(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内燃機関のトルクを前記電動機としての発電電動機に伝達するように、前記第1ギアと前記第2ギアとを連結するワンウェイクラッチをさらに備える、請求項1に記載の内燃機関の始動装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は本実施の形態に係る内燃機関1の始動装置100の概略構成図である。この内燃機関1は変速機(図示略)を介して駆動輪(図示略)を駆動させて車両を走行させる。
【0013】
内燃機関1の始動装置100は、電動発電機2、ハウジング8、差動歯車機構10、動力伝達要素20、クラッチ機構30、および、遠心クラッチ40を備えている。
【0014】
電動発電機2は、電動機および発電機としての機能を有する。電動発電機2は、電力線を介してバッテリ(図示略)と接続される。電動発電機2は、電動機として機能するとき、バッテリの蓄電力により駆動される。電動発電機2が発電機として機能するとき、その発電エネルギーはバッテリに蓄電される。
【0015】
ハウジング8は、始動装置100の本体として車両に固定されている。
【0016】
差動歯車機構10は、動力伝達要素20を介して電動発電機2に接続されている。差動歯車機構10は、キャリア11、回転軸12、サンギア(本発明の「第1ギア」に対応)13、ピニオンギア14、及び、リングギア(本発明の「第2ギア」に対応)15を備える遊星歯車装置である。
【0017】
キャリア11は、内燃機関1の出力軸(クランク軸)1aに接続されている。
回転軸12は、出力軸1aと同軸上に配置されている。
サンギア13は、回転軸12の一端部に接続されている。
ピニオンギア14は、キャリア11に軸支されて自転しながら回転軸12回りを公転するように構成されている。
リングギア15は内歯歯車である。
【0018】
動力伝達要素20は、プーリ21,22および無端ベルト23を備えている。
プーリ21は、電動発電機2の回転軸2aに接続されている。
プーリ22は、回転軸12の他端部に接続されている。
無端ベルト23は、プーリ21およびプーリ22に巻き掛けられ、内燃機関1の出力軸1aのトルクを電動発電機2側に伝達し、また、電動発電機2の回転軸2aのトルクを内燃機関1側に伝達する。
【0019】
以上の構成を備える始動装置100において、電動発電機2側のトルクは、差動歯車機構10および動力伝達要素20を介して所定の減速比倍で内燃機関1のクランク軸1aに伝達される。なお、以下の説明をわかり易くするため、始動装置100における減速は、差動歯車機構10により行われ、動力伝達要素20によって行われないものとする。つまり、以下の説明で、電動発電機2の機械的最高回転速度は、動力伝達要素20によって減速されず、回転軸12の回転速度となる。また、減速比」を差動歯車機構10における減速比という。減速比、つまり、回転軸12の回転速度とキャリア11の回転速度との比は、例えば、1:3であり、また、単に「3」で表わされる。
【0020】
クラッチ機構30は、第1ワンウェイクラッチ31および第2ワンウェイクラッチ32を備えている。なお、第1ワンウェイクラッチ31および第2ワンウェイクラッチ32は、内燃機関1の出力軸1aの回転方向に合わせて設定されている。
【0021】
第1ワンウェイクラッチ31は、内輪および外輪を有し、ハウジング8とリングギア15との間に配置され、例えば、内輪がリングギア15に固定され、外輪がハウジング8に固定される。第1ワンウェイクラッチ31は、内輪に対して外輪を一方向に回転させた時に空転状態となり、他方向に回転させた時にロック状態となるように構成されている。第1ワンウェイクラッチ31は、ロック状態となって、リングギア15をハウジング8に連結する。これにより、リングギア15は固定される。
【0022】
第2ワンウェイクラッチ32は、内輪および外輪を有し、サンギア13とリングギア15との間に配置され、例えば、内輪が回転軸12に固定され、外輪がリングギア15に固定される。第2ワンウェイクラッチ32は、内輪に対して外輪を一方向に回転させた時に空転状態となり、他方向に回転させた時にロック状態となるように構成されている。第2ワンウェイクラッチ32は、ロック状態となって、リングギア15をサンギア13に連結する。これにより、リングギア15とサンギア13とは一体的に回転可能となる。
【0023】
遠心クラッチ40は、キャリア11に設置されている。遠心クラッチ40は、具体的に、ピン状部材(図示略)及び付勢部材(図示略)を有し、キャリア11の所定回転以上でピン状部材が付勢部材による付勢力に抗してサンギア13と係合する。なお、サンギア13と係合するものとしては、ピン状部材に限らず、例えば、摩擦板、ラチェット、キー、トゥースのいずれかでもよい。
【0024】
遠心クラッチ40は、キャリア11(クランク軸1a)の回転速度が所定回転速度に達するまでは、キャリア11とサンギア13との相対回転を許容することにより、差動歯車機構10に減速をさせる(減速時)。
【0025】
遠心クラッチ40は、キャリア11(クランク軸1a)の回転速度が所定回転速度以上になったときに、キャリア11とサンギア13とを一体回転可能に接続することにより、差動歯車機構10に減速をさせない(非減速時)。
【0026】
図2は、始動装置100のトルク特性の一例を示す図である。
図2の縦軸にキャリア11(クランク軸1a)のトルク[Nm]を示し、横軸にキャリア11の回転速度[rpm]を示す。また、
図2に、減速時のトルク特性La、非減速時のトルク特性Lb、トルクの伝達経路を切り換えることで得られるトルク特性Lcをそれぞれ示す。なお、トルク特性La,Lb,Lcは、後述する速度領域50において相互に重なるものであるが、
図2ではトルク特性La等をわかり易く表すために相互に離して示す。
【0027】
また、
図2に、電動発電機2の最大トルク線と最大出力線との交点を示す回転速度Na、減速時における電動発電機2の機械的最高回転速度を減速比(例えば、減速比「3」)で除算した回転速度Nbを示す(Na<Nb)。また、回転速度Naと回転速度Nbとの間の速度領域50を示し、速度領域50における任意の回転速度Ncを示す(Na<Nc<Nb)。また、回転速度Nb以上の回転速度Ndを示す(Nb<Nd)。なお、回転速度Ncを「接続時回転速度」という場合がある。また、回転速度Ndを「非減速時最高回転速度」という場合がある。
【0028】
遠心クラッチ40は、
図2に示すように、キャリア11の回転速度が回転速度Ncに達するまでは、キャリア11とサンギア13との相対回転を許容する(減速時)。これにより、電動発電機2のトルクは、差動歯車機構10で減速されて内燃機関1に伝達される。始動装置100のトルク特性Lcは、減速時のトルク特性Laとなる。なお、トルク特性Laからわかるように、キャリア11の回転速度Nbは電動発電機2の機械的最高回転速度に相当するため、キャリア11の回転速度は回転速度Nbより上がらず、内燃機関1は増速しない。このため、差動歯車機構10による減速をこのまま継続した場合には、例えば、低温時における始動性を確保することが困難になるおそれがある。
【0029】
遠心クラッチ40は、キャリア11の回転速度が回転速度Nc以上になったときに、キャリア11をサンギア13と接続し、キャリア11とサンギア13とが一体的に回転する(非減速時)。これにより、トルク特性Lcは、回転速度Ncで減速時のトルク特性Laから非減速時のトルク特性Lbに切り替えられる。キャリア11の回転速度を回転速度Nbより上げることが可能になるため、内燃機関1を増速することができる。
【0030】
<内燃機関1の始動装置100の動作>
次に、内燃機関1の始動装置100の動作の一例について
図3Aから
図4Bを参照して説明する。
図3Aは始動装置100における減速時の動作の一例を示す図である。
図3Bは始動装置100における減速時の共通速度線図である。
図3Bにサンギア13の回転速度に対応する位置S、キャリア11の回転速度に対応する位置C、リングギア15の回転速度に対応する位置Rをそれぞれ示す。
【0031】
内燃機関1の始動時において、電動発電機2から内燃機関1を加速させる方向へトルクが流れる場合は、リングギア15が逆転方向(空転状態になる方向とは反対の方向)にトルクを受けるため、
図3Aに示すように、第1ワンウェイクラッチ31はロック状態となる。これにより、リングギア15はハウジング8に連結されて、ハウジング8に固定されるため、サンギア13に入力されたトルクは、キャリア11へ伝達される。キャリア11の回転速度が回転速度Nc(接続時回転速度)に達するまでは、遠心クラッチ40はキャリア11とサンギア13との相対回転を許容する。このため、サンギア13に入力されたトルクは、差動歯車機構10で減速されて内燃機関1に伝達される。これにより、キャリア11(クランク軸1a)の回転速度を上げることができる。
【0032】
図4Aは始動装置100における非減速時の動作の一例を示す図である。
図4Bは始動装置100における非減速時の共通速度線図である。
【0033】
キャリア11の回転速度が回転速度Nc(接続時回転速度)になった場合に、遠心クラッチ40はキャリア11をサンギア13と接続する(
図4A参照)。これにより、キャリア11とサンギア13とは一体的に回転する(
図4B参照)。このため、電動発電機2の回転速度が下がる(機械的最高回転速度に対して低くなる)。これにより、電動発電機2の回転速度を上げることができ、キャリア11(クランク軸1a)の回転速度を回転速度Ncから回転速度Nd(非減速時最高回転速度)まで上げることが可能となる。
【0034】
(電動発電機2の発電時)
図5Aは始動装置100における発電時の動作の一例を示す図である。
図5Aは始動装置100における発電時の共通速度線図である。
【0035】
電動発電機2の発電時において、内燃機関1から電動発電機2を加速させる方向へトルクが流れる場合は、
図5Aに示すように、第2ワンウェイクラッチ32は、ロック状態となって、リングギア15をサンギア13に連結する。このため、キャリア11、サンギア13およびリングギア15が一体となり、減速比は1となる(
図5B参照)。
【0036】
上記する電動発電機2の発電時において、内燃機関1から電動発電機2へ流れるトルクの伝達経路は、キャリア11、リングギア15および第2ワンウェイクラッチ32を介してサンギア13へトルクが流れる伝達経路R1と、キャリア11および遠心クラッチ40を介してサンギア13にトルクが流れる伝達経路R2との二系統になる。つまり、内燃機関1からのトルクは、第2ワンウェイクラッチ32を介して流れるとともに、第2ワンウェイクラッチ32を介さずに流れる。これにより、第2ワンウェイクラッチ32は、電動発電機2の発電時において、内燃機関1からのトルクの一部を受けることになる。これにより、第2ワンウェイクラッチ32の負荷容量を減少させることができる。
【0037】
<本実施の形態の効果>
以上のように、本実施の形態に係る内燃機関1の始動装置100によれば、遠心クラッチ40は、キャリア11の回転速度が速度領域50内の回転速度Ncに達するまでは、キャリア11とサンギア13との相対回転を許容する。これにより、減速されて内燃機関1に伝達されるため、内燃機関1を増速することが可能になる。また、遠心クラッチ40は、キャリア11の回転速度が回転速度Nc以上になったときに、キャリア11とサンギア13とを一体回転可能に接続する。これにより、キャリア11の回転速度を回転速度Nbより上げることが可能になるため、内燃機関1を増速することができる。
【0038】
(変形例1)
次に、本実施の形態に係る内燃機関1の始動装置100の各変形例について
図6Aから
図7を参照して説明する。なお、変形例の説明においては、上記実施の形態に示す構成と異なる構成について主に説明し、電動発電機2から内燃機関1を加速させる方向へのトルクの流れ、および、内燃機関1から電動発電機2を加速させる方向へのトルクの流れは、上記実施の形態と同じであるため、これらの説明を省略する。
【0039】
上記実施の形態において、遠心クラッチ40はキャリア11とサンギア13とを接続する。これに対して、変形例1において、遠心クラッチ40はキャリア11とリングギア15とを接続する。
【0040】
変形例1においては、キャリア11の回転速度が接続時回転速度(
図2に示す回転速度Nc参照)になった場合に、遠心クラッチ40はキャリア11をリングギア15と接続する(
図6A参照)。これにより、キャリア11とリングギア15とサンギア13とは一体的に回転する(
図6B参照)。このため、電動発電機2の回転速度が下がる(機械的最高回転速度に対して低くなる)。これにより、電動発電機2の回転速度を上げることができ、キャリア11(クランク軸1a)の回転速度を接続時回転速度から非減速時最高回転速度(
図2に示す回転速度Nd参照)まで上げることができる。
【0041】
変形例1においては、同じアシストトルクに対し、変形例1に係る遠心クラッチ40の伝達トルクが上記実施の形態に係る遠心クラッチ40の伝達トルクより小さくなるという利点がある。
【0042】
(変形例2)
次に、変形例2について
図7に参照して説明する。
上記実施の形態において、遠心クラッチ40はキャリア11に設置され、キャリア11とサンギア13とを接続する。これに対して、変形例2において、遠心クラッチ40はサンギア13に設置され、サンギア13とリングギア15とを接続する。
【0043】
変形例2においては、キャリア11の回転速度が接続時回転速度(
図2に示す回転速度Nc参照)になった場合に、遠心クラッチ40はサンギア13をリングギア15と接続する(
図7参照)。これにより、キャリア11とリングギア15とサンギア13とは一体的に回転する。このため、電動発電機2の回転速度が下がる。これにより、電動発電機2の回転速度を上げることができ、キャリア11(クランク軸1a)の回転速度を接続時回転速度から非減速時最高回転速度まで上げることができる。
【0044】
変形例2においては、同じアシストトルクに対し、変形例2に係る遠心クラッチ40の伝達トルクが上記実施の形態及び上記変形例1に係る遠心クラッチ40の伝達トルクより小さくなるという利点がある。
【0045】
なお、上記実施の形態においては、減速時における電動発電機2の機械的最高回転速度を除算する際に、差動歯車機構10による減速比を用いたが、動力伝達要素20においても減速される場合には、差動歯車機構10および動力伝達要素20による減速比を用いればよい。
【0046】
また、上記実施の形態においては、第1ワンウェイクラッチ31によりハウジング8とリングギア15が連結されたが、本発明はこれに限らず、例えば、第1ワンウェイクラッチ31によりハウジング8とサンギア13が連結されてもよい。
【0047】
また、上記実施の形態における始動装置100を使用する態様としては、例えば、内燃機関1を加速させる場合であればよく、内燃機関1を始動する場合に限定されない。