特許第6848283号(P6848283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848283
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/72 20060101AFI20210315BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20210315BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20210315BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20210315BHJP
   B05D 1/40 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   B29D30/72
   B60C13/00 J
   B05D7/00 N
   B05D7/00 K
   B05D7/02
   B05D1/40 Z
   B05D1/40 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-177777(P2016-177777)
(22)【出願日】2016年9月12日
(65)【公開番号】特開2018-43357(P2018-43357A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭47−029592(JP,B1)
【文献】 特公昭47−013158(JP,B1)
【文献】 特表2009−520616(JP,A)
【文献】 特公昭50−002618(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00− 30/72
B60C 1/00− 19/12
B05D 1/00− 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記サイドウォール部の外表面の少なくとも一部を被覆するコーティング層を有する空気入りタイヤの製造方法であって、
加硫後の前記空気入りタイヤをリム組みして空気圧を充填した後、前記空気入りタイヤを一方のサイドウォール部が上方を向いた状態にして、液状のコーティング剤を前記一方のサイドウォール部における前記コーティング層の施工領域に滴下すると共に、前記空気入りタイヤを回転させてその遠心力によって前記コーティング剤を前記施工領域のタイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向かって延伸させることで前記コーティング層を形成し、前記施工領域のタイヤ径方向外側の端部に、前記空気入りタイヤと一体的に回転する円筒状のストッパーを押し当てて、前記コーティング剤が前記施工領域よりもタイヤ径方向外側まで延伸することを防ぐことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
遠心力によって延伸した前記コーティング剤の到達位置における前記サイドウォール部の外表面の勾配に応じて前記空気入りタイヤの回転数または回転速度を調節することを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
遠心力によって延伸した前記コーティング剤の到達位置における前記サイドウォール部の外表面の勾配に応じて前記空気入りタイヤの回転軸の鉛直方向に対する傾斜角度を調節することを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記施工領域の複数箇所における反射率を測定することで前記コーティング剤が延伸して到達した範囲を判定することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記コーティング層の施工中に、前記コーティング層の膜厚を非接触で測定し、測定された膜厚に応じて前記空気入りタイヤの回転数または回転速度、或いは前記コーティング剤の滴下量を調節することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記コーティング層の施工中に、前記空気入りタイヤが組み付けられたリムのリム幅および/または前記空気入りタイヤの空気圧を調節することで、サイドウォール部の外表面の勾配を小さくし、前記コーティング剤の延伸速度を均一にすることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記空気入りタイヤが前記施工領域のタイヤ径方向外側およびタイヤ径方向内側の端部にそれぞれ前記サイドウォール部の外表面から突出してタイヤ周方向に延在する突条を備えることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項8】
前記空気入りタイヤが前記施工領域内に文字、記号、または模様からなる標章を有し、該標章が前記サイドウォール部の外表面から窪んだ形状を有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項9】
前記空気入りタイヤが前記コーティング層の外表面に着色塗料からなる着色層を有し、前記コーティング層の施工後に、前記コーティング層を乾燥させる乾燥工程と、前記着色層を施工する着色工程とを含むことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項10】
前記コーティング剤が親水性のポリウレタン系樹脂であり、その粘度が1.0mPa・s〜4000mPa・sであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
前記コーティング層の施工中に、前記サイドウォール部の表面温度を80℃〜110℃に加温することを特徴とする請求項10に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部の外表面にコーティング層を備えた空気入りタイヤの製造方法に関し、更に詳しくは、コーティング層の施工時間の短縮を可能にした空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤのサイドウォール部の外表面を樹脂等からなるコーティング層で被覆することで、耐外傷性を高めることが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このようなコーティング層を用いることで、例えば、転がり抵抗の改善のためにゴムゲージを薄くした場合であっても、コーティング層によって耐外傷性を維持または改善することができる。
【0003】
このようなコーティング層は、例えば、横置きされたタイヤのサイドウォール部に対してコーティング剤をシャワー状に吹き付けたり、インクジェット方式やエアスプレー方式等の方法で印刷することで設けられる(例えば、特許文献2,3を参照)。しかしながら、前者の方法では、コーティング剤が一括して吹き付けられるためコーティング剤の量の調節が困難であり、所望の厚さの均一なコーティング層を設けるためには少量を複数回に分けて吹き付ける必要があり、コーティング層の施工時間が長くなるという問題があった。また、後者の方法では、印刷用の複雑な機構を新たに導入する必要があるという難点に加えて、プリンタヘッドの大きさが限られるためコーティング層を施工する領域の全体にコーティング剤を印刷し終わるまでに長時間を要するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/125592号
【特許文献2】特開2016‐040152号公報
【特許文献3】特開2012‐101392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、サイドウォール部の外表面にコーティング層を備えた空気入りタイヤの製造方法であって、コーティング層の施工時間の短縮を可能にした空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの製造方法は、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記サイドウォール部の外表面の少なくとも一部を被覆するコーティング層を有する空気入りタイヤの製造方法であって、加硫後の前記空気入りタイヤをリム組みして空気圧を充填した後、前記空気入りタイヤを一方のサイドウォール部が上方を向いた状態にして、液状のコーティング剤を前記一方のサイドウォール部における前記コーティング層の施工領域に滴下すると共に、前記空気入りタイヤを回転させてその遠心力によって前記コーティング剤を前記施工領域のタイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向かって延伸させることで前記コーティング層を形成し、前記施工領域のタイヤ径方向外側の端部に、前記空気入りタイヤと一体的に回転する円筒状のストッパーを押し当てて、前記コーティング剤が前記施工領域よりもタイヤ径方向外側まで延伸することを防ぐことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、上述のようにコーティング層の施工領域の径方向内側に滴下したコーティング剤を遠心力で延伸させているので、従来のようにコーティング剤をシャワー状に吹き付けたり、印刷する場合に比べて、コーティング層の施工時間を短縮することができる。
【0008】
本発明では、施工領域のタイヤ径方向外側の端部に、空気入りタイヤと一体的に回転する円筒状のストッパーを押し当てて、コーティング剤が施工領域よりもタイヤ径方向外側まで延伸することを防いでいる。これにより、本発明では、意図する領域外にコーティングが施されることを防止することができる。
【0009】
本発明では、遠心力によって延伸したコーティング剤の到達位置におけるサイドウォール部の外表面の勾配に応じて空気入りタイヤの回転数または回転速度を調節する仕様にすることもできる。この仕様では、サイドウォール部のような三次元曲面であっても延伸速度を一定にすることができ、施工時間を短縮したり、均一な厚みのコーティング層を施工するには有利になる。尚、本発明において、「空気入りタイヤの回転数」とは空気入りタイヤの単位時間当たりの回転数を意味し、「空気入りタイヤの回転速度」とはコーティング剤の滴下位置におけるタイヤ表面の周方向相対速度を意味する。
【0010】
本発明では、遠心力によって延伸したコーティング剤の到達位置におけるサイドウォール部の外表面の勾配に応じて空気入りタイヤの回転軸の鉛直方向に対する傾斜角度を調節する仕様にすることもできる。この仕様では、延伸したコーティング剤の到達位置に応じて回転軸を傾斜させてサイドウォール部の外表面を略水平に保つことができ、施工時間を短縮したり、均一な厚みのコーティング層を施工するには有利になる。
【0011】
本発明では、施工領域の複数箇所における反射率を測定することでコーティング剤が延伸して到達した範囲を判定する仕様にすることもできる。この仕様では、コーティング剤の施工状態を正確に把握することができ、コーティング層を所望の領域に確実に施工することが可能になる。
【0012】
本発明では、コーティング層の施工中に、コーティング層の膜厚を非接触で測定し、測定された膜厚に応じて空気入りタイヤの回転数または回転速度、或いはコーティング剤の滴下量を調節する仕様にすることもできる。この仕様では、コーティング時のタイヤ表面の温度条件やコーティング剤の粘度のばらつきを補正することができ、コーティング層の膜厚の制度を向上することができる。
【0013】
本発明では、コーティング層の施工中に、空気入りタイヤが組み付けられたリムのリム幅および/または空気入りタイヤの空気圧を調節することで、サイドウォール部の外表面の勾配を小さくし、コーティング剤の延伸速度を均一にする仕様にすることもできる。この仕様では、コーティング剤が延伸し易くなり、施工時間を短縮したり、均一な厚みのコーティング層を施工するには有利になる。
【0014】
本発明では、空気入りタイヤが施工領域のタイヤ径方向外側およびタイヤ径方向内側の端部にそれぞれ前記サイドウォール部の外表面から突出してタイヤ周方向に延在する突条を備える仕様にすることもできる。このようなタイヤを対象とした場合、突条によってコーティング剤が施工領域よりも外側まで延伸することを抑制することができる。
【0015】
本発明では、空気入りタイヤが施工領域内に文字、記号、または模様からなる標章を有し、この標章がサイドウォール部の外表面から窪んだ形状を有する仕様にすることもできる。このようなタイヤを対象とした場合、標章によってコーティング剤の延伸が阻害されることがなく、施工時間を短縮するには有利になる。
【0016】
本発明では、空気入りタイヤがコーティング層の外表面に着色塗料からなる着色層を有し、コーティング層の施工後に、コーティング層を乾燥させる乾燥工程と、着色層を施工する着色工程とを含む仕様にすることもできる。
【0017】
本発明では、コーティング剤が親水性のポリウレタン系樹脂であり、その粘度が1.0mPa・s〜4000mPa・sであることが好ましい。これにより、サイドウォール部に対するコーティング剤の濡れ性が高まり、施工時にコーティング剤が円滑に延伸し、且つ、施工後にコーティング層がサイドウォール部に対して強固に接着するようになる。
【0018】
本発明では、コーティング層の施工中に、サイドウォール部の表面温度を80℃〜110℃に加温することが好ましい。これにより、サイドウォール部に対するコーティング剤の濡れ性が高まり、施工時にコーティング剤が円滑に延伸し、且つ、施工後にコーティング層がサイドウォール部に対して強固に接着するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明によって製造される空気入りタイヤの一例を示す子午線半断面図である。
図2】本発明におけるコーティング層の施工時の空気入りタイヤの状態を模式的に示す説明図である。
図3】本発明におけるコーティング層の施工時の空気入りタイヤの状態を模式的に示す説明図である。
図4】本発明において用いられるストッパーの例を模式的に示す説明図である。
図5】本発明におけるコーティング層の施工時の空気入りタイヤの状態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1において、符号CLはタイヤ赤道を表わし、符号Rは空気入りタイヤが装着されるリムを表す。本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とから構成される。
【0022】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(図示の例ではベルト層7の全幅を覆う2層のベルト補強層8)が設けられている。ベルト補強層8は例えばタイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。タイヤ内面にはインナーライナー層9が設けられている。このインナーライナー層9は空気透過防止性能を有するブチルゴムを主体とするゴム組成物や、空気透過防止性能を有する樹脂等(熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂中にエラストマーが分散した熱可塑性エラストマー組成物)で構成され、タイヤ内に充填された空気がタイヤ外に透過することを防いでいる。
【0023】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層10が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配されている。トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(キャップトレッドゴム層、アンダートレッドゴム層)をタイヤ径方向に積層した構造であってもよい。
【0024】
本発明の空気入りタイヤは、上述の基本構造に加えて、サイドウォール部2の外表面の少なくとも一部にコーティング層40を備える。このコーティング層40は、特に、トレッドゴム層10の端部とリムRとの間のサイド領域Sに配置されているとよい。コーティング層40は、例えばポリウレタン系樹脂を主成分とし、サイドウォール部2の外表面を保護して耐外傷性を高めるものである。そのため、コーティング層40を用いることで、耐外傷性を維持しながらサイドウォール部2のゴムゲージを薄くして転がり抵抗の低減を図ることもできる。
【0025】
本発明は、上述のコーティング層40を備えた空気入りタイヤの製造方法、特にコーティング層40の施工方法に関するものであるので、コーティング層40を除いた空気入りタイヤの基本的な断面構造は上述の構造に限定されるものではない。
【0026】
本発明の空気入りタイヤの製造方法では、通常の方法で加硫を行った空気入りタイヤに対してコーティング層40を施工する。コーティング層40の施工工程では、まず、空気入りタイヤをリムRに組み付けて空気圧を充填する。その後、図2に示すように、空気入りタイヤを一方のサイドウォール部2が上方を向いて、他方のサイドウォール部2が下方を向いた状態にセットして、液状のコーティング剤41を上方を向いた一方のサイドウォール部2におけるコーティング層40の施工領域に滴下すると共に、空気入りタイヤを回転軸Aを中心に回転させる。このとき、回転軸Aが鉛直であれば空気入りタイヤは水平に回転することになる。その結果、滴下されたコーティング剤41は、図3に示すように、遠心力によって施工領域(図3ではサイド領域Sと一致)のタイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に向かって延伸するため、施工領域(サイド領域S)の全体にコーティング層40が施工することができる。尚、コーティング剤41の滴下はタイヤの回転中に行ってもよく、タイヤを回転する前に予め全量を滴下しておいてもよい。
【0027】
この方法を用いた場合、従来のようにコーティング剤41をシャワー状に吹き付ける方法(以下、シャワー方式と言う)と比べて滴下量の調節が容易であり、更に、回転数や回転速度の調節によって施工厚みの調節も可能であるため、少量を複数回に分けて噴射する必要があるシャワー方式に比べて施工時間を短縮することができる。また、従来のように印刷を用いる場合と比べてもコーティング剤41が延伸することで一度に広い範囲にコーティング層40を施工することができ、プリンタヘッドに対応する小さい面積ずつ施工される印刷よりも施工時間を短縮することができる。
【0028】
コーティング剤41は遠心力で延伸するため、意図した領域よりも外側まで到達する虞があるので、図3に示すように、施工領域のタイヤ径方向外側の端部に、空気入りタイヤと一体的に回転する円筒状のストッパー50を押し当てるようにして、コーティング剤41が施工領域よりもタイヤ径方向外側まで延伸することを防ぐようにしてもよい。尚、コーティング剤41は基本的にタイヤ径方向内側から外側に延伸するものであるが、タイヤ表面の形状(傾斜)によっては、滴下位置からタイヤ径方向内側に向かって流れる場合があるので、施工領域のタイヤ径方向内側の端部にもストッパー50を設けてもよい。施工領域の設定次第では、図3に示すように、リムRがタイヤ径方向内側のストッパー50を兼ねるようにしてもよい。
【0029】
このようにストッパー50を用いる場合、ストッパー50によって単純にコーティング剤41を堰き止めるだけでなく、コーティング剤41の余剰分を回収するようにしてもよい。例えば、図4(a)に示すようにストッパー50のサイドウォール部2の外表面に接する部位に回収孔51を設けたり、図4(b)に示すようにストッパー50にコーティング剤41の余剰分の受け皿となる窪み52を設けてもよい。
【0030】
上記のようにストッパー50を用いる代わりに、図5に示すように、サイドウォール部2の外表面にコーティング剤41の過剰な延伸を防ぐための突条53を設けてもよい。具体的には、施工領域のタイヤ径方向外側およびタイヤ径方向内側の端部にそれぞれサイドウォール部2の外表面から突出してタイヤ周方向に延在する突条53を備えるようにしてもよい。このように空気入りタイヤに対策を施すことでも、コーティング剤41が施工領域よりも外側まで延伸することを抑制することができる。尚、このような突条53を用いる場合、突条53のサイドウォール部2の外表面からの突出高さは例えば0.3mm〜3.0mmに設定するとよい。この突条53は単独で用いてもよいが、前述のストッパー50と併用して用いてもよい。
【0031】
サイドウォール部2の外表面は、空気入りタイヤが横置きされた際には、図3に示すように、上方に凸となる曲面であり、コーティング剤41が延伸する方向(タイヤ径方向)で考えると、コーティング剤41が滴下された位置(施工領域のタイヤ径方向内側)から空気入りタイヤの最大幅位置近傍までは上りの勾配を有し、最大幅位置を越えて施工領域のタイヤ径方向外側に向かって下りの勾配を有している。そのため、コーティング剤41の到達位置によってコーティング剤41の延伸し易さが異なることになる。具体的には、上り勾配の間はコーティング剤41が延伸し難く、下り勾配になるとコーティング剤41が延伸し易くなる傾向がある。
【0032】
このことから、本発明では、遠心力によって延伸したコーティング剤41の到達位置におけるサイドウォール部2の外表面の勾配に応じて、空気入りタイヤの回転数または回転速度を調節するようにすることが好ましい。例えば、コーティング剤41が上り勾配の領域S1を延伸している間は回転数を多くするか回転速度を早くし、コーティング剤41が下り勾配の領域S2を延伸している間は回転数を少なくするか回転速度を遅くし、コーティング剤41が勾配が無い略水平の領域S3を延伸している間はこれらの中間程度の回転数または回転速度に調節するとよい。このように回転数または回転速度を調節することで、サイドウォール部2のような三次元曲面であってもタイヤ径方向の部位に依らず延伸速度を一定にすることができ、施工時間を短縮したり、均一な厚みのコーティング層40を施工するには有利になる。
【0033】
もしくは、遠心力によって延伸したコーティング剤41の到達位置におけるサイドウォール部2の外表面の勾配に応じて、空気入りタイヤの回転軸Aの鉛直方向に対する傾斜角度を調節してもよい。即ち、サイドウォール部2の外表面の勾配が小さくなり水平に近くなるように回転軸Aを鉛直方向に対して傾けるようにしてもよい。この場合も、サイドウォール部2のような三次元曲面であってもタイヤ径方向の部位に依らず延伸速度を一定にすることができ、施工時間を短縮したり、均一な厚みのコーティング層40を施工するには有利になる。
【0034】
このように、サイドウォール部2の外表面の勾配に応じて回転数、回転速度、回転軸の傾斜角度の調整を行う場合、これらを徐々に変化させてもよく、予め設定された数段階の回転数、回転速度、回転軸の傾斜角度を切り替えるようにしてもよい。回転数または回転速度と回転軸の傾斜角度とは同時に制御するようにしてもよい。
【0035】
上記のようにサイドウォール部2の外表面の勾配を考慮する場合、上記の方法の他に、サイドウォール部2の外表面の勾配が緩和されるように、空気入りタイヤが組み付けられたリムRのリム幅および/または空気入りタイヤの空気圧を調節してもよい。例えば、コーティング剤41が上り勾配の領域S1を延伸している間はリム幅を広げて、コーティング剤41が下り勾配の領域S2を延伸している間はリム幅を小さくするようにするとよい。このようにサイドウォール部2自体を変形させて勾配を緩和させることでも、コーティング剤41の延伸速度を均一にすることができ、施工時間を短縮したり、均一な厚みのコーティング層を施工するには有利になる。
【0036】
上述のようにサイドウォール部2の外表面の勾配を緩和するための対策をする場合、タイヤサイズやタイヤ構造によって好ましい条件が異なるため、サイドウォール部2の外表面の勾配を光学的に測定しながらフィードバック制御を行うようにしてもよい。
【0037】
コーティング剤41は基本的にタイヤ径方向内側から外側に延伸するので、コーティング剤41の滴下位置は、施工領域のタイヤ径方向最内側であるとよい。このとき、コーティング剤41の滴下位置は一箇所に限定する必要は無く、例えばタイヤ周方向の複数箇所でコーティング剤41を滴下するようにしてもよい。タイヤ周方向の複数箇所でコーティング剤41を滴下した場合、施工時間の短縮には有利になる。
【0038】
また、タイヤ径方向の複数箇所でコーティング剤41を滴下するようにしてもよい。この場合、例えば、上述のようにサイドウォール部2の外表面の勾配の異なる領域ごとに異なる粘度のコーティング剤41を滴下したり、勾配の異なる領域ごとにコーティング剤41の滴下量を変えることができる。また、タイヤ径方向の部位ごとにコーティング層40の厚みを変えることも容易になる。
【0039】
本発明では、コーティング剤41を滴下した後は遠心力による延伸のみに依拠しているため、コーティング剤41の延伸が適切に行われて所望の施工領域に所望の厚さのコーティング層40が適正に施工されているかどうかを判定することが好ましい。例えば、施工領域の複数箇所における反射率を測定することでコーティング剤41が延伸して到達した範囲を判定することが好ましい。この場合、少なくとも施工領域のタイヤ径方向最外側における反射率を測定すればコーティング層40の施工が終了したことを確認することができる。
【0040】
また、コーティング層40の膜厚を分光干渉等の方法を用いて非接触で測定してもよい。この場合、コーティング層40の施工状態を正確に把握することができ、コーティング層40を所望の領域に所望の厚さで確実に施工することが可能になる。コーティング層40の膜厚の非接触測定は、コーティング層40の施工中(コーティング剤41の延伸中)に行ってもよく、測定された膜厚に応じて空気入りタイヤの回転数または回転速度、或いはコーティング剤41の滴下量を調節するようにしてもよい。この場合、コーティング工程中のタイヤ表面の温度やコーティング剤41の粘度等の条件のばらつきを補正することができ、コーティング層40の膜厚の精度を向上することができる。尚、分光干渉によってコーティング層40の膜厚を測定する場合、コーティング剤41が透明または光を透過可能な色のものを用いるとよい。また、紫外線硬化樹脂を含むコーティング剤41を用いてもよい。
【0041】
コーティング層40の施工領域は空気入りタイヤの装飾領域と重複する場合がある。装飾領域には、文字、記号、または模様からなる標章が設けられるが、この標章がサイドウォール部2の外表面から突出していると、標章によってコーティング剤41の延伸が阻害される虞がある。そのため、本発明では、標章をサイドウォール部2の外表面から窪んだ形状にすることが好ましい。このとき、凹状の標章の深さは例えば0.3mm〜1.5mmにするとよい。また、標章の一部がサイドウォール部2の外表面から窪んだ溝を複数含む場合、コーティング剤41の接着性を確保するために隣り合う溝どうしの間隔を2mm以上あけることが好ましい。
【0042】
また、装飾領域ではサイドウォール部2の外表面に着色を施す場合があるが、その場合、上述の方法で形成されたコーティング層40の外表面に着色塗料からなる着色層を設けるとよい。このとき、コーティング層40を上述の方法で施工した後、コーティング層(コーティング剤41)を乾燥させる乾燥工程を経てから、着色層の施工(着色工程)を行うようにするとよい。着色塗料が黒色以外の色を有する場合、着色層の発色を良好にするために、コーティング剤41として白色のものを用いるとよい。着色層の施工後に更に上述の方法で透明なコーティング層を設けてもよい。
【0043】
前述のようにコーティング層40(コーティング剤41)は、ポリウレタン系樹脂を主成分とするが、特に親水性のポリウレタン系樹脂を主成分とすることが好ましい。また、施工時のコーティング剤41(液状)の粘度は好ましくは1.0mPa・s〜4000mPa・s、より好ましくは10mPa・s〜2000mPa・sであるとよい。このように粘度を設定することで、サイドウォール部2の外表面に対する濡れ性を高めることができ、施工時にコーティング剤41が円滑に延伸し、且つ、施工後にコーティング層40がサイドウォール部2に対して強固に接着することが可能になる。尚、疎水性(親油性)のポリウレタン系樹脂は、サイドウォール部2に対する濡れ性には優れるが、コーティング剤41を液状で用いるために有機溶剤等を使用する必要が生じるため、環境負荷の観点から好ましくない。
【0044】
上述のコーティング剤41を用いる場合、コーティング層40の施工中に、サイドウォール部2の表面温度を80℃〜110℃に加温することが好ましい。これにより、サイドウォール部に対するコーティング剤41の濡れ性を更に高めることができ、施工時にコーティング剤41が円滑に延伸し、且つ、施工後にコーティング層がサイドウォール部2に対して強固に接着するには有利になる。
【0045】
コーティング剤41の濡れ性を高めるために、サイドゴム20を構成するゴム組成物においてゴム成分100重量部に対して老化防止剤を0.05重量部〜1.5重量部、任意でワックスを0.5重量部以下配合することが好ましい。これにより、サイドウォール部2に対するコーティング剤41の濡れ性を更に高めることができる。尚、ワックスとしては、例えば、ライスワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ジャパンワックス、ウルシろう、サトウキビろう、パームろう等の植物性ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、オイルシェルより得られるワックス等の鉱物系ワックス、蜜ろうワックス等の動物性ワックスなどを用いることができる。
【実施例】
【0046】
タイヤサイズが195/65R15であり、図2に示す基本構造を有し、コーティング層の施工方法を表1のように設定した設定した比較例1、実施例1〜4の5種類の空気入りタイヤを作製した。
【0047】
尚、表1の「施工方法」の欄について、コーティング剤をインクジェット方式で印刷した場合を「印刷」、本発明のようにコーティング剤を滴下しながらタイヤを水平に回転させてコーティング剤を延伸させた場合を「スピン」と示した。表1の「回転数」は施工方法が「スピン」である場合のタイヤの回転数を示しており、80rpmで一定にするか、サイドウォール部の勾配に応じて80rpm〜140rpmの範囲内で制御するかを異ならせた。表1の「傾斜角度」は施工方法が「スピン」である場合のタイヤの回転軸の鉛直方向に対する傾斜角度を示しており、鉛直方向に対して0°で一定にするか、サイドウォール部の勾配に応じて鉛直方向に対して0°〜25°の範囲で制御するかを異ならせた。コーティング剤としては水系媒体中にポリウレタン樹脂を分散させた水性ポリウレタン樹脂分散体(粘度:18mPa・s〜19mPa・s)を共通して用いた。
【0048】
これら5種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、コーティング層の施工時間を測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1から明らかなように、施工方法として「スピン」を採用した実施例1〜4はいずれも、施工方法として「印刷」を採用した比較例1と比べてコーティング層の施工時間を短縮することができた。
【符号の説明】
【0051】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
9 インナーライナー層
10 トレッドゴム
20 サイドゴム
30 ビードゴム
40 コーティング層
41 コーティング剤
50 ストッパー
CL タイヤ赤道
R リム
S サイド領域
図1
図2
図3
図4
図5