(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のようなガスバリア基材に使われる酸化アルミニウム膜を積層したフィルムでは、酸化アルミニウム膜と基材PET間での凝集力が劣化するため、レトルト処理やボイル処理のような加熱処理により密着性の劣化を引き起こすという欠点があった。
【0007】
この問題を解決するために、従来から基材表面にアンカーコートを施して酸化アルミニウム膜とPET基材間の劣化を抑える試みがなされている。
【0008】
しかしながら樹脂系アンカーコートだけでは、酸化アルミニウム膜と基材との密着性劣化を抑えようとすると、ガスバリア積層体の工程数を増やすことになり、かつ剥離劣化箇所が基材表層のため、十分に劣化を抑えることができなかった。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、レトルト処理・ボイル処理を
行っても密着性が劣化しないガスバリア積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
ポリエチレンテレフタレートからなる基材の少なくとも一方の面に酸化アルミニウム膜を積層してなるガスバリア積層体において、
X線光電子分光法(XPS)によって測定される前記基材のC1sピークのCOO結合ピークの面積率が、16.2%から17.8%の範囲内であ
り、前記酸化アルミニウム膜が、前記XPSによって算出される酸素とアルミニウムの比(O/Al)が1.5から1.8の範囲内であることを特徴とするガスバリア積層体である。
【0012】
請求項
2記載の発明は、
前記酸化アルミニウム膜の厚さが5〜30nmであることを特徴とする、請求項
1に記載のガスバリア積層体である。
【0013】
請求項
3記載の発明は、
前記請求項1
または2に記載のガスバリア積層体の製造工程において、前記基材上にプラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)処理が施されていることを特徴とするガスバリア積層体の製造方法である。
【0014】
請求項
4記載の発明は、
前記RIE処理が、アルゴン、窒素、酸素、水素のうちの1種類のガス、または、これらの混合ガスを用いて1回以上行われる処理であることを特徴とする、請求項
3に記載のガスバリア積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスバリア積層体を用いれば、レトルト処理・ボイル処理においてPET基材表面の劣化を抑え、密着性が劣化しないガスバリア積層体を提供することができる。
具体的には、請求項1に記載の発明により、レトルト処理・ボイル処理を行ってもPET基材の表面の凝集力が劣化せず、密着性が劣化しないガスバリア積層体が得られる。
さらに請求項2に記載の発明により、レトルト処理・ボイル処理でも酸化アルミニウム膜が劣化せず透明性に優れた膜質となる。
また請求項3に記載の発明により、均一かつ膜応力の少ない酸化アルミニウム膜が得られ、レトルト処理・ボイル処理で密着性が劣化しない。
そして請求項4から5に記載の発明により、処理液を用いた化学処理に比べて環境を汚染しない処理が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
本発明者の鋭意検討に基づく知見によれば、ガスバリア積層体のPET(ポリエチレンテレフタレート)基材のCOO結合の割合を好適化することにより、レトルト処理・ボイル処理を行っても密着性が劣化しないガスバリア積層体が得られることを見出した。そこで、以下のような実施形態により本発明のガスバリア積層体が得られた。ただし、本発明は以下の実施形態のみに限定するものではない。
【0019】
図1は本発明のガスバリア積層体11の構造を説明する断面図であり、PET基材1上に酸化アルミニウム膜2が積層されており、その間のPET基材表面に、プラズマを利用したRIE処理による前処理を施したRIE処理層3が形成されている構造である。
【0020】
本発明のガスバリア積層体は、基材であるPET中の分子構造のCOO結合を制御してなるものである。この結果、密着性の向上につながるだけでなく、レトルト処理・ボイル処理においても、密着性の劣化を抑制することができる。
【0021】
本発明のガスバリア積層体は、本発明者の次の知見に基づくものである。
基材であるPETの分子構造におけるCOO結合の割合をCOO%とすると、COO%は一般にX線光電子分光法(XPS)で測定される。例えば基材の測定面積を直径6mmとし、100WのX線を照射してC1sスペクトルを測定し、波形分離解析を行うことによって、前記COO%の測定値が得られる。本発明者は種々の実験検討により、このCOO%が適切な値になっていないと、密着性劣化を起こしやすいことを見出した。
【0022】
未処理の場合のPETフィルムの分子構造は、XPSで測定されるC1s波形の波形分離解析(
図2)からC−C結合が約60%、C−O結合が約20%、COO結合が約20%となっている。このようにしてXPSで分子構造が測定される。
【0023】
COO%はPETフィルム表面の凝集力に関係しており、RIE処理をすることにより表面の凝集力が変化することを利用して、さらにPET基材のCOO%を適切な値に調整することができ、その効果としてレトルト処理・ボイル処理で密着性の劣化を防ぐことができる。
【0024】
上述した基材はPETであり、積層する酸化アルミニウム膜の透明性を生かすために、可能であれば透明なPET基材であることが好ましい。PET基材は延伸処理したものの方が機械的強度や寸法安定性が良い。またこのPET基材の、酸化アルミニウム膜が設けられる面と反対側の表面に、公知の添加剤、例えば帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などが使用されていても良い。
【0025】
PET基材の厚さは、特に制限を受けるものではないが、酸化アルミニウム膜を形成するときの加工性を考慮すると、実用的には3〜200μmの範囲が好ましく、特に6〜50μmとすることが好ましい。
【0026】
PET基材の厚さが3μm以下である場合は、巻取り装置で加工する場合、シワの発生やフィルムの破断が生じ、200μm以上である場合は、フィルムの柔軟性が低下するため、巻き取り装置では加工が困難になる。
【0027】
また、包装材料としての適性を考慮して、酸化アルミニウム膜以外に異なる性質のフィルムを積層することができる。例えば、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニルフィルムやポリフッ化ジビニルなどのフッ素系樹脂フィルムなどが考えられるが、これら以外の樹脂フィルムを積層することもできる。
【0028】
PET基材の最表面のCOO%を測定する方法としてはXPSがもっとも適切であり、
官能基の割合の定量性も高い。したがって、正確にCOO%を算出することが可能である。
【0029】
本発明のガスバリア積層体は、PET基材の酸化アルミニウム膜を積層する面に、プラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施す。このRIEによる処理を行うことで、発生したラジカルやイオンを利用してPET基材の表面に官能基の割合を調整したり、他の官能基を生成させることができる化学的効果と、イオンエッチングすることで表面の不純物を除去したり、表面粗さを大きくしたりといった物理的効果の2つの効果を同時に得ることが可能である。
これにより、PET基材と酸化アルミニウム膜との密着を向上させ、レトルト処理やボイル処理で両者が剥離しない構造とすることができる。
【0030】
本発明におけるRIEによる処理を巻き取り式のインライン装置で行う方法としては、PET基材の設置されている冷却ドラムに電圧を印加してプレーナ型にする方法(
図3)、もしくはホロアノード・プラズマ処理装置を用いて処理を行う方法(
図4)がある。
【0031】
図3はプレーナ型のRIE処理装置の概略構成及びこの装置を用いてRIE処理を行う様子を示す概略図である。
本装置において、処理ロール6の内側に電極4が配置されており、プラスチックフィルム基材7を処理ロール6表面に沿って搬送しながら、このプラスチックフィルム基材7の表面にプラズマイオン5を照射してRIE処理が行われる。電極4はこの場合陰極である。
プレーナ型で処理を行えば、PET基材は陰極(カソード)側に近い位置に設置することができ、高い自己バイアスを得ることによってRIEによる処理が行える(
図3)。
【0032】
図4はホロアノード・プラズマ処理器の概略構成とRIE処理を行う様子を示す図である。ホロアノード・プラズマ処理器は、この図では陽極(アノード)として機能する処理ロール16を備え、さらに陰極14の両端には遮蔽板10を備え、遮蔽板10は処理ロール16の外部に、処理ロール16と対向するようにして配置されている。
【0033】
陰極14は開口部を有するボックス形状で、その開口部は処理ロール16に対向して開口している。ガス導入口8は陰極14の上方に配置され、処理ロール16と陰極14の間、及び処理ロール16と遮蔽板10の間の空隙にRIE用ガスが導入されるようになっている。
【0034】
そして陰極14の印加電圧を制御するマッチングボックス9が、陰極14の背面に設置されている。プラスチックフィルム基材17を処理ロール16表面に沿って搬送しながら、マッチングボックス9から陰極14に電圧を印加して、ガス導入口8からガスが導入されて、処理ロール16と陰極14及び遮蔽板10との間にプラズマを発生させる。
これにより、陽極である処理ロール16に向けてプラズマ中のラジカル15が引き寄せられ、プラスチックフィルム基材7の表面にラジカル15を作用させる。
【0035】
もし、通常のインライン処理で行うように、ドラムもしくはガイドロールの対面側に印加電極を設置した場合には、PET基材は陽極(アノード)側に設置されることになる。
この時、PET基材は高い自己バイアスを得られず、ラジカルがPET基材表面に作用し化学反応するだけの、いわゆるプラズマエッチングしか行われないため、酸化アルミニウム膜とPET基材との密着性は低いままである。
【0036】
上記ホロアノード・プラズマ処理器とは、中空状の陽極を有し、その陽極の面積(Sa)が、対極となる陰極の基板面積(Sc)に比べ、Sa>Scとなるような処理器である(
図4)。陽極の面積を大きくすることで、対極となる陰極(プラスチックフィルム基材)上に大きな自己バイアスを発生することが出来る。
【0037】
この大きな自己バイアスにより、安定で強力な表面処理が可能となる。さらに好ましくは、上記ホロアノード電極中に磁石を組み込み、磁気アシスト・ホロアノードとすることで、より強力且つ安定したプラズマ表面処理を高速で行うことである。磁気電極から発生される磁界により、プラズマ閉じ込め効果を更に高め、大きな自己バイアスで高いイオン電流密度を得ることが出来る。
【0038】
RIEによる前処理を行うためのガス種としては、アルゴン、酸素、窒素、水素を使用することが出来る。これらのガスは単独で用いても、2種類以上のガスを混合して用いてもよい。また、2基以上の処理器を用いて、連続して処理を行ってもよい。この時2基以上の処理器は同じものを使用する必要はなく、プレーナ型で処理を行った後に連続してホロアノード・プラズマ処理器を用いて処理を行っても構わない。
【0039】
次に酸化アルミニウム膜2について説明する。酸化アルミニウム膜はXPS法測定によって算出される酸素とアルミニウムの比(O/Al)が1.5〜1.8であることが好ましい。O/Alが1.5より小さい場合、バリア性が低下し、かつバリア層が着色し透明性を失う。一方、1.8より大きい場合、バリア膜の残留応力が大きく、また水酸基が多く導入された状態でバリア性が著しく低下する。また、ボイル・レトルト処理などで加熱されると、膜とPET基材の密着性が低下する。
【0040】
酸化アルミニウム膜の膜厚は、一般的には5〜30nmの範囲内が望ましく、その値は適宜選択される。ただし膜厚が5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また、膜厚が30nmを越える場合は薄膜の残留応力によりフレキシビリティを保持させることができず、成膜後外的要因により、薄膜に亀裂を生じるおそれがあるので問題がある。
【0041】
酸化アルミニウムからなる蒸着薄膜層をPET基材に積層する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などを用いることができる。ただし、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。
真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましいが、蒸発材料の選択性の幅広さを考慮すると電子線加熱方式または抵抗加熱方式を用いることがより好ましい。
【0042】
また、蒸着薄膜層とPET基材の密着性、及び蒸着薄膜層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着することも可能である。
蒸着膜の透明性を上げるために、蒸着の際、酸素等の各種ガスなど吹き込む反応蒸着を用いて蒸着することができる。
【0043】
酸化アルミニウム膜上には、保護、接着性および印刷適性を向上させるため、オーバーコート層を形成することができる。このオーバーコート層としては、溶剤溶解性または水溶性のポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、ビニルアルコール樹脂、EVOH樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂およびアルキルチタネート等を単独あるいは2種類以上からなる層を設けることができる。
【0044】
また、オーバーコート層としては、バリア性、摩耗性、滑り性向上のため、シリカゾル、アルミナゾル、粒子状無機フィラーおよび層状無機フィラーから選択される1種類以上を添加、あるいはこれらの1粒子の存在下で上記樹脂を重合あるいは縮合により形成して得た上記樹脂からなるオーバーコート層が好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明のガスバリア積層体の実施例を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
[X線光電子分光法(XPS)によるCOO%とO/Alの算出]
測定装置は日本電子株式会社製のX線光電子分光分析装置JPS−9030を用いた。X線源として非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、X線出力は100W(10kV−10mA)で測定した。COO%面積率を求めるためにC1sの波形分離解析、O/Alを求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Al2pで0.6の相対感度因子を用いて計算した。
【0047】
<実施例1>
厚さ12μmのPETフィルムの片面に、電子線加熱方式を用いて酸化アルミニウム膜を10nmの厚みで蒸着しガスバリア積層体を作製した。この時のPET面にはホロアノード・プラズマによるRIE処理を2Wの出力でアルゴンガスを用いて処理し、COO%が17.6%、O/Alが1.60であった。酸化アルミニウム蒸着膜の上にPVAとTEOSを混合したオーバーコートを300nmの厚みでコートした。
【0048】
<実施例2>
ホロアノード・プラズマによるRIE処理の出力を4WとしてCOO%17.1%に調整し、O/Alが1.72であった以外は実施例1と同様にしてガスバリア積層体を作製した。
【0049】
<実施例3>
ホロアノード・プラズマによるRIE処理の出力を6WとしてCOO%16.4%に調整し、O/Alが1.78であった以外は実施例1と同様にしてガスバリア積層体を作製した。
【0050】
<比較例1>
ホロアノード・プラズマによるRIE処理をせずに(出力0W)、COO%18.1%に調整し、O/Alが1.56であった以外は実施例1と同様にしてガスバリア積層体を作製した。
【0051】
<比較例2>
ホロアノード・プラズマによるRIE処理の出力を8WとしてCOO%16.1%に調整し、O/Alが1.81であった以外は実施例1と同様にしてガスバリア積層体を作製した。
【0052】
<比較例3>
ホロアノード・プラズマによるRIE処理の出力を10WとしてCOO%15.9%に調整し、O/Alが1.85であった以外は実施例1と同様にしてガスバリア積層体を作製した。
【0053】
<評価>
上記サンプルのガスバリア積層体について、バリアコート層側にウレタン系接着剤を用いて厚さ15μmのナイロン(ONy)を貼り合せ、さらに厚さ60μmのポリプロピレンフィルム(CPP)をウレタン系接着剤で貼り合せたラミネートフィルムを作成した。このフィルムを用いてA5サイズの三方パウチを作成した。中身は市水を使用した。
121℃30分の条件でレトルト処理をして、レトルト後2時間以内にガスバリア積層体とナイロンの間を剥がしてきっかけとし、オリエンテック社製の引張試験機テンシロンRTC−1250で180°剥離してフィルムの剥離強度を測定した。
【0054】
測定結果を表1に示す。評価基準として、剥離強度2N/15mm以上を示した場合を適として○とし、2N/15mmより値が低い場合を不適として×とした。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示した結果から、実施例1〜3の条件ではフィルムの剥離強度がいずれも2N/15mm以上が得られ、○の判定であった。これらの結果から、COO%が16.2%から17.8%、および酸化アルミニウム薄膜の酸素とアルミニウムの比(O/Al)が1.5から1.8に調整したガスバリア積層体フィルムは、優れた密着性を有し、劣化しないことを示した。
【0057】
一方、比較例1はRIE処理がされていないため、フィルムと基材との密着性が低く、判定は×であった。
比較例2及び比較例3は、COO%の値が実施例1〜3の範囲より低いため、レトルト処理によってフィルムの密着性が低下してしまい、判定は×であった。
【0058】
以上のように本発明のガスバリア積層体は、基材PETフィルムのCOO%とO/Alの値が上記の範囲であることにより、ボイル又はレトルト処理後でも優れた密着性を有しているガスバリア積層体が得られる。