(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の好ましい形態を以下に示す。
本発明の電線保護パイプは、前記扁平部の前記凹み部側に、さらに一段凹んだ段差凹部が設けられているものとしてもよい。このような構成によれば、電線保護パイプを車体に取り付けるために用いるクランプを、段差凹部に取り付けることにより、クランプをパイプの軸方向に位置決めすることができる。
【0010】
また、本発明の電線保護パイプは、前記断面が真円形状をなす真円部を備え、前記真円部が曲げ加工されているものとしてもよい。ここで、扁平部を曲げ加工しようとすると、潰れる等して断面形状を保持できない虞がある。しかしながら、このような構成によれば、電線保護パイプの断面形状を適切に保持しつつワイヤハーネスの配策経路に沿うように曲げ加工することができる。
【0011】
また、本発明の電線保護パイプは、前記車体に取り付けられた状態では、前記扁平部の下端が、前記車体を補強する補強部材の下端より上方に位置するものとしてもよい。このような構成によれば、扁平部の下端が補強部材の下端よりも先に地面等にあたりにくいから、電線保護パイプをより確実に地面等に接触しにくくすることができる。
【0012】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した一実施例について、
図1〜
図6を参照しつつ詳細に説明する。
本実施例におけるワイヤハーネスWは、電気自動車あるいはハイブリッド車に搭載されるものである。このワイヤハーネスWは、複数(本実施例では2本)の電線20と、電線20を保護する電線保護パイプ(以後、単にパイプ10と称する)とを備えている。ワイヤハーネスWは、車両の前部に搭載された機器(モータ・インバータ等)M1と車両の後部に搭載された機器(高圧バッテリ等)M2とを接続する。ワイヤハーネスWは、車両前部から車両後部にわたるものであり、全長が3〜4m程度とされている。ワイヤハーネスWの大部分は、
図1に示すように、車両の床下(床板30の下方)に配索される。以下、各構成部材において、ワイヤハーネスWを車体に取り付けた状態における上側を上方、下側を下方として説明する。
【0013】
電線20は、可撓性を有する導体(例えば複数の金属素線を撚り合わせてなる撚線導体)を絶縁被覆で覆った、シールド機能を持たない通常の電線20である。電線の端部には図示しない端子金具が接続され、端子金具は、機器に接続可能なコネクタの内部に収容されている。
【0014】
ワイヤハーネスWは、電線20のうちパイプ10から導出している部分を包囲してシールドするシールド部材(図示せず)を備えている。シールド部材は、金属細線を筒状に編み込んだ編組部材や金属テープ等であり、シールド性及び可撓性を有している。シールド部材の一端は、パイプ10の軸方向の両端部に導通可能に接続され、他端は、コネクタに接続されている。パイプ10及びシールド部材によって、電線20の全長が覆われることにより、電線20から発生する電磁ノイズが遮蔽されている。
【0015】
パイプ10は、電線20のうち少なくとも床下に配される部分を包囲し、電線20に異物が干渉することを防ぐ。パイプ10は、金属製(例えば銅あるいは銅合金、またアルミニウムあるいはアルミニウム合金)の長尺な管体であり、シールド性及び形状保持性を有している。パイプ10は、ベンダー機によって所定の形状に曲げ加工(塑性変形)され、所定の曲げ形状を保持している。パイプ10の内部には、複数の電線20が一括して挿通されている。
【0016】
パイプ10は、
図2に示すように、車体の床板30の下方に配される床下部11を備えている。床下部11は、パイプ10の軸方向における両端部を除く大部分に設けられている。パイプ10の両端部(床下部11より前側の部分及び後側の部分)は、車体に取り付けられた状態において上向きに屈曲されている。なお、本実施例では、床下部11は、車体に固定された状態において、軸方向の両端から中央部に向かって次第に下がるように傾斜している。
【0017】
床下部11には、車体に取り付けられた状態における下側に凹み部12が形成されている。凹み部12は、真円形状をなす断面の片側のみを凹ませたものである。凹み部12は、床下部11の大部分(本実施例ではほぼ全体)にわたって設けられている。
【0018】
凹み部12は、床下部11の軸方向における所定範囲(この範囲は車体等の条件にあわせて適宜変更できる)にわたり連続した形態をなしている。凹み部12は、本実施例では、一続きのものが一のみ設けられている。凹み部12の上下方向の寸法(凹み寸法)は、全体において一定とされている。凹み部12を側方(パイプ10の軸線に対して交差する水平方向)から見ると、パイプ10の軸方向に延びる平らな面12Aと、その両端からパイプ10の径方向外方(本実施例では下方)に向かって立つ端面12Bとを有して、パイプ10の径方向の片側(下側)に開放された形状をなしている。凹み部12の平らな面12Aと端面12Bとの交差部分は丸く湾曲している。パイプ10のうち凹み部12が形成されない部分は、断面が真円(楕円または長円等を含まない円)形状をなす真円部13として残されている。
【0019】
床下部11のうち凹み部12が形成された部分は、
図5に示すように、軸方向と交差する断面が扁平な形状をなす扁平部14となっている。扁平部14の幅寸法(
図5における左右方向の寸法)は、真円部13の幅寸法と同等もしくは若干大きくされている。扁平部14の断面形状は、左右方向に長い形状をなしている。
【0020】
扁平部14は、凹み部12を構成する平らな平面部15と、平面部15の凹み部12とは反対側に設けられた円弧形状をなす曲面部16とを備えている。平面部15は、凹み部12の形成に伴って平らに潰された部分である。曲面部16は、凹み部12が形成される前の真円形状の一部が潰されずに残された部分である。
【0021】
扁平部14の軸方向における両端部(以後、エッジ部17と称する)は、断面形状が、扁平部14側から真円部13側に向かって次第に真円に近づいている。また、エッジ部17の高さ寸法(上下方向の寸法)は、扁平部14側から真円部13側に向かって次第に増している。エッジ部17のうち凹み部12に臨む面(端面12B)は、パイプ10の軸方向に対して傾斜している。
【0022】
扁平部14の下面(平らな面12A)には、さらに一段凹んだ段差凹部18が設けられている。段差凹部18は、扁平部14の所定の位置(クランプ21の取り付け位置)に設けられている。段差凹部18は、複数箇所(本実施例では2箇)に設けられている。
【0023】
段差凹部18は、凹み部12より小さい凹部である。段差凹部18の深さ寸法(上下方向の寸法)及び長さ寸法(軸方向の寸法)は、凹み部12の深さ寸法及び長さ寸法に比していずれも小さくされている。段差凹部18の軸方向における両端には、平らな面12Aとの間に段差部19が形成されている。この段差部19が、クランプ21の軸方向における両端に当接することにより、クランプ21を位置決めする。
【0024】
段差凹部18にはクランプ21が取り付けられている。クランプ21は合成樹脂製であり、車体に固定される車体固定部22と、パイプ10に固定されるパイプ固定部23とを一体に備えている。
【0025】
次に、本実施例におけるワイヤハーネスWを製造する方法の一例を説明する。
まず、全体が真円形状をなす従来のパイプ(以後、丸パイプPと称する)に電線20を挿通する。なお、
図6では、電線20を省略している。
【0026】
次いで、丸パイプPに凹み部12を形成する。凹み部12は、
図6に示すように、加圧ローラR1により丸パイプPの片側を加圧して形成する。丸パイプPの片側にあてた加圧ローラR1を、丸パイプPの軸方向における所定範囲にわたり回転駆動し、徐々に加圧する。丸パイプPは、加圧ローラR1と、これに対向して配置された図示しない受け部材との間に挟みこまれ、加圧ローラR1の圧力によって徐々に潰され、扁平な形状になっていく。加圧ローラR1の駆動範囲には、平らな面12Aが形成されるとともに、その両端部には、加圧ローラR1の外周面に沿うように緩やかに湾曲して連続した端面12Bが形成される。このとき、加圧ローラR1をゆっくり加圧することにより、加工時の丸パイプPの座屈、特に真円部13との境となるエッジ部17における座屈などの破損を防ぐことができる。
こうして丸パイプPの所定範囲に凹み部12を形成することにより、所定範囲に扁平部14が形成されたパイプ10ができる。
【0027】
次に、段差凹部18を形成する。段差凹部18は、加圧ローラR1よりも一回り小さいローラ(以後、小型ローラR2と称する)により形成する。平面部15の所定の位置に小型ローラR2をあて、クランプ21を嵌め込む範囲にわたり小型ローラR2を軸方向に回転駆動させてゆっくり加圧し、段差凹部18を形成する。段差凹部18の軸方向における両端部には、凹み部12と同様、緩やかに湾曲して立つ段差部19が形成される。
【0028】
次に、パイプ10を曲げ加工する。電線20の配策経路に沿うように、ベンダー機によって曲げ加工する。ここで、仮に扁平部14を曲げようとすると、曲げ部においてパイプ10が損傷等する虞がある。例えば扁平部14を上下方向(断面短手方向)に曲げる場合には、曲げ部において断面が潰れて内部の電線20を押圧する虞がある。また、扁平部14を左右方向(断面長手方向)に曲げる場合には、平面部15が座屈等してパイプ10が破損する虞がある。しかしながら、本実施例のパイプ10は、曲げ加工する部分を真円部13として残しているから、真円部13を曲げることでパイプ10を好適に曲げ加工することができる。
【0029】
次に、段差凹部18にクランプ21を取り付ける。段差凹部18に嵌め込むようにしてクランプ21を取り付けると、クランプ21の軸方向における両端部が、段差部19によって位置決めされる。
以上により、ワイヤハーネスWを製造する作業が完了する。
【0030】
次に、上記のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
本実施例のワイヤハーネスWは、内部に電線20が挿通されて車体に取り付けられるパイプ10を有し、パイプ10は、車体の床下に配される床下部11を備えている。床下部11には、車体に取り付けられた状態における下側に凹み部12が形成されることにより、軸方向と交差する断面が扁平な形状をなす扁平部14が設けられている。この構成によれば、扁平部14の高さ寸法は、真円形状をなすものに比して小さいため、地面等に接触しにくくすることができる。
【0031】
例えば
図5に示すように、従来のような真円形状のパイプでは、床下の補強部材(クロスメンバ等)31の下端よりパイプの下端が地面等に近くなることがある。このような場合、車両衝突時にパイプが真っ先に地面や縁石等に接触しやすく、パイプが地面等に接触すると折れる等の破損をして、パイプ内の電線を保護することができない場合がある。しかしながら、本実施例では、凹み部12が形成されてパイプ10の高さ寸法が小さくなることにより、パイプ10の下端が補強部材31の下端より上方に位置できる。よって、パイプ10を地面等に接触しにくくすることができ、もってパイプ10内の電線を確実に保護することができる。
【0032】
また、パイプ10は、扁平部14の凹み部12側に、さらに一段凹んだ段差凹部18が設けられている。この構成によれば、パイプ10を車体に取り付けるために用いるクランプ21を、段差凹部18に取り付けることにより、パイプ10の軸方向に位置決めすることができる。
【0033】
また、パイプ10は、断面が真円形状をなす真円部13を備え、真円部13が曲げ加工されている。ここで、扁平部14を曲げ加工しようとすると、潰れる等して断面形状を保持できない虞がある。しかしながら、この構成によれば、パイプ10の断面形状を適切に保持しつつワイヤハーネスWの配策経路に沿うように曲げ加工することができる。
【0034】
また、ワイヤハーネスWが車体に取り付けられた状態では、扁平部14の下端が、車体を補強する補強部材31の下端より上方に位置する。この構成によれば、扁平部14の下端が補強部材31の下端よりも先に地面等にあたりにくいから、パイプ10をより確実に地面等に接触しにくくすることができる。
【0035】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2に係るワイヤハーネス40を
図7及び
図8によって説明する。
本実施例のワイヤハーネス40は、車体に取り付けられた状態における上側に凹み部12が形成されている点で、実施例1とは相違する。なお、実施例1と同様の構成には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0036】
本実施例に係るワイヤハーネス40は、実施例1と同様に、内部に電線20が挿通されて車体に取り付けられる電線保護パイプ(以後、単にパイプ41と称する)を有し、パイプ41は、車体の床下に配される床下部42を備え、床下部42には、凹み部12が形成されることにより、軸方向と交差する断面が扁平な形状をなす扁平部14が設けられている。また、パイプ41は、実施例1と同様に、断面が真円形状をなす真円部13を備え、真円部13が曲げ加工されている。扁平部14の平面部15には、実施例1と同様、さらに一段凹んだ段差凹部18が設けられ、段差凹部18にはクランプ21が固定されている。
【0037】
本実施例におけるワイヤハーネス40は、概ね実施例1と同様の方法で製造される。
本実施例におけるワイヤーハーネスを車体に取り付けた状態では、
図7及び
図8に示すように、パイプ41の扁平部14が床板30の下面に沿って配され、扁平部14の下端が、車体を補強するために用いられる補強部材(クロスメンバ等)31の下端より上方に位置している。
【0038】
本実施例では、扁平部14の平面部15は上側に配され、扁平部14の曲面部16は下側に配されている。平面部15は、床板30と略平行をなし、床板30に近接して配することができる。一方、曲面部16は下側に配されるから、平面部15が下側に配される場合に比して、地面から離れるという点で有利である。すなわち平面部15は全体において地面との距離が一定であるのに対し、曲面部16は、湾曲している部分が、下端と地面との距離に比して地面から遠く離れるからである。
【0039】
以上のように本実施例のワイヤハーネス40は、内部に電線20が挿通されて車体に取り付けられるパイプ41を有し、パイプ41は、車体の床下に配される床下部42を備え、床下部42には、車体に取り付けられた状態における
上側に凹み部12が形成されることにより、軸方向と交差する断面が扁平な形状をなす扁平部14が設けられているから、実施例1と同様、扁平部14の高さ寸法は、真円形状をなすものに比して小さいため、地面等に接触しにくくすることができる。
【0040】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、パイプ10(41)は金属製とされているが、これに限らず、パイプは合成樹脂製であってもよく、また、樹脂パイプ内に金属箔を同心で埋め込んだ構造のもの等であってもよい。
(2)上記実施例では、段差凹部18を扁平部14に設けたが、段差凹部は必ずしも設けなくてもよく、また段差凹部は真円部に設けても良い。
(3)上記実施例では、パイプ10(41)に一続きの凹み部12が一のみ形成されているが、これに限らず、凹み部は、パイプに複数形成してもよい。
(4)上記実施例では、凹み部12及び段差凹部18を形成した後にパイプ10を曲げ加工しているが、これに限らず、凹み部及び段差凹部を形成するより先に曲げ加工を行ってもよい。