特許第6848639号(P6848639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000002
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000003
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000004
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000005
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000006
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000007
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000008
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000009
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000010
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000011
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000012
  • 特許6848639-一方向クラッチ装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848639
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】一方向クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20210315BHJP
   F16D 41/06 20060101ALI20210315BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20210315BHJP
   F16D 41/07 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   F16D41/08 Z
   F16D41/06 B
   F16D41/06 Z
   F16D41/067
   F16D41/07 B
   F16D41/07 Z
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-81062(P2017-81062)
(22)【出願日】2017年4月17日
(65)【公開番号】特開2018-179181(P2018-179181A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒 優也
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
(72)【発明者】
【氏名】小野 潤司
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−189877(JP,A)
【文献】 特開2005−306267(JP,A)
【文献】 特公昭47−009003(JP,B1)
【文献】 特開2011−025808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00−47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1クラッチと、第1クラッチと同軸に配置された第2クラッチとを備え、
第1クラッチは、第1外方部材と、第1外方部材の内径側に第1外方部材と同軸に配置された第1内方部材と、第1外方部材と第1内方部材との間に配置された複数個の第1ロック部材とを有し、
第1外方部材と第1内方部材とのうちの一方が、駆動源よりトルクが入力される入力側部材であり、第1外方部材と第1内方部材とのうちの他方が、被駆動部にトルク伝達可能に接続される出力側部材であり、
前記入力側部材が正転方向に回転しようとする場合にのみ、第1ロック部材が、前記入力側部材及び前記出力側部材と係合して、前記入力側部材から前記出力側部材へのトルク伝達が可能となり、
第2クラッチは、第2外方部材と、第2外方部材の内径側に第2外方部材と同軸に配置された第2内方部材と、第2外方部材と第2内方部材との間に配置された複数個の第2ロック部材とを有し、
第2外方部材と第2内方部材とのうちの一方が、使用時にも回転しない固定側部材であり、第2外方部材と第2内方部材とのうちの他方が、第1ロック部材に対して第1ロック部材と同期した回転を可能な状態で係合された回転側部材であり、
第2クラッチは、前記回転側部材が、前記正転方向と反対方向である逆転方向に回転しようとする場合に、第2ロック部材が、前記固定側部材及び前記回転側部材と係合して、前記回転側部材及び第1ロック部材の回転が阻止される
一方向クラッチ装置。
【請求項2】
第1ロック部材が、軸方向から見た形状が非円形で、前記入力側部材が前記正転方向に回転しようとする場合に、前記入力側部材と係合する入力側カム面と、前記出力側部材と係合する出力側カム面とを有している、スプラグである、
請求項1に記載の一方向クラッチ装置。
【請求項3】
第1ロック部材が第1係合部をさらに備え、前記回転側部材が第1係合部と凹凸係合する第2係合部をさらに備える、
請求項2に記載の一方向クラッチ装置。
【請求項4】
前記回転側部材が、該回転側部材が前記逆転方向に回転しようとする場合に、前記出力側カム面と係合する回転側周面を有する、
請求項2に記載の一方向クラッチ装置。
【請求項5】
前記回転側部材が、第1ロック部材を保持する保持器である、
請求項1又は2に記載の一方向クラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車の駆動装置や各種機械の動力伝達装置に組み込まれる一方向クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車の駆動装置では、運転者の足や腕によってクランクが回転されると、このクランクの回転が、ローラチェーンとスプロケットとを介して駆動輪に伝達される。競技用などを除き、一般的な自転車の駆動装置には、惰性走行時に、駆動輪の回転がクランクに伝達されて、このクランクが回転するのを防止するための一方向クラッチが組み込まれている。
【0003】
図12は、特開2015−158250号公報に記載の一方向クラッチの1例を示している。一方向クラッチ1は、スプラグ式の一方向クラッチであり、出力側部材である外方部材2と、入力側部材である内方部材3と、それぞれがロック部材である複数個のスプラグ4と、保持器5と、付勢ばね6とを備える。内方部材3は、外方部材2の内径側に、外方部材2と同軸に配置されている。スプラグ4は、外方部材2の内周面と内方部材3の外周面との間の円筒状空間の円周方向複数箇所に、保持器5により保持された状態で配置されている。付勢ばね6は、スプラグ4を、このスプラグ4が外方部材2の内周面及び内方部材3の外周面に対してかみ合う方向に付勢している。
【0004】
スプラグ式の一方向クラッチ1では、内方部材3が、図12に矢印Xで示す正転方向に回転すると、スプラグ4が図12に矢印αで示す方向に揺動し、スプラグ4が外方部材2の内周面及び内方部材3の外周面に対してかみ合ったロック状態となる。この結果、内方部材3から外方部材2へのトルクの伝達が可能となる。すなわち、外方部材2が、内方部材3と同期して正転方向Xに回転する。
【0005】
一方、内方部材3が、正転方向Xと反対方向であって、図12に矢印Xで示す逆転方向に回転すると、スプラグ4が図12に矢印αで示す方向に揺動し、外方部材2の内周面及び内方部材3の外周面に対するスプラグ4のかみ合いが外れたオーバラン状態となる。この結果、内方部材3から外方部材2へのトルクの伝達が不能となる。すなわち、内方部材3が、外方部材2に対して空転する。
【0006】
また、外方部材2が、正転方向Xに回転すると、スプラグ4が、矢印αの方向に揺動し、外方部材2の内周面及び内方部材3の外周面に対するスプラグ4のかみ合いが外れたオーバラン状態となる。この結果、外方部材2から内方部材3へのトルクの伝達が不能となる。すなわち、外方部材2は、内方部材3に対して空転する。
【0007】
このような一方向クラッチ1を自転車の駆動装置に組み込む場合には、クランクが内方部材3にトルク伝達を可能に接続され、駆動輪が外方部材2にトルク伝達を可能に接続される。この結果、クランクから駆動輪へは、自転車を前進させる方向の回転のみが伝達され、前方への惰性走行時にクランクが回転したり、前進時と逆方向にクランクを回転させた場合に、この回転が駆動輪に伝達されたりすることを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−158250号公報
【特許文献2】特開2014−20439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ただし、上述のような一方向クラッチ1では、外方部材2が、逆転方向Xに回転すると、スプラグ4が矢印αの方向に揺動され、スプラグ4が外方部材2の内周面及び内方部材3の外周面に対してかみ合ったロック状態となる。この結果、外方部材2から内方部材3へのトルクの伝達が可能な状態となる。すなわち、内方部材3は、外方部材2と同期して逆転方向Xに回転する。したがって、自転車を後方に押して後退させる際に、駆動輪からクランクへ回転が伝達されてしまう。自転車の後退時にクランクが回転すると、駐輪作業の邪魔になったり、クランクに支持されたペダルが運転者の足にぶつかったりする可能性がある。
【0010】
なお、例えば特開2014−20439号公報に記載された電磁式のツーウェイクラッチを使用すれば、出力側部材の回転方向にかかわらず、この出力側部材の回転が、入力側部材に伝達されることを防止できる。ただし、特開2014−20439号公報に記載されたツーウェイクラッチは、スプラグの係合状態を切り替えるため、外部電源が必要となる。
【0011】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、出力側部材の回転方向にかかわらず、この出力側部材の回転が、入力側部材に伝達されるのを防止できる一方向クラッチ装置を、外部電源を使用することなく実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一方向クラッチ装置は、第1クラッチと、第1クラッチと同軸に配置された第2クラッチとを備える。
第1クラッチは、第1外方部材と、第1外方部材の内径側に第1外方部材と同軸に配置された第1内方部材と、第1外方部材と第1内方部材との間に配置された複数個の第1ロック部材とを有する。
第1外方部材と第1内方部材とのうちの一方が、駆動源よりトルクが入力される入力側部材であり、第1外方部材と第1内方部材とのうちの他方が、被駆動部にトルク伝達可能に接続される出力側部材である。
前記入力側部材が正転方向に回転しようとする場合にのみ、第1ロック部材が、前記入力側部材及び前記出力側部材と係合して、前記入力側部材から前記出力側部材へのトルク伝達が可能となる。
第2クラッチは、第2外方部材と、第2外方部材の内径側に第2外方部材と同軸に配置された第2内方部材と、第2外方部材と第2内方部材との間に配置された複数個の第2ロック部材とを有する。
第2外方部材と第2内方部材とのうちの一方が、使用時にも回転しない固定側部材であり、第2外方部材と第2内方部材とのうちの他方が、第1ロック部材に対して第1ロック部材と同期した回転を可能な状態で係合された回転側部材である。
前記回転側部材が、前記正転方向と反対方向である逆転方向に回転しようとする場合に、第2ロック部材が、前記固定側部材及び前記回転側部材と係合して、前記回転側部材及び第1ロック部材の回転が阻止される。
【0013】
本発明を実施する場合には、第1ロック部材を、軸方向から見た形状が非円形のスプラグにより構成することができる。該スプラグは、前記入力側部材が前記正転方向に回転しようとする場合に、前記入力側部材と係合する入力側カム面と前記出力側部材と係合する出力側カム面とを有している。
【0014】
第1ロック部材がスプラグにより構成されている場合、第1ロック部材に第1係合部を設け、前記回転側部材に第2係合部を設けて、第1係合部と第2係合部とを凹凸係合させることができる。あるいは、前記回転側部材に、該回転側部材が前記逆転方向に回転しようとする場合に、前記出力側カム面と係合する回転側周面を設けることもできる。
【0015】
あるいは、本発明を実施する場合には、前記回転側部材を、第1ロック部材を保持する保持器により構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一方向クラッチ装置によれば、出力側部材の回転方向にかかわらず、この出力側部材の回転が、入力側部材に伝達されることを防止できる構造を、外部電源を使用することなく実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施の形態の第1例の一方向クラッチ装置を示す断面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例の一方向クラッチ装置を示す要部断面斜視図である。
図3図3は、図2から第1ロック部材を省略して示す断面斜視図である。
図4図4は、実施の形態の第1例における第1ロック部材の斜視図である。
図5図5は、図1のA−A断面図である。
図6図6は、図1のB−B断面図である。
図7図7は、実施の形態の第2例の一方向クラッチ装置を示す断面図である。
図8図8は、実施の形態の第3例を示す断面図である。
図9図9(A)は、第1クラッチをロック状態で示す断面図であり、図9(B)は、第1クラッチをオーバラン状態で示す断面図である。
図10図10(A)は、第2クラッチをロック状態で示す断面図であり、図10(B)は、第2クラッチをオーバラン状態で示す断面図である。
図11図11(A)は、別例の第2クラッチをロック状態で示す断面図であり、図11(B)は、別例の第2クラッチをオーバラン状態で示す断面図である。
図12図12は、従来構造の一方向クラッチの1例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1図6は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例の一方向クラッチ装置7は、第1クラッチ8と、第1クラッチ8と同軸に配置された第2クラッチ9とを備える。
【0019】
本例では、第1クラッチ8は、いわゆるスプラグ式で、第1外方部材10と、第1内方部材11と、複数個の第1ロック部材12とを備える。
【0020】
第1外方部材10は、略円筒状で、人やエンジン、モータなどの駆動源からのトルクが入力される入力側部材である。第1外方部材10は、軸方向片端部(図1の左端部)に、径方向内方に突出した第1内向フランジ部13を有している。第1外方部材10は、軸方向中間部内周面を、円筒状の第1外径側嵌合面部14とするとともに、軸方向他側部(図1の右側部)内周面を、第1外径側嵌合面部14と同軸で、かつ、この第1外径側嵌合面部14と同径の第1外径側円筒面部15としている。第1外方部材10の内周面のうち、第1外径側嵌合面部14と第1外径側円筒面部15との間には、係止溝16aが設けられている。一方、第1外方部材10の外周面は、軸方向にわたり外径が変化しない単一円筒面である。
【0021】
第1外方部材10は、支持軸受17と、第2クラッチ9を構成する第2外方部材30とを介して、一方向クラッチ装置7の使用時にも回転しない部分であるハウジング18に対し回転可能に支持されている。なお、本例では、支持軸受17として、ラジアルニードル軸受を使用しているが、玉軸受や円筒ころ軸受、円すいころ軸受などの各種転がり軸受、あるいは滑り軸受を使用することもできる。
【0022】
第1内方部材11は、略円筒状で、車輪などの被駆動部にトルク伝達可能に接続される出力側部材であり、第1外方部材10の内径側に、第1外方部材10と同軸に配置されている。第1内方部材11は、軸方向片端部に、径方向外方に突出した第1外向フランジ部19を有している。第1内方部材11は、軸方向中間部外周面を、円筒状の第1内径側嵌合面部20とするとともに、軸方向他側部外周面を、第1内径側嵌合面部20と同軸で、かつ、この第1内径側嵌合面部20と同径の第1内径側円筒面部21としている。第1内方部材11の内周面のうち、第1内径側嵌合面部20と第1内径側円筒面部21との間には、係止溝16bが設けられている。一方、第1内方部材11の内周面は、軸方向にわたり内径が変化しない単一円筒面である。
【0023】
第1内方部材11は、玉軸受である第1軸受22により、第1外方部材10の内径側に回転可能に支持されている。すなわち、第1軸受22の外輪23は、軸方向片端面を第1内向フランジ部13の軸方向他側面に突き当てた状態で、第1外径側嵌合面部14に締り嵌めで内嵌されている。さらに、係止溝16aに係止された係止リング24aにより、外輪23の軸方向他端面が抑え付けられている。一方、第1軸受22の内輪25は、軸方向片端面を第1外向フランジ部19の軸方向他側面に突き当てた状態で、第1内径側嵌合面部20に締り嵌めで外嵌されている。さらに、係止溝16bに係止された係止リング24bにより、内輪25の軸方向他端面が抑え付けられている。
【0024】
なお、第1軸受22としては、図示のような玉軸受に限らず、円筒ころ軸受や円すいころ軸受、ラジアルニードル軸受などの各種転がり軸受、あるいは滑り軸受を使用することもできる。
【0025】
第1内方部材11の軸方向寸法は、第1外方部材10の軸方向寸法よりも短くなっている。すなわち、第1内方部材11が第1外方部材10の内径側に、第1軸受22を介して回転自在に支持された状態では、第1外方部材10の軸方向他端部が、第1内方部材11の軸方向他端面よりも軸方向他方に突出している。
【0026】
第1ロック部材12は、軸方向から見た形状が瓢箪形のスプラグにより構成されている。第1ロック部材12は、径方向に関して互いに反対側となる2箇所位置に、入力側カム面26と出力側カム面27とを有している。入力側カム面26及び出力側カム面27の曲率半径は、第1ロック部材12の外周面の外接円の半径よりも小さくなっている。第1ロック部材12のうちで出力側カム面27の軸方向他側に隣接する部分には、第1内方部材11の径方向に関して、出力側カム面27よりも内方に突出した、第1係合部である凸部28が設けられている。本例では、凸部28の先端面は、部分円筒状の凸曲面となっている。
【0027】
第1ロック部材12は、第1外径側円筒面部15と第1内径側円筒面部21との間に存在する円筒状空間の円周方向複数箇所に、第1保持器29により揺動可能に保持された状態で配置されている。この状態で、第1ロック部材12は、入力側カム面26を第1外径側円筒面部15に対向させるとともに、出力側カム面27を第1内径側円筒面部21に対向させている。また、第1ロック部材12と第1保持器29との間には、図示しない付勢ばねが設けられている。付勢ばねは、第1ロック部材12を、第1ロック部材12が第1外方部材10の第1外径側円筒面部15及び第1内方部材11の第1内径側円筒面部21に対してかみ合う方向に付勢している。
【0028】
第2クラッチ9は、いわゆるスプラグ式で、第2外方部材30と、第2内方部材31と、複数個の第2ロック部材32とを備える。
【0029】
第2外方部材30は、略円筒状で、使用時にも回転しない固定側部材である。第2外方部材30は、軸方向他端部に径方向内方に突出した第2内向フランジ部33を有し、かつ、軸方向片側部に、軸方向中間部よりも内径が大きな大径段部34を有している。また、第2外方部材30は、軸方向他側部内周面を、円筒状の第2外径側嵌合面部35とするとともに、軸方向中間部内周面を、第2外径側嵌合面部35と同軸で、かつ、第2外径側嵌合面部35と同径の第2外径側円筒面部36としている。第2外方部材30の内周面のうち、第2外径側嵌合面部35と第2外径側円筒面部36との間には、係止溝16cが設けられている。一方、第2外方部材30の外周面は、軸方向にわたり外径が変化しない単一円筒面である。
【0030】
第2外方部材30は、ハウジング18に対し締り嵌めで内嵌固定されて、回転を阻止されている。また、第2外方部材30の大径段部34には、支持軸受17の外輪37が締り嵌めで内嵌されている。
【0031】
第2内方部材31は、略円筒状で、第1ロック部材12に対して、第1ロック部材12とともに回転可能な状態で係合された回転側部材であり、第2外方部材30の内径側にこの第2外方部材30と同軸に配置されている。第2内方部材31は、軸方向他端部に、径方向外方に突出した第2外向フランジ部38を有している。また、第2内方部材31は、軸方向中間部外周面を、円筒状の第2内径側嵌合面部39とするとともに、軸方向片側部外周面を、第2内径側嵌合面部39と同軸で、かつ、第2内径側嵌合面部39と同径の第2内径側円筒面部40としている。第2内方部材31の外周面のうち、第2内径側嵌合面部39と第2内径側円筒面部40との間には、係止溝16dが設けられている。また、第2内径側円筒面部40の軸方向片端部の円周方向等間隔複数箇所には、径方向内方に凹むとともに、第2内方部材31の軸方向片端面に開口した、第2係合部である凹部41が設けられている。本例では、凹部41の底面は、部分円筒状の凹曲面となっている。一方、第2内方部材31の内周面は、軸方向にわたり内径が変化しない単一円筒面である。
【0032】
第2内方部材31は、玉軸受である第2軸受42により、第2外方部材30の内径側に回転自在に支持されている。すなわち、第2軸受42の外輪43は、軸方向他端面を第2内向フランジ部33の軸方向片側面に突き当てた状態で、第2外径側嵌合面部35に締り嵌めで内嵌されている。さらに、係止溝16cに係止された係止リング24cにより、外輪43の軸方向片端面が抑え付けられている。一方、第2軸受42の内輪44は、軸方向他端面を第2外向フランジ部38の軸方向片側面に突き当てた状態で、第2内径側嵌合面部39に締り嵌めで内嵌されている。さらに、係止溝16dに係止された係止リング24dにより、内輪44の軸方向片端面が抑え付けられている。
【0033】
なお、第2軸受42としては、図示のような玉軸受に限らず、円筒ころ軸受や円すいころ軸受、ラジアルニードル軸受などの各種転がり軸受、あるいは滑り軸受を使用することもできる。
【0034】
本例では、第2内方部材31の凹部41は、第1ロック部材12の凸部28と凹凸係合している。これにより、第2内方部材31は、第1ロック部材12と同期して回転可能となっている。本例では、凸部28の先端面を部分円筒状の凸曲面とするとともに、凹部41の底面を部分円筒状の凹曲面としているので、第1ロック部材12の揺動が妨げられることはない。
【0035】
第2ロック部材32は、軸方向から見た形状が瓢箪形のスプラグにより構成されている。第2ロック部材32は、径方向に関して互いに反対側となる2箇所位置に、固定側カム面45と回転側カム面46とを有している。固定側カム面45及び回転側カム面46の曲率半径は、第2ロック部材32の外周面の外接円の半径よりも小さくなっている。
【0036】
第2ロック部材32は、第2外径側円筒面部36と第2内径側円筒面部40との間に存在する円筒状空間の円周方向複数箇所に、第2保持器47により揺動可能に保持された状態で配置されている。この状態で、第2ロック部材32は、固定側カム面45を第2外径側円筒面部36に対向させるとともに、回転側カム面46を第2内径側円筒面部40に対向させている。
【0037】
本例の一方向クラッチ装置7では、第1外方部材10に入力される正転方向Yのトルクのみが、第1外方部材10から第1内方部材11に伝達される。すなわち、第1外方部材10に、正転方向Yと反対方向である逆転方向Yのトルクが入力されたとしても、第1外方部材10は第1内方部材11に対して空転する。また、第1内方部材11にトルクが入力されたとしても、トルクの方向にかかわらず、第1内方部材11は第1外方部材10に対して空転する。以下、それぞれの場合の一方向クラッチ装置7の動作について説明する。
【0038】
[第1外方部材10に正転方向Yのトルクが入力された場合]
第1外方部材10に、図5及び図6に矢印Yで示す正転方向のトルクが入力され、第1外方部材10が正転方向Yに回転すると、第1ロック部材12が、図5に矢印βで示す方向に揺動する。この結果、第1クラッチ8は、第1ロック部材12が第1外方部材10の第1外径側円筒面部15及び第1内方部材11の第1内径側円筒面部21に対してかみ合ったロック状態となる。すなわち、第1ロック部材12の入力側カム面26が、第1外径側円筒面部15に対して強く押し付けられるとともに、第1ロック部材12の出力側カム面27が、第1内径側円筒面部21に対して強く押し付けられる。この結果、第1外方部材10から第1内方部材11へのトルクの伝達が可能となる。すなわち、第1クラッチ8を構成する第1外方部材10と第1内方部材11と第1ロック部材12とが一体となって、正転方向Yに回転する。
【0039】
なお、第1ロック部材12が正転方向Yに回転すると、凸部28と凹部41との係合に基づいて、第2クラッチ9の第2内方部材31が正転方向Yに回転する。第2内方部材31が正転方向Yに回転すると、第2ロック部材32が、図6に矢印γで示す方向に揺動する。この結果、第2クラッチ9は、第2外方部材30の第2外径側円筒面部36及び第2内方部材31の第2内径側円筒面部40に対する第2ロック部材32のかみ合いが外れたオーバラン状態となる。すなわち、第2ロック部材32の固定側カム面45と、第2外径側円筒面部36との当接圧が低下あるいは喪失するとともに、第2ロック部材32の回転側カム面46と、第2内径側円筒面部40との当接圧が低下あるいは喪失する。この結果、第2内方部材31は、第2外方部材30に対して空転する。したがって、第1クラッチ8の回転が妨げられることはない。
【0040】
[第1外方部材10に逆転方向Yのトルクが入力された場合]
第1外方部材10に、正転方向Yと反対方向であって、図5及び図6に矢印Yで示す逆転方向のトルクが入力され、第1外方部材10が逆転方向Yに回転すると、第1ロック部材12が、図5に矢印βで示す方向に揺動する。この結果、第1クラッチ8が、第1外方部材10の第1外径側円筒面部15及び第1内方部材11の第1内径側円筒面部21に対する第1ロック部材12のかみ合いが外れたオーバラン状態となる。すなわち、第1ロック部材12の入力側カム面26と、第1外径側円筒面部15との当接圧が低下あるいは喪失するとともに、第1ロック部材12の出力側カム面27と、第1内径側円筒面部21との当接圧が低下あるいは喪失する。この結果、第1外方部材10から第1内方部材11へのトルクの伝達が不能となる。すなわち、第1外方部材10は、第1内方部材11に対して空転する。
【0041】
[第1内方部材11に正転方向Yのトルクが入力された場合]
第1内方部材11に、正転方向Yのトルクが入力され、第1内方部材11が正転方向Yに回転すると、第1ロック部材12が矢印β方向に揺動する。この結果、第1クラッチ8が、第1外方部材10の第1外径側円筒面部15及び第1内方部材11の第1内径側円筒面部21に対する第1ロック部材12のかみ合いが外れたオーバラン状態となる。このため、第1内方部材11から第1外方部材10へのトルクの伝達が不能となる。
【0042】
[第1内方部材11に逆転方向Yのトルクが入力された場合]
第1内方部材11に、逆転方向Yのトルクが入力され、第1内方部材11が逆転方向Yに回転すると、第1ロック部材12が矢印β方向に揺動する。この結果、第1クラッチ8が、第1ロック部材12が第1外方部材10の第1外径側円筒面部15及び第1内方部材11の第1内径側円筒面部21に対しかみ合ったロック状態となり、第1外方部材10及び第1ロック部材12が、第1内方部材11とともに、逆転方向Yに回転しようとする。
【0043】
第1ロック部材12が逆転方向Yに回転すると、凸部28と凹部41との係合に基づいて、第2内方部材31が逆転方向Yに回転する。この結果、第2ロック部材32が、図6に矢印γで示す方向に揺動する。このため、第2クラッチ9が、第2ロック部材32が第2外方部材30の第2外径側円筒面部36及び第2内方部材31の第2内径側円筒面部40に対してかみ合ったロック状態となる。すなわち、第2ロック部材32の固定側カム面45が、第2外径側円筒面部36に対して強く押し付けられるとともに、第2ロック部材32の回転側カム面46が、第2内径側円筒面部40に対して強く押し付けられる。この結果、第2内方部材31が逆転方向Yにそれ以上回転することが阻止され、第2内方部材31に正転方向Yの反力が加わる。
【0044】
第2内方部材31に加わる正転方向Yの反力により、第1ロック部材12の凸部28が正転方向Yに押圧されると、第1ロック部材12に、第1ロック部材12を矢印β方向に揺動させるモーメント力が加わる。この結果、第1ロック部材12の入力側カム面26と、第1外径側円筒面部15との当接圧が低下あるいは喪失するとともに、第1ロック部材12の出力側カム面27と、第1内径側円筒面部21との当接圧が低下あるいは喪失する。これにより、第1クラッチ8のロック状態が解除される。この結果、第1内方部材11が、第1外方部材10に対して空転する。
【0045】
上述のように、本例の一方向クラッチ装置7によれば、出力側部材である第1内方部材11に入力されたトルクが、その方向にかかわらず、入力側部材である第1外方部材10に伝達されることを防止できる構造を、外部電源を使用することなく実現できる。したがって、例えば、本例の一方向クラッチ装置7を駆動装置に組み込んだ自転車の後退時にクランクが回転するのを防止できて、駐輪作業の邪魔になったり、クランクに支持されたペダルが運転者の足にぶつかったりすることを防止できる。
【0046】
本例では、第1外方部材10を入力側部材とし、第1内方部材11を出力側部材としたが、第1外方部材10を出力側部材とし、第1内方部材11を入力側部材とすることもできる。また、本例では、第2外方部材30を固定側部材とし、第2内方部材31を回転側部材としたが、第2外方部材30を回転側部材とし、第2内方部材31を固定側部材とすることもできる。
【0047】
また、本例では、回転側部材である第2内方部材31に設けられた凹部41と、第1ロック部材12に設けられた凸部28とを凹凸係合することにより、第2内方部材31が、第1ロック部材12とともに回転可能となっている。ただし、回転側部材に設けられた凸部と、第1ロック部材12に設けられた凹部とを凹凸係合させることもできる。この場合でも、凸部の先端面を部分円筒状の凸曲面とするとともに、凹部の底面を部分円筒状の凹曲面とする。
【0048】
[実施の形態の第2例]
図7は、本発明の第1実施形態の第2例を示している。本例の一方向クラッチ装置7aでは、第1クラッチ8aを構成する第1ロック部材12aのうちで第1内方部材11aの径方向に関する内側面に、出力側カム面27aが軸方向にわたって設けられている。すなわち、第1ロック部材12aは、実施の形態の第1例に係る第1ロック部材12のように、凸部28を備えていない。
【0049】
また、第2クラッチ9aを構成する第2内方部材31aの軸方向片端部外周面には、第1内方部材11aの第1内径側円筒面部21と同径の小径円筒面部48が設けられている。この小径円筒面部48に、第1ロック部材12aの出力側カム面27aの軸方向他端部を対向させている。すなわち、本例では、小径円筒面部48を回転側周面としている。
【0050】
本例の一方向クラッチ装置7aにおいても、第1外方部材10に入力される正転方向のトルクのみが、第1外方部材10から第1内方部材11aに伝達される。
【0051】
[第1外方部材10に正転方向のトルクが入力された場合]
第1外方部材10に正転方向のトルクが入力され、第1外方部材10が正転方向に回転すると、第1ロック部材12aが、第1クラッチ8aをロック状態とする方向に揺動する。第1クラッチ8aがロック状態になると、第1クラッチ8aを構成する第1外方部材10と第1内方部材11aと第1ロック部材12aとが一体となって、正転方向に回転する。
【0052】
なお、第1ロック部材12aが、第1クラッチ8aをロック状態とする方向に揺動すると、第1ロック部材12aの出力側カム面27aの軸方向他端部が、第2内方部材31aの小径円筒面部48に対して強く押し付けられる。すると、第2内方部材31aは、第1ロック部材12aとともに、正転方向に回転する。第2内方部材31aが正転方向に回転すると、第2ロック部材32が、第2クラッチ9aをオーバラン状態とする方向に揺動する。この結果、第2内方部材31aは、第2外方部材30に対して空転するので、第1クラッチ8aの回転が妨げられることはない。
【0053】
[第1外方部材10に逆転方向のトルクが入力された場合]
第1外方部材10に逆転方向のトルクが入力され、第1外方部材10が逆転方向に回転すると、第1ロック部材12aが、第1クラッチ8aをオーバラン状態とする方向に揺動する。第1クラッチ8aがオーバラン状態になると、第1外方部材10は、第1内方部材11aに対して空転する。
【0054】
[第1内方部材11aに正転方向のトルクが入力された場合]
第1内方部材11aに正転方向のトルクが入力され、第1内方部材11aが正転方向に回転すると、第1ロック部材12aが、第1クラッチ8aをオーバラン状態とする方向に揺動する。第1クラッチ8aがオーバラン状態になると、第1内方部材11aは、第1外方部材10に対して空転する。
【0055】
[第1内方部材11aに逆転方向のトルクが入力された場合]
第1内方部材11aに逆転方向のトルクが入力され、第1内方部材11aが逆転方向に回転すると、第1ロック部材12aが、第1クラッチ8aをロック状態とする方向に揺動する。この結果、第1ロック部材12aの出力側カム面27aの軸方向他端部が、第2内方部材31aの小径円筒面部48に対して強く押し付けられる。また、第1クラッチ8aがロック状態になると、第1外方部材10及び第1ロック部材12aが、第1内方部材11aとともに、逆転方向に回転しようとする。
【0056】
第1ロック部材12aの出力側カム面27aの軸方向他端部が、第2内方部材31aの小径円筒面部48に対して強く押し付けられた状態で、第1ロック部材12aが逆転方向に回転すると、第2内方部材31aが逆転方向に回転する。この結果、第2ロック部材32が、第2クラッチ9aをロック状態とする方向に揺動する。このため、第2内方部材31aが逆転方向にそれ以上回転することが阻止され、第2内方部材31aに正転方向の反力が加わる。
【0057】
第2内方部材31aに加わる正転方向の反力により、第1ロック部材12aに、第1クラッチ8aをオーバラン状態とする方向に第1ロック部材12aを揺動させるモーメント力が加わる。この結果、第1ロック部材12aの入力側カム面26と、第1外径側円筒面部15との当接圧が低下あるいは喪失するとともに、第1ロック部材12aの出力側カム面27aと、第1内径側円筒面部21との当接圧が低下あるいは喪失する。この結果、第1内方部材11aが、第1外方部材10に対して空転する。その他の部分の構成及び作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0058】
[実施の形態の第3例]
図8図10は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の一方向クラッチ装置7bでは、第1クラッチ8bを構成する第1ロック部材12bを揺動可能に保持するための第1保持器29aの軸方向他半部外周面に、第2ロック部材32aの回転側カム面46に対向する第2内径側円筒面部40が設けられている。要するに、第1保持器29aの軸方向他半部を、第2クラッチ9bを構成する第2内方部材31bとしている。
【0059】
本例では、第1保持器29aの径方向位置を、第1外方部材10aの内周面と第1内方部材11bの外周面との径方向中央位置よりも径方向内寄りとしている。
【0060】
なお、第1外方部材10aの軸方向片半部内周面には、外輪軌道52が直接設けられている。また、第1内方部材11bの軸方向片半部外周面には、内輪軌道53が直接設けられている。外輪軌道52と内輪軌道53との間の円周方向複数箇所に、転動体54を転動自在に配置することにより、第1軸受22aを構成している。第1軸受22aにより、第1外方部材10aの内径側に第1内方部材11bが回転可能に支持されている。ただし、実施の形態の第1例及び第2例と同様に、第1外方部材10aの内周面と第1内方部材11bの外周面との間に、外輪と内輪とを備える転がり軸受を設けることもできる。
【0061】
また、本例の一方向クラッチ装置7bでは、第2外方部材30bと第2内方部材31bとの間には、第2外方部材30bに対し第2内方部材31bを回転可能に支持するための軸受は設けられていない。ただし、必要に応じて、実施の形態の第1例及び第2例と同様に、第2外方部材30bと第2内方部材31bとの間に、転がり軸受や滑り軸受などの第2軸受を設けることもできる。
【0062】
本例の一方向クラッチ装置7bにおいても、第1外方部材10aに入力される正転方向のトルクのみが、第1外方部材10aから第1内方部材11bに伝達される。
【0063】
[第1外方部材10aに正転方向Yのトルクが入力された場合]
第1外方部材10aに正転方向Yのトルクが入力され、第1外方部材10aが正転方向Yに回転すると、第1ロック部材12bが、図9(B)に示す状態から図9(A)に示す状態に揺動して、第1クラッチ8bがロック状態となる。第1クラッチ8bがロック状態となると、第1クラッチ8bを構成する第1外方部材10aと第1内方部材11bと第1ロック部材12bとが一体となって、正転方向Yに回転する。
【0064】
なお、第1ロック部材12bが正転方向Yに回転するのに伴って、第1ロック部材12bを保持する第1保持器29aの軸方向他半部に設けられた第2内方部材31bが正転方向Yに回転すると、第2ロック部材32aが、図10(A)に示す状態から図10(B)に示す状態に揺動して、第2クラッチ9bがオーバラン状態となる。この結果、第1保持器29aは、第2外方部材30aに対して空転するので、第1クラッチ8bの回転が妨げられることはない。
【0065】
[第1外方部材10aに逆転方向Yのトルクが入力された場合]
第1外方部材10aに逆転方向Yのトルクが入力され、第1外方部材10aが逆転方向に回転すると、第1ロック部材12bが、図9(A)に示す状態から図9(B)に示す状態に揺動して、第1クラッチ8bがオーバラン状態となる。第1クラッチ8bがオーバラン状態となると、第1外方部材10aは、第1内方部材11bに対して空転する。
【0066】
[第1内方部材11bに正転方向Yのトルクが入力された場合]
第1内方部材11bに正転方向Yのトルクが入力され、第1内方部材11bが正転方向Yに回転すると、第1ロック部材12bが、図9(A)に示す状態から図9(B)に示す状態に揺動して、第1クラッチ8bがオーバラン状態となる。第1クラッチ8bがオーバラン状態となると、第1内方部材11bは、第1外方部材10aに対して空転する。
【0067】
[第1内方部材11bに逆転方向Yのトルクが入力された場合]
第1内方部材11bに逆転方向Yのトルクが入力され、第1内方部材11bが逆転方向に回転すると、第1ロック部材12bが、図9(B)に示す状態から図9(A)に示す状態に揺動して、第1クラッチ8bをロック状態とする。第1クラッチ8bがロック状態になると、第1外方部材10a及び第1ロック部材12bが、第1内方部材11bとともに、逆転方向Yに回転しようとする。
【0068】
第1ロック部材12bが逆転方向Yに回転するのに伴って、第2内方部材31bが逆転方向Yに回転すると、第2ロック部材32aが、図10(B)に示す状態から図10(A)に示す状態に揺動して、第2クラッチ9bがロック状態となる。この結果、第1保持器29aが逆転方向にそれ以上回転することが阻止され、第1保持器29aに正転方向Yの反力が加わる。
【0069】
本例では、第1保持器29aの径方向位置を、第1外方部材10aの内周面と第1内方部材11bの外周面との径方向中央位置よりも径方向内寄りとしている。このため、第1保持器29aに正転方向Yの反力が加わると、第1ロック部材12bに、第1ロック部材12bを図9(A)に示す状態から図9(B)に示す状態に揺動させる方向のモーメント力、すなわち、第1クラッチ8bをオーバラン状態とする方向のモーメント力が加わる。この結果、第1ロック部材12bの入力側カム面26と、第1外径側円筒面部15との当接圧が低下あるいは喪失するとともに、第1ロック部材12bの出力側カム面27と、第1内径側円筒面部21との当接圧が低下あるいは喪失する。この結果、第1内方部材11bが、第1外方部材10aに対して空転する。
【0070】
本例においても、第1外方部材10aを出力側部材とし、第1内方部材11bを入力側部材とすることができる。ただし、この場合には、第1保持器29aの径方向位置を、第1外方部材10aの内周面と第1内方部材11bの外周面との径方向中央位置よりも径方向外寄りとする。その他の部分の構成及び作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0071】
上述した実施の形態の各例では、第2クラッチ9、9a、9bとして、スプラグ式のものを使用しているが、図11(A)及び図11(B)に示すようなカム式のものを使用することもできる。カム式の第2クラッチ9cは、第2外方部材30bと、第2内方部材31cと、第2ロック部材32bと、第2保持器47aとを備える。
【0072】
第2外方部材30bは、円筒状で、内周面にカム面49が設けられている。すなわち、第2外方部材30bの内周面の円周方向複数箇所にランプ部である凹部50を設け、第2外方部材30bの内周面をカム面49としている。
【0073】
第2内方部材31cは、外周面を円筒面としている。
【0074】
第2ロック部材32bは、玉またはローラである。第2ロック部材32bは、第2外方部材30bのカム面49と、第2内方部材31cの外周面との間に存在する円筒状空間のうちで凹部50と整合する部分に、第2保持器47aに保持された状態で配置されている。図示の例では、第2ロック部材32bと第2保持器47aとの間に設けられた付勢ばね51により、第2ロック部材32bを凹部50の浅い側に向けて弾性的に押圧している。
【0075】
第2クラッチ9cでは、第2内方部材31cが正転方向Yに回転すると、図11(B)に示すように、第2ロック部材32bが、付勢ばね51の弾力に抗して凹部50の深い部分に移動する。このため、第2ロック部材32bの転動面と、第2内方部材31cの外周面との当接部の面圧が低下あるいは喪失する。この結果、第2クラッチ9cは、第2内方部材31cが第2外方部材30bに対して空転するオーバラン状態となる。
【0076】
一方、第2内方部材31cが逆転方向Yに回転すると、図11(A)に示すように、第2ロック部材32bが、凹部50の底面と第2内方部材31cの外周面との間に食い込む。この結果、第2クラッチ9cがロック状態となり、ハウジング18(図1図7及び図8参照)に固定された第2外方部材30bに対する第2内方部材31cの回転が阻止される。
【符号の説明】
【0077】
1 一方向クラッチ
2 外方部材
3 内方部材
4 スプラグ
5 保持器
6 付勢ばね
7、7a、7b 一方向クラッチ装置
8、8a、8b 第1クラッチ
9、9a〜9c 第2クラッチ
10、10a 第1外方部材
11、11a,11b 第1内方部材
12、12a、12b 第1ロック部材
13 第1内向フランジ部
14 第1外径側嵌合面部
15 第1外径側円筒面部
16a〜16d 係止溝
17 支持軸受
18 ハウジング
19 第1外向フランジ部
20 第1内径側嵌合面部
21 第1内径側円筒面部
22、22a 第1軸受
23 外輪
24a〜24d 係止リング
25 内輪
26 入力側カム面
27 出力側カム面
28 凸部
29、29a 第1保持器
30、30a、30b 第2外方部材
31、31a〜31c 第2内方部材
32、32a、32b 第2ロック部材
33 第2内向フランジ部
34 大径段部
35 第2外径側嵌合面部
36 第2外径側円筒面部
37 外輪
38 第2外向フランジ部
39 第2内径側嵌合面部
40 第2内径側円筒面部
41 凹部
42 第2軸受
43 外輪
44 内輪
45 固定側カム面
46 回転側カム面
47、47a 第2保持器
48 小径円筒面部
49 カム面
50 凹部
51 付勢ばね
52 外輪軌道
53 内輪軌道
54 転動体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12