(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明のエンジンの制御装置が適用されるエンジンシステムの構成を示す図である。本実施形態のエンジンシステムは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路20と、エンジン本体1で生成された排気を排出するための排気通路30とを備える。
【0026】
エンジン本体1は、例えば、4つの気筒2が
図1の紙面と直交する方向に直列に配置された直列4気筒エンジンである。このエンジンシステムは車両に搭載され、エンジン本体1は車両の駆動源として利用される。本実施形態では、エンジン本体1は、ガソリンを含む燃料の供給を受けて駆動される。なお、燃料は、バイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
【0027】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復動(上下動)可能に嵌装されたピストン5とを有する。
【0028】
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。燃焼室6はいわゆるペントルーフ型であり、シリンダヘッド4の下面で構成される燃焼室6の天井面は吸気側および排気側の2つの傾斜面からなる三角屋根状をなしている。ピストン5の冠面には、その中心部を含む領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹ませたキャビティが形成されている。なお、ここでは、ピストン5の位置や混合気の燃焼状態によらず気筒2の内側空間のうちピストン5の冠面と燃焼室6の天井面との間の空間を、燃焼室6という。
【0029】
エンジン本体1の幾何学的圧縮比、つまり、ピストン5が下死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積との比は、15以上20以下(例えば17程度)に設定されている。
【0030】
シリンダヘッド4には、吸気通路20から供給される空気を気筒2(燃焼室6)内に導入するための吸気ポート9と、気筒2内で生成された排気を排気通路30に導出するための排気ポート10とが形成されている。これら吸気ポート9と排気ポート10とは、気筒2毎にそれぞれ2つずつ形成されている。
【0031】
シリンダヘッド4には、各吸気ポート9の気筒2側の開口をそれぞれ開閉する吸気弁11と、各排気ポート10の気筒2側の開口をそれぞれ開閉する排気弁12とが設けられている。
【0032】
シリンダヘッド4には、燃料を噴射するインジェクタ14が設けられている。インジェクタ14は、噴射口が形成された先端部が燃焼室6の天井面の中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように取り付けられている。インジェクタ14は、その先端に複数の噴口を有し、燃焼室の天井面の中央付近からピストン5の冠面に向かって、気筒2の中心軸を中心としたコーン状(詳しくはホローコーン状)に燃料を噴射するように構成されている。コーンのテーパ角(噴霧角)は、例えば90°〜100°である。なお、インジェクタ14の具体的な構成はこれに限らず、単噴口のものであってもよい。
【0033】
インジェクタ14は、不図示の高圧ポンプから圧送された燃料を燃焼室6内に噴射する。インジェクタ14の噴射圧は、ノッキングが発生しやすい高負荷域では、30MPa以上に高められ、高負荷域では、インジェクタ14から高圧で燃料が噴射される。なお、この噴射圧は、最大で70MPa程度まで高められるのが好ましい。この場合は、エンジンの高負荷域において50MPa〜70Maの範囲の噴射圧で燃料が噴射される。
【0034】
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気を点火するための点火プラグ13が設けられている。点火プラグ13の先端には、火花を放電して混合気を点火し混合気に点火エネルギーを付与する電極が形成されている。点火プラグ13は、その先端が燃焼室6の天井面の中央付近に位置して燃焼室6の中央を臨むように配置されている。
【0035】
吸気通路20には、上流側から順に、エアクリーナ21と、吸気通路20を開閉するためのスロットルバルブ22とが設けられている。本実施形態では、エンジンの運転中、スロットルバルブ22は基本的に全開もしくはこれに近い開度に維持されており、エンジンの停止時等の限られた運転条件のときにのみ閉弁されて吸気通路20を遮断する。
【0036】
排気通路30には、排気を浄化するための浄化装置31が設けられている。浄化装置31は、例えば、三元触媒を内蔵している。
【0037】
排気通路30には、排気通路30を通過する排気つまり既燃ガスの一部をEGRガスとして吸気通路20に還流するためのEGR装置40が設けられている。EGR装置40は、吸気通路20のうちスロットルバルブ22よりも下流側の部分と排気通路30のうち浄化装置31よりも上流側の部分とを連通するEGR通路41、および、EGR通路41を開閉するEGRバルブ42を有する。また、本実施形態では、EGR通路41に、これを通過するEGRガスを冷却するためのEGRクーラ43が設けられており、EGRガスはEGRクーラ43にて冷却された後吸気通路20に還流される。
【0038】
(2)制御系統
(2−1)システム構成
図2は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本実施形態のエンジンシステムは、PCM(パワートレイン・コントロール・モジュール、制御手段)100によって統括的に制御される。PCM100は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
【0039】
車両には各種センサが設けられており、PCM100はこれらセンサと電気的に接続されている。例えば、シリンダブロック3には、エンジン回転数を検出するクランク角センサSN1が設けられている。また、吸気通路20には、これを通って各気筒2に吸入される空気量を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。また、シリンダヘッド4には、燃焼室6内の圧力を検出する筒内圧センサSN3が設けられている。筒内圧センサSN3は、各気筒2にそれぞれ1つずつ設けられている。また、排気通路30には、排気通路20を流通する排気ガスの酸素濃度である排気酸素濃度を検出するための排気O2センサSN4が設けられている。また、車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN5が設けられている。本実施形態では、筒内圧センサSN3が、請求項における検出手段として機能する。
【0040】
PCM100は、これらセンサSN1〜SN5等からの入力信号に基づいて種々の演算を実行して、点火プラグ13、インジェクタ14、スロットルバルブ22、EGRバルブ42等のエンジンの各部を制御する。
【0041】
(2−2)基本制御
図3は、横軸をエンジン回転数、縦軸をエンジン負荷とした制御マップである。
【0042】
本実施形態では、エンジン負荷が予め設定された第1基準負荷Tq1未満であってノッキングが生じ難い低負荷領域Bと、エンジン負荷が基準負荷Tq1以上でありノッキングが生じやすい高負荷領域Aとが設定されている。高負荷領域Aでは、ノッキングの発生を抑制するべく、後述するノック判定が行われ、このノック判定の結果に応じて適宜ノック回避制御が実施される。本実施形態では、前記のように、エンジン本体1の幾何学的圧縮比が15以上に設定されており、燃焼室6内の温度が非常に高い温度にまで高められる。従って、特にノッキングが生じやすい。
【0043】
高負荷領域Aは、さらに、エンジン回転数が予め設定された基準回転数N1未満の高負荷低速領域A1と、エンジン回転数が基準回転数N1以上の高負荷高速領域A2とに区画されている。
【0044】
本実施形態では、エンジン回転数が基準回転数N1未満の領域(領域A1および領域B1)では、点火アシストによる圧縮自着火燃焼(SPCCI燃焼、SPCCI:SPark Controlled Compression Ignition)が実施される。圧縮自着火燃焼では、まず、圧縮上死点(TDC)よりも前にインジェクタ14から燃焼室6内に燃料が噴射される。この燃料は圧縮上死点付近までに空気と混合する。燃焼室6に形成されたこの混合気に、圧縮上死点付近において点火プラグ13から放電が行われる。これにより、点火プラグ13周りの混合気が強制的に着火される。そして、点火プラグ13周りから周囲に火炎が伝播していき、周囲の混合気が昇温されて自着火する。
【0045】
一方、エンジン回転数が基準回転数N1以上の領域(領域A2および領域B2)では、混合気を所望の時期に自着火させることが困難になるため、通常のガソリンエンジンにおいて採用されるSI燃焼(火花点火燃焼、SI:Spark Ignition)が実施される。SI燃焼は、混合気のほぼ全体を火炎伝播によって燃焼させる燃焼形態であり、圧縮上死点付近において点火プラグ13から放電が行われて、点火プラグ13周りの混合気が強制的に着火される。そして、点火プラグ13周りから周囲に火炎が伝播していき、残りの混合気が火炎伝播によって強制的に燃焼する。
【0046】
(2−3)ノック回避制御(ノック抑制工程)
次に、高負荷領域Aにて実施されるノック回避制御について
図4を用いて説明する。
【0047】
本実施形態では、ノッキングを回避するために、ノック回避制御として、燃焼中の混合気にインジェクタ14から燃料を噴射する制御が実施される。
【0048】
図4は、高負荷領域AのうちSI燃焼が実施される領域(A2)における燃料の噴射タイミングと点火タイミングと熱発生率の一例を示した図である。
図4の実線に示すように、例えば、この領域では、ノック回避制御が実施されない通常時は、吸気行程の後期に1回だけ燃料噴射Q1が実施される。そして、圧縮上死点の近傍において(
図7の例では圧縮上死点で)点火プラグ13により混合気に点火が行われる。燃料噴射Q1は、要求されるエンジントルクを実現するためのメイン噴射である。つまり、メイン噴射Q1は、ノッキングの有無にかかわらず実施される。メイン噴射Q1の噴射量は、基本的に、エンジントルクの要求値に対応する量とされる。
【0049】
これに対して、ノック回避制御が実施されたときは、
図4の破線に示すように、メイン噴射Q1に係る燃料の燃焼が開始した後に、追加噴射Q2が実施される。なお、この燃焼は、後述するように、高温酸化反応のことであり、追加噴射Q2は高温酸化反応が開始した後に実施される。
【0050】
燃焼中の混合気に対して燃料が噴射されると、混合気の温度は低下し、ノッキングの発生は抑制される。特に、本実施形態では、高圧で燃料が噴射されることでノッキングの発生が効果的に抑制される。具体的には、ノッキングは、燃焼室6内において局所的に混合気が高温となることで発生する。これに対して、本実施形態では、混合気に高圧で燃料が噴射されるため、混合気を撹拌することができ局所的な高温場を消滅させることができる。
【0051】
追加噴射Q2の量は、メイン噴射Q1の量に比べて十分に少なく設定されている。本実施形態では、追加噴射Q2の量は、メイン噴射Q1の噴射量と追加噴射Q2の噴射量とを合わせた量つまり1燃焼サイクルで燃焼室6に噴射される燃料の総量の10%以下の量に設定されている。例えば、追加噴射Q2の量は、燃料の総量の5%程度に設定されている。
【0052】
追加噴射Q2は、メイン噴射Q1によって生じる全熱発生量のうちの20%程度の量の熱発生が生じる時期に実施されるのが好ましく、この時期よりも過度に遅角側の時期で追加噴射Q2が実施されると空気との混合が悪化してスモークの発生量が増大するおそれがある。そこで、本実施形態では、追加噴射Q2を、予め設定された追加噴射終了時期
(終了時期)までに実施する。追加噴射終了時期は、燃焼期間に含まれる時期(高温酸化反応が生じている期間に含まれ
る時期
)に設定されている。例えば、予めエンジン回転数とエンジン負荷とに応じて追加噴射終了時期が設定されて、PCM100にマップで記憶されており、PCM100はこのマップからエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する値を抽出する。
【0053】
このように、本実施形態では、混合気を冷却する冷媒として燃料が用いられ、インジェクタ14が、冷媒を燃焼室6に供給する冷媒供給手段として機能する。また、前記の追加噴射Q2を実施する工程が、請求項におけるノック抑制工程である。
【0054】
(2−4)ノック判定制御(予測工程)
次に、高負荷領域Aにて実施されるノック判定制御について説明する。
【0055】
本実施形態では、第1ノック判定ステップと第2ノック判定ステップとを実施して、これらの判定結果に基づいてノッキングが発生するか否かを判定する(ノッキングの発生を予測する)。
【0056】
ここで、本実施形態および請求項において、ノッキングが発生するというのは、ノッキングが厳密に発生するということに限らず、ノック強度がエンジンの信頼性の観点から許容される許容値よりも高いということも含む。なお、ノック強度とは、筒内圧波形に含まれる所定の周波数以上の波形の振幅の最大値である。
【0057】
(第1ノック判定ステップ)
本願発明者らは、より早期にノッキングが発生するか否かを判定する方法について鋭意研究した。その結果、低温酸化反応が発生すると、その後、ノッキングが生じる可能性が非常に高いことを突き止めた。
【0058】
低温酸化反応とは、冷却損失を上回るわずかな発熱を伴う反応であり、燃焼室6内の温度が高いときに、酸素ラジカル等によって、燃料を構成する炭化水素から水素が引き抜かれることで開始する反応である。低温酸化反応は、火炎を生じさせながら高い熱エネルギーを発する反応である高温酸化反応が開始される前、つまり、燃焼が開始される前に、生じる。
【0059】
ノッキングは、前記のように、燃焼室6内において局所的に混合気が高温となることで発生する現象であり、ノッキングが生じるのも燃焼室6内の温度が高いときである。従って、低温酸化反応が生じたときに、その後、ノッキングが生じる可能性が非常に高いのは、低温酸化反応が生じるということは、低温酸化反応が生じる程度に燃焼室6内の温度が高い状態にあり、このような状態ではノッキングも生じやすくなるためと考えられる。
【0060】
図5は、低温酸化反応が生じたときの熱発生率(実線)と、低温酸化反応が生じなかったときの熱発生率(破線)とを比較して示した図である。
図6は、
図5の圧縮上死点付近を拡大した図である。
【0061】
図6の破線に示した熱発生率は、圧縮上死点前の所定のクランク角CA10にて最小となった後、緩やかに上昇し、その後、高温酸化反応の開始に伴って急激に上昇する。一方、
図6の実線に示した熱発生率は、破線と同様に所定のクランク角CA10にて最小となるが、その後、破線よりも早い速度で上昇しており、低温酸化反応が生じたことが示されている。つまり、低温酸化反応は、前記のように発熱反応であり、低温酸化反応が生じたときは生じなかったときよりも熱発生率が高くなる。なお、低温酸化反応に伴う熱発生率の上昇量は小さく、熱発生率は、前記のように早い速度で上昇を開始するものの、その上昇はすぐさま停止し(熱発生率は低下、略一定、あるいは、緩やかに上昇するようになり)、その後、高温酸化反応の開始に伴って急激に立ち上がる。
【0062】
そして、
図6の破線と実線との比較から明らかなように、低温酸化反応が生じたときは低温酸化反応が生じなかったときに比べて、熱発生率が燃焼(高温酸化反応)の中盤以降において急激に上昇しており、ノッキングが生じている。
【0063】
前記の知見より、第1ノック判定ステップでは、低温酸化反応が生じたか否かを判定する。そして、低温酸化反応が生じたときは、その後、ノッキングが生じる可能性が高いと判定する。
【0064】
具体的には、PCM100は、前記のように熱発生率が最小となるクランク角である着火前第1クランク角CA10の熱発生率を算出するとともに、この着火前第1クランク角よりも所定の角度後の着火前第2クランク角CA20の熱発生率を算出する。着火前第2クランク角CA20は、低温酸化反応に伴って熱発生率が上昇する期間中のクランク角であり、着火前第1クランク角CA10および着火前第2クランク角CA20は、ともに、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ且つ混合気の燃焼が開始する前の第1期間内のクランク角である。そして、PCM100は、着火前第1クランク角CA10の熱発生率に対する着火前第2クランク角CA20の熱発生率の増加量である着火前熱発生率増加量を算出する。
【0065】
本実施形態では、この着火前熱発生率増加量が、請求項における低温酸化反応の発生度合を表す低温酸化反応レベルとして用いられており、着火前熱発生率増加量を算出する前記の工程が第1算出工程である。
【0066】
なお、本明細書および請求項において、圧縮行程後期とは、圧縮上死点前60°CAから圧縮上死点までの期間をいい、膨張行程初期とは圧縮上死点から圧縮上死点後60°CAまでの期間をいう。
【0067】
PCM100は、着火前熱発生率増加量が基準増加量以上のときは、低温酸化反応が生じたと判定し、この増加量が基準増加量未満のときは、低温酸化反応が生じなかったと判定する。
【0068】
本実施形態では、着火前第1クランク角CA10と、着火前第2クランク角CA20とは、予め設定されてPCM100に記憶されている。例えば、着火前第1クランク角CA10は圧縮上死点前10°CA程度に設定され、着火前第2クランク角CA20は圧縮上死点前5°CA程度に設定されている。また、基準増加量も、予め設定されてPCM100に記憶されている。例えば、基準増加量は、10J/°CA程度に設定されている。
【0069】
ここで、低温酸化反応は、混合気の燃焼が開始する前(高温酸化反応が開始する前)であってノッキングが生じる時期よりも十分に早い時期に生じる。従って、低温酸化反応が生じたか否かに基づいてノッキングが発生するか否かを判定できれば、この判定をノッキングが発生する時期に対して十分に早い時期に実施することが可能になる。
【0070】
(第2ノック判定ステップ)
前記のように、低温酸化反応が生じれば非常に高い確率でノッキングは発生する。しかしながら、本願発明者らは、研究の過程で、燃焼室内の全ガス量に対する既燃ガス量の割合であるEGR率が高いとき等は、低温酸化反応が生じないにも関わらずノッキングが発生する場合があるという知見を得た。これは、EGR率が高いときは、ノッキングが生じる程度に燃焼室内の温度が高くても、既燃ガスが酸素ラジカルと炭化水素との接触を阻害することで、低温酸化反応が開始されないためと考えられる。また、低温酸化反応が生じたにも関わらず、燃焼室内の空燃比のばらつきや流動等によっては、ノッキングが発生しない場合があるという知見を得た。
【0071】
これより、本実施形態では、PCM100は、前記のように、第2ノック判定ステップを実施して、低温酸化反応が生じたときはノッキングが生じる可能性があると判定する。ただし、この判定だけではノッキングが生じると判定せず、次に説明する第2ノック判定ステップを実施してこの判定ステップの判定結果に基づいてノッキングが発生するか否かの最終的な判定を行う。
【0072】
図7は、クランク角に対する筒内圧の変化を示した図である。
図7の実線は、ノッキングが生じたときの筒内圧、破線は、ノッキングが生じなかったときの筒内圧である。この図に示されるように、燃焼が開始したクランク角CA1以降、筒内圧は上昇していく。そして、ノッキングが生じたときは、クランク角CA1以降においてノッキングが生じなかったときよりも筒内圧が早い速度で上昇する。
【0073】
このように、燃焼が開始した後の筒内圧の上昇速度つまり上昇量が高いときは、ノッキングが生じやすい。そして、この筒内圧の上昇量が所定の値以上のときは、ほぼ確実にノッキングが生じる。これより、第2ノック判定ステップでは、燃焼が開始した後の筒内圧の上昇量が所定の値以上のときはノッキングが生じると判定する。
【0074】
具体的には、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の第2期間中の筒内圧の上昇量、つまり、燃焼が開始した直後の筒内圧の上昇速度が、予め設定された基準圧力上昇量以上のときに、ノッキングが生じると判定する。
【0075】
本実施形態では、PCM100は、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の第1クランク角での筒内圧を読み込む。また、PCM100は、特定期間中、且つ、燃焼が開始した後の第2クランク角であって第1クランク角よりも遅角側の第2クランク角の筒内圧を読み込む。そして、PCM100は、第2クランク角において、第1クランク角での筒内圧に対する第2クランク角での筒内圧の上昇量を算出する。
【0076】
また、PCM100は、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の第3クランク角であって第1クランク角よりも遅角側の第3クランク角での筒内圧を読み込む。また、PCM100は、圧縮行程後期と膨張行程初期とを含む特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の第4クランク角であって第3クランク角よりも遅角側の第4クランク角での筒内圧を読み込む。そして、PCM100は、第4クランク角において、第3クランク角での筒内圧に対する第4クランク角での筒内圧の上昇量を算出する。
【0077】
PCM100は、第1クランク角での筒内圧に対する第2クランク角での筒内圧の上昇量(以下、適宜、第1筒内圧上昇量という)が基準圧力上昇量以上であり、且つ、第3クランク角での筒内圧に対する第4クランク角での筒内圧の上昇量(以下、適宜、第2筒内圧上昇量という)が基準圧力上昇量以上であるときに、ノッキングが生じると判定する。一方、第1クランク角での筒内圧に対する第2クランク角での筒内圧の上昇量が基準圧力上昇量未満、または、第3クランク角での筒内圧に対する第4クランク角での筒内圧の上昇量が基準圧力上昇量未満のときは、ノッキングが生じないと判定する。
【0078】
なお、第1〜第4クランク角は、いずれも、着火前第1クランク角CA10および着火前第2クランク角CA20よりも遅角側の角度である。
【0079】
基準圧力上昇量は、ノッキングが生じないときの前記の筒内圧の上昇量の最大値であり、予め設定されてPCM100に記憶されている。例えば、基準圧力上昇量は、エンジン回転数とエンジン負荷とに応じてマップで設定されて記憶されており、PCM100は、このマップから現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する基準圧力上昇量を抽出して、前記の筒内圧の上昇量と比較する。なお、本実施形態では、第1筒内圧上昇量と比較する基準圧力上昇量と、第2筒内圧上昇量と比較する基準圧力上昇量とは同一の値に設定されているが、これらは異なっていてもよい。
【0080】
第1クランク角〜第4クランク角は、予め設定されてPCM100に記憶されている。すなわち、燃焼が開始する時期はエンジン回転数とエンジン負荷等毎にある程度決まっている。そこで、本実施形態では、実験等によって燃焼が開始する時期を調べ、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後となる角度に、第1クランク角〜第4クランク角を予め設定してPCM100に記憶させておく。本実施形態では、エンジン回転数とエンジン負荷とについて第1〜第4クランク角を設定してPCM100にマップで記憶させている。例えば、第1クランク角はTDC(圧縮上死点)、第2クラン角と第3クランク角はATDC5°CA(圧縮上死点後5°CA)程度、第4クランク角はATDC10°CA(圧縮上死点後10°CA)程度に設定されている。
【0081】
本実施形態では、前記の第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が、請求項における高温酸化反応開始後の燃焼の急峻さを表す燃焼急峻度として用いられており、これを算出する前記の工程が第2算出工程である。
【0082】
(2−5)ノック判定制御およびノック回避制御の流れ
前記のように、ノッキングが発生するか否かは、燃焼が開始した後の筒内圧の上昇量に基づいて精度よく判定することができる。しかしながら、この筒内圧の上昇量に基づいてノッキングが発生するか否かを判定する方法、つまり、第2ノック判定ステップでは、ノッキングが発生するか否かの判定が出されるのが、燃焼が開始した後である。そのため、第2ノック判定ステップにおいてノッキングが発生すると判定されてから追加噴射Q2を実施しようとしても、エンジン回転数が高いとき等では、インジェクタ14の駆動遅れのために実際に追加噴射Q2が可能となるのが(インジェクタ14から燃焼室6に実際に燃料が噴射され始めるのが)、ノッキングを最も効果的に抑制できる時期である最適追加噴射時期よりも遅くなるおそれがある。
【0083】
そこで、本実施形態では、第1ノック判定ステップによってノッキングが開始する可能性があると判定されると、追加噴射Q2を開始する(第1ステップ)。つまり、着火前熱発生率増加量が基準増加量以上という第1の条件が成立するのに応じて(低温酸化反応レベルが基準レベル以上という第1の条件が成立するのに応じて)、追加噴射Q2を開始する(冷媒としての燃料の供給を開始する)第1ステップを実施する。
【0084】
そして、第2ノック判定ステップによってノッキングが発生しない判定されると追加噴射Q2を停止する(第2ステップ)。つまり、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量がともに基準圧力上昇量以上であるという第2の条件が成立しなかった場合には(燃焼急峻度が基準値以上であるという第2の条件が成立しなかった場合には)、追加噴射Q2を停止する(冷媒としての燃料の供給を停止する)第2ステップを実施する。
【0085】
一方、第2ノック判定ステップによってノッキングが発生すると判定されると、この判定後も追加噴射Q2を継続する(第2ステップ)。つまり、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量がともに基準圧力上昇量以上であるという第2の条件が成立した場合には(燃焼急峻度が基準値以上であるという第2の条件が成立した場合には)、追加噴射Q2を継続する(冷媒としての燃料の供給を継続する)。
【0086】
前記の制御の流れについて
図8のフローチャート等を用いて説明する。
【0087】
まず、PCM100は、ステップS1にて、エンジンの各種情報を読み込む。例えば、PCM100は、筒内圧センサSN3で検出された筒内圧、アクセル開度センサSN5により検出されたアクセル開度、クランク角センサSN1によって検出されたエンジン回転数、排気O2センサSN4で検出された排気酸素濃度、エアフローセンサSN2により検出された吸気量、EGRバルブ42の開度等を読み込む。
【0088】
ステップS1の後は、ステップS2に進む。ステップS2では、PCM100は、高負荷領域Aでエンジンが運転されているか否か、つまり、エンジン負荷が基準負荷Tq1以上であるか否かを判定する。エンジン負荷は、アクセル開度とエンジン回転数とに基づいて算出される。
【0089】
ステップS2の判定がNOであって低負荷領域Bでエンジンが運転されているときは、PCM100は、そのまま処理を終了する(ステップS1に戻る)。一方、ステップS2の判定がYESであって高負荷領域Aでエンジンが運転されているときは、PCM100は、ステップS3に進む。
【0090】
ステップS3では、PCM100は、筒内圧を用いて熱発生率dQを算出する。熱発生率dQの算出方法は従来用いられている方法を採用することができ、ここでの説明は省略する。
【0091】
ステップS3の後は、ステップS4に進む。ステップS4では、PCM100は、低温酸化反応が生じたか否かを判定する。
【0092】
PCM100は、前記のように、着火前第1クランク角CA10の熱発生率に対する着火前第2クランク角CA20の熱発生率の増加量である着火前熱発生率増加量を算出する。そして、PCM100は、着火前熱発生率増加量が基準増加量以上のときは低温酸化反応が生じたと判定し、着火前熱発生率増加量が基準増加量未満のときは低温酸化反応が生じなかったと判定する。
【0093】
PCM100は、ステップS4の判定がYESであって低温酸化反応が生じたと判定すると、ステップS5に進む。ステップS5では、PCM100は、ノッキングが発生する可能性があると判定する。
【0094】
ステップS5の後は、PCM100は、ステップS6に進みインジェクタ14の駆動を開始する。ここで、インジェクタ14には駆動遅れがある。そのため、インジェクタ14に駆動開始の指令を出しても、すぐにはインジェクタ14から燃料は噴射されず、所定の時間後にはじめて燃料が噴射される。
【0095】
ステップS6の後は、ステップS7に進む。ステップS7では、PCM100は、前記の第1筒内圧上昇量がおよび第2筒内圧上昇量を算出するとともに、第1筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上、且つ、前記の第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上であるか否かを判定する。
【0096】
ステップS7の判定がYESであって、第1筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上、且つ、第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上のときは、PCM100は、ステップS8に進み、ノッキングが生じると判定するとともに、インジェクタ14の駆動を継続する。ステップS8の後は、PCM100は、ステップS9に進む。
【0097】
ステップS9では、PCM100は、クランク角が追加噴射終了時期に到達したか否かを判定し、この判定がYESとなるのを待って、ステップS10に進む。ステップS10では、PCM100は、インジェクタ14の駆動を停止する。
【0098】
一方、ステップS7の判定がNOであって、第1筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満、あるいは、第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満のときは、PCM100は、ステップS11に進み、ノッキングが発生しないと判定する。そして、ステップS10に進み、PCM100は、インジェクタ14の駆動を停止する。
【0099】
ステップS4に戻り、ステップS4の判定がNOであって低温酸化反応が生じなかったと判定したときは、PCM100は、ステップS12に進む。ステップS12では、PCM100は、ステップS7と同様に、第1筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上、且つ、第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上であるか否かを判定する。
【0100】
ステップS12の判定がYESであって、第1筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上、且つ、第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上ときは、PCM100は、ステップS13に進み、ノッキングが生じると判定する。そして、PCM100は、ステップS14に進み、インジェクタ14の駆動を開始する。インジェクタ14の駆動は、ステップS13の判定がYESとなった直後から開始される。ただし、前記のように、駆動を開始されてもすぐにはインジェクタ14から燃料は噴射されず、所定の時間後にはじめて燃料が噴射される。
【0101】
ステップS14の後は、ステップS15に進む。ステップS15では、PCM100は、ステップS9と同様に、クランク角が追加噴射終了時期に到達したか否かを判定し、この判定がYESとなるのを待って、ステップS16に進む。ステップS16では、PCM100は、インジェクタ14の駆動を停止する。
【0102】
一方、ステップS12の判定がNOであって、第1筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満、あるいは、第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満のときは、PCM100は、ステップS17に進み、ノッキングが発生しないと判定して処理を終了する(ステップS1に戻る)。
【0103】
図9〜
図11は、以上の制御を実施したときの、熱発生率、低温酸化反応フラグ、ノック発生フラグ、インジェクタ14の駆動信号、インジェクタ14の開弁開度のそれぞれのクランク角変化を示したグラフである。低温酸化フラグは、ステップS4にて低温酸化反応が生じたと判定されると1となり、それ以外のときは0となるフラグである。ノック発生フラグは、ステップS7またはステップS12において、第1筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上、且つ、第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上であることに伴ってノッキングが生じると判定されると1となり、それ以外のときは0となるフラグである。インジェクタ14の駆動信号は、PCM100からインジェクタ14に送られる信号であり、ここでは、インジェクタ14の駆動を開始するようにPCM100からインジェクタ14に指令が出されると1となり、この指令が停止されると0になる信号として表している。
【0104】
図9は、ステップS4およびステップS7での判定がいずれもYESであって、低温酸化反応が生じたと判定されてノッキングが発生する可能性が高いと判定されるとともに、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量のいずれもが基準圧力上昇量以上であると判定されてノッキングが発生すると判定された場合の図である。この場合は、クランク角t1にて低温酸化反応が生じたと判定されて低温酸化反応フラグが0から1になると、その直後にインジェクタ14の駆動が開始される。これに伴いクランク角t1以後、インジェクタ14の開弁開度は増大していき、クランク角t2にて、インジェクタ14の開弁開度は全開に到達してインジェクタ14から追加噴射Q2に係る燃料が噴射される。そして、クランク角t3にてノッキングが発生すると判定されてノックフラグが0から1になった後も、インジェクタ14の駆動は継続される。そして、時刻t4にて、追加噴射終了時期に到達すると、インジェクタ14の駆動は停止される。インジェクタ14の駆動遅れにより、インジェクタ14の駆動が停止されたときも、その開弁開度はすぐには全閉とならず徐々に低減していく。
【0105】
このように、低温酸化反応が生じたときで、さらに、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上のときは、PCM100は、低温酸化反応が生じたと判定された直後から追加噴射終了時期までの期間、インジェクタ14の駆動を継続する。これにより、インジェクタ14からは、この期間中の所定の時期から追加噴射終了時期までの期間、追加噴射Q2が行われて燃焼室6内に追加の燃料が噴射される。
【0106】
一方、
図10は、ステップS4での判定がYESであって低温酸化反応が生じたと判定される一方、ステップS7での判定がNOであって第1筒内圧上昇量あるいは第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満でありノッキングが発生しないと判定された場合の図である。この場合も、クランク角t11にて低温酸化反応が生じたと判定されると、その直後にインジェクタ14の駆動が開始される。これに伴い、クランク角t11以後、インジェクタ14の開弁開度は増大していく。しかし、この場合は、クランク角t12にてノッキングが発生しないと判定されると、インジェクタ14の駆動は停止される(PCM100からインジェクタ14へ駆動停止信号が出される)。これに伴い、クランク角t12以降、インジェクタ14の開弁開度は徐々に低減していく。
【0107】
このように、低温酸化反応が生じる一方、第1筒内圧上昇量あるいは第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満のときは、低温酸化反応が生じると判定された時点でインジェクタ14の駆動は開始されるが、第1筒内圧上昇量あるいは第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満と判定されるとすぐさまインジェクタ14の駆動が停止される。
【0108】
また、
図11は、ステップS4での判定がNOであって低温酸化反応が生じないと判定される一方、ステップS7での判定がYESであって第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上となりノッキングが発生すると判定された場合の図である。この場合は、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上であると判定されたクランク角t21でインジェクタ14の駆動が開始される。そして、クランク角t22にて追加噴射終了時期に到達すると、インジェクタ14の駆動が停止される。
【0109】
このように、低温酸化反応が生じない一方、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上のときは、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上と判定された直後からインジェクタ14の駆動が開始される。
【0110】
(3)作用等
以上のように、本実施形態によれば、低温酸化反応が生じたか否か(着火前熱発生率増加量が基準増加量以上であるか否か)に応じてまずノッキングが発生する可能性が判定され、その後、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上であるか否かに応じてノッキングが発生するか否かの判定が確定される。そのため、ノッキングが発生する可能性が高いことを早期に検知することができるとともにノッキングの発生を精度よく予測することができる。
【0111】
また、低温酸化反応が生じた時点で追加噴射Q2を開始(インジェクタ14の駆動を開始)している。そのため、より確実に、適切な時期に追加噴射Q2に係る燃料を燃焼室6内に噴射することができ、ノッキングの発生を確実に防止できる。
【0112】
そして、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量以上であると判定されたときには追加噴射Q2を継続する一方、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満であると判定されたときには追加噴射Q2を停止している。そのため、第1筒内圧上昇量および第2筒内圧上昇量が基準圧力上昇量未満であってノッキングが発生しないと予測されると、追加噴射Q2が継続されて多量の燃料が気筒内に噴射されこと、および、これに伴い燃焼温度が低下するのを防止できる。
【0113】
(4)変形例
前記実施形態では、第2ノック判定ステップにおいて、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の筒内圧の上昇量が基準圧力上昇量以上のときにノッキングが生じると判定する場合について説明した。この筒内圧の上昇量が高いときは熱発生率の上昇量も高くなる。つまり、本願発明者らは、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の、熱発生率の上昇量が高いときにも、ノッキングが生じやすいという知見を得た。
【0114】
そこで、第2ノック判定ステップにおいて判定に用いるパラメータ(高温酸化反応の開始後の燃焼の急峻さを表す燃焼急峻度として用いるパラメータ)を、筒内圧の上昇量に代えて熱発生率の上昇量としてもよい。すなわち、第2ノック判定ステップにおいて、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の熱発生率の上昇量が、予め設定された基準値以上のときにノッキングが生じると判定し、前記熱発生率の上昇量が基準値未満のときはノッキングが生じないと判定してもよい。
【0115】
具体的には、圧縮行程後期から膨張行程初期までの特定期間に含まれ、且つ、燃焼が開始した後の時期として予め設定された熱発生率判定第1クランク角とこれよりも遅角側に設定された熱発生率判定第2クランク角とにおける熱発生率をそれぞれ算出する。また、熱発生率判定第1クランク角の熱発生率に対する熱発生率判定第2クランク角の熱発生率の増加量を熱発生率の上昇量として算出する。そして、この熱発生率の上昇量と基準値とを比較してノッキングが生じるか否かを判定する。熱発生率判定第1クランク角は、例えば、TDCに設定され、熱発生率判定第2クランク角はATDC10°CA(圧縮上死点後10°CA)程度に設定される。
【0116】
この方法および構成によっても、ノッキングが発生するか否かを精度よく判定できる。また、この判定結果に基づいてノッキングの発生をより確実に防止できるとともに、ノッキングの発生を抑制するために燃焼室6に供給する冷媒の量が過大となるのを防止できる。
【0117】
また、前記実施形態では、第2ノック判定ステップにおいて、第1筒内圧上昇量と第2筒内圧上昇量とがいずれも基準圧力上昇量以上であるときにノッキングが発生すると判定した場合について説明した。これに代えて、第1筒内圧上昇量と第2筒内圧上昇量の少なくとも一方が基準圧力上昇量以上であるときに、ノッキングが発生すると判定してもよい。
【0118】
また、前記実施形態では、第1筒内圧上昇量と第2筒内圧上昇量とを算出して、2つの期間の筒内圧の上昇量に基づいてノッキングが発生するか否かを判定する場合に説明したが、これに代えて、1つの期間の筒内圧の上昇量のみを算出し、これに基づいてノッキングが発生するか否かを判定してもよい。
【0119】
また、前記実施形態では、第1ノック判定ステップにおいて、熱発生率に基づいて低温酸化反応が生じたか否かを判定する場合について説明したが、第2ノック判定ステップは圧縮行程後期と膨張行程初期とを含む特定期間の燃焼室内の圧力に基づいて低温酸化反応が生じたか否かを判定するように構成されればよい。つまり、低温酸化反応が生じたか否かの判定は、熱発生率に基づいて行われなくてもよく、筒内圧に基づいて行われればよい。すなわち、低温酸化反応の発生度合いを表す低温酸化反応レベルとして用いるパラメータは、熱発生率(熱発生率の上昇量)に限らず、例えば、筒内圧の増加量等であってもよい。
【0120】
前記実施形態では、ノック回避制御として、メイン噴射Q1の後に燃焼室6に燃料を噴射する追加噴射を実施する場合について説明したが、ノック回避制御の具体的な構成はこれに限らない。例えば、燃料の代わりに、混合気の温度を低減可能な他の冷媒を燃焼室6内に供給する構成としてもよい。この冷媒としては、水や排気の一部が挙げられる。ただし、燃料を噴射する構成とすれば、インジェクタ14を利用してノック回避制御を実施することができるため、他の冷媒を噴射するための装置を別途設ける必要がなく、構造を簡素化できる。
【0121】
また、前記実施形態では、追加噴射Q2の噴射量(追加噴射によって燃焼室6に供給される燃料の量)を1サイクル中に燃焼室6に供給される燃料の総量の10%以下とした場合について説明したが、追加噴射Q2の噴射量は10%より大きくしてもよい。
【0122】
ただし、追加噴射Q2の噴射量が多くなると、この燃料の気化に伴って燃焼室6内の温度が大幅に低下するおそれがある。また、燃料と空気との混合が不十分となりスモークが生じやすい。そのため、追加噴射によって燃焼室6に供給される燃料の量は、前記のように設定されるのが好ましい。
【0123】
また、気筒の幾何学的圧縮比は、15以上20以下に限らない。ただし、気筒の幾何学的圧縮比が15以上になると、ノッキングが生じやすい。そのため、このエンジンに前記の実施形態を適用すれば、効果的である。