(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848319
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20210315BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20210315BHJP
B60C 9/20 20060101ALI20210315BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20210315BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
B60C11/00 F
B60C9/00 J
B60C9/20 E
D07B1/06 A
B60C9/22 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-198225(P2016-198225)
(22)【出願日】2016年10月6日
(65)【公開番号】特開2018-58515(P2018-58515A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】藤城 雅之
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−328407(JP,A)
【文献】
特開2012−091735(JP,A)
【文献】
特開平07−096715(JP,A)
【文献】
特開平06−255313(JP,A)
【文献】
特開平06−255312(JP,A)
【文献】
特開2012−091614(JP,A)
【文献】
特開2015−205580(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2017/0028789(US,A1)
【文献】
特開2012−218565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00−11/00
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部におけるカーカス層の外周側に、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤを含むベルト層が埋設された空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層の外周側に補強コードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層が配置され、前記単線スチールワイヤが扁平断面形状を有すると共に、各単線スチールワイヤの断面積が0.10mm2〜0.15mm2であり、前記ベルト層の幅50mm当たりの前記単線スチールワイヤの打ち込み本数が30本/50mm〜60本/50mmであり、前記ベルト層の幅50mm当たりのワイヤ量が5.30mm2/50mm〜7.50mm2/50mmであり、前記トレッド部における溝下ゴム厚さが1.0mm〜2.0mmであることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記単線スチールワイヤは短径が前記ベルト層の厚さ方向と一致するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記単線スチールワイヤの短径が0.2mm〜0.3mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記単線スチールワイヤの扁平比が1.5〜3.0であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤを含むベルト層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、転がり抵抗の低減を図ると共に、ベルト折れに対する耐久性を良好に維持することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費を向上させるために、空気入りタイヤの転がり抵抗を低減することが強く求められている。このような要求に応えるために、空気入りタイヤの補強部材であるベルト層に使用される補強コードの構造について検討がなされている。
【0003】
空気入りタイヤのベルト層の補強コードとして、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるスチールコードが一般的に使用されている。このような複数本のフィラメントを撚り合わせてなるスチールコードは、素線間の擦れによるエネルギーロスが影響し、空気入りタイヤの転がり抵抗を増大させる要因となる。
【0004】
これに対して、ベルト層の補強コードとして撚りが加えられていない単線スチールワイヤを使用することが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。このような単線スチールワイヤを用いた場合、ベルト層のコートゴムを減らして空気入りタイヤの転がり抵抗を低減することが可能になる。しかしながら、撚りが加えられていない単線スチールワイヤはトレッド部が座屈した際に折損し易いため、そのような折損がベルト層の幅方向に伝播してベルト折れを生じ易いという欠点を有している。そのため、撚りが加えられていない単線スチールワイヤをベルト層に用いた場合、ベルト折れに対する耐久性が低下するという問題がある。
【0005】
一方、トレッド部における溝下ゴム厚さを小さくすることにより、トレッドゴム容量を減らし、転がり抵抗を低減することが可能である。しかしながら、撚りが加えられていない単線スチールワイヤをベルト層に用いるにあたって、トレッド部における溝下ゴム厚さを小さくした場合、ベルト折れに対する耐久性が更に悪化することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−95506号公報
【特許文献2】特開2006−218988号公報
【特許文献3】特開2010−89727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤを含むベルト層を設けるにあたって、転がり抵抗の低減を図ると共に、ベルト折れに対する耐久性を良好に維持することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤを含むベルト層が埋設された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層の外周側に補強コードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層が配置され、前記単線スチールワイヤが扁平断面形状を有すると共に、
各単線スチールワイヤの断面積が0.10mm2〜0.15mm2であり、前記ベルト層の幅50mm当たりの前記単線スチールワイヤの打ち込み本数が30本/50mm〜60本/50mmであり、前記ベルト層の幅50mm当たりのワイヤ量が5.30mm2/50mm〜7.50mm2/50mmであり、前記トレッド部における溝下ゴム厚さが1.0mm〜2.0mmであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤを含むベルト層を設けるにあたって、トレッド部における溝下ゴム厚さを1.0mm〜2.0mmという比較的小さい値に設定することにより、トレッドゴム容量を減らし、転がり抵抗を低減することができる。しかも、扁平断面形状を有する単線スチールワイヤをベルト層に用いることにより、単線スチールワイヤに折損を生じ難くすることができる。その結果、転がり抵抗の低減を図ると共に、ベルト折れに対する耐久性を良好に維持することが可能になる。
【0010】
本発明において、単線スチールワイヤは短径がベルト層の厚さ方向と一致するように配置されていることが好ましい。これにより、単線スチールワイヤの折損をより効果的に抑制することができる。
【0011】
単線スチールワイヤの短径は0.2mm〜0.3mmであることが好ましい。また、単線スチールワイヤの扁平比が1.5〜3.0であることが好ましい。これにより、単線スチールワイヤの折損をより効果的に抑制することができる。
【0012】
本発明において、溝下ゴム厚さとは、トレッド部に形成された最も深い溝(例えば、タイヤ周方向に延在する主溝)の溝底とトレッド部に埋設された最外側の補強層の補強コードとの間に存在するゴム部分の厚さである。ここで言う補強層とは、ベルト層又はベルト層よりもタイヤ径方向外側に配置されるベルトカバー層を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】本発明の空気入りタイヤにおけるトレッド部の要部を示す断面図である。
【
図3】本発明の空気入りタイヤのベルト層に使用される単線スチールワイヤを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び
図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、
図3はそのベルト層に使用される単線スチールワイヤを示すものである。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0015】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。カーカス層4の補強コードとしては、ポリエステル等の有機繊維コードが好ましく使用されるが、スチールコードを使用しても良い。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0016】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜するように引き揃えられた複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。
【0017】
ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。このベルトカバー層8は少なくとも1本の補強コードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に連続的に巻回したジョイントレス構造とすることが望ましい。また、ベルトカバー層8は図示のようにベルト層7の幅方向の全域を覆うように配置しても良く、或いは、ベルト層7の幅方向外側のエッジ部のみを覆うように配置しても良い。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0018】
また、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝11が形成されている。ここでは主溝11だけが描写されているが、トレッド部1にはタイヤ周方向に延びるラグ溝を含む各種の溝を必要に応じて形成することが可能である。いずれにしても、
図1においては、主溝11が最も深い溝である。
【0019】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7を構成する補強コードとして、
図2及び
図3に示すように、扁平断面形状を有する単線スチールワイヤC1が使用されている。扁平断面形状とは、楕円形や長円形、トラック形状を包含する形状である。各単線スチールワイヤC1は長径Daと短径Dbを有し、その短径Dbがベルト層7の厚さ方向と一致するように配置されている。また、トレッド部1に形成された主溝11とベルトカバー層8の補強コードC2との間の溝下ゴム厚さtは1.0mm〜2.0mmの範囲内に設定されている。
【0020】
上記空気入りタイヤでは、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤC1を含むベルト層7を設けるにあたって、トレッド部1における溝下ゴム厚さtを1.0mm〜2.0mmという比較的小さい値に設定しているので、トレッド部1を構成するトレッドゴム容量を減らし、転がり抵抗を低減することができる。しかも、扁平断面形状を有する単線スチールワイヤC1をベルト層7に使用しているので、単線スチールワイヤC1の断面積を大きくした場合であっても、単線スチールワイヤC1が屈曲した際に生じる歪を小さくすることができ、その結果、単線スチールワイヤC1に折損が生じ難くなる。これにより、転がり抵抗の低減を図りつつ、ベルト折れに対する耐久性を良好に維持することが可能になる。
【0021】
上記空気入りタイヤにおいて、単線スチールワイヤC1は短径Dbがベルト層7の厚さ方向と一致するように配置されていると良い。これにより、ベルと層7を構成する単線スチールワイヤC1が屈曲する際の歪を最小限に抑えて単線スチールワイヤC1の折損をより効果的に抑制することができる。
【0022】
単線スチールワイヤC1の短径Dbは0.2mm〜0.3mmであると良い。これにより、単線スチールワイヤC1の折損をより効果的に抑制することができる。単線スチールワイヤC1の短径Dbが0.2mmよりも小さいとベルト層7に要求される機能を十分に発現することが難しくなり、逆に0.3mmよりも大きいとベルト折れに対する耐久性の改善効果が低下する。
【0023】
また、単線スチールワイヤC1の扁平比(Da/Db)は1.5〜3.0であると良い。これにより、単線スチールワイヤC1の折損をより効果的に抑制することができる。単線スチールワイヤC1の扁平比(Da/Db)が1.5よりも小さいとベルト折れに対する耐久性の改善効果が低下する。また、単線スチールワイヤC1の扁平比(Da/Db)を3.0よりも大きくすることは製造上困難である。
【0024】
更に、各単線スチールワイヤC1の断面積は0.10mm
2〜0.15mm
2であると良い。これにより、単線スチールワイヤC1の折損をより効果的に抑制することができる。単線スチールワイヤC1の断面積が0.06mm
2よりも小さいと単位幅当たりにワイヤを十分量打ち込むことができず、ベルト層7に要求される機能を十分に発現することが難しくなる。更に、補強効果が不十分となり、ベルト折れに対する耐久性が低下する。逆に0.20mm
2よりも大きいとベルト層7が厚くなりすぎ、路面追従性が悪くなり、ベルト折れに対する耐久性の改善効果が低下する。
【0025】
上記空気入りタイヤにおいて、ベルト層7の幅50mm当たりの単線スチールワイヤC1の打ち込み本数は30本/50mm〜60本/50mmであると良い。また、ベルト層7の幅50mm当たりのワイヤ量(即ち、各単線スチールワイヤC1の断面積とベルト層7の幅50mm当たりの単線スチールワイヤC1の打ち込み本数との積)は5.30mm
2/50mm〜7.50mm
2/50mmであると良い。これにより、ベルト層7に要求される機能を十分に発現することができる。なお、ここで言うベルト層7の幅50mm当たりとは、単線スチールワイヤCの延長方向に対して直交する方向に測定されるベルト層7の幅50mm当たりを意味するものである。
【実施例】
【0026】
タイヤサイズ195/65R15で、トレッド部におけるカーカス層の外周側に、引き揃えられた複数本の単線スチールワイヤを含む2層のベルト層と、これらベルト層の外周側に配置されていてジョイントレス構造を有するベルトカバー層(フルカバー+エッジカバー)を備えた空気入りタイヤにおいて、ベルト層を構成する単線スチールワイヤの断面形状、長径Da、短径Db、扁平比Da/Db、ワイヤ断面積、ベルト層の幅50mm当たりの単線スチールワイヤの打ち込み本数(本/50mm)、ベルト層の幅50mm当たりのワイヤ量(mm
2/50mm)を表1のように設定した従来例1、比較例1〜3及び実施例1〜4のタイヤを製作した。
【0027】
これら試験タイヤについて、下記の評価方法により、転がり抵抗、荷重耐久性(ベルト折れ)を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0028】
転がり抵抗:
表面が平滑であって直径が1707mmである鋼製のドラムを備えたドラム試験機を用い、各試験タイヤをリムサイズ15×6JJのホイールに組み付けて空気圧200kPaに設定し、JATMAイヤーブックに規定される当該空気圧での負荷能力の85%に相当する荷重を負荷してドラムに押し付けた状態で、速度80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が小さいことを意味する。
【0029】
荷重耐久性(ベルト折れ):
表面が平滑であって直径が1707mmである鋼製のドラムを備えたドラム試験機を用い、周辺温度を38℃±3℃に制御し、各試験タイヤをリムサイズ15×6JJのホイールに組み付けて空気圧を180kPaに設定し、走行速度30km/h、スリップ角を0°±4°とし、荷重をJATMA最大負荷能力の65%±40%とする変動条件下で、荷重とスリップ角を0.083Hzの矩形波で変動させながら10時間にわたって300km走行させた。走行後、タイヤ周上の4箇所でタイヤ周方向の長さ20cmの範囲でトレッド部を切開してベルト層を露出させ、単線スチールワイヤの折損によるベルト破断部(ベルト折れ)の長さの総和を求めた。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど耐久性が優れていることを意味する。なお、この荷重耐久性試験はベルト破断部を意図的に生じさせるために設定された過酷な条件に基づくものである。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から明らかなように、実施例1〜4のタイヤは、いずれも、ベルト層に円形断面形状を有する単線スチールワイヤを用いた従来例1との対比において、転がり抵抗が低減されており、しかも、ベルト折れに対する耐久性が良好に維持されていた。
【0032】
これに対して、比較例1のタイヤは、ベルト層に円形断面形状を有する単線スチールワイヤを使用しつつ溝下ゴム厚さを小さくしているため、転がり抵抗が低減される一方で荷重耐久性が大幅に悪化していた。比較例2のタイヤは、ベルト層に扁平断面形状を有する単線スチールワイヤを使用しつつ溝下ゴム厚さを過度に小さくしているため、荷重耐久性が悪化していた。また、比較例3のタイヤは、ベルト層に扁平断面形状を有する単線スチールワイヤを使用しつつ溝下ゴム厚さを過度に大きくしているため、転がり抵抗が悪化していた。
【符号の説明】
【0033】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトカバー層
9 主溝
C1 単線スチールワイヤ