(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非常操作時に、前記操作レバーからの操作信号に基づいて、前記電磁比例弁を全開状態に制御する非常操作回路を備えることを特徴とする請求項1に記載の油圧システム。
前記電磁比例弁は、ディテント式の非常用手動操作機能を有し、前記非常操作時に、手動によって全開状態に切り換えられることを特徴とする請求項1に記載の油圧システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した非常操作装置では、電磁比例弁4がON(全開)又はOFF(全閉)に切り換えられるため、非常操作時には電磁比例弁4が全開状態になることとなり、アクチュエータ5が急作動又は急停止し、ショックを生じるという問題がある。
【0009】
一方、断線、あるいはコンタミ(不純物の混入)により電磁比例弁自体が固着して、電気では動かなくなった場合のために、非常用手動操作機能付きの電磁比例弁が知られている。この非常用手動操作機能付きの電磁比例弁でも、非常操作時には手動で電磁比例弁を全開状態にすることとなるため、同様に非常操作時にアクチュエータが急作動しショックを生じるという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、非常操作時にアクチュエータを緩駆動することができる安全性に優れる油圧システム及び非常操作方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る油圧システムは、
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油圧を作業機のアクチュエータに供給するパイロット式のコントロールバルブと、
前記コントロールバルブに対してパイロット圧を供給する電磁比例弁と、
前記アクチュエータを動作させるための操作を受け付ける操作レバーと、
前記操作レバーからの操作信号に基づいて、前記電磁比例弁を制御するコントローラと、
パイロット圧源から前記電磁比例弁に供給される電磁比例弁供給圧を
、第1の圧力又は前記第1の圧力よりも小さい第2の圧力に切換可能なパイロット圧切換部と、を備え、
前記コントロールバルブは、前記パイロット圧に基づくスプールのストロークに応じて開口面積が増減するブリードオフ通路を有し、前記開口面積によって前記アクチュエータに供給する作動油圧を制御可能であり、
前記第2の圧力は、前記油圧ポンプの作動油吐出量が最低吐出量である状態において、前記電磁比例弁供給圧が当該第2の圧力に切り換えられたとき、前記作動油圧が所定圧力以下となるように設定され、
前記パイロット圧切換部は、
前記コントローラによる前記電磁比例弁の制御が可能である通常操作時に、前記電磁比例弁供給圧を前記第1の圧力に制御するとともに、前記コントローラによる前記電磁比例弁の制御が不能である非常操作時に、前記電磁比例弁供給圧を、前記第1の圧力から前記第2の圧力に切り換え、
前記電磁比例弁は、前記非常操作時に、全開状態とされ、
前記油圧ポンプからの作動油吐出量が増減されることにより、前記作動油圧が増減し、前記アクチュエータの動作速度が制御されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る非常操作方法は、
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油圧を作業機のアクチュエータに供給するパイロット式のコントロールバルブと、
前記コントロールバルブに対してパイロット圧を供給する電磁比例弁と、
前記アクチュエータを動作させるための操作を受け付ける操作レバーと、
前記操作レバーからの操作信号に基づいて、前記電磁比例弁を制御するコントローラと、
パイロット圧源から前記電磁比例弁に供給される電磁比例弁供給圧を
、第1の圧力又は前記第1の圧力よりも小さい第2の圧力に切換可能なパイロット圧切換部と、を備え、
前記コントロールバルブは、前記パイロット圧に基づくスプールのストロークに応じて開口面積が増減するブリードオフ通路を有し、前記開口面積によって前記アクチュエータに供給する作動油圧を制御可能であり、
前記第2の圧力は、前記油圧ポンプの作動油吐出量が最低吐出量である状態において、前記電磁比例弁供給圧が当該第2の圧力に切り換えられたとき、前記作動油圧が所定圧力以下となるように設定され
、
前記コントローラによる前記電磁比例弁の制御が可能である通常操作時に、前記電磁比例弁供給圧が前記第1の圧力に制御される油圧システムの非常操作方法であって、
前記電磁比例弁を全開状態とする工程と、
前記コントローラによる前記電磁比例弁の制御が不能である非常操作時に、前記電磁比例弁供給圧を、前記第1の圧力から前記第2の圧力に切り換える工程と、
前記油圧ポンプからの作動油吐出量を増減することにより、前記作動油圧を増減させ、前記アクチュエータの動作速度を制御する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非常操作時にアクチュエータを緩駆動することができる安全性に優れる油圧システム及び非常操作方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[油圧システム1の通常操作]
図1は、本発明に係る油圧システム60(
図2参照)が搭載される作業機として好適な移動式クレーン40のクレーン作業時の状態を示す図である。
図1では、移動式クレーン40は、下部フレーム41の前後に設けられたアウトリガ42のジャッキシリンダ43が伸長し、移動式クレーン40全体がジャッキアップされたクレーン作業姿勢となっている。
【0016】
旋回フレーム44は、下部フレーム41の上面に、旋回自在に搭載されている。伸縮ブーム45は、起伏自在となるようピン46により旋回フレーム44と連結されている。伸縮ブーム45は、内部に配置された伸縮シリンダ(図示略)により伸縮駆動される。また、伸縮ブーム45は、旋回フレーム44と伸縮ブーム45との間に介装された起伏シリンダ47により起伏駆動される。
【0017】
ワイヤロープ48は、旋回フレーム44に配置されたウインチ(図示略)から繰り出され、伸縮ブーム45の背面に沿って伸縮ブーム先端49に導かれている。さらに、ワイヤロープ48は、伸縮ブーム先端49のシーブ50に掛け回され、その先端にフック51を吊り下げている。フック51には吊り荷52が吊り下げられている。
【0018】
図2は、移動式クレーン40に搭載されている油圧システムの一例を示す図である。
図2では、電気回路が故障していない場合、すなわち通常操作時の電気操作システムの制御系統を示している。
【0019】
油圧システム60は、アクチュエータ72に作動圧を供給するメイン回路60A及びメイン回路60Aのコントロールバルブ70にパイロット圧を供給するパイロット回路60Bを備える。メイン回路60Aは、油圧ポンプ71、コントロールバルブ70、ポンプ油路74、タンク油路75、作動油タンク76、リリーフ弁77、エンジン80及びアクセル81を含む。パイロット回路60Bは、操作レバー61、コントローラ62、電磁比例弁63、パイロット圧切換部64、パイロット圧源65、パイロット油路69及び非常操作回路84(
図3参照)を有する。
【0020】
操作レバー61は、操作方向と操作量を操作信号(電気信号)に変換して、コントローラ62に出力する。コントローラ62は、操作レバー61からの操作信号を受け取り、対応する電磁比例弁63に駆動信号(電気信号)を出力する。
【0021】
電磁比例弁63は、コントローラ62からの駆動信号を受け取り、駆動信号に比例したパイロット圧を生成して、コントロールバルブ70に供給する。電磁比例弁63は、ディテント式の非常用手動操作機能を有していることが好ましい。これにより、電磁比例弁63自体が故障した場合にも安全に対応することができる。
【0022】
コントロールバルブ70は、電磁比例弁63からのパイロット圧によって駆動方向が切り換えられ、油圧ポンプ71からの作動油圧をコントロールしてアクチュエータ72に供給するパイロット式の方向制御弁である。アクチュエータ72は、例えば、旋回用油圧モータである。アクチュエータ72は、油圧モータに限られず油圧シリンダでもよい。
【0023】
図2に示すように、コントロールバルブ70は、電磁比例弁63からのパイロット圧に基づくスプールのストローク(切換ストローク)の増加に伴い開口面積(ブリードオフ通路面積)が減少するブリードオフ通路73を備えている。ブリードオフ通路73の開口面積によって、作動油タンク76に戻る作動油の流量を制御することにより、コントロールバルブ70に供給される作動油の流量、ひいてはアクチュエータ72に供給される作動油の流量を制御することができる。
【0024】
ポンプ油路74は、油圧ポンプ71とコントロールバルブ70とを連絡する。タンク油路75は、コントロールバルブ70と作動油タンク76とを連絡する。リリーフ弁77は、ポンプ油路74とタンク油路75との間に介装され、油圧が設定圧力を超えたときに作動して圧力の異常上昇を防止する。
【0025】
油圧ポンプ71は、例えば、固定容量型の油圧ポンプであり、移動式クレーン40のエンジン80の動力によって駆動する。エンジン80の回転数は、アクセル81の操作によって制御される。
【0026】
パイロット圧切換部64は、第1電磁切換弁66、第2電磁切換弁67、及び減圧弁68を含む。パイロット油路69は、パイロット圧切換部64と電磁比例弁63、63とを連絡する。パイロット圧切換部64は、コントローラ62からの駆動信号により切り換えられ、パイロット圧源65の電磁比例弁供給圧をそのままの圧力あるいは減圧してパイロット油路69に供給する。
【0027】
第1電磁切換弁66は、3ポート2位置切換弁であって、非通電時はパイロット圧源65とパイロット油路69とを遮断する遮断位置にあり、通電時は油圧源65とパイロット油路69とを連通する連通位置に切り換わる。第2電磁切換弁67は、2ポート2位置切換弁であって、非通電時は遮断位置にあり、通電時は減圧弁68をバイパスして連通する連通位置に切り換わる。減圧弁68の設定圧力については、後述する非常操作で詳細に説明する。
【0028】
上述した油圧システム60の通常時の操作は以下の通りである。
オペレーターにより操作レバー61が操作されると、コントローラ62がその操作信号を受け取る。コントローラ62は、操作信号に基づいて、パイロット圧切換部64の第1電磁切換弁66及び第2電磁切換弁67に通電する。
【0029】
第1電磁切換弁66と第2電磁切換弁67は共に連通位置に切り換わり、パイロット圧源65からの電磁比例弁供給圧は、第1電磁切換弁66と第2電磁切換弁67を経由して減圧されることなくパイロット油路69に供給される。そして、電磁比例弁63には、パイロット油路69を経由して、減圧されない電磁比例弁供給圧(第1の圧力)が供給される。
【0030】
また、コントローラ62は、操作レバー61の操作方向に対応する電磁比例弁63に対して、操作量に応じた駆動信号を出力する。駆動信号を受け取った電磁比例弁63は、駆動信号に比例するパイロット圧を生成し、コントロールバルブ70に供給する。以上により、操作レバー61の操作方向と操作量に応じて、コントロールバルブ70のスプール(弁体)の駆動方向とストロークが制御される。
【0031】
油圧ポンプ71から吐出された作動油は、ポンプ油路74を経由して、コントロールバルブ70に供給され、一部の作動油はブリードオフ通路73に流れ、タンク油路75を経由して作動油タンク76に戻る。残りの作動油は、切り換えた方向のアクチュエータ油路82(または83)に流れ、アクチュエータ72(旋回モーター)を駆動する。アクチュエータ72を駆動した作動油は、反対のアクチュエータ油路83(または82)を経由してコントロールバルブ70に戻り、タンク油路75を経て作動油タンク76に戻る。
【0032】
このとき、アクセル81を操作してエンジン80の回転数を増減すると、油圧ポンプ71による作動油吐出量が増減する。コントロールバルブ70からアクチュエータ72に流れる作動油の流量も増減するので、アクチュエータ72の動作速度を増減することができる。なお、通常操作時においては、エンジン80はアイドリング状態となっており、油圧ポンプ71からの作動油吐出量は、最低吐出量となっている。
【0033】
このように、油圧システム60では、操作レバー61によりコントロールバルブ70の駆動方向を切り換えるとともにアクセル81を操作することで、アクチュエータ72の動作の方向とスピードをコントロールすることができる。
【0034】
[油圧システム60の非常操作(電気回路が故障した場合)]
図3は、電気回路が故障した場合、すなわち非常操作時の電気操作システムの制御系統を示す図である。電気回路が故障した場合としては、操作レバー61の操作量を操作電気信号に変換する部分(ポテンショメーター等が該当する)が故障した場合、あるいはコントローラ62が故障した場合が考えられる。
【0035】
図3に示すように、電気回路が故障した場合には、コントローラ62から第1電磁切換弁66、第2電磁切換弁67及び電磁比例弁63L、63Rへの信号伝達経路が遮断され、非常操作回路84によってこれらの制御が行われる。
【0036】
非常操作回路84は、操作レバー61から出力される操作信号のうち、操作方向を示す電気信号のみを受け取り、対応する電磁比例弁63R又は63Lに対して駆動信号を出力する。油圧システム60のその他の構成は、
図2で説明した通常時の構成と共通するので、説明を省略する。
【0037】
従来、電気操作システムの電気回路が故障した場合には、非常操作装置(
図7参照)による非常操作が行われていた。従来の非常操作装置により非常操作が行われた場合、電磁比例弁が全開となるように制御されるので、アクチュエータ72が急作動する。アクチュエータ72が旋回用モータである場合には、急激に旋回が行われることになる。特に、
図1に示した作業姿勢にあった移動式クレーン40において非常操作が行われる場合、高く吊り上げられた吊り荷52が旋回とともに大きく揺れ、伸縮ブーム45に衝突するため、非常に危険である。これに対して、本実施の形態の油圧システム60では、以下のように非常時の操作が行われるため、格段に安全である。
【0038】
すなわち、非常操作時には、オペレーターは、電気操作システムの制御系統を
図2に示した通常操作時の制御系統から
図3に示した非常操作時の制御系統に切り換えたうえで、操作レバー61の操作を行う。具体的には、オペレーターは、旋回方向に対応する方向に操作レバー(旋回レバー)61を操作する。非常操作回路84は、操作レバー61からの操作方向を示す操作信号に基づいて、対応する電磁比例弁63に駆動信号を出力する。これにより、対応する電磁比例弁63が全開となる。例えば、オペレーターが、操作レバー61を左旋回の方向に操作すると、左旋回用の電磁比例弁63Lが全開となる。
【0039】
それと同時に、非常操作回路84は、パイロット圧切換部64の第1電磁切換弁66に通電する。このとき、第2電磁切換弁67は非通電状態であり、遮断位置のまま保持される。第1電磁切換弁66のみ連通位置に切り換えられるので、パイロット圧源65の電磁比例弁供給圧は、第1電磁切換弁66と減圧弁68を経由することにより、減圧されてパイロット油路69に供給される。そして、パイロット油路69から全開状態の電磁比例弁63L(左旋回用)を経由して、減圧されたパイロット圧(以下、「減圧パイロット圧」と称する)がコントロールバルブ70に供給される。
【0040】
図4は、コントロールバルブ70のスプールストロークSとブリードオフ通路面積Aとの関係を示すグラフである。ブリードオフ通路面積Aは、スプールストロークSがゼロの時に最大(Amax)であり、スプールストロークSの増加につれて減少し、スプールストロークSが最大(Smax)の時にゼロとなる。
【0041】
図4のグラフに示すように、
図3の油圧システム60でコントロールバルブ70に減圧パイロット圧が供給されたときのスプールストロークSは、最大ストローク(Smax)よりも小さく、Seとなっている。このときのコントロールバルブ70のブリードオフ通路面積Aは、Aeとなっている。
【0042】
図5は、コントロールバルブ70に減圧パイロット圧が供給されたときのブリードオフ通路73を含むブリードオフ回路の状態を説明する図である。
図5では、アクセル81は踏み込まれておらず、エンジン80はアイドリング状態となっている状態を示している。
【0043】
アイドリング状態では、エンジン80は必要最低限の回転数で回転しており、固定容量型の油圧ポンプ71の作動油吐出量は最低吐出量である。油圧ポンプ71から吐出された作動油は、ポンプ油路74を経てコントロールバルブ70のブリードオフ通路73を通った後、タンク油路75を経て作動油タンク76に戻る。
【0044】
コントロールバルブ70に減圧パイロット圧が供給されている状態では、
図4に示すように、ブリードオフ通路面積は最大Amaxに対してAeまで絞られている。すなわち、
図5のコントロールバルブ70のシンボルに示すように絞り85がブリードオフ通路73に設けられた状態となっている。絞り85をアイドリング時の最低吐出量の作動油が通過することにより、ポンプ油路74にはポンプ圧Pp(作動油圧)が発生する。
【0045】
一方、アクチュエータ72(以下「旋回用油圧モータ72」と称する)の起動時の作動圧力Pm(以下、「アクチュエータ作動圧Pm」又は「起動時作動圧Pm」と称する)は、
図5におけるアイドリング時のポンプ圧Ppより高いので、この状態では旋回用油圧モータ72は回転することはない。言い換えると、アイドリング状態において、ブリードオフ通路73を最低吐出量の作動油が通過するときに、旋回用油圧モータ72の起動時作動圧Pmよりやや低い程度のポンプ圧Ppが発生するように、ブリードオフ通路面積Aeが設定されている。つまり、このブリードオフ通路面積Aeに対応するスプールのストロークに基づいて、減圧パイロット圧、すなわち減圧弁68の設定圧力(第2の圧力)が設定されている。
【0046】
図5に示した状態から、アクセル81を踏み込んで徐々にエンジン80の回転数を上げていき油圧ポンプ71の吐出量を増加させていく。すると、コントロールバルブ70のブリードオフ通路73の絞り85を通過する作動油の流量が増加するので、ポンプ圧Ppが徐々に高くなっていく。ポンプ圧Ppが旋回用油圧モータ72の起動時作動圧Pmを上回ると、旋回用油圧モータ72が回り始める。ポンプ油路74の作動油は、コントロールバルブ70のPポート86からAポート87へも流れ始め、アクチュエータ油路83、旋回用油圧モータ72、アクチュエータ油路82を通ってコントロールバルブ70のBポート89に戻るようになる。Bポート89に戻った作動油は、コントロールバルブ70のTポート88を経てタンク油路75に合流し、作動油タンク76に戻る。
【0047】
上述したコントロールバルブ70のブリードオフ通路73の絞り85はオリフィスと考えることができるので、上記の動作を、オリフィス圧損の公式に当てはめて説明する。
オリフィス圧損の公式:ΔP=0.26(Q/a)
2
ΔP:オリフィス圧損[MPa]
Q:オリフィス流量[L/min]
a:オリフィス面積[mm
2]
【0048】
オリフィス圧損の公式において、アイドリング時のオリフィス流量Q1=20[L/mm
2]、アクセル操作時のオリフィス流量Q2=40[L/mm
2]、オリフィス面積a=5[mm
2]とした場合、ポンプ圧Pp(オリフィス圧損ΔP)は以下のように算出される。また、旋回モータ起動圧Pmが5[MPa]である場合の、ポンプ圧Ppと旋回モータ起動圧Pmとの関係についても示す。
【0049】
(1)アイドリング時のポンプ圧Pp(オリフィス圧損ΔP)は、
Pp=0.26×(20/5)
2≒4.16[MPa]<5[MPa]
よって、アイドリング時にはポンプ圧Ppが旋回モータ起動圧Pmより低いので、旋回用油圧モータ72は回転しない。
【0050】
(2)一方、アクセル操作時のポンプ圧Pp(オリフィス圧損ΔP)は、
Pp=0.26×(40/5)
2≒16.64Mp>5[MPa]
よって、アクセル操作時にはポンプ圧Ppが旋回モータ起動圧Pmより高くなるので、旋回用油圧モータ72は回転する。
【0051】
以上のように、油圧システム60では、ブリードオフ通路73を備えたコントロールバルブ70に、通常操作時よりも減圧されたパイロット圧を加えることで、アイドリング時にコントロールバルブ70のブリードオフ通路73を作動油が通過することにより発生するポンプ圧Ppがアクチュエータ作動圧Pmを上回らない程度に前記コントロールバルブ70を切り換えることができる。そのうえで、ポンプ吐出量Qを増大させると、前記コントロールバルブ70のブリードオフ通路73を作動油が通過することにより発生するポンプ圧Ppが上昇する。これにより、コントロールバルブ70からアクチュエータ72に対してアクチュエータ作動圧(旋回モータ起動圧)Pmを上回るポンプ圧Pp(作動油圧)が供給されるので、非常操作時にもアクチュエータ72を緩起動することができる。
【0052】
そして、さらにアクセル81を踏み込むことで、油圧ポンプ71の吐出量をさらに増加させ、アクチュエータ72の速度を増加することができる。当然、アクセル81を緩めることで、アクチュエータ72の速度を落として、緩停止することもできる。
【0053】
なお、アイドリング時のポンプ圧Ppは、アクチュエータ72が急作動しない範囲でアクチュエータ作動圧Pmをわずかに上回っていても良い。
【0054】
移動式クレーン40においては、
図1に示すクレーン作業姿勢で旋回非常操作しても緩起動・緩停止することができるので、吊り荷52が大きく振れて伸縮ブーム45にぶつかる心配がない。よって、安全に非常操作することができる。
【0055】
このように、油圧システム60は、油圧ポンプ71と、油圧ポンプ71からのポンプ圧Pp(作動油圧)を作業機のアクチュエータ72に供給するパイロット式のコントロールバルブ70と、コントロールバルブ70に対してパイロット圧を供給する電磁比例弁63と、アクチュエータ72を動作させるための操作を受け付ける操作レバー61と、操作レバー61からの操作信号に基づいて、電磁比例弁63を制御するコントローラ62と、パイロット圧源65から電磁比例弁63に供給される電磁比例弁供給圧を、通常操作時の第1の圧力又は第1の圧力よりも小さい第2の圧力に切換可能なパイロット圧切換部64と、を備える。コントロールバルブ70は、パイロット圧に基づくスプールのストロークに応じて開口面積が増減するブリードオフ通路73を有し、開口面積によってアクチュエータ72に供給するポンプ圧Ppを制御可能である。第2の圧力は、油圧ポンプ71の作動油吐出量が最低吐出量である状態において、電磁比例弁供給圧が当該第2の圧力に切り換えられたとき、ポンプ圧Ppが所定圧力以下となるように設定される。パイロット圧切換部64は、コントローラ62による電磁比例弁63の制御が不能である非常操作時に、電磁比例弁供給圧を、第1の圧力から第2の圧力に切り換える。電磁比例弁は、非常操作時に、全開状態とされる。そして、油圧ポンプ71からの作動油吐出量が増減されることにより、ポンプ圧Ppが増減し、アクチュエータ72の動作速度が制御される。
【0056】
具体的には、油圧システム60は、非常操作時に、操作レバー61からの操作信号に基づいて、電磁比例弁63を全開状態に制御する非常操作回路84を備える。
【0057】
また、パイロット圧切換部64における減圧時の設定圧力(第2の圧力)は、アクチュエータ72のアクチュエータ作動圧Pmに基づいて設定される。例えば、第2の圧力は、油圧ポンプ71の作動油吐出量が最低吐出量である状態において、ポンプ圧Pp(作動油圧)がアクチュエータ作動圧Pmと同等以下(わずかに上回ってもよい)となるように設定される。すなわち、ポンプ圧Ppの比較基準となる所定圧力は、アクチュエータ72が作動しない、又は緩やかに作動することとなる圧力であり、アクチュエータ作動圧Pm又はアクチュエータ作動圧Pmよりも僅かに高い値である。
【0058】
さらに、本実施の形態では、油圧ポンプ71の動力源は、移動式クレーン40(作業機)のエンジン80である。第2の圧力は、エンジン80がアイドリング状態にある状態において、電磁比例弁供給圧が当該第2の圧力に切り換えられたとき、ポンプ圧Pp(作動油圧)が所定圧力以下となるように設定される。エンジン80の回転数を増減させるアクセル81の操作によって、油圧ポンプ80からの作動油吐出量が増減される。
【0059】
油圧システム60は、非常操作時にアクチュエータ72を緩駆動することができるので、極めて安全性に優れる。
【0060】
図6は、電磁比例弁63が故障した場合の電気操作システムの制御系統の他の一例を示す図である。電気比例弁63が故障した場合としては、断線した場合、あるいはコンタミにより固着した場合が考えられる。この場合は、電気によって電磁比例弁63を動かすことができない。
【0061】
電磁比例弁63L、63Rは、ディテント式の非常操作機能を有する。電磁比例弁63L、63Rは、電磁比例弁に設けられた非常操作ねじなどを用いて、油路を開口した状態で固定することができる。移動式クレーン40の運転室53には、非常操作作動スイッチ90が設けられる。非常操作作動スイッチ90は、モーメンタリータイプのスイッチである。非常操作作動スイッチ90を押している間、電源からパイロット圧切換部64の第1電磁切換弁66に通電が行われる。
図6に示した油圧システム60のその他の構成は、
図2で説明した通常時の構成と共通するので、その説明を省略する。
【0062】
電磁比例弁63Lが故障した場合の非常操作は以下の通りである。
まず初めに、オペレーターは、動かそうとするアクチュエータ72(例えば、旋回用モータ)の動かそうとする方向の電磁比例弁63Lのプッシュピンあるいは非常操作ねじを操作することにより、電磁比例弁63Lを強制的に全開状態にする。
【0063】
次に、オペレーターは、運転室内の非常操作作動スイッチ90を操作し、パイロット圧切換部64の第1電磁切換弁66を連通側へ切り換える。すると、パイロット圧源65の電磁比例弁供給圧が、第1電磁切換弁66及び減圧弁68を通ることにより、所定の圧力(第2の圧力)に減圧されてパイロット油路69に供給される。そして、パイロット油路69から全開状態の電磁比例弁63L(左旋回用)を経由してコントロールバルブ70に減圧パイロット圧が供給される。以降の非常操作は、
図3に示した電気回路が故障した場合の制御系統における非常操作と同じである。
【0064】
以上のように、油圧システム60では、電磁比例弁63が故障した場合にも、ブリードオフ通路73を備えたコントロールバルブ70に、通常操作時よりも減圧されたパイロット圧を加えることで、アイドリング時にコントロールバルブ70のブリードオフ通路73を作動油が通過することにより発生するポンプ圧Ppがアクチュエータ作動圧Pmを上回らない程度に前記コントロールバルブ70を切り換えることができる。そのうえで、ポンプ吐出量Qを増大させると、前記コントロールバルブ70のブリードオフ通路73を作動油が通過し発生するポンプ圧Ppが上昇する。これにより、コントロールバルブ70からアクチュエータ72に対して、アクチュエータ作動圧Pmを上回るポンプ圧Pp(作動油圧)が供給されるので、非常操作時にもアクチュエータ72を緩起動することができる。
【0065】
そして、さらにアクセル81をコントロールすることで、油圧ポンプ71の吐出量をさらに増減させ、アクチュエータ72の速度を増減させることができる。当然、アクセル81を緩めることでアクチュエータ72の速度を落とし緩停止することもできる。なお、アイドリング時のポンプ圧Ppは、アクチュエータ72が急作動しない範囲で作動圧Pmをわずかに上回っていても良い。
【0066】
移動式クレーン40においては、
図1に示すクレーン作業姿勢で非常時の旋回操作を行っても緩起動・緩停止することができるので、吊り荷52が大きく振れて伸縮ブーム45にぶつかる心配がない。よって、安全に非常操作することができる。
【0067】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0068】
上述した2つの実施の形態では、コントローラ62による電磁比例弁63の制御が不能な非常操作時の一例として、電気回路が故障した場合、電磁比例弁が故障した場合について説明した。つまり、電気回路又は電磁比例弁が故障した場合には、共に、パイロット圧切換部64によって減圧された電磁比例弁供給圧(第2の圧力)に基づく減圧パイロット圧を、パイロット油路69及び全開状態の電磁比例弁63を経由して、ブリードオフ通路73を備えたコントロールバルブ70に加える。そのうえで、油圧ポンプ71からの作業油吐出量を増加させ、アクチュエータ72を緩起動・緩停止させる。さらに、本発明の技術思想を生かした次の応用も可能である。
【0069】
すなわち、非常操作時には、操作レバー61を操作するとコントローラ62から電磁比例弁63に対し、
図4に示したスプールストロークSe(ブリードオフ通路面積Ae)となるようなパイロット圧力をコントロールバルブ70に加えるよう駆動信号を出力するようにしてもよい。この場合も、操作信号には、操作レバー61の駆動量に対応する情報は電磁比例弁63に伝達されないので、コントローラ62による電磁比例弁63の制御が不能な非常操作時の一例に含まれる。
【0070】
この場合にも、コントロールバルブ70のブリードオフ通路73を作動油が通過することにより発生するポンプ圧Ppがアクチュエータ作動圧Pmを上回らない程度に、前記コントロールバルブ70を切り換えることができる。そのうえで、ポンプ吐出量Qを増大させると、コントロールバルブ70のブリードオフ通路73を作動油が通過し発生するポンプ圧Ppが上昇する。これにより、コントロールバルブ70からアクチュエータ72に対して、アクチュエータ作動圧Pmを上回るポンプ圧Ppが供給されるので、非常操作時にもアクチュエータ72を緩起動することができる。
【0071】
そして、さらにアクセル81を踏み込むことで、油圧ポンプ71の吐出量をさらに増減させ、アクチュエータ72の速度増減することができる。当然、アクセルを緩めることでアクチュエータ72の速度を落とし緩停止することもできる。なお、アイドリング時の吐出圧Ppは、アクチュエータ72が急作動しない範囲で作動圧Pmをわずかに上回っていても良い。
【0072】
また、実施の形態では、固定容量型の油圧ポンプ71の作業油吐出量を、アクセル81によりエンジン回転数を増減させることにより増減させているが、油圧ポンプを可変容量型の油圧ポンプで構成し、一回転当たりの吐出量を変化させるようにしてもよい。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0074】
2016年3月31日出願の特願2016−070733の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。