(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848714
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】エンジンの潤滑油供給装置
(51)【国際特許分類】
F01M 9/10 20060101AFI20210315BHJP
F01M 1/16 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
F01M9/10 M
F01M1/16 A
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-121150(P2017-121150)
(22)【出願日】2017年6月21日
(65)【公開番号】特開2019-7363(P2019-7363A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】森本 学
(72)【発明者】
【氏名】中井 英夫
(72)【発明者】
【氏名】大橋 一也
(72)【発明者】
【氏名】赤瀬川 純
(72)【発明者】
【氏名】笹峯 真一
【審査官】
小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−128323(JP,A)
【文献】
特開2014−047704(JP,A)
【文献】
実開昭58−081314(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/16
F01M 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力によって動作する駆動体と、
潤滑油を貯留するオイルパンと、
前記オイルパンから前記エンジンの各部へ潤滑油を送り出すポンプ装置と、
前記ポンプ装置の下流側における潤滑油の圧力が所定圧力以上となった場合に開放されるリリーフバルブを備えたリリーフ通路と、
前記リリーフバルブの開放時における潤滑油の排出ルートを、前記駆動体の動作方向の順方向に沿って前記駆動体に向かって潤滑油が排出される第一排出通路と、前記駆動体の動作方向と反対方向に沿って前記駆動体に向かって潤滑油が排出される第二排出通路と、前記オイルパンに向かって潤滑油が排出される戻し通路とに切り替える切替手段と、
前記切替手段による潤滑油の排出ルートの切り替えを制御する制御手段と、
を備えるエンジンの潤滑油供給装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記リリーフバルブの開放時に、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上で前記駆動体の動作速度が増加する第一の運転状態では前記切替手段を前記第一排出通路側へ切り替え、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上で前記駆動体の動作速度が減少する第二の運転状態では前記切替手段を前記第二排出通路側へ切り替える
請求項1に記載のエンジンの潤滑油供給装置。
【請求項3】
前記第一の運転状態は、前記駆動体の動作速度の増加を示す指標の絶対値が増加側閾値以上であり、前記第二の運転状態は、前記駆動体の動作速度の減少を示す指標の絶対値が減少側閾値以上である
請求項2に記載のエンジンの潤滑油供給装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第一の運転状態及び前記第二の運転状態以外の運転状態である第三の運転状態では、前記切替手段を前記戻し通路側へ切り替える
請求項2又は3に記載のエンジンの潤滑油供給装置。
【請求項5】
前記第一の運転状態はシフトダウン操作時であり、
前記第二の運転状態はシフトアップ操作時である
請求項2〜4の何れか1項に記載のエンジンの潤滑油供給装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記リリーフバルブの開放時に、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上でアクセル踏込時又はブレーキオフ時には前記切替手段を前記第一排出通路側へ切り替え、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上でブレーキ踏込時又はアクセルオフ時には前記切替手段を前記第二排出通路側へ切り替える
請求項1に記載のエンジンの潤滑油供給装置。
【請求項7】
前記駆動体は、エンジンの駆動力によって回転するクランクシャフトギヤである
請求項1〜6の何れか1項に記載のエンジンの潤滑油供給装置。
【請求項8】
前記駆動体は、前記第一排出通路から排出される潤滑油及び前記第二排出通路から排出される潤滑油、又は、そのいずれかが当たる羽根を備える
請求項1〜7の何れか1項に記載のエンジンの潤滑油供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンの各部へ潤滑油を送り出すエンジンの潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンは、上方から下方に向かって順に、シリンダヘッド部、シリンダブロック及びロアブロック等からなるブロック本体を備え、さらにその下部に、オイルパンが連結されている。潤滑油供給装置によって、潤滑油は、オイルパン上に設けられた貯留部からオイルポンプでエンジンの各部へ送り出され、シリンダヘッド部やシリンダ内等のエンジン各部を潤滑した後、貯留部に落下し回収される。
【0003】
また、オイルポンプにはリリーフ通路が接続されており、オイルポンプ内の圧力が高まって所定圧力を超えた際に、リリーフ通路内に設けられたリリーフバルブが開放されて、潤滑油はオイルパンへ戻されるようになっている。
【0004】
また、例えば、特許文献1には、オイルポンプから導かれたリリーフ通路内の潤滑油の圧力を活用して、自動車用冷却ファンの油圧モータを駆動するようにした潤滑油供給装置の技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−128323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術では、オイルポンプ内の余剰の油圧を活用して、自動車用冷却ファンの油圧モータを駆動している。しかし、冷却ファンの油圧モータは、必ずしも常時駆動が必要なものではない。このため、油圧モータの駆動が必要とされない運転状態においては、オイルポンプ内の油圧は活用されず、潤滑油は、そのままオイルパンへ戻されてしまうこととなる。
【0007】
そこで、この発明の課題は、潤滑油を送り出すポンプ装置内の油圧をできる限り有効に活用することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明は、エンジンの駆動力によって動作する駆動体と、潤滑油を貯留するオイルパンと、前記オイルパンから前記エンジンの各部へ潤滑油を送り出すポンプ装置と、前記ポンプ装置の下流側における潤滑油の圧力が所定圧力以上となった場合に開放されるリリーフバルブを備えたリリーフ通路と、前記リリーフバルブの開放時における潤滑油の排出ルートを、前記駆動体の動作方向の順方向に沿って前記駆動体に向かって潤滑油が排出される第一排出通路と、前記駆動体の動作方向と反対方向に沿って前記駆動体に向かって潤滑油が排出される第二排出通路と、前記オイルパンに向かって潤滑油が排出される戻し通路とに切り替える切替手段と、前記切替手段による潤滑油の排出ルートの切り替えを制御する制御手段と、を備えるエンジンの潤滑油供給装置を採用した。
【0009】
前記制御手段は、前記リリーフバルブの開放時に、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上で前記駆動体の動作速度が増加する第一の運転状態では前記切替手段を前記第一排出通路側へ切り替え、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上で前記駆動体の動作速度が減少する第二の運転状態では前記切替手段を前記第二排出通路側へ切り替える構成を採用することができる。
【0010】
ここで、前記第一の運転状態は、前記駆動体の動作速度の増加を示す指標の絶対値が増加側閾値以上であり、前記第二の運転状態は、前記駆動体の動作速度の減少を示す指標の絶対値が減少側閾値以上である構成を採用することができる。
【0011】
また、前記制御手段は、前記第一の運転状態及び前記第二の運転状態以外の運転状態である第三の運転状態では、前記切替手段を前記戻し通路側へ切り替える構成を採用することができる。
【0012】
前記第一の運転状態はシフトダウン操作時であり、前記第二の運転状態はシフトアップ操作時である構成を採用することができる。
【0013】
前記制御手段は、前記リリーフバルブの開放時に、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上でアクセル踏込時又はブレーキオフ時には前記切替手段を前記第一排出通路側へ切り替え、前記オイルパンの潤滑油の液面が所定高さ以上でブレーキ踏込時又はアクセルオフ時には前記切替手段を前記第二排出通路側へ切り替える構成を採用することができる。
【0014】
前記駆動体は、例えば、エンジンの駆動力によって回転するクランクシャフトドリブンギヤである構成を採用することができる。
【0015】
前記駆動体は、前記第一排出通路から排出される潤滑油及び前記第二排出通路から排出される潤滑油、又は、そのいずれかが当たる羽根を備える構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、リリーフバルブの開放時における潤滑油の排出ルートを、駆動体の動作方向に沿う第一排出通路と、駆動体の動作方向と反対方向に沿う第二排出通路と、オイルパンに向かう戻し通路とに切り替える切替手段、及び、その切替手段を制御する制御手段を備えたので、排出される潤滑油の排出先を運転状況に応じて切り替えることができ、ポンプ装置内の油圧を有効に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】この発明の他の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、エンジン5の各部へ潤滑油を送り出すポンプ装置(オイルポンプ)11を備えたエンジンの潤滑油供給装置10である。
【0019】
エンジンの主たる構成は、従来と同様に、上方から下方に向かって順に、シリンダヘッド部、シリンダブロック及びロアブロック等からなるブロック本体を備え、さらにその下部に、オイルパンAが連結されている。エンジンの各部を潤滑、冷却する潤滑油は、オイルパンA上に貯留されている。
【0020】
、
潤滑油は、吸引通路21を通じてストレーナ(図示せず)等を介して、矢印d方向へポンプ装置11に導かれ、そのポンプ装置11によって、シリンダブロックのメインギャラリ等の供給通路27を通じて、エンジン5の各部へ送り出される。潤滑油は、シリンダヘッド部やシリンダ内等のエンジンの各部の要潤滑部を潤滑した後、オイルパンA上に落下し回収される。
【0021】
また、ポンプ装置11にはリリーフ通路22,23が接続されており、ポンプ装置11内の圧力が高まってその圧力が所定圧力を超えた際に、リリーフ通路22,23内に設けられたリリーフバルブ12が開放されるようになっている。これにより、ポンプ装置11内の過度な圧力上昇を回避している。
【0022】
エンジン5のシリンダ下部には、エンジン5の駆動力によって回転するクランクシャフト1が備えられる。クランクシャフト1には、駆動体3としてのクランクシャフトギヤ(ドリブンギヤ)が設けられる。以下、駆動体3としてのクランクシャフトギヤを、クランクシャフトギヤ3と称する。クランクシャフトギヤ3は、クランクシャフト1が回転するとそれとともに回転する。また、このクランクシャフトギヤ3の回転は、並列して配置されるバランスシャフトが備えるギヤや、タイミングチェ−ン駆動用ギヤ、オイルポンプ駆動用ギヤ、カムシャフト駆動用ギヤ等、他の駆動体3に伝達される。
【0023】
また、このエンジンを搭載する車両は、エンジン5のクランクシャフト1の回転が、変速装置30を通じてドライブシャフト側に伝達されるようになっている。変速装置30とエンジン5との間には、インプット側(クランクシャフト1側)の回転軸とアウトプット側(変速装置30側)の回転軸とを、連結状態と解放状態とに切り替えるクラッチ31を備えている。クラッチ31を解放状態にして、そのクラッチ31のインプット側とアウトプット側とを切り離した状態で、アウトプット側の変速装置30内では、ドライブシャフトへ通じる変速段が切り換えられる。変速段が切り替えられた後、クラッチ31を連結状態にすれば、インプット側とアウトプット側とが回転伝達可能な状態となる。
【0024】
ここで、例えば、マニュアルトランスミッションでは、クラッチ31を解放状態にした後、変速装置30内で変速段が切り替えられ、その後、クラッチ31を連結状態にする際に、クラッチ31を挟んでインプット側とアウトプット側とで回転数の差異が大きいと、ショックを生じることがある。例えば、シフトアップ時に、変速段を切り替えた後にクラッチ31を連結状態にすると、エンジンの回転数が急激に下がったり、車両が前へ押し出されるようなショックを感じることがある。また、シフトアップ時に、変速段を切り替えた後にクラッチ31を連結状態にすると、エンジンの回転数が急激に上がったり、車両にブレーキがかかるようなショックを感じることがある。
【0025】
また、例えば、変速操作の一部を自動化したマニュアルトランスミッションでは、加速中にシフトアップする際に、クラッチ31を解放状態にして変速段を切り替えた後、クラッチ31を連結状態にしても大きなショックが生じない程度にエンジンの回転数が低下するまでの時間(シンクロ時間)を待って、その後、クラッチ31を連結状態にするものがある。このようなシンクロ時間が設定される場合、シンクロ時間は、できる限り短いことが望ましい。
【0026】
このような変速時のショックは、オートマチックトランスミッションを搭載する車両や、連続可変トランスミッションを搭載する車両においても生じ得る。
【0027】
そこで、この発明では、リリーフバルブ12よりも下流側のリリーフ通路23に、切替手段13を配置し、その切替手段13によって、リリーフバルブ12の開放時における潤滑油の排出ルートを、クランクシャフトギヤ3の動作方向(
図1の矢印x方向)の順方向に沿って、そのクランクシャフトギヤ3に向かって矢印a方向へ潤滑油が排出される第一排出通路24と、クランクシャフトギヤ3の動作方向(矢印x方向)と反対方向に沿って、そのクランクシャフトギヤ3に向かって矢印b方向へ潤滑油が排出される第二排出通路25と、オイルパンAに向かって矢印c方向へ直接潤滑油が排出される戻し通路26とに切り替える構成を採用している。
【0028】
切替手段13は、リリーフ通路23と第一排出通路24との連通状態、リリーフ通路23と第二排出通路25との連通状態、リリーフ通路23と戻し通路26との連通状態のいずれかを選択できる四方弁である。この実施形態では、この四方弁を電磁式の弁装置としている。
【0029】
切替手段13による潤滑油の排出ルートの切り替えは、制御手段20によって制御される。制御手段20は、このエンジン5を搭載する車両が備える電子制御ユニット(Electronic Control Unit)に備えられる。制御手段20は、エンジン回転数の情報や、油圧センサの情報、油圧マップのデータをもとに、切替手段13の弁装置を動作させるアクチュエータ等を制御する。
【0030】
また、リリーフバルブ12は、そのリリーフバルブ12よりも上流側のリリーフ通路22内の潤滑油の圧力が、予め設定された所定圧力以上となった場合に、内部の弁室に収容された弾性部材の付勢力に抗して弁体を押圧し、リリーフバルブ12の上流側のリリーフ通路22と下流側のリリーフ通路23とを連通させた状態にする。また、リリーフバルブ12よりも上流側のリリーフ通路22内の潤滑油の圧力が、所定圧力未満となった場合には、内部の弁室に収容された弾性部材の付勢力によって弁体が押し戻されて、リリーフバルブ12の上流側のリリーフ通路22と下流側のリリーフ通路23とが遮断された状態になる。なお、このようなリリーフバルブ12の開閉を、ポンプ装置11側の圧力の数値に基づいて、電子制御ユニットが制御するようにしてもよい。
【0031】
リリーフ通路22には油圧センサ14が設けられ、クランクシャフト1には、エンジンの回転数を検知する回転センサ15が設けられている。また、車両には、アクセルペダルの踏み込み量を検知するアクセル開度センサ16や、ブレーキペダルの踏み込み量を検知するブレーキセンサ17が設けられている。電子制御ユニットは、これらのセンサ類からの情報に基づいて、各種制御を行っている。
【0032】
ここで、制御手段20は、リリーフバルブ12の開放時に、オイルパンAの油面の高さhが所定高さ以上であり、且つ、クランクシャフトギヤ3の動作速度、すなわち回転速度が増加する第一の運転状態では、切替手段13を第一排出通路24側へ切り替える。この第一の運転状態は、前述のシフトダウン操作時に相当する。潤滑油の排出により、クランクシャフトギヤ3の回転速度は上昇するので、車両の変速時のショックを緩和することができる。
【0033】
また、制御手段20は、リリーフバルブ12の開放時に、オイルパンAの油面の高さhが所定高さ以上であり、且つ、クランクシャフトギヤ3の動作速度、すなわち回転速度が減少する第二の運転状態では、切替手段13を第二排出通路側25へ切り替える。この第二の運転状態は、前述のシフトアップ操作時に相当する。潤滑油の排出により、クランクシャフトギヤ3の回転速度は下降するので、車両の変速時のショックを緩和することができる。
【0034】
さらに、制御手段20は、第一の運転状態及び第二の運転状態以外の運転状態である第三の運転状態では、切替手段13を戻し通路26側へ切り替える。
【0035】
例えば、オイルパンAでの潤滑油の量が足りている場合、すなわち、油面の高さhが所定高さ以上である場合は、潤滑油のオイルパンA上への回収を急がない状態である。このため、シフトダウン操作時等の第一の運転状態では、潤滑油の排出による動力回収効果を狙い、シフトアップ操作時等の第二の運転状態では、潤滑油の排出によるブレーキ効果を狙う。それ以外の第三の運転状態では、潤滑油をオイルパンAへ直接落下させ、潤滑油の早期回収効果を狙う。油面の高さhが所定高さ以上であるかどうかは、オイルセンサ(図示せず)で検知することができる。
【0036】
オイルパンAでの潤滑油の量が足りていない場合、すなわち、油面の高さhが所定高さ未満である場合は、潤滑油のオイルパンA上への回収を急ぐ状態である。このため、切替手段13を戻し通路26側へ切り替え、潤滑油をオイルパンAへ直接落下させることが望ましい。
【0037】
このように、ポンプ装置11のリリーフバルブ12から排出される潤滑油を活用するにあたって、その潤滑油の排出先を運転状況に応じて切り替えるようにし、さらに、その切り替え先を、動力回収効果を狙う箇所、ブレーキ効果を狙う箇所、オイルパンAへの早期回収効果を狙う箇所に切り替えるようにしたので、潤滑油を送り出すポンプ装置11内の油圧を有効に活用することができる。
【0038】
また、このようなクランクシャフトギヤ3への潤滑油の排出により、エンジン5内において、各種ギヤにてチェーン駆動、ベルト駆動、その他手段で駆動されている部分の摩擦熱の冷却効果も得ることができる。また、リリーフバルブ12から直接オイルパンA内に高圧で排出される潤滑油が低減されるので、オイル泡立ちやエアレーション、油面変化等の攪拌影響を抑制する効果も期待できる。
【0039】
他の実施形態を
図2に示す。この
図2の実施形態は、駆動体としてのクランクシャフトギヤ3に、第一排出通路24から排出される潤滑油、及び、第二排出通路25から排出される潤滑油が当たる羽根4を備えたものである。羽根4は、第一排出通路24から排出される潤滑油が当たる羽根4a、及び、第二排出通路25から排出される潤滑油が当たる羽根4bを共通の部材とし、その羽根4の表裏面を活用している。ただし、この羽根4aと羽根4bを別々の部材で構成してもよい。また、第一排出通路24から排出される潤滑油が当たる羽根4a、第二排出通路25から排出される潤滑油が当たる羽根4bのどちらか一方のみを設けるようにしてもよい。
【0040】
図1の実施形態のように、クランクシャフトギヤ3のギヤ歯部3a,3bに潤滑油を直接当てるよりも、
図2の実施形態のように、羽根4に車を設けてより広い面積に潤滑油を当てる方が、水車と同じ原理により、より効率的な動力回収効果、ブレーキ効果が期待できる。
【0041】
上記の各実施形態では、第一の運転状態としてシフトダウン操作時を適用したが、それ以外にも、クランクシャフトギヤ3の動作速度の増加を示す指標の絶対値、例えば、動作速度(回転速度)の単位時間当たりの変化量で示される変化率の絶対値が、予め設定された増加側閾値以上であり、動作速度の変化が不連続又は急激で走行する車両に大きなショックを生じるような場合に適用できる。
【0042】
また、ここでは、第二の運転状態としてシフトアップ操作時を適用したが、それ以外にも、クランクシャフトギヤ3の動作速度の減少を示す指標の絶対値、例えば、動作速度(回転速度)の単位時間当たりの変化量で示される変化率の絶対値が、予め設定された減少側閾値以上であり、動作速度の変化が不連続又は急激で走行する車両に大きなショックを生じるような場合に適用できる。
【0043】
また、第一の運転状態であるか第二の運転状態であるか、あるいは、第三の運転状態であるかに関わりなく、切替手段13を制御することもできる。
【0044】
例えば、第一排出通路24から潤滑油を排出する運転状態として、アクセル踏込時又はブレーキオフ時を適用できる。また、例えば、第二排出通路25から潤滑油を排出する運転状態として、ブレーキ踏込時又はアクセルオフ時を適用できる。アクセル踏込時であるかどうかは、アクセル開度センサ16で検知することができる。また、ブレーキ踏込時であるかどうかは、ブレーキセンサ17で検知することができる。
【0045】
例えば、上り坂や平坦路等において、アクセルが踏みこまれているか、あるいは、ブレーキが踏まれていないような運転状態では、第一排出通路24を通じて、クランクシャフトギヤ3の動作方向の順方向に沿ってそのクランクシャフトギヤ3に向かって潤滑油を排出することで、動力回収効果が期待できる。ただし、オイルパンAの油面高さhが、所定高さ以上であることが前提である。
【0046】
例えば、下り坂等において、アクセルが踏まれておらず、惰性で走行するような運転状態では、第二排出通路25を通じて、クランクシャフトギヤ3の動作方向と反対方向に沿ってそのクランクシャフトギヤ3に向かって潤滑油を排出することで、ブレーキ効果が期待できる。ただし、同じく、オイルパンAの油面高さhが、所定高さ以上であることが前提である。
【0047】
上記の実施形態では、リリーフ通路22をポンプ装置11に接続したが、リリーフ通路22は、ポンプ装置11の下流側の供給通路27に接続してもよい。
【0048】
また、上記の実施形態では、駆動体3としてクランクシャフトギヤ、特に、クランクシャフトドリブンギヤを適用したが、エンジンの駆動力によって回転する部材であれば、他の駆動体3であってもよい。例えば、クランクシャフトのカウンタウェイトを駆動体3としてもよいし、クランクシャフト1の回転とともに回転するフライホイ−ルやその他部材を駆動体3としてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 クランクシャフト
2 回転軸
3 駆動体(クランクシャフトギヤ)
3a,3b ギヤ歯部
4,4a,4b 羽根
5 エンジン
10 潤滑油供給装置
11 ポンプ装置
12 リリーフバルブ
13 切替手段
14 油圧センサ
15 回転センサ
16 アクセル開度センサ
17 ブレーキセンサ
20 制御手段
21 吸引通路
22,23 リリーフ通路
24 第一排出通路
25 第二排出通路
26 戻し通路
27 供給通路
30 変速装置
31 クラッチ