(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る屋根構造は、ダイナミックインシュレーション(Dynamic Insulation:以下、DIと称する)による換気システムを採用した家屋において好適に適用される屋根構造である。
ダイナミックインシュレーションとは、熱容量が大きく通気性がある大面積の建物外皮から換気の給気を取る手法である。建物外皮から逃げる室内の熱(貫流熱)を回収することによる省エネルギー効果、給排気分散化による気流感の緩和、壁面自然換気口の削減による美観向上などの利点がある。特に、DIを給気と排気とを交互に行う呼吸型にすることにより、換気の排気熱も回収し、高い省エネルギー性と乾燥感の改善に貢献すると考えられる。
【0010】
本発明の屋根構造は、相対向する一対の切妻壁部と、山形をなすように突き合わされるとともに一対の切妻壁部上に掛け渡された一対の屋根材とを有する屋根構造であって、妻壁部は、無機発泡体を有し、一対の屋根材の間口が4〜6間であり、一対の屋根材のうち、第1の側に配された一方の屋根材が45度勾配を有し、第1の側と反対側の第2の側に配された他方の屋根材が2.5寸勾配を有する、偏芯した切妻屋根であることを特徴とする。
【0011】
図1は、DIシステムを搭載した家屋において、妻壁部分を描いたものである。
屋根部1は、その骨組として、斜め梁2a,2bと、棟梁(図示略)と、水平梁3とを有する。そして屋根部1は、斜め梁2a,2bと水平梁3とによって形成される面に切妻型の妻壁部4が形成され、一対の屋根材5a,5bが、一対の妻壁部4上に掛け渡されるとともに、棟梁上において山形をなすように突き合わされている。妻壁部4は、室外空間と室内空間とを通気可能に区画する無機発泡体を有して構成されている。これにより妻壁部4を通じたDIが可能となる。また、屋根を切妻構造とすることで、屋根の斜面に沿って空気の流れを形成することができ、妻壁部4からの換気(特に給気)を効率よく行うことができる。
【0012】
斜め梁2a,2bと水平梁3との間には、略鉛直に設けられた複数の間柱6が、略等間隔に配されている。間柱6の間隔は、例えば455mmである。妻壁部4を成す無機発泡体は、屋根材を支える壁材としては強度が不十分であるので、斜め梁2a,2bと水平梁3との間に複数の間柱6を設けることで、十分な強度を確保し屋根材をしっかりと支えることができる。
そして斜め梁2a,2bと水平梁3とによって形成される面において、間柱6の間に、妻壁部4を成す無機発泡体パネルP(P
1〜P
19)が取り付けられている。
【0013】
妻壁部4に無機発泡体パネルPを配することにより、DIにおいて広い面積を確保することができ、妻壁部4を通じての給排気を効率よく行うことができる。このような無機発泡体としては、通気型無機断熱コンクリート(BIC)が好ましい。
図1において、P
1、P
2、P
3、〜P
19は間柱6の間に設置された通気型無機断熱コンクリート(BIC)を表しており、すべて異なる大きさ、形状である。BICパネルの1枚の厚さは例えば50mmであり、1か所に同じ大きさのパネルが二重に設置されて厚さ100mmとなっている。
妻壁部4は家屋の表と裏に2か所あるとして、家屋の反対側にほぼ同様の妻壁部4がもう一揃い使われることになる。
【0014】
図2は、妻壁部4の横断面を示す図である。
妻壁部4は、無機発泡体パネルPに加えて、家屋の外側に配された外壁パネル7と、家屋の内側に配された内装材8とを有する。
外壁パネル7は、屋外に面して家屋の表層をなし、例えばALC板やサイディング材、PCコンクリート板等で構成される。
外壁パネル7と無機発泡体パネルPとの間には通気層9が設けられている。ずなわち、無機発泡体パネルPは通気層9に開放されており、通気層9は例えば軒裏や屋根の棟換気につながっている。この通気層9から、外気の給排気を行う。
内装材8は、無機発泡体を通じた給排気を阻害しないように、通気性を有する材料が用いられ、例えば帆布等で構成される。
【0015】
本発明の屋根構造では、家屋の規模を延べ床面積にして30〜50坪程度に範囲を決め、それに応じた屋根の間口Tを5間(9100mm)と設定した。そして、敷地の状況により、屋根材5aの傾斜が、第1の側S
1の隣地に対して45度勾配、屋根材5bの傾斜が、反対側の第2の側S
2に対して2.5寸勾配の、偏芯した切妻屋根とした。この屋根構造では、棟10は第1の側S
1より1間(1820mm)の位置に必然的に定まる。また、棟10の高さも1間(1820mm)に必然的に定まる。
【0016】
本発明の屋根構造において、例えば、第1の側S
1は北側であり、第2の側S
2は南側である。
第1の側S
1(北側)の屋根材5aの傾斜を45度とすることにより、建築基準法による斜線制限(北側斜線制限)をほぼクリアできる。
第2の側S
2(南側)の屋根材5bの傾斜は、2.5寸勾配(約14度)である。例えば南向きの屋根材の上に太陽光発電パネルを敷き並べる場合、発電効率を考えると、屋根の傾斜は低くすることが好ましく、例えば5度程度とすることが好ましい。しかし、屋根の傾斜を低くすると、雨水が流れ落ちず屋根上に雨水が滞留しやすくなるため、雨水処理、防水処理が必要になってくる。そこで、南側の屋根傾斜を2.5寸勾配(約14度)とすることで、雨水を効率よく流し落とすことと、太陽光発電の発電効率とを両立することができる。
【0017】
第2の側S
2(南側)の屋根材5bの傾斜は、第1の側S
1(北側)の屋根材5aの傾斜に比べて緩やかなので、南側の屋根材5bは、北側の屋根材5aに比べて大面積を有するものとなる。南側の屋根材5bの面積を大きくとることで、より多くの太陽光発電パネルを設置することができ、より効率よく発電することができる。
【0018】
呼吸型DIの仕組みの中で、BICは相対する妻壁に同量設置されるが、屋根の形を上記のように規定したために、物件の形状に関わらず、同じ形状及び大きさのBICが同数発生するものとなり、プランの異なる家屋に対しても同一の部材を用いることができるものとなり、生産効率を高めることができる。
また、妻壁部を通じた呼吸型DIにおいて、屋根の高いところ(棟)が、家屋の左右(棟方向)で同じになるので、重力換気の際の負荷を少なくすることができる。
加えて、南側の緩勾配の屋根材は棟違い等により細分化されないため、太陽光発電ユニット等を効率的に配置することが可能となった。
【0019】
以下、家屋の平面形状が変化した場合に、棟の位置がどのように変化するかについて、従来の切妻屋根構造と本発明の切妻屋根構造とで、比較しつつ説明する。なお、以下の説明では、図中上下に並べて配される家屋プランが、同形状同面積であることを前提として、比較している。
【0020】
<第1のプラン>
図3は、略長方形状の家屋を上から見た図であり、
図4は斜視図である。A、B、Cは本発明の偏芯型切妻屋根構造を有する家屋であり、a、b、cは従来の切妻屋根構造を有する家屋である。
以下の説明において、大文字(A、B、…)で示される家屋と、小文字(a、b、…)で示される家屋とはそれぞれ対応しており、屋根の形状が異なるだけで、家屋の平面形状及び面積はそれぞれ同じである。
図3では、上側が北方向を示している。各屋根の間口は、A及びaが4間、B及びbが6間、C及びcが5間である。建物規模を表す1階と2階の床面積の合計は、30〜50坪程度を想定している。
a〜cの従来の屋根構造では、棟30の位置は、間口に対して1/2の位置とされている。屋根の傾斜を一定とした場合、間口が異なると、棟の高さも変わる。このように、屋根の形状が異なってくると、切妻壁の形状も異なるため、各プランに合わせた形状や大きさの部材を個別に作らなければならなかった。
【0021】
これに対し、A〜Cの本発明の屋根構造では、棟10は北から(図中上から)1間のところに位置する。また、本発明の屋根構造では、屋根の間口が変わっても棟10の高さが変わらない。このように、本発明の屋根構造では、屋根の間口が異なっても、棟10の位置及び高さは変わらない。これにより切妻壁の形状も変わらないため、様々に異なるプランにおいても、同じ寸法や形状の部材を用いることができ、作業効率やコストの面で有利である。
本発明では、屋根の間口及び棟10の高さを一定とした。このため、例えばAに示す、東西に長いプランのように、建物間口が4間より狭くなる場合、南側の屋根材の傾斜を途中で断ち切るものとする。また、例えばBに示す、南北に長いプランのように、建物間口が5間より広くなる場合、屋根を水平にするのではなく、屋根傾斜を延長させて、基準階高より低いところまで軒先を下げる。これにより、間口が変わっても屋根勾配が一定となり、勾配部材・部品の共通化と合理化が図れる。
【0022】
<第2のプラン>
図5は、入隅40が1か所ある家屋を上から見た図であり、
図6は斜視図である。D、E、Fは本発明の偏芯型切妻屋根構造を有する家屋であり、d,e,fは従来の切妻屋根構造を有する家屋である。
d〜fの従来の切妻屋根では、屋根の中心に(対称となるように)棟30が設けられている。プランにより入隅40があることによって、左右の間口幅に違いが生じ、間口幅が変わったところで、棟30の位置がずれていることが判る。
ここで問題となるのは、dに示すように屋根の上に妻壁が載っている場合である。下側の屋根の雨仕舞のために、妻壁部に防水層を立ち上げなければならない。このため、妻壁部における通気面積が、防水層の分だけ損なわれてしまい、通気面積の確保が難しくなる。つまり妻壁部にBICがあったとしても、呼吸型DIにおいて十分に機能しない妻壁となる。
【0023】
これに対し、D〜Fの本発明の屋根構造では、入隅40などによる屋根間口の変化に左右されずに、棟10の位置はずれたりせずに一定である。妻壁が屋根の上に載ることもないので、表裏の妻壁部の面積を等しくすることができる。これにより呼吸型DIにおいて十分に機能する妻壁となる。
このように、本発明の屋根構造を適用することにより、プランにより平面形状が異なる家屋においても、棟10の位置及び高さ、ひいては妻壁部の形状をほぼ一定にすることができる。これにより平面形状の異なる家屋についても同じ部材を用いることができ、生産性を向上することができる。
【0024】
<第3のプラン>
プランと屋根形状に影響するファクターとして、入隅の数は極めて重要である。
図7は、入隅40が2か所ある家屋を上から見た図であり、
図8は斜視図である。G、H、Iは本発明の偏芯型切妻屋根構造を有する家屋であり、g,h,iは従来の切妻屋根構造を有する家屋である。
ここでは、家屋の北側と南側にそれぞれ入隅40がある場合の屋根形状を比較している。北側の入隅40の位置を、G→H→I(g→h→i)の順に西から東へ移動させた場合の、屋根形状の変化について示している。
【0025】
g〜iの従来の切妻屋根では、入隅40の位置及び大きさが変化することに伴い、屋根の間口が変化し、棟30の位置も変化している。また、棟30の数が3個→2個→3個と変化しており、屋根に載る妻壁も必ず発生している。
これに対し、G〜Iの本発明の屋根構造では、入隅40の位置及び大きさが変化しても、屋根形状に大きな変化はみられない。
【0026】
<第4のプラン>
図9は、北側の入隅40が浅い位置にある家屋を上から見た図であり、
図10は斜視図である。J、K、Lは本発明の偏芯型切妻屋根構造を有する家屋であり、j,k,lは従来の切妻屋根構造を有する家屋である。
北側の入隅40の位置を、J→K→L(j→k→l)の順に西から東へ移動させた場合の、屋根形状の変化について示している。
【0027】
j〜lの従来の切妻屋根では、入隅40の浅い深いに関係なく、少しでも間口の変わる要因があれば、屋根形状に影響を受けることが判る。奥行半間(910mm)程度の入隅は、プラン上、頻度が高い。このことによって発生した屋根の上の小さな妻壁は防水的に覆わなければならないので、妻壁部にBICがあったとしても、呼吸型DIにおいては十分に機能しない。
これに対し、J〜Lの本発明の屋根構造では、屋根形状に大きな変化はみられず、妻壁のBICの面積が損なわれないことが判る。これにより呼吸型DIにおいて十分に機能することができる。
【0028】
<第5のプラン>
図11は、入隅が3か所ある家屋を上から見た図である。M、N、Oは本発明の偏芯型切妻屋根構造を有する家屋であり、m,n,oは従来の切妻屋根構造を有する家屋である。
北西角の深い入隅40の位置を、M→N→O(m→n→o)の順に西から東へ移動させた場合の、屋根形状の変化について示している。
【0029】
m〜oの従来の切妻屋根では、入隅40の位置及び大きさが変化することに伴い、屋根の間口が変化し、棟30の位置も変化している。また、棟30の数が3〜4個の間で変化しており、屋根に載る妻壁も必ず発生している。
これに対し、M〜Oの本発明の屋根構造では、入隅40の位置及び大きさが変化しても、屋根形状に大きな変化はみられない。
【0030】
<第6のプラン>
図12は、入隅が3か所ある家屋を上から見た図である。P、Q、Rは本発明の偏芯型切妻屋根構造を有する家屋であり、p,q,rは従来の切妻屋根構造を有する家屋である。
ここでは、
図11とは逆に北東角の浅い入隅40の位置を、P→Q→R(p→q→r)の順に西から東へ移動させた場合の、屋根形状の変化について示している。
【0031】
p〜rの従来の切妻屋根では、入隅40の位置及び大きさが変化することに伴い、屋根の間口が変化し、棟30の位置も変化している。また、棟30の数が3〜4個の間で変化しており、屋根に載る妻壁も必ず発生している。
これに対し、P〜Rの本発明の屋根構造では、入隅40の位置及び大きさが変化しても、屋根形状に大きな変化はみられない。
【0032】
<第7のプラン>
図13は、P〜R及びp〜rで表される家屋の屋根上に、市販の太陽光発電パネル20(タテ990mm×ヨコ1165mm)を屋根上に敷き並べた様子を示した図である。
p〜rの従来の切妻屋根では、屋根形状に応じてパネルを敷き詰めなければならず、屋根形状が複雑であると設置効率も良くないことが判る。
これに対し、P〜Rの本発明の屋根構造では、大まかな形状としての変化が少ないため、効率良く、パネルを敷き詰めることができる。また、本発明の切妻屋根構造では、南側の面を大きくなるようにとっているため、より多くのパネルを敷き詰めることができ、効率よく発電できる。
【0033】
このように本発明の屋根構造では、切妻屋根の棟の位置を偏芯させることにより、間口に左右されずに棟の位置を一定にすることができる。これにより、妻壁が屋根の上に載ることを回避することができ、相対向する一対の妻壁の形状及び面積を等しくすることができる。
屋根が形状的変化をあまり受けないことの狙いは、単に屋根の上の妻壁を発生しないようにして東西の妻壁面積を等しくし、DIを健全に機能させるだけでなく、太陽光発電パネルの設置効率の良さも意図している。
また、屋根が形状的変化を受けないことにより、部材の寸法や形状をほぼ同一にすることができ、生産性向上やコスト削減の面で有利である。
【0034】
上述したA〜Rの本発明の家屋、及びa〜rの従来の家屋について、各形体(プラン)ごとの基準階の床面積、及び、屋根上に設置できる太陽光発電パネルの数を表1にまとめて示す。
【0036】
表1から明らかなように、本発明の切妻屋根(A〜R)では、従来の切妻屋根(a〜r)に比べて、概ね、1.5〜2.0倍の数の太陽光発電パネルを設置できることが判る。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。