特許第6848623号(P6848623)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848623
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/18 20060101AFI20210315BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   B60C9/18 K
   B60C9/00 J
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-74995(P2017-74995)
(22)【出願日】2017年4月5日
(65)【公開番号】特開2018-176836(P2018-176836A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮太
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−234032(JP,A)
【文献】 特開2017−1432(JP,A)
【文献】 特開2010−274818(JP,A)
【文献】 特開2015−58901(JP,A)
【文献】 特開2009−45979(JP,A)
【文献】 特開2016−222060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00−9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドと、このトレッドの半径方向内側に位置するバンドとを備えており、
上記トレッドの幅に対する上記バンドの幅の比率が50%以上であり、
上記バンドが、螺旋状に巻回されたコードを含んでおり、
上記バンドが、センター部と、一対のサイド部とを備えており、
軸方向において、それぞれのサイド部がセンター部の外側に位置しており、
上記バンドの幅に対する上記センター部の幅の比率が70%以下であり、
上記センター部から採取された上記コードが引張試験に供されて5Nから50Nまでの荷重変位で得られた初期伸びが、上記サイド部から採取された上記コードが引張試験に供されて5Nから50Nまでの荷重変位で得られた初期伸びよりも大きく、
上記センター部における上記コードの上記初期伸びが0.2%以上1.0%以下であり、
上記サイド部における上記コードの上記初期伸びが0.1%以上0.9%以下である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記トレッドの幅に対する上記バンドの幅の比率が90%以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
上記バンドの幅に対する上記センター部の幅の比率が10%以上である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
上記コードの材質がスチールである、請求項1から3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
上記コードが、複数本のフィラメントが撚り合わされて得られる撚り線である、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。詳細には、本発明は、二輪自動車に装着される空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤは、多数の部品を組み合わせて構成される。これらの部品のうち、トレッドの半径方向内側に位置する部品として、ベルトがある。ベルトは、カーカスと積層される。
【0003】
ベルトには、赤道面に対して傾斜して延在する多数のコードが含まれている。各コードの傾斜角度は通常、15°から30°までの範囲で設定される。このベルトは、操縦安定性に寄与する。ベルトにおいて、多数のコードは周方向に並列されている。このベルトによれば、剛性のチューニングは容易である。
【0004】
二輪自動車の高性能化に伴い、高速安定性や耐キックバック性の向上がタイヤに求められている。この観点から、二輪自動車に装着されるタイヤにおいては、ベルトに換えてバンドを用いることが検討されている。このバンドは、螺旋状に巻回されたコードを含んでいる。このバンドの構成に関しては、様々な検討が行われている。この検討の一例が、下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−326705公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バンドの形成には、帯状プライが用いられる。帯状プライは、並列された複数本のコードを含んでいる。帯状プライにテンションをかけながら、この帯状プライを螺旋状に巻回すことで、バンドは形成される。通常、帯状プライを巻き始めてからこれを巻き終えるまで、帯状プライに含まれるコードにかけられるテンションは均一である。言い換えれば、帯状プライからバンドを形成するとき、タイヤの赤道面の部分(以下、クラウン領域)においても、タイヤのショルダー部分(以下、ショルダー領域)においても、そして、クラウン領域とショルダー領域との間の領域(以下、ミドル領域)においても、帯状プライのコードにかけられるテンションは同じである。
【0007】
タイヤの製造では、未加硫状態のタイヤ、すなわち、ローカバーをモールド内で加圧及び加熱することで得られる。タイヤのトレッドの部分は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。モールド内でローカバーを加圧及び加熱するとき、クラウン領域においては、帯状プライをモールドに押し付けるように力が作用する。ミドル領域においては、帯状プライをショルダー領域に寄せるように力が作用する。巻き始めから巻き終わりまで、同じテンションで巻かれた帯状プライで構成されたバンドにおいては、このモールド内でバンドに作用する力によって、ミドル領域に位置する帯状プライのコードがショルダー領域の側に寄せられる傾向にある。ミドル領域のコードがショルダー領域に寄せられると、ミドル領域におけるバンドの剛性が低下する恐れがある。
【0008】
バンドを有するタイヤでは、このバンドが走行時に作用する遠心力による影響を抑えるので、高速耐久性が向上する。しかし、ミドル領域においてバンドが低い剛性を有していると、バックリングが発生し、旋回時の安定性や、過渡特性が低下する恐れがある。
【0009】
二輪自動車用タイヤのトレッドの部分は、四輪自動車用タイヤのトレッドの部分の曲率に比して小さな曲率を有している。このため、二輪自動車用のタイヤでは、バックリングが発生し、旋回時の安定性や、過渡特性が低下しやすい傾向にある。
【0010】
帯状プライを疎又は密に巻くことで、バンドの剛性バランスを整えることができる。ローカバーの成形では、バンドにトレッドが貼り付けられる。この貼り付けのとき、帯状プライが疎に巻かれた部分をバンドが含んでいると、この部分にはエアが残りやすい。ローカバーがエアを含んでいると、タイヤの外観が損なわれる恐れがある。
【0011】
バンドの剛性バランスを整え、旋回時の安定性及び過渡特性の向上を図る技術の確立が求められている。
【0012】
本発明の目的は、旋回時の安定性及び過渡特性の向上が達成された空気入りタイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る空気入りタイヤは、トレッドと、このトレッドの半径方向内側に位置するバンドとを備えている。上記トレッドの幅に対する上記バンドの幅の比率は、50%以上である。上記バンドは、螺旋状に巻回されたコードを含んでいる。上記バンドは、センター部と、一対のサイド部とを備えている。軸方向において、それぞれのサイド部はセンター部の外側に位置している。上記バンドの幅に対する上記センター部の幅の比率は70%以下である。上記センター部における上記コードの初期伸びは、上記サイド部における上記コードの初期伸びよりも大きい。上記センター部における上記コードの初期伸びは0.2%以上1.0%以下である。上記サイド部における上記コードの初期伸びは0.1%以上0.9%以下である。
【0014】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記トレッドの幅に対する上記バンドの幅の比率は90%以下である。
【0015】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記バンドの幅に対する上記センター部の幅の比率は10%以上である。
【0016】
好ましくは、この空気入りタイヤでは、上記コードの材質はスチールである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る空気入りタイヤでは、バンドの幅はトレッドの幅の50%以上である。このバンドは、タイヤのトレッドの部分の剛性に効果的に寄与する。
【0018】
そしてこのタイヤでは、センター部においてはコードが大きな初期伸びを有し、サイド部においてはコードが小さな初期伸びを有するように、このバンドは構成されている。このバンドでは、ローカバーを加圧及び加熱してタイヤを得るとき、モールド内でバンドに作用する力によって、ミドル領域におけるコードがショルダー領域に寄せられことが効果的に抑えられる。このバンドによれば、ミドル領域の剛性が適切に維持される。
【0019】
さらにこのタイヤでは、センター部の幅がバンドの幅の70%以下に設定されている。しかも、センター部及びサイド部のそれぞれにおいて、コードの初期伸びが精密にコントロールされている。このタイヤのバンドによれば、ミドル領域の剛性がより適切に維持される。
【0020】
このバンドを有するタイヤでは、バックリングの発生が防止される。トレッドが十分に路面と接触できるので、このタイヤは旋回時の安定性及び過渡特性に優れる。言い換えれば、このタイヤでは、旋回時の安定性及び過渡特性の向上が達成される。
【0021】
本発明によれば、旋回時の安定性及び過渡特性の向上が達成された空気入りタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、図1のタイヤのバンドの形成に用いられる帯状プライの一部が示された斜視図である。
図3図3は、バンドの形成の様子が示された模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0024】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面に対して対称である。
【0025】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のウィング8、一対のビード10、カーカス12、インナーライナー14、一対のチェーファー16及びバンド18を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、二輪自動車に装着される。特に、このタイヤ2は、二輪自動車の後輪に装着される。言い換えれば、このタイヤ2はリアタイヤである。
【0026】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。トレッド4は、路面と接触するトレッド面20を形成する。図1において、符号TEはトレッド面20の端である。トレッド4には、溝22が刻まれている。この溝22により、トレッドパターンが形成されている。トレッド4は架橋ゴムからなる。このトレッド4の架橋ゴムには、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性が考慮されている。
【0027】
このタイヤ2は、乗用車でなく二輪自動車に装着される。このため、図1に示されているように、このタイヤ2のトレッド面20の輪郭は大きく湾曲している。このタイヤ2では、直進走行においては、このタイヤ2の赤道の部分C(クラウン領域)が主に路面と接触する。旋回時にライダーは、車両を傾けて走行させる。このため、旋回走行においては、クラウン領域Cよりも軸方向外側部分が路面と接触する。特に、フルバンクにおいては、このタイヤ2のトレッド4の端の部分S(ショルダー領域)が主に路面と接触する。このタイヤ2において、クラウン領域Cとショルダー領域Sとの間の領域Mはミドル領域とも称される。
【0028】
本明細書においては、後述する赤道面からトレッド面20の端TEまでの軸方向距離を3等分して特定される3つの領域のうち、赤道面側の領域がクラウン領域Cであり、トレッド面20の端の側の領域がショルダー領域Sであり、このクラウン領域Cとショルダー領域Sとの間がミドル領域Mである。
【0029】
図1において、両矢印WTは赤道面からトレッド面20の端TEまでの軸方向距離である。この距離WTは、トレッド面20の軸方向幅の半分である。本発明においては、トレッド面20の軸方向幅がトレッド4の幅である。このタイヤ2では、このトレッド面20の端TEはこのタイヤ2の軸方向外側端でもある。前述の距離WTの2倍は、このタイヤ2の断面幅(JATMA規格等参照)である。
【0030】
図1において、符号PEは、このタイヤ2の半径方向外側端である。この外側端PEは、このタイヤ2の赤道とも称される。両矢印Hは、トレッド面20の端TEから外側端PEまでの半径方向距離である。
【0031】
前述したように、このタイヤ2は二輪自動車に装着されるため、トレッド面20の輪郭は大きく湾曲している。この湾曲の程度(言い換えれば、偏平比)を、このタイヤ2の断面幅に対する距離Hの比で表した場合、このタイヤ2では、この比は0.20以上0.45以下の範囲で設定される。
【0032】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端から半径方向略内向きに延びている。このサイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。
【0033】
それぞれのウィング8は、トレッド4とサイドウォール6との間に位置している。ウィング8は、トレッド4及びサイドウォール6のそれぞれと接合している。ウィング8は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。
【0034】
それぞれのビード10は、サイドウォール6よりも半径方向内側に位置している。ビード10は、コア24と、エイペックス26とを備えている。コア24はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス26は、コア24から半径方向外向きに延びている。エイペックス26は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス26は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0035】
カーカス12は、カーカスプライ28を備えている。このタイヤ2では、カーカス12は1枚のカーカスプライ28からなる。カーカスプライ28は、両側のビード10の間に架け渡されており、トレッド4及びサイドウォール6に沿っている。カーカスプライ28は、コア24の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。このカーカス12が、2枚以上のカーカスプライ28から構成されてもよい。
【0036】
図示されていないが、カーカスプライ28は、並列された多数のカーカスコードとトッピングゴムとからなる。それぞれのカーカスコードが赤道面に対してなす角度の絶対値は、75°から90°である。換言すれば、このカーカス12はラジアル構造を有する。カーカスコードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0037】
インナーライナー14は、カーカス12の内側に位置している。インナーライナー14は、カーカス12の内面に接合されている。インナーライナー14は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー14の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー14は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0038】
それぞれのチェーファー16は、ビード10の近傍に位置している。タイヤ2がリム(図示されず)に組み込まれると、このチェーファー16がリムと当接する。この当接により、ビード10の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー16は、布とこの布に含浸したゴムとからなる。架橋ゴムからなるチェーファー16が採用されてもよい。
【0039】
バンド18は、トレッド4の半径方向内側に位置している。このバンド18は、半径方向において、トレッド4とカーカス12との間に位置している。このタイヤ2では、他の部材を介在させることなくバンド18はカーカス12と積層されている。バンド18は、トレッド面20の一方の端TEの側からその他方の端TEの側まで、カーカス12に沿って連続して延在している。このバンド18の軸方向幅は、トレッド4の幅よりも小さい。
【0040】
図2には、帯状プライ30が示されている。この帯状プライ30はコード32を含んでおり、コード32はトッピングゴム34で覆われている。この帯状プライ30は、3本のコード32を含んでいる。この帯状プライ30に含まれるコード32の本数は1本でもよく、2本でもよい。この帯状プライ30が、4本以上のコード32を含んでもよい。この帯状プライ30に含まれるコード32の本数は、タイヤ2の仕様、生産性等が考慮され、適宜決められる。なお、この帯状プライ30が複数本のコード32を含む場合には、図2に示されているように、これらのコード32は帯状プライ30の幅方向に並列される。
【0041】
このタイヤ2では、図2に示された帯状プライ30を用いてバンド18は形成される。バンド18は、コード32とトッピングゴム34とからなる。後述するが、バンド18は帯状プライ30を螺旋巻きすることで構成される。このバンド18に含まれるコード32は、螺旋状に巻かれている。言い換えれば、このバンド18は螺旋状に巻回されたコード32を含んでいる。このバンド18は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コード32は、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコード32の角度は、5°以下、さらには2°以下である。
【0042】
図1に示されているように、このタイヤ2のバンド18はセンター部36と一対のサイド部38とを備えている。詳細には、このバンド18はセンター部36と一対のサイド部38とからなる。センター部36は、バンド18の軸方向中心部分に位置している。それぞれのサイド部38は、軸方向において、センター部36の外側に位置している。この図1において、符号CSはセンター部36とサイド部38との境界を表している。
【0043】
このタイヤ2では、センター部36及びサイド部38のそれぞれはコード32を含んでいる。このタイヤ2では、センター部36におけるコード32の初期伸びはサイド部38におけるコード32の初期伸びよりも大きい。言い換えれば、センター部36においては、大きな初期伸びを有するコード32が螺旋状に巻かれており、サイド部38においては、小さな初期伸びを有するコード32が螺旋状に巻かれている。このタイヤ2では、一方のサイド部38に含まれるコード32の初期伸びは、他方のサイド部38に含まれるコード32の初期伸びと同等である。
【0044】
本発明においては、コード32の初期伸びは、市販の引張試験機を用いて「JIS G3510」に準拠して、コード32の引張試験を行い特定される。具体的には、タイヤ2のバンド18から採取されたコード32について、下記の測定条件で引張試験を行って得られる、荷重が5Nから50Nまで変位したときの伸びの変位量が、初期伸びとして計測されている。
つかみ間隔:250mm
引張速度:50mm/min
測定温度:23℃
【0045】
図1に示されたタイヤ2は、次のようにして製造される。このタイヤ2の製造では、複数のゴム部材がアッセンブリーされて、ローカバー(未加硫状態のタイヤ2)が得られる。このローカバーが、モールド(図示されず)に投入される。ローカバーの外面は、モールドのキャビティ面と当接する。ローカバーの内面は、ブラダー又は剛体コア(中子とも称される。)に当接する。ローカバーは、モールド内で加圧及び加熱される。加圧及び加熱により、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が得られる。
【0046】
前述したように、このタイヤ2のバンド18は帯状プライ30を螺旋巻きすることで形成される。この形成の様子が、図3に示されている。この図3には、バンド18の形成に用いる装置40(以下、フォーマーと称される。)の大要も示されている。このフォーマー40は、ボビン42と、ドラム44とを備えている。ボビン42は、矢印RBで示された方向に回転するように構成されている。このフォーマー40では、ボビン42の回転速度は図示されない手段により調整される。このボビン42には、帯状プライ30が巻かれている。ドラム44は、矢印RDで示された方向に回転するように構成されている。このフォーマー40では、ドラム44の回転速度は図示されない手段により調整される。このドラム44においては、カーカスプライ28等のゴム部材のアッセンブリーが行われる。
【0047】
このタイヤ2の製造では、ドラム44において筒状のカーカスプライ28が形成されると、ボビン42にストックされている帯状プライ30がこのドラム44に送り出される。帯状プライ30は、カーカスプライ28上に巻回される。このタイヤ2の製造では、ドラム44は一定の速度で回転させられる。ボビン42の回転速度を調整することで、帯状プライ30に作用する荷重がコントロールされる。このタイヤ2の製造では、荷重を作用させることで、帯状プライ30にはテンションがかけられる。このテンションは、帯状プライ30に含まれるコード32の初期伸びに影響する。大きなテンション、すなわち、大きな荷重は、小さな初期伸びをコード32に招来する。小さなテンション、すなわち、小さな荷重は、大きな初期伸びをコード32に招来する。
【0048】
このタイヤ2の製造では、一方のバンド18の端46に相当する位置から他方のバンド18の端46に相当する位置まで、一本の帯状プライ30を巻回すことでバンド18は形成される。詳細には、一方のバンド18の端46に相当する位置から一方のサイド部38とセンター部36との境界CSに相当する位置まで、大きな荷重を帯状プライ30に作用させながら、帯状プライ30は巻回される。これにより、小さな初期伸びを有するコード32を含む一方のサイド部38が得られる。さらに、この境界CSに相当する位置からセンター部36と他方のセンター部36との境界CSに相当する位置まで、小さな荷重を帯状プライ30に作用させながら、帯状プライ30は巻回される。これにより、大きな初期伸びを有するコード32を含むセンター部36が得られる。そして、この境界CSに相当する位置から他方のバンド18の端46に相当する位置まで、大きな荷重を帯状プライ30に作用させながら、帯状プライ30は巻回される。これにより、小さな初期伸びを有するコード32を含む他方のサイド部38が得られる。このタイヤ2の製造では、巻始めから巻終わりまで帯状プライ30にテンションをかけながらこの帯状プライ30を巻回すことで、バンド18が形成される。
【0049】
図1において、両矢印WCは赤道面からセンター部36とサイド部38との境界CSまでの軸方向距離を表している。この距離WCは、センター部36の軸方向幅(以下、センター部36の幅)の半分である。両矢印WBは、赤道面からバンド18の端46までの軸方向距離を表している。この距離WBは、バンド18の軸方向幅(バンド18の幅)の半分である。
【0050】
このタイヤ2では、バンド18の幅がトレッド4の幅を考慮して適切に設定されている。具体的には、このタイヤ2では、距離WTに対する距離WBの比率、すなわち、トレッド4の幅に対するバンド18の幅の比率は50%以上である。言い換えれば、バンド18の幅はトレッド4の幅の50%以上である。タイヤ2のトレッド4の部分において、このバンド18は剛性に寄与する。このバンド18は、走行時にタイヤ2に作用する遠心力の影響を抑える。このタイヤ2は、高速耐久性に優れる。バンド18の端46がトレッド面20の端TEに近接すると、タイヤ2のショルダー領域S、詳細には、トレッド面20の端TEの部分が硬くなりすぎて、乗り心地や、旋回時の安定性が損なわれる恐れがある。乗り心地及び旋回時の安定性の観点から、トレッド4の幅に対するバンド18の幅の比率は90%以下が好ましい。この場合、バンド18は、その幅が小さいため、タイヤ2の軽量化にも寄与する。
【0051】
このタイヤ2では、センター部36においてはコード32が大きな初期伸びを有し、サイド部38においてはコード32が小さな初期伸びを有するように、バンド18は構成されている。このバンド18では、ローカバーを加圧及び加熱してタイヤ2を得るとき、モールド内でバンド18に作用する力によってミドル領域Mにおけるコード32がショルダー領域Sに寄せられることが、効果的に抑えられる。このバンド18によれば、ミドル領域Mの剛性が適切に維持される。
【0052】
特に、このタイヤ2では、距離WBに対する距離WCの比率、すなわち、バンド18の幅に対するセンター部36の幅の比率は70%以下である。このタイヤ2では、センター部36の幅がバンド18の幅の70%以下に設定されているので、このバンド18を有するタイヤ2ではミドル領域Mの剛性がより適切に維持される。
【0053】
このタイヤ2では、バンド18のセンター部36におけるコード32はサイド部38におけるコード32の初期伸びよりも大きな初期伸びを有している。このため、センター部36の剛性はサイド部38の剛性に比して低い。剛性が低いセンター部36は、直進時の乗り心地に寄与する。直進時において良好な乗り心地が得られるとの観点から、バンド18の幅に対するセンター部36の幅の比率は10%以上が好ましい。
【0054】
このタイヤ2の製造では、帯状プライ30に作用させる荷重を調整しながらこの帯状プライ30にかけられるテンションをコントロールしながら、この帯状プライ30を螺旋巻きすることで、バンド18は形成されている。
【0055】
このタイヤ2の製造では、帯状プライ30に作用させる荷重は、帯状プライ30に含まれるコード32、1本あたり、5.0Nから40.0Nの範囲でコントロールされている。このコントロールにより、センター部36におけるコード32が0.2%以上1.0%以下の初期伸びを有し、サイド部38におけるコード32が0.1%以上0.9%以下の初期伸びを有するように、バンド18が構成されている。つまり、このバンド18を有するタイヤ2では、センター部36におけるコード32の初期伸びがサイド部38におけるコード32の初期伸びよりも単に大きいだけでなく、センター部36におけるコード32の初期伸びが0.2%以上1.0%以下であり、サイド部38におけるコード32の初期伸びが0.1%以上0.9%以下である。このタイヤ2では、センター部36の幅がバンド18の幅の70%以下に設定されるとともに、センター部36及びサイド部38のそれぞれにおいて、コード32の初期伸びが精密にコントロールされている。このタイヤ2のバンド18によれば、ミドル領域Mの剛性がより適切に維持される。ミドル領域Mの剛性の観点から、センター部36におけるコード32の初期伸びは0.40%以上がより好ましく、1.00%以下がより好ましい。サイド部38におけるコード32の初期伸びは0.10%以上がより好ましく、0.60%以下がより好ましい。
【0056】
このタイヤ2では、バンド18によりミドル領域Mの剛性がより適切に維持されるので、バックリングの発生が防止される。トレッド4が十分に路面と接触できるので、このタイヤ2は旋回時の安定性及び過渡特性に優れる。言い換えれば、このタイヤ2では、旋回時の安定性及び過渡特性の向上が達成される。本発明によれば、旋回時の安定性及び過渡特性の向上が達成された空気入りタイヤ2が得られる。
【0057】
前述したように、サイド部38の剛性に比して剛性が低いセンター部36は、直進時の乗り心地に寄与する。このタイヤ2では、旋回時の安定性及び過渡特性が向上するだけでなく、直進時の乗り心地が良好に維持される。本発明によれば、良好な直進時の乗り心地の維持を図りながら、旋回時の安定性及び過渡特性の向上が達成された空気入りタイヤ2が得られる。
【0058】
このタイヤ2では、バンド18のコード32に特に制限はない。このコード32に、有機繊維からなるコードが用いられてもよい。このコード32に、スチールコードが用いられてもよい。バンド18の全体的な剛性の観点から、スチールコードが好ましい。言い換えれば、好ましいコード32の材質はスチールである。
【0059】
このタイヤ2では、バンド18のコード32としてスチールコードを用いる場合には、初期伸びのコントロールが容易との観点から、このコード32としては、複数本のフィラメントを撚り合わされて構成された撚り線が好ましい。この撚り線に含まれるフィラメントの本数には、特に、制限はないが、通常は、このフィラメントの本数は2本以上20本以下の範囲で、タイヤ2の仕様を考慮して適宜決められる。なお、バンド18のコード32の外径は、バンド18に用いるコード32の外径の範囲として一般的な範囲で設定される。そして、このコード32を撚り線で構成ずる場合のフィラメントの外径も、フィラメントの外径の範囲として一般的な範囲で設定される。
【0060】
前述したように、このタイヤ2では、センター部36におけるコード32の初期伸びがサイド部38におけるコード32の初期伸びよりも大きくなるようにバンド18が構成されている。これにより、このタイヤ2では、良好な直進時の乗り心地の維持を図りながら、旋回時の安定性及び過渡特性の向上が達成されている。直進時の乗り心地、旋回時の安定性及び過渡特性をバランス良く整えることができるとの観点から、センター部36におけるコード32の初期伸びとサイド部38におけるコード32の初期伸びとの差は、0.1%以上が好ましく、0.9%以下が好ましい。
【0061】
本発明では、特に、言及がない限り、タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リム(図示されず)に組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。
【0062】
本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0063】
本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0065】
[実施例1]
図1に示されたタイヤを製作した。このタイヤのサイズは、190/50ZR17である。この実施例1の諸元は、下記の表1に示される通りである。
【0066】
この実施例1では、トレッドの幅に対するバンドの幅の比率、すなわち、距離WTに対する距離WBの比率(WB/WT)は、90%であった。バンドの幅に対するセンター部の幅の比率、すなわち、距離WBに対する距離WCの比率(WC/WB)は40%であった。
【0067】
この実施例1では、コード1本あたり25Nの荷重SCを帯状プライに作用させながら、この帯状プライを螺旋巻きすることで、バンドのセンター部が形成された。コード1本あたり25Nの荷重SSを帯状プライに作用させながら、この帯状プライを螺旋巻きすることで、バンドのサイド部が形成された。センター部におけるコードの初期伸びFCは、0.60%であった。サイド部におけるコードの初期伸びFSは、0.50%であった。
【0068】
[実施例2及び比較例1]
荷重SC及び荷重SSを変えてバンドを形成し、初期伸びFC及び初期伸びFSを下記の表1に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1のタイヤを得た。
【0069】
[実施例3−4及び比較例2]
比率(WC/WB)を下記の表1に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例3−4及び比較例2のタイヤを得た。
【0070】
[実施例5−6及び8−10並びに比較例3及び6]
荷重SC及び荷重SSを変えてバンドを形成し、初期伸びFC及び初期伸びFSを下記の表2及び3に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例5−6及び比較例3のタイヤを得た。
【0071】
[実施例7及び比較例4]
荷重SSを変えてバンドを形成し、初期伸びFSを下記の表2に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例7及び比較例4のタイヤを得た。
【0072】
[比較例5]
荷重SCを変えてバンドを形成し、初期伸びFCを下記の表3に示される通りにした他は実施例1と同様にして、比較例5のタイヤを得た。
【0073】
[実施例12]
比率(WB/WT)を下記の表4に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例12のタイヤを得た。
【0074】
[実施例11及び13]
比率(WC/WB)を下記の表4に示される通りにした他は実施例12と同様にして、実施例11及び13のタイヤを得た。
【0075】
[実施例14及び16−17]
荷重SC及び荷重SSを変えてバンドを形成し、初期伸びFC及び初期伸びFSを下記の表4に示される通りにした他は実施例12と同様にして、実施例14及び16−17のタイヤを得た。
【0076】
[実施例15]
荷重SSを変えてバンドを形成し、初期伸びFSを下記の表4に示される通りにした他は実施例12と同様にして、実施例15のタイヤを得た。
【0077】
[実施例18及び比較例7]
比率(WB/WT)を下記の表5に示される通りにした他は実施例1と同様にして、実施例18及び比較例7のタイヤを得た。
【0078】
[比較例8]
荷重SSを変えてバンドを形成し、初期伸びFSを下記の表5に示される通りにした他は実施例18と同様にして、比較例8のタイヤを得た。
【0079】
[旋回時の安定性]
試作タイヤを排気量が1000ccであるスポーツタイプの二輪自動車の後輪に装着し、その内圧が290kPaとなるように空気を充填した。前輪には、市販のタイヤ(サイズ:120/70ZR17)を装着し、その内圧が250kPaとなるように空気を充填した。この二輪自動車を、その路面がアスファルトであるサーキットコース(旋回コースの曲率半径=400m)で走行させて、ライダーによる官能評価を行った。走行速度は、250km/hに設定された。評価項目は、旋回時の安定性である。この結果が、5.0点を満点とする指数で、下記表1から表5に示されている。数値が大きいほど旋回時の安定性に優れ好ましい。
【0080】
[乗り心地]
タイヤを正規リム(リムサイズ=17M/C×MT6.00)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を290kPaとした。このタイヤを、ドラム式走行試験機に装着し、15km/hの速度で半径が1.7mであるドラムの上を走行させた。走行面に突起(幅5cm×高さ5cm)を設け、タイヤにこの突起を乗り越えさせた。この乗り越えによってタイヤに生じる反力について、この反力が発生してから消失するまでの時間を計測した。この結果が、指数として、下記の表1から表5に示されている。数値が大きいほど乗り心地に優れ好ましい。
【0081】
[過渡特性]
試作タイヤを排気量が1000ccであるスポーツタイプの二輪自動車の後輪に装着し、その内圧が290kPaとなるように空気を充填した。前輪には、市販のタイヤ(サイズ:120/70ZR17)を装着し、その内圧が250kPaとなるように空気を充填した。この二輪自動車を、その路面がアスファルトであるサーキットコースで走行させて、ライダーによる官能評価を行った。80km/hの速度で車体をロールさせながら走行させ、過渡特性を評価した。この結果が、5.0点を満点とする指数で、下記表1から表5に示されている。数値が大きいほど過渡特性に優れ好ましい。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
【0086】
【表5】
【0087】
表1から表5に示されるように、実施例のタイヤでは、比較例のタイヤに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明されたバンドに関する技術は、種々のタイヤにも適用されうる。
【符号の説明】
【0089】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
10・・・ビード
12・・・カーカス
18・・・バンド
20・・・トレッド面
28・・・カーカスプライ
30・・・帯状プライ
32・・・コード
34・・・トッピングゴム
36・・・センター部
38・・・サイド部
40・・・装置(フォーマー)
42・・・ボビン
44・・・ドラム
46・・・バンド18の端
図1
図2
図3