(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶接金属全質量に対する質量%で、Ti:0.05%以下、B:0.005%以下の1種又は2種をさらに含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐食鋼の溶接金属。
【背景技術】
【0002】
長期間使用することによって大気腐食環境中に長期間暴露されている耐候性鋼材は、一般的に、鋼材の表面に保護性のあるさび層が形成される。このさび層が外界からの腐食性物質を遮蔽することで、それ以降の鋼材腐食が抑制されて耐候性を発揮する。そのため、耐候性鋼材は、塗装せずに裸のまま使用可能な鋼材として、橋梁等の構造物に用いられている。
しかしながら、海浜地域に加え、内陸部でも融雪剤が散布される地域のように飛来塩分量が多い環境化では、耐候性鋼材の表面に保護性のあるさび層が形成されにくく、腐食を抑制する効果が発揮されにくい。そのため、これらの地域では、裸のまま耐候性鋼材を用いることができず、塗装して用いる必要がある。
【0003】
さらに、前述の飛来塩分量が多い環境下では、塗膜(塗装膜)劣化によって塗膜傷が生じ、塗膜傷部直下の鋼材が直接的に腐食環境にさらされるために、傷部を中心としてコブ状に塗膜が膨れ上がる腐食形態を示す。このような腐食形態の進行によってさらに塗膜傷部が累進的に拡大することで構造物の腐食が進展し続けるため、構造物の寿命延長を目的として約10年毎に再塗装を実施することが多い。
しかし、再塗装は多大な工数がかかることから、塗装寿命を延長し、補修塗装間隔を大きく延ばすことで維持管理費用の低減を可能とする新しい耐食性鋼が開発されており、それに対応した溶接材料の開発がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、溶接材料のNiとCu及びMoの量と母材のNiとCu及びMoの量の比を規定することにより溶接部の選択腐食を防止する技術が開示されている。
特許文献2には、溶着金属のCu、Ni、Cr及びMo量を調整することによって、海浜耐候性に優れた溶接金属及び溶接材料を得る技術が開示されている。
特許文献3には、P含有の高耐候性鋼板を2電極で溶接することにより母材希釈を少なくし、高速溶接を行っても耐割れ性の良好なCu、Cr及びNiを適量含む溶接金属を形成することができるサブマージアーク溶接法を確立する技術が開示されている。
さらに、特許文献4には、W及びMoの少なくとも1種とSn及びSbの少なくとも1種を含む耐食性に優れた溶接継手の開示がある。
【0005】
しかし、特許文献1〜4に記載の技術においても、特に溶接継手の最終層である余盛に施された塗膜は、その周囲の平坦な母材に施された塗膜表面に比較して、余盛が凸状で複雑な形状を呈するため、塗装皮膜が薄くなる傾向があり、塗膜の剥離を誘引しやすく、飛来塩分量が多い環境化では、腐食の起点となるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成できる耐食鋼の溶接金属及び耐食鋼のサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤを得るためにそれぞれに必要な化学成分を見出すべく、各種ボンドフラックス及び溶融型フラックスとソリッドワイヤを組み合わせて溶接を実施し、種々の合金元素の作用効果について調査した。
その結果、スズ(Sn)及び銅(Cu)を溶接金属に適量含有させることによって飛来塩分の多い環境下における耐食性を向上できることを見出した。
【0015】
Snが溶接金属の耐食性を向上させる理由について、溶接金属中の金属Snがスズイオン(II)(Sn
2+)として溶出し、暴露されている部位、すなわち、酸性塩化物溶液中でインヒビター作用を示し、pHが低下したアノードでの腐食を抑制することを見出した。さらに、腐食促進作用を持つ鉄(III)イオン(Fe
3+)の濃度を低減させて、飛来塩分の多い環境における耐食性を向上させる作用があることを見出した。
【0016】
Cuが溶接金属の耐食性を向上させる理由について、Cuを含有した溶接金属そのものの溶解反応(腐食反応)の反応速度を低減すること、及び、Cuを含有する溶接金属では、表面(余盛部など)に生成する腐食生成物(錆)が、特徴的な微細かつ緻密な構造を呈することにより、水、酸素、塩化物イオン等の透過を抑制する防食性の高い錆層を形成することを見出した。さらに、CuはSnと共存することにより、Snの耐食性の効果を増強させる作用があることを見出した。
【0017】
また、溶接金属の機械性能については、C、Si、Mnを適量含有し、Al、P、Sの成分を限定することによって良好になること、Mo、Ti及びBの含有量をさらに調整することにより溶接金属の機械性能がさらに良好になることを見出した。
さらに、飛来塩分量が多い環境下でも耐候性及び耐塗装剥離性に優れた耐食鋼の溶接金属を得るために好適なサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤの成分も見出した。
【0018】
<溶接金属の成分>
まず、以下に本発明の溶接金属の成分の限定理由について説明する。なお、成分の含有量についての%は、溶接金属全質量に対する質量%を示す。
【0019】
[溶接金属中のC:0.03〜0.15%]
溶接金属中のCは、溶接金属の強度と焼入れ性を確保するために重要な元素である。Cが0.03%未満では、強度不足で靱性が低下する。一方、Cが0.15%を超えると、溶接金属がマルテンサイト主体の組織となり、強度が高くなり靱性が低下する。また、高温割れが生じやすくなる。したがって、溶接金属中のCは0.03〜0.15%とする。Cの好ましい含有量は、0.04〜0.14%である。
【0020】
[溶接金属中のSi:0.15〜0.80%]
溶接金属中のSiは、溶接金属の靱性を高めるのに有効な成分である。Siが0.15%未満では、靱性が低下する。一方、Siが0.80%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、溶接金属中のSiは0.15〜0.80%とする。Siの好ましい含有量は、0.20〜0.60%である。
【0021】
[溶接金属中のMn:1.2〜2.0%]
溶接金属中のMnは、溶接金属の強度を高めるのに有効な成分である。Mnが1.2%未満では、溶接金属の強度が低くなる。一方、Mnが2.0%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、溶接金属中のMnは1.2〜2.0%とする。Mnの好ましい含有量は、1.3〜1.8%である。
【0022】
[溶接金属中のCu:0.02〜0.35%]
溶接金属中のCuは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Cuが0.02%未満では、耐食性を向上される効果が得られない。一方、Cuが0.35%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、溶接金属中のCuは0.02〜0.35%とする。Cuの好ましい含有量は、0.02〜0.30%である。
【0023】
[溶接金属中のSn:0.05〜0.40%]
溶接金属中のSnは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Snが0.05%未満では、耐食性向上の効果は得られない。一方、Snが0.40%を超えると、高温割れが生じやすくなる。また、粒界へのSnの偏析により溶接金属の靱性が低下する。したがって、溶接金属中のSnは0.05〜0.40%とする。Snの好ましい含有量は、0.10〜0.35%である。
【0024】
[溶接金属中のAl:0.05%以下、P:0.025%以下、S:0.020%以下]
溶接金属中のAl、P及びSは、共に低融点の化合物を生成して靱性を低下させるため、出来るだけ低いことが望ましい。したがって、溶接金属中のAlは0.05%以下、Pは0.025%以下、S:0.020%以下に制限する。好ましくは、Alは0.03%以下、Pは0.015%以下、Sは0.010%以下とする。
【0025】
[溶接金属中のMo:0.60%以下]
溶接金属中のMoは、溶接金属の強度を高めるのに有効な成分である。本発明では、必要に応じてMoを含有させることができる。しかしながら、Moが0.60%を超えると、溶接金属中に金属間化合物を生成して溶接金属を著しく硬化し靱性が低下する。よって、含有させる場合は、0.60%以下とする。好ましい含有量は、0.10〜0.55%である。
【0026】
[溶接金属中のTi:0.05%以下及びB:0.005%以下の1種又は2種]
溶接金属中のTi及びBは、溶接金属の靱性を向上されるのに有効な成分である。本発明では、必要に応じてTiとBの1種または2種を含有させることができる。しかしながら、Tiが0.05%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。また、Bが0.005%を超えると、高温割れが生じやすくなる。したがって、溶接金属中において、Ti:0.05%以下及びB:0.005%以下の1種又は2種とする。なお、溶接金属中のTiはフラックス中の金属Ti、Ti合金及びTi酸化物から添加され、Bはフラックス中のB合金及びB化合物から添加される。
【0027】
[溶接金属の残部]
その他は、Fe及び不純物であるが、不純物中のNは0.008%以下、Oは0.08%以下であることが靱性の確保から好ましい。
【0028】
<サブマージアーク溶接用ソリッドワイヤの成分>
次に、上記耐食鋼の溶接金属の成分を得るために必要なサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤ(単に、ワイヤという場合がある。)の成分の限定理由について説明する。なお、以下成分の含有量についての%は、ソリッドワイヤ全質量に対する質量%を示す。
【0029】
[ワイヤ中のC:0.02〜0.15%]
ワイヤ中のCは、溶接金属の強度を確保する重要な元素であると共に、アーク中の酸素と反応しアーク雰囲気及び溶接金属の酸素量を低減する効果がある。Cが0.02%未満では、脱酸及び強度確保の効果が不十分であり、強度及び靱性ともに低下する。一方、Cが0.15%を超えると、溶接金属がマルテンサイト主体の組織となり、強度が高くなり靱性が低下する。また、高温割れが生じやすくなる。したがって、ワイヤ中のCは0.02〜0.15%とする。Cの好ましい含有量は、0.03〜0.14%である。
【0030】
[ワイヤ中のSi:0.005〜0.05%]
ワイヤ中のSiは、脱酸効果が有り、溶接金属の酸素量をコントロールする作用がある。Siが0.005%未満では、脱酸効果が得られず、溶接金属の靱性が低下する。一方、Siが0.05%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のSiは0.005〜0.05%とする。Siの好ましい含有量は、0.006〜0.04%である。
【0031】
[ワイヤ中のMn:1.5〜3.5%]
ワイヤ中のMnは、溶接金属の強度を高めるのに有効な成分である。Mnが1.5%未満では、溶接金属の強度が低くなる。一方、Mnが3.5%を超えると、溶接金属の強度が高くなり靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のMnは1.5〜3.5%とする。Mnの好ましい含有量は、1.5〜3.0%である。
【0032】
[ワイヤ中のCu:0.01〜0.35%]
ワイヤ中のCuは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Cuが0.01%未満では、耐食性を向上させる効果が得られない。一方、Cuが0.35%を超えると、溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のCuは0.01〜0.35%とする。なお、Cuはワイヤ表面の銅めっきからも添加できる。Cuの好ましい含有量は、0.02〜0.30%である。
【0033】
[ワイヤ中のSn:0.05〜0.40%]
ワイヤ中のSnは、溶接金属の耐食性を向上させる重要な元素である。Snが0.05%未満では、耐食性向上の効果は得られない。一方、Snが0.40%を超えると、高温割れが生じやすくなる。また、粒界へのSnの偏析により溶接金属の靱性が低下する。したがって、ワイヤ中のSnは0.05〜0.40%とする。好ましい含有量は、0.10〜0.35%である。
【0034】
[ワイヤ中のAl:0.05%以下、P:0.025%以下、S:0.020%以下]
ワイヤ中のAl、P及びSは、共に低融点の化合物を生成して靱性を低下させるため、出来るだけ低いことが望ましい。したがって、ワイヤ中のAlは0.05%以下、Pは0.025%以下、Sは0.020%以下に制限する。好ましくは、Alは0.03%以下、Pは0.015%以下、Sは0.010%以下とする。
【0035】
[ワイヤ中のMo:0.60%以下]
ワイヤ中のMoは、溶接金属の強度を確保する効果を有する。本発明では、必要に応じてMoを添加してもよい。Moが0.60%を超えると、溶接金属中に金属間化合物を生成して溶接金属を著しく硬化し靱性が低下する。したがって、ワイヤ中にMoを添加する場合は0.60%以下とする。好ましい含有量は、0.10〜0.55%である。
【0036】
[ワイヤの残部]
その他は、Fe及び不純物であるが、不純物中のNは0.008%以下であることが靱性の確保から好ましい。
【0037】
[ワイヤの製造方法]
上記サブマージアーク溶接用ソリッドワイヤは、通常の方法で製造できる。すなわち、成分を調整した鋼を溶解し、原線をつくり、縮径、焼鈍、めっきをして素線をつくり、素線を伸線して、所望の直径のワイヤとして製造することができる。
【0038】
<耐食鋼>
本発明の溶接金属は、耐食鋼どうしをサブマージアーク溶接して得ることができる。耐食鋼の好ましい成分は、質量%で以下の通りである。C:0.06〜0.20%、Si:0.005〜1.50%、Mn:0.05〜2.0%、P:0.028%以下、S:0.010%以下、Sn:0.02〜0.45%、Cu:0.01〜0.45%である。耐食鋼には、Mo:0.35%以下をさらに含有していてもよい。
【0039】
<フラックス>
本発明の溶接金属の作製にあたっては、フラックスは、ボンドフラックス、溶融型フラックスのいずれも使用できる。好ましいボンドフラックスのスラグ成分は、質量%で、SiO
2:5〜20%、MnO:0〜1.0%、Al
2O
3:15〜30%、MgO:10〜25%、TiO
2:0〜20%、B
2O
3:0〜1.0%、CaO:2〜20%、CaF
2:5〜20%、金属炭酸塩中のCO
2換算値の合計:1〜8%であり、合金成分として、Si:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜1.0%、Fe:0.5〜35%が含有されて良い。また、好ましい溶融型フラックスのスラグ成分は、質量%で、SiO
2:10〜50%、MnO:5〜35%、Al
2O
3:3〜35%、MgO:0〜10%、TiO
2:0〜30%、B
2O
3:0〜1.0%、CaO:2〜25%、CaF
2:0〜25%である。
ここで、金属炭酸塩中のCO
2換算値とは、例えば、CaCO
3が質量%で1%含有していた場合、1%×(12+16×2)/(40+12+16×3)=0.44%と計算する。なお、計算の際、Caの原子量として40、Cの原子量として12、酸素の原子量として16を用いた。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明の効果をさらに詳細に説明する。
表1に示す各種成分のソリッドワイヤを試作し、表2に示すボンドフラックスまたは溶融型フラックスと組合せてサブマージアーク溶接し、欠陥の有無、機械的性能及び耐食性の調査を実施した。なお、表1に示すソリッドワイヤは原線を縮径、焼鈍、めっきして素線とし、それらの素線を4.0mmまで伸線して用いた。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
溶接金属の腐食環境における耐局部腐食性、強度及び靱性の評価はJIS Z 3111に準じて溶着金属試験を行い、X線透過試験を行った後、引張試験、衝撃試験及び耐食性評価試験を実施した。母材には、質量%で、C:0.15%、Si:0.27%、Mn:1.15%、P:0.008%、S:0.001%、Sn:0.13%、Cu:0.012%、Al:0.03%、残部Feおよび不純物からなる板厚20mmの耐食鋼の鋼板を用い、溶接条件は、溶接電流500A、アーク電圧33V、溶接速度30cm/min、パス間温度150±15℃とした。得られた溶接金属の化学成分を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
溶接金属の機械性能評価は、溶接試験体の鋼板板厚の中央を中心から衝撃試験片(JIS Z 2242 Vノッチ試験片)及び引張試験片(JIS Z 2241 10号)を採取して機械試験を実施した。靱性の評価は0℃における衝撃試験により行い、各々繰返し数3本の平均より評価した。なお、引張強さの評価は490〜750MPaを良好とした。また、衝撃試験の吸収エネルギーは80J以上を良好とした。
【0046】
耐食性の評価は次のように腐食試験片を作製して行った。
図1に示す腐食試験片作成用の試料(厚さ3mm×幅60mm×長さ150mm)を溶接金属2が中心となるように母材1表面から深さ1mmの採取位置3から採取し、ショットブラスト処理後、炉内温度80℃で加熱乾燥させて試験片素材を作製した。この試験片素材の両面に、塗料A(中国塗料(株)製バンノー♯200)または塗料B(神東塗料(株)ネオゴーセイプライマーHB)いずれかの塗料を鋼材表面に塗装し膜厚200〜350μmの塗装試験片を作製した。
【0047】
上記塗装試験片に
図2に示すように溶接金属を跨ぐようにクロスカット4を施すことで塗膜傷を模擬した腐食試験片5を作製した。クロスカット4は塗膜の上から下地の鋼表面まで達するスクラッチ疵をカッターナイフで施した。
その後、得られた腐食試験片5をSAE(Society of Automotive Engineers) J2334試験に従い、耐食性を評価した。
【0048】
ここで、SAE J2334試験とは、湿潤、塩分付着、乾燥の3過程を1サイクル(合計24時間)とした乾湿繰り返しの条件で行う加速試験であり、各過程の条件は、湿潤:50℃、100%RH、6時間、塩分付着:0.5質量%NaCl、0.1質量%CaCl
2、0.075質量%NaHCO
3水溶液浸漬、0.25時間、乾燥:60℃、50%RH、17.75時間である。1サイクルの概略を
図3に示す。
この腐食試験は、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。この腐食形態が大気暴露試験に類似しているとされている(長野博夫、山下正人、内田仁著:環境材料学、共立出版(2004)、p.74参照)。
【0049】
以上のようなSAE J2334試験を80サイクル後に、各試験片の塗膜剥離、膨れ面積を計測し、塗膜剥離・膨れ面積率を算出した。その後、表面の残存塗膜と生成した錆層を除去し、塗装被膜疵部の腐食深さを測定後、平均腐食深さを算出した。
耐候性・耐塗装剥離性の評価は、塗膜剥離・膨れ面積率が50%未満、かつ、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm未満の場合を合格とした。
表4にこれらの試験結果をまとめて示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表3及び表4中の試験記号No.T1〜T14は本発明例、試験記号No.T15〜T29は比較例である。本発明例の試験記号No.T1〜T14は、溶接金属及び表1中のワイヤ記号W1〜W14の化学成分が本発明の構成要件を満たしているので、X線透過試験で欠陥が無く、溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーが良好で、塗装剥離・膨れ面積率は全て50%未満、かつ塗装傷部腐食深さは、全て0.5mm未満であり、極めて満足な結果であった。
【0052】
なお、試験記号T10〜T14は、溶接金属中にMoが含有されているので、引張強さがやや高い傾向を示したが目標範囲内であった。また、試験記号T2、T3、T5、T6、T8、T10、T14は、溶接金属中にTi及びBの1種又は2種を適量含むため溶接金属の吸収エネルギーが120以上と非常に良好であった。
【0053】
比較例中試験記号T15は、溶接金属中のCが少ないので、溶接金属の引張強さが低く、吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T16は、溶接金属中のCが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。また、クレータ割れが生じた。
試験記号T17は、溶接金属中のMnが少ないので、溶接金属の引張強さが低かった。
【0054】
試験記号T18は、溶接金属中のCuが少ないので、溶接金属の塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。
試験記号T19は、溶接金属中のMnが多いので、溶接金属の引張強さ高く、吸収エネルギーが低値であった。また溶接金属中のSnが少ないので溶接金属の塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。
試験記号T20は、溶接金属中のSiが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0055】
試験記号T21は、ワイヤ記号W15及び溶接金属中のCが少ないので、溶接金属の引張強さが低く、吸収エネルギーが低値であった。
試験記号T22は、ワイヤ記号W16及び溶接金属中のCが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。また、クレータ割れも生じた。
試験記号T23は、ワイヤ記号W17及び溶接金属中のMnが少ないので、溶接金属の引張強さが低値であった。また、Snが多いので溶接金属の吸収エネルギーが低く、さらにクレータ割れも生じた。
【0056】
試験記号T24は、ワイヤ記号W18及び溶接金属中のMnが多いので、溶接金属の引張強さが高く吸収エネルギーが低値であった。また、Snが少ないので、塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。
試験記号T25は、ワイヤ記号W19及び溶接金属中のSiが少ないので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
試験記号26は、ワイヤ記号W20及び溶接金属中のCuが少ないので、塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。また、Moが多いので引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。
【0057】
試験記号27は、ワイヤ記号W21及び溶接金属中のSiが多いので、溶接金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低値であった。
試験記号28は、ワイヤ記号W22及び溶接金属中のSnが少ないので、塗膜剥離・膨れ面積率が50%以上で、塗膜傷部平均腐食深さが0.5mm以上となり腐食量が多かった。また、溶接金属中のBが多いので、溶接金属の引張強さが高く、クレータ割れが生じた。
試験記号29は、ワイヤ記号23及び溶接金属中のCuが多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、溶接金属中のTiが多いので引張強さが高かった。