(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸は、p−キシレンを代表とするp−アルキルベンゼン等のp−フェニレン化合物の液相酸化反応により製造され、通常は酢酸を溶媒としてコバルト、マンガン等の触媒を利用し、またはこれに臭素化合物、アセトアルデヒドのような促進剤を加えた触媒が用いられる。しかし、この液相酸化反応は酢酸を溶媒とし、得られた粗テレフタル酸スラリーには4−カルボキシベンズアルデヒド(4CBA)、パラトルイル酸(p−TOL)、安息香酸等、あるいはその他にも種々の着色性不純物が多く含まれる。そして、粗テレフタル酸スラリーから分離して得られた粗テレフタル酸にもそれらの不純物が混入しており、高純度のテレフタル酸を得るにはかなり高度の精製技術を必要とする。
【0003】
粗テレフタル酸を精製する方法としては、粗テレフタル酸を酢酸や水、あるいはこれらの混合溶媒などに高温、高圧下で溶解し、接触水素化処理、脱カルボニル化処理、酸化処理、再結晶処理、あるいはテレフタル酸結晶が一部溶解したスラリー状態での高温浸漬処理などの種々の方法が知られている。液相酸化反応による粗テレフタル酸の製造、あるいはその精製においては、いずれの場合も、最終的にはテレフタル酸結晶を分散媒から分離する操作が必要となる。
【0004】
しかし、酸化反応生成スラリー又は粗テレフタル酸を精製処理したスラリー中に不純物として存在する4CBA、p−TOL、安息香酸等の酸化物中間体あるいは着色原因物質等は、高温ではそのほとんどがスラリー分散媒中に溶解しているが、スラリーを100℃前後まで冷却し、テレフタル酸結晶を含むスラリーを形成させると、これらの不純物はテレフタル酸結晶の中に取り込まれるようになり、高純度のテレフタル酸を得ることは困難になる。
【0005】
従って、酸化反応後の粗テレフタル酸スラリーあるいは粗テレフタル酸の精製処理後のスラリーから高純度のテレフタル酸を得るためには、高温、高圧の条件下において分散媒から分離することが必要となってくる。テレフタル酸結晶を含むスラリーから分散媒を分離する方法として最も一般的に用いられているのは遠心分離法であり、酸化反応後のスラリーあるいは精製処理後のスラリーの場合にも、遠心分離法が広範に使用されている。遠心分離法の特徴は、高速回転をしているバスケット中にスラリー溶液を導入し、分散媒を上部からオーバーフローさせ、結晶を下部へ誘導する方法であるが、遠心分離機の構造上及び機能上の制約から、高温、高圧下での連続運転にはいくつかの困難を伴うことが知られている。
【0006】
まず、遠心分離中又は分離後の結晶のリンスが難しいため、結晶への分散媒付着量が多くなり易く、その問題点を解消するために、通常は、遠心分離されたテレフタル酸結晶のケーキを再び新鮮な高温溶媒でスラリー化する方法が採られている。しかし、この方法は、分離操作を複数回行なわなければならないという課題を残している。さらには、高温、高圧で高速回転を行なうために、遠心分離機の保全、保守が煩雑、困難となり、それに対する投資が増し、この分野の技術としては高度化されているとは言い難い。
【0007】
遠心分離法に代わる分離法として、重力によるテレフタル酸結晶の沈降作用を利用した分散媒置換装置が提案されている。例えば、特許文献1には、内部に複数の孔を有する横方向の棚段が設けられた分散媒置換装置が開示されており、このような構造を有さない場合、装置内流体のチャンネリングまたはバックミキシングによって置換の効率が低下することが記載されている。また、特許文献2には、装置内に斜面を形成する棚段を設けることにより置換性能が向上することが記載されている。
【0008】
特許文献3には、p−アルキルベンゼン化合物を液相酸化することによって得られたテレフタル酸結晶の酢酸溶媒スラリーを、水溶媒スラリーに母液置換する方法において、母液置換塔の底部にテレフタル酸結晶の堆積層を形成させ、その堆積層中に撹拌翼を設け、撹拌翼を静かに回転させることにより堆積層中の流動性を保持させ、母液置換塔底部から、精製テレフタル酸スラリーをスクリューコンベアから抜き出し、さらにスクリューコンベアを通して、水の上昇流を形成させるための置換水を供給する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されたような棚段を母液置換装置内に設けた場合、棚への堆積や開孔部の閉塞が起こり、運転の安定化には多大な労力を要するため、とても高度化された技術とは言い難い。
また、特許文献3に記載された方法では、局所的に置換水を供給するため、堆積層中に置換水のチャネリングを生じやすい。さらに、撹拌翼を供えた母液置換塔を用いて堆積層の流動性を向上させているにもかかわらず、撹拌翼下部の堆積層において、羽根との摺動が原因で堆積した結晶の流動性が低下して固まり、ブロッキングやブリッジにより抜き出し口が閉塞し易くなるので、堆積したテレフタル酸結晶スラリーを抜き出すために、スクリューコンベアのような装置を必要とするという欠点を有している。
【0011】
上記事情に鑑み、本発明は、p−フェニレン化合物を液相酸化して得られた粗テレフタル酸含有溶液の接触水素化処理後のテレフタル酸結晶スラリーを、母液置換塔上部に導入し、母液置換塔底部より置換のための清浄な水を導入して母液置換を行う高純度テレフタル酸の製造方法において、母液置換塔内での流体のチャンネリングまたはバックミキシングを防ぎ、さらに塔底部のスラリー層におけるスラリーの固結や付着、及びスラリー抜き出し口の閉塞を防ぐことにより、長期間安定して運転する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、母液置換塔底部に攪拌翼を設置し適度な攪拌動力で塔底部のスラリー層を攪拌し、攪拌翼またはリング形状スパージャーのリング部に設けた置換水供給口から置換水を供給することで、流体のチャンネリングまたはバックミキシングを防ぎ、接触水素化処理後のテレフタル酸結晶スラリー水溶液を、清浄な水を含む精製テレフタル酸スラリーへと効率的に母液置換できることを見出した。
【0013】
即ち本発明は、以下のとおりである。
【0014】
[1]
以下の工程(a)〜(c);
(a)p−フェニレン化合物を液相酸化することにより粗テレフタル酸結晶を得る工程、
(b)前記粗テレフタル酸結晶を接触水素化処理してテレフタル酸結晶スラリーを得る工程、
(c)前記テレフタル酸結晶スラリーを母液置換塔の上部に導入し、テレフタル酸結晶を塔内で沈降させながら前記母液置換塔の塔底部から導入された置換水の上昇流と接触させ、前記テレフタル酸結晶を前記置換水とのスラリーとして塔底部より抜き出す工程、
を含む高純度テレフタル酸の製造方法であって、
(1)前記母液置換塔の塔底部のスラリー層中に撹拌翼を設け、前記撹拌翼を、攪拌動力が前記スラリー層の単位体積あたり0.1〜1.0kWh/m
3となるように回転させて前記スラリー層の流動性を保持し、
(2)前記置換水を、前記攪拌翼に設けた置換水供給口から供給する、
製造方法。
[2]
以下の工程(a)〜(c);
(a)p−フェニレン化合物を液相酸化することにより粗テレフタル酸結晶を得る工程、
(b)前記粗テレフタル酸結晶を接触水素化処理してテレフタル酸結晶スラリーを得る工程、
(c)前記テレフタル酸結晶スラリーを母液置換塔の上部に導入し、テレフタル酸結晶を塔内で沈降させながら前記母液置換塔の塔底部から導入された置換水の上昇流と接触させ、前記テレフタル酸結晶を前記置換水とのスラリーとして塔底部より抜き出す工程、
を含む高純度テレフタル酸の製造方法であって、
(1)前記母液置換塔の塔底部のスラリー層中に撹拌翼とリング形状のスパージャーを設け、前記撹拌翼を、攪拌動力が前記スラリー層の単位体積あたり0.1〜1.0kWh/m
3となるように回転させて前記スラリー層の流動性を保持し、
(2)前記置換水を、前記スパージャーに設けた置換水供給口から供給する、
製造方法。
[3]
前記置換水を、前記攪拌翼に設けた置換水供給口と、前記スパージャーに設けた置換水供給口とから同時に供給する、上記[2]記載の製造方法。
[4]
前記スパージャーに設けた置換水供給口が、スパージャーの外周部の斜め下方向へ向けて置換水を供給するように設けられている、上記[2]または[3]記載の製造方法。
[5]
(d)前記塔底部より抜出したスラリーからテレフタル酸結晶を分離する工程をさらに含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記置換水供給口から供給される置換水の温度が、前記塔底部のスラリー層の温度よりも5〜25℃低い、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記攪拌翼に設けた置換水供給口が、置換水を下方向に供給する供給口であって、前記攪拌翼に20〜150mm間隔で設置されている、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
前記攪拌翼に複数の置換水供給口を設け、前記置換水供給口1個あたりの置換水の吐出線速を0.1〜5m/秒の範囲に調整する、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、母液置換塔を用いた高純度テレフタル酸の製造プロセスにおいて、長期間に亘り高い母液置換率を維持した状態で、母液置換塔を安定して運転することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0018】
本実施形態における高純度テレフタル酸の製造方法は、
以下の工程(a)〜(c);
(a)p−フェニレン化合物を液相酸化することにより粗テレフタル酸結晶を得る工程、
(b)前記粗テレフタル酸結晶を接触水素化処理してテレフタル酸結晶スラリーを得る工程、
(c)前記テレフタル酸結晶スラリーを母液置換塔の上部に導入し、テレフタル酸結晶を塔内で沈降させながら前記母液置換塔の塔底部から導入された置換水の上昇流と接触させ、前記テレフタル酸結晶を前記置換水とのスラリーとして塔底部より抜き出す工程、
を含む製造方法であって、
(1)前記母液置換塔の塔底部のスラリー層中に撹拌翼を設け、前記撹拌翼を、攪拌動力が前記スラリー層の単位体積あたり0.1〜1.0kWh/m
3となるように回転させて前記スラリー層の流動性を保持し、
(2)前記置換水を、前記攪拌翼に設けた置換水供給口から供給する、
製造方法である。
【0019】
また、本実施形態における別の高純度テレフタル酸の製造方法は、
以下の工程(a)〜(c);
(a)p−フェニレン化合物を液相酸化することにより粗テレフタル酸結晶を得る工程、
(b)前記粗テレフタル酸結晶を接触水素化処理してテレフタル酸結晶スラリーを得る工程、
(c)前記テレフタル酸結晶スラリーを母液置換塔の上部に導入し、テレフタル酸結晶を塔内で沈降させながら前記母液置換塔の塔底部から導入された置換水の上昇流と接触させ、前記テレフタル酸結晶を前記置換水とのスラリーとして塔底部より抜き出す工程、
を含む製造方法であって、
(1)前記母液置換塔の塔底部のスラリー層中に撹拌翼とリング形状のスパージャーを設け、前記撹拌翼を、攪拌動力が前記スラリー層の単位体積あたり0.1〜1.0kWh/m
3となるように回転させて前記スラリー層の流動性を保持し、
(2)前記置換水を、前記スパージャーに設けた置換水供給口から供給する、
製造方法である。
【0020】
[工程(a)]
工程(a)は、p−フェニレン化合物を液相酸化することにより粗テレフタル酸結晶を得る工程である。
工程(a)は、好ましくは、p−フェニレン化合物を液相酸化した後、落圧、降温して得られる粗テレフタル酸スラリーから反応母液を分離することにより粗テレフタル酸結晶を得る工程である。
本実施形態において、粗テレフタル酸結晶は、p−フェニレン化合物の液相酸化で得られる。
【0021】
p−フェニレン化合物は、パラ位にカルボキシル基を有するか、または液相空気酸化によりカルボキシル基を生成する被酸化性置換基を有するものであり、該置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、アルデヒド基、アセチル基等が例示される。これらの置換基は互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0022】
液相酸化に使用される酸化剤は酸素または空気が使用され、いずれか一方に特に限定されるものではないが、酢酸溶液中、コバルト及びマンガン触媒と、臭化化合物の助触媒の存在下で酸化を行う場合は、空気で十分である。また、酢酸溶液中、コバルト触媒の存在下で酸化を行う場合は、酸素を用いることが好ましい。
【0023】
触媒については、コバルト及びマンガン触媒を使用する場合は、臭素化合物も併用することが好ましい。臭素化合物は通常、助触媒として機能すると考えられており、臭化水素、臭素化ナトリウムが特に好ましい。コバルト触媒を使用する場合は、促進剤としてアセトアルデヒド、メチルエチルケトン等を併用することが好ましい。
【0024】
酢酸溶液中の液相酸化法で得られる粗テレフタル酸結晶は、通常4CBAをはじめ多くの不純物が含まれ、白色度の指標であるOD340の値も、直接成形用ポリマー原料として使用できる水準ではない。本実施形態において、粗テレフタル酸結晶中の4CBAやその他の不純物の含量に特に上限はない。OD340についても同様である。液相酸化工程における条件を、粗テレフタル酸結晶中の4CBA含量が500ppm以上となるような条件に設定した場合、酸化反応による酢酸の燃焼損失を抑制できる傾向にある。
【0025】
[工程(b)]
工程(b)は、前記粗テレフタル酸結晶を接触水素化処理してテレフタル酸結晶スラリーを得る工程である。
工程(b)は、好ましくは、前記粗テレフタル酸結晶を水に高温、高圧下で溶解させた後、接触水素化処理し、得られた反応液を落圧、降温してテレフタル酸結晶スラリーを得る工程である。
【0026】
本実施形態の製造方法において、粗テレフタル酸結晶は、接触水素化処理工程に供される。この接触水素化処理は、溶液状態で行うため、高温、高圧条件下で行われる。接触水素化処理の際の温度は、200℃以上であり、好ましくは240〜300℃である。粗テレフタル酸結晶の濃度は10〜40重量%の範囲であることが好ましい。接触水素化処理の際の圧力は、液相を維持するに十分であり、且つ、接触水素化反応に適切な水素分圧を保持できる圧力が好ましく、通常3〜10MPaの範囲であることが好ましい。
【0027】
接触水素化処理に用いられる触媒としては、第8族貴金属が使用される。第8族貴金属としてはパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムが好ましく、特にパラジウムおよび白金が好ましい。なお、これらの金属は必ずしも単独で使用する必要はなく、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0028】
触媒は、長期活性維持の観点から、担体に担持して使用することが好ましい。担体としては、通常は、多孔性物質が使用され、材質的には炭素系担体が好ましく、活性炭、特に椰子殻炭が好ましい。触媒の担体への担持量は、微量でも効果があるため特に限定されるものではないが、長期活性を維持するためには、0.1〜0.5重量%程度であることが好ましい。
【0029】
接触水素化処理における水素量は、粗テレフタル酸溶液に含まれる4CBAに対して2倍モル以上であることが好ましい。接触水素化処理に供する時間は、実質的に接触水素化反応が進行するに十分な時間であればよく、通常1〜60分、好ましくは2〜20分の範囲である。通常、接触水素化処理は連続式で行われる。
【0030】
接触水素化処理後のテレフタル酸溶液は、例えば、触媒担体として用いた活性炭の摩耗により生ずる微粉末の混入を防止するために、焼結チタンやその他の焼結金属あるいは炭素粒子で作られた濾過器で濾過後、直列に連結された2〜6段の晶析器あるいはバッチ式結晶化器へ導入されることが好ましい。次いで、順次減圧することで水分が蒸発し、120〜200℃まで降温させることによってテレフタル酸結晶が晶析し、テレフタル酸結晶スラリーが得られる。
【0031】
[工程(c)]
工程(c)は、前記テレフタル酸結晶スラリーを母液置換塔の上部に導入し、テレフタル酸結晶を塔内で沈降させながら母液置換塔の塔底部から導入された置換水の上昇流と接触させ、前記テレフタル酸結晶を前記置換水とのスラリーとして塔底部より抜き出す工程である。
【0032】
母液置換塔の上部に導入するテレフタル酸結晶スラリー(以下「原料スラリー」ともいう。)としては、接触水素化処理後の多段晶析工程における中段晶析器から得られるスラリーを使用することが好ましい。母液置換塔に導入する際の原料スラリーの温度は、120〜200℃であることが好ましく、より好ましくは130〜180℃であり、さらに好ましくは140〜170℃である。原料スラリーの温度を120〜200℃の範囲にすることによって、テレフタル酸結晶中への不純物の混入を抑制するとともに、母液中に溶解しているテレフタル酸を少なくすることができる傾向にある。
【0033】
テレフタル酸結晶と母液からなるテレフタル酸結晶スラリーは、不純物を多く含有している母液を新鮮な水に置き換える母液置換工程に供される。母液置換工程に用いられる装置(即ち「母液置換塔」)は、大きく分けて塔上部、塔底部及び塔中間部からなる。塔中間部の径は、スラリーの処理量によって適宜変更することができるが、テレフタル酸結晶の処理量1t/hrあたりの塔断面積が0.2〜2m
2となるような径にすることが好ましい。塔上部や塔底部の径は、塔中間部と同程度の径であればよいが、より大きな径とすることもできる。塔上部は、テレフタル酸結晶と母液からなる原料スラリーの導入部を有する。原料スラリーの導入部は、塔上部内壁に開口していてもよいが、結晶の分散を良好にする観点から、塔上部内に延びて開口していることが好ましい。さらに、原料スラリー導入部の開口先端部は下向きに設置されていてもよく、また、開口先端部に分散板等の結晶の分散を促進する機構を備えていてもよい。塔上部は母液抜き出し部をさらに備え、母液抜き出し部からはテレフタル酸結晶をほとんど含まない母液が抜き出され、所定の処理槽に導かれる。塔底部は、置換水供給部と、置換水で置換された精製テレフタル酸スラリーの抜き出し口、置換水供給流量及び置換スラリー抜き出し流量の調節部、並びに塔底部内スラリー攪拌装置を備えている。置換水で置換された精製テレフタル酸スラリーの抜き出し口の位置は、スラリーが高比重であるため、塔底部の下方に近い方が好ましい。
【0034】
母液置換塔の運転方法の具体例について説明する。塔上部室に導入された原料スラリー中のテレフタル酸結晶は、重力によって塔中間部室を沈降し、塔底部から導入された置換水の上昇液流と向流で接触する。塔底部室まで沈降したテレフタル酸結晶は、置換水で置換され、塔中間部より結晶濃度の高いスラリー層を形成し、スラリー抜出し部より母液置換塔外に抜出される。
【0035】
母液置換塔の圧力は、少なくとも原料スラリー及び置換水の温度を維持することのできる圧力である。圧力の上限としては、運転上の制約はないものの、過大な圧力で運転するには置換塔の耐圧を高める必要があるため装置費用の増大を招く。母液置換塔の圧力は、好ましくは0.1〜2MPaであり(ゲージ圧力)、より好ましくは0.2〜1.5MPaである。
【0036】
母液置換塔中間部における置換水の上昇液流の線速度は、装置の構造やテレフタル酸結晶の大きさ等によっても変化するが、0.2〜1.5m/hr(空塔基準)であることが好ましく、0.5〜1.0m/hrであることがより好ましい。線速度が小さ過ぎると母液とテレフタル酸結晶の分離が不十分となり、テレフタル酸の純度が低下する傾向にある。一方、線速度が大き過ぎると、置換水の使用量が増えるという欠点がある。
ここで、置換水の上昇液流の線速度は、置換水供給量と塔底からの抜き出しスラリーとの水のバランスから計算することができる。
【0037】
母液置換塔の塔底部のテレフタル酸結晶スラリー層(以下、単に「スラリー層」ともいう。)は、その流動性を保持することが重要である。テレフタル酸結晶が沈降してできるスラリー層が完全な圧密状態になると、スラリーとしての流動性が失われ、工学的な手法によって母液置換塔から抜き出すことが困難になる。これを防ぐためには、塔底部のテレフタル酸結晶のスラリー層を常に流動させることが必要となる。そこで、本実施形態においては、スラリー層中に攪拌翼を設け、さらに撹拌翼に置換水供給口を設けることによって、この置換水供給口からスプリンクラーのように置換水を供給する。または、スラリー層中に攪拌翼とリング形状のスパージャーを設け、さらにスパージャーに置換水供給口を設けることによって、この置換水供給口から置換水を供給する。さらには、スラリー層中に設けた撹拌翼とスパージャーに置換水供給口を設け、その両方から同時に置換水を供給してもよい。これにより、スラリー層の流動性を保持し、スラリーの固結や、塔底部や攪拌翼への結晶の付着を防ぐことができる。また、置換水がスラリー層中に均一に分散されることで、置換水が偏流して上昇したり、チャンネリングを起こすことを防止でき、さらに、結晶表面に付着していた種々の不純物等を効率よく洗浄できるという効果も得られる。一方、スラリー層の流動が激し過ぎると、塔底部のスラリー層と塔中間部との界面が乱されてしまい、母液置換塔の精製能力が低下し、母液置換率が低くなる。従って、高い母液置換率を達成するためには、塔底部のスラリー層に適度な流動性を与えることが必要になる。
【0038】
塔底部のスラリー層に適度な流動性を与えるための撹拌翼としては、羽根が撹拌軸から水平方向に延びているものであればよく、羽根の本数や形状に特に制限はない。例えば、撹拌軸上方向から見た場合に、羽根が一文字、十文字、巴型に備わっているもの等が挙げられる。撹拌翼の翼径については、テレフタル酸結晶のスラリー層全体を流動化させる長さを有していれば特に限定されず、母液置換塔の塔底部径の0.2〜0.8倍であることが好ましく、0.3〜0.7倍であることがより好ましい。
【0039】
撹拌翼の回転数は、毎分0.1〜20回転であることが好ましく、毎分0.5〜10回転であることがより好ましい。攪拌翼の動力としては、塔底部のスラリー層の単位体積あたりの動力として0.05〜1.0kWh/m
3であることが好ましく、0.1〜0.8kWh/m
3であることがより好ましく、0.2〜0.7kWh/m
3であることがさらに好ましい。攪拌動力を0.05〜1.0kWh/m
3の範囲とすることで、塔底部のスラリー層に適度な流動性を与えてスラリーの固結や付着、スラリー抜出し口の閉塞を防止するとともに、高い母液置換率を達成することが可能となる。
【0040】
撹拌翼に設ける置換水供給口は、置換水を均一に分散させるために、多数の供給口を撹拌翼全体に平均的に設けることが好ましい。置換水供給口の向きは特に限定されないが、置換水を下方向に供給するように設置することが好ましい。具体的には、置換水を下方向に供給する供給口を20〜150mm間隔で設置することが好ましく、置換水を下方向に供給する供給口を40〜100mm間隔で設置することがより好ましい。撹拌翼から下方向に置換水を供給することにより、スラリー層の流動性を改善するだけではなく、撹拌翼下部とスラリー層中のテレフタル酸結晶粉体との摺動により撹拌翼よりも下部に堆積している粉体の流動性が低下して固まることがないため、ブロッキングやブリッジが起こらず、母液置換塔底部のテレフタル酸スラリーの抜き出し口が閉塞するリスクが低くなる。
【0041】
リング状のスパージャーを設ける場合は、テレフタル酸結晶のスラリー層の内部で、且つ、撹拌翼によって生じる撹拌流れを干渉しない位置に設置することが好ましいため、撹拌翼よりも上方で、スラリー層の界面よりも下方に設置するのが好ましい。長期に亘り母液置換塔の運転を継続させた場合、テレフタル酸結晶のスラリー層における母液置換塔内部の壁面において、テレフタル酸結晶が固着し、堆積する可能性があり、固着した結晶が剥がれ落ちる時に、テレフタル酸結晶の品質に悪影響を及ぼす可能性がある。そこでリング状のスパージャーに設ける置換水供給口は、該スパージャーの外周部の斜め下方向に向けて、置換水を供給するように設置することが好ましい。本実施形態においては、スラリー層中での分散を良くして置換水のチャンネリングや偏流を防ぐことを目的にリング状のスパージャーを設置するが、置換水の供給方向を上述した方向にすることで、分散の向上や、チャンネリングと偏流の防止だけでなく、壁面でのテレフタル酸結晶の固着も防止することができるという異質な効果も得られる。
【0042】
また、置換水供給口1個あたりの置換水の吐出線速は、好ましくは0.1〜8m/秒、より好ましくは0.1〜5m/秒、さらに好ましくは0.5〜4m/秒である。
【0043】
置換水の温度は、母液置換塔に供給する原料スラリーと同程度の温度で母液置換塔に供給してもよいが、原料スラリーの温度よりも20〜100℃低い温度に設定することにより母液置換率がより高まる傾向にあるため好ましい。ここで、母液置換率は、原料スラリー分散媒中に溶解している不純物の除去割合から算出される。また、攪拌翼に置換水の供給口を設ける場合には、置換水の温度と塔底部のスラリー層の温度差が大きい場合に、置換水供給口の閉塞、及び攪拌翼や攪拌軸への結晶の付着や成長が発生し、長期間の運転中に次第に母液置換率が低下することがある。従って、長期間に亘って安定して高い母液置換率を維持する観点からは、母液置換塔の置換水供給口から供給される置換水の温度が、塔底部のスラリー層の温度よりも5〜25℃低いことが好ましく、6〜20℃低いことがより好ましい。置換水と塔底部のスラリー層の温度差が25℃以下であることで、置換水供給口の閉塞、及び攪拌翼や攪拌軸への結晶の付着を防止することができる傾向にある。一方、前記温度差が5℃以上であることで、母液置換率を高めることができる傾向にある。
【0044】
撹拌翼から置換水を供給するためには、撹拌軸の外部に鞘管状の置換水の配管を設けて中空の撹拌翼へとつなげることで、置換水供給口から母液置換塔内部へと置換水が供給される。撹拌軸におけるに軸封は、メカニカルシールを使用することが好ましい。シール流体は、撹拌軸外周部の鞘管状の置換水配管へと漏れる構造となるので、使用するシール流体は、置換水と同じ水であることが好ましい。さらに鞘管状の置換水配管と母液置換塔内部との軸封も同様にメカニカルシールを使用し、置換水自体がシール流体として、母液置換塔内部へと漏れる構造とすることが好ましい。
【0045】
本実施形態における母液置換塔は、置換塔塔底部のスラリー層において、撹拌軸の根元、つまり、置換塔塔底部の中心部に、テレフタル酸結晶が堆積、滞留しやすい構造を有している。テレフタル酸結晶が滞留すると製品の品質に悪影響を及ぼすため、上記で説明したとおり、鞘管状の置換水配管と母液置換塔内部とのメカニカルシールにおける置換水の漏れ流量を上げることで、撹拌軸根元における滞留を防止することが好ましい。置換水の漏れ流量を任意に調節することは難しいが、全置換水流量における0.1〜20%の範囲に調節することが好ましい。
【0046】
[工程(d)]
本実施形態の製造方法においては、(d)前記塔底部より抜出したスラリーからテレフタル酸結晶を分離する工程をさらに含んでいてもよい。
塔底部より抜出したスラリーからテレフタル酸結晶を分離する工程は、例えば、前記スラリーを一旦、晶析槽に抜出した後、バキュームフィルターや遠心分離機などの固液分離機に供給してスラリーからテレフタル酸結晶を分離することができる。更に分離後の結晶をスチームチューブドライヤーなどの乾燥機に供給して乾燥することで高純度テレフタル酸の結晶を得ることができる。
【実施例】
【0047】
次に実施例によって本発明を更に具体的に説明する。ただし本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
以下の実施例における母液置換率は、以下の式に従って算出した。
塔上部の母液排出口より抜き出された分散媒中に含まれる安息香酸量/原料スラリー中に副生成物として含まれる安息香酸量
【0048】
[実施例1]
コバルト及びマンガン触媒と臭化化合物の助触媒を用いて、酢酸溶液中でp−キシレンの液相酸化反応を行った後、晶析して冷却し、析出した粗テレフタル酸結晶を分離した。得られた粗テレフタル酸結晶を乾燥した後、水を溶媒として接触水素化処理を行うことによりテレフタル酸水溶液を得た。次いで、得られたテレフタル酸水溶液を晶析することによりテレフタル酸結晶スラリー(原料スラリー)を得た。
【0049】
図1に示す装置を用いて、上記で得られたテレフタル酸結晶スラリーの母液を清浄な水で置換する操作を行った。
図1において、母液置換塔1はステンレススチール製容器であり、その塔径は4mである。母液置換塔内の上部には原料スラリー導入ノズル3があり、原料スラリー供給ポンプ2に連結されている。塔頂部には母液排出口4がある。母液置換塔の塔底部は半楕円の皿型構造になっており、スラリー抜き出し口5より、母液置換処理後の精製テレフタル酸結晶スラリーが抜き出される。スラリー抜き出し口5の流量は、下流のバルブにより調整が可能である。撹拌翼8は、翼直径が2mで45度傾いた羽根4枚が十文字型に配置され、撹拌翼の下側に置換水供給口9が羽根1枚につき12個、70mm置きに均等に配置されている。
【0050】
先ず、置換水供給ポンプ6を駆動し、置換水供給口9から系内に100℃の置換水を張り込んだ。母液排出口4から水がオーバーフローし始めてから、モーター7を作動させて撹拌翼8を毎分8回転の速度で回転させた。次に、原料スラリー供給ポンプ2を作動して、原料スラリー導入ノズル3から165℃の原料スラリーを供給した。粉面検出器で堆積層上面aの位置を検知しながら、塔底部の高濃度スラリー層bが所定の高さに達したら、スラリー抜き出し口5より精製テレフタル酸結晶スラリーの抜き出しを開始した。
【0051】
系内が定常状態になった後、それぞれの流量を以下のとおりに調節した。原料スラリー供給ポンプ2を108m
3/h(結晶濃度32.4%)、スラリー抜き出し口5を94m
3/h(結晶濃度37.2%)、置換水供給ポンプ6を75m
3/hに調節した時、母液排出口4からのオーバーフローはおよそ90m
3/hであった。なお、高濃度スラリー層bの高さが所定の位置に保たれるように、粉面検出器で監視しながら攪拌翼8の回転数を毎分6〜10回転(攪拌動力0.2〜0.7kWh/m
3)の範囲に調節した。置換水供給口9における置換水の吐出線速は2.45m/秒であった。安定状態になった後の塔底部の高濃度スラリー層の温度は109℃であり、母液置換率は94%〜96%の範囲で安定的に維持することができた。
【0052】
塔底部の高濃度スラリー層bの高さが一定になるように調整し、連続運転を継続させたが、上記条件からの変動も少なく、約半年の期間に亘り安定した運転を行うことができた。
【0053】
[実施例2]
原料スラリーの温度を195℃にしたこと以外は実施例1と同じ装置及び方法で運転を行なった。安定状態になった後の塔底部の高濃度スラリー層bの温度は116℃であり、母液置換率は95%〜97%の範囲であった。そのまま連続運転を継続し、約半年の期間に亘り安定した運転を行うことできた。
【0054】
[実施例3]
置換水供給口9が羽根1枚につき3個、350mm置きに均等に配置されていること以外は、実施例1と同様に運転を行なった。運転が安定した時点の置換水供給口9における置換水の吐出線速は7.35m/秒であった。運転中に偏流が生じ、母液置換率は91%〜93%の範囲であった。
【0055】
[比較例1]
撹拌翼8の回転数を毎分3回転(攪拌動力0.03kWh/m
3)に調節したこと以外は実施例1と同様に運転を行ったところ、高濃度スラリー層bの流動性が低下して置換水の上昇流のチャンネリングが発生した。さらに、塔底部でブリッジが生じ、塔底部からの結晶の抜き出しが不安定になったため、運転を継続することができなかった。
【0056】
[比較例2]
撹拌翼8の回転数を毎分15回転(攪拌動力2.2kWh/m
3)に調節したこと以外は実施例1と同様に運転を行ったところ、高濃度スラリー層bの検出位置が不明瞭となった。そのまま運転を継続したところ、母液置換率は74%〜82%の範囲で変動した。
【0057】
[実施例4]
置換水供給口を撹拌翼の上端に設置し、上向きに置換水を供給したこと以外は、実施例1と同様に運転を行なったところ、運転開始当初の母液置換率は93%〜95%の範囲であった。38日間運転を継続した時点で、塔底部からの精製テレフタル酸結晶スラリーの抜き出しが不安定になり、運転を継続することができなくなった。
【0058】
[実施例5]
置換水供給口から供給する置換水の温度を50℃としたこと以外は実施例1と同様に運転を行なった。安定状態になった後の塔底部の高濃度スラリー層bの温度は76℃であり、母液置換率は95%〜96%の範囲であった。そのまま連続運転を継続したところ運転開始から約40日を経過した頃から母液置換率が次第に低下する傾向を示し、94%以上の置換率を維持できなくなった。運転開始から54日経過した時点で置換率が90〜91%に低下したため、運転を停止した。
運転停止後、塔底部を観察したところ、攪拌軸及び軸付近の攪拌翼にテレフタル酸の結晶が大量に付着するとともに、置換水供給口9の約6割のノズルが閉塞しているのが確認された。
【0059】
[実施例6]
置換水供給口から供給する置換水の温度を150℃としたこと以外は実施例1と同様に運転を行なった。安定状態になった後の塔底部の高濃度スラリー層bの温度は153℃であり、母液置換率は89%〜91%の範囲であった。
【0060】
[実施例7]
置換水供給口から供給する置換水の温度を60℃としたこと以外は実施例2と同様に運転を行なった。安定状態になった後の塔底部の高濃度スラリー層bの温度は88℃であり、母液置換率は95%〜97%の範囲であった。そのまま連続運転を継続したところ運転開始から約20日を経過した頃から母液置換率が次第に低下する傾向を示し、94%以上の置換率を維持できなくなった。運転開始から25日経過した時点で置換率が90%未満に低下したため、運転を停止した。
運転停止後、塔底部を観察したところ、攪拌軸及び軸付近の攪拌翼にテレフタル酸の結晶が大量に付着するとともに、置換水供給口9の7割以上のノズルが閉塞しているのが確認された。
【0061】
[実施例8]
図2に示す装置を用いて、上記で得られたテレフタル酸結晶スラリーの母液を清浄な水で置換する操作を行った。
図2において、母液置換塔1はステンレススチール製容器であり、その塔径は4mである。母液置換塔内の上部には原料スラリー導入ノズル3があり、原料スラリー供給ポンプ2に連結されている。塔頂部には母液排出口4がある。母液置換塔の塔底部は半楕円の皿型構造になっており、スラリー抜き出し口5より、母液置換処理後の精製テレフタル酸結晶スラリーが抜き出される。スラリー抜き出し口5の流量は、下流のバルブにより調整が可能である。撹拌翼8は、翼直径が2mで45度傾いた羽根4枚が十文字型に配置され、撹拌翼の下側に置換水供給口9が羽根1枚につき12個、70mm置きに均等に配置されている。リング形状のスパージャーは、撹拌翼の上面よりおよそ300mm上方で、上面方向から見たときに、撹拌翼直径よりも大きい外周部に設置されており、スパージャーに設置された置換水供給口9は、外周部の斜め45度下方に向けて置換水が供給されるように設置されている。置換水供給口は、円周に対して均等に24個設置されている。
【0062】
先ず、置換水供給ポンプ6を駆動し、置換水供給口9から系内に100℃の置換水を張り込んだ。母液排出口4から水がオーバーフローし始めてから、モーター7を作動させて撹拌翼8を毎分8回転の速度で回転させた。次に、原料スラリー供給ポンプ2を作動して、原料スラリー導入ノズル3から165℃の原料スラリーを供給した。粉面検出器で検知しながら塔底部の高濃度スラリー層bの高さが所定の位置に達したら、スラリー抜き出し口5より精製テレフタル酸結晶スラリーの抜き出しを開始した。
【0063】
系内が定常状態になった後、それぞれの流量を以下のとおりに調節した。原料スラリー供給ポンプ2を108m
3/h(結晶濃度32.4%)、スラリー抜き出し口5を94m
3/h(結晶濃度37.2%)、置換水供給ポンプ6を75m
3/hに調節した時、母液排出口4からのオーバーフローはおよそ90m
3/hであった。置換水は、撹拌翼の置換水供給口から38m
3/h、リング状スパージャーの供給口から37m
3/h供給した。なお、高濃度スラリー層bの高さが所定の位置に保たれるように、粉面検出器で監視しながら攪拌翼8の回転数を毎分6〜10回転(攪拌動力0.2〜0.7kWh/m
3)の範囲に調節した。置換水供給口9における置換水の吐出線速は1.24m/秒であった。安定状態になった後の塔底部の高濃度スラリー層の温度は109℃であり、母液置換率は95%〜97%の範囲で安定的に維持することができた。
【0064】
塔底部の高濃度スラリー層bの高さが一定になるように調整し、連続運転を継続させたが、上記条件からの変動も少なく、約半年の期間に亘り安定した運転を行うことができた。
【0065】
[比較例3]
撹拌翼8の回転数を毎分3回転(攪拌動力0.03kWh/m
3)に調節したこと以外は実施例8と同様に運転を行ったところ、高濃度スラリー層bの流動性が低下して置換水の上昇流のチャンネリングが発生した。さらに、塔底部でブリッジが生じ、塔底部からの結晶の抜き出しが不安定になったため、運転を継続することができなかった。
【0066】
本出願は、2015年7月22日出願の日本国特許出願(特願2015−144837号および特願2015−144838号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。