(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848622
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】電力変換器及びその制御装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20210315BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02M7/48 F
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-74877(P2017-74877)
(22)【出願日】2017年4月5日
(65)【公開番号】特開2018-182811(P2018-182811A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】日野 晃裕
(72)【発明者】
【氏名】篠原 博
(72)【発明者】
【氏名】田重田 稔久
(72)【発明者】
【氏名】八尾 まど華
【審査官】
土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−211875(JP,A)
【文献】
特開2008−234298(JP,A)
【文献】
特開2004−312864(JP,A)
【文献】
特開2003−88160(JP,A)
【文献】
特開2010−63221(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103683288(CN,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0029982(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00−7/98
G05F 1/12−1/44
G05F 1/45−7/00
H02J 3/00−5/00
H02P 21/00−25/03
H02P 25/04
25/10−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源系統に接続された電力変換器を制御する制御装置であって、前記交流電源系統の交流信号に含まれる任意次数の高調波成分を検出し、検出された高調波成分を抑制するための高調波補償信号を生成して前記電力変換器に指令値として与えるようにした制御装置において、
前記制御装置内部に、前記交流電源系統と同期した位相を持つd軸とこのd軸に直交するq軸とからなるdq直交回転座標を定義し、前記交流信号を前記dq直交回転座標上で座標変換して基本波成分と高調波成分とに分離するdq変換手段と、
前記dq変換手段の出力から前記基本波成分を除去して前記高調波成分を抽出する高調波抽出手段と、
前記制御装置内部に、前記高調波成分と同期した位相を持つγ軸とこのγ軸に直交するδ軸とからなるγδ直交回転座標を定義し、前記高調波成分を前記γδ直交回転座標上で座標変換することにより、前記高調波成分の初期位相を除去する高調波軸座標変換手段と、
前記dq直交回転座標の正回転時の基準位相を逆回転時の基準位相に対して第1の補正量に応じた位相だけ遅らせる第1の位相補正手段と、
前記γδ直交回転座標の正回転時の基準位相を逆回転時の基準位相に対して第2の補正量に応じた位相だけ遅らせる第2の位相補正手段と、
前記高調波軸座標変換手段の出力を前記dq直交回転座標上で逆変換して前記高調波補償信号を生成する手段と、
を備え、
前記第1の補正量と前記第2の補正量とを等しくすることにより、むだ時間に起因して記交流信号の検出値と前記高調波補償信号との間に生じる位相遅れを補償することを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電力変換器の制御装置において、
前記むだ時間は、前記dq変換手段以降の制御演算の遅れ時間を含むことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した電力変換器の制御装置において、
前記むだ時間は、前記交流信号の検出処理の遅れ時間を含むことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載した電力変換器の制御装置において、
前記高調波軸座標変換手段の入力信号の振幅と出力信号の振幅との誤差を補正する手段を備えたことを特徴とする電力変換器の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の制御装置により生成される高調波補償信号を指令値として半導体スイッチング素子をオン・オフし、前記交流信号に含まれる高調波成分を低減するように動作することを特徴とする電力変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換器及びその制御装置に係り、特に、交流電源系統に接続された負荷によって発生する高調波電流を電力変換器の動作により低減するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
整流回路等を含む負荷を交流電源系統に接続した場合、負荷電流には高調波電流が含まれる。この高調波電流は、交流電源系統に接続された電力変換器等、各種の電気機器の誤動作やノイズの発生原因となる。
この高調波電流を低減する一つの手段として、いわゆるアクティブフィルタが知られている。
【0003】
図4は、従来の並列型アクティブフィルタの適用例を示している。
図4において、101は交流電源、102は連系リアクトル、103は電圧検出器、104は系統電圧の位相θ
1を検出するPLL(Phase Locked Loop)回路、105は負荷電流i
Sを検出する電流検出器、106は整流器等を含む高調波負荷、107は補償するべき高調波成分を含む負荷電流i
sensを抽出する負荷電流検出フィルタ、108はLCLフィルタ、110は並列型アクティブフィルタである。
【0004】
並列型アクティブフィルタ110は、前記位相θ
1及び負荷電流検出値i
sensに基づいて高調波電流指令i
*を生成する高調波検出回路111と、高調波電流指令i
*に従って電圧指令を生成する電流制御器112と、上記電圧指令に基づいてPWM(パルス幅変調)パルスを生成するPWM回路113と、高調波負荷106に対して並列に接続され、かつ、PWMパルスに従ってオン・オフされる半導体スイッチング素子を備えたインバータ等の電力変換器114と、により構成されている。
この並列型アクティブフィルタ110は、負荷電流i
Sに含まれる高調波成分を打ち消す電流i
Cを流すように電力変換器114を制御することで、交流電源101側に流れる高調波電流を抑制している。
【0005】
しかし、
図4の回路では、負荷電流i
Sの検出遅れ時間や高調波検出回路111における制御演算の遅れ時間からなるむだ時間により、高調波電流指令i
*は負荷電流i
Sの高調波成分に対して位相遅れが生じ、両者の間に誤差が発生する。このため、高調波電流指令i
*に従ってインバータ114が系統に電流i
Cを注入しても、高調波電流に対する十分な抑制効果が得られないという問題があった。
【0006】
これに対し、上記のむだ時間による位相遅れを補償する従来技術として、例えば特許文献1に開示されているように、座標変換手段の基準位相を補正する技術が公知となっている。
図5は、この特許文献1に記載された半導体電力変換装置の全体的なブロック図であり、その動作の概要を以下に説明する。
【0007】
まず、交流電源系統201には整流器等を含む負荷203が接続されている。電流検出器202により検出された三相の負荷電流は、dq制御部210内のdq変換手段214により、基準位相(ωt+φ)を用いて回転座標変換され、d軸電流成分、q軸電流成分に分離される。なお、基準位相(ωt+φ)は、電圧検出器204に接続された位相検出手段211により検出されている。
【0008】
dq変換手段214から出力されたd軸電流成分、q軸電流成分は、高調波成分を除去するフィルタ215,216を介して逆dq変換手段217に入力され、基準位相(ωt+φ+δ)を用いて三相の電流指令値に変換される。この電流指令値は電流制御器221により電圧指令値に変換され、後続のPWM回路223から出力されるゲートパターン(PWMパルス)により電力変換器224の半導体スイッチング素子がオン・オフされる。なお、225は連系用の変圧器、222は電流検出器である。
【0009】
上記構成において、逆dq変換手段217に入力される基準位相(ωt+φ+δ)は、位相検出手段211が検出した位相(ωt+φ)と補正位相設定器212により設定された補正位相δとを加算器213により加算して求められる。上記の補正位相δを、電流検出器202による検出遅れやdq制御部210における制御演算の遅れに起因するむだ時間を考慮して設定することにより、dq制御部210が生成する電流指令値はむだ時間による位相遅れを補償したものとなり、制御誤差なく電力変換器224を運転することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−234298号公報(段落[0010]〜[0033]、
図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に記載された技術により、不特定次数の高調波成分に対して位相遅れを補償するには、補正位相δが高調波成分の次数に応じて変化するため、この次数を求めるための演算装置が必要である。一般的に、高調波成分の次数を求める演算手段としてはFFT(高速フーリエ変換)が知られているが、FFTの演算には高速の演算装置や大容量のメモリが必要になるため、制御装置のコストが上昇するという問題がある。
【0012】
そこで、本発明の解決課題は、FFT等の演算手段を用いずにむだ時間による位相遅れを補償して交流電源系統の高調波成分を低減可能とした電力変換器及びその制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に係る電力変換器の制御装置は、交流電源系統に接続された電力変換器を制御する制御装置であって、前記交流電源系統の交流信号に含まれる任意次数の高調波成分を検出し、検出された高調波成分を抑制するための高調波補償信号を生成して前記電力変換器に指令値として与えるようにした制御装置において、
前記制御装置内部に、前記交流電源系統と同期した位相を持つd軸とこのd軸に直交するq軸とからなるdq直交回転座標を定義し、前記交流信号を前記dq直交回転座標上で座標変換して基本波成分と高調波成分とに分離するdq変換手段と、
前記dq変換手段の出力から前記基本波成分を除去して前記高調波成分を抽出する高調波抽出手段と、
前記制御装置内部に、前記高調波成分と同期した位相を持つγ軸とこのγ軸に直交するδ軸とからなるγδ直交回転座標を定義し、前記高調波成分を前記γδ直交回転座標上で座標変換することにより、前記高調波成分の初期位相を除去する高調波軸座標変換手段と、
前記dq直交回転座標の正回転時の基準位相を逆回転時の基準位相に対して第1の補正量に応じた位相だけ遅らせる第1の位相補正手段と、
前記γδ直交回転座標の正回転時の基準位相を逆回転時の基準位相に対して第2の補正量に応じた位相だけ遅らせる第2の位相補正手段と、
前記高調波軸座標変換手段の出力を前記dq直交回転座標上で逆変換して前記高調波補償信号を生成する手段と、を備え、
前記第1の補正量と前記第2の補正量とを等しくすることにより、むだ時間に起因して前記交流信号の検出値と前記高調波補償信号との間に生じる位相遅れを補償することを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る電力変換器の制御装置は、請求項1に記載した電力変換器の制御装置において、前記むだ時間は、前記dq変換手段以降の制御演算による遅れ時間を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る電力変換器の制御装置は、請求項1または2に記載した電力変換器の制御装置において、前記むだ時間は、前記交流信号の検出処理の遅れ時間を含むことを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る電力変換器の制御装置は、請求項1〜3の何れか1項に記載した電力変換器の制御装置において、前記高調波軸座標変換手段の入力信号の振幅と出力信号の振幅との誤差を補正する手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項5に係る電力変換器は、請求項1〜4の何れか1項に記載の制御装置により生成される高調波補償信号を指令値として半導体スイッチング素子をオン・オフし、前記交流信号に含まれる高調波成分を低減するように動作することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高速の演算装置や大容量のメモリを用いることなく、負荷電流に含まれる高調波成分を低コストかつ高精度に低減することができる。
これにより、交流電源系統に接続された各種電気機器の誤動作やノイズの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る制御装置の主要部を示すブロック図である。
【
図2】
図2(A)はdq変換器及び逆dq変換器の基準位相信号の相互関係を示す図、
図2(B)はγδ変換器及び逆γδ変換器の基準位相信号の相互関係を示す図である。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る制御装置の主要部を示すブロック図である。
【
図4】従来の並列型アクティブフィルタの適用例を示す図である。
【
図5】特許文献1に記載された半導体電力変換装置の全体的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、
図1は、本発明の第1実施形態に係る制御装置の主要部を示すブロック図である。この制御装置は、例えば、
図5におけるdq制御部210に代えて設けられるものであり、交流電源系統から取得した三相の負荷電流検出値i
sensに基づいて負荷電流の高調波成分を低減するための高調波補償電流i
cmpを生成し、この高調波補償電流i
cmpを電流指令値として、図示されていない電流制御器等を介して電力変換器に与える機能を有している。
なお、負荷電流検出値i
sensには系統電圧の基本波成分とN次の高調波成分とが含まれているものとする。
【0021】
図1において、dq変換器1は、むだ時間補償器6(第1の位相補正手段)から入力される基準位相信号aを用いて、三相の負荷電流検出値i
sensをd軸,q軸の負荷電流I
Sd,I
Sqに座標変換する。ここで、d軸,q軸は直交回転座標を構成しており、d軸の位相は、系統電圧位相ω
1tからα
1だけ遅れた(ω
1t−α
1)とし、q軸はd軸から90°進み方向の軸とする。
なお、11は系統電圧位相ω
1tからsinω
1t,cosω
1tを演算してむだ時間補償器6に出力するsin/cos演算器である。
ω
1は系統電圧の基本波角周波数であり、d軸の初期位相α
1については後述する。dq直交回転座標では、基本波成分が直流、高調波成分が(N−1)次の交流となる。
【0022】
高調波抽出器2は、d軸,q軸の負荷電流I
Sd,I
Sqに含まれる直流成分を除去し、d軸,q軸の高調波電流I
Sh1d,I
Sh1qを抽出する。
γδ変換器3は、むだ時間補償器7(第2の位相補正手段)から入力される基準位相信号cを用いて、d軸高調波電流I
Sh1d(高調波電流ベクトルI
Sh1dqのcos成分),q軸高調波電流I
Sh1q(同じくI
Sh1dqのsin成分)をγ軸,δ軸の高調波電流I
Sh1γ,I
Sh1δに座標変換する。
なお、γ,δ軸は直交回転座標を構成しており、γ軸の位相は(ω
2−ω
1)t−α
2とし、δ軸はγ軸から90°進み方向の軸とする。ここで、ω
2は系統電圧の高調波角周波数であり、γ軸の初期位相α
2については後述する。
【0023】
逆γδ変換器4は、基準位相信号d(I
Sh1d,I
Sh1q)を用いて、γ軸,δ軸の高調波電流I
Sh1γ,I
Sh1δをd軸,q軸の補償電流I
β1d,I
β1qに座標変換する。γ軸の位相はω
2tとし、δ軸はγ軸から90°進み方向の軸とする。
【0024】
逆dq変換器5は、sin/cos演算器12から出力される基準位相信号bを用いて、d軸,q軸の補償電流I
β1d,I
β1qを三相の補償電流i
cmpに座標変換する。d軸の位相は系統電圧位相ω
1tと等しく、q軸はd軸から90°進み方向の軸とする。
【0025】
上記構成において、dq変換器1及び逆dq変換器5を基本波軸座標変換手段Aと呼び、γδ変換器3及び逆γδ変換器4を高調波軸座標変換手段Bと呼ぶものとする。
【0026】
次に、前述したd軸の初期位相α
1及びγ軸の初期位相α
2の求め方を、
図2を用いて説明する。
図2(A)は、dq変換器1の基準位相信号aのcos成分(以下、単に基準位相信号aという)と逆dq変換器5の基準位相信号bのcos成分(以下、単に基準位相信号bという)との関係を示す図である。図示するように、基準位相信号aは基準位相信号bに対して時間(言い換えれば位相)σだけ遅れているものとする。
【0027】
dq変換器1の基準位相信号aは、系統電圧位相ω
1tに同期しているので、d軸の初期位相α
1は数式1のようになる。
[数1]
α
1=ω
1×σ
数式1によれば、α
1/ω
1=σであり、このα
1/ω
1は請求項における第1の補正量に相当する。
【0028】
図2(B)は、γδ変換器3の基準位相信号cのcos成分(以下、単に基準位相信号cという)と逆γδ変換器4の基準位相信号dのcos成分(以下、単に基準位相信号dという)との関係を示す図である。図示するように、γδ変換器3の基準位相信号cは、逆γδ変換器4の基準位相信号dに対して時間σだけ遅れているものとする。
ここで、
図2(B)は
図2(A)に対して時間軸を拡大して表示してあり、実際の時間σは
図2(A),(B)で等しい。
【0029】
γδ変換器3の基準位相信号cは、高調波成分(N−1次(ω
2−ω
1))に同期しているので、γ軸の初期位相α
2は数式2のようになる。
[数2]
α
2=(ω
2−ω
1)×σ
数式2によれば、α
2/(ω
2−ω
1)=σであり、このα
2/(ω
2−ω
1)は請求項における第2の補正量に相当する。
【0030】
上述したようにこの実施形態では、dq変換及びγδ変換における正回転時の基準位相信号a,cを、逆回転時の基準位相信号b,dに対して、それぞれ時間σだけ遅らせている。これにより、任意次数の高調波成分の、むだ時間による位相遅れを補償できることを以下に説明する。
【0031】
まず、三相の系統電圧をv
u,v
v,v
wとすると、これらは数式3のように表される。
【数3】
数式3において、Vは系統電圧の実効値、ω
1は基本波角周波数である。
【0032】
次に、負荷電流は基本波成分と高調波成分との和であるから、基本波成分の位相をω
1t+φ
1、高調波成分の位相をω
2t+φ
2とすると、三相の負荷電流検出値i
sens(R相:i
a,S相:i
b,T相:i
cとする)は、数式4によって表される。
【数4】
数式4において、I
1は負荷電流の基本波成分の実効値、I
2は負荷電流の高調波成分の実効値、ω
2は高調波角周波数、φ
1は基本波成分の初期位相、φ
2は高調波成分の初期位相である。
【0033】
また、三相の負荷電流を、αβ軸直交固定座標上のα軸負荷電流i
α,β軸負荷電流i
βにより表現すると、数式5のようになる。
【数5】
【0034】
次に、数式5に示したα軸,β軸の負荷電流i
α,i
βをd軸,q軸により座標変換したd軸,q軸の負荷電流i
Sd,i
Sqは、数式6のようになる。ここで、dq変換の基準位相は、前述したように系統電圧位相ω
1tからα
1だけ遅れたものとする。
【数6】
図1に示したdq変換器1は、上述した数式4〜数式6の処理を行う。
【0035】
次に、
図1の高調波抽出器2により、i
Sd,i
Sqから直流成分を取り除いて抽出されるd軸,q軸の高調波電流i
Sh1d,i
Sh1qは、数式7のようになる。
【数7】
【0036】
また、d軸,q軸の高調波電流i
Sh1d,i
Sh1qをγδ変換器3により座標変換したγ軸,δ軸の高調波電流i
Sh1γ,i
Sh1δは、数式8のようになる。ここで、γδ変換の基準位相は、i
Sh1d,i
Sh1qの位相からα
2だけ遅れたものとする。
【数8】
この数式8を数式7と比較すると、座標変換後のγ軸、δ軸の高調波電流i
sh1γ,i
sh1δでは高調波成分の初期位相φ
2が除去されていることが分かる。
【0037】
そして、γ軸,δ軸の高調波電流i
Sh1γ,i
Sh1δを逆γδ変換器4により座標変換したd軸,q軸の補償電流i
β1d,i
β1qは、数式9のようになる。ここで、逆γδ変換の基準位相は、i
Sh1d,i
Sh1qの位相と等しくする。このため、数式9における逆γδ変換の変換行列には、数式7に示したi
Sh1d,i
Sh1qをそのまま代入する。
【数9】
【0038】
最後に、d軸,q軸の補償電流i
β1d,i
β1qを逆dq変換器5に入力して逆dq変換を行い、N次の高調波成分を低減するための三相の高調波補償電流i
cmpを演算する。
逆dq変換器5において、d軸,q軸の補償電流i
β1d,i
β1qをαβ軸で逆座標変換して得られるα軸,β軸の高調波負荷電流i
S2α,i
S2βは、数式10のようになる。なお、α軸の基準位相は系統電圧位相ω
1tと同じとする。
【数10】
【0039】
上記の高調波負荷電流i
S2α,i
S2βは、数式10に数式1,数式2を代入することにより、数式11となる。
【数11】
【0040】
逆dq変換器5は数式10,数式11の演算により得たα軸,β軸の高調波負荷電流i
S2α,i
S2βを二相/三相変換し、三相の高調波補償電流i
cmpを出力する。この補償電流i
cmpは、例えば
図5に示すごとく電流指令値として電流制御器に送られ、PWM回路を介して電力変換器の半導体スイッチング素子を駆動することにより、負荷電流の高調波成分を低減させるような電流を交流電源系統に流すことができる。
【0041】
上述した数式11によれば、α軸,β軸の高調波負荷電流i
S2α,i
S2βを、数式5に示したα軸,β軸の負荷電流i
α,i
βの高調波成分に対して時間σだけ進めることができる。
すなわち、本実施形態では、dq変換及びγδ変換における正回転時の基準位相信号を逆回転時の基準位相信号に対して時間σだけ遅らせることで、むだ時間による位相遅れを抑制する高調波補償電流i
cmpを生成し、この補償電流i
cmpを電流指令値として電力変換器を運転することで、交流電源系統に流れる電流の高調波成分を低減させることが可能である。
【0042】
なお、本実施形態では、制御演算の遅れに起因したむだ時間による位相遅れを補償しているが、前述したように、電流の検出遅れやケーブルによる信号遅延のむだ時間による位相遅れをまとめて補償することができる。
【0043】
次に、本発明の第2実施形態を
図3に基づいて説明する。
図3において、
図1と同一の部分には同一の番号を付して説明を省略する。
図3に示すように、第2実施形態では、逆γδ変換器4と逆dq変換器5との間に振幅補正器8が設けられている。この振幅補正器8は、補償電流I
β1d,I
β1qの振幅を高調波電流I
Sh1d,I
Sh1qに基づいて補正し、補償電流I
β2d,I
β2qとして出力する。
【0044】
すなわち、高調波軸座標変換手段B(γδ変換器3及び逆γδ変換器4)による処理では、数式11から判るように、γδ変換器3に入力される高調波電流I
Sh1d,I
Sh1qからなる電流ベクトルI
Sh1dqの振幅と、逆γδ変換器4から出力される補償電流I
β1d,I
β1qからなる電流ベクトルI
β1dqの振幅との間に誤差が生じ、電流ベクトルI
β1dqの振幅は電流ベクトルI
Sh1dqの振幅より大きくなる。この場合の振幅の増加率は、数式12によって求めることができる。
[数12]
増加率=I
Sh1d2+I
Sh1q2
【0045】
よって、
図3の振幅補正器8では、この増加率の逆数を電流ベクトルI
β1dqに乗算することにより振幅を補正したI
β2dqを生成し、その後にI
β1d,I
β1qに分離して逆dq変換器5に出力することで、高調波軸座標変換手段Bの入力信号の振幅と出力信号の振幅との誤差を補正することができる。
【0046】
以上のように、第1実施形態及び第2実施形態では、高調波成分の次数に関係なく高調波成分のむだ時間による位相遅れを補償することができるため、高調波成分の次数を検出するためにFFT等の演算を行う必要がなく、高速の演算装置や大容量のメモリ等を不要にしてコストの低減に寄与することが可能である。
【0047】
また、本発明は、負荷電流検出値i
sensに基づいて高調波補償電流i
cmpを生成する機能を備えた制御装置だけでなく、上記の高調波補償電流i
cmpを電流指令値として半導体スイッチング素子をオン・オフさせ、交流電源系統に高調波補償電流を注入するインバータ等の電力変換器も含むものである。
【符号の説明】
【0048】
1:dq変換器
2:高調波抽出器(高調波抽出手段)
3:γδ変換器
4:逆γδ変換器
5:逆dq変換器
6:むだ時間補償器(第1の位相補正手段)
7:むだ時間補償器(第2の位相補正手段)
8:振幅補正器(振幅補正手段)
11,12:sin/cos演算器
A:基本波軸座標変換手段
B:高調波軸座標変換手段