(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848624
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】滞船見積り装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/08 20120101AFI20210315BHJP
B65G 61/00 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
G06Q10/08
B65G61/00 500
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-75150(P2017-75150)
(22)【出願日】2017年4月5日
(65)【公開番号】特開2018-180673(P2018-180673A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬和
(72)【発明者】
【氏名】原田 光一郎
(72)【発明者】
【氏名】三宅 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】笠間 一隆
【審査官】
貝塚 涼
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−36299(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0311393(US,A1)
【文献】
笹嶋博,ほか1名,船舶特性と埠頭特性を考慮した滞船現象に関する一考察,港湾技研資料,日本,運輸省港湾技術研究所,1973年12月,No.175,第1−30頁,URL,https://www.pari.go.jp/report_search/detail.php?id=197312017501
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
B65G 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を使用して納品先に対象物品を納品する際の滞船に関する指標を求める滞船見積り装置であって、
前記納品先における各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時を含む実績情報をデータベースから取り込む入力手段と、
前記実績情報の到着日時に基づいて、所定の第1確率密度関数に従って前記納品先での船舶の到着間隔の分布を計算し、前記納品先での単位日時あたりに到着する船舶の隻数である船舶到着率λを計算する第1の分布計算手段と、
前記実績情報の着岸日時及び離岸日時に基づいて、所定の第2確率密度関数に従って前記納品先での1隻あたりの荷降しに掛かる時間である荷役時間の分布を計算し、1隻あたりの荷役時間の平均値α、1隻あたりの荷役時間の標準偏差σ、前記納品先での船舶処理率(=1/α)μを計算する第2の分布計算手段と、
前記第1の分布計算手段で計算した船舶の到着間隔の分布を表すパラメータである前記船舶到着率λと、前記第2の分布計算手段で計算した1隻あたりの荷役時間の分布を表すパラメータである前記平均値α、前記標準偏差σ、前記船舶処理率μとを、待ち行列理論の式に代入することにより、前記納品先での1隻あたりの滞船時間Wを計算する1隻毎滞船時間計算手段と、
前記1隻毎滞船時間計算手段で計算した1隻あたりの滞船時間Wに基づいて、一定期間を対象として前記納品先で発生する滞船時間を求める指標計算手段と、
前記指標計算手段で求めた前記納品先で発生する滞船時間を出力する出力手段と、を備え、
前記指標計算手段は、前記一定期間での荷降し総量を一定として扱うことを特徴とする滞船見積り装置。
【請求項2】
前記待ち行列理論の式は、
W={λ/(μ・(μ−λ))}・{(1+(σ/α)2)/2}
であることを特徴とする請求項1に記載の滞船見積り装置。
【請求項3】
前記指標計算手段は、前記一定期間を対象として、1隻あたりの荷降し量と1隻あたりの滞船時間との関係、及び1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船時間との関係を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の滞船見積り装置。
【請求項4】
前記指標計算手段は、単位時間あたりの滞船料の情報を用いて、前記一定期間を対象として、1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船料との関係を求めることを特徴とする請求項3に記載の滞船見積り装置。
【請求項5】
前記単位時間あたりの滞船料の情報は、船舶型別に設定されることを特徴とする請求項4に記載の滞船見積り装置。
【請求項6】
前記指標計算手段は、前記荷降し総量を、前記第1の分布計算手段で計算した船舶の到着間隔の分布から求められる前記納品先での1日あたりに到着する船舶の隻数と、1隻あたりの荷降し量とを用いて表わすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の滞船見積り装置。
【請求項7】
前記指標計算手段は、入港準備時間及び段取り時間のうち少なくともいずれか一方を含む実荷降し外時間を、船舶の着岸から離岸までに掛かる時間から差し引いた値を、1隻あたりの荷役時間とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の滞船見積り装置。
【請求項8】
前記実荷降し外時間を定数とすることを特徴とする請求項7に記載の滞船見積り装置。
【請求項9】
船舶を使用して納品先に対象物品を納品する際の滞船に関する指標を求める滞船見積り方法であって、
入力手段が、前記納品先における各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時を含む実績情報をデータベースから取り込む入力手順と、
第1の分布計算手段が、前記実績情報の到着日時に基づいて、所定の第1確率密度関数に従って前記納品先での船舶の到着間隔の分布を計算し、前記納品先での単位日時あたりに到着する船舶の隻数である船舶到着率λを計算する第1の分布計算手順と、
第2の分布計算手段が、前記実績情報の着岸日時及び離岸日時に基づいて、所定の第2確率密度関数に従って前記納品先での1隻あたりの荷降しに掛かる時間である荷役時間の分布を計算し、1隻あたりの荷役時間の平均値α、1隻あたりの荷役時間の標準偏差σ、前記納品先での船舶処理率(=1/α)μを計算する第2の分布計算手順と、
1隻毎滞船時間計算手段が、前記第1の分布計算手順で計算した船舶の到着間隔の分布を表すパラメータである前記船舶到着率λと、前記第2の分布計算手順で計算した1隻あたりの荷役時間の分布を表すパラメータである前記平均値α、前記標準偏差σ、前記船舶処理率μとを、待ち行列理論の式に代入することにより、前記納品先での1隻あたりの滞船時間Wを計算する1隻毎滞船時間計算手順と、
指標計算手段が、前記1隻毎滞船時間計算手順で計算した1隻あたりの滞船時間Wに基づいて、一定期間を対象として前記納品先で発生する滞船時間を求める指標計算手順と、
出力手段が、前記指標計算手順で求めた前記納品先で発生する滞船時間を出力する出力手順と、を有し、
前記指標計算手順では、前記一定期間での荷降し総量を一定として扱うことを特徴とする滞船見積り方法。
【請求項10】
船舶を使用して納品先に対象物品を納品する際の滞船に関する指標を求めるためのプログラムであって、
前記納品先における各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時を含む実績情報をデータベースから取り込む入力手段と、
前記実績情報の到着日時に基づいて、所定の第1確率密度関数に従って前記納品先での船舶の到着間隔の分布を計算し、前記納品先での単位日時あたりに到着する船舶の隻数である船舶到着率λを計算する第1の分布計算手段と、
前記実績情報の着岸日時及び離岸日時に基づいて、所定の第2確率密度関数に従って前記納品先での1隻あたりの荷降しに掛かる時間である荷役時間の分布を計算し、1隻あたりの荷役時間の平均値α、1隻あたりの荷役時間の標準偏差σ、前記納品先での船舶処理率(=1/α)μを計算する第2の分布計算手段と、
前記第1の分布計算手段で計算した船舶の到着間隔の分布を表すパラメータである前記船舶到着率λと、前記第2の分布計算手段で計算した1隻あたりの荷役時間の分布を表すパラメータである前記平均値α、前記標準偏差σ、前記船舶処理率μとを、待ち行列理論の式に代入することにより、前記納品先での1隻あたりの滞船時間Wを計算する1隻毎滞船時間計算手段と、
前記1隻毎滞船時間計算手段で計算した1隻あたりの滞船時間Wに基づいて、一定期間を対象として前記納品先で発生する滞船時間を求める指標計算手段と、
前記指標計算手段で求めた前記納品先で発生する滞船時間を出力する出力手段と、してコンピュータを機能させ、
前記指標計算手段は、前記一定期間での荷降し総量を一定として扱うことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を使用して、工場、商業施設、在庫拠点等に原料、材料、製品、商品等を納品する際の滞船に関する指標を求めるのに利用して好適な滞船見積り装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大量の原料、材料、製品、商品等の物品を取り扱う産業分野や商業分野では、輸送費用を抑えるため、或いは海外から輸送するために、輸送手段として船舶を使用して、工場、商業施設、在庫拠点等に納品することが行われている。
例えば鉄鋼メーカ、化学メーカ、石油メーカ等では、鉄鉱石、石炭、石油、ガス等を、国外に存在する生産拠点(オーストラリア、ブラジル、アメリカ等の地域)から、大型の船舶を使用して、国内の工場、商業施設、在庫拠点等に輸送する。
【0003】
ここで、船舶を使用するときの輸送費用としては、船舶を雇う費用に加えて、船舶の滞船及び輸送量に応じて掛かる費用である滞船料が発生する。滞船とは、荷降しをするとき以外の待機している状態をいう。
滞船は、次のような理由で発生する。例えば船舶から荷降しするため着岸する必要があるが、岸壁の数は限られているため、多数の船舶が一度に到着すると、すぐに着岸できないことがあり、滞船の要因となる。また、船舶が着岸した後に、積載している物品を荷降しすることになるが、荷降しする物品量に応じて、荷降し時間が増大することになるため、荷降しする物品量が荷降し能力に比較して大き過ぎても、次の船舶を待たせることとなり、滞船の要因となる。更には、出荷を行う港湾、鉄道等の輸送施設として公共の施設を使用する場合や、複数企業に出荷を行うため、各企業との取引状況により、企業間の優先等様々な経済情勢が生じるような場合、予定通りに出荷されずに大幅に変動する事態が頻発して、滞船の要因になる。加えて、船舶は出荷元と工場、商業施設、在庫拠点等とを往復する場合が多く、一旦予定通りの運航ができない場合には、後々までその影響が波及する場合もあり、船舶の到着が予定から大幅に変動して、滞船の要因となる。
【0004】
滞船を解消するには、物品量を適正化する、或いは荷降し能力を増強することが考えられる。しかしながら、物品量を適正化することは在庫の持ち方や船舶の大きさにも影響を与え、また、荷降し能力の増強を図るには大きな投資が必要となる。そのため、滞船に関する指標として例えば滞船料を見積り、適切な滞船料の削減措置を検討することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−105825号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「確率モデル入門」(尾崎俊治著)(1996年5月初版 朝倉書店)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、長期の原料輸送配船計画を立案する配船計画立案装置と、短期の原料輸送配船計画を作成する配船計画調整装置と、各工場の工場別原料輸送配船計画を調整する工場別荷役調整装置とを備え、工場別荷役調整装置が短期の原料輸送配船計画に基づいて工場別原料輸送配船計画を修正し、配船計画調整装置が修正された工場別原料輸送配船計画に基づいて短期の原料輸送配船計画を修正し、これらの処理を繰り返して短期の原料配船計画を立案する原料輸送配船計画システム及び原料配船立案方法が開示されている。
【0008】
また、非特許文献1には、待ち行列理論について開示されており、平均待ち時間が、単位時間に到着する顧客の数(到着率)と単位時間に顧客を処理する数(処理率)から求められることが示されている。
【0009】
特許文献1には、配船スケジュールに基づいて、各船の早出料や予定期間を超えた場合の滞船料を計算することが開示されている。しかしながら、特定の具体的な配船スケジュールの一ケース、すなわちある一断面において、その一断面に対して与えられた配船スケジュールに基づいて滞船料の計算を行っているに過ぎず、対象となる港湾の配船の傾向や荷降し能力から、滞船料が統計的にどのような傾向を示すのかを計算するものではない。例えば1ヶ月経過した後に、配船スケジュールの先の配船スケジュールを立てた場合では、ヤードにある銘柄毎の在庫量が大きく異なる等で、配船スケジュールは前回の配船スケジュールとは全く異なったものとなるが、このように変化するケースまで考慮して考えられたものではない。1日経過する毎に配船スケジュールを与え、繰り返し上記処理を実行することで統計的に滞船料を計算することも可能であるが、膨大な労力が掛かるばかりではなく、全ての統計的な状況を考慮したとは言い難い。
【0010】
また、非特許文献1に示された待ち行列理論では、顧客が持つ属性が検討されておらず、到着率と処理率は独立に検討されている。しかしながら、船舶による輸送では、工場、商業施設、在庫拠点等での操業を安定的に行うため、一定期間ではある程度一定量を輸送することが想定され、船舶の持つ属性である荷降し量が大きい程、一度に輸送する量が多くなることから、船舶の到着率は小さく、逆に荷降し量が小さい程、船舶の到着率は大きくなる。一方、荷降し量が大きい程、荷役に掛かる時間は長く、逆に荷降し量が小さい程、荷役に掛かる時間は短くなる。このように到着率と荷降し量、荷降し量と処理率には相関関係があり、このため到着率と処理率にも相関関係が存在する。非特許文献1では、この相関関係については議論されていない。加えて、待ち行列理論では顧客一人あたりの待ち時間の平均、待ちの長さの平均が求められているが、企業活動において費用を考える上で必要となる例えば月、年といった一定期間を対象として発生する待ち時間合計やコストに関しても検討されていない。
【0011】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、待ち行列理論を適用するにあたり到着率と処理率の相関関係を考慮した上で、一定期間を対象とした滞船に関する指標を求められるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するための本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 船舶を使用して納品先に対象物品を納品する際の滞船に関する指標を求める滞船見積り装置であって、
前記納品先における各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時を含む実績情報をデータベースから取り込む入力手段と、
前記実績情報
の到着日時に基づいて、
所定の第1確率密度関数に従って前記納品先での船舶の到着間隔の分布を計算
し、前記納品先での単位日時あたりに到着する船舶の隻数である船舶到着率λを計算する第1の分布計算手段と、
前記実績情報
の着岸日時及び離岸日時に基づいて、
所定の第2確率密度関数に従って前記納品先での1隻あたりの荷降しに掛かる時間
である荷役時間の分布を計算
し、1隻あたりの荷役時間の平均値α、1隻あたりの荷役時間の標準偏差σ、前記納品先での船舶処理率(=1/α)μを計算する第2の分布計算手段と、
前記第1の分布計算手段で計算した船舶の到着間隔の分布
を表すパラメータである前記船舶到着率λと、前記第2の分布計算手段で計算した1隻あたりの
荷役時間の分布
を表すパラメータである前記平均値α、前記標準偏差σ、前記船舶処理率μと
を、待ち行列理論
の式に代入することにより、前記納品先での1隻あたりの滞船時間
Wを計算する1隻毎滞船時間計算手段と、
前記1隻毎滞船時間計算手段で計算した1隻あたりの滞船時間
Wに基づいて、一定期間を対象として前記納品先で発生する滞船時間を求める指標計算手段と
、
前記指標計算手段で求めた前記納品先で発生する滞船時間を出力する出力手段と、を備え、
前記指標計算手段は、前記一定期間での荷降し総量を一定として扱うことを特徴とする滞船見積り装置。
[2]
前記待ち行列理論の式は、
W={λ/(μ・(μ−λ))}・{(1+(σ/α)2)/2}
であることを特徴とする[1]に記載の滞船見積り装置。
[3] 前記指標計算手段は、前記一定期間を対象として、1隻あたりの荷降し量と1隻あたりの滞船時間との関係、及び1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船時間との関係を求めることを特徴とする[1]
又は[2]に記載の滞船見積り装置。
[4] 前記指標計算手段は、単位時間あたりの滞船料の情報を用いて、前記一定期間を対象として、1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船料との関係を求めることを特徴とする[
3]に記載の滞船見積り装置。
[5] 前記単位時間あたりの滞船料の情報は、船舶型別に設定されることを特徴とする[
4]に記載の滞船見積り装置。
[6] 前記指標計算手段は、前記荷降し総量を、前記第1の分布計算手段で計算した船舶の到着間隔の分布から求められる前記納品先での1日あたりに到着する船舶の隻数と、1隻あたりの荷降し量とを用いて表わすことを特徴とする[1]乃至[
5]のいずれか一つに記載の滞船見積り装置。
[7] 前記指標計算手段は、入港準備時間及び段取り時間のうち少なくともいずれか一方を含む実荷降し外時間を、船舶の着岸から離岸までに掛かる時間から差し引いた値を、1隻あたりの
荷役時間とすることを特徴とする[1]乃至[
6]のいずれか一つに記載の滞船見積り装置。
[8] 前記実荷降し外時間を定数とすることを特徴とする[
7]に記載の滞船見積り装置。
[9] 船舶を使用して納品先に対象物品を納品する際の滞船に関する指標を求める滞船見積り方法であって、
入力手段が、前記納品先における各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時を含む実績情報をデータベースから取り込む入力手順と、
第1の分布計算手段が、前記実績情報
の到着日時に基づいて、
所定の第1確率密度関数に従って前記納品先での船舶の到着間隔の分布を計算
し、前記納品先での単位日時あたりに到着する船舶の隻数である船舶到着率λを計算する第1の分布計算手順と、
第2の分布計算手段が、前記実績情報
の着岸日時及び離岸日時に基づいて、
所定の第2確率密度関数に従って前記納品先での1隻あたりの荷降しに掛かる時間
である荷役時間の分布を計算
し、1隻あたりの荷役時間の平均値α、1隻あたりの荷役時間の標準偏差σ、前記納品先での船舶処理率(=1/α)μを計算する第2の分布計算手順と、
1隻毎滞船時間計算手段が、前記第1の分布計算手順で計算した船舶の到着間隔の分布
を表すパラメータである前記船舶到着率λと、前記第2の分布計算手順で計算した1隻あたりの
荷役時間の分布
を表すパラメータである前記平均値α、前記標準偏差σ、前記船舶処理率μと
を、待ち行列理論
の式に代入することにより、前記納品先での1隻あたりの滞船時間
Wを計算する1隻毎滞船時間計算手順と、
指標計算手段が、前記1隻毎滞船時間計算手順で計算した1隻あたりの滞船時間
Wに基づいて、一定期間を対象として前記納品先で発生する滞船時間を求める指標計算手順と
、
出力手段が、前記指標計算手順で求めた前記納品先で発生する滞船時間を出力する出力手順と、を有し、
前記指標計算手順では、前記一定期間での荷降し総量を一定として扱うことを特徴とする滞船見積り方法。
[10] 船舶を使用して納品先に対象物品を納品する際の滞船に関する指標を求めるためのプログラムであって、
前記納品先における各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時を含む実績情報をデータベースから取り込む入力手段と、
前記実績情報
の到着日時に基づいて、
所定の第1確率密度関数に従って前記納品先での船舶の到着間隔の分布を計算
し、前記納品先での単位日時あたりに到着する船舶の隻数である船舶到着率λを計算する第1の分布計算手段と、
前記実績情報
の着岸日時及び離岸日時に基づいて、
所定の第2確率密度関数に従って前記納品先での1隻あたりの荷降しに掛かる時間
である荷役時間の分布を計算
し、1隻あたりの荷役時間の平均値α、1隻あたりの荷役時間の標準偏差σ、前記納品先での船舶処理率(=1/α)μを計算する第2の分布計算手段と、
前記第1の分布計算手段で計算した船舶の到着間隔の分布
を表すパラメータである前記船舶到着率λと、前記第2の分布計算手段で計算した1隻あたりの
荷役時間の分布
を表すパラメータである前記平均値α、前記標準偏差σ、前記船舶処理率μと
を、待ち行列理論
の式に代入することにより、前記納品先での1隻あたりの滞船時間
Wを計算する1隻毎滞船時間計算手段と、
前記1隻毎滞船時間計算手段で計算した1隻あたりの滞船時間
Wに基づいて、一定期間を対象として前記納品先で発生する滞船時間を求める指標計算手段と
、
前記指標計算手段で求めた前記納品先で発生する滞船時間を出力する出力手段と、してコンピュータを機能させ、
前記指標計算手段は、前記一定期間での荷降し総量を一定として扱うことを特徴とするプログラム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、実績情報に基づいて、納品先での船舶の到着間隔、及び1隻あたりの荷降しに掛かる時間の傾向を把握することにより、待ち行列理論を適用するにあたり到着率と処理率の相関関係を考慮して、一定期間を対象として納品先で発生する滞船時間、更には滞船料を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る滞船見積り装置の機能構成を示す図である。
【
図2】実施形態に係る滞船見積り装置による滞船見積り方法を示すフローチャートである。
【
図3】船舶の到着間隔の度数分布の一例を示す特性図である。
【
図4】1隻あたりの荷役時間の度数分布の一例を示す特性図である。
【
図5】1隻あたりの荷降し量と滞船時間との関係を示す特性図である。
【
図6】1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船料との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
本実施形態では、船舶を使用して、海外から対象物品として、鉄鉱石や石炭といった鉄鋼原料を輸送する場合を想定して説明する。
鉄鉱石や石炭を産出する国は、オーストラリア、ブラジル、アメリカ等多数存在し、各産出国においても複数の生産拠点が存在する。オーストラリアでは、出港してから1〜2週間程度で日本に到着するのに比べ、ブラジルの場合1.5ヶ月程度の日数を要し、そのリードタイムには大きな開きが存在する。また、国内を問わず多くの鉄鋼メーカが存在するため、産出国側の港湾は複数の鉄鋼メーカ向けの船舶が出荷作業に当たり、他社船舶の出港遅れ等の自社以外の影響を頻繁に受ける等、船舶の出港スケジュールの変動は大きい。
このように産出国の違いによるリードタイムに大きな開きがあり、かつ、産出国側の出港スケジュール変動が大きい一方で、納品先(工場、商業施設、在庫拠点等)では安定的な操業を行うために、荷降し量及び日毎の使用量の変動は少なく抑えられるような操業が実行される。
そこで、日毎の使用量の変動は大きくはないことに着目し、一定期間での荷降しについて考慮した場合、荷降しされる対象物品の総量(以下、荷降し総量と呼ぶ)は一定となると仮定し、この仮定の下で、例えば月、年といった一定期間を対象として納品先で発生する滞船料を求める。
【0016】
図1に、本実施形態に係る滞船見積り装置100の機能構成を示す。本実施形態では、船舶を使用して、ある納品先Aに対象物品を納品する際の滞船に関する指標として、一定期間を対象として納品先Aで発生する滞船時間、更には滞船料を求める。
200はデータベースであり、実績情報が蓄積、保存されている。実績情報には、納品先Aにおける各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時の実績情報を含む。
【0017】
101は入力部であり、データベース200から実績情報を取り込む。なお、データベース200に保存されている全期間の実績情報を取り込むようにしてもよいし、ユーザが指定した解析対象期間の実績情報を取り込むようにしてもよい。
【0018】
102は第1の分布計算手段である到着間隔分布計算部であり、入力部101で取り込んだ実績情報に基づいて、納品先Aでの船舶の到着間隔の分布を計算する。納品先Aでの船舶の到着間隔の分布は、所定の確率密度関数、本実施形態では後述するように指数分布の確率密度関数に従って計算する。
【0019】
103は第2の分布計算手段である荷役時間分布計算部であり、入力部101で取り込んだ実績情報に基づいて、納品先Aでの1隻あたりの荷降しに掛かる時間(以下、荷役時間と呼ぶ)の分布を計算する。納品先Aでの1隻あたりの荷役時間の分布は、所定の確率密度関数、本実施形態では後述するように正規分布の確率密度関数に従って計算する。
【0020】
104は1隻毎滞船時間計算手段である1隻毎滞船時間計算部であり、到着間隔分布計算部102で計算した船舶の到着間隔の分布と、荷役時間分布計算部103で計算した1隻あたりの荷役時間の分布とに基づいて、待ち行列理論を適用することにより、納品先Aでの1隻あたりの滞船時間を計算する。
【0021】
105は指標計算手段である滞船料計算部であり、1隻毎滞船時間計算部104で計算した1隻あたりの滞船時間に基づいて、一定期間を対象として納品先Aで発生する滞船時間、更には滞船料を求める。この場合に、滞船料計算部105は、既述したように、一定期間での荷降し総量を一定として扱う。本実施形態では、詳細は後述するが、一定期間を対象として納品先Aで発生する、1隻あたりの荷降し量と1隻あたりの滞船時間との関係、及び1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船時間との関係を求める。そして、滞船料計算部105は、船舶型別に設定されている単位時間あたりの滞船料の情報を用いて、一定期間を対象として納品先Aで発生する、1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船料との関係を求める。
【0022】
106は出力部であり、滞船料計算部105で求めた結果を出力する。出力とは、例えばディスプレイ108に結果を表示したり、本装置100の外部機器に結果を送出したりすることをいう。
【0023】
107はポインティングデバイスやキーボード等の入力装置、108はディスプレイである。
【0024】
図2は、実施形態に係る滞船見積り装置100による滞船見積り方法を示すフローチャートである。
ステップS1で、入力部101は、データベース200から実績情報を取り込む。本実施形態では、例えば過去10年分を解析対象期間として、納品先Aにおける各船舶の到着日時、着岸日時、離岸日時の実績情報を含む実績情報を取り込む。
【0025】
ステップS2で、到着間隔分布計算部102は、ステップS1において取り込んだ実績情報に基づいて、納品先Aでの船舶の到着間隔の分布を計算する。
図3に、船舶の到着間隔の度数分布の一例を示す。
図3の横軸は船舶の到着間隔(日)を、縦軸は割合を表わす。船舶の到着間隔は、既述したように積地出港の変動、生産拠点までのリードタイムの違いによる変動の影響が大きく、ランダム性を有することから、平均値1/λの指数分布を想定した(式1)で示す確率密度関数に良好な一致を示す。パラメータλは、最尤推定法等で求めることができる。
【0027】
ここでは、待ち行列理論を適用するために、納品先Aでの船舶到着率(1日あたりに到着する船舶の隻数)(隻/日)を計算する。平均値1/λは船舶の到着間隔であるので、その逆数λは船舶到着率(隻/日)となる。本実施形態では、船舶到着率λ(隻/日)は0.32となった。
【0028】
ステップS3で、荷役時間分布計算部103は、ステップS1において取り込んだ実績情報に基づいて、納品先Aでの1隻あたりの荷役時間の分布を計算する。
1隻あたりの荷役時間は、船舶の着岸(ETB:estimated time of berth)から離岸(ETD:estimated time of departure)までに掛かる時間として計算する。
図4に、1隻あたりの荷役時間の度数分布の一例を示す。
図4の横軸は1隻あたりの荷役時間(日/隻)を、縦軸は割合を表わす。荷降しに使用される設備が性能通りの能力を発揮しているので、1隻あたりの荷役時間の分布は、平均値α、標準偏差σの正規分布を想定した(式2)で示す確率密度関数に良好な一致を示す。平均値α、標準偏差σは、最尤推定法等で求めることができ、本実施形態では、平均値αは2.37、標準偏差σは1.21となった。
【0030】
ここでは、待ち行列理論を適用するために、納品先Aでの船舶処理率(1日あたりに処理される船舶の隻数)(隻/日)を計算する。平均値αの逆数が船舶処理率μ(隻/日)となる。本実施形態では、船舶処理率μ=1/α(隻/日)は0.42となった。
【0031】
ステップS4で、1隻毎滞船時間計算部104は、ステップS2において計算した船舶到着率λと、ステップS3において計算した平均値α、標準偏差σ、船舶処理率μとに基づいて、待ち行列理論を適用することにより、納品先Aでの1隻あたりの滞船時間を計算する。
到着が指数分布、処理(サービス)が正規分布、窓口が1の待ち行列で与えられ、1隻あたりの滞船時間(1隻あたりの平均待ち時間)W
q(日/隻)は、(式3)のポラツェック・ヒンチンの公式より計算することができる。本実施形態では、1隻あたりの滞船時間W
q(日/隻)は4.8となった。
【0033】
ステップS5で、滞船料計算部105は、ステップS4において計算した1隻あたりの滞船時間W
qに基づいて、一定期間を対象として納品先Aで発生する滞船時間を求める。
通常、納品先では安定的な操業を行うために、荷降し量及び日毎の使用量の変動は少なく抑えられるような操業が実行される。そのため、荷降し量と処理率には強い相関関係が存在し、一定期間での荷降しについて考慮した場合には、荷降し総量は一定になるとみなすことができる。そこで、荷降し総量は一定との仮定の下で、一定期間での荷降し総量の日割り分を定数としてunload(トン/日)と置くと、船舶到着率λ(隻/日)と、1隻あたりの荷降し量lot(トン/隻)とを用いて(式4)が成り立つ。
lot×λ=unload ・・・(式4)
【0034】
次に、1隻あたりの荷降し量lot(トン/隻)と船舶処理率μ(隻/日)との関係について検討を行う。船舶処理率μ(隻/日)は、1日あたりに処理される船舶の隻数であるので、その逆数1/μは1隻あたりの荷役時間(日/隻)となる。
ここで、荷降しの際にはターンタイム等の入港準備時間や段取り時間が掛かる。この時間(実荷降し外時間と呼ぶ)arrange(日/隻)はある程度決まった時間となるので、定数と考えることができる。このため、1隻あたりの実荷降し時間は、((1/μ)−arrange)となる。また、設備が性能通りの能力を発揮しているとして、荷降し能力ability(トン/日)は定数と考えることができる。以上より、(式5)が導かれる。
ability=lot/((1/μ)−arrange) ・・・(式5)
【0035】
(式3)に(式4)、(式5)を組み入れると、一定期間での荷降し総量が一定であると仮定した場合の1隻あたりの滞船時間(1隻あたりの平均待ち時間)W
qは、(式6)で与えられる。(式6)から、
図5の特性線501に示すように、1隻あたりの荷降し量lot(トン/隻)と、1隻あたりの滞船時間W
q(日/隻)との関係を求めることができる。
【0037】
また、1日あたりの滞船時間(1日あたりの平均待ち時間)W
q´(日/日)は、1隻あたりの滞船時間W
q(日/隻)と船舶到着率λ(隻/日)の積となり、(式7)で与えられる。したがって、
図5の特性線502に示すように、1隻あたりの荷降し量lot(トン/隻)と、1日あたりの滞船時間W
q´(日/日)との関係を求めることができる。
【0039】
本実施形態では、実測の結果であるunload=38,000(トン/日)、ability=57,000(トン/日)、arrange=5(hour/隻)=0.21(日/隻)を用いて検討を行った。また、σ/αは変動率であるが、荷降し量が変動したとしても処理の分布の形は大きな変動がないと仮定して、実績から得られた平均値αと標準偏差σを用いた。
図5の特性線501に示すように、1隻あたりの滞船時間が最も短くなるのは、荷降し量が60,000(トン/隻)辺りである。しかし、特性線502に示すように、一定期間で考えた場合には、待ち時間(ここでは1日あたりの滞船時間(日/日))は、1隻あたりの荷降し量lot(トン/隻)が大きくなる方が良い結果を示す。つまり、大型船舶にて輸送する方が、1日あたりの滞船時間が少なくなることを示している。
【0040】
ステップS6で、滞船料計算部105は、単位時間あたりの滞船料の情報を用いて、一定期間を対象として納品先Aで発生する滞船料を求める。
船舶はその積載可能量により、HANDY、PMAX、CAPE、VL等の船舶型に分類される。船舶は、一隻毎に単位時間滞船した場合に発生する滞船料が決まっているが、この滞船料は船舶型別に凡そ同程度の金額となる。ここでは、過去の実績の滞船料から、表1に従って、積載可能量に応じた船舶型1〜4に分類し、その平均を取得し、その船舶型の滞船料とした。
【0042】
船舶は、無駄な輸送を省くため、積載可能量に見合った量をほぼ満杯で輸送する。このため、1隻あたりの荷降し量と積載量は同じと仮定し、検討を行った。
図5で求めた1隻あたりの荷降し量と1日あたりの滞船時間との関係に、表1の船舶型別の滞船料を適用することで、
図6に示すように、1隻あたりの荷降し量lot(トン/隻)と1日あたりの滞船料(円/日)との関係を導出することができる。この例では、船舶型2(積載可能量:55以上120(千トン)未満)を使用して、積載可能量ほぼ満杯で輸送する場合に、一定期間を対象として納品先Aで発生する滞船料を抑えられることがわかる。
【0043】
ステップS7で、出力部106は、ステップS5やステップS6において求めた結果を出力する。
【0044】
以上述べたように、納品先Aでの船舶の到着間隔、及び1隻あたりの荷役時間の傾向を把握することにより、待ち行列理論を適用するにあたり到着率と処理率の相関関係を考慮して、一定期間を対象として納品先Aで発生する滞船時間、更には滞船料を求めることができる。これにより、適切な滞船料の削減措置を検討することが可能になる。
【0045】
本発明は、鉄鋼メーカにおける鉄鉱石や石炭に限らず、船舶を使用して、工場、商業施設、在庫拠点等の納品先に、原料、材料、製品、商品等の対象物品を納品する際に、船舶を待たせることにより発生する滞船時間や滞船料を見積もるのに適用される。例えば化学メーカや石油メーカおける原油、電力メーカにおけるLNGや石炭も、海外から船舶を使用して国内の納品先に輸送される。一般的な契約では、輸送された対象物品が国内の納品先で荷役される際には、基準となる荷役時間が規定されており、この基準となる時間を超過した際には、ペナルティーとして滞船及び輸送量に比例して滞船料を支払うこととなる。このため、納品先で発生する滞船時間や滞船料を求めるようにした本発明は、広く適用可能である。
【0046】
以上、本発明を実施形態と共に説明したが、上記実施形態は本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
本発明を適用した滞船見積り装置は、例えばCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータ装置により実現される。なお、
図1では滞船見積り装置100を一台の装置として図示したが、例えば複数台の装置により構成される形態でもかまわない。
また、本発明は、本発明の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。
【符号の説明】
【0047】
100:滞船見積り装置
101:入力部
102:到着間隔分布計算部
103:荷役時間分布計算部
104:1隻毎滞船時間計算部
105:滞船料計算部
106:出力部
107:入力装置
108:ディスプレイ
200:データベース