特許第6849049号(P6849049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6849049
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】炭化珪素基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20210315BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20210315BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20210315BHJP
   B24B 37/10 20120101ALI20210315BHJP
【FI】
   H01L21/304 647Z
   H01L21/304 642A
   H01L21/304 621D
   H01L21/304 622Q
   C30B29/36 A
   B24B37/00 H
   B24B37/10
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-225374(P2019-225374)
(22)【出願日】2019年12月13日
(62)【分割の表示】特願2016-82779(P2016-82779)の分割
【原出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2020-61562(P2020-61562A)
(43)【公開日】2020年4月16日
【審査請求日】2019年12月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-216483(P2014-216483)
(32)【優先日】2014年10月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沖田 恭子
【審査官】 平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/073216(WO,A1)
【文献】 特開2006−041518(JP,A)
【文献】 特開2007−150317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
B24B 37/10
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面を有する炭化珪素基板であって、
前記主面において、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度はいずれも、1.0×1012atoms/cm以下であり、
前記主面において、カリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、銅、アルミニウムおよび錫のそれぞれの濃度はいずれも、1.0×1010atoms/cm以下であり、
前記主面において、バナジウムの濃度は、1.0×10atoms/cm以上である、炭化珪素基板。
【請求項2】
前記主面において、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度はいずれも、2.0×1011atoms/cm以下である、請求項1に記載の炭化珪素基板。
【請求項3】
前記炭化珪素基板の直径は100mm以上である、請求項1または請求項2に記載の炭化珪素基板。
【請求項4】
主面を有する炭化珪素基板であって、
前記主面において、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度はいずれも、1.0×1012atoms/cm以下であり、かつ、
前記主面において、カリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、銅、アルミニウムおよび錫のそれぞれの濃度はいずれも、1.0×1010atoms/cm以下であり、
前記主面において、バナジウムの濃度は、1.0×10atoms/cm以上である、炭化珪素基板。
【請求項5】
主面を有する炭化珪素基板であって、
前記主面において、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度はいずれも、2.0×1011atoms/cm以下であり、かつ、
前記主面において、カリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、銅、アルミニウムおよび錫のそれぞれの濃度はいずれも、1.0×1010atoms/cm以下であり、
前記主面において、バナジウムの濃度は、1.0×10atoms/cm以上である、炭化珪素基板。
【請求項6】
前記炭化珪素基板の直径は150mm以上である、請求項1、請求項2、請求項4および請求項5のいずれか1項に記載の炭化珪素基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高耐圧化、低損失化などを可能とするため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素(SiC)の採用が進められている。
【0003】
炭化珪素基板の製造工程においては、炭化珪素インゴットからスライスされた炭化珪素基板を研磨することで表面を平滑化した後、炭化珪素基板を洗浄する。たとえば、特許文献1(特開2010−4073号公報)には、硫酸と過酸化水素水とを含む水溶液を用いて炭化珪素基板を洗浄する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−4073号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示に係る炭化珪素基板は、主面を有する炭化珪素基板であって、表面粗さ(Ra)が0.1nm以下であり、かつ、上記主面において、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度は、いずれも1.0×1012atoms/cm以下である。
【0006】
本開示に係る炭化珪素基板の製造方法は、主面を有する炭化珪素基板を準備する工程と、炭化珪素基板の主面を、金属触媒を含む研磨剤を用いて研磨する工程と、研磨する工程後に、炭化珪素基板を洗浄する工程とを備える。洗浄する工程は、炭化珪素基板を王水で洗浄する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施の形態1に係る炭化珪素基板の構成を示す部分断面図である。
図2】実施の形態1に係る炭化珪素基板の製造方法を概略的に説明するためのフロー図である。
図3】実施の形態1に係る炭化珪素基板の製造方法における一工程を説明するための概略図である。
図4】研磨工程に用いられる研磨装置の概略構成図である。
図5】実施の形態1に係る炭化珪素基板の製造方法における一工程を説明するための概略図である。
図6】洗浄工程に用いられる洗浄装置の概略構成図である。
図7】実施の形態1に係る炭化珪素基板の製造方法における洗浄方法を概略的に説明するためのフロー図である。
図8】変形例1に係る洗浄方法を概略的に説明するためのフロー図である。
図9】変形例2に係る洗浄方法における洗浄方法を概略的に説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態の説明]
炭化珪素基板の研磨には、例えば、CMP(Chemical Mechanical Polishing)法と呼ばれる化学機械的研磨法が採用される。CMP法においては、高い研磨速度で良好な表面粗度を実現するために、例えば、酸化剤の酸化力を高めるよう、表面を触媒作用により改質させる金属触媒を含んだ研磨剤が使用される。金属触媒によって、炭化珪素基板の表面には、炭化珪素よりも硬度が低い酸化層が形成される。酸化層を機械的な力で除去することによって研磨が促進されるため、高い研磨速度と良好な表面の面粗さとを得ることができる。
【0009】
しかしながら、金属触媒を含む研磨剤を用いて研磨した後、炭化珪素基板上に炭化珪素エピタキシャル層(以下、エピ層とも称する)を成長させると、炭化珪素エピ層が局所的に異常成長し、エピ層の表面の面粗さが大きくなってしまうことがある。
【0010】
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示に係る炭化珪素基板は、主面を有する炭化珪素基板であって、表面粗さ(Ra)が0.1nm以下であり、かつ、主面において、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度はいずれも、1.0×1012atoms/cm以下である。ここで主面とは、トランジスタ、ダイオードなどのデバイスが形成される面を意味する。
【0011】
CMP法において、金属触媒を含んだ研磨剤を用いることにより、炭化珪素基板の主面の表面粗さ(Ra)を0.1nm以下にすることが容易になる。
【0012】
上記金属触媒は、例えば、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属元素を含んでいる。これらの金属元素は炭化珪素の表面の原子配列の結合の手を切断し、表面を酸化させやすくする触媒作用を持つ。よって、炭化珪素基板の主面に炭化珪素よりも硬度が低い酸化層を好適に形成できる。そのため、炭化珪素基板の研磨を促進できる。
【0013】
しかしながら、上記金属触媒を含む研磨剤を用いて炭化珪素基板を研磨した後に、炭化珪素基板を洗浄しても、炭化珪素基板の主面に付着した金属触媒に由来する金属が主面に残存する場合がある。主面に金属が残存した炭化珪素基板上にエピ層を成長させると、エピタキシャル成長の初期段階において、金属が残存している部分にエピ層の材料分子が選択的に付着する場合がある。その結果、エピ層が異常成長する。エピ層が部分的に異常成長すると、エピ層の表面の面粗さが大きくなる。したがって、エピ層の表面の面粗さを小さくするためには、炭化珪素基板の主面に残存する金属を低減することが求められる。
【0014】
上記炭化珪素基板においては、炭化珪素基板の主面に成長するエピ層表面の面粗さを低減できる。
【0015】
(2)上記炭化珪素基板において好ましくは、炭化珪素基板の主面において、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度はいずれも、2.0×1011atoms/cm以下である。
【0016】
(3)上記(1)または(2)に記載の炭化珪素基板において好ましくは、炭化珪素基板の主面における、カリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、銅、アルミニウムおよび錫のそれぞれの濃度はいずれも、1.0×1010atoms/cm以下である。
【0017】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の炭化珪素基板において好ましくは、炭化珪素基板の直径は100mm以上である。
【0018】
(5)本開示に係る炭化珪素基板の製造方法は、主面を有する炭化珪素基板を準備する工程と、炭化珪素基板の主面を、金属触媒を含む研磨剤を用いて研磨する工程と、研磨する工程後に、炭化珪素基板を洗浄する工程とを備える。洗浄する工程は、炭化珪素基板を王水で洗浄する工程を含む。炭化珪素基板を研磨した後に王水で洗浄することにより、炭化珪素基板の被研磨面である主面に残存している金属触媒を除去することができる。したがって、主面上に形成されるエピ層の表面の面粗さを低減できる。
【0019】
(6)上記炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、研磨する工程において、研磨剤は、金属触媒として、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素を含む。
【0020】
(7)上記(5)または(6)に記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、洗浄する工程は、炭化珪素基板を硫酸過水で洗浄する工程と、硫酸過水で洗浄する工程後に、炭化珪素基板をアンモニア過水で洗浄する工程とをさらに含む。アンモニア過水で洗浄する工程後に、王水で洗浄する工程を実施する。洗浄する工程はさらに、王水で洗浄する工程後に、炭化珪素基板を塩酸過水で洗浄する工程と、塩酸過水で洗浄する工程後に、炭化珪素基板をフッ酸で洗浄する工程とをさらに含む。これにより、炭化珪素基板の主面に残存している金属触媒および、金属触媒以外の金属を低減できる。この「金属触媒以外の金属」は、たとえばカリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、銅、アルミニウムおよび錫からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属を含む。
【0021】
(8)上記(7)に記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、硫酸過水で洗浄する工程、アンモニア過水で洗浄する工程、王水で洗浄する工程、塩酸過水で洗浄する工程およびフッ酸で洗浄する工程の各々において、処理時間を15分以上とする。
【0022】
(9)上記(5)または(6)に記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、洗浄する工程は、炭化珪素基板をアンモニア過水で洗浄する工程をさらに含む。アンモニア過水で洗浄する工程後に、炭化珪素基板を王水で洗浄する工程を実施する。これによれば、炭化珪素基板の主面に付着している有機物を低減できるとともに、炭化珪素基板の主面に残存している金属触媒および、金属触媒以外の金属を低減できる。
【0023】
(10)上記(9)に記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、アンモニア過水で洗浄する工程および王水で洗浄する工程の各々において、処理時間を15分以上とする。
【0024】
(11)上記(5)または(6)に記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、洗浄する工程は、炭化珪素基板を硫酸過水で洗浄する工程をさらに含む。硫酸過水で洗浄する工程後に、王水で洗浄する工程を実施する。洗浄する工程はさらに、王水で洗浄する工程後に、炭化珪素基板をフッ酸で洗浄する工程を含む。
【0025】
(12)上記(11)に記載の炭化珪素基板の製造方法では、硫酸過水で洗浄する工程、王水で洗浄する工程およびフッ酸で洗浄する工程の各々において、処理時間を15分以上とする。
【0026】
(13)上記(5)〜(12)のいずれかに記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、王水で洗浄する工程において、王水と超純水とが混合された混合液における王水の体積濃度は50%以上100%以下である。
【0027】
(14)上記(7)、(8)、(11)および(12)のいずれかに記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、硫酸過水で洗浄する工程において、硫酸過水が含む硫酸の体積は硫酸過水が含む超純水の体積の1倍以上5倍以下であり、硫酸過水が含む過酸化水素水の体積は硫酸過水が含む超純水の体積の1倍以上3倍以下である。
【0028】
(15)上記(7)〜(10)のいずれかに記載の炭化珪素基板の製造工程において好ましくは、アンモニア過水で洗浄する工程において、アンモニア過水が含むアンモニア水溶液の体積はアンモニア過水が含む超純水の体積の1/10倍以上1倍以下であり、アンモニア過水が含む過酸化水素水の体積はアンモニア過水が含む超純水の体積の1/10倍以上1倍以下である。
【0029】
(16)上記(5)〜(15)のいずれかに記載の炭化珪素基板の製造方法において好ましくは、洗浄する工程では、炭化珪素基板の温度を40℃以下とする。
【0030】
[実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態の具体例を図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。また、本明細書中においては、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0031】
(実施の形態1)
<炭化珪素基板の構成>
まず、実施の形態1に係る炭化珪素基板の構成について説明する。図1は、実施の形態1に係る炭化珪素基板10の構成を示す部分断面図である。
【0032】
図1に示されるように、炭化珪素基板10は、主面10Aを有している。炭化珪素基板10は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素単結晶からなる。炭化珪素基板10はたとえば窒素などのn型不純物を含む。炭化珪素基板10における不純物濃度はたとえば5.0×1018cm−3以上2.0×1019cm−3以下である。炭化珪素基板10の直径は、たとえば100mm以上(4インチ以上)であり、150mm以上(6インチ)であってもよい。
【0033】
主面10Aにおける表面粗さ(Ra)は0.1nm以下である。「表面粗さ(Ra)」とは、JIS B0601に準拠して測定される値である。表面粗さ(Ra)は、たとえば原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)を用いて測定することができる。
【0034】
AFMとしては、たとえばVeeco社製の「Dimension300」を用いることができる。また、上記AFMのカンチレバー(探針)としては、たとえば、Bruker社製の型式「NCHV−10V」を用いることができる。AFMの測定条件としては、一例として、測定モードをタッピングモードとし、かつ、タッピングモードでの測定領域を10μm四方、ピッチを40nmおよび測定深さを1.0μmとする。そして、タッピングモードでのサンプリングは、上記測定領域内での走査速度を1周期当たり5秒とし、1走査ラインあたりのデータ数を512ポイントとし、かつ、走査ライン数を512とする。また、カンチレバーの変位制御を15.50nmに設定する。
【0035】
主面10Aは、たとえば{0001}面であってもよいし、{0001}面に対して所定のオフ角(たとえば10°以下のオフ角)を有する面であってもよい。
【0036】
主面10Aにおけるバナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムのそれぞれの濃度は、いずれも1.0×10atoms/cm以上であり、かつ、1.0×1012atoms/cm以下である。より好ましくは、主面10Aにおけるカリウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、銅、アルミニウムおよび錫のそれぞれの濃度は、いずれも1.0×1010atoms/cm以下である。主面10Aにおける金属不純物の濃度は、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)により測定することができる。具体的には、たとえばAgillent社製のICP−MS7500を用いることができる。
【0037】
<炭化珪素基板の製造方法>
実施の形態1に係る炭化珪素基板10の製造方法について説明する。図2に示されるように、本実施の形態に係る炭化珪素基板10の製造方法は、準備工程(S10)、研磨工程(S20)および洗浄工程(S30)を含む。
【0038】
準備工程(S10)では、単結晶炭化珪素インゴットから切り出された炭化珪素基板10が準備される。図3に示されるように、本実施の形態に係る炭化珪素基板10は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素単結晶からなり、主面11Aを有している。
【0039】
研削工程(S20)では、たとえば図4に示される研磨装置100が用いられる。研磨装置100には、たとえばCMP装置が用いられる。研磨工程(S20)では、図5に示されるように、主面11Aが研磨されることにより、新たな主面10Aが形成される。図4に示されるように、実施の形態1で用いられる研磨装置100は、基板保持部101と、回転定盤部104と、研磨布102と、研磨剤供給部108とを備えている。基板保持部101は、図示しないシャフトによって回転軸C2を中心に回転する加圧ヘッドを含む。回転定盤部104は、シャフト106によって回転軸C1を中心に回転する円板状部を含む。研磨布102は、回転定盤部104の上面に固着されている。回転定盤部104の上方には、研磨剤110を供給するための研磨剤供給部108が設けられている。
【0040】
研磨工程(S20)を実施する際には、基板保持部101の加圧ヘッドの下面に炭化珪素基板10を貼り付けて、主面11Aが研磨布102と対向するように配置する。そして、この加圧ヘッドを下降させて炭化珪素基板10に所定の圧力を加える。次に、研磨剤供給部108から研磨剤110を研磨布102に供給しながら、基板保持部101と回転定盤部104とを同一方向(図4における矢印の方向)に回転させる。なお、基板保持部101と回転定盤部104とは逆方向に回転させてもよいし、一方を固定して他方を回転させてもよい。
【0041】
研磨工程(S20)に用いられる研磨剤110は、砥粒と、酸化剤と、金属触媒とを含んでいる。砥粒は、表面粗さや加工変質層を低減させるために、炭化珪素よりも柔らかい材料である。砥粒として、たとえばコロイダルシリカ、ヒュームシリカ、アルミナ、ダイヤモンド等が用いられる。酸化剤は、主面11Aに酸化膜を形成させる。酸化剤として、たとえば過酸化水素水、次亜塩素酸ナトリウム、過炭素酸バリウム等が用いられる。
【0042】
金属触媒は、バナジウム、タングステン、モリブデン、白金、ニッケル、チタン、ジルコニウムおよびクロムからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素を含んでいる。金属触媒として、たとえばタングステン酸ナトリウム、バナジン酸ナトリウム、モリブデン酸ナトリウム等が用いられる。
【0043】
研磨剤110は、ケミカル作用を増加させるためにpH6以下またはpH9.5以上であること好ましく、pH4以下、pH10.5以上であることがより好ましい。研磨剤110のpHの制御は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などの有機酸、KOH、NaOH、NHOHなどの無機アルカリ、コリン、アミン、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)などの有機アルカリ、およびそれらの塩を添加することで制御できる。
【0044】
研磨工程(S20)後の主面10Aの表面粗さ(Ra)は、0.1nm以下である。主面10Aには、塵埃等の異物や、研磨工程(S20)で用いられた研磨剤などが付着している場合がある。具体的には、主面10Aには、砥粒、有機物および、金属などが付着している場合がある。主面10Aに付着している金属は、たとえば、研磨剤に含まれる金属触媒や周辺環境に由来する。
【0045】
次に、洗浄工程(S30:図2)が実施される。図6に示されるように、実施の形態1で用いられる洗浄装置120は、洗浄処理層122と、ポンプ124と、フィルタ126と、ヒーター128とを備える。洗浄処理は、洗浄液130に満たされた洗浄処理層122に炭化珪素基板10を一定時間浸漬することにより行なわれる。浸漬された主面10Aに付着している塵埃等の異物、有機物および金属の少なくとも一部は洗浄液130に溶解し、除去される。洗浄液130は、ポンプ124により常時循環し、フィルタ126により濾過される。また、洗浄液130は、ヒーター128を用いた温度制御が行なわれることによって所望の温度に保たれている。
【0046】
図7に示されるように、洗浄工程(S30)は、たとえば硫酸過水洗浄(S31)、アンモニア過水洗浄(S32)、王水洗浄(S33)、塩酸過水洗浄(S34)、フッ酸洗浄(S35)の順に実施される複数の工程を含む。それぞれの洗浄工程の終了後には、超純水洗浄工程が実施されてもよい。主面10Aに残存している洗浄液等を洗い流すためである。超純水としては、たとえば、電気抵抗率が15MΩ・cm以上であり、有機物量(TOC:Total Organ Carbon)が100ppb未満であり、かつ残存シリカが10ppb未満である水を使用することができる。以降の工程で用いられる超純水についても同様である。
【0047】
なお、硫酸過水洗浄工程の前に、アルカリ洗浄工程を実施してもよい。アルカリ洗浄工程では、たとえばTMAHおよび界面活性剤によって、研磨工程(S20)において主面10Aに付着したコロイダルシリカなどの砥粒が除去される。
【0048】
硫酸過水洗浄工程(S31)では、硫酸過水によって主面10Aに付着した有機物などが除去される。硫酸過水は、硫酸と、過酸化水素水と、超純水とが混合された溶液である。硫酸としては、たとえば質量百分率濃度が98%の濃硫酸を使用することができる。過酸化水素水としては、たとえば質量百分率濃度が30%の過酸化水素水を用いることができる。以降の工程で用いられる過酸化水素水についても同様である。
【0049】
硫酸過水が含む、硫酸と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、たとえば1(硫酸):1(過酸化水素水):1(超純水)である。好ましくは、硫酸と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、1(硫酸):1(過酸化水素水):1(超純水)から5(硫酸):3(過酸化水素水):1(超純水)である。言い換えれば、硫酸の体積は超純水の体積の1倍以上5倍以下である。また、過酸化水素水の体積は超純水の体積の1倍以上3倍以下である。
【0050】
次に、アンモニア過水洗浄工程(S32)では、アンモニア過水によって、主面10Aに付着した有機物が除去される。アンモニア過水は、アンモニア水溶液と、過酸化水素水と、超純水とが混合された溶液である。アンモニア水溶液としては、たとえば質量百分率濃度が28%のアンモニア水溶液を使用することができる。
【0051】
アンモニア過水が含む、アンモニア水溶液と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、たとえば1(アンモニア水溶液):1(過酸化水素水):10(超純水):である。好ましくは、アンモニア水溶液と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、1(アンモニア水溶液):1(過酸化水素水):10(超純水)から1(アンモニア水溶液):1(過酸化水素水):1(超純水)である。言い換えれば、アンモニア水溶液の体積は超純水の体積の1/10倍以上1倍以下である。また、過酸化水素水の体積は超純水の体積の1/10倍以上1倍以下である。
【0052】
次に、王水洗浄工程(S33)では、王水によって主面10Aに残存している金属触媒に由来する金属の少なくとも一部が除去される。つまり、主面10Aに残存している金属が低減される。王水は、塩酸と硝酸とが混合された溶液である。本明細書では、塩酸と硝酸とが混合された溶液だけでなく、当該溶液と超純水との混合液も「王水」と呼ぶ。本実施の形態1では、王水または、王水が含む、塩酸と、硝酸と、超純水との体積比率は、たとえば3(塩酸):1(硝酸):0(超純水)である。好ましくは、塩酸と、硝酸と、超純水との体積比率は、3(塩酸):1(硝酸):0(超純水)から3(塩酸):1(硝酸):2(超純水)である。好ましくは、王水(塩酸と硝酸との混合溶液)と超純水とが混合された混合液における当該王水の体積濃度は50%以上100%以下である。
【0053】
次に、塩酸過水洗浄工程(S34)では、塩酸過水によって主面10Aの残存している金属触媒由来以外の金属の少なくとも一部が除去される、塩酸過水は、塩酸と、過酸化水素水と、超純水とが混合された溶液である。塩酸としては、たとえば質量百分率濃度が98%の濃塩酸を使用することができる。
【0054】
塩酸過水が含む、塩酸と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、たとえば1(塩酸):1(過酸化水素水):10(超純水)である。好ましくは、塩酸と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、1(塩酸):1(過酸化水素水):10(超純水)から1(塩酸):1(過酸化水素水):5(超純水)である。言い換えれば、塩酸の体積は超純水の体積の1/10倍以上1/5倍以下である。また、過酸化水素水の体積は超純水の体積の1/10倍以上1/5倍以下である。
【0055】
次に、フッ酸洗浄工程(S35)では、フッ酸によりシリコン酸化膜が除去される。フッ酸と超純水とが混合された混合液におけるフッ酸の濃度は、たとえば30%である。好ましくは、混合液におけるフッ酸の濃度は20%以上50%以下である。
【0056】
以上の工程(S31)〜工程(S35)の各々の処理時間はいずれも、たとえば30分である。当該処理時間は、好ましくは15分以上であり、より好ましくは30分以上である。
【0057】
以上の工程(S31)〜工程(S35)の各々において、炭化珪素基板10の温度はたとえば室温である。各工程において炭化珪素基板10の温度は40℃以下とすることが好ましい。
【0058】
以上のように、洗浄工程(S30)によって金属濃度が低減された主面10Aを有する炭化珪素基板10(図1)が得られる。
【0059】
本実施の形態に係る炭化珪素基板10の製造方法における洗浄工程(S30)は上記に限られない。以下に、洗浄工程(S30)の変形例が示される。
【0060】
(変形例1)
図8に示されるように、洗浄工程は、たとえばアンモニア過水洗浄(S32)。王水洗浄(S33)の順に実施される複数の工程を含む。それぞれの洗浄工程終了後には、超純水洗浄工程が実施されてもよい。なお、硫酸過水洗浄工程の前に、アルカリ洗浄工程が実施されてもよい。
【0061】
(変形例2)
図9に示されるように、洗浄工程は、たとえば硫酸過水洗浄(S31)、アンモニア過水洗浄(S32)、王水洗浄(S33)およびフッ酸洗浄(S35)の順に実施される複数の工程を含む、それぞれの洗浄工程終了後には、超純水洗浄工程が実施されてもよい。なお、硫酸過水洗浄工程の前に、アルカリ洗浄工程が実施されてもよい。
【実施例】
【0062】
主面10Aに存在する金属濃度と、炭化珪素基板10の洗浄方法との関係が、表1に示される。
【0063】
【表1】
【0064】
サンプル1〜3の各々に係る炭化珪素基板10は、実施の形態1に係る製造方法によって製造された。
【0065】
サンプル1〜3の各々に係る洗浄工程(S30)の詳細が以下に述べられる。最初に硫酸過水洗浄工程(S31)が実施された。硫酸過水が含む、硫酸と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、1(硫酸):1(過酸化水素水):1(超純水)である。硫酸過水洗浄工程(S31)における処理時間は30分であり、硫酸過水の液温は室温であった。
【0066】
次にアンモニア過水洗浄工程(S32)が実施された。アンモニア過水が含む、アンモニア水溶液と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、1(アンモニア水溶液):1(過酸化水素水):10(超純水):である。アンモニア過水洗浄工程(S32)における処理時間は30分であり、アンモニア過水の液温は室温であった。
【0067】
次に王水洗浄工程(S33)が実施された。王水が含む、塩酸と、硝酸と、超純水との体積比率は、3(塩酸):1(硝酸):0(超純水)である。王水洗浄工程(S33)における処理時間は30分であり、王水の液温は室温であった。
【0068】
次に塩酸過水洗浄工程(S34)が実施された。塩酸過水が含む、塩酸と、過酸化水素水と、超純水との体積比率は、1(塩酸):1(過酸化水素水):10(超純水)である。塩酸過水洗浄工程(S34)における処理時間は30分であり、王水の液温は室温であった。
【0069】
次にフッ酸洗浄工程(S35)が実施された。フッ酸と超純水とが混合された混合液におけるフッ酸の濃度は、30%である。フッ酸洗浄工程(S35)における処理時間は30分であり、フッ酸の液温は室温であった。つまり、サンプル1〜3の各々に係る洗浄工程(S30)において、洗浄中の炭化珪素基板10の温度は40℃以下であった。本洗浄工程は全て室温で実施される。その理由は以下の通りである。炭化珪素は化学的に不活性であるため、表面を酸化、リフトオフするために長い時間を要する。従来のいわゆるRCA洗浄のような洗浄では、高温の硫酸過水や塩酸過水が用いられる。しかしながら、炭化珪素の洗浄において高温の硫酸過水や塩酸過水が用いられると、洗浄処理の途中で硫酸過水や塩酸過水が抜けてしまい洗浄効果が低減する。そのため、炭化珪素は室温で洗浄されることが好ましい。
【0070】
(測定方法)
サンプル1〜3の各々について、主面10Aに存在する金属濃度が測定された。サンプル1については、バナジウム(V)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)および錫(Sn)の濃度が測定された。サンプル2およびサンプル3については、バナジウム(V)および亜鉛(Zn)の濃度が測定された。金属濃度の測定は、ICP−MSにより行なわれた。サンプル1に係る主面10Aの金属濃度の測定結果を表2および表3に示す。表2は、主面10Aに存在する金属触媒の濃度の測定結果である。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示されるように、サンプル1に係る主面10Aにおいて、金属濃度は、バナジウム(V)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)およびクロム(Cr)のいずれにおいても、1×1012atoms/cm以下の値を示している。サンプル2の主面10Aおよびサンプル3の主面10Aに存在するバナジウム(V)の濃度は、それぞれ72×109atoms/cmおよび16×109atoms/cmであった。
【0073】
表3は、主面10Aに存在する金属触媒以外の金属濃度の測定結果である。なお、表3において、「ND」とは検出下限値(1×10atoms/cm)よりも低いため、検出されなかったことを示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表3に示されるように、サンプル1に係る主面10Aにおいて、金属触媒以外の金属として、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)および錫(Sn)が確認された。しかしながら、サンプル1に係る主面10Aにおけるこれらの金属の濃度はいずれも、1×1011atoms/cmを下回っていることが確認された。サンプル2の主面10Aおよびサンプル3の主面10Aに存在する亜鉛(Zn)の濃度は、それぞれ16×109atoms/cmおよび21×109atoms/cmであった。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
10 炭化珪素基板、10A 主表面、11A 主面、20 エピタキシャル層、30 金属不純物、100 研磨装置、101 基板保持部、102 研磨布、104 回転定盤部、106 シャフト、108 研磨剤供給部、110 研磨剤、120 洗浄装置、122 洗浄処理層、124 ポンプ、126 フィルタ、128 ヒーター。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9