特許第6848584号(P6848584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848584
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】窒化物半導体層の成長方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20210315BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20210315BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20210315BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20210315BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/34
   H01L29/80 H
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-59713(P2017-59713)
(22)【出願日】2017年3月24日
(65)【公開番号】特開2018-163956(P2018-163956A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】由比 圭一
【審査官】 佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−004924(JP,A)
【文献】 特開2012−039150(JP,A)
【文献】 特開2013−187551(JP,A)
【文献】 特開2008−251966(JP,A)
【文献】 特開2013−175696(JP,A)
【文献】 特開2003−059835(JP,A)
【文献】 特開2014−175413(JP,A)
【文献】 特開2001−176804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/34
H01L 21/338
H01L 29/778
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体層の成長方法であって、
第1の成長温度及び第1のNH流量にて基板上にAlN層を成長する工程と、
前記AlN層上にGaN層を成長する工程と、を含み、
前記GaN層を成長する工程では、前記GaN層の成長開始時点を含む第1期間において、前記第1の成長温度から前記第1の成長温度よりも低い第2の成長温度への変更、及び、前記第1のNH流量から前記第1のNH流量とは異なる第2のNH流量への変更のうち少なくとも一方を行い、前記第1期間の後の第2期間において、前記第2の成長温度及び前記第2のNH流量にて前記GaN層を成長し、
前記AlN層を成長したのち第1期間の開始までの期間において、Ga原料及びAl原料の供給を停止した状態で、前記第1のNH流量及び前記第1の成長温度を維持する、窒化物半導体層の成長方法。
【請求項2】
前記第1期間において、前記第1の成長温度から前記第2の成長温度への変更、及び、前記第1のNH流量から前記第2のNH流量への変更の双方を行う、請求項1に記載の窒化物半導体層の成長方法。
【請求項3】
前記AlN層を成長する工程では、前記AlN層を島状に成長する、請求項1または2に記載の窒化物半導体層の成長方法。
【請求項4】
前記第2のNH流量は前記第1のNH流量よりも大きい、請求項1〜のいずれか一項に記載の窒化物半導体層の成長方法。
【請求項5】
前記第1の成長温度と前記第2の成長温度との差が少なくとも20℃である、請求項1〜のいずれか一項に記載の窒化物半導体層の成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体層の成長方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、SiC基板上にAlN層及びGaN層を備える高電子移動度トランジスタ(HEMT)に関する技術が開示されている。特許文献1には、成長温度を1175℃としてNHガス及びTMAを供給することによりAlN層を成長したのち、N/NHガス混合雰囲気で基板温度を1000℃まで冷却し、その後、NHガス及びTMGを供給することにより膜厚480nmのGaN層を成長することが記載されている。特許文献2には、成長温度を1100℃〜1200℃としてAlN層を成長したのちTMAの供給を停止し、基板温度を1050±50℃まで低下させながらNH流量を変更し、その後、TMGを供給することにより厚さ2μmのGaN層を成長することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−175696号公報
【特許文献2】特開2008−251966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、窒化ガリウム(GaN)系材料を用いた、例えばHEMTといった半導体装置が開発されている。このような半導体装置を作製する際には、SiC等の異種基板上にGaN系半導体を成長することが多い。その際、異種基板上にGaN系半導体を直接成長することは難しいので、AlN層を緩衝層(バッファ層)として成長させ、その上にGaN系半導体層を成長する(例えば特許文献1及び2を参照)。
【0005】
AlN層を厚く成長すると結晶品質が劣化するので、AlN層は出来るだけ薄く形成されるとよい。しかし、AlN層は、薄い(例えば50nm以下)と層状にはならず、島状の構造になる。そして、この島状構造のAlNの上に、AlNとは格子定数が異なるGaNを成長すると、AlNとGaNとの界面に格子欠陥が発生する。更に、GaNの成長条件によっては、AlNの島状構造の影響を受けてGaN結晶表面にピットなどの異常が発生する。ピットなどの異常が成長面に存在すると、完成した半導体装置においてピットを介したリークなどが生じ、半導体装置の信頼性に大きな影響を与えてしまう。
【0006】
また、半導体装置の動作特性を改善するなどの理由により、GaN層をなるべく薄くすることが望まれる場合がある。例えばGaN層を電子走行層として用いるHEMTでは、GaN層を薄くすることによって過渡応答が改善する。GaN層を薄くするとGaN層中に存在するトラップの総量が減少するので、電子の捕獲及び再放出の確率が低下するからである。しかしながら、GaN層を薄くすると表面に生じるピットの数が増加する。GaNはピットを埋めながら成長するので厚く成長するほどピットが減少していくが、例えば0.5μm以下といった厚さではピットが十分に埋まらず、成長面にピットが多く残ってしまうからである。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、AlN層上にGaN層を成長する際に、GaN層表面のピットを低減しつつ、GaN層をより薄くすることができる窒化物半導体層の成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、一実施形態に係る窒化物半導体層の成長方法は、第1の成長温度及び第1のNH流量にて基板上にAlN層を成長する工程と、AlN層上にGaN層を成長する工程と、を含む。GaN層を成長する工程では、GaN層の成長開始時点を含む第1期間において、第1の成長温度から第1の成長温度よりも低い第2の成長温度への変更、及び、第1のNH流量から第1のNH流量とは異なる第2のNH流量への変更のうち少なくとも一方を行う。第1期間の後の第2期間において、第2の成長温度及び第2のNH流量にてGaN層を成長する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による窒化物半導体層の成長方法によれば、AlN層上にGaN層を成長する際に、GaN層表面のピットを低減しつつ、GaN層をより薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態に係る半導体基板を示す断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る半導体装置の一例として、トランジスタの構造を示す断面図である。
図3図3は、温度変化及びガスタイミングを示すチャートである。
図4図4(a)〜図4(d)は、半導体基板の作製方法を説明する図である。図4(e)は、トランジスタの作製方法を説明する図である。
図5図5は、比較例に係る半導体基板の作製方法における温度変化及びガスタイミングを示すチャートである。
図6図6(a)は、上記の比較例によって形成されたエピタキシャルウェハの構造を模式的に示す断面図である。図6(b)は図6(a)のAlN層及びGaN層の部分拡大図であり、図6(c)は図6(b)を更に拡大した図である。
図7図7(a)は、一実施形態によって形成されたエピタキシャルウェハの構造を模式的に示す断面図である。図7(b)は図7(a)のAlN層及びGaN層の部分拡大図であり、図7(c)は図7(b)を更に拡大した図である。
図8図8は、ピット抑制の原理の別の一面を説明するための図である。
図9図9は、ピット抑制の原理の別の一面を説明するための図である。
図10図10は、比較例及び実施形態の各方法を用いた場合の、GaN層の層厚とGaN層の表面ピット密度との関係を示すグラフである。
図11図11は、一変形例に係る温度変化及びガスタイミングを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る窒化物半導体層の成長方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係るエピタキシャルウェハ1を示す断面図である。エピタキシャルウェハ1は、基板2、AlN層3、GaN層4、電子供給層5及びキャップ層6を備える。エピタキシャルウェハ1では、基板2側から順にAlN層3、GaN層4、電子供給層5及びキャップ層6が積層されている。エピタキシャルウェハ1は、電子供給層5及びキャップ層6を必ずしも含まなくてもよい。基板2は、結晶成長用の基板であって、窒化物半導体とは異種の材料からなる。基板2として、例えばSi基板、SiC基板、又はサファイア基板が用いられる。本実施形態では、基板2は半絶縁性のSiC基板である。AlN層3と接触する基板2の表面2aの格子面は、揃っていてもよいし、揃っていなくてもよい。
【0013】
AlN層3は、基板2の表面2aからエピタキシャル成長した層である。AlN層3の厚さは、例えば8nm以上であり、50nm以下である。一実施例では、AlN層3の厚さは20nmである。AlN層3は、バッファ層及びシード層として機能する。
【0014】
GaN層4は、AlN層3の表面3aからエピタキシャル成長した層である。GaN層4の厚さは、例えば100nm以上であり、2000nm以下である。一実施例では、GaN層4の厚さは400nmである。後述する本実施形態の成長方法によれば、GaN層4の厚さがこのように比較的薄い場合であっても、GaN層4の表面4aに形成されるピット(窪み)の数を少なくできる。従って、エピタキシャルウェハ1を用いて作製される半導体装置の動作特性が良好となる。GaN層4の表面4aに形成されるピットの数は、例えば10個/cm以下である。GaN層4は、不純物を実質的に含有しない層であってもよい。
【0015】
電子供給層5は、GaN層4の表面4aからエピタキシャル成長した層である。電子供給層5の厚さは、例えば7nm以上であり、30nm以下である。一実施例では、電子供給層5の厚さは20nmである。電子供給層5は、窒化物半導体(例えばAlGaN、InAlN又はInAlGaN)を含んでおり、例えばAlGaN層である。AlGaN層は、n型化していてもよい。キャップ層6は、電子供給層5の表面5aからエピタキシャル成長した層である。キャップ層6の厚さは、例えば1nm以上であり、10nm以下である。一実施例では、キャップ層6の厚さは5nmである。キャップ層6は、例えばGaN層である。このGaN層は、n型化していてもよい。
【0016】
図2は、本実施形態に係る半導体装置の一例として、トランジスタ11の構造を示す断面図である。本実施形態のトランジスタ11は、HEMTである。トランジスタ11は、図1に示されたエピタキシャルウェハ1を用いて作製されたものである。具体的には、トランジスタ11は、基板2、AlN層3、GaN層4、電子供給層5、キャップ層6、ソース電極12、ドレイン電極13、ゲート電極14、及び保護膜15を備える。GaN層4と電子供給層5との界面に2次元電子ガス(2DEG)が生じることにより、GaN層4の表面4a付近にチャネル領域16が形成される。
【0017】
ソース電極12及びドレイン電極13は、キャップ層6の一部が除去された部分に設けられている。つまり、ソース電極12及びドレイン電極13は、電子供給層5の表面5a上に設けられている。ソース電極12及びドレイン電極13は、オーミック電極であり、例えばチタン(Ti)層とアルミニウム(Al)層との積層構造を有する。この場合、電子供給層5とチタン層とが接触する。アルミニウム層は、膜厚方向においてチタン層によって挟まれていてもよい。ゲート電極14は、キャップ層6上であって、ソース電極12とドレイン電極13との間に設けられている。ゲート電極14は、例えばニッケル(Ni)層と金(Au)層との積層構造を有する。ゲート電極14は、電子供給層5の表面5aと接してもよい。保護膜15は、キャップ層6を覆っており、基板2上に積層された各半導体層を保護する。保護膜15は、例えば窒化ケイ素(SiN)膜である。
【0018】
次に、図3及び図4を参照しながら、本実施形態に係る窒化物半導体層の成長方法を含む、半導体基板及び半導体装置の作製方法を説明する。図3は、温度変化及びガスタイミングを示すチャートである。図3において、縦軸は温度を、横軸は時間をそれぞれ示す。図4(a)〜図4(d)は、エピタキシャルウェハ1の作製方法を説明する図である。図4(e)は、トランジスタ11の作製方法を説明する図である。
【0019】
まず、下処理として、基板2の熱処理を行う。基板2の熱処理は、例えばエピタキシャル成長装置のチャンバ内で行われる。当該熱処理では、図3に示されるように、所定の温度に到達するまで一定の割合でチャンバ内を昇温させる。その後、期間Aにおいて一定の温度で基板2の熱処理を行う。期間Aにおけるチャンバ内温度は、例えば1200℃である。期間Aにおいて、N原料ガス(V族ガス)としてアンモニア(NH)ガスが供給されてもよい。
【0020】
次に、図3及び図4(a)に示すように、チャンバ内を降温したのち、期間Aの後の期間Bにおいて、基板2上にAlN層3を成長する。この工程では、原料ガスとしてAl原料ガス(III族ガス)及びN原料ガスを供給し、有機金属気相成長法(MOCVD;Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって、AlN層3を基板2上に成長する。チャンバ内圧力は例えば6.7kPa以上であり、26.7kPa以下である。一実施例では、チャンバ内圧力は13.3kPaである。また、AlN層3の成長温度(第1の成長温度)は例えば1050℃以上であり、1150℃以下である。一実施例では、成長温度は1100℃である。Al原料ガスは例えばトリメチルアルミニウム(TMA;Tri-Methyl Aluminum)ガスであり、N原料ガスはNHガスである。NHガスの流量(第1のNH流量)は例えば毎分0.15mol以上であり、毎分0.45mol以下である。一実施例では、NHガスの流量は毎分0.3molである。TMAガスの流量は例えば毎分120μmolである。
【0021】
続いて、図4(b)に示すように、MOCVD法によって、AlN層3の表面3a上にGaN層4を成長する。この工程では、まず、図3に示されるように、期間Bの後の期間C(GaN層4の成長開始時点を含む第1期間)において、Al原料ガスの供給を止め、Ga原料ガス(III族ガス)の供給を開始する。Ga原料ガスは、例えばトリメチルガリウム(TMG;Tri-Methyl Gallium)ガスである。TMGガスの流量は例えば毎分120μmolである。そして、その状態を維持しつつ、AlN層3の成長温度よりも低いGaN層4の成長温度(第2の成長温度)に到達するまで、チャンバ内温度を徐々に(例えば一定の割合で連続的に)変更する。AlN層3の成長温度とGaN層4の成長温度との差は、例えば少なくとも20℃である。GaN層4の成長温度は、例えば1000℃以上であり、1100℃以下である。一実施例では、GaN層4の成長温度は1080℃である。AlN層3の成長温度が1100℃であり、GaN層4の成長温度が1080℃である場合、期間Cではチャンバ内温度を20℃降温させる。
【0022】
また、期間Cでは、期間BからNHガスの供給を継続する。但し、期間Cにおいては、NHガスの流量を、AlN層3成長時の流量(第1のNH流量)から、GaN層4の成長に好適な流量(第1のNH流量とは異なる第2のNH流量)に到達するまで徐々に(例えば一定の割合で連続的に)変更する。変更後のNHガスの流量は、変更前の(AlN層3成長時の)NHガスの流量よりも大きくてもよい。変更後のNHガスの流量は、例えば毎分0.3mol以上であり、毎分0.6mol以下である。一実施例では、変更後のNHガスの流量は毎分0.5molである。このように、本実施形態では期間Cにおいてチャンバ内温度の変更及びNHガスの流量の変更の双方を行っているが、期間Cにおいてこれらのうち一方のみを行ってもよい。
【0023】
期間Cでは、チャンバ内圧力は変更しなくてもよい。期間Cの長さ(言い換えれば、チャンバ内温度及びNHガス流量の変更に要する時間)は、例えば10秒以上であり、600秒以下である。一実施例では、期間Cの長さは60秒である。図3に示す例では期間Bと期間Cとが連続しているが、期間Bと期間Cとの間に時間間隔が設けられてもよい。
【0024】
続いて、図3に示されるように、期間Cにおいて変更された成長温度及びNHガス流量を維持しながら、期間Cから連続する期間D(第1期間の後の第2期間)において、GaN層4が所望の厚さに到達するまでGaN層4の成長を継続する。このとき、GaN層4の成長速度は例えば0.4nm/秒である。
【0025】
続いて、図3及び図4(c)に示すように、期間Dの後の期間Eにおいて、GaN層4の表面4a上に電子供給層5としてのAlGaN層を成長する。この工程では、原料ガスとしてAl原料ガス、Ga原料ガス及びN原料ガスを供給し、MOCVD法によって、例えば1080℃、圧力13.3kPaの条件下において、AlGaN層をGaN層4上に成長する。
【0026】
次に、図3及び図4(d)に示されるように、期間Eの後の期間Fにおいて、電子供給層5の表面5a上にキャップ層6としてのGaN層を成長する。この工程では、原料ガスとしてN原料ガス及びGa原料ガスを供給し、MOCVD法によって、例えば1080℃、及び圧力13.3kPaの条件下において、キャップ層6を電子供給層5上に成長する。以上の工程を経て、エピタキシャルウェハ1が作製される。
【0027】
また、図4(e)に示すように、エピタキシャルウェハ1を用いて半導体装置であるトランジスタ11を作製してもよい。この場合、フォトリソグラフィーによってキャップ層6の一部を除去し、ソース電極12及びドレイン電極13を形成する。また、ゲート電極14をフォトリソグラフィーによってキャップ層6上に形成した後に、保護膜15を形成する。以上の工程により、トランジスタ11が作製される。
【0028】
以上に説明した、本実施形態に係る窒化物半導体層の成長方法によって得られる効果について、比較例とともに説明する。図5は、比較例に係る半導体基板の作製方法における温度変化及びガスタイミングを示すチャートである。図5に示すように、この比較例では、期間CにおいてGa原料ガスの供給が開始されておらず、Ga原料ガスの供給は期間Dから開始されている。従って、期間CにおいてはGaN層4は全く成長せず、GaN層4の成長は期間Dから開始されている。
【0029】
具体的には、期間Aにおいて基板2の熱処理を行ったのち、チャンバ内を降温し、期間Bにおいて基板2上にAlN層3を成長する。この工程では、原料ガスとしてTMAガス及びNHガスを供給し、MOCVD法によって厚さ20nmのAlN層3を基板2上に成長する。チャンバ内圧力は13.3kPaであり、AlN層3の成長温度は1100℃である。NHガスの流量は毎分0.5molである。次に、期間Cにおいて、Al原料ガスの供給を止め、AlN層3の成長温度よりも低いGaN層4の成長温度に到達するまで、チャンバ内温度を徐々に変更する。GaN層4の成長温度は1080℃である。また、期間Cでは、期間BからNHガスの供給を継続する。NHガスの流量は毎分0.5molである。チャンバ内圧力は13.3kPaである。続いて、期間DにおいてTMGガスの供給を開始し、AlN層3上にGaN層4を成長する。TMGガスの流量は毎分120μmolである。このとき、GaN層4の成長速度は例えば0.4nm/秒であり、成長後のGaN層4の厚さは例えば1000nmである。以降の工程は、前述した本実施形態に係る窒化物半導体層の成長方法と同様である。
【0030】
図6(a)は、上記の比較例によって形成されたエピタキシャルウェハ1の構造を模式的に示す断面図である。図6(b)は図6(a)のAlN層3及びGaN層4の部分拡大図であり、図6(c)は図6(b)を更に拡大した図である。AlN層3が比較的薄い(例えば20nm)場合、図6(b)に示すように、AlN層3は完全な層構造にはならず、島状(或いは縞状)に成長する。このため、AlN層3はしばしば核生成層とも呼ばれる。このようなAlN層3上に、AlNとは異なる格子定数を有するGaN層4を通常の方法によって成長させると、図6(c)に示すように、AlN層3とGaN層4との界面近傍には、格子欠陥23が発生しやすくなる。これは、GaN層4の成長開始時に、AlN層3の表面状態とGaN結晶の成長特性(成長縦横比)とが適合しない箇所が生じるためと考えられる。また、AlN層3内の転位21に起因した転位24がGaN層4内に発生しやすくなると共に、GaN層4内に不純物25が多くなる傾向にある。したがって、GaN層4の表面にピット26が発生しやすくなり、トランジスタ11においてピットを介したリークなどが生じ、トランジスタ11の信頼性に大きな影響を与えてしまう。
【0031】
また、AlN層3表面の面方位は種々存在し、GaN層4はその面方位を継承しながら成長する。GaN層4の成長速度は面方位によって異なるが、一定の成長条件下では、成長速度が最も早い単一の面方位への結晶成長が支配的となる。故に、発生したピットを消滅させるまでには、相当な厚みのGaN層4を成長させる必要がある。
【0032】
図7(a)は、本実施形態によって形成されたエピタキシャルウェハ1の構造を模式的に示す断面図である。図7(b)は図7(a)のAlN層3及びGaN層4の部分拡大図であり、図7(c)は図7(b)を更に拡大した図である。上記の問題を解決するために、本実施形態では、AlN層3の成長後、期間Cにおいて成長条件を連続的に変更しながら初期のGaN層4(図中の層41)を成長する。この期間Cでは成長温度やNHガスの流量が逐次変化するので、GaN結晶において或るタイミングでは横方向成長が優位となり、別のタイミングでは縦方向成長が優位となる等、GaN結晶の成長特性(成長縦横比)が様々に変化する。これにより、AlN層3のどのような表面状態に対してもGaN結晶の成長特性(成長縦横比)が適合する瞬間を生じさせることができ、図7(c)に示すように、層41における格子欠陥23、転位24、及び不純物25の発生を低減し、或いは途中で消滅させることができる。従って、GaN層4の表面に生じるピット26を低減することができる。
【0033】
図8及び図9は、上述したピット抑制の原理の別の側面を説明するための図である。図中の矢印A1は、GaN結晶の成長縦横比を概念的に示す。AlN層3の表面に表面欠損27が生じると(図8(a))、表面欠損27を起点としてGaN層4にピット26が発生する(図8(b))。比較例の方法では、GaN結晶の成長条件が一定すなわち成長縦横比が一定なので、発生したピット26はそのまま上方へ延びる(図8(c))。その結果、GaN層4の表面にピット26が形成されることとなる(図8(d))。これに対し、本実施形態の方法では、GaN結晶の成長条件が変化すなわち成長縦横比が変化するので(図9(c))、発生したピット26は成長途中で埋められてしまう(図9(d))。従って、GaN層4の表面に生じるピット26を低減することができる。
【0034】
図10は、比較例及び本実施形態の各方法を用いた場合の、GaN層4の層厚とGaN層4の表面ピット密度との関係を示すグラフである。縦軸はGaN層4の表面ピット密度(単位:個/cm)を表し、横軸はGaN層4の層厚(単位:μm)を表す。グラフG1は比較例の方法を用いた結果を示し、グラフG2は本実施形態の方法を用いた結果(期間Cにおいて成長温度及びNH流量の双方を変更した場合)を示す。グラフG1に示すように、比較例では、トランジスタ11の信頼性を得ることができる表面ピット密度基準(10個/cm、図中の破線L1)を満たすためにはGaN層4の層厚が0.8μm以上必要である。これに対し本実施形態では、グラフG2に示すように、GaN層4の層厚が0.3μm以上あれば同じ表面ピット密度基準を満たす。
【0035】
以上に説明したように、本実施形態による窒化物半導体層の成長方法によれば、AlN層3上にGaN層4を成長する際に、GaN層4表面のピットを低減しつつ、GaN層4をより薄くすることができる。これにより、ピットを介したリークを減少させてトランジスタ11の信頼性を確保しつつ、GaN層4をより薄くしてGaN層4中に存在するトラップの総量を減少させ、電子の捕獲及び再放出の確率を低下させてトランジスタ11の過渡応答を改善することができる。
【0036】
なお、期間Cにおいて、成長温度の変更及びNH流量の変更のいずれか一方のみを行ってもよく、その場合であっても上述した作用効果を得ることができる。但し、本実施形態のように、成長温度の変更及びNH流量の変更の双方を行うことにより、上述した作用効果をより顕著に得ることができる。
【0037】
また、本実施形態のように、AlN層3を成長する工程において、AlN層3を島状に成長してもよい。このような場合に、GaN層4に格子欠陥や転位、不純物等が発生しやすくなるので、上述した作用効果をより顕著に得ることができる。
【0038】
また、本実施形態のように、AlN層3の成長温度とGaN層4の成長温度との差が少なくとも20℃であってもよい。このような場合に、期間CにおいてGaN結晶の成長条件を大きく変化させることができ、GaN結晶の成長特性(成長縦横比)を大きく変化させてピットを効果的に低減することができる。
【0039】
(変形例)
図11は、上記実施形態の一変形例に係る温度変化及びガスタイミングを示すチャートである。図11において、縦軸は温度を、横軸は時間をそれぞれ示す。上記実施形態では、図3に示したようにAlN層3を成長する期間Bと期間Cとが間隔を空けずに連続しているが、本変形例では、期間Bののち期間Cの開始までの期間Gにおいて、Ga原料及びAl原料の供給を停止した状態で、NHガスの流量及び成長温度を期間Bから維持する。このように、期間Bと期間Cとが連続していない場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
本発明による窒化物半導体層の成長方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、上記実施形態では、期間Cにおいて成長温度の変更及びNH流量の変更を行っているが、これらに加えて、チャンバ内圧力、Ga原料ガスの流量、或いはNHガス及びGa原料ガスの総流量を変更してもよい。変更する成長条件が多いほど、上述した効果をより顕著に得ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1…エピタキシャルウェハ、2…基板、3…AlN層、4…GaN層、5…電子供給層、6…キャップ層、11…トランジスタ、12…ソース電極、13…ドレイン電極、14…ゲート電極、15…保護膜、16…チャネル領域、21,24…転位、23…格子欠陥、25…不純物、26…ピット、27…表面欠損、A〜G…期間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11