(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
変性ジエン系ゴムを30質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に、シリカを10〜200質量部配合してなり、メルカプト基を有するシランカップリング剤を前記シリカの配合量に対し1〜20質量%配合し、かつロジン樹脂を前記シランカップリング剤の配合量に対し5〜200質量%配合すると共に、前記ロジン樹脂がエステル化しておらず、その酸価が100KOHmg/g以上であり、前記変性ジエン系ゴムが、前記ジエン系ゴムの末端および/または側鎖に、ヒドロキシル基、オルガノシロキサン構造を含むヒドロキシル基、アルコキシル基から選ばれる官能基を結合させたことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
タイヤ用ゴム組成物のゴム成分はジエン系ゴムであり、例えば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。これらのジエン系ゴムは未変性、変性のいずれでもよく、また単独または複数のブレンドとして使用することができる。
【0012】
変性ジエン系ゴムは、ジエン系ゴムの末端および/または側鎖に官能基を結合させたジエン系ゴムである。官能基としては、例えばアルコキシシリル基、ヒドロキシル基(オルガノシロキサン構造を含む)、アルデヒド基、カルボキシル基、アルコキシル基、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、アミド基、チオール基、エーテル基等が例示される。なかでもヒドロキシル基(オルガノシロキサン構造を含む)、アミノ基、アルコキシル基が好ましい。
【0013】
変性ジエン系ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは70〜100質量%であるとよい。変性ジエン系ゴムの含有量を30質量%以上にすることにより、シリカとの親和性が向上し、シリカの分散性を良好にすることができる。
【0014】
タイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを10〜200質量部配合する。シリカを配合することにより、ゴム組成物の低発熱性およびウェットグリップ性能を向上させることができる。シリカの配合量は、好ましくは15〜180質量部、より好ましくは20〜160質量部であるとよい。シリカとしては、タイヤトレッド用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することができる。
【0015】
またシリカの粒子性状は、窒素吸着比表面積(N
2SA)が好ましくは150〜300m
2/g、より好ましくは160〜250m
2/gであるとよい。なおシリカのN
2SAはJIS K6217−2に準拠して求めるものとする。シリカの窒素吸着比表面積(N
2SA)が150m
2/g未満であると、引張り破断伸びが低下する虞がある。またシリカの窒素吸着比表面積(N
2SA)が300m
2/gを超えると、シリカの分散性が悪化して、引張り破断強度および引張り破断伸びが悪化する。また低発熱性およびウェットグリップ性能を改良する作用が十分に得られない虞がある。
【0016】
本発明において、メルカプト基を有するシランカップリング剤を、シリカの配合量に対し1〜20質量%配合する。シランカップリング剤を配合することにより、シリカの分散性を向上しジエン系ゴムとの補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤は、シリカ配合量に対して好ましくは2〜18質量%、より好ましくは4〜15質量%配合するとよい。メルカプト基を有するシランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の1質量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤が20質量%を超えると、シランカップリング剤同士が重合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0017】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、メルカプト基を有するシランカップリング剤(以下、「メルカプト系シランカップリング剤」ということがある。)をシリカと共に配合することにより、シリカの分散性を向上しシリカの性能を十分に発現させることができる。メルカプト系シランカップリング剤は、その化学構造にメルカプト基(−SH)を含むメルカプトシラン化合物である。
【0018】
本発明において、メルカプト系シランカップリング剤としては、好ましくは下記式(1)で表わされるメルカプトシラン化合物、または下記式(2)および(3)の構造を有する共重合物であるとよい。
【化1】
(式中、R
1,R
2,R
3は互いに独立して、水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基、炭素数6〜30のアリール基から選ばれると共に、少なくとも1つは前記アルコキシ基、少なくとも1つは前記直鎖ポリエーテル基であり、R
4は炭素数1〜30のアルキレン基である。)
【化2】
(式中、R
5およびR
6で環構造を形成してもよく、R
5は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R
6は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、xは1以上の整数である。)
【化3】
(式中、R
7およびR
8で環構造を形成してもよく、R
7は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれ、R
8は炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれ、yは1以上の整数である。)
【0019】
上記記一般式(1)で表されるメルカプト系シランカップリング剤において、R
1,R
2,R
3は互いに独立して、水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基、鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基、炭素数6〜30のアリール基である。好ましくは水素、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、鎖長が10〜29の直鎖ポリエーテル基である。直鎖ポリエーテル基は、好ましくは式−O−(R
11−O)p−R
12で表される。ポリエーテル部分(R
11−O)pにおいて、R
11は炭素数2〜4のアルキレン基であり、好ましくはエチレン基、トリメチレン基(―CH
2CH
2CH
2―)、プロピレン基である。R
11は、一つの種類でも複数の種類でもよい。pは、エーテル部分の繰り返し数の平均値であり、2〜15の数、好ましくは3〜10、より好ましくは3.5〜8の数である。R
12は炭素数10〜16、好ましくは11〜15のアルキル基である。アルキルポリエーテル基は複数種の混合物であってもよく、例えば―O―(CH
2CH
2−O)
5−(CH
2)
10CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
5−(CH
2)
11CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
5−(CH
2)
12CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
5−(CH
2)
13CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
5−(CH
2)
14CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
3−(CH
2)
12CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
4−(CH
2)
12CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
6−(CH
2)
12CH
3、―O―(CH
2CH
2−O)
7−(CH
2)
12CH
3等が例示される。
【0020】
式(1)において、R
1,R
2,R
3のうち、少なくとも1つは炭素数1〜8のアルコキシ基、少なくとも1つは鎖長が4〜30の直鎖ポリエーテル基であり、式(1)で表されるメルカプト系シランカップリング剤は、アルコキシ基および直鎖ポリエーテル基を必ず有する。
【0021】
またR
4は炭素数1〜30のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜12のアルキレン基である。
【0022】
本発明で好適に使用される上記式(1)で表されるメルカプトシラン化合物としては、例えば[C
11H
23O(CH
2CH
2O)
5](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
3](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
4](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
5](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
6](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
3](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
4](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
5](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
6](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
3](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
4](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
5](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
6](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
15H
31O(CH
2CH
2O)
5](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SH、
[C
11H
23O(CH
2CH
2O)
5]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
3]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
4]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
5]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
12H
25O(CH
2CH
2O)
6]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
3]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
4]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
5]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
13H
27O(CH
2CH
2O)
6]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
3]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
4]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
5]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
14H
29O(CH
2CH
2O)
6]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、
[C
15H
31O(CH
2CH
2O)
5]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、等が例示される。なかでも[C
13H
27O−(CH
2CH
2O)
5]
2(CH
2CH
2O)Si(CH
2)
3SH、[C
13H
27O−(CH
2CH
2O)
5](CH
2CH
2O)
2Si(CH
2)
3SHが好ましい。
【0023】
上記一般式(2)及び(3)で表わされるセグメントを有するメルカプトシラン化合物において、R
5およびR
6で環構造を形成してもよく、R
7およびR
8で環構造を形成してもよい。R
5およびR
7は水素、ハロゲン、炭素数1〜30のアルキル基或いはアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニル基或いはアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニル基或いはアルキニレン基、前記アルキル基或いはアルケニル基の末端がヒドロキシル基若しくはカルボキシル基で置換された基から選ばれる。上述したアルキル基、アルキニル基、アルキニレン基、アルキレン基、アルケニレン基およびアルキニレン基は、それぞれ分岐、非分岐のいずれでもよい。
【0024】
R
6およびR
8は、炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数2〜30のアルケニレン基、炭素数2〜30のアルキニレン基から選ばれる。上述したアルキレン基、アルケニレン基およびアルキニレン基は、それぞれ分岐、非分岐のいずれでもよい。
【0025】
上記式(2)で表わされるセグメントの含有率は好ましくは20〜99モル%、好ましくは30〜95モル%である。式(2)のセグメントの含有率が20モル%未満では、低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性のバランスをとることが困難になる。また、式(2)のセグメントの含有率が99モル%を超えると、シランカップリング剤を介したゴムとシリカとの化学的な結合が充分に生じず、低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性が悪化する。
【0026】
上記式(3)で表わされるセグメントの含有率は好ましくは1〜80モル%、好ましくは5〜70モル%である。式(3)で表わされるセグメントの含有率が1モル%未満では、シランカップリング剤を介したゴムとシリカとの化学的な結合が十分に生じず、低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性が悪化する。式(3)で表わされるセグメントの含有率が80モル%を超えると、加工性と低転がり抵抗、ウェット性能及び耐摩耗性などの性能とのバランスをとることが困難になる。
【0027】
本発明において、好適に使用される一般式(2)及び(3)で表わされるセグメントを有するメルカプト系シランカップリング剤としては、たとえば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製のNXT−Z30(R
5,R
7:エチル基、R
6,R
8:エチレン基、式(2)で表わされるセグメントが70モル%、式(3)で表わされるセグメントが30モル%、メルカプト基の含有量:4%)、NXT−Z45(R
5,R
7:エチル基、R
6,R
8:エチレン基、式(2)で表わされるセグメントが55モル%、式(3)で表わされるセグメントが45モル%、メルカプト基の含有量:6%)、NXT−Z60(R
5,R
7:エチル基、R
6,R
8:エチレン基、式(2)で表わされるセグメントが40モル%、式(3)で表わされるセグメントが60モル%、メルカプト基の含有量:9%)などがあげられる。
【0028】
本発明で使用するメルカプト系シランカップリング剤として、上記式(1)で表わされるメルカプトシラン化合物および式(2)および(3)の構造を有する共重合物以外のメルカプトシラン化合物を使用することができる。このようなメルカプト系シランカップリング剤として、例えば3−メルカプトプロピル(トリメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリエトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジエトキシメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリプロポキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジプロポキシメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリブトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジブトキシメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(ジメトキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(メトキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジエトキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(エトキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジプロポキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(プロポキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジイソプロポキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(イソプロポキシジメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ジブトキシメチルシラン)、3−メルカプトプロピル(ブトキシジメチルシラン)、2−メルカプトエチル(トリメトキシシラン)、2−メルカプトエチル(トリエトキシシラン)、メルカプトメチル(トリメトキシシラン)、メルカプトメチル(トリエトキシシラン)、3−メルカプトブチル(トリメトキシシラン)、3−メルカプトブチル(トリエトキシシラン)等を例示することができる。なかでも3−メルカプトプロピル(トリメトキシシラン)、3−メルカプトプロピル(トリエトキシシラン)が好ましい。
【0029】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、シリカ、メルカプト基を有するシランカップリング剤およびエステル化していないロジン樹脂を共に配合することが重要である。これらを配合することにより、ゴム硬度および引張破断特性を確保しながら、低粘度および耐スコーチ性を従来レベル以上に向上させることができる。シリカの分散性を改良するシランカップリング剤として、スルフィド基を有するシランカップリング剤が知られている。しかし、メルカプト基を有するシランカップリング剤の代わりにスルフィド基を有するシランカップリング剤を配合したのでは、そのゴム組成物の耐スコーチ性を、ロジン樹脂を配合しないゴム組成物のゴム硬度および低発熱性に対して、改良することができない。
【0030】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、エステル化しておらず、その酸価が100KOHmg/g以上であるロジン樹脂を、シランカップリング剤の配合量に対し5〜200質量%配合する。このようなロジン樹脂を配合することにより、ゴム硬度および引張破断特性を確保しながら、低粘度および耐スコーチ性を改良することができる。ロジン樹脂の配合量は、シランカップリング剤の配合量に対し5〜200質量%、好ましくは10〜180質量%、より好ましくは15〜160質量%である。ロジン樹脂の配合量が5質量%未満であると、引張り破断強度および引張り破断伸びを改良する作用が得られず、低粘度および耐スコーチ性を優れたものにすることができない。またロジン樹脂の配合量がシランカップリング剤の配合量に対し200質量%を超えると、硬度および低発熱性を悪化させる。
【0031】
本発明で使用するロジン樹脂は、生松油をろ過精製したものから水蒸気蒸留によりテレピン油を除いた数種の樹脂酸の混合物であり、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンのいずれからなる樹脂でもよい。ロジン樹脂の主成分は、下記一般式(4)で表されるアビエチン酸である。
【化4】
【0032】
ロジン樹脂の酸価は、100KOHmg/g以上、好ましくは120〜250KOHmg/gである。ロジン樹脂の酸価が100KOHmg/g未満であると、硬度が低下する。本明細書において、ロジン樹脂の酸価は、JIS K5902に準拠して測定することができる。
【0033】
本発明において、ロジン樹脂はエステル化していないものを使用する。エステル化していないロジン樹脂とは、主成分である前記一般式(4)で表されるアビエチン酸のカキボキシ基がエステル化していないものをいう。なおエステル化したロジン樹脂は、例えば下記一般式(5)で表されるロジンエステルが挙げられる。このようなエステル化したロジン樹脂を配合すると、耐スコーチ性が却って悪化する。
【化5】
【0034】
ロジン樹脂は、エステル化していないものであれば、酸変性したロジン樹脂でもよい。酸変性したロジン樹脂は、下記一般式(6)で表されるように、主成分であるアビエチン酸に例えば無水マレイン酸が付加したロジン樹脂である。酸変性したロジン樹脂もゴム硬度および引張破断特性を確保しながら、低粘度および耐スコーチ性を改良することができる。なお酸変性されていないロジン樹脂を配合することにより、耐スコーチ性をより優れたものにすることができ、好ましい。
【化6】
【0035】
また、ロジン樹脂の軟化点は好ましくは200℃以下にするとよい。ロジン樹脂の軟化点が200℃より高いと、ゴム組成物を混練するのが困難となる。ロジン樹脂の軟化点は、JIS K5902に準拠して測定することができる。
【0036】
本発明において、タイヤ用ゴム組成物は、加硫又は架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0037】
本発明の空気入りタイヤは、ゴム硬度および引張破断特性を確保しながら、低粘度および耐スコーチ性を従来レベル以上に向上させるようにしたタイヤ用ゴム組成物からなるので、成型加工性が良好で優れた品質の空気入りタイヤを安定的に生産することができると共に、空気入りタイヤの操縦安定性および耐久性を優れたものにすることができる。
【0038】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
表3に示す配合を共通成分の処方として、表1,2に示す配合からなる17種類のタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜7、標準例1,2、比較例1〜8)を、硫黄、加硫促進剤を除く成分を1.8Lの密閉型ミキサーで5分間混練して、放出、冷却しマスターバッチとした。得られたマスターバッチに、硫黄、加硫促進剤を加えてオープンロールで混合することにより、17種類のタイヤ用ゴム組成物を調製した。また、表3の共通成分の配合量は、表1,2に示すジエン系ゴム100質量部に対する質量部として記載した。
【0040】
得られた17種類のタイヤ用ゴム組成物を使用して、所定形状の金型中で、170℃、10分間加硫して試験片を作製し、下記に示す方法によりムーニー粘度、耐スコーチ性および引張破断特性(引張り破断強度および引張り破断伸び)を測定した。
【0041】
ムーニー粘度
得られたゴム組成物をJIS K6300に準拠して、ムーニー粘度計にてL型ロータ(38.1mm径、5.5mm厚)を使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果は、表1では標準例1の値を100、表2では標準例2の値を100とする指数として、表1,2の「ムーニー粘度」の欄に示した。この指数が小さいほど粘度が小さく、成型加工性が優れることを意味する。
【0042】
耐スコーチ性
得られたゴム組成物をJIS K6300に準じて、L形ロータを使用し、試験温度125℃の条件で、スコーチタイムを測定した。得られた結果は、表1では標準例1の値を100、表2では標準例2の値を100とする指数として、表1,2の「耐スコーチ性」の欄に示した。この指数が大きいほどスコーチ時間が長く耐スコーチ性が優れることを意味する。
【0043】
引張破断特性(引張り破断強度および引張り破断伸び)
得られた試験片を使用し、JIS K6251に準拠して、ダンベルJIS3号形試験片を作製し、20℃、引張り速度500mm/分の条件で引張り試験を行い、引張り破断強度および引張り破断伸びを測定した。得られた結果は、表1では標準例1のそれぞれの値を100、表2では標準例2のそれぞれの値を100とする指数として、表1,2の「引張破断強度」および「引張破断伸び」の欄に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
なお、表1,2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・SBR:スチレン−ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol 1502
・変性SBR−1:ヒドロキシル基を有する変性スチレン−ブタジエンゴム、日本ゼオン社製NS616。
・変性SBR−2:アルコキシル基を有する変性スチレン−ブタジエンゴム、JSR社製HPR355。
・シリカ:Solvay社製Z1165MP、窒素吸着比表面積(N
2SA)が161m
2/g
・カップリング剤−1:一般式(1)で表わされるスルフィド基を有さず、メルカプト基を有するシランカップリング剤、3−[エトキシビス(3,6,9,12,15−ペンタオキサオクタコサン−1−イルオキシ)シリル]−1−プロパンチオール、Evonik社製Si363
・カップリング剤−2:スルフィド基を有するシランカップリング剤、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、Evonik社製Si69
・ロジン樹脂−1:エステル化してないロジン樹脂、荒川化学工業社製ガムロジン、酸価が164KOHmg/g
・ロジン樹脂−2:エステル化してない無水マレイン酸変性ロジン樹脂、荒川化学工業社製KR−120、酸価が325KOHmg/g
・ロジン樹脂−3:エステル化したロジン樹脂、荒川化学工業社製スーパーエステルA、酸価が8KOHmg/g
・ロジン樹脂−4:エステル化した無水マレイン酸変性ロジン樹脂、荒川化学工業社製マルキードNo.8、酸価が39KOHmg/g
【0047】
【表3】
【0048】
なお、表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・オイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・酸化亜鉛:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日進理化社製ステアリン酸50S
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤−1:大内新興化学工業社製ノクセラーCZ-G
・加硫促進剤−2:住友化学社製ソクシノールD-G
【0049】
表1から明らかなように実施例1〜7のタイヤ用ゴム組成物は、ゴム硬度および引張破断特性を確保しながら、低粘度および耐スコーチ性を従来レベル以上に向上することが確認された。
【0050】
比較例1のタイヤ用ゴム組成物は、エステル化したロジン樹脂−3を配合したので、耐スコーチ性が劣る。
【0051】
比較例2のタイヤ用ゴム組成物は、エステル化した無水マレイン酸変性のロジン樹脂−4を配合したので、耐スコーチ性が劣る。
【0052】
比較例3〜8のタイヤ用ゴム組成物は、メルカプト基を有するシランカップリング剤を配合せずに、スルフィド基を有するシランカップリング(カップリング剤−2)を配合したので、耐スコーチ性が劣る。