(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記非特許文献1では、時定数を変更すればその都度目標応答の収束する時間も変化するため、等しく評価するために十二分に長いシミュレーション時間を設定して、必要以上に長くシミュレーションを行わなければならない。
【0005】
すなわち従来は、PIDコントローラを調整する際に重要な要素の一つとなるシミュレーション時間を、適切な長さに調整するという考え自体がなかったのである。
【0006】
本発明は、上記技術的課題に鑑み、時定数を決定した際に、この時定数に応じてシミュレーション時間を適切な長さに自動で決定することができる、プラント制御調整装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明に係るプラント制御調整装置は、
PIDコントローラ及びプラントからなるシステムに接続されるプラント制御調整装置であって、
前記PIDコントローラから出力される操作量、及び、前記プラントの計測値に基づき、前記プラントの伝達関数を求める同定部と、
前記同定部から入力した前記伝達関数に基づき、前記PIDコントローラの各制御パラメータを調整する最適化部とを備え、
前記最適化部は、
前記プラントの規範モデルとなる理想プラントを作成し、該理想プラントのステップ応答として前記計測値の目標応答を生成し、前記理想プラントのパラメータである次数、時定数、むだ時間、前記計測値の前記目標応答に対する許容誤差、及び、前記目標応答の定常状態と過渡状態との時間の比率に基づき、シミュレーション時間を決定する条件設定部と、
前記各制御パラメータの制御モデル、及び、前記伝達関数に基づき、前記シミュレーション時間におけるシミュレーションによるプラント出力を算出し、該プラント出力と前記シミュレーション時間における前記目標応答とを比較することで、前記PIDコントローラの前記各制御パラメータを決定するパラメータ最適化部とを備える
ことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決するための第2の発明に係るプラント制御調整装置は、
上記第1の発明に係るプラント制御調整装置において、
前記条件設定部は、下記の式から前記シミュレーション時間を決定する
ことを特徴とする。
【数1】
ただし、
T
simは、前記シミュレーション時間
R
stは、前記過渡応答の時間に対する前記定常状態の時間比率
tolは、前記許容誤差
Nは、前記次数
T
refは、前記時定数
Lは、前記むだ時間
【0009】
上記課題を解決するための第3の発明に係るプラント制御調整方法は、
PIDコントローラ及びプラントからなるシステムを制御するプラント制御調整方法であって、
前記PIDコントローラから出力される操作量、及び、前記プラントの計測値に基づき、前記プラントの伝達関数を求め、
前記プラントの規範モデルとなる理想プラントを作成し、該理想プラントのステップ応答として前記計測値の目標応答を生成し、前記理想プラントのパラメータである次数、時定数、むだ時間、前記計測値の前記目標応答に対する許容誤差、及び、前記目標応答の定常状態と過渡状態との時間の比率に基づき、シミュレーション時間を決定し、
前記PIDコントローラの各制御パラメータの制御モデル、及び、前記伝達関数に基づき、前記シミュレーション時間におけるシミュレーションによるプラント出力を算出し、該プラント出力と前記シミュレーション時間における前記目標応答とを比較することで、前記PIDコントローラの前記各制御パラメータを決定する
ことを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するための第4の発明に係るプラント制御調整方法は、
上記第3の発明に係るプラント制御調整方法において、
下記の式から前記シミュレーション時間を決定する
ことを特徴とする。
【数2】
ただし、
T
simは、前記シミュレーション時間
R
stは、前記過渡応答の時間に対する前記定常状態の時間比率
tolは、前記許容誤差
Nは、前記次数
T
refは、前記時定数
Lは、前記むだ時間
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るプラント制御調整装置及び方法によれば、時定数を決定した際に、この時定数に応じてシミュレーション時間を適切な長さに自動で決定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るプラント制御調整装置及び方法について、実施例にて図面を用いて説明する。
【0014】
[実施例1]
まず、本実施例に係るプラント制御調整装置の構成について説明する。
図1は、シングルループ接続されたPIDコントローラ1及びその制御対象であるプラント2により構成されたフィードバック制御系のシステムに、本実施例に係るプラント制御調整装置(プラント制御調整装置10)が設けられた状態を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すフィードバック制御系では、まず作業者により、PIDコントローラ1に設定値SVが入力され、PIDコントローラ1はプラント2へ指令値としての操作量MVを出力する。PIDコントローラ1は、操作量MVが入力されたプラント2の計測値(プラント出力)PV1に基づき、操作量MVを変更する。
【0016】
プラント制御調整装置10は、このフィードバック制御系に接続可能な装置である。プラント制御調整装置10が接続されたこのフィードバック制御系では、操作量MV及び計測値PV1がそれぞれフィードバック制御系から分岐し、プラント制御調整装置10に入力されることとなる。
【0017】
また、
図2は、カスケード接続された第1PIDコントローラ3と第2PIDコントローラ4、及び、その制御対象である第2プラント6と第1プラント5(接続順に記載)により構成されたフィードバック制御系のシステムに、プラント制御調整装置10が設けられた状態を示すブロック図である。
【0018】
ここでは、
図2中に破線枠で示すように、第1プラント5と第2プラント6とを1つのプラント構成と見做している。設定値SVはこのプラント構成の計測値PV1に対する目標値であり、このプラント構成へ出力される操作量はMV2となる。
【0019】
プラント制御調整装置10は、このようなフィードバック制御系にも接続可能である。プラント制御調整装置10が接続されたこのフィードバック制御系では、操作量MV2、及び、計測値PV1,PV2が、それぞれフィードバック制御系から分岐し、プラント制御調整装置10に入力されることとなる。
【0020】
以下では、説明を明瞭にするため、主にプラント制御調整装置10をシングルループ接続のフィードバック制御系に接続した場合を想定して説明するが、プラント制御調整装置10をカスケード接続のフィードバック制御系に接続した場合であっても基本的な概念は同様である。
【0021】
図3は、プラント制御調整装置10の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、プラント制御調整装置10は、データ入力部11、設定読込部12、設定入力部13、記憶部14、条件記憶部14a、同定部15、最適化部16、及び、出力表示部19を備えている。また、最適化部16は、条件設定部17、及び、パラメータ最適化部18を備えている。
【0022】
プラント制御調整装置10がシングルループ接続のフィードバック制御系に接続している場合、データ入力部11は、
図1に記載したPIDコントローラ1から、計測値PV1及び操作量MVのデータを読み込む。また、設定読込部12は、PIDコントローラ1からコントローラ内の設定を読み込む。なお、ここでの「設定」とは、制約条件の基となるパラメータ上限値、下限値、MVリミッタ、及び、レートリミッタ等を指す。
【0023】
設定入力部13は、予め作業者によって各条件が入力される。入力された各条件は、条件記憶部14aに保存される。この各条件とは、PIDコントローラ1のパラメータに対し設定可能な範囲、設定読込部12で読み込まなかった分の上記設定、最適化手法(本実施例ではPSO(粒子群最適化))、及び、最適化そのもののパラメータとなる条件設定(パラメータは、粒子数、反復回数、探索の慣性等となる)を指す。制約条件は、MV係数、位相余裕、オーバーシュート上限値、終点誤差係数等の条件群である。なお、上記データ入力部11は、この設定入力部13において作業者が入力していない条件を読み込む仕様になっている。
【0024】
そして、データ入力部11に入力された上記データは、記憶部14に保存され、設定読込部12及び設定入力部13に入力された上記設定及び上記各条件は、記憶部14内の特に条件記憶部14aに保存される。
【0025】
同定部15は、上述のごとくデータ入力部11に入力され記憶部14に保存されたデータ(計測値PV1及び操作量MV)から、プラント2のシステム同定を行う。同定された同定プラントモデル、すなわち伝達関数は、最適化部16内の条件設定部17へ出力する。
【0026】
最適化部16は、同定部15から入力した同定プラントモデル(伝達関数)に基づき、PIDコントローラ1の各制御パラメータを調整するものである。
【0027】
条件設定部17は、同定部15から入力した同定プラントモデル(伝達関数)等に基づき、計測値PV1の参照先である目標応答PV1
tを生成し、生成した目標応答PV1
tを記憶部14及びパラメータ最適化部18に出力する。なお、「目標応答」とは、「理想プラント(後述)に単位ステップを入力したときの応答波形(ステップ応答)」を指す。また、条件設定部17は、設定(設定読込部12及び設定入力部13から入力した上述の設定)に基づき、制約条件を決定する。
【0028】
さらに、条件設定部17は、条件記憶部14aから入力した上記設定以外の上記各条件に基づき、重点的にパラメータ探索を行う範囲(重点探索範囲)を決定する。例えば、初期値としてジーグラー・ニコルス法(ZN法)等の古典的経験的手法によって求められる解を中心に展開する。これは同定部15により同定されたデータ(伝達関数)に応じて計算されて決定する。さらに条件設定部17は、解の初期配置を行う。すなわち、重点探索範囲内にランダムに複数の解を配置(初期解配置)する。この初期解配置は、パラメータ最適化部18へ出力する。なお、制約条件は条件設定部17からパラメータ最適化部18へ送られる。
【0029】
パラメータ最適化部18には、上述した目標応答、初期解配置、制約条件、及び、上記各条件が入力される。そして、パラメータ最適化部18は、目標応答PV1
tを用いて、評価及びパラメータ探索を行うことによって、PIDコントローラ1の各制御パラメータの調整(最適化)を行い、最終的に決定した最適解を出力表示部19へと出力する。
【0030】
出力表示部19は、目標応答PV1
tの変化、並びに、PIDコントローラ1の各制御パラメータの最適解を表示する。
【0031】
次に、シングルループ接続のフィードバック制御系に接続したプラント制御調整装置10による主な処理について、
図4のブロック図を用いて詳述する。
図4では、破線によって「現実の構成」、「仮想の構成(同定したプラントモデル)」、「目標応答生成」、「理想プラント生成」、「パラメータ探索(最適化)」、及び、「仮想の構成(シミュレーションモデル)」ごとに分けて示している。
【0032】
図4の「現実の構成」には現実のフィードバック制御系が示されている。このフィードバック制御系において、設定値SV、操作量MV、及び、計測値(プラント2の出力)PV1
o(PV1の現実のデータ)は分かっており、それ以外(PIDコントローラ1及びプラント2の各パラメータ)については詳細不明な状態である。
【0033】
≪ステップS1≫
同定部15において、記憶部14に保存された計測値PV1
o及び操作量MVの実データから、
図4の白抜き矢印で示すようにプラント2の同定を行い、同定プラントモデル(伝達関数)G
1(s)を作成する。
【0034】
≪ステップS2≫
条件設定部17において、
図4の「理想プラント及び目標応答生成」に示すように、時定数T
refを決定し、決定した時定数及び同定プラント(伝達関数)G
1(s)に基づき、同定プラントの伝達関数G
1(s)及びPIDコントローラ1をひっくるめた規範モデルとしての理想プラントP(s)を作成する。なお、時定数T
refの決定は、作業者が決定するものであっても、あるいは特願2017‐075036に開示しているように自動的に決定するものであってもよい。
【0035】
同定プラントモデルの伝達関数G
1(s)の次数をN、むだ時間をLとするとき、下記(1)式のように、時定数T
refでプラント2における定常ゲインの1次遅れ伝達関数のN乗にむだ時間Lを加えた形として表すことで、その単位ステップ応答(単位ステップ信号を入力したときの応答波形)がオーバーシュートのない減衰応答となるような理想プラントP(s)を作成する。
【数3】
【0036】
≪ステップS3≫
条件設定部17において、
図4の「理想プラント及び目標応答生成」に示すように、理想プラントP(s)に単位ステップを入力してステップ応答としての目標応答PV1
tを生成する。生成した目標応答PV1
tは、パラメータ最適化部18へ出力する。
【0037】
また、条件設定部17は、シミュレーション時間(詳細は後述)を決定し、これをパラメータ最適化部18へ出力する。
【0038】
≪ステップS4≫
パラメータ最適化部18において、
図4の「仮想の構成(シミュレーションモデル)」に示すように、PIDコントローラ1のパラメータ(制御モデル)C
1(s)、及び、同定プラントモデルの伝達関数G
1(s)を用いて、上記「現実の構成」に対応したシミュレーションモデルを構築し、このシミュレーションモデルに対して単位ステップ入力を行い、単位ステップ応答(
図4中のプラント出力)PV1を求める(ステップ応答シミュレーション)。なお、制御モデルC
1の初期値は、初期解配置に基づいて作成される。
【0039】
≪ステップS5≫
パラメータ最適化部18において、
図4の「パラメータ探索(最適化)」に示すように、上記ステップS4で求めた単位ステップ応答PV1(の時系列データ)と、上記ステップS3で求めた目標応答PV1
t(の時系列データ)との残差平方和を演算し、これを最適化の評価関数とする。
【0040】
≪ステップS6≫
パラメータ最適化部18において、
図4の「パラメータ探索(最適化)」に示すように、上記ステップS5で求めた最適化の評価関数に基づき、制御モデルC
1(s)のPIDパラメータを変更する。
【0041】
変更した制御モデルC
1(s)に基づき、再度上記ステップS4〜S6を行う。そして、上記ステップS4〜S6の処理を繰り返し行うことで、PIDコントローラ1の最適化パラメータを求める。
【0042】
すなわち、上記ステップS4〜S6では、条件設定部17によって決定したシミュレーション時間におけるプラントの出力PV1を、シミュレーションにより算出し、該プラント出力PV1とシミュレーション時間における目標応答PV1
tとを比較することで、PIDコントローラ1の最適な各制御パラメータを算出する。
【0043】
そして、最適化された各制御パラメータは、現実のPIDコントローラ1に出力する(
図4中の破線矢印「最適化パラメータ」)。
以上がプラント制御調整装置10による主な処理の説明である。
【0044】
以下、上述したシミュレーション時間の決定について詳述する。
図5Aは、目標応答PV1
tのグラフの一例を表しており、縦軸がPV1
tの値、横軸が時間tを表している。
図5Bは、シミュレーションによる応答PV1のグラフの一例を表しており、縦軸がPV1の値、横軸が時間tを表している。
【0045】
上記ステップS4〜S6のように制御パラメータを調整する際に、
図5Aに示す目標応答PV1
tと、
図5Bに示す同定したプラントデータを基にしたシミュレーションの応答PV1とが、可能な限り等しくなるように最適化を行っているが、上記ステップS2で既に説明したように、この目標応答は上記(1)式のようにオーバーシュートが発生しない1次遅れのN乗の形で表した理想プラントP(s)のステップ応答を用いている。
【0046】
よって、目標応答PV1
tは下記(2)式の形で表すことができる。
【数4】
Lは、シングルループにおけるプラントのむだ時間を指すものである。なお、カスケード接続の場合は両プラントのむだ時間の合計(L1+L2)を指す。
【0047】
特に2次のときの目標応答PV1
tを時刻t=12×T
refまでプロットしたものを
図6に示す。
図6では、縦軸が目標応答PV1
tの値、横軸が時間t/T
refを表している。
【0048】
目標応答PV1
tを生成する際、この時定数T
refによって応答の収束時間が変動する。ステップ応答シミュレーション(上記≪ステップS4≫)を行うにあたり、この収束時間の変動に応じてシミュレーションが終了するまでの時間(シミュレーション時間)T
simを適切に選択しなければならない。その理由を以下に示す。
【0049】
まず、目標応答への最適化において時間短縮のためにシミュレーションを早めに打ち切ると、目標応答自体も収束していないため、終点誤差が大きく残りやすい。
【0050】
最適化の過程で辿る解を経過解とし、経過解及び目標応答の一例を
図7に示す。
図7は、縦軸が応答の値を表し、横軸が時間を表している。また、
図7では、シミュレーション時間が最適であると仮定した場合に、良い評価が得られる経過解を「経過解(良)」と称し、発散してしまう経過解を「経過解(発散)」と称して示している(なお、実際のシミュレーションでは、より多くの経過解を比較しているが、ここでは2つの経過解の例として簡易的に説明する下記
図8においても同様である)。
【0051】
図7に示すように、最適なシミュレーション時間であれば経過解(発散)よりも経過解(良)の方が良好な応答を示すにもかかわらず、設定したシミュレーション時間(図中の設定時間)を短くすると、経過解(発散)の方を最適解と誤判定してしまうおそれがある。
【0052】
一方、こうした弊害を避けるために設定時間を長くすると、今度は僅かな定常偏差によって、解の応答の良し悪しに関わらず残差平方和の最大値が大きくなる。
【0053】
ここで、経過解及び目標応答の他の例を
図8に示す。
図8は、縦軸が応答の値を表し、横軸が時間を表している。また、
図8では、目標応答とは大きく異なる応答(パルス)が最適化の早い段階で発生する場合の経過解を「経過解(パルス)」と称して示している。
【0054】
図8に示すように、経過解(パルス)のパルス状部分よりも経過解(良)の定常偏差の面積の比重が大きくなることにより、過渡応答ではなく定常偏差で評価が決まってしまって、経過解(パルス)など過渡応答がよくない経過解が有力候補として残る場合がある。
【0055】
すなわち、この2つの経過解と目標応答PV1
tとの残差平方和をそれぞれとると、設定時間の経過時点までであれば、経過解(パルス)の方が僅かに小さくなるため、最適化アルゴリズムによっては経過解(良)が切り捨てられて経過解(パルス)が終盤まで有力候補として残り、いわゆる局所解のように振舞ってしまって、真の最適解の探索を阻害することがある。
【0056】
この場合、重み付けや許容誤差の設定などいくつか対策をとるが、その際に適切な時間を設定できていなければ、重み付けや誤差設定の対策自体が全体を俯瞰したバランス調整を必要として難航しやすく、結果長く何度もシミュレーションしなければならなくなる。
【0057】
以上から、終点誤差が十分に小さく、かつシミュレーション時間T
simが適切に打ち切られることが重要となる。
【0058】
よく知られたラプラス逆変換から
【数5】
【数6】
【数7】
【0059】
上述した(2)式の目標応答PV1
tからむだ時間(
図1に表示したシングルループならL、
図2に表示したカスケード接続ならL1+L2)を除いて、更に2次(N=2)に限定し、これらのラプラス逆変換を用いると
【数8】
【数9】
【数10】
この(3)式をプロットすると
図6に示す2次の場合の目標応答PV1
tのグラフになる。
【0060】
また上記(3)式をN次まで拡張すると
【数11】
【0061】
ここで上記(4)式の右辺第2項の括弧内は指数関数e
-t/Trefのマクローリン展開のN−1次打ち切りであるため、Nが無限大に近づくほど第2項が1に近づき、上記(4)式は0へと近づく。上記(4)式の1次から5次までを
図9にプロットする。
図9のグラフは、縦軸が目標応答PV1
t、横軸が時間t/T
refを表している。
【0062】
本実施例では、応答性能を表す際に用いられる整定時間として、PIDコントローラ及びプラントに設けられた計測器の性能及び設定によって定まる、許容される誤差(許容誤差)の範囲への到達時間を用いる。
【0063】
仮に許容誤差が1%であれば、応答が99%に到達した時間が整定時間となる。上記(4)式の第2項は、
図9における目標応答PV1
tの目標値1に対する偏差であるから、整定時間はこの第2項が許容誤差を下回るまでの時間(すなわち、
図9中の各曲線が、縦軸において0.99の破線を上回るまでの時間)である。そこで、上記(4)式の第2項を許容誤差tolとして、各曲線につき対数プロットしたものを
図10に示す。
図10のグラフは、縦軸が上記(4)式の第2項の絶対値、横軸が時間t/T
refを表している。
【0064】
上記(4)式の第2項を算出するのに必要な目標応答の次数Nと、目標応答PV1
tの時定数T
refと、上記(4)式の第2項の比較対象である許容誤差tolとから、整定時間が求まり、その整定時間をシミュレーション時間T
simの最小値T
sminとすることで、終点誤差が十分に小さいシミュレーション時間を確保できる。
【0065】
許容誤差tolは下記(5)式のように表すことができる。
【数12】
【0066】
上記(5)式の対数を取ると、logAB=logA+logBより、下記(6)式のようになる。
【数13】
【0067】
上記(6)式において、N=1のとき
【数14】
である。
図11は、許容誤差tolを次数ごとに示すグラフであり、縦軸が許容誤差tol、横軸が時間t/T
refを表している。なお、破線は次数ごとの近似曲線を表している。
図11に示すように、許容誤差tolは、対数プロット上では1次(N=1)のみ直線となる。
【0068】
N=1のとき、許容誤差tol=0.1%とすると
【数15】
となり、時定数T
ref及び許容誤差tolから、tを簡易に計算できる。
【0069】
一方、2次以降(N>1)では上記(6)式の第2項の計算が煩雑になり、下記(7)式の形となる。
【数16】
【0070】
対数計算は演算負荷がかかるため、全て1次近似を行うことで計算する。すなわち
【数17】
という近似式で表す。5次まで図示したものが
図11となる。また対数ではなく線形プロットに戻したものを
図12に示す。
【0071】
ここで、上記(3)式導出の際に除いていたむだ時間Lを改めて考慮して、シミュレーション時間T
simの最小値T
sminは下記(9)式で表す。
【数18】
一方、シミュレーション時間T
simは、この最小時間T
sminに係数をかけて定常状態とみなす時間領域の余裕を付加するが、
図8で示したように、過渡応答の時間に対して定常状態が長すぎれば定常偏差が積もりに積もって過渡応答の偏差よりも大きくなってしまうため、それを避けなければならない。定常状態と過渡応答の時間比率は、例えば1:3が好ましく、この場合は1.33倍にする。過渡応答の時間に対する定常状態の時間比率、すなわち時間増加量をR
st(%)とおくと、シミュレーション時間T
simは下記(10)式のように表すことができる。
【0072】
【数19】
例えばプラント次数が2次で、むだ時間0の場合、許容誤差tolを0.1%、時間比率R
stを33(%)とするとT
sim=11.58×T
refとなり、目標応答PV1
tの全体図はおおよそ
図6のグラフのようになる。つまり、
図6では、t/T
ref=12近傍(T
sim=11.58×T
refに対応)において、PV1
tが略1(許容誤差tolが0.1%すなわちPV1
tが0.999に対応)となっている。
【0073】
このようにして、本実施例では、条件設定部17において、シミュレーション終了時間T
simを、プラントの次数N、むだ時間L、許容誤差tol、過渡応答の時間に対する定常状態の時間比率R
st、及び、目標応答の時定数T
refの、5つの要素から決定する。
【0074】
本実施例においては、目標応答PV1
tの整定時間が時定数T
refに比例することを示し、その係数に次数Nによる変動分と、許容誤差tolによる変動分を加え、さらにむだ時間Lと定常状態の時間余裕分を追加することで、変動する時定数T
refに対しても必要十分な時間が計算でき、特に指定せずとも装置自身がシミュレーション時間を定めることができる。
【0075】
また、本実施例に係るプラント制御調整方法は、
PIDコントローラ及びプラント(シングル接続でもカスケード接続でもよい)からなるシステムを制御するプラント制御調整方法であって、PIDコントローラから出力される操作量、及び、プラントの計測値に基づき、プラントの伝達関数を求め、プラントの規範モデルとなる理想プラントを作成し、理想プラントのステップ応答として計測値の目標応答を生成し、理想プラントのパラメータである次数、時定数、むだ時間、計測値の目標応答に対する許容誤差、及び、目標応答の定常状態と過渡状態との時間の比率に基づき、シミュレーション時間を決定し、PIDコントローラの各制御パラメータの制御モデル、及び、伝達関数に基づき、シミュレーション時間におけるシミュレーションによるプラント出力を算出し、該プラント出力とシミュレーション時間における目標応答とを比較することで、PIDコントローラの各制御パラメータを決定するものである。
【0076】
特に、本実施例に係るプラント制御調整方法は、下記の式からシミュレーション時間を決定するものである。
【数20】
ただし、
T
simは、前記シミュレーション時間
R
stは、前記過渡応答の時間に対する前記定常状態の時間比率
tolは、前記許容誤差
Nは、前記次数
T
refは、前記時定数
Lは、前記むだ時間
【0077】
このようにして本実施例では、時定数を決定した際に、この時定数に応じてシミュレーション時間を適切な長さに自動で決定することができる。