(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848217
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】レーザダイオードモジュール
(51)【国際特許分類】
H01S 5/024 20060101AFI20210315BHJP
H01S 5/068 20060101ALI20210315BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20210315BHJP
G01J 3/45 20060101ALN20210315BHJP
【FI】
H01S5/024
H01S5/068
H01S5/183
!G01J3/45
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-113519(P2016-113519)
(22)【出願日】2016年6月7日
(65)【公開番号】特開2017-220553(P2017-220553A)
(43)【公開日】2017年12月14日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】門倉 一智
(72)【発明者】
【氏名】西 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 雅也
【審査官】
百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】
実開平05−087979(JP,U)
【文献】
国際公開第2013/084746(WO,A1)
【文献】
実開平01−062529(JP,U)
【文献】
特開平04−144474(JP,A)
【文献】
特開昭63−276288(JP,A)
【文献】
特開2006−300674(JP,A)
【文献】
米国特許第05111476(US,A)
【文献】
中国実用新案第202930743(CN,U)
【文献】
特開2011−080854(JP,A)
【文献】
特開2011−108930(JP,A)
【文献】
特開平07−273393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
G01J 3/00−4/04
G01J 7/00−9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フーリエ変換赤外分光光度計の基準光源であるレーザダイオードモジュールであって、
台座と、内部にレーザダイオードチップを有するレーザ素子と、
前記レーザ素子を組み込み且つ前記台座の外周部と接触し、前記台座が周囲環境に晒されるように開口部が形成されたレーザ素子ブロックと、
前記レーザ素子ブロック内に設けられ、前記レーザ素子からの光をコリメートするコリメートレンズを接着したレンズホルダと、
前記レーザ素子ブロックの温度を調整する温度調整素子と、
前記レーザ素子ブロックに形成された穴部内に挿通され、一部が周囲環境に晒されるように配置され、前記レーザ素子ブロックの温度を検出する温度センサと、
を備え、
周囲環境の温度変動に対する、前記レーザ素子の発振波長の変動量が、0.01nm以下であることを特徴とするレーザダイオードモジュール。
【請求項2】
前記レーザ素子は、垂直共振器面発光レーザからなることを特徴とする請求項1記載のレーザダイオードモジュール。
【請求項3】
前記レーザ素子は、端面発光レーザからなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のレーザダイオードモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直共振器面発光レーザ(Vertical Cavity Surface Emitting LASER、略してVCSELと呼ぶ。)等のレーザダイオードを用いたレーザダイオードモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)の小型化及び低価格化に伴って、基準光源であるHeNeレーザの代替えとして、垂直共振器面発光レーザを使用したレーザダイオードモジュール(以下、LDモジュール)が採用されている。
【0003】
垂直共振器面発光レーザは、レーザダイオードからなり、半導体基板に対して垂直方向に反射鏡があり、この反射鏡に光が出射する。垂直共振器面発光レーザは、低価格で低消費電力であるため、用いられている。
【0004】
しかし、垂直共振器面発光レーザは、温度に対する発振波長の変動量が大きく、この変動量は、フーリエ変換赤外分光光度計に設けられた赤外検出器で取得したスペクトルの横軸(波数)が変動することを意味する。このため、S(信号)/N(雑音)が劣化したり、スペクトルの定性分析が困難となる。その結果、装置内部の温度変動を抑制しあるいは垂直共振器面発光レーザの温度調整、波数校正を逐次行う等の対策が必要になる。
【0005】
フーリエ変換赤外分光光度計においては、IR光源の光量を増加させ、信号Sを増大させることで、S/Nを向上させることができる。但し、IR光源自体が発熱するため、装置内部の温度が上昇する。すると、LDモジュールの垂直共振器面発光レーザチップの温度が周囲温度に振られて上昇し、発振波長が変動する。このため、発振波長を安定させるために、一般的には、LDモジュールをサーモモジュールで温度制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許6654125B2号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、LDチップと温度センサ間の熱抵抗の影響により、LDチップの温度を正確にモニタできず、周囲温度の影響を受けていた。
【0008】
さらに、既知のサンプルのスペクトルを取得し、そのスペクトルピークの変動量をフィードバックしてレーザ光の波長を補正する方法が知られている(特許文献1)。しかし、ある時間間隔でレーザの波長を監視しなければならない。また、既知のサンプルを自動で切り替える機能も必要となり、装置が高価になっていた。
【0009】
本発明の課題は、簡単な構造で、高いレベルの温度安定性を達成することができるレーザダイオードモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレーザダイオードモジュールは、上記課題を解決するために、
フーリエ変換赤外分光光度計の基準光源であるレーザダイオードモジュールであって、台座
と、内部にレーザダイオードチップを有するレーザ素子と、前記レーザ素子を組み込み且つ前記台座の外周部と接触し、前記台座が周囲環境に晒されるように開口部が形成されたレーザ素子ブロックと、前記レーザ素子ブロック内に設けられ、前記レーザ素子からの光をコリメートするコリメートレンズを接着したレンズホルダと、前記レーザ素子ブロックの温度を調整する温度調整素子と、前記レーザ素子ブロックに
形成された穴部内に挿通され、一部が周囲環境に晒されるように配置され、前記レーザ素子ブロックの温度を検出する温度センサとを備え
、周囲環境の温度変動に対する、前記レーザ素子の発振波長の変動量が、0.01nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レーザ素子の台座の外周がレーザ素子ブロックに接触し、台座が周囲環境に晒されるように開口部を形成し、
温度センサの一部が周囲環境に晒されるように構成し
、温度センサが周囲環境の温度とレーザ素子ブロックの温度を検出し、レーザ素子と
温度センサとがともに外部温度変動の影響を受け
るので、その影響度合いを制御することができる。従って、簡単な構造で、高いレベルの温度安定性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のレーザダイオードモジュールの断面図である。
【
図2】実施例1のレーザダイオードモジュールの温度変化に対する波長の安定性を示す図である。
【
図3】実施例1のレーザダイオードモジュールを備えたフーリエ変換赤外分光光度計の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のレーザダイオードモジュールの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
(実施例1)
まず、垂直共振器面発光レーザで許容される発振波長の変動は、0.02nm以下であり、レーザダイオードチップの温度係数は、0.06nm/℃とすると、レーザダイオード温度は0.3℃程度の温度変動となる。IR光源の光量を上げて使用する場合、装置内部の温度は室温(約20℃)から最大で60℃程度まで上昇する。
【0015】
また、ポータブルFTIRの場合、室外環境を想定するため、使用温度範囲は0℃から40℃付近となる。以上のことから、周囲の温度変動が約40℃でレーザダイオード温度は0.3℃、即ち温度係数が0.75%以下の温度安定性が必要となる。この温度安定性を達成するための実施例の構成を以下に説明する。
【0016】
図1は、レーザダイオードモジュールの断面図である。
図1に示すレーザダイオードモジュールは、レーザ素子1、LDブロック2、リングネジ3、コリメートレンズ4、レンズホルダ5、サーモモジュール6、放熱板7、サーミスタ8、ネジ9,10を備えて構成されている。
【0017】
レーザ素子1は、850nm縦型シングルモードのCANタイプのレーザダイオードからなる垂直共振器面発光レーザであり、基板に対して垂直方向に反射鏡があり、この反射鏡に光が出射する。レーザ素子1は、基台である台座1aと3つのピン1bとを有する。台座1aの外周は、本発明のレーザ素子ブロックに対応するLDブロック2に接触している。
【0018】
LDブロック2には、台座1aの中央部が周囲環境に晒されるように開口部2bが形成されている。3つのピン1bは、正極用ピン、負極用ピン、グランド用ピンからなる。
【0019】
LDブロック2には、開口部2bよりも大径の穴部2aが形成され、穴部2aの外周には、ネジ溝2cが形成されている。穴部2aには、レーザ素子1の本体が組み込まれ、レーザ素子1の3つのピン1bは、開口部2bを挿通して周囲環境に晒されている。
【0020】
リングネジ3は、ネジ溝2cに螺合しており、リングネジ3をネジ溝2cに螺合させることで、レーザ素子1と台座1aとをLDブロック2に締結させることができる。
【0021】
コリメートレンズ4は、穴部2aに設けられており、レーザ素子1からのレーザ光をコリメートする。レンズホルダ5は、コリメートレンズ4を接着し、図示しないネジ溝が形成され、このネジ溝がネジ溝2cに螺合している。ネジ溝2cを用いて、レーザ素子1との光軸を調整する。レーザ素子1とLDブロック2とレンズホルダ5とにより囲まれた空間Aが形成される。
【0022】
サーモモジュール6は、本発明の温度調整素子に対応し、LDブロック2の下部に配置され、LDブロック2の温度を調整する。放熱板7は、サーモモジュール6の下部に配置され、サーモモジュール6の熱を外部に放熱する。
【0023】
サーミスタ8は、LDブロック2に形成された穴部2a内に挿入され、ピンを含む一部が周囲環境に晒されている。サーミスタ8は、本発明の温度センサに対応し、LDブロック2の温度を検出する。
【0024】
ネジ9は、LDブロック2に形成された穴部2aに挿通され、締めることで、レンズホルダ5を固定する。ネジ10は、LDブロック2に形成された穴部2aに挿通され、締めることで、リングネジ3を固定する。
【0025】
このように実施例1のレーザダイオードモジュールによれば、レーザ素子1の台座1aの外周がLDブロック2に接触し、台座1aの中央部が周囲環境に晒されるように開口部2bを形成し、サーミスタ8の一部が周囲環境に晒されるように構成したので、レーザ素子1とサーミスタ8とが外部温度変動の影響を受け、その影響度合いを制御することができる。従って、簡単な構造で、高いレベルの温度安定性を達成することができる。
【0026】
図2は、実施例1のレーザダイオードモジュールの温度変化に対する波長の安定性を示す図である。
図2に示す例では、環境温度を5℃から60℃に変化させた際の発振波長の変動量を示している。
【0027】
図2からもわかるように、発振波長の変動量は0.01nm以下となった。LDチップの温度係数は、0.06nm/℃であるため、LD温度に換算すると、0.16℃以下となり、温度係数が0.3%以下を達成することができた。
【0028】
図3は、実施例1のレーザダイオードモジュールを備えたフーリエ変換赤外分光光度計の構成図である。フーリエ変換赤外分光光度計は、レーザ素子1、IR光源21、固定ミラー22、可動ミラー23、ビームスプリッタ24、サンプル25、検出器26、ミラー27,28、フォトダイオード29を備える。
【0029】
IR光源21はミラー27を介してビームスプリッタ24に導く。ビームスプリッタ24は、ミラー27からの光を一方の光と他方の光とに2分割する。一方の光は固定ミラー22で反射されてビームスプリッタ24に戻り、他方の光は、可動ミラー23で反射されてビームスプリッタ24に戻り、ビームスプリッタ24で合成されて第1干渉波を発生させる。
【0030】
第1干渉波は、ミラー28とサンプル25を介して検出器26に送られる。検出器26は、第1干渉波に基づきフーリエ変換処理を行う。可動ミラー23の位置により、異なる干渉波が得られるので、検出器26は、フーリエ変換処理により、各位置の干渉波の信号強度から各波数成分の光の強度に分離する。
【0031】
また、
図3に示すレーザ素子1は、
図1に示すレーザ素子1であり、フーリエ変換赤外分光光度計の基準光源である。レーザ素子1からのレーザ光は、ミラー27を介してビームスプリッタ24に導く。ビームスプリッタ24は、ミラー27からの光を一方の光と他方の光とに2分割する。一方の光は固定ミラー22で反射されてビームスプリッタ24に戻り、他方の光は、可動ミラー23で反射されてビームスプリッタ24に戻り、ビームスプリッタ24で合成されて第2干渉波を発生させる。
【0032】
第2干渉波は、ミラー28を介してフォトダイオード29で検出される。フォトダイオード29で検出された出力が検出器26で検出された第1干渉波の解析に用いられる。
【0033】
このように実施例1のレーザダイオードモジュールのレーザ素子1をフーリエ変換赤外分光光度計に用いることができる。
【0034】
なお、本発明は、レーザ素子1として、基板に対して垂直方向に反射鏡があり反射鏡に光が出射する垂直共振器面発光レーザを用いたが、これに代えて、半導体基板の端面に反射鏡があり基板に対して平行方向に光を出射するレーザダイオードからなる端面発光レーザを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係るレーザダイオードモジュールは、フーリエ変換赤外分光光度計、ポータブルフーリエ変換赤外分光光度計に適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 レーザ素子
1b,8a ピン
2 LDブロック
2a 穴部
2b 開口部
2c ネジ溝
3 リングネジ
4 コリメートレンズ
5 レンズホルダ
6 サーモモジュール
7 放熱板
8 サーミスタ
9,10 ネジ
21 IR光源
22 固定ミラー
23 可動ミラー
24 ビームスプリッタ
25 サンプル
26 検出器
27,28 ミラー
29 フォトダイオード