することができる。加熱処理の対象となる大豆蛋白質を含む溶液又はスラリーは製造工程の各段階で調整されるpHに応じて3〜12の範囲で加熱処理される。該方式が採用される市販の加熱殺菌装置を用いることができ、VTIS殺菌装置(アルファラバル社製)やジェットクッカー装置等を用いることができる。1回以上の該加熱処理を行わない場合、A〜Cの要件を全て満たす粉末状大豆蛋白組成物を得難くなる。上記の付加工程に加えて、粉末状大豆蛋白組成物のゼリー強度を高め、また蛋白質の水溶性を高めるために、さらに一つの好ましい態様としては、抽出工程後のスラリーから不溶性食物繊維を除去して抽出大豆蛋白溶液を得る工程において、不溶性食物繊維の混入がなるべく少なくなるように、長時間の遠心分離を行ったり、複数回の遠心分離を行ったりして不溶性食物繊維の含量が最終製品の粉末状大豆蛋白組成物中に1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下となるように除去することが好ましい。また、粉末状大豆蛋白組成物のゼリー強度をさらに高めるため、上述した蛋白質架橋酵素をさせる方法やカードを水で洗浄する方法なども付加することができ、以上のような付加工程を適宜組み合わせることによって、本発明のA〜Cの要件を全て満たす粉末状大豆蛋白組成物を得る。
【0026】
(水産練製品)
本発明では、上記の粉末状大豆蛋白組成物を添加して各種水産練製品を製造することができる。
本発明において水産練製品とは、魚介類の肉を原材料とし、これを練り合わせて得たペースト状の肉を成形し、加熱凝固させて得られる食品である。例えば、竹輪類、蒲鉾類(蒸蒲鉾,揚蒲鉾,焼き蒲鉾等)、はんぺん類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、魚肉ハンバーグ等が挙げられる。また、これらの練製品は、プラスチック製のカップや、ケーシングチューブ等に充填される場合もある。本発明では硬さと弾力性を付与する効果が高く、そのため当該物性の付与が望ましい水産練製品においてより有効に利用することができる。その製法は特に限定されず、公知の製法に従えばよい。
水産練製品に添加する他の副原料としては、リン酸塩、食塩、糖類、発色剤、調味料、油脂、澱粉、保存料、酸化防止剤、香辛料等、水産練製品に一般的に使用される副原料を使用することができる。上記した原料に水を加え混練混合したのち、所望の大きさと形状に成形し、加熱設備(スモークハウス、ボイル、スチーマー、オーブン、フライヤー、レトルト加熱等)で加熱し、冷却して必要により凍結する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明の実施態様をさらに具体的に説明する。なお、単位の「%」や「部」は特段断りのない限り、「重量%」や「重量部」を意味するものとする。
【0028】
(製造例1)
低変性脱脂大豆10kgに10倍量の水を加え、水酸化ナトリウムでpH7.0に調整し、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)で撹拌しながら50℃,30分間抽出を行い、3,000×gで遠心分離してオカラを除き、脱脂豆乳を得た。
得られた脱脂豆乳をさらに5,000×gで遠心分離して、脱脂豆乳中に残存し浮遊している不溶性の蛋白質や食物繊維などの成分を除去した脱脂豆乳を得た。
次に、これに塩酸を加え、pHを4.5に調整し、蛋白質成分を等電点沈澱させ、遠心分離して酸可溶性成分である「ホエー」を除去し、酸不溶性画分である「カード」を得た。該カードに固形分が10%となるように加水し、水酸化ナトリウムを用いて中和することにより、中和スラリーを得た。
次に、該中和スラリーに対して、該スラリーの固形分中の蛋白質含量が表1に示す割合となるようにデンプン「アクトボディーEAT−2」(J‐オイルミルズ(株)社製)を添加し、混合後、次いで、直接蒸気吹込み式の高温瞬間加熱処理装置であるVTIS殺菌機(アルファラバル社製)を用いて第一次加熱処理(140℃,15秒間)を行った。
一次殺菌処理を行った大豆蛋白水溶液に対して、対乾物量あたり0.2重量%の蛋白質架橋酵素「アクティバTG‐S‐NF」(味の素(株)社製)を添加し、攪拌しながら50℃で40分間反応させた。この溶液を、VTIS殺菌機を用いて第二次加熱処理(140℃,15秒間)を行い、酵素を失活させた後、噴霧乾燥し、粉末状大豆蛋白組成物のサンプルAを得た。
【0029】
(製造例2)
製造例1と同様に脱脂豆乳を調製し、遠心分離で不溶性成分を除去し、等電点沈殿して得られたカードに、固形分が約15%となるように加水をしたのちに遠心分離することでカードを水洗浄した。
次に、再度固形分が10%となるように加水し、水酸化ナトリウムを用いて中和し、中和スラリーを得た。次に、製造例1と同様にデンプンを混合し、第一次加熱処理を行った後、蛋白質架橋酵素を作用させる工程と第二次加熱処理工程を行うことなく噴霧乾燥し、粉末状大豆蛋白組成物のサンプルBを得た。
【0030】
(比較製造例1)
製造例1において、脱脂豆乳からさらに遠心分離して不溶性成分を除去する工程を行うことなく、同様の工程で調製した粉末状大豆蛋白組成物のサンプルCを得た。
【0031】
(試験例)
製造例1〜2で得られたサンプルA〜Bについて、(1)固形分中の蛋白質含量(%)、(2)18.2%水溶液を80℃で30分間湯浴中で加熱して得られるゲルのゼリー強度(gf・cm)、(3)5%水溶液を30,000×gで1時間遠心分離したときの、遠心分離前の蛋白質濃度に対する蛋白質の沈殿率(%)を上述した測定方法により測定し、表1に(1)〜(3)の測定結果をまとめた。
また、コントロールとして市販の各種粉末状大豆蛋白である不二製油(株)製の分離大豆蛋白「ニューフジプロSEH」、濃縮大豆蛋白「ソイプラスYP」、並びに、他社製品の分離大豆蛋白「A300」についても上記5つの測定項目を測定し、表1に記載した。
【0032】
(表1)
【0033】
表1より、サンプルA,Bは蛋白質含量が一般的な分離大豆蛋白の市販品よりも低いにもかかわらず、ゼリー強度が100gf・cm以上の高いゼリー強度を有していた。そしてサンプルA,Bの蛋白質沈殿率はいずれもサンプル中最も低いレベルであった。
これに対してサンプルCはサンプルA,Bと同じ蛋白質含量のレベルにおいて、ゼリー強度は合格レベルであるものの、蛋白質沈殿率はサンプルA,Bよりもかなり高い値を示した。
【0034】
また、「ニューフジプロSEH」と「他社品(A100)」のゼリー強度は良好であったが、この物性は蛋白質含量が90%以上の高い蛋白質濃度においてのみ両立できるもので、蛋白質含量をサンプルA,Bのレベルにすると、「ソイプラスYP」のようにゼリー強度は大幅に低下すると考えられる。さらに、サンプルBほどの低い蛋白質沈殿率を示さなかった。
【0035】
「ソイプラスYP」はサンプルBと同程度の蛋白質含量であったが、ゲル化を全くせず、さらに遠心沈殿率もサンプルBと比べると大幅に高かった。
なお、他の市販品においても調べたところ、低い蛋白質含量で、かつ高ゼリー強度の物性を両立できるものは見当たらなかった。
【0036】
以上の結果より、蛋白質含量が90%よりも低い蛋白質含量の粉末状大豆蛋白組成物においてかかる物性を両立するためには、サンプルA,Bのように、蛋白質の沈殿率が遠心分離前の蛋白質濃度に対して5%以下の非常に低い沈殿率であることが関係していると考えられた。
【0037】
(応用例) 揚げ蒲鉾の調製による品質評価
製造例1及び比較製造例1で得られたサンプルA,Bの粉末状大豆蛋白組成物と、市販の「不二製油(株)製の「ニューフジプロSEH」、「ソイプラスYP」、並びに、他社製品の「A100」の5サンプルを選択し、表2の配合に従い、常法により、まず粉末状大豆蛋白、大豆白絞油、水、スケソウすり身を低温でサイレントカッターを用いて練り上げたのち、食塩を加えて塩ずりを行い生地を作製した。その後、該生地に調味原料とタピオカ澱粉を加え、延ばし水と共に更に練り上げて、揚げ蒲鉾を調製した。
【0038】
(表2) 揚げ蒲鉾の配合
【0039】
各揚げ蒲鉾について6名のパネラーを用い、下記の評価基準にて10点満点の評点法により揚げ蒲鉾の食感についてそれぞれ品質評価を行った。
6名の評点の平均を取り、4点未満を「D」、4点以上6点未満を「C」、6点以上8点未満を「B」、8点以上10点以下を「A」の評価とした。結果を表3に示した。
【0040】
<評価基準>
○色調
10点:最も透明感を有し鮮やかな赤色に発色するもの
1点:最も透明感が低く黄濁してくすんだ赤色に発色するもの
○食感
10点:最も硬さと弾力性を有するもの
1点:最も柔らかく弾力性に欠けるもの
○揚げ面状態
10点:最も変形などが少なく均質感のあるもの
1点:最も変形などが多く均質感に欠けるもの
【0041】
(表3) 品質評価結果
【0042】
表3の結果の通り、いずれの市販品を用いた揚げ蒲鉾も色調が黄色味を帯びており、揚げ面は変形の多い均質感に欠ける状態であった。またこれらの市販品を用いた揚げ蒲鉾は、硬さとしなやかさの両面において食感が優れたものは得られなかった。
一方、サンプルA,Bの揚げ蒲鉾では、各市販品に比べて色調が白くて見栄えが良く、食感はしなやかさと硬さが両立されており、さらに揚げ面の状態においても変形のない均質感のある状態であり、いずれの評価項目においても優れていた。