(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RoHS指令では、電気・電子機器が細かなカテゴリーに分類されており、そのカテゴリーごとに除外規定の詳細、つまり有害物質の種類と、該有害物質について許容される含有量が異なっている。そのため、分析者は、材料ごとに、当該材料が用いられる電気・電子機器が属するカテゴリーを探し出し、そのカテゴリーに関して記載された除外規定を確認して当該材料の良否を判定しなければならず、分析者にとって大きな負担となっていた。
【0007】
ここでは一例として、RoHS指令について説明したが、有害物質の使用等についてはその他、ELV(End of Life Vehicles)指令や、REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of CHemicals)など種々の基準が定められており、それら基準と照合する際にも上記同様の問題があった。また、材料に含まれる有害物質の含有量の判定だけでなく、例えば、工場等で製造した製品が予め決められた基準を満たす良品であることを確認するために、製品の一部をサンプリングして分析することにより取得した測定データを予め決められた基準と比較する場合にも、製品のカテゴリーごとに定められた複数の基準の中から当該製品に対応するものを確認する作業において上記同様の問題があった。
【0008】
なお、以下の説明では、試料(材料等)そのものを規定したカテゴリーだけでなく、RoHS指令のように試料(材料等)が用いられる製品等を規定したカテゴリー(即ち、試料が間接的に規定されるカテゴリー)についても、「試料を分類するためのカテゴリー」と呼ぶ。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、それぞれに基準が定められた、試料を分類するための複数のカテゴリーの中から目的試料が属するカテゴリーを特定する際の、分析者の負担を軽減することができる試料カテゴリーの特定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明に係る試料カテゴリーの特定装置は、
それぞれに基準が定められた、試料を分類するための複数のカテゴリーの中から目的試料が属するカテゴリーを特定するために用いられる装置であって、
a) 複数のカテゴリーのそれぞれに、当該カテゴリーについて予め決められた基準に関する1又は複数の語句が対応付けられたデータベースが保存された記憶部と、
b) 目的試料を特徴づける語句を含む言語情報である目的試料情報の入力を受け付ける目的試料情報入力受付部と、
c) 前記目的試料情報に含まれる語句を、前記複数のカテゴリーのそれぞれに対応する前記1又は複数の語句と比較し、その一致度に基づいて該複数のカテゴリーの中から前記目的試料が属するカテゴリーの候補を抽出するカテゴリー候補抽出部と、
d) 前記抽出したカテゴリーの候補を使用者に提示するカテゴリー候補提示部と
を備えることを特徴とする。
【0011】
前記目的試料情報は、1の単語又は複数の単語の集合のいずれであってもよく、あるいは複数の単語が統語されることにより構成される文章であってもよい。ここで、「単語」には、通常の言語の構成要素である、名詞、動詞等に区分される通常の単語の他、数値や物質の化学式等も含まれる。カテゴリー候補抽出部は、単語が入力された場合にはその単語を複数のカテゴリーのそれぞれに対応する複数の語句と照合することにより、また、文章が入力された場合にはその文章に前記複数の語句がいくつ含まれているかを求めることにより、前記一致度を求め、該複数のカテゴリーの中から目的試料が属するカテゴリーの候補を抽出することができる。
【0012】
本発明に係る試料カテゴリーの特定装置では、複数のカテゴリーのそれぞれについて、当該カテゴリーについて予め決められた基準に関する1又は複数の語句が対応付けられたデータベースを用いて目的試料が属するカテゴリーを特定する。使用者が、目的試料を特徴づける語句を含む言語情報(目的試料情報)を入力すると、カテゴリー候補抽出部は上述のように該目的試料情報に含まれる語句と各カテゴリーに対応付けられた1又は複数の語句の一致度を求め、目的試料が属するカテゴリーの候補を抽出する。そして、カテゴリー候補提示部がその候補を使用者に提示する。この装置では使用者が試料情報を入力するのみで目的試料が属するカテゴリーの候補が提示されるため、使用者(分析者)の負担が軽減される。
【0013】
本発明に係る試料カテゴリーの特定装置は、さらに、
e) 1つのカテゴリーについて予め決められた基準が記載された言語情報である基準情報の入力を受け付ける基準情報入力受付部と、
f) 前記基準情報を形態素解析することにより該基準情報から1又は複数の語句を抽出する形態素解析部と、
g) 前記1つのカテゴリーに前記抽出された1又は複数の語句を対応付けて前記データベースに保存するデータベース保存部と
を備える態様とすることができる。
【0014】
前記基準情報は、1の語句又は複数の語句の集合のいずれであってもよく、あるいはそれらが所定の統語法により構成された文章であってもよい。1の語句又は複数の語句の集合が入力された場合には、形態素解析部はそれらをそのまま前記データベースに保存し、文章が入力された場合には、その文章を形態素解析して複数の語句を抽出してデータベースに保存する。
【0015】
1つのカテゴリーについて予め決められた基準が記載された文章とは、例えば、RoHS指令に記載されている「一般照明用途30W未満/電球型及びコンパクト型(小型)蛍光ランプであって水銀含有量が1バーナー当たり5mgを超えない」といったものである。上記態様の装置では、これを形態素解析して複数の単語を抽出する。この例の場合、形態素解析によって「一般」、「照明」、「用途」、「30」、「未満」、「電球」等の単語が生成される。そして、生成した複数の単語を当該カテゴリーと対応づけてデータベースに保存する。形態素解析には、例えば「ChaSen(茶筅)」や「MeCab(和布蕪)」といったソフトウェアや、これらのソフトウェアと同様のアルゴリズムを用いることができる。
【0016】
上記態様の試料カテゴリーの特定装置では、カテゴリー毎に基準が記載された文章を順に入力していくだけで自動的にデータベースが作成される。また、新たに策定された基準を順次、簡単にデータベースに追加することができる。
【0017】
上記態様の試料カテゴリーの特定装置では、
前記形態素解析部が、前記基準情報から名詞及び動詞のみを抽出する
ことが好ましい。
【0018】
一般に、文章を形態素解析すると、名詞、動詞、助動詞、副詞等、様々な品詞の単語が生成される。しかし、助動詞や副詞などは、試料が属するカテゴリーの候補の絞り込みにほとんど寄与しない。上記のように、形態素解析部が名詞及び動詞のみを抽出して単語群を作成する構成を採ることにより、データベースに収容される単語の数を減らすことができ、カテゴリー候補抽出部による試料情報と各カテゴリーの単語群の比較に係る処理を高速化することができる。なお、ここでいう名詞には数値や物質の化学式等も含まれる。
【0019】
また、本発明に係る試料カテゴリーの特定装置では、別の態様として
前記形態素解析部が、前記基準情報からキーフレーズを抽出する
ことが好ましい。
【0020】
文章からキーフレーズを抽出するソフトウェアとしては、例えば非特許文献1や非特許文献2に記載のものが従来知られている。これらのソフトウェアに、例えば「機械加工のために合金成分として鋼材中及び亜鉛メッキ鋼板中に含まれる0.35wt%までの鉛」という文章を入力すると、いずれのソフトウェアでもキーフレーズとして、「亜鉛メッキ鋼板中」、「合金成分」、「機械加工」、「鋼材中」、及び「0.35wt%」というキーフレーズが抽出される。このようなキーフレーズを用いることにより、より高い確度で試料が属するカテゴリーの候補を抽出することができる。
【0021】
本発明に係る試料カテゴリーの特定装置は、
前記形態素解析部が、前記キーフレーズに含まれる、数値、物理量の単位、及び当該数値に対する大小関係を表す予め決められた語句の組み合わせからなる語句を抽出してそれらに基づく数式を作成し、
前記データベース
保存部が、前記1つのカテゴリーに対して前記数式を対応付けてデータベース
に保存する
構成を採ることができる。
【0022】
上記の、数値に対する大小関係を表す予め決められた語句とは、例えば、「未満」、「以下」、「小さい」、「少ない」、「超えない」、「まで」、「同じ」、「等しい」、「多い」、「以上」、「大きい」等である。こうしたキーフレーズが含まれている場合には当該キーフレーズを数式化し、入力されたキーワードと照合する。例えば、「一般照明用途30W未満」というキーフレーズが存在する場合には、これを「X<30W」(Xは使用者の入力値)のように数式化してデータベースを作成する。
【0023】
各カテゴリーの基準が記載された文章に含まれる、数値と物理量の単位の組み合わせからなる語句は、多くの場合、目的試料が属するカテゴリーを決定付ける値や、該カテゴリーにおいて目的試料の良否の判定基準となる値である。数値抽出部を備えた上記態様の試料カテゴリーの特定装置を用いると、使用者が目的試料の属するカテゴリーや試料の良否を判定する基準となる基準値をひと目で確認することができ、より一層、使用者(分析者)の負担が軽減される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る試料カテゴリーの特定装置を用いることにより、それぞれに基準が定められた、試料を分類するための複数のカテゴリーの中から目的試料が属するカテゴリーを特定する際の、分析者の負担を軽減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る試料カテゴリーの特定装置、分析システム、及び分析ネットワークシステムのそれぞれに関する実施例を説明する。
【0027】
本実施例の試料カテゴリーの特定装置は、目的試料が、RoHS指令における、鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、PBB(ポリ臭化ビフェニル)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の6種類の有害物質に関する除外規定に定められたカテゴリーのいずれかに該当するかを特定するために用いられる。RoHS指令の除外規定では、電気・電子機器を分類したカテゴリーが記載されており、電気・電子機器を製造する際に用いられる材料(試料)はそれら電気・電子機器の種類によって間接的にいずれかのカテゴリーに分類される。以下、このように試料を間接的に分類するカテゴリーについても、適宜「試料を分類するためのカテゴリー」と呼ぶ。
【0028】
本実施例の試料カテゴリーの特定装置は、
図1に示すように、データ処理部20と、該データ処理部20に接続された入力部40及び表示部50を備えている。データ処理部20は、記憶部21のほか、機能ブロックとして、基準情報入力受付部22、形態素解析部23、目的試料情報入力受付部24、データベース保存部25、カテゴリー候補抽出部26、カテゴリー候補提示部27、及び言語指定受付部28を備えている。データ処理部20の実体はパーソナルコンピュータであり、コンピュータにインストールされた試料カテゴリー特定プログラムを実行することによりこれらの機能ブロックが具現化される。
【0029】
記憶部21には、試料カテゴリーデータベース211が保存されている。試料カテゴリーデータベース211は、
図2に示すように、RoHS規制の除外規定に対応した、材料を分類するための複数のカテゴリーに、当該カテゴリーにおける除外規定の文章と該文章から抽出されたキーフレーズを対応付けたテーブルである。なお、キーフレーズに含まれている数式については別途、後述する。
【0030】
本実施例の試料カテゴリーの特定装置の動作について、以下、説明する。
使用者がデータ処理プログラムを動作させると、
図3に示すような初期画面が表示される。初期画面には、「試料カテゴリー確認」、「判定基準入力」、及び「言語変更」という3つのボタンが表示されている。これらボタンを押したときの動作を順に説明する。
【0031】
図3の初期画面で使用者が「試料カテゴリー確認」ボタンを押すと、目的試料情報入力受付部24は、使用者に、目的試料を特徴付ける語句を含む言語情報である、目的試料情報を入力させる欄を画面に表示する(
図4)。
【0032】
使用者が、例えば「蛍光ランプ」、「40W」、及び「照明用途」という3つのキーワードを目的試料情報として入力して「照合」ボタンを押すと、カテゴリー候補抽出部26は、これら3つのキーワードを試料カテゴリーデータベース211のキーフレーズと照合して一致する数を抽出する。なお、ここでいう「一致」には、完全一致だけでなく部分一致も含まれる。本実施例のように「40W」という、数値(40)と物理量の単位(W)を含むキーワードが入力された場合、このキーワードをそのままキーフレーズと照合するだけでなく、当該キーワードを、キーフレーズに含まれる数式とも照合する。本実施例では、使用者が入力した「40W」というキーワードを、キーフレーズに含まれる「<30W」という数式と照合し、その適否から一致/不一致を判定する。
【0033】
カテゴリー候補抽出部26は、使用者が入力したキーワードを全てのカテゴリーのキーフレーズ(数式を含む)と照合した後、それらの一致度が高い順に所定数のカテゴリーを抽出する。抽出されたカテゴリーは、使用者が入力したキーワードにより特徴付けられる試料が属するカテゴリーの候補として、カテゴリー候補提示部27により表示部50に表示される。
図5に表示の一例を示す。
図5では、一致度として、キーワードの合致数と合致率の両方を示しているが、いずれか一方のみを一致度として用いてもよい。なお、除外規定(判定基準)の文章の長短がカテゴリーによって大きく異なる場合、使用者が入力したキーワードとキーフレーズの一致数が多くても、当該カテゴリーのキーフレーズ数が多いためにカテゴリーの一致率が相対的に低くなることがある。そのため、こうした場合には一致数を基準に所定数のカテゴリーを抽出することが好ましい。また、
図5の例では抽出するカテゴリーの数を3つとしているが、この数は使用者が適宜に変更することができる。
【0034】
また、使用者が、「一般の照明用途の40Wの蛍光ランプ」のように、目的試料を特徴付ける複数の語句を含む言語情報(目的試料情報)を入力して「形態素解析」ボタンを押すと、形態素解析部23がこの語句から複数の単語を生成する。そして、カテゴリー候補抽出部26は、形態素解析部23により生成された複数の単語を試料カテゴリーデータベース211のキーフレーズと照合する。そして、それらの一致度が高い順に所定数のカテゴリーを抽出する。
【0035】
図3の初期画面で使用者が「判定基準入力」ボタンを押すと、基準情報入力受付部22は、判定基準(RoHS指令の除外規定等)の言語情報を基準情報として使用者に入力させる画面を表示部50に表示する(
図6(a))。また、使用者に「キーフレーズ抽出」と「形態素解析」の2通りの処理のうちの一方を選択させるボタンを表示する。使用者が「キーフレーズ抽出」を押すと、形態素解析部23により上記基準情報からキーフレーズが抽出される(
図6(b))。文章からキーフレーズを抽出するソフトウェアとしては、例えば非特許文献1や非特許文献2に記載のものを用いることができる
【0036】
続いて、形態素解析部23は、キーフレーズの中に、数値、物理量の単位、及び当該数値に対する大小関係を表す予め決められた語句の組み合わせからなる語句が存在するか否かを確認し、存在する場合にはそれらに基づく数式を作成する。この「予め決められた語句」とは、例えば、「未満」、「以下」、「小さい」、「少ない」、「超えない」、「まで」、「同じ」、「等しい」、「多い」、「以上」、「大きい」等である。こうしたキーフレーズが含まれている場合には当該キーフレーズを数式化し、入力されたキーワードと照合する。例えば、「一般照明用途30W未満」というキーフレーズが存在する場合には、これを「X<30W」(Xは使用者の入力値)のように数式化してデータベースを作成する。
【0037】
また、使用者が「形態素解析」を押すと、形態素解析部23により上記基準情報が形態素解析され複数の単語が抽出される(
図6(c))。こうして得られた複数のキーフレーズや数式(あるいは複数の単語)は、データベース保存部25によって、処理前の基準情報とともに試料カテゴリーデータベース211に保存される。
【0038】
図6(c)の例では、形態素解析を行って名詞及び動詞のみを抽出している。文章を形態素解析すると、名詞、動詞、助動詞、副詞等、様々な品詞の単語が生成される。しかし、助動詞や副詞などは、試料が属するカテゴリーの候補の絞り込みにほとんど寄与しない。本実施例のように、形態素解析部が名詞及び動詞のみを抽出して単語群を作成する構成を採ることにより、データベースに収容される単語の数を減らすことができ、カテゴリー候補抽出部による試料情報と各カテゴリーの単語群の比較に係る処理を高速化することができる。なお、ここでいう名詞には数値や物質の化学式等も含まれる。もちろん、品詞選択欄等を表示し、形態素解析時に抽出する品詞を使用者が適宜に変更できるように構成してもよい。
【0039】
図3の「言語変更」ボタンは、本システムで使用する言語を初期設定の言語(例えば日本語)から変更するためのものである。使用者がこれを押すと、日本語、英語、中国語、ドイツ語等、複数の言語が使用者に提示される。例えば、使用者が英語を選択すると、言語指定受付部28は、画面上の表示を英語に翻訳するとともに、上記試料カテゴリーデータベース211の情報も英語に翻訳して上記の各処理に使用する。
【0040】
次に、本発明に係る分析システムの一実施例について説明する。
【0041】
本実施例の分析システム100は、上記実施例の試料カテゴリーの特定装置の用途に加え、目的試料に含まれる上記6種類の有害物質の含有量を測定し、当該有害物質が含まれている場合にその含有量をRoHS規制の除外規定に定められた閾値と比較して当該目的試料の適否を判定するためにも用いられる。6種類の有害物質のうち、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの含有量は蛍光X線分析装置(EDX)により測定され、PBB(ポリ臭化ビフェニル)、PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の含有量は熱分解装置(パイロライザ)を備えたガスクロマトグラフ質量分析装置(Py-GCMS)により測定される。また、精密定量分析には、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析、紫外可視分光光度計(UV)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)などが用いられる。
【0042】
本実施例の分析システムは、
図7に示すように、大別して分析装置群110(EDX111, Py-GCMS112、ICP113、UV114等)と制御・データ処理部120から構成されている。分析装置群110で取得されたデータは順次、制御・データ処理部120の記憶部121に保存されるようになっている。
【0043】
制御・データ処理部120は、記憶部121のほか、機能ブロックとして、基準情報入力受付部122、形態素解析部123、目的試料情報入力受付部124、データベース保存部125、カテゴリー候補抽出部126、カテゴリー候補提示部127、言語指定受付部128、測定実行部130、測定データ読出部131、判定部132、及び報告書作成部133を備えている。なお、
図1に示す試料カテゴリー特定装置と共通の機能を有する機能ブロックについては
図1と下2桁が共通の符号を付して適宜説明を省略する。制御・データ処理部120の実体はパーソナルコンピュータであり、コンピュータにインストールされた分析システム用プログラムを実行することによりこれらの機能ブロックが具現化される。また、制御・データ処理部120には入力部140及び表示部150が接続されている。
【0044】
記憶部121には、上記実施例と同様の試料カテゴリーデータベース1211に加えて判定基準データベース1212が保存されている。判定基準データベース1212は、分析装置毎にそれぞれ保存されている。例えば、EDX111用の判定基準データベース1212としては、
図8に示すようなものが保存されている。
【0045】
上述のとおり、EDX111ではCd, Pb, Cr, Hg, Brの含有量を測定することができる。そこで、EDX111を用いた測定によって簡単に試料のスクリーニング分析を行うことができるように各元素に対応した閾値が保存されている。これらの閾値は試料の材質(母材)毎に設定されている。これは、試料の材質(母材)の種類によって検出感度が異なるためであり、樹脂、Al、Fe、Cu、Snの順に検出感度が高く、それぞれの検出感度に応じた検量線が用いられる。なお、それぞれの閾値に幅があるのは、測定誤差±30%が設定されているためである。
【0046】
本実施例の分析システムの動作について、以下、EDX111を用いて目的試料の鉛を定量する測定を行う場合、及びEDX111を用いた測定により取得した鉛の定量データに基づいて目的試料の良否を判定する場合を例に説明する。
【0047】
使用者が分析システム用プログラムを動作させると、
図9に示す初期画面が表示される。初期画面には、「試料カテゴリー確認」、「判定基準入力」、「測定実行」、「測定データ判定」、及び「言語変更」という5つのボタンが表示されている。これらのうち、「測定実行」及び「測定データ判定」以外のボタンを押したときの動作は上記実施例と同様であるため、「測定実行」及び「測定データ判定」ボタンを押したときの動作についてのみ説明する。
【0048】
図9の初期画面で使用者が「測定実行」ボタンを押すと、測定実行部130は、使用者に分析装置を選択させ、続いて測定条件の入力と選択した分析装置への試料のセットを促す。使用者がこれらを行った後、入力部140を通じた所定の操作により測定開始を指示すると、目的試料の測定及び分析対象元素の定量が行われる。測定及び定量に係る動作は従来同様であるため、ここでは測定及び定量についての説明を省略する。本実施例では、分析装置としてEDX111を選択して目的試料に含まれる鉛(Pb)が定量される。EDX111の定量測定では、まず、試料を予備測定することによりRh-Kα線とRh-Kαコンプトン線の強度比を求め、その強度比に最も近い母材を決定する。そして、決定した母材について予め用意された検量線を用いて蛍光X線のピーク強度から当該元素(Pb)の含有量を求める。こうして得られた測定データは試料ごとに記憶部121に送られ保存される。
【0049】
使用者が初期画面から「測定データ判定」ボタンを押すと、測定データ読出部131は、使用者に測定データファイルの保存場所を指定させる。使用者が測定データファイルを指定すると、測定データ読出部131は、当該測定データファイル中に目的試料を特徴付ける単語を含む言語情報である目的試料情報が含まれているかを確認する。そして、これらが含まれていない場合には、目的試料情報入力受付部124を動作させて目的試料情報を入力させる欄を画面上に表示する。測定実行時等に目的試料情報が使用者により入力されており、測定データとともに保存されている場合にはこのステップは省略される。
【0050】
使用者が目的試料情報を入力すると(あるいは既に目的試料情報が入力されている場合には)、測定データ読出部131は使用者に指定された目的試料情報及び測定データを読み込む。本実施例では、測定データが鉛の定量値のみであるが、複数の元素の定量値を含む測定データが読み出された場合には、判定の対象とする測定データ(ここでは元素の種類)を使用者に指定させる。続いて、カテゴリー候補抽出部126が、目的試料情報を、試料カテゴリーデータベース1211に含まれている各カテゴリーのキーフレーズと照合する。続いて、カテゴリー候補提示部127は、それらの一致度に基づいて所定数のカテゴリーを表示部150に表示する(
図5)。
【0051】
従来、EDX111を用いたスクリーニング分析では、目的試料に含まれる各対象元素の測定結果を予め用意された閾値と照合し、その下限値未満であれば合格、その上限値以上であれば不合格と判定し、閾値の幅の中の値である場合には別の装置を用いた高精度測定を促す、という処理を行っていた。このとき用いられる閾値は、目的試料の特性を問わず常に同じであったため、目的試料がRoHS指令の除外規定の対象物であるか否かを都度確認しなければならず面倒であった。また、RoHS指令に不慣れな使用者の場合、RoHS指令の除外規定の対象物であることを見落とし、当該除外規定の要件を満たしているにもかかわらず不合格と誤判定してしまう場合もあった。
【0052】
本実施例の分析システムでは、使用者に目的試料を特徴づける文言を含む情報(目的試料情報)を入力させ、その情報と、試料カテゴリーデータベース1211の、各カテゴリーのキーフレーズとの一致度を求め、その一致度に基づいて目的試料に対応するカテゴリー候補を表示部150に表示する。そのため、使用者は、表示部150に示されたカテゴリー候補を確認するだけで、当該目的試料がRoHS指令の除外規定に定められたカテゴリーに該当するか否かを容易に判断することができる。
【0053】
以下では、説明を容易にするために、使用者が目的試料情報として「亜鉛メッキ鋼板」を入力し、その文言と一致するカテゴリー候補が1つだけ存在する場合を例に説明する(
図10)。カテゴリー候補が複数存在し、表示される場合についても同様である。
【0054】
使用者が、表示部150に表示されたカテゴリー候補を確認し、目的試料がRoHS指令の除外規定に定められたカテゴリーに該当する、と判断して「カテゴリー判定」ボタンを押すと、判定部132は各カテゴリー候補の判定基準の語句から数値と予め決められた物理量の単位(本実施例ではppm)の組み合わせからなる語句(3500ppm)を抽出し、それを判定閾値として測定により得られた定量値(2000ppm)と比較して目的試料の良否の判定結果(OK)を表示する(
図11)。カテゴリー候補が複数存在する場合には、それぞれについて定量値を判定閾値と比較して判定結果を表示する。一方、使用者が、目的試料がRoHS指令の除外規定に定められたカテゴリーに該当しないと判断して「通常判定」ボタンを押すと、判定部132は
図8により説明した通常の判定閾値と定量値を比較して目的試料の良否の判定結果を表示する。なお、前記物理量の単位は、上記のように予め決めておいてもよく、あるいは使用者が目的試料情報を入力する際に併せて入力するようにしてもよい。
【0055】
判定部132による目的試料の良否判定が完了すると、報告書作成部133は、使用者により入力された試料名、目的試料情報、及び良否判定結果を所定のフォーマットに記載した報告書を作成し表示部150に表示するとともに、記憶部121に保存する。前記所定のフォーマットとして、例えば欧州連合に輸出する電気・電子機器の製造者に提出が義務付けられている、当該機器がRoHS指令の要件を満たしていることを証明するためのフォーマットを用いることができる。
【0056】
次に、本発明に係る分析ネットワークシステムの一実施例について説明する。
図12に示すように、この分析ネットワークシステム200は、クラウドサーバ220と、ネットワークを介して該クラウドサーバ220に接続可能な複数の分析システム240(
図12では1つのみ図示)を備えている。分析システムは、使用言語が異なる複数の国の分析センター等に備えられる。また、クラウドサーバ220には、分析システム240のほか、解析・閲覧用コンピュータ260(
図12では1台のみ図示)からもネットワークを介してアクセスすることができる。
【0057】
クラウドサーバ220は、試料カテゴリーデータベース2211及び判定基準データベース2212が保存された記憶部221のほか、機能ブロックとして、基準情報入力受付部222、形態素解析部223、目的試料情報入力受付部224、データベース保存部225、カテゴリー候補抽出部226、カテゴリー候補提示部227、言語指定受付部228、測定データ読出部231、判定部232、及び報告書作成部233を備えている。つまり、上記実施例の分析システム100の制御・データ処理部120のうち、測定部を除く各構成要素(記憶部及び各機能ブロック)を備えている。
【0058】
一方、分析システム240は、分析装置250と、該分析装置250に接続された制御・データ処理部241を備えており、該制御・データ処理部241は、記憶部2411のほか、機能ブロックとして測定実行部2412を備えている。
【0059】
この分析ネットワークシステム200では、使用者が目的試料の測定を指示すると、分析システム240の測定実行部2412によって分析装置250が制御され測定データが取得される。本実施例では、目的試料の名称や該試料を特徴付けるキーワード等からなる目的試料情報を測定開始前に使用者に入力させる。分析装置250で取得された測定データは、目的試料の名称及び目的試料情報とともに、制御・データ処理部241の記憶部2411に順次、保存される。制御・データ処理部241は、予め決められた周期(例えば1日毎)に、記憶部2411に蓄積された測定データ等をクラウドサーバ220に転送する。クラウドサーバ220は、複数の分析システム240からそれぞれ受信した測定データ等を分析システムの識別番号(ID)とともに記憶部221に保存する。
【0060】
分析システム240あるいは解析・閲覧用コンピュータ260からクラウドサーバ220にアクセスすると、
図9に示す画面のうちの「測定実行」ボタンを除いた各ボタンが表示される。各ボタンを操作したときの動作は上記分析システムと同様であるため詳細な説明を省略するが、それぞれの動作がクラウドサーバ220の機能ブロックによって行われるという点で上記実施例と異なる。
【0061】
この分析ネットワークシステムでも、上記実施例と同様に「言語変更」ボタンを押すことにより所望の言語に切り替えることができる。従って、複数の、それぞれ使用言語が異なる国の分析センター等に設けられた分析システムからの各種の要求を1つのクラウドサーバ220で処理することができる。また、複数の分析システム240からそれぞれ異なる言語で判定基準が入力され、試料カテゴリーデータベース2211が作成された場合でも、言語指定受付部によって使用者が希望する言語に翻訳されるため、問題なく測定データの解析等を行うことができる。さらに、複数の分析システムから入力された判定基準や測定データがクラウドサーバ220の記憶部221に蓄積され、それらに対して任意の分析システムあるいは解析・閲覧用コンピュータからアクセスすることができる。従って、例えば1箇所の分析拠点の解析・閲覧用コンピュータ260から、クラウドサーバ220の記憶部221に保存されている、各国の分析センターで得られた測定データを読み出して各目的試料の良否を判定し、それぞれについての報告書を作成する等の作業を行うことができる。
【0062】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。上記の各実施例では、RoHS指令の除外規定を一例として説明したが、ELV(End of Life Vehicles)指令や、REACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of CHemicals)など種々の基準についても同様に用いることができる。また、有害物質の含有量の判定だけでなく、例えば、工場等で製造した製品が予め決められた基準を満たす良品であることを確認するために、製品の一部をサンプリングして分析することにより取得した測定データを予め決められた基準と比較することにより該製品の可否を判定する場合にも、製品のカテゴリーごとに定められた複数の基準の中から当該製品に対応するものを確認する作業においても同様の構成を用いることができる。
【0063】
上記実施例の試料カテゴリー判定装置では、試料のカテゴリー、判定基準の語句、及び該語句から抽出されたキーフレーズを対応付けた試料カテゴリーデータベースを用いる場合を例に説明したが、キーフレーズに代えて、形態素解析で抽出された語句を用いることもできる。
【0064】
さらに、上記実施例の分析システムでは、分析装置としてEDX111を用いて目的試料を測定する場合を例に説明したが、他の分析装置を用いて目的試料を測定する場合及びその測定データに基づいて目的試料の良否を判定する場合にも上記同様の構成を採ることができる。また、上記実施例の分析システムでは、判定部が、判定基準の語句から、都度閾値を抽出する構成としたが、例えば、試料カテゴリーデータベースにおいて、試料カテゴリー等に予め閾値を対応付けておくこともできる。
【0065】
その他、上記変形例の分析ネットワークシステム200では、クラウドサーバ220に多数の機能ブロックを持たせ、分析システム240の制御・データ処理部241は機能ブロックとして測定実行部2412のみを備える構成を採ったが、カテゴリー候補抽出部226、カテゴリー候補提示部227、言語指定受付部228、測定データ読出部231、判定部232、報告書作成部233といった機能ブロックの一部又は全部を分析システム240の制御・データ処理部241が備える構成としてもよい。あるいは、クラウドサーバ220と分析システム240の制御・データ処理部241の双方が上記機能ブロックを有する構成としてもよい。さらに、いずれか1つの分析システム240のデータ処理部241、あるいは解析・閲覧用コンピュータ260に上記実施例のクラウドサーバ220の機能を持たせることにより、クラウドサーバ220を用いることなく分析ネットワークシステム200を構成することもできる。