特許第6848788号(P6848788)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848788
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】医療用セメントおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/04 20060101AFI20210315BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20210315BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20210315BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20210315BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20210315BHJP
   A61L 27/48 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   A61L24/04 200
   C08F2/44 C
   C08F265/06
   A61L27/18
   A61L24/00 310
   A61L27/48
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-186535(P2017-186535)
(22)【出願日】2017年9月27日
(65)【公開番号】特開2019-58466(P2019-58466A)
(43)【公開日】2019年4月18日
【審査請求日】2020年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上田 政宏
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 愛
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−014429(JP,A)
【文献】 特開2015−229770(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/036250(WO,A1)
【文献】 特表平07−500990(JP,A)
【文献】 特開平04−360808(JP,A)
【文献】 特開2000−245821(JP,A)
【文献】 特開平02−036873(JP,A)
【文献】 特表2014−515772(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 24/00
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体(A)、単量体(B)、および重合開始剤(C)を含有する医療用セメントであって、
前記単量体(B)は、下記式(B1)に示す単量体(B1)および下記式(B2)に示す単量体(B2)を有し、
【化1】

((式(B1)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数4〜17の2価の炭化水素基を示し、Rは水素原子、または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。)
【化2】

( 式(B2)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは2価の炭化水素基を示し;Xはそれぞれ独立に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子、もしくはメチレン基を示し;ただし、2つのX のうち少なくとも1つはヘテロ原子を示し; m は0〜2を示し;nは0〜2を示し;m+n≧1を示す。)
前記重合体(A)が、1官能の単量体由来の構造と、2官能以上の単量体由来の構造からなり、前記1官能の単量体由来の構造が(メタ)アクリル系単量体由来の構造単位を含む重合体であり、前記単量体(B2)が、(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルメタクリレートであり、前記単量体(B)が、さらに、下記式(B3)に示す単量体(B3)を有する医療用セメント。
【化3】

( 式(B3)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数1〜3のアルカンジイル基を示し; Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルコキシ基を示す。)
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系単量体由来の構造単位が、メチル(メタ)アクリレート由来の構造単位である請求項1に記載の医療用セメント。
【請求項3】
前記単量体(B1)100質量部に対して、前記単量体(B2)が50〜200質量部有する請求項1または2に記載の医療用セメント。
【請求項4】
前記単量体(B1)が、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジフェニル(メタ)アクリレート、p−ジフェニル(メタ)アクリレート、1−ナフチルメタクリレート、1−ナフチル(メタ)アクリレート、トリフェニルメチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、またはトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートである、請求項1〜3のいずれかに記載の医療用セメント。
【請求項5】
前記重合開始剤(C)が、酸化剤(C11)と還元剤(C12)からなるレッドクス系開始剤(C1)である、請求項1〜4のいずれかに記載の医療用セメント。
【請求項6】
前記単量体(B3)が、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、またはエトキシメチル(メタ)アクリレートである、請求項1〜5のいずれかに記載の医療用セメント。
【請求項7】
単量体(B)と、レッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)とを有する液剤であって、
前記単量体(B)は、下記式(B1)に示す単量体(B1)および下記式(B2)に示す単量体(B2)を有し、
レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)を含まず、
前記単量体(B2)が、(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルメタクリレートであり、前記単量体(B)が、さらに、下記式(B3)に示す単量体(B3)を有する液剤。
【化4】

((式(B1)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数4〜17の2価の炭化水素基を示し、Rは水素原子、または(メタ)アクリロイルオキシ基を示す。)
【化5】

( 式(B2)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは2価の炭化水素基を示し;Xはそれぞれ独立に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子、もしくはメチレン基を示し;ただし、2つのX のうち少なくとも1つはヘテロ原子を示し; m は0〜2を示し;nは0〜2を示し;m+n≧1を示す。)
【化3】

( 式(B3)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数1〜3のアルカンジイル基を示し; Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルコキシ基を示す。)
【請求項8】
重合体(A)と、レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)とを含む粉剤
請求項7に記載の液剤:
からなり、
前記重合体(A)が、1官能の単量体由来の構造と、2官能以上の単量体由来の構造からなり、前記1官能の単量体由来の構造が(メタ)アクリル系単量体由来の構造単位を含む重合体であるセメント用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用セメントおよびその使用に関する。より詳しくは、医療用セメント、該セメントから形成される成形体、並びに該セメントの製造に用いられる液剤およびセメント用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
人体の骨の補綴や人工関節等の移植物の固定などの医療的行為だけでなく、美容整形などでも骨セメント等の医療用セメントは使われている。
一般的に骨セメントは、重合開始剤の存在下、ポリメチルメタクリレート等の重合体の粉体を含む粉剤と、メチルメタクリレート等の単量体の液体を含む液剤とを、混合して作られている。そして、骨セメントの混合は、医師等が施術中の適切なときに、粉剤と液剤とを混合して作られる。
【0003】
このように骨セメントは施術中に混合するため、医師等の施術者の経験や能力によっては各成分が十分に混合できず、混合が不十分である場合、患部適用後骨セメントの硬化が十分に進まず、未反応の単量体が溶出し、場合によっては重篤な健康被害が起こる事例が知られている(非特許文献1参照)。
そして、メチルメタクリレートを用いた骨セメントは推体等の生体への溶出が起こりやすいことが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−030985号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】厚生労働省「医薬品・医療機器等安全情報216」(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、単量体の溶出の少ない成形体を形成する医療用セメントを提供することを目的する。また、前記医療用セメントを硬化させてなる成形体を提供すること、前記医療用セメントに用いられる液剤を提供すること、および前記医療用セメントを製造するためのセメント用キット提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、以下の[1]〜[8]である。
[1]重合体(A)、単量体(B)、および重合開始剤(C)を含有する医療用セメントであって、
前記単量体(B)は、下記式(B1)に示す単量体(B1)および下記式(B2)に示す単量体(B2)を有することを特徴とする医療用セメント。
【0008】
【化1】

(式(B1)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数4以上の2価の炭化水素基を示し、Rは水素原子、または(メタ)アクリロイル基を示す。)
【0009】
【化2】

(式(B2)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは2価の炭化水素基を示し;Xはそれぞれ独立に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子、もしくはメチレン基を示し;ただし、2つのXのうち少なくとも1つはヘテロ原子を示し;mは0〜2を示し;nは0〜2を示し;m+n≧1を示す。)
【0010】
[2]前記重合体(A)が、(メタ)アクリル系単量体由来の構造単位を含む重合体である前記[1]の医療用セメント。
【0011】
[3]前記単量体(B1)100質量部に対して、前記単量体(B2)が50〜200質量部有する前記[1]または[2]に記載の医療用セメント。
【0012】
[4]前記単量体(B)が、さらに、下記式(B3)に示す単量体(B3)を有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の医療用セメント。
【0013】
【化3】

(式(B3)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数1〜3のアルカンジイル基を示し;Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルコキシ基を示す。)
【0014】
[5]前記重合開始剤(C)が、酸化剤(C11)と還元剤(C12)からなるレッドクス系開始剤(C1)である、前記[1]〜[4]の何れかに記載の医療用セメント。
【0015】
[6]前記[1]〜[6]のいずれかに記載の医療用セメントを硬化させてなる成形体。
【0016】
[7]単量体(B)と、レッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)とを有する液剤であって、
前記単量体(B)は、下記式(B1)に示す単量体(B1)および下記式(B2)に示す単量体(B2)を有することを特徴とする液剤。
【0017】
【化4】

(式(B1)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数4以上の2価の炭化水素基を示し、Rは水素原子、または(メタ)アクリロイル基を示す。)
【0018】
【化5】

(式(B2)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは2価の炭化水素基を示し;Xはそれぞれ独立に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子、もしくはメチレン基を示し;ただし、2つのXのうち少なくとも1つは酸素原子を示し;mは0〜2を示し;nは0〜2を示し;m+n≧1を示す。)
【0019】
[8]重合体(A)と、レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)とを含む粉剤:
前記[7]に記載の液剤;
からなるセメント用キット。
【発明の効果】
【0020】
本発明の医療用セメントによれば、単量体の溶出の少ない成形体を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<医療用セメント>
本発明の医療用セメントは、重合体(A)、単量体(B)、および重合開始剤(C)を含有し、
前記単量体(B)は、前記式(B1)に示す単量体(B1)および前記式(B2)に示す単量体(B2)を有する。
【0022】
本発明の医療用セメントは、重合開始剤(C)の存在下、重合体(A)を含む粉剤と、単量体(B)を含む液剤とを混合することによって製造する。粉剤中の重合体(A)のポリマーネットワーク中に、単量体(B)を含む液が浸透し、重合体(A)が膨潤することで粘土状の医療用セメントになる。
【0023】
本発明の医療用セメントに含まれる、重合体(A)、単量体(B)、および重合開始剤(C)の合計の含有割合は、通常、70質量%以上、好ましくは85質量%以上である。
【0024】
<重合体(A)>
重合体(A)は、本発明の医療用セメントを硬化させてなる成形体に圧縮強度などの機械的強度を付与するものである。そして、重合体(A)は、医療用セメントの製造に用いられる粉剤に含まれる成分であり、粒子である。
【0025】
重合体(A)は、1官能の単量体由来の構造と、2官能以上の単量体由来の構造からなる重合体である。
重合体(A)を構成する1官能の単量体としては、例えば、
アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、およびシクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系単量体;
スチレン、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、およびp−イソプロペニルフェノール等のスチレン系単量体;
アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、およびN−(2−ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミド等のアミド系単量体;
2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−(又は3−)ヒドロキシプロピルアリルエーテル、2−(又は3−、又は4−)ヒドロキシブチルアリルエーテル等のビニルエーテル系単量体;ならびに
エチレン、プロピレン、およびブタジエン等のオレフィン系単量体;
等が挙げられる。
【0026】
これら1官能の単量体の中でも、好ましくは(メタ)アクリル系単量体、さらに好ましくはメチル(メタ)アクリレートである。重合体(A)を構成する単量体が、(メタ)アクリル系単量体であれば、稠度発現の点で優れる。
これら1官能の単量体は1種のみであっても2種以上であってもよい。
なお、本発明における(メタ)アクリレートは、メタクリレートとアクリレートのどちらかであることを示す。
【0027】
重合体(A)を構成する2官能以上の単量体としては、例えば、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、およびトリメチロールプロパントリメタクリレート等の多官能性単量体;が挙げられる。
【0028】
重合体(A)のゲルパーミエーションカラムクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、通常、50,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜800,000であり、数平均分子量(Mn)は、通常、30,000〜800,000、好ましくは50,000〜400,000である。
【0029】
重合体(A)の平均粒子径は、通常、3〜50μm、好ましくは5〜40μmである。前記平均粒子径は、電子顕微鏡で100個の粒子の直径を測定した値の平均値を示す。
重合体(A)の粒子は一次粒子であっても、二次粒子であってもよい。
【0030】
重合体(A)は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
医療用セメントに含まれる、重合体(A)の含有割合は、通常、40〜80質量%、好ましくは、50〜65質量%であり、前記範囲内であれば、医療用セメント製造時のハンドリング性に優れ、さらに強度に優れた成形体を製造することができる。
【0031】
<単量体(B)>
単量体(B)は、医療用セメントの製造に用いられる液剤に含まれる成分である。
単量体(B)は、常温で液体である。なお、本発明における「常温」は1気圧における23℃を示す。
単量体(B)は、前記式(B1)に示す単量体(B1)および前記式(B2)に示すように、環状カーボネート構造またはラクトン構造を有する単量体(B2)を有する。
【0032】
単量体(B)は、粉剤中に含まれる重合体(A)を膨潤させるものであり、膨潤することで増粘して粘土状の医療用セメントになる。
また、単量体(B)が、重合開始剤(C)の作用により、重合反応することで、医療用セメントを硬化し、成形体を形成する。
【0033】
単量体(B)が重合体(A)を膨潤させることで、単量体(B)の重合反応によって生じたポリマーが、重合体(A)と共に、相互侵入網目構造またはセミ相互侵入網目構造を形成し、未反応の単量体(B)などの溶出の少ない成形体となる。
【0034】
一般的に、重合体の膨潤は、膨潤媒として機能する単量体との溶解性が重要な物性となる。Hansenらによって提唱された溶解パラメーター(以下、「HSP」)は、2種以上の成分を含有する混合液を膨潤媒として用いた場合における、溶解性を示す指標として広く知られている。
【0035】
HSPは、分散項(dD)、極性項(dP)、および水素結合項(dH)からなる3次元座標の1点で表される。また、膨潤媒として2種以上の成分を含有する混合液を用いた場合、その混合液のHSPの座標は、それぞれの成分のHSPの座標が結ぶ線分上となり、その座標は、各成分の体積比によって決まる。
【0036】
そして、膨潤質と膨潤媒との親和性は、それぞれのHSP座標間の距離で評価でき、その距離が近いと膨潤質と膨潤媒の親和性は大きく、一方、その距離が遠いと膨潤質と膨潤媒の親和性は小さい。
【0037】
通常、ポリ(メタ)アクリレートなどの重合体(A)の、通常、dDは15〜20、dPは5〜12、dHは5〜10である。
【0038】
単量体(B1)は、Rは炭素数2以上の2価の炭化水素基を示し、Rは水素原子、または(メタ)アクリロイル基を有していることから、通常、dDは15〜20、dPは2〜5、dHは4〜9である。
また、単量体(B2)は、環状カーボネート構造又はラクトン構造を有していることから、通常、dDは15〜20、dPは10〜18、dHは5〜10である。
単量体(B1)および単量体(B2)のdDおよびdHは、重合体(A)のdDおよびdHとほぼ同じ値であるが、単量体(B1)のdPは、重合体(A)のdPに比べて低く、単量体(B2)のdPは、重合体(A)のdPに比べて高い。
【0039】
よって、単量体(B1)と単量体(B2)からなる混合液のHSPの座標は、単量体(B1)のdPと、単量体(B2)のdPの体積基準の積算平均値が、重合体(A)のdPと同じになるように、単量体(B)中に含まれる単量体(B1)および単量体(B2)の含有量を調整すれば、重合体(A)のHSPの座標とほぼ同じ座標に調整することが可能である。
つまり、単量体(B1)と単量体(B2)からなる混合液のHSPの座標は、重合体(A)のHSPの座標とほぼ同じ座標に調整可能である。
【0040】
以上の考察により、単量体(B1)および単量体(B2)からなる混合液は、重合体(A)と親和性が高く、重合体(A)を良好に膨潤することができ、その結果、未反応の単量体(B)などの溶出の少ない成形体を形成することができたものと推定される。
【0041】
さらに、単量体(B1)は、Rは炭素数2以上の2価の炭化水素基であり、Rは水素原子、または(メタ)アクリロイル基であることから、疎水性の高い単量体であり、そのため、生体などの水を含む環境への溶出は抑えられたと推定される。
【0042】
また、単量体(B2)は、環状カーボネート構造またはラクトン構造を有することから、骨セメント組成物の硬化時に成長ラジカルが共鳴安定化するため高分子量のポリマーを生成しやすい単量体であり、そのため残留モノマーが少なくなり、生体への溶出は抑えられると推定される。
【0043】
単量体(B1)は下記式(B1)に示す単量体である。
【0044】
【化6】

(式(B1)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数4以上の2価の炭化水素基を示し、Rは水素原子、または(メタ)アクリロイル基を示す。)
【0045】
前記Rにおける炭素数1〜2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、およびエチニレン基等が挙げられる。
前記Rにおける炭素数4以上の2価の炭化水素基としては、例えば、
ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−ジイル基、テトラデカン−1,14−ジイル基、ペンタデカン−1,15−ジイル基、ヘキサデカン−1,16−ジイル基、およびヘプタデカン−1,17−ジイル基等の直鎖状アルカンジイル基;
【0046】
エタン−1,1−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、ペンタン−2,4−ジイル基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基、2−メチルプロパン−1,2−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、2−メチルブタン−1,4−ジイル基、および2−エチルヘキサン−1,6−ジイル基等の分岐状アルカンジイル基;
シクロブタン−1,3−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基、シクロオクタン−1,5−ジイル基等のシクロアルカンジイル基である単環式の2価の脂環式飽和炭化水素基;
ノルボルナン−1,4−ジイル基、ノルボルナン−2,5−ジイル基、アダマンタン−1,5−ジイル基、アダマンタン−2,6−ジイル基、およびトリシクロデカンジイル等の多環式の2価の脂環式飽和炭化水素基;
フェニレン基、トシレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、キシリレン基、アントラセニレン基等の2価の芳香族炭化水素基;が挙げられる。
これらの中でも、分岐状アルカンジイル基を有する単量体(B1)を含む単量体(B)が重合体(A)を良好に膨潤させることができることから好ましい。
【0047】
単量体(B1)としては、例えば、
iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、およびn−ノニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート系単量体;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエチル(メタ)アクリレート、およびアダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジフェニル(メタ)アクリレート、p−ジフェニル(メタ)アクリレート、1−ナフチルメタクリレート、1−ナフチル(メタ)アクリレート、およびトリフェニルメチル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート系単量体;
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、およびトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体;が挙げられる。
【0048】
単量体(B1)は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単量体(B)中に含まれる単量体(B1)の含有割合は、通常、5〜80質量%、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜35質量%である。
単量体(B)中に含まれる単量体(B1)の含有割合が前記範囲内であれば疎水性組織への接着性に優れた医療用セメントになる。
【0049】
単量体(B2)は下記式(B2)に示す単量体である。
【0050】
【化7】

(式(B2)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは2価の炭化水素基を示し;Xはそれぞれ独立に酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選ばれるヘテロ原子、もしくはメチレン基を示し;ただし、2つのXのうち少なくとも1つはヘテロ原子を示し;mは0〜2を示し;nは0〜2を示し;m+n≧1を示す。)
【0051】
前記Rにおける炭素数1〜2のアルキル基としては、メチル基、エチル基、およびエチニレン基等が挙げられる。
前記Rにおける炭素数3以上の炭化水素基としては、例えば、プロパン−1,3−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−ジイル基、テトラデカン−1,14−ジイル基、ペンタデカン−1,15−ジイル基、ヘキサデカン−1,16−ジイル基、ヘプタデカン−1,17−ジイル基、2−エチルヘキシレン等の直鎖状アルカンジイル基;
【0052】
エタン−1,1−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、ペンタン−2,4−ジイル基、2−メチルプロパン−1,3−ジイル基、2−メチルプロパン−1,2−ジイル基、ペンタン−1,4−ジイル基、2−メチルブタン−1,4−ジイル基、2−エチルヘキサン−1,6−ジイル基等の分岐状アルカンジイル基;
シクロブタン−1,3−ジイル基、シクロペンタン−1,3−ジイル基、シクロヘキサン−1,4−ジイル基、シクロオクタン−1,5−ジイル基等のシクロアルカンジイル基である単環式の2価の脂環式飽和炭化水素基;
ノルボルナン−1,4−ジイル基、ノルボルナン−2,5−ジイル基、アダマンタン−1,5−ジイル基、アダマンタン−2,6−ジイル基等の多環式の2価の脂環式飽和炭化水素基;
フェニレン基、トシレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、キシリレン基、アントラセニレン基等の2価の芳香族炭化水素基;が挙げられる。
これらの中でも、直鎖アルカンジイル基を有する単量体(B2)が単量体(B1)等の他の単量体との共重合性に優れることから、溶出の少ない成形体を形成することができるため好ましい。
【0053】
単量体(B2)としては、例えば、
(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチル(メタ)アクリレート、(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)エチル(メタ)アクリレート、(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)プロピル(メタ)アクリレート、および(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)ブチル(メタ)アクリレート等の環状カーボネート構造含有(メタ)アクリレート系単量体;
2−(メタ)アクリロイルオキシアセトキシ−3−メチル−γ−ブチロラクトン、2−(メタ)アクリロイルオキシアセトキシ−3,3−ジメチル−γ−ブチロラクトン、2−(メタ)アクリロイルオキシアセトキシ−4−メチル−γ−ブチロラクトン、2−(メタ)アクリロイルオキシアセトキシ−4,4−ジメチル−γ−ブチロラクトン、および2−(メタ)アクリロイルオキシアセトキシ−3−メチル−δ−バレロラクトン等のラクトン構造含有(メタ)アクリレート系単量体;が挙げられる。
【0054】
単量体(B2)は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単量体(B)中に含まれる単量体(B2)の含有量は、単量体(B)中に含まれる単量体(B1)100質量部に対して、通常、30〜300質量部、好ましくは50〜200質量部、より好ましくは80〜150質量部である。
単量体(B)中に含まれる単量体(B2)の含有量が前記範囲内であればセメント混練時の稠度発現の点に優れた医療用セメントになる。
【0055】
単量体(B)としては、単量体(B1)および単量体(B2)以外に、下記式(B3)に示す単量体(B3)を含有することができる。
【0056】
【化8】

(式(B3)中、Rは水素原子または炭素数1〜2のアルキル基を示し;Rは炭素数1〜3のアルカンジイル基を示し;Rは水素原子、または炭素数1〜3のアルコキシ基を示す。)
【0057】
単量体(B3)の、dDは15〜20、dPは5〜15、dHは5〜10であることから、単量体(B1)および単量体(B2)と組み合わせても、重合体(A)のHSPの座標と近い座標に調整することが可能であることから、単量体(B3)を含む混合液は、重合体(A)を良好に膨潤することができると推定される。
【0058】
前記Rにおける炭素数1〜2のアルキル基としては、メチル基、およびエチル基等が挙げられる。
前記Rにおける炭素数1〜3のアルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、およびプロピレン基等が挙げられる。
前記Rにおける炭素数1〜3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、およびプロピオキシ基等が挙げられる。
【0059】
単量体(B3)としては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、およびプロピル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート系単量体;
メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、およびエトキシメチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート系単量体;が挙げられる。
【0060】
単量体(B3)は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単量体(B)中に含まれる単量体(B3)の含有量は、単量体(B)中に含まれる単量体(B1)100質量部に対して、通常、50〜300質量部、好ましくは60〜200質量部、より好ましくは70〜180質量部である。
単量体(B)中に含まれる単量体(B3)の含有量が前記範囲内の単量体(B)は、重合体(A)をとの相溶性を良好に膨潤させることができることから好ましい。
【0061】
単量体(B)は、単量体(B1)、単量体(B2)およびアルキル(メタ)アクリレート(B3)以外に、単量体(B)のHSPの座標を大きく変えない範囲で以下のその他単量体を用いることができる。
【0062】
前記その他単量体としては、例えば、
スチレン、およびジビニルベンゼン等のスチレン誘導体;ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;および10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等のリン酸基含有アクリレートが挙げられる。
【0063】
医療用セメントに含まれる単量体(B)の含有量は、医療用セメントに含まれる重合体(A)100質量部に対して、通常、30〜150質量部、好ましくは40〜120質量部、より好ましくは50〜100質量部である。
医療用セメント中に含まれる単量体(B)の含有量が前記範囲内であれば医療用セメント製造時のハンドリング性に優れ、さらに強度に優れた成形体を製造することができる。
【0064】
<重合開始剤(C)>
重合開始剤(C)は、単量体(B)の重合を開始させる成分である。
重合開始剤(C)としては、有機過酸化物、アゾ化合物、および酸化剤(C11)と還元剤(C12)からなるレドックス系開始剤(C1)が挙げられる。これらの中でも体温付近で穏やかにラジカルを発生させることができることから、周囲組織への悪影響が小さいため、レドックス系開始剤が好ましい。
【0065】
前記酸化剤(C11)としては、過酸化ベンゾイル、2 ,4−ジクロルベンゾイルパーオキシド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2 ,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ[( o−ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ]ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、およびt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられ、通常、常温で粉体の化合物である。
【0066】
前記還元剤(C12)としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N ,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−プロピルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ベンゼンスルフィン酸、およびトルエンスルフィン酸カルシウム等が挙げられる。
【0067】
重合開始剤(C)は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
医療用セメント中に含まれる重合開始剤(C)の含有量は、医療用セメント中に含まれる重合体(A)100質量部に対して、通常、1〜15質量部、好ましくは2〜10質量部であり、前記範囲内であれば、溶出の少ない成形体を形成できることから好ましい。
【0068】
<その他成分>
本発明の医療用セメントは、本発明の効果を阻害しない範囲で、重合体(A)、単量体(B)、および重合開始剤(C)以外のその他成分を含有してもよい。
前記その他成分としては、無機粒子;ヒドロキノン、およびtert−ブチルヒドロキノン等の重合禁止剤;ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤;シリコーンゴム等の軟質剤;クエン酸エステル等の可塑剤;ならびに抗菌剤および抗生物質等の薬剤;を挙げられる。
【0069】
前記無機粒子としては、例えば、二酸化チタン、リン酸カルシウム(ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム)、硫酸バリウム、シリカ、アルミナ、およびジルコニアが挙げられる。
【0070】
前記無機粒子は、その種類によりそれぞれ目的が異なり、例えば、
二酸化チタンは体液内でアパタイトを形成する機能を有することから、医療用セメントを硬化してなる成形体に高い生体活性能を付与することが可能となり;
酸化ジルコニウムや硫酸バリウムはX線に対して造影効果を有することから、酸化ジルコニウムや硫酸バリウムを含有する医療用セメントは、施術中に医療用セメントが適切に適用されているのかを視覚的に確認することが可能なる。
前記無機粒子は目的に合わせてその種類を選べばよい。
医療用セメント中に含まれる無機粒子の含有割合は、通常、30質量%以下、好ましくは10〜20質量%である。
【0071】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明の医療用セメントを硬化させてなる。
前記「硬化」とは、医療用セメント中に含まれる単量体(B)が重合開始剤(C)により重合して、重合体(A)と共に相互侵入網目構造またはセミ相互侵入網目構造を形成することを示す。
【0072】
前記「硬化」に際しては、体温(35〜38℃)のみで重合反応を進めてもよく、また、外部から熱や光を用いて重合反応を促進させてもよく、成形体の適用先によって適宜選択すればよい。
【0073】
例えば、経皮的推体形成術などの場合、施術中に外部から熱や光を加えることが困難であることから、患者の体温(35〜38℃)のみで重合反応を進めればよく;
虫歯治療におけるコンポジットレジンを行う場合は、成形体に硬さが必要であるため、外部から温水などを用いて加熱硬化させればよい。
【0074】
本発明の医療用セメントの好適例である、重合開始剤(C)がレドックス開始剤(C1)である場合、患者の体温付近で重合反応が進むものであることから、特に、経皮的推体形成術などの骨用の医療用セメントとして好適に用いることができ、また、該医療用セメントを硬化させてなる成形体は骨用の成形体として好適に用いることができる。
【0075】
本発明の成形体は、単量体の溶出の少ないことから、虫歯治療におけるコンポジットレジン、人体の骨の補綴、および人工関節の固定等に好適に用いることができる。
【0076】
<セメント用キット>
本発明のセメント用キットは、重合体(A)と、レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)とを含む粉剤;および単量体(B)と、レッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)とを含む液剤;からなる。
本発明のセメント用キットは、粉剤と液剤の2剤を混合するのみで容易に医療用セメントを製造することができることから、施術者の経験や能力に依存せず、適切な医療用セメントを製造することができる。
【0077】
また、本発明のセメント用キットは、レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)と、レッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)とが、それぞれ粉剤と液剤に分かれて含有していることから、長期貯蔵安定性の点で優位である。
粉剤および液剤の詳細を後述する。
【0078】
<粉剤>
粉剤は、重合体(A)と、レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)とを含む。
重合体(A)は常温で粉体の化合物であり、また、酸化剤(C11)も常温で粉体の化合物である。
【0079】
粉剤中に含まれる重合体(A)と、レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)との合計の含有割合は、通常、70〜95質量%、好ましくは80〜90質量%である。
また、粉剤中に含まれる重合体(A)100質量部に対して、レッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)の含有量は、通常、0.6〜6質量部、好ましくは2〜4質量部である。
【0080】
粉剤には、重合体(A)およびレッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)以外に、医療用セメントに含まれる成分において、単量体(B)およびレッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)以外の常温で固体の成分を含有してもよい。
そのような成分としては、例えば、前記無機粒子、ゲンタマイシン等の抗菌剤、およびシリコーンゴム等の軟質剤が挙げられる。
【0081】
粉剤は、粉剤に含まれる各成分が均質に混ざり合うように混合することで製造することができる。また、粉剤中に空気が混ざり合わないように、脱気しながら混合するのが好ましい。
粉剤は、吸湿や光による分解を抑えるため、通常、褐色瓶等の遮光能を有する容器に入れて保管する。
【0082】
<液剤>
本発明の液剤は、単量体(B)と、レッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)とを含み、前記単量体(B)は、前記式(B1)に示す単量体(B1)および前記式(B2)に示す単量体(B2)を含有する。
ここで単量体(B)は、常温において液体である。
また、レドックス系開始剤(C1)は、常温において液体であっても、固体であってもどちらでもよいが、レドックス系開始剤(C1)が液体である場合は、液体である単量体(B)と混合しており、レドックス系開始剤(C1)が固体である場合は、液体である単量体(B)に溶解している必要がある。
【0083】
液剤中に含まれる単量体(B)と、レッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)との合計の含有割合は、通常、95〜100質量%、好ましくは98〜99質量%である。
また、液剤中に含まれる単量体(B)100質量部に対して、レッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)の含有量は、通常、1〜5質量部、好ましくは2〜4質量部である。
【0084】
液剤には、単量体(B)およびレッドクス系開始剤(C1)における還元剤(C12)以外に、医療用セメントに含まれる成分において、重合体(A)およびレッドクス系開始剤(C1)における酸化剤(C11)以外の単量体(B)に溶解または混合可能な成分を含有してもよい。
そのような成分としては、例えば、ヒドロキノン、tert−ブチルヒドロキノン等の重合禁止剤が挙げられる。
【0085】
液剤は、液剤に含まれる各成分が液体である単量体(B)に溶解または混合することで製造することができる。
液剤は、漏洩や単量体の重合反応を抑えるため、通常、褐色のアンプル瓶やスクリュー瓶等の遮光能を有する容器に入れて保管する。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0087】
[調製例1]粉剤の製造
ポリテトラフルオロエチレン製の容器に、重合体(A)として、ポリメタクリル酸メチル(製品名「MBX−8」、積水化成品工業(株)製、平均粒子径:8μm、数平均分子量:310,000、dD:18.6、dP:10.5、dH:5.1)8g、造影剤として、硫酸バリウム(販売コード:022−00425、和光純薬工業(株)製)1gを入れた。さらに、レドックス系開始剤(C1)の酸化物(C11)として、過酸化ベンゾイル(製品コード:B3152、東京化成(株)製)0.7gを入れ、脱気しながら、ミキサー(機器名「あわとり練太朗ARV−310」、THINKY社製)にて、1000rpmで3分間攪拌して、粉剤1を得た。
【0088】
[実施例1A]液剤1の製造
ポリテトラフルオロエチレン製の容器に、単量体(B)として、2−エチルヘキシルメタクリレート(略して「EHMA」)1.5g、(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルメタクリレート(略して「CCMA」)1.5g、およびメチルメタクリレート(略して「MMA」)7gを入れた。さらに、レッドクス系開始剤(C1)の還元剤(C12)として、N,N−ジメチル−p−トルイジン(略して「DMPT」)0.5gを入れ、スターラーにて5分間攪拌し、液剤1を製造した。
【0089】
[実施例2A〜3A、比較例1A〜6A]液剤2〜9の製造
下記表1に示す単量体(B)の種類および量を用いた以外は、実施例1Aと同様の操作にて、液剤2〜9を製造した。表1に液剤1〜9のHSPのdD、dPおよびdHを記載した。
【0090】
下記表1に示す成分の詳細は以下の通りである。
EHMA:2−エチルヘキシルメタクリレート
HDMA:1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート
CCMA:(2−オキソ−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
MEA:メトキシエチルアクリレート
DMPT:N,N−ジメチル−p−トルイジン
【0091】
【表1】
【0092】
[実施例1B]医療用セメント1の製造および評価
ポリテトラフルオロエチレン製の容器に、粉剤1を9.7g入れ、次いで、液剤1を10.5g入れ、ポリテトラフルオロエチレン製のスパチュラで60rpmで外観が透明になるまで攪拌し、医療用セメント1を製造した。攪拌に要した時間は3分であった。
【0093】
[実施例2B〜3B、比較例1B〜6B]医療用セメント2〜9の製造
実施例1Bにおいて、液剤1の代わりに液剤2〜9を用いた以外は、実施例1Bと同様の操作にて、医療用セメント2〜9の製造を行った。外観が透明になるまで攪拌に要した時間を、「溶解能」として以下の基準にて評価した。評価結果を下記表2に示す。
A:4分未満で外観が透明になった場合。
B:4分以上、5分未満で外観が透明になった場合。
C:5分以上、1000分未満で外観が透明になった場合。
D:1000分で外観が透明にならなかった場合。
【0094】
【表2】
【0095】
[実施例1C]成形体1の製造および評価
ポリテトラフルオロエチレン製の円柱型容器(容積:6mmφ/h=12mm)に、医療用セメント1を充填し、封入した。封入後の容器を30℃で12時間静置した。静置後、容器から内容物を取り出し、円柱状の成形体1を製造した。
成形体1を、万能試験機(製品名「3382デュアルコラム床置型試験機」、イントロン社製)に取り付け、圧縮強度を測定したところ(クロスヘッドスピード:0.5mm/分)、50MPaであった。
また、成形体1を、2.5倍の体積のイオン交換水に37℃で5日間侵漬した。侵漬後の成形体1を乾燥し、侵漬前後での成形体1の重量変化にて、成形体1からの単量体(B)の溶出量を算出したところ、3質量%以下の重量減少であった。
【0096】
[実施例2C〜3C、比較例1C〜6C]成形体2〜10の製造および評価
実施例1Cにおいて、医療用セメント1の代わりに、医療用セメント2〜9を用いた以外は、実施例1Bと同様の操作にて、成形体2〜9の製造を行った。
次いで、実施例1Cと同様に、製造した成形体の圧縮強度を測定した。また、実施例1Cと同様に製造した成形体の溶出量を測定した。なお、溶出量は下記基準にて評価した。
A:3質量%未満の重量減少。
B:3質量%以上、5質量%未満の重量減少。
C:5質量%以上の重量減少。
【0097】
測定結果を表3に示す。なお、表3中の圧縮強度の「−」は成形体を製造できなかったことを示し、溶出量の「−」は成形体が製造できなかったことから、測定できなかったことを示す。
【0098】
【表3】