(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1〜4に記載された、電気化学的手法を採用する耐食性試験方法及び装置では、化学反応の促進、腐食環境の模擬等のために、ヒータ等の温調要素を用いて試験片の温度を調整することが行われ得る。このような温調要素における試験片への当接部分は、熱伝導性を確保する観点から、SUS等の金属製であることが多い。
【0010】
塗装鋼板には、傷がつきやすく、取扱中に自然に素地の鋼板に到達するような傷が発生し得る。また、腐食反応の進行を促進させるために、人工的に傷を形成した場合、塗装鋼板の裏側は傷形成時の圧力により僅かに膨らみ得る。そうすると、膨らんだ部分の塗膜が剥がれて鋼板の金属が露出する。金属の露出部分が温調要素の当接部分に直接接触すると、接触部を介してリーク電流が流れ、試験の信頼性が低下する。
【0011】
そこで、本開示は、信頼性の高い被覆金属材の耐食性試験装置及び耐食性試験方法をもたらすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、ここに開示する被覆金属材の耐食性試験装置は、金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験装置であって、上記表面処理膜上に配置され、該表面処理膜に接触する含水材料を保持する1つ又は2つの含水材料保持部と、上記1つの含水材料保持部又は上記2つの含水材料保持部の各々に収容された上記含水材料に接触する1つ又は2つの電極と、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を電気的に接続する外部回路と、絶縁部を介して上記被覆金属材に当接され、少なくとも該被覆金属材の温度を調整する温調要素と、上記温調要素に接続され、上記温調要素の温度を制御する温度コントローラと、上記外部回路上に設けられ、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、
電子の移動を伴う電気化学反応を進行させて、上記被覆金属材の腐食を進行させる通電手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
一般に、金属の腐食は、水と接触する金属が溶解(イオン化)して遊離電子を生ずるアノード反応(酸化反応)と、その遊離電子によって水中の溶存酸素等が水酸基OH
−等を生成するカソード反応(還元反応)とが同時に起こることで進行することが知られている。
【0014】
本構成では、電極及び金属製基材、又は、2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして、両者間に通電する。電極をアノード、金属製基材をカソードとして通電した場合、表面処理膜中に浸透した含水材料が金属製基材に到達すると、含水材料と金属製基材との接触部においてカソード反応が進行する。また、2つの電極の一方をアノード、他方をカソードとした場合、アノードとなっている電極側に位置する金属製基材と含水材料との接触部においてカソード反応が進行する。さらに、いずれの場合も、通電条件によっては、水の電気分解も進行し、水素が発生する。
【0015】
カソード反応が進行すると、OH
−の生成により含水材料と金属製基材との接触部周辺がアルカリ性環境になる。これにより、金属製基材表面の下地処理(化成処理)がダメージを受けて表面処理膜の密着性が低下し(下地処理がされていない場合は単純に金属製基材と表面処理膜の密着性が低下し)、接触部において表面処理膜の膨れが発生する。また、水の電気分解やH
+の還元により発生した水素が表面処理膜の膨れを促進する。このようなカソード反応の進行及び表面処理膜の膨れの発生は、被覆金属材の実際の腐食を加速再現するものである。従って、例えば接触部において発生した表面処理膜の膨れの進展の程度をみることによって、被覆金属材の腐食の進行度合いを計ることができる。
【0016】
このような耐食性試験において、温調要素を被覆金属材に当接させ、被覆金属材の温度を調整することにより、被覆金属材における表面処理膜の膨れを効率よく促進させること、及び/又は、腐食環境をより精度よく模擬することが可能となる。しかしながら、温調要素における被覆金属材への当接部分は、熱伝導性を確保する観点から金属製であることが多い。
【0017】
被覆金属材には、傷がつきやすく、取扱中に自然に素地の金属製基材に到達するような傷が発生し得る。金属製基材の露出部分が温調要素の当接部分に直接接触すると、接触部を介してリーク電流が流れる。上述の耐食性試験は、電子の移動を伴う電気化学反応を進行させる試験であるから、リーク電流が流れてしまうと、耐食性試験の信頼性が低下する。
【0018】
本構成によれば、絶縁部を介して温調要素を被覆金属材に当接させるようにしたから、被覆金属材と温調要素との絶縁性を確保し、接触部を介してリーク電流が流れることを抑制できる。そうして、信頼性の高い被覆金属材の耐食性試験が可能となる。
【0019】
一実施形態では、上記絶縁部は、上記温調要素の表面に配置された絶縁性物質からなる層である。
【0020】
本構成によれば、絶縁部を層状とすることにより、温調要素の表面全体に亘って絶縁性物質を配置できるから、被覆金属材と温調要素との絶縁性をより確実に確保できる。
【0021】
一実施形態では、上記絶縁部は、柔軟性を有する。
【0022】
本構成によれば、絶縁部が柔軟性を有することにより、被覆金属材の反り、凹凸等を吸収して、被覆金属材と温調要素との十分な接触状態を確保できる。そうして、温調要素による被覆金属材の温度調整の精度が向上するから、耐食性試験の信頼性が向上する。
【0023】
一実施形態では、上記温調要素は、上記被覆金属材の上記含水材料保持部が配置される側と反対側に配置された第1温調要素を含む。
【0024】
含水材料保持部が配置される側と反対側、すなわち被覆金属材の裏側には、含水材料保持部が配置されていないから、第1温調要素を容易に配置でき、被覆金属材の温度調整を容易に行うことができる。
【0025】
なお、被覆金属材の裏側に表面処理膜が形成されておらず金属製基材が露出している場合には、金属製基材が直接温調要素の当接部分に接触する。また、被覆金属材の裏側にも表面処理膜が形成されている場合、及び金属製基材としてメッキ材等を使用している場合においても、被覆金属材には、傷がつきやすく、取扱中に自然に素地の金属製基材に到達するような傷が発生し得る。特に、腐食反応の進行を促進させるために、例えば被覆金属材の表側に人工的に傷を形成した場合、金属製基材の裏側は傷形成時の圧力により僅かに膨らみ得る。そうすると、膨らんだ部分の表面処理膜又はメッキ等が剥がれて金属製基材の金属が露出する。金属製基材又はその金属の露出部分が温調要素の当接部分に直接接触すると、接触部を介してリーク電流が流れ、試験の信頼性が低下する。
【0026】
本構成では、絶縁部を介して第1温調要素を被覆金属材に当接させるから、リーク電流の流れを抑制して、信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
【0027】
第1温調要素としては、具体的には例えば、ホットプレート、ペルチェ素子、フレキシブルヒータ等が挙げられる。
【0028】
一実施形態では、上記第1温調要素は、少なくとも上記含水材料保持部に対応する位置に配置されている。
【0029】
本構成によれば、第1温調要素が少なくとも含水材料保持部に対応する位置に配置されているから、含水材料保持部に収容された含水材料と接触する被覆金属材の部分を効率的に温度調整できる。そうして、被覆金属材及び当該被覆金属材に接触する含水材料、特に表面処理膜と含水材料との界面近傍における含水材料の温度調整を効率的に行うことができる。
【0030】
一実施形態では、上記温調要素は、上記被覆金属材の上記表面処理膜上に配置された第2温調要素を含む。
【0031】
本構成によれば、被覆金属材の形状等の制約により、被覆金属材の裏側に温調要素を配置できない場合等であっても、第2温調要素を表面処理膜上に配置することにより、被覆金属材及び被覆金属材に接触する含水材料の温度を調整できる。
【0032】
第2温調要素としては、具体的には例えば、フレキシブルヒータ等が挙げられる。
【0033】
一実施形態では、上記第2温調要素は、上記含水材料保持部の周囲に配置されている。
【0034】
温調要素は、少なくとも被覆金属材の温度を調整するためのものであるが、被覆金属材の温度調整を行うと、表面処理膜に接触する含水材料保持部内の含水材料の温度も調整され得る。特に、表面処理膜と含水材料との界面近傍における含水材料の温度が調整され得る。そうすると、含水材料と表面処理膜との界面における化学反応の進行が促進され、耐食性試験の試験時間が短縮化される。従って、表面処理膜上に配置される第2温調要素は、含水材料保持部の周囲に配置されていることが望ましい。これにより、第2温調要素に囲まれた領域内に位置する被覆金属材の部分の温度が効果的に調整され、延いては表面処理膜に接触する含水材料の温度が精度よく調整される。
【0035】
一実施形態では、上記温度コントローラにより、上記温調要素の温度は上記表面処理膜のガラス転移温度未満に制御される。すなわち、一実施形態では、少なくとも上記被覆金属材の温度は、上記表面処理膜のガラス転移温度未満に調整される。
【0036】
被覆金属材の温度が表面処理膜のガラス転移温度以上にまで上昇すると、表面処理膜の物性が変化してしまい、耐食性試験の信頼性が低下するおそれがある。本構成によれば、温調要素の温度が表面処理膜のガラス転移温度未満に制御されるから、表面処理膜の物性変化を抑制でき、信頼性の高い耐食性試験が可能となる。なお、表面処理膜のガラス転移温度は、被覆金属材から採取した表面処理膜のサンプルについて、例えば、熱機械分析(TMA)、動的粘弾性測定(DMA)等を用いて計測してもよいし、JIS K 7121に準拠し、示差熱分析(DTA)又は示差走査熱量測定(DSC)を用いて計測してもよい。
【0037】
温調要素の温度は、含水材料の凝固温度よりも高い温度とすることが望ましい。含水材料の凝固温度以下では、含水材料が固化するから、含水材料と表面処理膜との界面における化学反応の速度が大きく低下し、耐食性試験を行うことが困難になるおそれがある。
【0038】
上記温度コントローラにより、上記温調要素の温度は30℃以上100℃以下に制御される。すなわち、一実施形態では、少なくとも上記被覆金属材の温度は、30℃以上100℃以下に調整される。
【0039】
本構成によれば、含水材料及び表面処理膜の状態変化を抑えつつ両者の界面における化学反応の進行を促進して被覆金属材の腐食を促進できる。そうして、耐食性試験の試験時間の短縮化を図ることができる。
【0040】
なお、被覆金属材が自動車部品用であり、表面処理膜が自動車用塗料により形成された塗膜である場合には、塗膜の一般的なガラス転移温度は約90℃以上であるから、温調要素の温度は約90℃未満、好ましくは約80℃以下とすることが望ましい。
【0041】
一実施形態では、上記温調要素は、上記被覆金属材の上記含水材料保持部が配置される側と反対側に配置された第1温調要素と、上記被覆金属材の上記表面処理膜上に配置された第2温調要素と、を含み、上記温度コントローラは、上記第1温調要素及び上記第2温調要素の両者に接続され、該両者の温度を制御する。
【0042】
温調要素として、第1温調要素及び第2温調要素の両者を備えることにより、被覆金属材を表裏両側から温度調整できるから、被覆金属材の温度調整が容易となる。また、両者の温度コントローラを共通化することにより、耐食性試験へのノイズの影響の低減、両者の温度調整の精度の向上及び装置のコンパクト化等に資することができる。
【0043】
一実施形態では、上記温度コントローラは、上記温調要素の側方に配置されている。
【0044】
温度コントローラが温調要素の上側又は下側に配置されていると、含水材料保持部から含水材料が漏れたときに、温度コントローラが含水材料に接触して損傷するおそれがある。本構成によれば、温度コントローラは温調要素の側方に配置されているから、含水材料保持部から含水材料が漏れた場合であっても、温度コントローラと含水材料との接触を抑制し、温度コントローラの損傷を抑制できる。
【0045】
一実施形態では、上記被覆金属材は、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する傷を備えており、上記含水材料保持部は、上記含水材料が上記傷に接触するように配置されており、上記被覆金属材の腐食の進行は、上記傷の周りで発生する上記表面処理膜の膨れとして現れるものであり、上記傷の大きさを計測する第1計測装置と、上記表面処理膜の膨れの大きさを計測する第2計測装置と、上記第1計測装置により計測した上記傷の大きさと、上記第2計測装置により計測した上記表面処理膜の膨れの大きさと、に基づいて、上記被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する算出手段と、をさらに備えている。
【0046】
一般に、表面処理膜を備えた被覆金属材では、例えば塩水などの腐食因子が表面処理膜に浸透し、金属製基材に到達することで腐食が開始する。すなわち、被覆金属材の腐食過程は、腐食が発生するまでの過程と腐食が進展する過程とに分けられ、それぞれ腐食が開始するまでの期間(腐食抑制期間)と腐食が進展する速度(腐食進展速度)とを求めることにより評価することができる。
【0047】
本構成のように、被覆金属材が表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する傷を備える場合、腐食因子としての含水材料を傷に接触するように配置すると、含水材料は傷の内側に侵入し、金属製基材の露出部に到達する。含水材料が金属製基材の露出部と接触すると、当該露出部において腐食が開始する。すなわち、被覆金属材が傷を備えていることにより、被覆金属材の腐食過程のうち、腐食抑制期間終了時の状態を模擬的に作り出すことができる。そして、通電により、カソード反応が進行する金属製基材の露出部の周りで表面処理膜の膨れが発生する。そうして、当該表面処理膜の膨れの進展の程度を見ることにより、被覆金属材の腐食過程のうち、腐食進展速度を精度よく評価できる。
【0048】
なお、カソード反応が進行する傷の大きさにばらつきがあると、傷において進行する水の電気分解反応の進行度合い、表面処理膜の膨潤による傷の閉じ具合、表面処理膜の膨れ内で発生した水素の脱泡度合い等にばらつきが生じる。そうして、表面処理膜の膨れの大きさにもばらつきが生じ、耐食性試験の信頼性が低下する。しかしながら、そのようなばらつきの発生を抑制するために、全く同一の大きさの傷を形成することは難しい。
【0049】
本構成では、第1計測装置及び第2計測装置を用い、それぞれ通電前の傷の大きさ及び通電後の表面処理膜の膨れの大きさを計測し、これらの計測結果から、算出手段により被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する。これにより、カソード反応が進行する傷の通電前の大きさによらず、被覆金属材の腐食の進行度合いを精度よく評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0050】
なお、本明細書において、「傷の大きさ」とは、平面視における傷の大きさをいい、傷の径、面積等である。例えば、傷の形状が平面視で円形の場合、傷の面積は、円の面積で与えられる。また、傷の径は、傷の最大幅で与えられる。なお、本明細書において、傷の大きさは、傷における金属製基材の露出部の大きさと同一と想定している。
【0051】
また、本明細書において、「表面処理膜の膨れの大きさ」とは、膨れ径若しくは膨れ面積、又は、剥離径若しくは剥離面積のことをいう。「膨れ径」及び「膨れ面積」は、それぞれ、表面処理膜の膨れ部の径及び面積である。「剥離径」及び「剥離面積」は、それぞれ、耐食性試験後に、表面処理膜の膨れ部を剥がして現れた金属製基材の露出面である剥離部の径及び面積である。
【0052】
一実施形態では、第1計測装置及び/又は第2計測装置は、被覆金属材の表面、すなわち表面処理膜の表面の画像データを取得するための画像検出手段と、この画像検出手段に接続された制御装置と、により構成され得る。画像検出手段は、例えばカメラ、デジタル顕微鏡、光学顕微鏡及び電子顕微鏡等である。画像検出手段により取得された画像データは、制御装置に送られる。制御装置は、当該画像データ上で、傷の大きさ及び/又は表面処理膜の膨れの大きさを計測するように構成されている。本構成によれば、画像検出手段により取得した画像データを用いるから、精度よく傷の大きさ及び/又は表面処理膜の膨れの大きさを計測できる。
【0053】
一実施形態では、上記傷の大きさと、予め試験的に求めておいた傷の大きさと上記被覆金属材の腐食の進行度合いとの相関関係と、に基づいて、上記算出手段により算出された上記被覆金属材の腐食の進行度合いを補正する補正手段をさらに備えている。
【0054】
本構成では、補正手段を用い、通電前の傷の大きさと、予め試験的に求めておいた傷の大きさと被覆金属材の腐食の進行度合いとの相関関係と、に基づいて、算出手段により算出した被覆金属材の腐食の進行度合いを補正する。これにより、カソード反応が進行する傷の通電前の大きさによらず、被覆金属材の腐食の進行度合いを精度よく評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0055】
ここに開示する被覆金属材の耐食性試験方法は、金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験方法であって、上記表面処理膜に接触する含水材料を保持する1つ又は2つの含水材料保持部と、該1つの含水材料保持部又は該2つの含水材料保持部の各々に収容された上記含水材料に接触する1つ又は2つの電極と、を配置するとともに、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を外部回路により電気的に接続するステップと、絶縁部を介して上記被覆金属材に当接された温調要素により、少なくとも該被覆金属材の温度を調整するステップと、上記外部回路上に設けられた通電手段により、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、
電子の移動を伴う電気化学反応を進行させて、上記被覆金属材の腐食を進行させるステップと、を備えたことを特徴とする。
【0056】
本構成によれば、絶縁部を介して温調要素を被覆金属材に当接させるようにしたから、被覆金属材と温調要素との絶縁性を確保し、接触部を介してリーク電流が流れることを抑制できる。そうして、信頼性の高い被覆金属材の耐食性試験が可能となる。
【0057】
一実施形態では、上記被覆金属材は、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する1箇所又は複数箇所の傷を備えており、上記含水材料保持部は、上記含水材料が上記1箇所の傷又は上記複数箇所のうちの2箇所の傷に接触するように配置される。
【0058】
上述のごとく、被覆金属材が傷を備えていることにより、被覆金属材の腐食過程のうち、腐食抑制期間終了時の状態を模擬的に作り出すことができる。そして、通電により、カソード反応が進行する金属製基材の露出部の周りで表面処理膜の膨れが発生する。そうして、当該表面処理膜の膨れの進展の程度を見ることにより、被覆金属材の腐食過程のうち、腐食進展速度を精度よく評価できる。
【0059】
一実施形態では、上記通電を行うステップで、上記被覆金属材の腐食の進行は、上記傷の周りで発生する上記表面処理膜の膨れとして現れるものであり、上記通電を行うステップ前に、上記傷の大きさを計測するステップと、上記通電を行うステップ後に、上記表面処理膜の膨れの大きさを計測するステップと、上記傷の大きさと、上記表面処理膜の膨れの大きさと、に基づいて、上記被覆金属材の腐食の進行度合いを算出するステップと、を備えている。
【0060】
上述のごとく、カソード反応が進行する傷の大きさにばらつきがあると、傷において進行する水の電気分解反応の進行度合い、表面処理膜の膨潤による傷の閉じ具合、表面処理膜の膨れ内で発生した水素の脱泡度合い等にばらつきが生じる。そうして、表面処理膜の膨れの大きさにもばらつきが生じ、耐食性試験の信頼性が低下する。しかしながら、そのようなばらつきの発生を抑制するために、全く同一の大きさの傷を形成することは難しい。
【0061】
本構成では、通電前の傷の大きさ及び通電後の表面処理膜の膨れの大きさを計測し、これらの計測結果から、被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する。これにより、カソード反応が進行する傷の通電前の大きさによらず、被覆金属材の腐食の進行度合いを精度よく評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0062】
一実施形態では、上記傷の大きさと、予め試験的に求めておいた傷の大きさと上記被覆金属材の腐食の進行度合いとの相関関係と、に基づいて、算出した上記被覆金属材の腐食の進行度合いを補正するステップをさらに備えている。
【0063】
本構成では、通電前の傷の大きさと、予め試験的に求めておいた傷の大きさと被覆金属材の腐食の進行度合いとの相関関係と、に基づいて、算出した被覆金属材の腐食の進行度合いを補正する。これにより、カソード反応が進行する傷の通電前の大きさによらず、被覆金属材の腐食の進行度合いを精度よく評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0064】
一実施形態では、上記相関関係は、上記傷の大きさに対応する補正係数である。
【0065】
相関関係として、傷の大きさに対応する補正係数を予め算出しておくことにより、補正が容易となる。そうして、簡易な構成で信頼性及び汎用性の高い耐食性試験が可能となる。
【0066】
一実施形態では、上記腐食の進行度合いは、上記表面処理膜の膨れの大きさの増加速度である。
【0067】
表面処理膜の膨れの大きさの増加速度は、上述の金属の腐食過程のうちの腐食進展速度に相当する。従って、被覆金属材の腐食の進行度合いとして、表面処理膜の膨れの大きさの増加速度を得ることにより、被覆金属材の腐食進展速度に関する耐食性を精度よく評価できる。
【0068】
一実施形態では、上記傷は、人工的に形成された人工傷である。
【0069】
人工的に傷を形成することにより、傷の形状、大きさ等をある程度所望の形状、大きさ等にすることができる。そうして、第1計測ステップでの傷の大きさの計測が容易となる。また、通電ステップで発生する表面処理膜の膨れの進展が容易となる。さらに、第2計測ステップでの表面処理膜の膨れの大きさの計測が容易となる。そうして、耐食性試験の定量性及び信頼性を向上できる。
【0070】
一実施形態では、上記傷の形状は、平面視で点状である。
【0071】
本明細書において、「点状」とは、平面視において円形、多角形等の形状であり、その最大幅と最小幅との比が2以下の形状であることをいう。
【0072】
本構成によれば、腐食に伴い表面処理膜を有効にドーム状に膨れさせることができ、腐食の促進性を向上できる。
【0073】
一実施形態では、上記表面処理膜は、樹脂塗膜である。
【0074】
金属製基材に表面処理膜として樹脂塗膜が設けられた塗装金属材では、金属製基材と樹脂塗膜との間で樹脂塗膜の膨れが進展しやすく、耐食性試験の信頼性が向上する。
【発明の効果】
【0075】
本開示によれば、絶縁部を介して温調要素を被覆金属材に当接させるようにしたから、被覆金属材と温調要素との絶縁性を確保し、接触部を介してリーク電流が流れることを抑制できる。そうして、信頼性の高い被覆金属材の耐食性試験が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0077】
以下、本開示を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0078】
(実施形態1)
図1、
図2は、本実施形態に係る被覆金属材の耐食性試験装置の一例を示す。
図3は、本実施形態に係る耐食性試験方法の原理を説明するための図である。これらの図において、1は被覆金属材、300は電極部装置、100は耐食性試験装置である。また、
図4は、
図1の耐食性試験装置100における容器本体31を示す図である。
【0079】
<被覆金属材>
本実施形態に係る耐食性試験において試験対象となる被覆金属材としては、例えば、金属製基材に表面処理膜として樹脂塗膜が設けられた塗装金属材が挙げられる。
【0080】
金属製基材は、例えば、家電製品、建材、自動車部品等を構成する鋼材、例えば、冷間圧延鋼板(SPC)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、高張力鋼板又はホットスタンプ材等であり、或いは軽合金材であってもよい。金属製基材は、表面に化成皮膜(リン酸塩皮膜(例えば、リン酸亜鉛皮膜)、クロメート皮膜等)が形成されたものであってもよい。
【0081】
樹脂塗膜としては、具体的には例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のカチオン電着塗膜(下塗り塗膜)がある。
【0082】
被覆金属材は、表面処理膜として二層以上の多層膜を備えていてもよい。具体的には例えば、表面処理膜が樹脂塗膜の場合は、電着塗膜に上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜、電着塗膜に中塗り塗膜及び上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜等であってもよい。
【0083】
中塗り塗膜は、被覆金属材の仕上り性と耐チッピング性を確保するとともに、電着塗膜と上塗り塗膜との密着性を向上させる役割を有する。また、上塗り塗膜は、被覆金属材の色、仕上り性及び耐候性を確保するものである。これらの塗膜は、具体的には例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤とからなる塗料等により形成することができる。
【0084】
本実施形態に係る耐食性試験は、上記のような被覆金属材1を対象とするから、例えば自動車部材の製造工程等において、塗装工程毎に製造ラインから部品を取り出し、塗膜の品質等を確認することができる。
【0085】
以下の説明では、鋼板2の表面に化成皮膜3が形成されてなる金属製基材に、表面処理膜としての電着塗膜4(樹脂塗膜)が設けられてなる被覆金属材1を例に挙げて説明する。
【0086】
図2、
図3に示すように、被覆金属材1には、電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5が相離れた2箇所に形成されている。当該2箇所の傷5は、含水材料6が配置される測定部分4Aに含まれている。なお、傷5は、人工的に形成されたものであってもよいし、自然に形成されたものであってもよい。また、傷5は、相離れた3箇所以上に形成されていてもよく、その場合、上記2箇所の傷5は、3箇所以上の傷5のうちの2つを意味する。
【0087】
<含水材料>
含水材料6は、水及び支持電解質を含有し、導電材としての機能を有する。含水材料6は、さらに粘土鉱物を含有してなる泥状物でもよい。含水材料6が粘土鉱物を含有する場合、後述する温調ステップS4及び通電ステップS5において、含水材料6中のイオン及び水が傷5周りの電着塗膜4に浸透し易くなる。
【0088】
支持電解質は、塩であり、含水材料6に十分な導電性を付与するためのものである。支持電解質としては、具体的には例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、酒石酸水素カリウム及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも一つの塩を採用することができる。支持電解質としては、特に好ましくは塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化カルシウムから選択される少なくとも一つの塩を採用することができる。含水材料6における支持電解質の含有量は、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下であること、特に好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0089】
粘土鉱物は、含水材料6を泥状にするとともに、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、通電ステップS5における腐食の進行を促すためのものである。粘土鉱物としては、例えば、層状ケイ酸塩鉱物又はゼオライトを採用することができる。層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト及びタルクから選択される少なくとも一つを採用することができ、特に好ましくはカオリナイトを採用することができる。含水材料6における粘土鉱物の含有量は、好ましくは1質量%以上70質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、特に好ましくは20質量%以上30質量%以下である。なお、含水材料6が泥状物であることにより、電着塗膜4が水平になっていない場合でも、該電着塗膜4の表面に含水材料6を設けることができる。
【0090】
含水材料6は、水、支持電解質及び粘土鉱物以外の添加物を含有してもよい。このような添加物としては、具体的には例えばアセトン、エタノール、トルエン、メタノール等の有機溶剤、塗膜の濡れ性を向上させるような物質等が挙げられる。これらの有機溶剤、物質等も電着塗膜4への水の浸透を促す機能を有し得る。これらの有機溶剤、物質等を、粘土鉱物に代えて含水材料6に添加してもよい。含水材料6が有機溶剤を含有する場合は、有機溶剤の含有量は、水に対して体積比で5%以上60%以下であることが好ましい。その体積比は、10%以上40%以下であること、20%以上30%以下であることがさらに好ましい。
【0091】
<耐食性試験装置>
耐食性試験装置100は、電極部装置300と、外部回路7と、通電手段8(電流検出手段)と、制御装置9(温度コントローラ、第1計測装置、第2計測装置、算出手段、補正手段)と、ホットプレート41(第1温調要素)と、フレキシブルヒータ43(第2温調要素)と、カメラ51(第1計測装置、第2計測装置、画像検出手段)と、を備える。
【0092】
≪電極部装置≫
電極部装置300は、本実施形態に係る耐食性試験に用いられる装置であり、容器30と、電極12と、を備えている。
【0093】
−容器−
容器30は、被覆金属材1の電着塗膜4上に載置されている。容器30は、容器本体31と、任意の底部32と、を備えている。
【0094】
容器30は、
図1、
図4に示すように、平面視長円形の部材であり、容器本体31及び底部32を備える。容器30は、底面32Aに略垂直な方向に、容器本体31及び底部32を貫通する2つの貫通孔11を備えた円筒部材である。
【0095】
2つの貫通孔11の各々は、底面32Aに設けられた開口部11Aを備えている。底面32Aが電着塗膜4に接触するように、容器30を電着塗膜4上に配置すると、開口部11Aにより、電着塗膜4の一部の領域である測定部分4Aが2箇所定義される。貫通孔11と、測定部分4Aとにより、含水材料6が収容される含水材料保持部が構成される。なお、本明細書において、貫通孔11及び測定部分4Aからなる含水材料保持部を「含水材料保持部11」と称することがある。含水材料6は、電着塗膜4における測定部分4Aの表面に接触する。
【0096】
[容器本体及び底部]
底部32は、底面32Aにおいて、電着塗膜4の表面に接している。容器本体31は、底部32における底面32Aと反対側に配置されている。
【0097】
含水材料6は、含水材料保持部11内に収容された状態で、電着塗膜4の表面に接触しているとともに、傷5内に侵入している。
【0098】
底部32は、例えばシリコーン樹脂製のシート状のシール材であり、容器30を被覆金属材1上に載置したときに、容器本体31と電着塗膜4との密着性を向上させるとともに、両者の隙間を埋めることができる。そうして、容器本体31と電着塗膜4との間からの含水材料6の漏れを効果的に抑制することができる。底部32を設けない構成も可能であるが、含水材料6の漏れを十分に抑制する観点から設けることが好ましい。
【0099】
容器本体31は、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料製やセラミック製等、特に好ましくはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料製とすることができる。これにより、容器本体31と外部との絶縁性を確保しつつ、電極部装置300、延いては耐食性試験装置100を軽量化及び低コスト化することができる。
【0100】
図1、
図2、
図4に示すように、容器本体31は、底部32側の台座部302と、台座部302において底部32と反対側に延設された延設部301とを備えている。台座部302は、平面視、延設部301よりも大径である。台座部302の外周面302A及び延設部301の外周面301Aは段差部303により接続されている。
【0101】
各貫通孔11における容器本体31及び底部32の内径、すなわち含水材料保持部11の径は、傷5の径よりも大きいことが望ましい。そして、容器30は、含水材料保持部11が傷5とほぼ同心状になるように、電着塗膜4上に載置されることが望ましい。当該構成により、傷5全体を含水材料6で覆いつつ、耐食性試験に必要十分量の含水材料6を収容することができる。なお、例えば傷5の径が0.1mm以上7mm以下の場合は、含水材料保持部11の径は、例えば0.5mm以上45mm以下、好ましくは0.5mm以上30mm以下とすることができる。本構成により、傷5全体を含水材料6で覆いつつ、耐食性試験に必要十分量の含水材料6を収容することができる。
【0102】
台座部302の底部32側には、溝部304が形成されている。溝部304は、各貫通孔11周りに配置されており、当該溝部304内にリング型の磁石33が収容される。すなわち、各貫通孔11周りに1つずつリング型の磁石33が配置される。これにより、容器30を被覆金属材1の電着塗膜4上に載置したときに、容器30は、磁石33の吸着力により、被覆金属材1に吸着固定される。そうして、容器30の位置ずれを効果的に抑制することができ、後述する耐食性試験の信頼性を向上させることができる。
【0103】
磁石33としては、例えばフェライト磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石等を用いることができるが、高い吸着力を得る観点から、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石を用いることが望ましい。
【0104】
磁石33は、溝部304に収容された後、例えば、エポキシ樹脂等で封止されることが望ましい。これにより、溝部304からの磁石33の抜けや、含水材料保持部11から溝部304への含水材料6の漏れ等を抑制できる。また、封止により、磁石33と含水材料6との間の絶縁性を確保することで、高い電導性を有する磁石33の成分の含水材料6への溶け出しによる耐食性試験の信頼性の低下を抑制できる。
【0105】
−電極−
2つの電極12は、その先端12aが含水材料6に埋没状態に設けられている。すなわち、2つの電極12は、それぞれ、2つの含水材料保持部11の各々に収容された含水材料6に接触している。
【0106】
電極12としては、具体的には例えば炭素電極、白金電極等を使用することができる。
【0107】
電極12の形状は、電気化学測定において一般的に用いられる形状の電極を採用することができるが、特に、電極12として、先端12aに少なくとも1つの孔を有する有孔電極を採用することが好ましい。そして、該先端12aを、孔が電着塗膜4の表面と略平行になるように配置することが好ましい。例えば、有孔電極は、先端12aがリング状とされ、当該リングが電着塗膜4に相対するように設けられる。或いは、有孔電極としてメッシュ状の電極を採用し、該メッシュ電極を含水材料6に埋没した状態で電着塗膜4と略平行になるように配置してもよい。
【0108】
後述する通電ステップS5では、傷5において水素が発生し得る。先端12aに孔を有していることにより、水素は孔を通って抜けるから、電極12と電着塗膜4の間に水素が滞留することが避けられる。そうして、通電性が悪化することが避けられる。
【0109】
≪外部回路≫
外部回路7は、配線71と、配線71上に配置された通電手段8(電流検出手段)と、を備える。配線71の両端には、上記2つの電極12が接続されている。すなわち、配線71は、2つの電極12間を電気的に接続している。配線71としては、公知のものを適宜使用できる。
【0110】
−通電手段−
通電手段8は、後述する通電ステップS5において、2つの電極12間に電圧/電流を印加する電源部としての役割を担う。また、同時に、通電手段8は、両者間に流れる電流/電圧を検出する電流検出手段/電圧検出手段としての役割も担う。通電手段8としては、具体的には例えば、電圧/電流の印加法として制御可能なポテンショ/ガルバノスタット等を使用することができる。
【0111】
通電手段8は、後述する制御装置9と電気的に接続又はワイヤレス接続されており、制御装置9により制御される。また、通電手段8により外部回路7に印加された又は通電手段8により検出された電圧値、電流値、及び、通電時間等の通電情報は、制御装置9に送られる。
【0112】
≪ホットプレート及びフレキシブルヒータ≫
ホットプレート41及びフレキシブルヒータ43(以下、まとめて「温調要素41,43」と称することがある。)は、少なくとも被覆金属材1の温度を調整するためのものである。なお、本明細書において、温度の調整とは、加温、冷却、所定温度での維持等を含む。
【0113】
ホットプレート41は、被覆金属材1における容器30が配置される側と反対側、言い換えると被覆金属材1の裏側(鋼板2側)に配置されている。ホットプレート41は、被覆金属材1及び電着塗膜4近傍の含水材料6を、被覆金属材1の裏側から温度調整するためのものである。なお、第1温調要素として、ホットプレート41の代わりに、ペルチェ素子、フレキシブルヒータ等を用いてもよい。
【0114】
ホットプレート41は、被覆金属材1への当接部分に配置された第1絶縁部42(絶縁部)を有している。言い換えると、ホットプレート41は、当該第1絶縁部42を介して被覆金属材1に当接されている。ホットプレート41の温度制御に伴い、被覆金属材1の特に鋼板2の温度が調整されると、化成皮膜3及び電着塗膜4の温度も調整される。そして、電着塗膜4に接触する含水材料保持部11内の含水材料6、特に電着塗膜4と含水材料6との界面近傍における含水材料6の温度が調整される。
【0115】
フレキシブルヒータ43は、被覆金属材1の表側、すなわち電着塗膜4側に当接されるとともに、含水材料保持部11の周囲に配置されている。具体的に、フレキシブルヒータ43は、電着塗膜4上において、容器30の台座部302の外周面302Aの全周を囲うように配置されている。なお、
図1では、容器本体31の台座部302及び底部32の図示を明瞭にするため、フレキシブルヒータ43の一部の図示を省略している。
【0116】
フレキシブルヒータ43は、被覆金属材1への当接部分に配置された第2絶縁部44(絶縁部)を有している。言い換えると、フレキシブルヒータ43は、当該第2絶縁部44を介して被覆金属材1に当接されている。フレキシブルヒータ43の温度制御に伴い、特に被覆金属材1におけるフレキシブルヒータ43に囲まれた内側に位置する部分の温度が調整される。そうすると、その温度が調整された部分に接触する含水材料保持部11内の含水材料6、特に上述の界面近傍における含水材料6の温度が調整される。フレキシブルヒータ43は、容器30の全周に亘って配置されていることが好ましいが、一部にのみ配置されていてもよい。フレキシブルヒータ43は、具体的には例えば、アルミ箔ヒータ、フィルムヒータ、ラバーヒータ等である。アルミ箔ヒータ等の金属材で覆われたヒータは、第2絶縁部44を配置して使用すればよい。また、フィルムヒータ及びラバーヒータ等は、それ自体、金属製の発熱体を樹脂フィルム、シリコーンゴム等の絶縁材で覆ってなるヒータであるから、第2絶縁部44はフレキシブルヒータ43に一体化されていると考えてもよい。また、フィルムヒータ及びラバーヒータを用いる場合であっても、第2絶縁部44を別に配置してもよい。
【0117】
温調要素41,43は、被覆金属材1の温度調整により、電着塗膜4に接触する含水材料6、特に電着塗膜4と含水材料6との界面近傍における含水材料6の温度調整も行うことが望ましい。これにより、電着塗膜4と含水材料6との界面における化学反応の進行が促進され、耐食性試験の試験時間が短縮化される。被覆金属材1及び含水材料6の温度調整を精度よく効率的に行う観点から、ホットプレート41は、少なくとも被覆金属材1の裏側における含水材料保持部11に対応する位置に配置されていることが望ましい。また、同様に、被覆金属材1及び含水材料6の温度調整を精度よく効率的に行う観点から、フレキシブルヒータ43は、上述のごとく、容器30の周囲、好ましくは全周に配置されていることが望ましい。
【0118】
温調要素41,43による被覆金属材1及び含水材料6の温度調整により、後述する耐食性試験において、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、傷5における腐食を効果的に進行させることができる。そうして、より短時間且つ信頼性の高い耐食性試験が可能となる。また、所望の試験時間に亘って被覆金属材1及び含水材料6の温度を一定に保つことができるから、所定の温度条件における信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
【0119】
ここに、本実施形態に係る耐食性試験装置100は、ホットプレート41及びフレキシブルヒータ43が、それぞれ第1絶縁部42及び第2絶縁部44(以下、まとめて「絶縁部42,44」と称することがある。)を有していることを特徴とする。
【0120】
被覆金属材1には、傷がつきやすく、取扱中に自然に素地の鋼板2に到達するような傷が発生し得る。鋼板2の露出部分が温調要素41,43の当接部分に直接接触すると、その接触部を介してリーク電流が流れ、耐食性試験の信頼性が低下する。
【0121】
具体的に、本実施形態の被覆金属材1は裏側に電着塗膜4等の表面処理膜が形成されておらず鋼板2が露出している。このような場合には、鋼板2の表面に酸化膜等が存在している場合であっても自然に傷が形成されて鋼板2の金属が露出する。そして、仮に、温調要素41,43が絶縁部42,44を有していない場合には、金属の露出部分が直接温調要素41,43の当接部分に接触する。
【0122】
また、被覆金属材1の裏側に電着塗膜4等の表面処理膜が形成されている場合、及び金属製基材としてメッキ材等を使用している場合においても、被覆金属材1には、傷がつきやすく、取扱中に自然に素地の鋼板2に到達するような傷が発生し得る。特に、被覆金属材1の表側に人工的に傷を形成した場合には、鋼板2の裏側は傷形成時の圧力により僅かに膨らみ得る。そうすると、膨らんだ部分の表面処理膜又はメッキ等が剥がれて鋼板2の金属が露出する。
【0123】
こうして、金属の露出部分と温調要素41,43とが直接接触すると、その接触部を介してリーク電流が流れる。耐食性試験は、電子の移動を伴う電気化学反応を進行させる試験であるから、リーク電流が流れてしまうと、耐食性試験の信頼性が低下する。
【0124】
本構成では、絶縁部42,44を介して温調要素41,43を被覆金属材1に当接させるようにしたから、被覆金属材1と温調要素41,43との絶縁性を確保し、接触部を介してリーク電流が流れることを抑制できる。そうして、信頼性の高い被覆金属材の耐食性試験が可能となる。
【0125】
絶縁部42,44は、温調要素41,43と被覆金属材1との絶縁性を確保するためのものであり、その形状等は特に限定されない。具体的には例えば、絶縁部42,44は、温調要素41,43と被覆金属材1との間に介在するように配置されるとともに、少なくとも外側が絶縁性となるように構成された皿形状、バット形状等の容器、シート、フィルム等の部材であってもよい。絶縁部42,44がこのような部材の場合は、別途部材を準備しておき、被覆金属材1に対して、部材を介して温調要素41,43を配置するようにすればよい。なお、耐食性試験では、容器30と電着塗膜4との間から含水材料6が漏れ、温調要素41,43、制御装置9等の周辺機器の汚染、延いては故障を招くおそれがある。従って、含水材料6の漏れによる周辺機器の汚染、故障を抑制する観点から、絶縁部42,44として皿形状、バット形状等の容器を採用してもよい。
【0126】
また、絶縁部42,44は、温調要素41,43における被覆金属材1へ当接される表面に配置された絶縁性物質からなる層であってもよい。本構成によれば、絶縁部42,44を層状とすることにより、温調要素41,43の表面全体に亘って絶縁性物質を配置できるから、被覆金属材1と絶縁部42,44との絶縁性をより確実に確保できる。絶縁性物質からなる層は、具体的には例えば、塗布、印刷、蒸着、ラミネート等の方法により絶縁性物質を温調要素41,43の表面にコーティングすることにより得られる。
【0127】
絶縁部42,44を構成する絶縁性物質としては、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート等のポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリビニル;ポリアミド;芳香族ポリアミド;ポリフェニレンサルファイド等の耐熱性に優れた絶縁性樹脂が挙げられる。また、他の具体例としては、低硬度のアクリル樹脂、高熱電導性シリコーン樹脂等の熱伝導性に優れた絶縁性樹脂等が挙げられる。さらに、他の具体例としては、SiC、AlN、BN、BeO、Al
2O
3、Si
3N
4、マイカ、雲母等のセラミックス、及びこのようなセラミックスの粉末をエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂に混合してなる混合物等が挙げられる。絶縁性物質は、これらのうちの一種又は二種以上の組み合わせであってもよい。
【0128】
なお、絶縁部42,44が、上述の容器、シート、フィルム等の部材の場合には、部材の少なくとも外側が上述の絶縁性物質で覆われている必要がある。具体的には、絶縁部42,44は、絶縁性の樹脂製容器等でもよいし、熱伝導性を向上させる観点から、金属製の容器の表面を絶縁性の樹脂フィルム等で覆ってなる容器等でもよい。
【0129】
絶縁部42,44は、柔軟性を有していてもよい。ここで、「柔軟性」とは、応力を加えたときには変形し、応力を取り除いたときには元の形状に戻る性質のことである。絶縁部42,44が柔軟性を有することにより、被覆金属材1の反り、凹凸等を吸収して、被覆金属材1と温調要素41,43との十分な接触状態を確保できる。そうして、温調要素41,43による被覆金属材1の温度調整の精度が向上するから、耐食性試験の信頼性が向上する。柔軟性を有する絶縁性物質としては、例えば上述の高熱電導性シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0130】
絶縁部42,44の厚さは、好ましくは1μm以上5mm以下、より好ましくは3μm以上1mm以下、特に好ましくは5μm以上500μm以下である。厚さが1μm未満では、被覆金属材1と温調要素41,43との絶縁の確保が困難となるおそれがある。厚さが5mm以上では、絶縁部42,44の十分な熱伝導性の確保が困難となり、温調要素41,43による被覆金属材1の温度調整の精度が低下するおそれがある。絶縁部42,44の厚さを上記範囲とすることにより、被覆金属材1と温調要素41,43との絶縁性を確保しつつ、絶縁部42,44の十分な熱伝導性を確保できる。
【0131】
温調要素41,43は、後述する制御装置9に電気的に接続又はワイヤレス接続されている。そして、制御装置9の制御部93が、温度コントローラとして両者の温度を制御する。このように、温調要素41,43は、単一の温度コントローラにより制御されることが望ましい。言い換えると、ホットプレート41に接続された温度コントローラは、フレキシブルヒータ43に接続された温度コントローラを兼ねることが望ましい。電気化学測定はノイズの影響を受けやすいところ、温度コントローラは、ノイズの発生源となる。特に、耐食性試験装置100を移動させて工場内や室外において耐食性試験を行う場合には、容易にノイズ遮断ができない場合がある。そのような環境でも、温調要素41,43の温度コントローラを制御装置9が兼ねることにより、ノイズ発生源の数を減らし、耐食性試験へのノイズの影響を低減できる。また、温調要素41,43の温度コントローラを制御装置9が兼ねることにより、温度コントローラの機体差をなくして両者の温度調整の精度を向上できるとともに、配線経路の複雑化を抑制して耐食性試験装置100の簡素化及びコンパクト化に資することができる。なお、本構成は、温度コントローラとして、制御装置9以外の装置を使用することを制限するものではない。また、温調要素41,43の温度を別々の温度コントローラで制御してもよい。
【0132】
温調要素41,43の両者を備える構成でもよいが、いずれか一方を備える構成としてもよい。温調要素41,43の両者を備えることにより、被覆金属材1を表裏両側から温度調整できるから、被覆金属材1の温度調整が容易となる。また、温調要素41,43のいずれか一方を備えることにより、消費電力を抑えることができる。なお、温調要素41,43のいずれか一方を備える場合、電着塗膜4と含水材料6との界面近傍における含水材料6の温度を精度よく制御する観点から、ホットプレート41を備えることが好ましい。また、例えば被覆金属材1が、例えば閉断面構造の部品である等、被覆金属材1の形状等の制約により、被覆金属材1の裏側にホットプレート41を配置できないことがある。そのような場合には、被覆金属材1の表側にフレキシブルヒータ43を配置して、被覆金属材1及び含水材料6の温度を調整することが望ましい。
【0133】
また、温調要素41,43の両者を備える場合であっても、温度調整は両者とも行ってもよいし、いずれか一方のみ行ってもよい。
【0134】
≪カメラ≫
カメラ51は、被覆金属材1の表面の写真を撮影するための装置であり、例えばCCDカメラ等からなる。カメラ51は、制御装置9に電気的に接続又はワイヤレス接続されている。カメラ51により撮影された写真、すなわち画像データは、制御装置9に送られる。カメラ51は、後述する第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6において、それぞれ通電ステップS5前の傷5の写真及び通電ステップS5後の傷5周りの電着塗膜4の膨れの写真を撮影する。
【0135】
≪制御装置≫
制御装置9は、例えば周知のマイクロコンピュータをベースとする装置であり、演算部91と、記憶部92と、制御部93と、を備える。また、制御装置9は、図示はしないが、例えばディスプレイ等からなる表示部、キーボード等からなる入力部等を備えてもよい。記憶部92には、各種データ及び演算処理プログラム等の情報が格納されている。演算部91は、記憶部92に格納された上記情報、入力部を介して入力された情報等に基づいて、各種演算処理を行う。制御部93は、記憶部92に格納されたデータ、演算部91の演算結果等に基づいて、制御対象に制御信号を出力し、各種制御を行う。
【0136】
制御装置9は、上述のごとく、通電手段8、ホットプレート41、フレキシブルヒータ43、及びカメラ51と、電気的に接続又はワイヤレス接続されている。
【0137】
なお、
図1では、制御装置9は、被覆金属材1の上方に図示されているが、そのような構成に限る意図ではない。制御装置9が温調要素41,43の上側又は下側に配置されていると、含水材料保持部11から含水材料6が漏れたときに、制御装置9が含水材料6に接触して損傷するおそれがある。従って、制御装置9は、例えば、温調要素41,43の側方に配置される構成としてもよい。これにより、含水材料保持部11から含水材料6が漏れた場合であっても、制御装置9と含水材料6との接触を抑制し、制御装置9の損傷を抑制できる。
【0138】
上述のごとく、通電手段8の通電情報、温度センサ37により検出された温度情報、カメラ51により撮影された画像データ等は、制御装置9に送られ、記憶部92に格納される。また、制御部93は、通電手段8、ホットプレート41及びフレキシブルヒータ43に制御信号を出力し、通電手段8により外部回路7に印加される電圧値/電流値、ホットプレート41及びフレキシブルヒータ43の温度設定を制御する。なお、制御装置9は、例えばカメラ51にも制御信号を出力し、カメラ51による撮影タイミング等を制御するように構成されてもよい。
【0139】
演算部91は、記憶部92に格納された被覆金属材1の表面の画像データに基づき、後述する第1計測ステップS2では、第1計測装置として傷5の大きさとしての径を計測する。また、演算部91は、上記画像データに基づき、後述する第2計測ステップS6では、第2計測装置として傷5周りの電着塗膜4の膨れの大きさを計測する。
【0140】
また、演算部91は、後述する算出ステップS7では、被覆金属材1の腐食の進行度合いを算出する算出手段としても機能する。算出された被覆金属材1の腐食の進行度合いの情報も記憶部92に格納される。
【0141】
<耐食性試験方法>
図5は、本実施形態に係る耐食性試験方法のフローチャートである。
図6は、後述する実施例及び比較例の耐食性試験の通電ステップS5後のカソードサイトのデジタル顕微鏡写真である。
【0142】
本実施形態に係る耐食性試験方法は、
図5に示すように、準備ステップS1と、第1計測ステップS2と、接続ステップS3と、温調ステップS4と、通電ステップS5と、第2計測ステップS6と、算出ステップS7と、任意の補正ステップS8と、を備える。以下、各ステップについて説明する。なお、補正ステップS8については、実施形態3において説明する。
【0143】
≪準備ステップ≫
準備ステップS1では、被覆金属材1の相離れた2箇所に、電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5を備えた被覆金属材1を準備する。
【0144】
一般に、塗膜を備えた被覆金属材では、例えば塩水などの腐食因子が塗膜に浸透し、基材に到達することで腐食が開始する。従って、被覆金属材の腐食過程は、腐食が発生するまでの過程と腐食が進展する過程とに分けられ、それぞれ腐食が開始するまでの期間(腐食抑制期間)と腐食が進展する速度(腐食進展速度)とを求めることにより評価することができる。
【0145】
電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5が存在すると、含水材料6を接触させたときに、含水材料6が傷5内に侵入して、傷5において露出する鋼板2に接触する。従って、傷5を加えることにより、被覆金属材1の腐食過程のうち、腐食が発生するまでの過程が終了した状態、すなわち腐食抑制期間終了時の状態を模擬的に作り出すことができる。そうして、耐食性試験において、腐食進展速度に関する情報を効率的に得ることができる。
【0146】
上述のごとく、傷5は、自然傷であってもよいし、人工的に加えられた人工傷であってもよいが、人工傷であることが望ましい。人工的に傷5を形成することにより、傷5の形状、大きさ等をある程度所望の形状、大きさ等にすることができる。そうして、第1計測ステップS2での傷5の大きさの計測が容易となる。また、通電ステップS5で発生する電着塗膜4の膨れの進展が容易となる。さらに、第2計測ステップS6での電着塗膜4の膨れの大きさの計測が容易となる。そうして、耐食性試験の定量性及び信頼性を向上できる。
【0147】
傷5は、点状の傷であってよいし、カッター傷のような線状の傷であってもよいが、好ましくは点状の傷である。そして、2箇所の傷5のうち、少なくとも一方は、点状に形成されていることが望ましい。また、後述する第2計測ステップS6で計測する電着塗膜4の膨れの大きさが大きい方の傷5は、この準備ステップS1において、点状に形成されていることが好ましい。さらに、後述する通電ステップS5でカソード反応が進行する傷5、すなわちカソードサイトとなる傷5は、点状に形成されていることが好ましい。この場合、アノードサイトとなる傷5の形状は特に限定されず、点状であってもよいし、例えばカッター傷のような線状等であってもよい。なお、本明細書において、「点状」とは、平面視において円形、多角形等の形状であり、その最大幅と最小幅との比が2以下の形状であることをいう。傷5が点状であることにより、腐食に伴い電着塗膜4を有効にドーム状に膨れさせることができ、腐食の促進性を向上できる。
【0148】
傷5が人工傷の場合、傷5を付ける道具の種類は特に問わない。点状の傷5を形成する場合には、傷5の大きさや深さにばらつきを生じないように、すなわち、定量的に傷を付ける観点から、例えば、自動傷付けポンチを用いる方法、ビッカース硬さ試験機を用いてその圧子により所定荷重で傷を付ける方法等が好ましい。点状以外の形状、例えば上述の線状の傷5を形成する場合には、カッター等を用いればよい。
【0149】
なお、2箇所の傷5間の距離は、電着塗膜4の膨れの確認の容易さの観点から、2cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがさらに好ましい。
【0150】
≪第1計測ステップ≫
第1計測ステップS2は、傷5の大きさを計測するステップである。傷5の大きさは、傷5の径又は面積である。例えば傷5の形状が平面視で円形の場合、傷5の面積は、円の面積で与えられる。なお、本明細書において、傷5の大きさは、鋼板2の露出部の大きさと同一と想定している。
【0151】
具体的には、カメラ51を用いて、電着塗膜4の表面上における傷5周辺を撮影する。得られた画像データ上で、演算部91により傷5の大きさを計測する。
【0152】
計測する傷5は、2箇所ともであってもよいし、通電ステップS5においてカソードサイトとなる傷5のみであってもよい。
【0153】
傷5の形状が点状の場合、傷5の径、特にカソードサイトとなる傷5の径は、好ましくは0.1mm以上7mm以下、より好ましくは0.2mm以上5mm以下、特に好ましくは0.3mm以上1.5mm以下である。また、傷5の形状に拘わらず、傷5の面積は、好ましくは0.01mm
2以上25mm
2以下、より好ましくは0.02mm
2以上10mm
2以下、特に好ましくは0.05mm
2以上1mm
2以下である。
【0154】
後述するように、上記好ましい範囲においては、径又は面積が小さいほど、腐食の加速性は上昇する。もっとも、その径が0.1mm未満(及び/又は面積が0.01mm
2未満)まで小さくなると、通電性が低下してカソード反応が進み難くなる。一方、径が7mm(及び/又は面積が25mm
2)を超えて大きくなると、カソード反応が不安定になるとともに、後述する電着塗膜4の膨れの進行が遅くなる。傷5の大きさを上記範囲とすることにより、カソード反応及び電着塗膜4の膨れの進行が促進される。
【0155】
≪接続ステップ≫
接続ステップS3は、2つの含水材料保持部11の各々に収容された含水材料6に接触する2つの電極12間を外部回路7により電気的に接続するステップである。
【0156】
具体的には例えば、まず、
図1、
図2に示すように、ホットプレート41のヒータ面上に第1絶縁部42を配置する。そして、第1絶縁部42の上に、被覆金属材1を、電着塗膜4が上側になるように載置する。これにより、ホットプレート41は、第1絶縁部42を介して被覆金属材に当接した状態となる。そして、被覆金属材1の電着塗膜4の上に、含水材料保持部11の各々が2箇所の傷5の各々を囲むように容器30を配置する。このとき、含水材料保持部11が傷5と同心となるように容器30を配置することが好ましい。さらに、電着塗膜4上であり且つ容器30の全周に第2絶縁部44を介してフレキシブルヒータ43を配置する。
【0157】
ここで、抵抗計を用いて、温調要素41,43と鋼板2との間の抵抗値を計測し、温調要素41,43及び鋼板2間の絶縁性が確保されていることを確認する。抵抗計としては、市販のテスタ等を用いることができる。本明細書において、抵抗値が、好ましくは20MΩ超、より好ましくは100MΩ以上、特に好ましくは1GΩ以上である場合に、温調要素41,43及び鋼板2間の絶縁性が確保されていると判断する。
【0158】
なお、例えば、抵抗計の2つの端子の一方を温調要素41,43のヒータ部分に固定しておくようにしてもよい。これにより、抵抗計の他方の端子を鋼板2に接触させるだけで、温調要素41,43と鋼板2との間の抵抗値を計測できるから、抵抗値を計測する工程が簡素化される。
【0159】
そして、含水材料保持部11の中に含水材料6を所定量入れる。次に、外部回路7の両端に設けられたリング状の2つの電極12を、各含水材料保持部11に入れ、含水材料6に埋没した状態になるようにする。このとき、電極12のリング状の先端12aが電着塗膜4の表面と平行、且つ、傷5と同心になるように、電極12を配置することが好ましい。
【0160】
以上により、含水材料保持部11内に収容された含水材料6が電着塗膜4の表面に接触しているとともに、傷5内に浸入した状態になる。また、含水材料6に接触する2つの電極12間を外部回路7により電気的に接続した状態となる。
【0161】
≪温調ステップ≫
温調ステップS4は、温調要素41,43により、少なくとも被覆金属材1、好ましくは被覆金属材1及び含水材料6、より好ましくは被覆金属材1及び電着塗膜4と含水材料6との界面近傍における含水材料6の温度を調整するステップである。
【0162】
温調要素41,43により、被覆金属材1等の温度は、電着塗膜4のガラス転移温度未満に調整されることが望ましい。被覆金属材1の温度が電着塗膜4のガラス転移温度以上にまで上昇すると、電着塗膜4の物性が変化してしまい、耐食性試験の信頼性が低下するおそれがある。本構成によれば、温調要素の温度が電着塗膜4のガラス転移温度未満に制御されるから、電着塗膜4の物性変化を抑制でき、信頼性の高い耐食性試験が可能となる。なお、電着塗膜4のガラス転移温度は、被覆金属材1から採取した表面処理膜のサンプルについて、例えば、熱機械分析(TMA)、動的粘弾性測定(DMA)等を用いて計測してもよいし、JIS K 7121に準拠し、示差熱分析(DTA)又は示差走査熱量測定(DSC)を用いて計測してもよい。
【0163】
また、温調要素41,43の温度は、含水材料6の凝固温度よりも高い温度とすることが望ましい。含水材料6の凝固温度以下では、含水材料6が固化するから、含水材料6と電着塗膜4との界面における化学反応の速度が大きく低下し、耐食性試験を行うことが困難になるおそれがある。
【0164】
具体的には、被覆金属材1等の温度は、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、特に好ましくは50℃以上、及び、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下に調整されることが望ましい。本構成によれば、含水材料6及び電着塗膜4の状態変化を抑えつつ両者の界面における化学反応の進行を促進して被覆金属材1の腐食を促進できる。そうして、耐食性試験の試験時間の短縮化を図ることができる。なお、被覆金属材1が自動車部品用であり、電着塗膜4が自動車用塗料により形成された塗膜である場合には、塗膜の一般的なガラス転移温度は約90℃以上であるから、温調要素41,43の温度は約90℃未満、好ましくは約80℃以下とすることが望ましい。
【0165】
なお、被覆金属材1及び電着塗膜4と含水材料6との界面近傍における含水材料6の温度を調整する場合には、温度計を用いて、電着塗膜4と含水材料6との界面近傍の含水材料6の温度を計測し、所定の温度に調整されていることを確かめることが望ましい。
【0166】
温調ステップS4では、含水材料6を電着塗膜4の表面上に配置し、温度調整を行った状態で、通電を行う前に、所定時間保持するようにしてもよい。温調ステップS4における所定時間、すなわち温度の保持時間は、好ましくは1分以上1日以下、より好ましくは10分以上120分以下、特に好ましくは15分以上60分以下である。
【0167】
含水材料6を電着塗膜4の表面上に配置し、温度調整を行った状態で保持することにより、予め電着塗膜4への含水材料6の浸透を促すことができる。すなわち、特に
図3中ドット模様で示すように、電着塗膜4への水の浸透及びイオンの移動を予め促すことができる。このことは、測定部分4A全体に亘って、いわば腐食抑制期間が終了した状態を、実際の腐食過程により近い形で、模擬的に再現していることになる。そうして、次の通電ステップS5における被覆金属材1の腐食をよりスムーズに進行させて、腐食が進展する過程を表す腐食進展速度を評価するための電着塗膜4の膨れの進展を促すことができる。これにより、試験時間の短縮化をはかるとともに、耐食性試験の信頼性を向上させることができる。
【0168】
≪通電ステップ≫
通電ステップS5では、通電手段8により、2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、被覆金属材1の腐食を進行させる。
【0169】
具体的に、通電手段8を作動させ、外部回路7によって被覆金属材1の鋼板2に電極12、含水材料6及び電着塗膜4を介して通電する。この通電は、例えば電流値が一定値となるように定電流制御される。
【0170】
詳細に、
図3は、左側の電極12が通電手段8の負極側、右側の電極12は通電手段8の正極側に接続された状態を示す。
図3の状態では、通電が行われると、左側の電極12と含水材料6との界面では還元反応が進行するから、左側の電極12はカソードとなる。
【0171】
そして、左側の傷5は、左側の電極12と同一の含水材料6に接触しているから、左側の傷5における鋼板2の露出部5Aでは、鋼板2のFeが溶出するアノード反応(Fe→Fe
2++2e
−)が主に進行する。すなわち、左側の傷5は、アノードサイトとなる。
【0172】
上記アノードサイトにおけるアノード反応により発生した電子e
−は鋼板2を通って右側の傷5に移動する。そして、右側の傷5における鋼板2の露出部5Aは、含水材料6と接触しているから、水中の溶存酸素及び水素イオンが還元されて水酸基OH
−及び水素が生成されるカソード反応が進行する。すなわち、右側の傷5は、カソードサイトとなる。なお、右側の傷5では、通電条件によっては、水の電気分解も進行し、水素が発生する。
【0173】
さらに、右側の傷5が接触する含水材料6は、右側の電極12とも接触しているから、右側の電極12と含水材料6との界面では酸化反応が進行する。そうして、右側の電極12はアノードとなる。
【0174】
アノードサイトとなる傷5では、アノード反応が進行し、カソード反応の進行は抑制されるから、電着塗膜4の膨れはほとんど発生しない。
【0175】
一方、カソードサイトとなる傷5において、カソード反応が進行すると、OH
−の生成により傷5の周りがアルカリ性環境になる。これにより、鋼板2表面の下地処理(化成処理)がダメージを受けて電着塗膜4の密着性が低下し、傷5の周りで電着塗膜4の膨れが発生する。また、水の電気分解やH
+の還元により発生した水素が電着塗膜4の膨れを促進する。
【0176】
このような傷5の周りにおけるカソード反応の進行及び電着塗膜4の膨れの進展は、被覆金属材1の実際の腐食を加速再現するものである。すなわち、傷5の周りで発生する電着塗膜4の膨れの進展は、被覆金属材1の腐食の進行を模擬的に再現したものとなる。従って、上記通電開始から所定時間を経過した時点での電着塗膜4の膨れの大きさを評価することによって、被覆金属材1の腐食の進行度合いを評価できる。特に、電着塗膜4の膨れの大きさの増加速度は、上述の金属の腐食過程のうちの腐食進展速度に相当する。従って、被覆金属材1の腐食の進行度合いとして、電着塗膜4の膨れの大きさの増加速度を得ることにより、被覆金属材1の腐食進展速度に関する耐食性を精度よく評価できる。
【0177】
具体的に、
図6の左列の写真は、後述する実施例の耐食性試験後の供試材Aのカソードサイトの外観写真を示している。なお、カソードサイトの外観写真は、試験後、被覆金属材1の表面から膨れ上がった電着塗膜4を粘着テープで剥離した後の写真である。実施例の写真から判るように、カソードサイトでは、傷5と、当該傷5の周りに形成された電着塗膜4の膨れが観察される。
図6には、アノードサイトの写真を示していないが、アノードサイトでは、傷5の形成を確認することができるものの、電着塗膜4の膨れはほとんど観察できない。
【0178】
なお、電着塗膜4の膜質、傷5の大きさ、形状等、通電手段8による通電時の電流値等の条件によっては、アノードサイトにおいてもカソード反応が進行する場合がある。すなわち、2箇所の傷5において、アノード反応が進行する傷5と、カソード反応が進行する傷5とが明瞭に分かれることが好ましいが、明瞭に分かれない場合もある。この場合、アノードサイトにおいても電着塗膜4の膨れが進展し得る。このような場合には、2箇所の傷5の双方において電着塗膜4の膨れが進行し得るから、後述する算出ステップS7において、電着塗膜4の膨れが大きい方の傷5に基づいて、被覆金属材1の腐食の進行度合いを算出することになる。
【0179】
また、通電ステップS5では、通電により、含水材料6中の電解質成分の陰イオン(Cl
−等)又は陽イオン(Na
+等)が電着塗膜4を通って鋼板2に向かって移動する。これらのイオンは水和状態であるから、イオンの移動に伴って水が電着塗膜4に浸透していく。
【0180】
さらに、電極12が傷5を囲むように配置されているから、傷5周りの電着塗膜4に電圧が安定して印加され、通電時における該電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透が効率良く行なわれる。
【0181】
こうして、通電により、傷5周りの電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透が促進されるから、電気の流れが速やかに安定した状態になる。よって、傷5における電着塗膜4の膨れの進展が安定したものになる。
【0182】
このように、本実施形態では、通電により、アノード反応が進行するアノードサイトと、カソード反応が進行するカソードサイトとを分離するとともに、傷5における両反応の進行及び電着塗膜4の膨れの進展を安定的に促進できるから、被覆金属材1の耐食性試験を極めて短時間で精度よく行うことができる。
【0183】
通電ステップS5における電流値は、好ましくは10μA以上10mA以下、より好ましくは100μA以上5mA以下、特に好ましくは500μA以上2mA以下である。電流値が10μA未満では、腐食の加速再現性が低下して試験に長時間を要するようになる。一方、電流値が10mAを超えると、腐食反応速度が不安定になり、実際の腐食の進行との相関性が悪くなる。電流値を上記範囲とすることにより、試験時間の短縮化と試験の信頼性の向上とを両立させることができる。
【0184】
通電ステップS5における通電時間は、電着塗膜4の膨れの十分な広がりを得る観点から、例えば、0.05時間以上24時間以下とすればよい。その通電時間は、好ましくは0.1時間以上10時間以下、より好ましくは0.1時間以上5時間以下とすることができる。なお、温調ステップS4で、通電前に所定の温度で所定時間保持する場合には、通電時間は好ましくは0.1時間以上1時間以下とすることができる。
【0185】
2つの電極12間には、上述のごとく定電流を印加することが望ましいが、定電圧を印加してもよい。
【0186】
定電流制御の場合、電流値が通電初期において多少ばらつくものの、概ね設定値に制御され得る。通電を定電流制御とすることにより、腐食の加速に直接関与する電流値が安定するから、腐食の加速再現性が良くなる。そうして、耐食性試験の信頼性を向上できる。
【0187】
これに対して、定電圧制御の場合、電着塗膜4への含水材料6の浸透度合い、化成皮膜3の劣化や発錆に伴う抵抗値の変動等の影響により電流値が大きく変動し、腐食の加速再現性の面で不利になるおそれがある。なお、温調ステップS4において、通電前に所定の温度で所定時間保持すると、通電ステップS5前に電着塗膜4への含水材料6の浸透を促進できるから、定電圧制御であっても電流値の変動は抑制され得る。また、定電圧制御における電流プロット(電流波形)から、腐食が進展する過程における腐食の進行状態ないしは腐食の程度を捉えるようにしてもよい。
【0188】
≪第2計測ステップ≫
第2計測ステップS6は、電着塗膜4の膨れの大きさを計測するステップである。
【0189】
上述の第1計測ステップS2で、傷5の大きさとして、その径を計測した場合には、電着塗膜4の膨れの大きさは、例えば、電着塗膜4の膨れにより現れた傷5周りの円の径(以下、「膨れ径」という。)を計測することにより得られる。また、電着塗膜4の膨れの大きさは、
図6に示すように、耐食性試験後に、電着塗膜4に粘着テープを貼り、電着塗膜4の膨れた部分を剥がし、露出した鋼板2の露出面の径(以下、「剥離径」という。)を計測して得てもよい。
【0190】
具体的には、第2計測ステップS6では、カメラ51を用いて、剥離前又は剥離後の傷5周辺を撮影する。得られた画像データ上で、演算部91により膨れ径又は剥離径を計測する。
【0191】
なお、後述する算出ステップS7において、腐食の進行度合いの算出に使用される膨れ径又は剥離径は、電着塗膜4の膨れが大きい方の傷5の膨れ径又は剥離径である。
【0192】
従って、第2計測ステップS6では、2箇所の傷5のうち、片方の傷5における電着塗膜4の膨れが残りの傷5における電着塗膜4の膨れよりも明瞭に大きい場合には、電着塗膜4の膨れが大きい方についてのみ、膨れ径又は剥離径を計測するようにしてもよい。具体的には例えば、カソードサイトの電着塗膜4の膨れが、アノードサイトの電着塗膜4の膨れよりも明瞭に大きい場合には、カソードサイトの写真のみを撮影して、膨れ径又は剥離径を計測すればよい。
【0193】
また、両者の電着塗膜4の膨れの大きさが同程度である場合には、両者の写真を撮影して、両者の膨れ径又は剥離径を計測し、計測結果から膨れ径又は剥離径の大きい方を選択するようにしてもよい。
【0194】
なお、上述の第1計測ステップS2で、傷5の大きさとして、その面積を採用した場合には、電着塗膜4の膨れの大きさとしても面積を採用すればよい。
【0195】
電着塗膜4の膨れの大きさとしての膨れ径及び剥離径は、好ましくは0.4mm以上20mm以下、より好ましくは0.6mm以上17mm以下、特に好ましくは1mm以上15mm以下である。また、電着塗膜4の膨れの大きさとしての膨れ面積及び剥離面積は、好ましくは0.1mm
2以上200mm
2以下、より好ましくは0.2mm
2以上150mm
2以下、特に好ましくは0.5mm
2以上120mm
2以下である。
【0196】
電着塗膜4の膨れの大きさが下限値未満では、腐食の進展が不十分となり、耐食性試験の信頼性が低下するおそれがある。また、電着塗膜4の膨れが大きすぎると、そのような膨れを発生させるために、特に膜質の優れた被覆金属材1では、通電ステップS5における通電時間が長くなるおそれがある。電着塗膜4の膨れの大きさを上記範囲とすることにより、電着塗膜4の膨れの大きさを精度よく容易に算出できるとともに、短時間で信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
【0197】
≪算出ステップ≫
算出ステップS7では、第1計測ステップS2で計測した傷5の大きさと第2計測ステップS6で計測した電着塗膜4の膨れの大きさとに基づいて、被覆金属材1の腐食の進行度合いを算出する。
【0198】
上述のごとく、通電ステップS5における通電開始から所定時間を経過した時点で電着塗膜4の膨れがどこまで進展したかをみることによって、被覆金属材1の腐食の進行度合いを得ることができる。
【0199】
腐食の進行度合いを示す指標としては、第1計測ステップS2で計測した傷5の大きさと第2計測ステップS6で計測した電着塗膜4の膨れの大きさとの差や、電着塗膜4の膨れの進展速度等が挙げられるが、好ましくは、電着塗膜4の膨れの進展速度である。電着塗膜4の膨れの進展速度は、上述の腐食進展速度に相当するからである。
【0200】
腐食の進行度合いとして、電着塗膜4の膨れの進展速度を算出する場合は、例えば以下の手順で行う。すなわち、2箇所の傷5のうち電着塗膜4の膨れが大きい方について、第1計測ステップS2で計測した傷5の径又は面積と、第2計測ステップS6で計測した膨れ径若しくは剥離径又は膨れ面積若しくは剥離面積と、に基づいて、通電中に電着塗膜4の膨れが進展した領域の距離又は面積等を算出する。この進展した領域の距離又は面積と、通電ステップS5における通電時間と、に基づいて、電着塗膜4の膨れが進展する速度を算出する。
【0201】
算出ステップS7で算出された腐食の進展度合いは、例えば、実腐食試験と関連付けて被覆金属材1の耐食性の評価に用いることができる。具体的には例えば、当該耐食性試験により得られた腐食の進展度合いと、実腐食試験で得られた腐食進展速度との関係を予め求めておき、当該耐食性試験結果に基づいて、それが実腐食試験においてどの程度の耐食性に相当するかをみることができる。
【0202】
<実施例>
以下、具体的に実施した実施例について説明する。
【0203】
≪耐食性試験≫
−実施例−
金属製基材としての鋼板2(SPC)の一面に、化成皮膜3(リン酸亜鉛皮膜、化成処理時間30秒)を介して、エポキシ樹脂系の電着塗膜4(焼付条件150℃×20分、厚さ10μm)を設けてなる被覆金属材1を供試材Aとした。
【0204】
供試材Aの電着塗膜4が形成された面に対し、ビッカース硬さ試験機を用いて、30kgの荷重により人工的に傷5を形成した。なお、傷5は、互いに4cmの間隔をあけて同一径で2箇所に形成した。傷5の径は0.8mmであった。
【0205】
ホットプレート41のヒータ面上にSUS製のバットを載置し、バットの表面を絶縁部44としてのポリ塩化ビニリデン製のフィルム(厚さ11μm)で覆った。なお、バットは、含水材料6が漏れた場合に、ホットプレート41の汚染を抑制するためのものである。
【0206】
供試材Aの電着塗膜4が形成された面が上側になるように、供試材Aを上記バットのフィルム上に載置した。
【0207】
この状態で、ホットプレート41のヒータ面と供試材Aの鋼板2との間の抵抗値を、市販のテスタ(抵抗値が20MΩ超で計測不能、0.1Ω未満で0(ゼロ)Ωと表示)を用いて計測した。抵抗値は、計測不能(20MΩ超)であり、ホットプレート41のヒータ面と鋼板2との間の十分な絶縁性が確保されていることを確認した。
【0208】
そして、供試材Aに対し、
図1に示す態様で、容器30等を配置した。なお、フレキシブルヒータ43及び第2絶縁部44は配置しなかった。そして、含水材料保持部11に含水材料6を注入した。含水材料6としては、模擬泥(組成:水1.2L、カオリナイト1kg、硫酸ナトリウム50g、塩化ナトリウム50g、塩化カルシウム50g)を用いた。
【0209】
ホットプレート41の温度を調整して、電着塗膜4と含水材料6との界面近傍の含水材料6の温度を65℃とし、そのまま30分間保持した(温調ステップ)。
【0210】
そして、
図3の状態で、2つの電極12間に1mAの定電流を30分間印加した。
【0211】
その後、含水材料6を除去し、供試材Aの表面を水で洗浄後、粘着テープで電着塗膜4の膨れ部を除去し、剥離径を計測した。
【0212】
なお、実施例の試験として、全く同一の方法で2回試験を行った。
【0213】
−比較例−
SUS製のバットをフィルムで覆うことなくそのまま用いた以外は、上記実施例と同様の方法で試験を行い、剥離径を計測した。なお、上記テスタを用いて計測したホットプレートのヒータ面と供試材Aの鋼板2との間の抵抗値は、0(ゼロ)Ω(0.1Ω未満)であった。比較例の試験についても、実施例の試験と同様に2回試験を行った。
【0214】
−考察−
図6に、剥離後の供試材Aの表面のデジタル顕微鏡写真及び計測された剥離径を示す。
【0215】
実施例の写真及び剥離径の結果に示すように、ホットプレート41のヒータ面と供試材Aの鋼板2との間の絶縁性が確保されている状態では、通電を行うことにより、傷5周りの電着塗膜4の膨れが十分に進展しており、十分な腐食の促進性が得られることが判る。また、1回目及び2回目の結果を比較しても、剥離径は9mmで同一であり、電着塗膜4の膨れの進展に十分な再現性があることが判る。
【0216】
一方、比較例の写真及び剥離径の結果に示すように、ホットプレート41のヒータ面と供試材Aの鋼板2との間の絶縁性が確保されていない状態では、傷5周りの電着塗膜4の膨れの進展が不十分であり、実施例に比べて、腐食の促進性が大きく低下していることが判る。また、1回目及び2回目の結果を比較しても、1回目は剥離径が4mm、2回目は剥離径が1mmで、電着塗膜4の膨れの進展に関する再現性が不十分であることが判る。
【0217】
このように、
図6に示す結果から、実施例と比較例との間には大きな差があり、ホットプレート41と被覆金属材1との間の絶縁性を確保することにより、耐食性試験の信頼性を向上できることが判る。
【0218】
(実施形態2)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0219】
実施形態1では、被覆金属材1の相離れた複数箇所に傷5が存在し、そのうちの2箇所の傷5を用いる場合について説明した。
【0220】
実施形態2では、被覆金属材1の1箇所に傷5が存在する場合、又は、相離れた複数箇所の傷5のうち1箇所を用いる場合について説明する。
【0221】
図7、
図8は、実施形態2に係る耐食性試験装置の一例を示す。
図9は、実施形態2に係る耐食性試験方法の原理を説明するための図である。
【0222】
<耐食性試験装置>
≪電極部装置≫
実施形態2の電極部装置300は、含水材料保持部11を1つ有している。また、電極部装置300は、任意の温度センサ37(温度検出手段)を備えている。
【0223】
−容器−
容器30の容器本体31は、1つの貫通孔11を備えている。そして、容器30は、任意の蓋部34と、任意の側壁孔38と、任意の穴36と、を備えている。
【0224】
[容器本体及び底部]
容器本体31及び底部32は、1つの貫通孔11を備えた、例えば円筒状、多角筒状等の筒状の部材であり、熱膨張時のひずみを低減させる観点から、好ましくは円筒状の部材である。
【0225】
容器本体31の内径と底部32の内径とは同一である。容器本体31及び底部32の貫通孔11の内周面により形成される空間からなる内部は、含水材料を保持する1つの含水材料保持部11を構成する。含水材料保持部11は、底面32Aに設けられた開口部11Aを備えている。容器30を被覆金属材1の電着塗膜4上に載置した状態で、開口部11Aにより定義される被覆金属材1の1つの領域が1つの測定部分4Aとなる。
【0226】
なお、含水材料6の漏れを効果的に抑制する観点から、後述する実験例に示すように、底部32の厚さは1mm超であることが好ましく、底部32の硬度は、JIS K6250で規定されたデュロメータA硬度で、50以下であることが好ましい。また、底部32の厚さの上限値は、特に限定されるものではないが、後述する磁石33による吸着力の効果を得る観点及び底部32の材料コスト低減の観点から、例えば10mm以下とすればよい。底部32の硬度の下限値は、特に限定されるものではないが、上記デュロメータA硬度で、底部32として使用可能な製品の入手容易性の観点から、例えば10以上とすればよい。底部32の厚さ及び硬度の好ましい数値範囲については、他の実施形態においても適用され得る。
【0227】
容器本体31の中心軸31B周りにおいて、台座部302及び延設部301の内径は同一である。台座部302の外径は、延設部301の外径よりも大きい。
【0228】
実施形態1と同様に、台座部302の底部32側には、溝部304が形成されており、リング型の磁石33が収容される。これにより、容器30の位置ずれを効果的に抑制できる。なお、磁石33は、実施形態1と同様に、樹脂等で封止されることが望ましい。
【0229】
磁石33の強度は、後述する実験例に示すように、370mT以上であることが好ましい。本構成によれば、電極部装置300と被覆金属材1とのより高い密着性を確保できる。なお、磁石33の強度の上限値は、特に限定されるものではないが、例えば1300mT以下とすることができる。磁石33の強度の好ましい数値範囲は、他の実施形態においても適用され得る。
【0230】
[実験例]
エポキシ樹脂製の容器本体31(含水材料保持部11の内径10mm)の底面32A側に、シリコーン樹脂製の底部32としてのシリコーンマットを配置して、平坦な机上に載置し、容器本体31の内部に水を注入して10分間保持し、水漏れの有無を調べた。なお容器本体31の底面32A側にはリング型のネオジム磁石(株式会社マグファイン製)がエポキシ樹脂により埋め込まれている。結果を、表1に示す。シリコーンマットの硬さは、JIS K6250で規定されたデュロメータA硬度で示している。
【0232】
実験例1〜4の結果から、磁石の強度が高く、シリコーンマットの硬さが柔らかく、厚さが大きい方が、水漏れの抑制効果が高いことが判った。
【0233】
[蓋部]
蓋部34は、容器本体31の上側開口部31Aを閉塞する。耐食性試験中に含水材料6の溶媒成分等が揮発すると、含水材料6の成分濃度が変化し、試験の信頼性が低下するおそれがある。蓋部34により上側開口部31Aを閉塞することにより、含水材料6の揮発分が容器本体31内で上方に移動しても、容器本体31の外部への放出が抑制される。そうして、試験中における含水材料6の減少を抑制できる。また、含水材料6及び被覆金属材1の温度を上昇させて試験を行う場合には、保温の効率を上昇できる。
【0234】
蓋部34は、容器本体31と同様に、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料製やセラミック製等とすることができ、特に好ましくはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料製とすることができる。これにより、含水材料保持部11と外部との絶縁性を確保しつつ、電極部装置300、延いては耐食性試験装置100を軽量化及び低コスト化することができる。
【0235】
また、特に、容器本体31及び/又は蓋部34の材料としてPEEK材を使用すると、ホットプレート41及び/又はフレキシブルヒータ43の誤動作等による容器本体31及び/又は蓋部34の溶損を抑制できる。
【0236】
容器本体31と蓋部34とは、異なる材料製であってもよいし、同一の材料製であってもよい。また、容器本体31と蓋部34とは一体であってもよいし、別体であってもよい。
【0237】
なお、蓋部34は、実施形態1の容器30にも設けることができる。この場合、蓋部34は、2つの含水材料保持部11を覆う1つの部材であってもよいし、2つの含水材料保持部11の各々を覆う2つの部材であってもよい。
【0238】
[側壁孔]
側壁孔38は、容器本体31の上側側壁に当該側壁を貫通するように設けられた、容器30の内圧解放用の孔である。容器30が蓋部34を有する場合は、側壁孔38を設けることが望ましい。耐食性試験中には、化学反応により、例えば水素等のガスが発生する場合がある。このような場合には、容器本体31を完全に密閉してしまうと、容器30の内圧が上昇し、容器30の破損等に繋がるおそれがある。本構成では、試験中にガスが発生しても、側壁孔38から脱気でき、容器30の内圧の上昇を抑制できる。さらに、側壁孔38は、容器本体31の上側側壁に設けられているから、例えば下側側壁及び蓋部34等に側壁孔38が設けられている場合に比べて、含水材料6の漏れ、含水材料6の揮発分の放出等を抑制できる。
【0239】
また、側壁孔38は、電極12又は外部回路7の配線71の引き出し用、及び/又は、含水材料6の注入用にも使用され得る。
【0240】
側壁孔38の数は、1つであってもよいし、複数あってもよい。側壁孔38の数は、好ましくは1つ、2つ又は3つである。側壁孔38が1つの場合は、1つの側壁孔38が上記3つの用途を兼ねる。これにより、電極部装置300の構成が簡単になるとともに、側壁孔38の数が少ないから、含水材料6の揮発分の放出を効果的に抑制できる。また、側壁孔38が2つ又は3つの場合は、各々の側壁孔38が上記3つの用途を分担すればよい。これにより、上記3つの用途の各々に関する作業が容易となる。
【0241】
内圧解放用の用途に使用される側壁孔38の形状は特に限定されないが、その他の用途に使用される側壁孔38の形状は、作業の容易性の観点から、断面形状が円形且つ一定径のストレート孔であることが望ましい。
【0242】
含水材料6は、例えばスポイト、シリンジ等で含水材料保持部11に注入され得る。そうすると、含水材料6の注入用に使用される側壁孔38は、
図8に示すように、容器本体31の外部から内部に向かって下向きに傾斜するように形成されていることが望ましい。これにより、含水材料6の注入作業が容易となる。
【0243】
側壁孔38の径、すなわち、側壁孔38の中心軸に垂直な断面における最大幅は、好ましくは1mm以上7mm以下、より好ましくは2mm以上5mm以下である。側壁孔38の径が下限値未満では、ガスの発生量が多い場合、容器30の内圧が十分に解放されないおそれや、その他の用途に使用する際の作業が困難になるおそれがある。側壁孔38の径が上限値を超えると、側壁孔38からの含水材料6の揮発成分の放出量が多くなりすぎるおそれがある。
【0244】
側壁孔38を実施形態1の容器30に設けてもよい。その場合、2つの含水材料保持部11の各々に側壁孔38を設けることが望ましい。
【0245】
[穴]
容器本体31の下側側壁には、温度センサ37を挿入するための穴36が設けられていることが好ましい。
【0246】
穴36の底36Aは、容器本体31の内部に貫通している。これにより、温度センサ37を穴36に挿入したときに、温度センサ37の先端37Aを、底36Aを通じて、含水材料保持部11内に突出させ、含水材料6と接触させることができる。そうして、含水材料6の温度を検出できる。
【0247】
なお、穴36は、容器30が電着塗膜4の表面上に配置されたときに、その底36Aが、できる限り電着塗膜4に近くなるように形成されていることが望ましい。
【0248】
このような穴36は、具体的には例えば、容器本体31の成形時に、熱伝導性の高い樹脂、セラミック等の絶縁性材料により形成された筒状の部材を、インサート成形することにより、容器本体31の側壁に埋め込む形で形成することができる。また、穴36は、容器本体31の成形時に、型により容器本体31の側壁に形成してもよい。
【0249】
なお、穴36は、底36Aが容器本体31の内部に貫通しないように設けられていてもよい。
【0250】
−温度センサ−
電極部装置300は、含水材料6の温度を検出する温度センサ37を備えることが好ましい。温度センサ37は、穴36に挿入され、含水材料6の温度を検出する。
【0251】
本実施形態に係る耐食性試験では、含水材料6、特に電着塗膜4と含水材料6との界面近傍の含水材料6の温度が重要になる。穴36内に温度センサ37を設置することにより、上記界面近傍の含水材料6の温度を精度よく検出できるから、耐食性試験の信頼性が向上する。
【0252】
温度センサ37は、具体的には例えば熱電対、光ファイバー式温度計、赤外線温度計等である。なお、より精度よく含水材料6の温度を検出する観点から、温度センサ37を穴36に収容した状態で、熱伝導性の高い樹脂等でモールドすることが好ましい。
【0253】
温度センサ37の先端37Aの容器本体31の内部への突出量は、できる限り少ないことが望ましい。これにより、後述する通電ステップS5において、膨れた電着塗膜4が温度センサ37の先端に付着することによる温度検出精度の低下を抑制できる。
【0254】
実施形態1の電極部装置300も、穴36及び温度センサ37を備えてもよい。この場合、2つの含水材料保持部11の各々に、穴36及び温度センサ37を備えることが望ましい。
【0255】
−電極−
実施形態2では、電極12は1つであり、1つの含水材料保持部11に収容された含水材料6に接触している。
【0256】
≪外部回路≫
実施形態2では、外部回路7の配線71は、電極12と、鋼板2と、を電気的に接続している。
【0257】
−通電手段−
実施形態2では、通電手段8は、通電ステップS5において、電極12と鋼板2との間に電圧/電流を印加する電源部としての役割を担う。また、同時に、通電手段8は、両者間に流れる電流/電圧を検出する電流検出手段/電圧検出手段としての役割も担う。
【0258】
≪制御装置≫
制御装置9は、温度センサ37とも電気的に接続又はワイヤレス接続されている。
【0259】
温度センサ37により検出された温度情報は、制御装置9に送られ、記憶部92に格納される。なお、制御部93は、温度センサ37により検出された温度情報に基づいて、ホットプレート41の温度設定を制御するようにしてもよい。これにより、より精度の高い温度制御が可能となる。
【0260】
<耐食性試験方法>
≪準備ステップ≫
準備ステップS1では、電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5を少なくとも1箇所備えた被覆金属材1を準備する。
【0261】
≪接続ステップ≫
接続ステップS3では、側壁孔38を通じて、配線71の一端側に接続された電極12を、含水材料保持部11に配置する。なお、配線71の他端側は、鋼板に接続されている。そうして、電極12と、鋼板2と、が外部回路7で電気的に接続された状態となる。さらに、温度センサ37を配置する。
【0262】
そして、含水材料保持部11の中に、スポイト等を用い、側壁孔38を通じて、含水材料6を所定量入れる。このとき、電極12の少なくとも先端12aが含水材料6に埋没した状態になるようにする。そうして、含水材料保持部11内に収容された含水材料6が電着塗膜4の表面に接触し、且つ傷5内に浸入した状態になる。
【0263】
≪温調ステップ≫
実施形態2では、温度計の代わりに温度センサ37を用いて、電着塗膜4と含水材料6との界面近傍の含水材料6の温度を計測し、所定の温度に調整されていることを確かめる。これにより、界面近傍の含水材料6の温度を経時的に計測し、記憶部92に格納できるから、耐食性試験の信頼性が向上する。
【0264】
≪通電ステップ≫
実施形態2では、通電ステップS5は、通電手段8により、
図9の状態Iに示すように、電極12及び鋼板2をそれぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、傷5の周りで、鋼板2の腐食を進行させるステップである。
【0265】
電極12をアノード、鋼板2をカソードとして通電した場合、傷5における鋼板2の露出部5Aにおいて、カソード反応が進行する。そして、通電条件によっては、水の電気分解も進行し、水素が発生する。このような傷5の周りにおけるカソード反応の進行及び電着塗膜4の膨れの進展は、実施形態1と同様に、被覆金属材1の実際の腐食を加速再現するものである。従って、上記通電開始から所定時間を経過した時点での電着塗膜4の膨れの大きさを評価することによって、被覆金属材1の腐食の進行度合いを評価できる。そして、被覆金属材1の腐食の進行度合いとして、電着塗膜4の膨れの大きさの増加速度を得ることにより、被覆金属材1の腐食進展速度に関する耐食性を精度よく評価できる。
【0266】
(実施形態3)
上記実施形態において、以下の補正ステップS8を設けてもよい。
【0267】
≪補正ステップ≫
通電ステップS5前の傷5の大きさにばらつきがあると、傷5において進行するカソード反応及び水の電気分解反応の進行度合い、電着塗膜4の膨潤による傷5の閉じ具合、電着塗膜4の膨れ内で発生した水素の脱泡度合い等にばらつきが生じる。そうして、電着塗膜4の膨れの大きさにもばらつきが生じ、耐食性試験の信頼性が低下する。しかしながら、そのようなばらつきの発生を抑制するために、いつも全く同一の大きさの傷5を備えた被覆金属材1を準備することは難しい。
【0268】
補正ステップS8では、算出ステップS7で算出した腐食の進行度合いを、通電ステップS5前の傷5の大きさに基づいて、補正する。具体的には例えば、補正ステップS8において、第1計測ステップS2で計測した傷5の大きさと、予め試験的に求めておいた傷5の大きさと被覆金属材1の腐食の進行度合いとの相関関係と、に基づいて、算出ステップS7で算出した被覆金属材1の腐食の進行度合いを補正する。なお、補正ステップS8において、制御装置9の演算部91は、被覆金属材1の腐食の進行度合いを補正する補正手段として機能する。補正された被覆金属材1の腐食の進行度合いの情報も記憶部92に格納される。
【0269】
具体例として、実施形態1において、腐食の進行度合いとして電着塗膜4の膨れの進展速度、すなわち腐食進展速度を採用する場合を例に挙げて説明する。
図10は、後述する実験例の耐食性試験における供試材B1、B2の傷5の径と、腐食進展速度の指数との関係を示すグラフである。なお、「腐食進展速度の指数」は、腐食進展速度を、傷5の径が1mmのときの腐食進展速度に対する比で示したものである。
【0270】
図10に示すように、供試材B1、B2のいずれにおいても、傷5の径が1.5mmから0.2mmまで小さくなるに伴い、腐食進展速度は増加する。すなわち、傷5の径が小さいほど腐食の加速性が上昇する一方、傷5の径が大きくなると腐食進展速度は低下、すなわち腐食の加速再現性が低下する。これは、傷5の径が大きくなることにより鋼板2の露出部の面積が増加し、電着塗膜4の膨れに直接関与しない電気化学反応(水素イオンの還元による水素発生)が増加し、通電手段8により供給される電気エネルギーの浪費分が増加するためと考えられる。
【0271】
供試材B1、B2の結果から回帰式を算出すると、
図10中実線で示す曲線(R
2=0.97)のようになる。この回帰式は上述の相関関係の一例である。このように、傷5の大きさと、腐食進展速度との相関関係を、予め実験的又はシミュレーション等の解析的な手法により試験的に求めておくことができる。相関関係として、
図10の実線で示すような回帰式の情報を記憶部92に格納しておき、補正に使用すればよい。
【0272】
また、上述の相関関係は、傷5の大きさに対応する補正係数としてもよい。具体的には例えば、
図10に示すような回帰式から算出した、所定の傷5の大きさに対応する補正係数の情報を記憶部92に格納しておき、補正に使用してもよい。補正係数とは、例えば、
図10の例では、所定の傷5の径に対応する回帰式上の腐食進展速度の指数である。具体的には例えば、
図10において、傷5の径が1mmのときの補正係数は1、傷5の径が0.4mmのときの補正係数は1.5となる。このような補正係数を、例えば傷5の径0.1mm毎に算出しておき、補正に使用すればよい。相関関係として、傷5の大きさに対応する補正係数を予め算出しておくことにより、補正が容易となる。そうして、簡易な構成で信頼性及び汎用性の高い耐食性試験が可能となる。
【0273】
例えば、第1計測ステップS2で計測された傷5の径が0.4mm、算出ステップS7で算出された腐食進展速度が1.5mm/hであったとする。また、相関関係として補正係数を採用し、例えば傷5の径が1mm及び0.4mmのときの補正係数がそれぞれ1及び1.5であったとする。この場合、演算部91は、傷5の径が0.4mmであるという情報と、記憶部92から読み出した傷5の径0.4mmのときの補正係数が1.5であるという情報と、に基づいて、腐食進展速度1.5mm/hの値を補正係数1.5で除して1mm/hに補正する。
【0274】
このような補正ステップS8を設けることにより、カソード反応が進行する傷5の通電前の大きさによらず、被覆金属材1の腐食の進行度合いを精度よく評価できる。そうして、耐食性試験の信頼性及び汎用性を高めることができる。
【0275】
−実験例−
[耐食性試験]
表2に示すように、供試材B1、B2として、電着塗膜4の塗料、及び電着焼付条件が異なる2種類を準備した。
【0277】
供試材B1、B2はいずれも金属製基材が鋼板2であり、化成皮膜はリン酸亜鉛皮膜(化成処理時間120秒)、電着塗膜4の厚さは10μmである。各供試材について、
図9に示す態様で耐食性試験を行なった。
【0278】
供試材B1、B2には、ビッカース硬さ試験機を用いて、鋼板2に達する傷5を互いに4cmの間隔をあけて同一径で2箇所に付与した。具体的には、表2に示すように、供試材B1では、0.2mm、0.6mm、及び、1.5mmの径を有する傷5を2箇所に付与してなる3種類のサンプルを準備した。供試材B2では、0.2mm、0.42mm、0.6mm、1mm、及び、1.5mmの径を有する傷5を2箇所に付与してなる5種類のサンプルを準備した。
【0279】
含水材料6として、水1.2Lに対し、支持電解質としての塩化ナトリウム50g、塩化カルシウム50g、及び硫酸ナトリウム50g、並びに、粘土鉱物としてのカオリナイト1000gを混合させてなる模擬泥を用いた。電極12としては、外径約12mm、内径約10mmのリング状の有孔電極(白金製)を用いた。また、鋼板2の下側にホットプレート41を配置し、鋼板2及び含水材料6の温度を65℃に加温した。なお、実施形態1の供試材Aの耐食性試験と同様の方法により、鋼板2とホットプレート41との間の絶縁性を確保した。通電手段8の電流値は1mAとした。含水材料6を電着塗膜4の表面上に配置してから、30分保持した後、通電を行った。通電時間は、0.5時間であった。通電終了後、上述の方法で、各供試材について、
図10に示す腐食進展速度を算出した。
【0280】
(実施形態4)
上記実施形態では、第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6は、被覆金属材1の表面をカメラ51で撮影することにより得られた画像データ上で、それぞれ傷5及び電着塗膜4の膨れの大きさを計測する構成であったが、当該構成に限られない。具体的には例えば、電気化学的手法等により、それぞれ傷5の大きさ及び電着塗膜4の膨れの大きさを計測する構成としてもよい。
【0281】
≪第1計測ステップ≫
具体的に、例えば実施形態2の態様を例に挙げて説明する。まず、第1計測ステップS2前に、接続ステップS3と同様に、外部回路7の接続、電極12及び含水材料6の配置等を行う。このとき、含水材料6は、通電ステップS5において使用する含水材料6としてもよいし、異なる含水材料6を使用してもよい。通電ステップS5で異なる含水材料6を使用する場合、温調ステップS4前に含水材料6を交換する。
【0282】
そして、
図9の状態IIに示すように、通電手段8により、電極12及び鋼板2をそれぞれカソード及びアノードとして、両者間に定電圧を印加し、通電手段8により両者間に流れる電流値を検出する。当該電流値は、制御装置9において、計測された値として記憶部92に格納される。記憶部92には、予め試験的に求めておいた電流値と傷5の大きさとの相関関係も格納されている。演算部91は、計測した電流値と、上記相関関係と、に基づいて、傷5の大きさを算出する。本構成によれば、電気化学的な手法により、傷5の大きさを計測できるから、接続ステップS3の後に第1計測ステップS2を設けることができ、試験の工程を簡素化できる。また、画像データ等を用いた目視による計測では、計測誤差が大きくなるおそれがあるが、電気化学的手法により、計測誤差を低減できる。
【0283】
具体的に、金属製基材としての鋼板2(SPC)に、化成皮膜3(リン酸亜鉛皮膜、化成処理時間120秒)を介して、エポキシ樹脂系の電着塗膜4(焼付条件150℃×20分、厚さ10μm)を設けてなる被覆金属材1を供試材Dとし、ビッカース硬さ試験機を用いて、種々の荷重により傷5を形成した。傷5を形成した部分のデジタル顕微鏡写真から、傷5の大きさとしての傷5の面積を算出した。傷5が形成された部分に5質量%塩水を付着させ、
図9の状態IIで0.5Vの定電圧を5分間印加し、電流値を計測した。
【0284】
なお、電圧印加から2分程度は、電極12と含水材料6との界面、鋼板2と含水材料6との界面等における化学反応の速度等が安定していないため、電流値が不安定となる。本実験では、できる限り安定した電流値を採用するため、電圧印加から2分経過後5分までの間における電流値の最低値を、当該供試材Dにおける検出された電流値とした。なお、検出された電流値は、所定期間における最低値に限らず、平均値等を採用してもよい。
【0285】
図11は、上述のごとく得られた、検出された電流値を、傷5の面積に対してプロットしたグラフである。
図11に示すように、傷の面積と検出された電流値との間には、線形性の相関関係があることが判る。
図11に示す相関関係は、記憶部92に格納された、予め試験的に求めておいた電流値と傷5の大きさとの相関関係の一例である。
【0286】
なお、電流値の代わりに抵抗値等を採用することも考えられるが、傷の面積と抵抗値とは非線形性の相関関係となる。そうすると、回帰式のフィッティングにおける誤差や、算出時の誤差が大きくなるおそれがある。従って、電流値を採用することが望ましい。
【0287】
なお、傷5の大きさとして傷5の径を計測する場合には、
図11のような、予め試験的に求めておいた電流値と傷5の径との相関関係を記憶部92に格納しておき、傷5の径の算出に使用すればよい。予め試験的に求めておいた電流値と傷5の大きさとの相関関係としては、
図11のように、実験的手法により得られた相関関係を使用してもよいし、シミュレーション等の解析的手法により算出した相関関係を使用してもよい。
【0288】
≪第2計測ステップ≫
第2計測ステップS6においても、第1計測ステップS2と同様に、電気化学的手法を用いて電着塗膜4の膨れの大きさを計測できる。なお、第2計測ステップS6における電着塗膜4の膨れの大きさの計測は、第1計測ステップS2と同一の方法で行われることが望ましい。両ステップで得られた計測値の精度を統一でき、腐食の進行度合いの算出精度が向上するからである。
【0289】
具体的に、
図9の状態IIに示すように、通電手段8により、電極12及び鋼板2をそれぞれカソード及びアノードとして、両者間に定電圧を印加する。そうして、通電手段8により両者間に流れる電流値を検出する。当該電流値は、制御装置9において、検出された値として記憶部92に格納される。記憶部92には、予め試験的に求めておいた電流値と電着塗膜4の膨れの大きさとの相関関係も格納されている。演算部91は、検出した電流値と、上記相関関係と、に基づいて、電着塗膜4の膨れの大きさを算出する。本構成によれば、電気化学的な手法により、電着塗膜4の膨れの大きさを計測できるから、第1計測ステップS2と同様に、試験の工程を簡素化できるとともに、計測誤差を低減できる。
【0290】
具体的に、供試材Eとして供試材Dと同一仕様の被覆金属材1を準備し、ビッカース硬さ試験機を用いて、種々の荷重により傷5を形成した。傷5の部分に含水材料6としての模擬泥(組成:水1.2L、カオリナイト1kg、硫酸ナトリウム50g、塩化ナトリウム50g、塩化カルシウム50g)を配置し、含水材料6の温度が65℃の環境で、
図9の状態I(鋼板−、電極+)で、1mAの定電流を30分印加した。その後、模擬泥を配置したまま、
図9の状態II(鋼板+、電極−)で、0.5Vの定電圧を5分間印加し、電流値を計測した。模擬泥を除去し、電着塗膜4の膨れ部を除去し、デジタル顕微鏡写真上で電着塗膜4の膨れの大きさとして剥離面積を算出した。なお、本実験においても、第1計測ステップS2と同様に、電圧印加から2分経過後5分までの間における電流値の最低値を、当該供試材Eにおける膨れ部の検出された電流値とした。
図12は、上述のごとく得られた、計測された電流値を、剥離面積に対してプロットしたグラフである。
図12に示すように、剥離面積と計測された電流値との間には、
図11と同様に、線形性の相関関係があることが判る。
図12に示す相関関係は、記憶部92に格納された、予め試験的に求めておいた電流値と電着塗膜4の膨れの大きさとの相関関係の一例である。なお、第2計測ステップS6においても、第1計測ステップS2と同様の理由で、抵抗値等よりも電流値を採用することが望ましい。
【0291】
電着塗膜4の膨れの大きさとして膨れ径又は剥離径を計測する場合には、
図12のような、予め試験的に求めておいた電流値と電着塗膜4の膨れ径又は剥離径との相関関係を記憶部92に格納しておき、膨れ径又は剥離径の算出に使用すればよい。また、予め試験的に求めておいた電流値と電着塗膜4の膨れの大きさとの相関関係としては、
図12のように、実験的手法により得られた相関関係を使用してもよいし、シミュレーション等の解析的手法により算出した相関関係を使用してもよい。
【0292】
第2計測ステップS6において使用する含水材料6としては、上記の材料であれば限定されないが、耐食性試験の工程を簡素化する観点から、通電ステップS5において使用した含水材料6をそのまま使用することが望ましい。言い換えると、通電ステップS5終了後、
図9の状態Iから状態IIに変更して、そのまま第2計測ステップS6を行うことが望ましい。
【0293】
なお、電着塗膜4の膨れ部における電着塗膜4と鋼板2との間の空隙には、通電時の化学反応により水素がたまっている場合がある。そのような場合、第2計測ステップS6における電流値が小さくなり、計測誤差の増加の原因となり得るから、第2計測ステップS6前に、膨れ部の電着塗膜4に孔を開け、水素を抜くようにしてもよい。また、水素の含有状況に拘わらず、通電ステップS5後に含水材料6を交換して第2計測ステップS6を行ってもよい。
【0294】
第2計測ステップS6で、カソードサイトにおける電着塗膜4の膨れが、アノードサイトにおける電着塗膜4の膨れよりも明らかに大きい場合は、カソードサイトの電着塗膜4の膨れの大きさのみ計測すればよい。両方で電着塗膜4の膨れが発生した場合は、両方とも大きさを計測し、結果を比較した上でいずれか大きい方を選択すればよい。
【0295】
第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6では、定電圧として、水の電気分解により水素が発生する理論電圧未満の電圧を印加することが望ましい。また、含水材料6の温度が25℃であれば、水の電気分解により水素が発生する理論電圧(25℃)である1.23V未満の電圧を印加することが望ましい。
【0296】
上述のごとく、水の電気分解により水素が発生する理論電圧以上の定電圧を印加すると、電極12ではカソード反応とともに水の電気分解が進行する。水の電気分解が進行すると、水素発生によりエネルギーのロスが生じる。また、電極12の大きさや形状等に起因して電極12に水素の気泡が付着すること等により、電流値の安定性が低下するおそれがある。水の電気分解により水素が発生する理論電圧未満の定電圧を印加することにより、水素の発生を抑えることができ、傷5の大きさ及び電着塗膜4の膨れの大きさの計測精度を向上できる。
【0297】
なお、定電圧の下限値については、好ましくは0.05V以上、より好ましくは0.1V以上とすることができる。定電圧が下限値未満となると、電流値が小さすぎ、計測誤差が大きくなるおそれがある。
【0298】
また、第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6では、
図9の状態II(鋼板+、電極−)で電圧を印加することが望ましい。
図9の状態I(鋼板−、電極+)で電圧を印加すると、電流は流れるものの、傷5においてカソード反応が進行するから、通電ステップS5以外の工程で被覆金属材1の腐食が進行し、耐食性試験の信頼性が低下するおそれがある。特に、
図9の状態I(鋼板−、電極+)で、水の電気分解が起こる理論電圧を超えた電圧を印加すると、傷5において、水の電気分解も進行して水素が発生するから、腐食の進行が進みやすく、望ましくない。
【0299】
実施形態1の態様において、第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6を、電気化学的手法を用いて行う場合、外部回路7を2つの電極12間に接続したままでは、
図3に示すように、一方の傷5はアノードサイトとなるが、他方の傷5はカソードサイトとなる。この状態で、第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6を行うと、上述のごとく、カソードサイトとなる傷5では腐食を進行させてしまうおそれがある。また、両ステップにおいて、金属の露出部の大きさが小さい方の傷5の大きさ及び電着塗膜4の膨れの大きさを反映した電流しか流れないおそれがあるから、2箇所の傷5の大きさ及び電着塗膜4の膨れの大きさの差が大きい場合、大きい方の傷5の大きさ及び電着塗膜4の膨れの大きさの計測精度が低下するおそれがある。従って、実施形態1においても、実施形態2の
図9のように、外部回路7の接続を電極12及び鋼板2間の接続に変更して、第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6を行うことが好ましい。
【0300】
≪第1計測装置及び第2計測装置≫
実施形態4において、上述の電極12、外部回路7、通電手段8及び制御装置9は、第1計測ステップS2において傷の大きさを計測する第1計測装置、及び、第2計測ステップS6で電着塗膜4の膨れの大きさを計測する第2計測装置を構成する。
【0301】
特に、制御装置9の演算部91は、第1計測ステップS2及び第2計測ステップS6において、それぞれ、傷5の大きさ及び電着塗膜4の膨れの大きさを算出する算出手段として機能する。算出に使用する各種相関関係情報、算出された傷5の大きさ及び電着塗膜4の膨れの大きさの情報は記憶部92に格納される。
【0302】
実施形態4では、第1計測装置及び第2計測装置は、いずれも上述の電極12、外部回路7、通電手段8及び制御装置9により構成されるから、互いに同一の構成を有しているが、互いに異なる構成を有していてもよい。なお、両計測装置の計測値の精度を統一し、腐食の進行度合いの算出精度を向上させるとともに、耐食性試験装置100のコンパクト化に資する観点から、第1計測装置と第2計測装置とは、同一の構成を有していることが望ましい。
【0303】
(実施形態5)
上記実施形態では、被覆金属材1の測定部分4Aは、電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5を含む構成であったが、傷5は鋼板2にまで達していなくてもよい。また、測定部分4Aは、傷5を備えていなくてもよい。
【0304】
この場合、例えば実施形態1であれば、
図3に示す測定部分4Aにおいて、電着塗膜4に浸透した含水材料6が鋼板2に到達すると、含水材料6と鋼板2の接触部においてカソード反応(
図3のカソードサイト)又はアノード反応(
図3のアノードサイト)が進行する。すなわち、傷5が鋼板2に到達していない、又は、傷5がない場合であっても、含水材料6が電着塗膜4へ浸透し最初に鋼板2に到達したときが腐食抑制期間の終了時と考えられる。含水材料6が鋼板2に接触すると腐食が発生し始める。そして、最初に腐食が発生した部分を起点として腐食を進展させ、電着塗膜4の膨れの大きさから、腐食進展速度を算出することになる。なお、所望の位置を起点として腐食を促進させる観点からは、被覆金属材1は、傷5、特に鋼板2に達する傷5を備えていることが望ましい。
【0305】
被覆金属材1が傷5を備えていない場合、第1計測ステップS2は不要となる。この場合、例えば通電ステップS5で発生した電着塗膜4の膨れの大きさを第2計測ステップS6で計測し、その大きさから腐食の進行度合いを算出すればよい。
【0306】
(その他の実施形態)
実施形態1の装置構成の一部を実施形態2の装置構成に採用してもよいし、実施形態2の装置構成の一部を実施形態1の装置構成に採用してもよい。また、実施形態1の耐食性試験は、
図7、
図8に示す実施形態2の耐食性試験装置100における電極部装置300を2個使用して行ってもよい。
【0307】
上記実施形態では、各種検出手段、各種制御対象等に電気的に接続又はワイヤレス接続された制御装置9を備える構成であったが、本開示に係る耐食性試験方法は、その他の手段によっても行うことができる。例えば、通電手段8の通電情報、温度センサ37の温度情報、画像検出手段の画像データ等を、ユーザにより他のコンピュータに読み込んで、処理を行ってもよい。
【0308】
上記実施形態では、例えば第1計測ステップS2、第2計測ステップS6及び算出ステップS7における算出手段等の役割を、単一の制御装置9が担う構成であったが、例えばステップ毎に異なる制御装置を使用するなど、別々の手段であってもよい。なお、制御装置9による算出結果の精度の向上及び耐食性試験装置100のコンパクト化に資する観点からは、複数の役割を単一の制御装置9が担うことが望ましい。
【解決手段】鋼板2に電着塗膜4が設けられてなる被覆金属材1の耐食性試験装置100であって、電着塗膜4上に配置され、電着塗膜4に接触する含水材料6を保持する2つの含水材料保持部11と、2つの含水材料保持部11の各々に収容された含水材料6に接触する2つの電極12と、2つの電極12間を電気的に接続する外部回路7と、絶縁部42,44を介して被覆金属材1に当接され、少なくとも被覆金属材1の温度を調整する温調要素41,43と、温調要素41,43に接続され、温調要素41,43の温度を制御する制御装置9と、外部回路7上に設けられ、2つの電極12の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、被覆金属材1の腐食を進行させる通電手段8と、を備える。