特許第6848514号(P6848514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848514
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20210315BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20210315BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   B60C11/13 C
   B60C11/03 100B
   B60C11/03 C
   B60C5/00 H
   B60C11/03 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-31133(P2017-31133)
(22)【出願日】2017年2月22日
(65)【公開番号】特開2018-134996(P2018-134996A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2020年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古澤 浩史
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−175576(JP,A)
【文献】 特開2016−078475(JP,A)
【文献】 特開2016−168911(JP,A)
【文献】 特開2016−141157(JP,A)
【文献】 特開2009−067244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面においてタイヤ周方向に沿って延在する複数の主溝と、
タイヤ幅方向で隣接する2本の前記主溝の間に区画形成された陸部と、
前記陸部のトレッド面にタイヤ周方向に対して交差して設けられてタイヤ周方向に複数配置され、両端がそれぞれ前記主溝に連通して前記陸部をタイヤ周方向で区画形成するラグ溝と、
前記ラグ溝の開口縁に前記トレッド面からタイヤ径方向内側に切り欠かれて形成された切欠部と、
を備え、
前記ラグ溝は、前記陸部のタイヤ幅方向寸法に対していずれかの前記主溝から30%以上70%以下の位置が最大溝幅になり、当該最大溝幅から前記主溝に至り溝幅が減少して形成されており、
前記切欠部は、前記ラグ溝の最大溝幅の位置から前記主溝に至り切欠幅が増大して形成される、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ラグ溝の最大溝幅をy0とし、前記ラグ溝の最大溝幅位置での前記切欠部の切欠幅をx0とし、前記ラグ溝の最大溝幅位置よりもタイヤ幅方向の任意の位置での前記ラグ溝の溝幅をyとし、当該任意の位置での前記切欠部の切欠幅をxとしたとき、
0≦x0<x、かつ0.2(y0−y)+x0≦x≦2.0(y0−y)+x0、の関係を満たす、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記切欠部は、前記トレッド面からタイヤ径方向内側への切欠深さが0.5mm以上3.0mm以下である、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
回転方向が指定されており、タイヤ周方向において前記ラグ溝を基準とした前記陸部の蹴り出し側に位置する前記切欠部の切欠幅xaと、踏み込み側に位置する前記切欠部の切欠幅xbとが、xb<xa≦3.0xb、の関係を満たす、請求項1〜3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ラグ溝は、最大溝幅位置の溝深さG0に対して前記主溝に連通する位置の溝深さGが0.2×G0≦G≦0.6×G0の範囲を満たす、請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
車両装着時での車両内外の向きが指定されており、前記ラグ溝は、前記主溝に連通する位置での溝幅が車両内側の溝幅よりも車両外側の溝幅が小さい、請求項1〜5のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ラグ溝の最大溝幅位置から前記主溝に連通する位置までのタイヤ幅方向寸法をLとし、前記ラグ溝の最大溝幅をy0とし、前記ラグ溝の最大溝幅位置よりもタイヤ幅方向の任意の位置での前記ラグ溝の溝幅をyとしたとき、
0.50×Lの位置において、0.80×y0≦y≦0.98×y0、0.80×Lの位置において、0.60×y0≦y≦0.90×y0、1.00×Lの位置において、0.30×y0≦y≦0.50×y0、の関係を満たす、請求項1〜6のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に記載のタイヤは、小石などのかみ込みを抑制しつつ、気柱管共鳴音を効果的に低減することを目的としている。このタイヤは、タイヤ周方向に沿って延びる周方向溝に隣接し、タイヤ周方向に沿って延びるリブ状陸部を備えるタイヤであって、第1溝部と、第1溝部に隣接する第2溝部と、第1溝部と第2溝部とに隣接する隔壁部とがリブ状陸部に形成され、第1溝部と第2溝部とは、リブ状陸部が路面と接地することによって閉空間を形成する気室部と、気室部および周方向溝に連通する狭窄溝部とをそれぞれ有し、狭窄溝部の一端は、気室部と路面とによって形成される閉空間に連通するとともに、狭窄溝部の他端は、周方向溝に連通し、狭窄溝部と路面とによって形成される空間の容積は、気室部と路面とによって形成される閉空間の容積よりも小さく、第1溝部および第2溝部は、タイヤ周方向に対して傾斜して延びる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−280266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示すタイヤは、気室部と狭窄溝部とを有するヘルムホルツ型共鳴器が設けられて気柱管共鳴音を低減する。また、特許文献1に示すタイヤは、第1溝部および第2溝部がタイヤ周方向に対して傾斜する方向に向かって延びることで、リブ状陸部の踏み込みあるいは蹴り出しの時に、第1溝部および第2溝部の溝幅が広がり、第1溝部および第2溝部にかみ込まれていた石が排出され易くなる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すタイヤでは、気柱管共鳴音を低減するため、第1溝部および第2溝部は狭窄溝部の他端が周方向溝に連通して形成されていることから、排水性能が低下してウエット性能(湿潤路面での制動性能)を確保することが困難になる。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ウエット性能を確保しつつパターンノイズを低減することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る空気入りタイヤは、トレッド面においてタイヤ周方向に沿って延在する複数の主溝と、タイヤ幅方向で隣接する2本の前記主溝の間に区画形成された陸部と、前記陸部のトレッド面にタイヤ周方向に対して交差して設けられてタイヤ周方向に複数配置され、両端がそれぞれ前記主溝に連通して前記陸部をタイヤ周方向で区画形成するラグ溝と、前記ラグ溝の開口縁に前記トレッド面からタイヤ径方向内側に切り欠かれて形成された切欠部と、を備え、前記ラグ溝は、前記陸部のタイヤ幅方向寸法に対していずれかの前記主溝から30%以上70%以下の位置が最大溝幅になり、当該最大溝幅から前記主溝に至り溝幅が減少して形成されており、前記切欠部は、前記ラグ溝の最大溝幅の位置から前記主溝に至り切欠幅が増大して形成される。
【0008】
この空気入りタイヤによれば、ラグ溝が各主溝に至り溝幅が狭く形成されているため、ラグ溝におけるタイヤ幅方向への放射音を抑えることができる。しかも、ラグ溝の開口縁に設けられた切欠部が、主溝に向かって切欠幅が拡がって形成されているため、ラグ溝内の排水性能を高めることができる。この結果、ウエット性能(湿潤路面での制動性能)を維持しつつパターンノイズを低減することができる。
【0009】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記ラグ溝の最大溝幅をy0とし、前記ラグ溝の最大溝幅位置での前記切欠部の切欠幅をx0とし、前記ラグ溝の最大溝幅位置よりもタイヤ幅方向の任意の位置での前記ラグ溝の溝幅をyとし、当該任意の位置での前記切欠部の切欠幅をxとしたとき、0≦x0<x、かつ0.2(y0−y)+x0≦x≦2.0(y0−y)+x0、の関係を満たすことが好ましい。
【0010】
この空気入りタイヤによれば、ラグ溝の溝幅の変化に応じて切欠部の切欠幅を設定し、切欠部の切欠幅が0.2(y0−y)+x0以上であれば排水性能の向上効果を顕著に得ることができる。一方、切欠部の切欠幅が2.0(y0−y)+x0以下であればラグ溝におけるタイヤ幅方向外側への放射音を抑える効果を顕著に得ることができる。この結果、パターンノイズを低減しつつウエット性能(湿潤路面での制動性能)を確保する効果を顕著に得ることができる。
【0011】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記切欠部は、前記トレッド面からタイヤ径方向内側への切欠深さが0.5mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0012】
この空気入りタイヤによれば、切欠部の切欠深さを0.5mm以上とすることで排水性能を確保する効果が顕著に得られる。一方、切欠部の切欠深さを3.0mm以下とすることで放射音を抑える効果を顕著に得ることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、回転方向が指定されており、タイヤ周方向において前記ラグ溝を基準とした前記陸部の蹴り出し側に位置する前記切欠部の切欠幅xaと、踏み込み側に位置する前記切欠部の切欠幅xbとが、xb<xa≦3.0xb、の関係を満たすことが好ましい。
【0014】
この空気入りタイヤによれば、タイヤ周方向においてラグ溝を基準とした陸部の蹴り出し側の切欠部の切欠幅を踏み込み側の切欠部の切欠幅よりも大きくすることで、ラグ溝を境とした踏み込み側と比較して蹴り出し側の変形(よれ)を抑制して剛性を確保するため、ヒールアンドトウ磨耗の発生を抑制し、耐摩耗性能を向上することができる。
【0015】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記ラグ溝は、最大溝幅位置の溝深さG0に対して前記主溝に連通する位置の溝深さGが0.2×G0≦G≦0.6×G0の範囲を満たすことが好ましい。
【0016】
この空気入りタイヤによれば、ラグ溝において、主溝に連通する端の位置の溝深さGを、最大溝幅の位置の溝深さG0よりも浅くすることで、放射音を有効に抑えることができる。そして、0.2×G0≦G≦0.6×G0の範囲とすることで、排水性能を維持してウエット性能を確保することができる。
【0017】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、車両装着時での車両内外の向きが指定されており、前記ラグ溝は、前記主溝に連通する位置での溝幅が車両内側の溝幅よりも車両外側の溝幅が小さいことが好ましい。
【0018】
この空気入りタイヤによれば、車両装着時での車両外側は、放射音による問題が顕著にあらわれるため、ラグ溝において、車両内側の溝幅よりも車両外側の溝幅が小さいことで、放射音を有効に抑えて顕著な効果を得ることができる。
【0019】
本発明の一態様に係る空気入りタイヤでは、前記ラグ溝の最大溝幅位置から前記主溝に連通する位置までのタイヤ幅方向寸法をLとし、前記ラグ溝の最大溝幅をy0とし、前記ラグ溝の最大溝幅位置よりもタイヤ幅方向の任意の位置での前記ラグ溝の溝幅をyとしたとき、0.50×Lの位置において、0.80×y0≦y≦0.98×y0、0.80×Lの位置において、0.60×y0≦y≦0.90×y0、1.00×Lの位置において、0.30×y0≦y≦0.50×y0、の関係を満たすことが好ましい。
【0020】
この空気入りタイヤによれば、ラグ溝の溝幅yを端付近で狭くすることで、溝容積を確保してウエット性能を維持しつつパターンノイズを低減する効果を顕著に得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る空気入りタイヤは、ウエット性能を確保しつつパターンノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの一部拡大平面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの一部拡大斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの一部拡大断面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大平面図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大平面図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大断面図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大平面図である。
図9図9は、本発明の実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0024】
本実施形態に係る空気入りタイヤについて説明する。図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤの子午断面図である。
【0025】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。
【0026】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図1に示すようにトレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。また、この空気入りタイヤ1は、カーカス層6と、ベルト層7と、ベルト補強層8とを備えている。また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、主に乗用車に用いられるが、トラックやバスなどの重荷重用であってもよい。
【0027】
トレッド部2は、ゴム材(トレッドゴム)からなり、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出し、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。トレッド面21は、タイヤ周方向に沿って延在し、タイヤ幅方向に複数(本実施形態では4本)並ぶ主溝22が設けられている。そして、トレッド面21は、これら複数の主溝22により、タイヤ周方向に沿って延び、タイヤ赤道線CLと平行なリブ状の陸部23が複数(本実施形態では5本)区画形成されている。具体的に、本実施形態の空気入りタイヤ1では、陸部23は、タイヤ幅方向最外側のショルダー陸部23S、タイヤ幅方向中央(タイヤ赤道面CL上)のセンター陸部23C、およびショルダー陸部23Sとセンター陸部23Cとのタイヤ幅方向の間のミドル陸部23Mが区画形成されている。また、陸部23のトレッド面21には、タイヤ周方向(主溝22)に交差して延在しタイヤ周方向に複数配置されたラグ溝24が形成されている。なお、主溝22が5本以上の場合は、タイヤ赤道面CLを境にしたタイヤ幅方向の両側においてミドル陸部23Mが複数区画形成される。
【0028】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置されるゴム材である。
【0029】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、タイヤ周方向に対する角度がタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向にある角度を持って複数並設されたカーカスコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。カーカスコードは、有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。このカーカス層6は、少なくとも1層で設けられている。
【0030】
ベルト層7は、少なくとも2層のベルト71,72を積層した多層構造をなし、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、タイヤ周方向に対して所定の角度(例えば、20度〜30度)で複数並設されたコード(図示せず)が、コートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。また、重なり合うベルト71,72は、互いのコードが交差するように配置されている。
【0031】
ベルト補強層8は、ベルト層7の外周であるタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に略平行(±5度)でタイヤ幅方向に複数並設されたコード(図示せず)がコートゴムで被覆されたものである。コードは、スチールまたは有機繊維(ポリエステルやレーヨンやナイロンなど)からなる。図1で示すベルト補強層8は、ベルト層7のタイヤ幅方向端部を覆うように配置されている。ベルト補強層8の構成は、上記に限らず、図には明示しないが、ベルト層7全体を覆うように配置された構成、または、例えば2層の補強層を有し、タイヤ径方向内側の補強層がベルト層7よりもタイヤ幅方向で大きく形成されてベルト層7全体を覆うように配置され、タイヤ径方向外側の補強層がベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成、あるいは、例えば2層の補強層を有し、各補強層がベルト層7のタイヤ幅方向端部のみを覆うように配置されている構成であってもよい。即ち、ベルト補強層8は、ベルト層7の少なくともタイヤ幅方向端部に重なるものである。また、ベルト補強層8は、帯状(例えば幅10[mm])のストリップ材をタイヤ周方向に巻き付けて設けられている。
【0032】
図2は、本実施形態に係る空気入りタイヤの一部拡大平面図である。図3は、本実施形態に係る空気入りタイヤの一部拡大斜視図である。図4は、本実施形態に係る空気入りタイヤの一部拡大断面図である。図5は、本実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大平面図である。図6は、本実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大平面図である。図7は、本実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大断面図である。図8は、本実施形態に係る空気入りタイヤの他の例の一部拡大平面図である。
【0033】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、図2図4に示すように、トレッド部2において、タイヤ幅方向で隣接する主溝22の間に区画形成される陸部23であるミドル陸部23Mのトレッド面21にラグ溝24が形成されている。このミドル陸部23Mのラグ溝24は、両端24aが主溝22に連通して設けられている。従って、ミドル陸部23Mは、タイヤ周方向で分割されたブロック状に区画形成されている。
【0034】
また、ミドル陸部23Mは、ラグ溝24の開口縁に、トレッド面21からタイヤ径方向内側に傾斜する面取状に切り欠かれてラグ溝24の溝壁24wに連通する切欠部25が形成されている。なお、切欠部25は、トレッド面21からタイヤ径方向内側に傾斜する平面の面取であってもよく、曲面の面取であってもよい。なお、図において、切欠部25は、ラグ溝24の溝幅方向の両側に設けられているが、少なくとも一方に設けられていればよい。
【0035】
そして、ミドル陸部23Mのラグ溝24は、タイヤ幅方向の途中において溝幅yが最大溝幅y0に形成され、一方の主溝22に連通する一端24a側において溝幅yが最大溝幅y0よりも小さい溝幅y1(y1a)に形成され、他方の主溝22に連通する他端24a側において溝幅yが最大溝幅y0よりも小さい溝幅y1(y1b)に形成されている。ミドル陸部23Mのラグ溝24の溝幅yは、切欠部25を除いて溝壁24w間で開口する開口幅をいい、当該溝幅yの増減に伴って対向する溝壁24wの間隔が増減しており、ミドル陸部23Mのラグ溝24は、最大溝幅y0の位置から一端24a側および他端24a側に至り断面積が漸次減少して形成されている。ミドル陸部23Mのラグ溝24の両端24aの溝幅y1(y1a,y1b)は、放射音を抑えつつ排水性能を確保するうえで1.5mm以上が好ましく、最大溝幅y0は、放射音を抑えるうえで4.5mm以下が好ましい。また、ミドル陸部23Mのラグ溝24の溝深さ(溝底から溝幅の位置までのタイヤ径方向寸法)は、2.5mm以上6.0mm以下である。
【0036】
また、ミドル陸部23Mのラグ溝24は、ミドル陸部23Mのタイヤ幅方向寸法Wに対して、いずれかの主溝22に連通する端24aの位置(いずれかの主溝22)から30%以上70%以下の範囲Waに最大溝幅y0の位置が配置されている。
【0037】
このようなミドル陸部23Mのラグ溝24の開口縁に設けられた切欠部25は、当該ラグ溝24の各端24aが連通する各主溝22に至り切欠幅xが漸次増大して形成されている。すなわち、切欠部25は、ラグ溝24の最大溝幅y0の位置において切欠幅xが最小の切欠幅x0に形成され、ラグ溝24の各端24aにおいて切欠幅xが最大の切欠幅x1に形成されている。そして、切欠部25の切欠幅xは、トレッド面21からタイヤ径方向内側に傾斜する面取幅をいい、切欠部25は、ミドル陸部23Mのラグ溝24の各端24aに至り断面積が漸次増大して形成されている。
【0038】
このように構成された空気入りタイヤ1によれば、ミドル陸部23Mのラグ溝24が、各主溝22に連通する端24aに向かって徐々に溝幅yが狭く形成されているため、ラグ溝24におけるタイヤ幅方向への放射音を抑えることができる。しかも、ミドル陸部23Mのラグ溝24の開口縁に設けられた切欠部25が、主溝22に向かって徐々に切欠幅xが拡がって形成されているため、ラグ溝24内の排水性能を高めることができる。この結果、本実施形態の空気入りタイヤ1によれば、ウエット性能(湿潤路面での制動性能)を維持しつつパターンノイズを低減することができる。
【0039】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ミドル陸部23Mのラグ溝24の最大溝幅をy0とし、当該ラグ溝24の最大溝幅y0の位置での切欠部25の切欠幅をx0とし、当該ラグ溝24の最大溝幅y0の位置よりもタイヤ幅方向の任意の位置での同ラグ溝24の溝幅をyとし、当該任意の位置での切欠部25の切欠幅をxとしたとき、0≦x0<x、かつ0.2(y0−y)+x0≦x≦2.0(y0−y)+x0、の関係を満たすことが好ましい。
【0040】
0=x0は、図5に示すように、ラグ溝24の最大溝幅y0の位置での切欠部25の切欠幅x0が0であり、切欠部25がラグ溝24の最大溝幅y0から始まってタイヤ幅方向外側に向かって拡がる形態である。
【0041】
この空気入りタイヤ1によれば、ミドル陸部23Mのラグ溝24の溝幅yの変化に応じて切欠部25の切欠幅xを設定し、切欠部25の切欠幅xが0.2(y0−y)+x0以上であれば排水性能の向上効果を顕著に得ることができる。一方、切欠部25の切欠幅xが2.0(y0−y)+x0以下であればラグ溝24におけるタイヤ幅方向外側への放射音を抑える効果を顕著に得ることができる。この結果、パターンノイズを低減しつつウエット性能(湿潤路面での制動性能)を確保する効果を顕著に得ることができる。なお、切欠部25の切欠幅xが2.0(y0−y)+x0を超えると、ショルダー陸部23Sのトレッド面21の接地域が小さくなって接地圧が上がるため、耐摩耗性能が低下する傾向となるため、これも改善することができる。
【0042】
なお、図6に示すように、切欠部25は、ミドル陸部23Mのタイヤ幅方向において、ラグ溝24の溝幅yを含むタイヤ周方向寸法(y+x+x)が一定((y0+x0+x0)=(y1+x1+x1))に形成されていてもよい。このように構成すれば、ミドル陸部23Mのトレッド面21の接地領域をタイヤ幅方向で一定となり、偏摩耗を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図4に示すように、切欠部25は、トレッド面21からタイヤ径方向内側への切欠深さzが0.5mm以上3.0mm以下であることが好ましい。
【0044】
この空気入りタイヤ1によれば、切欠部25の切欠深さzを0.5mm以上とすることで排水性能を確保する効果が顕著に得られる。一方、切欠部25の切欠深さzを3.0mm以下とすることで放射音を抑える効果を顕著に得ることができる。なお、排水性能を確保しつつ放射音を抑える効果をより顕著に得るうえで切欠部25の切欠深さzを0.5mm以上1.5mm以下とすることがより好ましい。
【0045】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図7に示すように、回転方向が指定されており、タイヤ周方向においてラグ溝24を基準としたミドル陸部23Mの蹴り出し側に位置する切欠部25の切欠幅xaと、踏み込み側に位置する切欠部25の切欠幅xbとが、xb<xa≦3.0xb、の関係を満たすことが好ましい。
【0046】
回転方向の指定は、図には明示しないが、例えば、トレッド部2のタイヤ幅方向外側であって、タイヤの側面にあらわれるサイドウォール部4に設けられた指標(例えば、車両前進時に向く矢印)により示される。
【0047】
この空気入りタイヤ1によれば、タイヤ周方向においてラグ溝24を基準としたミドル陸部23Mの蹴り出し側の切欠部25の切欠幅xaを踏み込み側の切欠部25の切欠幅xbよりも大きくすることで、ラグ溝24を境とした踏み込み側と比較して蹴り出し側の変形(よれ)を抑制して剛性を確保するため、ヒールアンドトウ磨耗の発生を抑制し、耐摩耗性能を向上することができる。この場合、踏み込み側と蹴り出し側での切欠部25の切欠深さzは同等であるとする。なお、図には明示しないが、xb<xa≦3.0xb、の関係を満たす場合、踏み込み側の切欠部25を設けないことも含む。
【0048】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ミドル陸部23Mのラグ溝24は、最大溝幅y0の位置の溝深さG0に対して主溝22に連通する端24aの位置の溝深さGが0.2×G0≦G≦0.6×G0の範囲を満たすことが好ましい。
【0049】
この空気入りタイヤ1によれば、ミドル陸部23Mのラグ溝24において、主溝22に連通する端24aの位置の溝深さGを、最大溝幅y0の位置の溝深さG0よりも浅くすることで、放射音を有効に抑えることができる。そして、0.2×G0≦G≦0.6×G0の範囲とすることで、排水性能を維持してウエット性能を確保することができる。
【0050】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、図8に示すように、車両装着時での車両内外の向きが指定されており、ミドル陸部23Mのラグ溝24は、主溝22に連通する位置での溝幅yが車両内側の溝幅y1bよりも車両外側の溝幅y1aが小さいことが好ましい。
【0051】
車両装着時での車両内外の向きの指定は、例えば、リム組みした場合に、タイヤ幅方向において、車両内側および車両外側に対するリムの向きが決まっているため、空気入りタイヤ1は、リム組みした場合、タイヤ幅方向において、車両装着時での車両内外の向きが指定される。また、空気入りタイヤ1は、車両に対する装着方向を示す装着方向表示部(図示せず)を有する。装着方向表示部は、例えば、サイドウォール部4に付されたマークや凹凸によって構成される。例えば、ECER30(欧州経済委員会規則第30条)が、車両装着状態にて車両外側となるサイドウォール部4に装着方向表示部を設けることを義務付けている。
【0052】
この空気入りタイヤ1によれば、車両装着時での車両外側は、放射音による問題が顕著にあらわれるため、ミドル陸部23Mのラグ溝24において、車両内側の溝幅y1bよりも車両外側の溝幅y1aが小さいことで、放射音を有効に抑えて顕著な効果を得ることができる。
【0053】
また、本実施形態の空気入りタイヤ1では、ラグ溝24の最大溝幅y0の位置から主溝22に連通する(端24a)までのタイヤ幅方向寸法をLとし、ラグ溝24の最大溝幅y0の位置よりもタイヤ幅方向の任意の位置でのラグ溝の溝幅をyとしたとき、0.50×Lの位置において、0.80×y0≦y≦0.98×y0、0.80×Lの位置において、0.60×y0≦y≦0.90×y0、1.00×Lの位置において、0.30×y0≦y≦0.50×y0、の関係を満たすことが好ましい。
【0054】
この空気入りタイヤ1によれば、ミドル陸部23Mのラグ溝24の溝幅yを端24a付近で狭くすることで、溝容積を確保してウエット性能を維持しつつパターンノイズを低減する効果を顕著に得ることができる。
【0055】
なお、上述した実施形態において、ミドル陸部23Mに設けられたラグ溝24および切欠部25について説明したが、センター陸部23Cにおいてもラグ溝24および切欠部25を設けることで、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0056】
本実施例では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、静粛性能(パターンノイズ)およびウエット性能(湿潤路面での制動性能)に関する性能試験が行われた(図9参照)。
【0057】
この性能試験では、タイヤサイズ185/65R15の空気入りタイヤ(試験タイヤ)を正規リムにリム組みし、正規内圧を充填して、試験車両(1200ccクラス前輪駆動車)に装着した。
【0058】
正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、あるいは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、あるいはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。
【0059】
静粛性能の評価方法は、試験車両にてISO路面のテストコースを速度50km/hで走行したときの車内騒音(dB)が測定される。そして、各従来例の測定値を基準値(100)とした指数評価が行われる。この評価は、その数値が大きいほど車内騒音(パターンノイズ)が小さく静粛性能が優れていることを示している。
【0060】
ウエット性能の評価方法は、試験車両にて水深1mmの湿潤路面を初速100km/hから制動を行って停止するまでの距離が測定される。そして、測定値の逆数を指数化し、従来例を基準値(100)とした指数評価が行われる。この評価は、その数値が大きいほどウエット性能が優れていることを示している。
【0061】
図9において、従来例、比較例、および実施例1,実施例2,実施例4〜実施例8の空気入りタイヤは、トレッド部に4本の主溝が設けられて区画形成された各ミドル陸部に、両端が主溝に連通するラグ溝が設けられ、ラグ溝の開口縁に切欠部が設けられている。従来例の空気入りタイヤはラグ溝の溝幅および切欠部の切欠幅が変化していない。比較例の空気入りタイヤはラグ溝の溝幅が変化せず切欠部の切欠幅がラグ溝の各端側に向けて増大している。実施例1,実施例2,実施例4〜実施例8の空気入りタイヤはラグ溝の溝幅が各端側に向けて減少していると共に切欠部の切欠幅がラグ溝の各端側に向けて増大している。
【0062】
図9の試験結果に示すように、実施例1,実施例2,実施例4〜実施例8の空気入りタイヤは、ウエット性能を確保しつつパターンノイズが改善されていることが分かる。
【符号の説明】
【0063】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
21 トレッド面
22 主溝
23M ミドル陸部
23C センター陸部
24 ラグ溝
24a 主溝に連通する端
24w 溝壁
25 切欠部
3 ショルダー部
4 サイドウォール部
W 陸部のタイヤ幅方向寸法
x 切欠幅
x0 最小の切欠幅
x1 ラグ溝の端の切欠幅
xa 蹴り出し側切欠幅
xb 踏み込み側切欠幅
y ラグ溝の溝幅
y0 ラグ溝の最大溝幅
y1(y1a,y1b) ラグ溝の端の溝幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9