(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記緊締部は、水着本体を構成する伸縮性生地に張力テープを貼りあわせた後、その上から前記張力テープより幅が大きいテープ状の伸縮性生地を貼りあわせることで設けられている請求項1に記載の水着。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、水着による水中姿勢の安定及びハムストリングスの動きをサポートする効果を両立させるため、鋭意検討した。まず、クロール、バタフライ、背泳ぎ及び平泳ぎ時の下半身の背部における皮膚の伸びを特許3831348号公報に記載の手法を用いて解析した。その結果を
図9に示している。(a)はクロール、(b)はバタフライ、(c)は背泳ぎ、(d)は平泳ぎの場合を示す。
図9において、200は皮膚の伸びの度合を示し、IからII方向へ行くほど、皮膚の伸びの程度が高いことを示す。
図9から分かるように、各種水泳時に、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3を覆う領域の皮膚伸びが大きかった。本発明の水着では、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向(身長方向とも称される。)に沿って2本以上の帯状の緊締部が互いに交差するよう、かつ前記2本以上の帯状の緊締部の交点(以下において、単に「交点」とも記す。)が、
図10に示されているように、水泳時の皮膚延びが大きい臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの領域に位置するように配置することで、水中姿勢を安定化させるとともに、ハムストリングスの動きをサポートすることができる。例えば、水泳時の大臀筋、中臀筋、小殿筋及びハムストリングスを含む股関節伸筋群、並びに半腱様筋、半腱膜筋、中臀筋(外側)、小殿筋(外側)及び大腿筋膜張筋を含む股関節内旋筋群の筋負担が軽減される。ハムストリングスは、大腿後面(下肢後面)にある大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋を合わせた呼び方である。本明細書において、「ハムストリングスの近位1/3」とは、ハムストリングスの近位端から遠位端までの身長方向の長さを100%とした場合、近位端からの距離が100%/3である部位をいう。また、「臀部のトップ」とは、大殿筋の上端から下端までの身長方向の長さを100%とした場合、大殿筋の下端からの距離が100%/2である部位をいう。
【0012】
本発明において、「伸縮性生地」とは、生地の体長方向における伸長率が0%を超えることを意味する。本発明において、生地の伸長率は、JIS L 1096 8.14.1 A法(荷重17.6N、引張速度200mm/min)に基づいて測定するものである。
【0013】
前記緊締部は、他の部分より緊締力、すなわち、体長方向の引張弾性率が高い。本発明の水着において、緊締部の引張弾性率は水着の本体を構成する伸縮性生地の引張弾性率より高く、緊締部のうち、交点の引張弾性率が最も高い。本発明において、引張弾性率は、JIS L 1096 8.14.A法に基づいて、具体的には、生地片が幅5cm、長さ10cmになるように引張試験機に固定し、5%伸長時の応力の傾きから引張弾性率(N/mm
2)を求める。生地片の長さは、測定方向と一致する方向のサイズを意味する。例えば、体長方向の引張弾性率を測定する場合、生地片の長さは、生地片の体長方向のサイズを意味し、身幅方向の引張弾性率を測定する場合、生地片の長さは、生地片の身幅方向のサイズを意味する。
【0014】
前記伸縮性生地は、特に限定されないが、体長方向の引張弾性率が140×10
-5N/mm
2以上200×10
-5N/mm
2以下であることが好ましく、より好ましくは150×10
-5N/mm
2以上190×10
-5N/mm
2以下であり、さらに好ましくは、160×10
-5N/mm
2以上180×10
-5N/mm
2以下である。伸縮性生地の引張弾性率が上述した範囲内であると、水着の着用性が良好になるうえ、フィット性も高まる。
【0015】
前記伸縮性生地としては、特に限定されず、通常水着に用いられる伸縮性生地を用いることができる。例えば、弾性糸を含むワンウエイ又はツーウエイの織物又は編物が好ましい。前記弾性糸は、ポリウレタン系弾性糸及びポリエステル系弾性糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。ストレッチ性が高く、スポーツ衣料に適しているからである。前記弾性糸は、ベアヤーン(裸糸)として、非弾性糸(リジッド糸)と引きそろえて使用してもよいし、又は表面にポリエステル繊維もしくはナイロン繊維が被覆されたカバードヤーンとして使用してもよい。また、前記伸縮性生地は、二重生地であってもよい。
【0016】
前記伸縮性生地は、目付が50g/m
2以上400g/m
2以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは80g/m
2以上300g/m
2以下の範囲であり、さらに好ましくは100g/m
2以上200g/m
2以下の範囲である。この範囲であれば透けなどの問題を起こさず、審美性に適しており、また重量感もなく着用性に優れる。
【0017】
前記緊締部は、体長方向の引張弾性率が160×10
-5N/mm
2以上220×10
-5N/mm
2以下であることが好ましい。より好ましくは165×10
-5N/mm
2以上200×10
-5N/mm
2以下であり、さらに好ましくは170×10
-5N/mm
2以上190×10
-5N/mm
2以下である。前記緊締部の交点は、体長方向の引張弾性率が220×10
-5N/mm
2以上420×10
-5N/mm
2以下であることが好ましい。より好ましくは240×10
-5N/mm
2以上400×10
-5N/mm
2以下であり、さらに好ましくは、260×10
-5N/mm
2以上380×10
-5N/mm
2以下である。前記緊締部及びその交点の体長方向の引張弾性率が上述した範囲内であると、水着が着用しやすいうえ、ハムストリングスの動き、例えばキック等をサポートする効果が高まる。前記緊締部の体長方向の引張弾性率は、水着において、交点以外の緊締部が配置された箇所から、1本の帯状の緊締部を含む生地片(幅5cm、長さ15cm)をカットして、測定サンプルとして用いて測定する。例えば、
図1において、300で示される部分の生地片をカットして、緊締部の引張弾性率の測定に用いる。また、前記緊締部の交点の体長方向の引張弾性率は、水着において、緊締部の交点が配置された箇所から、緊締部の交点を含む生地片(幅5cm、長さ15cm)をカットして、測定サンプルとして用いて測定する。例えば、
図1において、400で示される部分の生地片をカットして、緊締部の交点の引張弾性率の測定に用いる。
【0018】
前記緊締部は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って帯状に配置されている。前記緊締部は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、交点が臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの領域に位置するように、体長方向に沿って2本以上、例えば、2本、3本、4本等配置されていればよく、特に限定されない。着用感の観点から、前記緊締部は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、2本配置されていることが好ましい。前記緊締部は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、2本配置されている場合は、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、略X字状となる。
【0019】
前記緊締部は、腰部まで延びていてもよい。より効果的に水中姿勢を安定化することができる。前記緊締部は、水着の下端まで延びていてもよい。より効果的に水中姿勢を安定化することができる。前記緊締部の少なくとも一本は、より効果的に水中姿勢を安定化する観点から、仙骨周辺を通るように配置されていることが好ましい。前記緊締部の交点は、より効果的に水中姿勢を安定化し、ハムストリングスの動きをサポートする観点から、ハムストリングスの一部を覆う領域に位置することが好ましく、大腿二頭筋及び/又は半腱様筋の一部を覆う領域に位置することがより好ましい。
【0020】
前記緊締部は、特に限定されないが、例えば、水着本体を構成する伸縮性生地に張力テープ(張力バンドとも称される。)を張力テープの長手方向が体長方向に沿うように貼りつけた後、その上から前記張力テープより幅が大きいテープ状の伸縮性生地を、前記張力テープを覆うように、かつ該テープ状の伸縮性生地の長手方向が体長方向に沿うように貼りあわせることで設けることができる。形状抵抗を低減する観点から、前記張力テープ及びテープ状の伸縮性生地は、水着の裏側(体表面側)に位置されていることが好ましい。張力テープの上からテープ状の伸縮性生地を貼りあわせることで、緊締部の耐久性を高め、張力テープが水着本体から外れることを抑制することができる。前記張力テープ及び前記テープ状の伸縮性生地は、例えば、表面摩擦を低減する観点から、幅が5mm以上30mm以下であることが好ましく、10mm以上20mm以下であることがより好ましい。前記張力テープ及び前記テープ状の伸縮性生地の貼りあわせは、ホットメルト接着剤で接着することで行うことが好ましい。ホットメルト接着剤としては、特に限定されず、例えば、シートタイプ、不織布タイプ、液状タイプなどが挙げられる。
【0021】
前記張力テープとしては、特に限定されず、編物及び織物のいずれを用いてもよい。例えば、市販されている各種張力バンドを適宜選択して用いることができる。前記張力テープは、特に限定されないが、緊締部の体長方向の引張弾性率を160×10
-5N/mm
2以上220×10
-5N/mm
2以下にしやすい観点から、体長方向(張力テープの長手方向と一致する)の引張弾性率が5×10
-5N/mm
2以上30×10
-5N/mm
2以下であることが好ましく、10×10
-5N/mm
2以上20×10
-5N/mm
2以下であることがより好ましい。
【0022】
前記水着本体を構成する伸縮性生地は、特に限定されないが、例えば、着用性及びフィット性の観点から、体長方向の伸長率が15%以上75%以下であることが好ましく、より好ましくは20%以上65%以下であり、さらに好ましくは25%以上55%以下である。前記水着本体を構成する伸縮性生地は、特に限定されないが、例えば、着用性及びフィット性の観点から、身幅方向(周方向とも称される。)の伸長率が30%以上75%以下であることが好ましく、より好ましくは35%以上65%以下である。前記テープ状の伸縮性生地は、特に限定されないが、例えば、着用性及び緊締力の観点から、体長方向の伸長率が30%以上80%以下であることが好ましく、より好ましくは35%以上75%以下であり、さらに好ましくは40%以上70%以下である。前記テープ状の伸縮性生地は、特に限定されないが、例えば、着用性及び緊締力の観点から、身幅方向の伸長率が20%以上65%以下であることが好ましく、より好ましくは25%以上60%以下である。
【0023】
本発明の水着は、着用時に少なくとも大腿部及び臀部の一部を覆う水着であればよく、そのタイプは特に限定されない。ハーフスパッツ型、ロングスパッツ型(スパッツ型)、ショートジョンワンピース型、ロングジョンワンピース型、フルボディワンピース型のいずれであってもよい。
【0024】
水着は、通常、着用者の身体の表面にほぼ密着した状態で着用される。「ほぼ密着」の状態を作るには、人体の裸のサイズに対して、周囲方向は50%以上110%以下、さらに好ましくは70%以上95%以下、丈は75%以上100%以下、さらに好ましくは85%以上100%以下として水着を形成する。もちろん人体のサイズは個人差があるので、前記の比率は目安である。より具体的には、JASPO規格に従ってサイズを決める。
【0025】
以下図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着1は、男性用ハーフスパッツ型水着である。
図1(c)に示されているように、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部2及び3が互いに交差するように配置されており(以下において、下半身背部膝上緊締部とも記す。)、緊締部2及び3の交点4は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの間に位置する。緊締部2は、腰部、具体的には水着1の上端部から大腿部の内側部に至るように、かつ水着1の下端部まで延びるように配置されている。緊締部3は、腰部、具体的には水着1の上端部から大腿部の内側部に至るように配置されている。交点4は、ハムストリングスの動きをより効果的にサポートする観点から、ハムストリングスの一部を覆う領域に位置することが好ましく、大腿二頭筋及び/又は半腱様筋の一部を覆う領域に位置することがより好ましい。
【0026】
緊締部2及び3は、それぞれ水着1の本体を構成する生地102に、張力テープ(図示なし)を張力テープの長手方向が体長方向に沿うようホットメルト接着剤で貼りあわせた後、その上から張力テープより幅が大きいテープ状の伸縮性生地103を、前記張力テープを覆うように、かつ該テープ状の伸縮性生地103の長手方向が体長方向に沿うようにホットメルト接着剤で貼りあわせることで設ける。水着1の本体の背部を構成する生地102と、水着1の本体の前部を構成する生地101は、体長方向の伸長率が異なる生地であり、着用性及び膝の動きを滑らかにする観点から、生地101の体長方向の伸長率は生地102の体長方向の伸長率より高いことが好ましい。水泳中に臀部及びハムストリングスの姿勢を安定に保つ観点から、生地102は二種類の生地をホットメルト接着剤で貼りあわせた二重生地であることが好ましい。
【0027】
水着1は、骨盤周りの姿勢を安定に保つ観点から、鼠径部を覆う領域を体長方向の伸長率が低い生地102で構成し、鼠径部の周縁部を覆う領域に逆ハ字状に配置された緊締部5(以下において、鼠径部緊締部とも記す。)を有していてもよい。また、水着1は、腰部における水着のずれを防止する観点から、上端部に配置された紐6を有してもよい。鼠径部緊締部5も、水着の本体を構成する生地102に、張力テープ(図示なし)を張力テープの長手方向が体長方向に沿うようホットメルト接着剤で貼りあわせた後、その上から張力テープより幅が大きいテープ状の伸縮性生地103を、前記張力テープを覆うように、かつ該テープ状の伸縮性生地103の長手方向が体長方向に沿うようにホットメルト接着剤で貼りあわせることで設けることができる。
【0028】
該実施形態において、下半身背部膝上緊締部は左右のそれぞれにおいて2本であるが、3本以上、4本以上等であってもよい。着用性の観点から、臀部の周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ライン等を含めたシームの本数は合計で9本以下であることが好ましい。また、着用性の観点から、左右の大腿部の股下から膝上までのそれぞれの周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ライン等を含めたシームの本数は合計で4本以下であることが好ましい。
【0029】
図2は、本発明の他の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着11は、男性用ハーフスパッツ型水着である。
図2(c)に示されているように、該実施形態の水着11には、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部12及び13が互いに交差するように配置されており、緊締部12及び13の交点14は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの間に位置する。緊締部12は、腰部、具体的には水着11の上端部から大腿部の外側部に至るように配置されている。緊締部13は、腰部、具体的には水着11の上端部から大腿部の内側部に至るように配置されている。水着11は、緊締部12及び13、並びに緊締部12及び13の交点14の配置以外は、
図1に示した水着と同じ構成でよい。
【0030】
図3は、本発明の他の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着21は、男性用ハーフスパッツ型水着である。
図3(c)に示されているように、該実施形態の水着21には、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部22及び23が互いに交差するように配置されており、緊締部22及び23の交点24は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの間に位置する。緊締部22は、腰部、具体的には水着21の上端部から大腿部の外側部に至るように、かつ水着21の下端部まで延びるように配置されている。緊締部23は、腰部、具体的には水着21の上端部から大腿部の内側部に至るように配置されている。水着21は、緊締部22及び23、並びに緊締部22及び23の交点24の配置以外は、
図1に示した水着と同じ構成でよい。
【0031】
該実施形態の水着21において、大腿部を覆う領域において、緊締部22と緊締部23で挟まれた領域を構成する生地104は、膝の動きを滑らかにする観点から、生地102より、体長方向の伸長率が高いことが好ましい。その他の実施形態でも、緊締部22と緊締部23で挟まれた領域を構成する生地は、生地102より、体長方向の伸長率が高いものであってもよい。
【0032】
図4は、本発明の他の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着31は、男性用ハーフスパッツ型水着である。
図4(c)に示されているように、該実施形態の水着31には、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部32及び33が互いに交差するように配置されており、緊締部32及び33の交点34は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3までの間に位置する。緊締部32は、腰部、具体的には水着31の上端部から大腿部の内側部に至るように、かつ水着31の下端部まで延びるように配置されている。左右の緊締部32は、臀部の上部中央において交差している。緊締部33は、腰部、具体的には水着31の上端部から大腿部の内側部に至るように配置されている。水着31は、緊締部32及び33、並びに緊締部32及び33の交点34の配置以外は、
図1に示した水着と同じ構成でよい。
【0033】
図5は本発明の他の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着41は、女性用ハーフスーツ型である。
図5(c)に示されているように、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部42及び43が互いに交差するように配置されており、緊締部42及び43の交点44は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置する。緊締部42は、腰部から大腿部の内側部に至るように、かつ水着41の下端部まで延びるように配置されている。緊締部43は、腰部から大腿部の内側部に至るように配置されている。交点44は、ハムストリングスの動きをより効果的にサポートする観点から、ハムストリングスの一部を覆う領域に位置することが好ましく、大腿二頭筋及び/又は半腱様筋の一部を覆う領域に位置することがより好ましい。
【0034】
緊締部42及び43は、それぞれ水着41の本体を構成する生地102に、張力テープ(図示なし)を張力テープの長手方向が体長方向に沿うようにホットメルト接着剤で貼りあわせた後、その上から張力テープより幅が大きいテープ状の伸縮性生地103を、前記張力テープを覆うように、かつ該テープ状の伸縮性生地の長手方向が体長方向に沿うようにホットメルト接着剤で貼りあわせることで設ける。水着41において、生地101と102は、
図1に示された水着1で説明したのと同様である。
【0035】
水着41は、体幹から骨盤周りの姿勢を安定に保つ観点から、鼠径部及び下腹部を覆う領域を体長方向の伸長率が低い生地102で構成することが好ましい。また、鼠径部の周縁部を覆う領域に逆ハ字状に配置された鼠径部緊締部35を有していてもよい。また、水着41は、水着の側面に配置された側面緊締部36を有してもよい。鼠径部緊締部35及び側面緊締部36も、水着の本体を構成する生地102に、張力テープ(図示なし)を張力テープの長手方向が体長方向に沿うようホットメルト接着剤で貼りあわせた後、その上から張力テープより幅が大きいテープ状の伸縮性生地103を、前記張力テープを覆うように、かつ該テープ状の伸縮性生地103の長手方向が体長方向に沿うようにホットメルト接着剤で貼りあわせることで設けることができる。
【0036】
該実施形態において、下半身背部膝上緊締部は左右それぞれ2本であるが、3本以上、4本以上等であってもよい。着用性の観点から、臀部の周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ライン等を含めたシームの本数は合計で11本以下であることが好ましい。また、着用性の観点から、左右の大腿部の股下から膝上までのそれぞれの周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ライン等を含めたシームの本数は合計で4本以下であることが好ましい。
【0037】
図6は、本発明の他の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着51は、女性用ハーフスパッツ型水着である。
図6(c)に示されているように、該実施形態の水着51には、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部52及び53が互いに交差するように配置されており、緊締部52及び53の交点54は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置する。緊締部52は、腰部から大腿部の外側部に至るように配置されている。緊締部53は、腰部から大腿部の内側部に至るように配置されている。水着51は、緊締部52及び53、並びに緊締部52及び53の交点54の配置以外は、
図5に示した水着と同じ構成でよい。
【0038】
図7は、本発明の他の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着61は、女性用ハーフスパッツ型水着である。
図7(c)に示されているように、該実施形態の水着61には、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部62及び63が互いに交差するように配置されており、緊締部62及び63の交点64は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置する。緊締部62は、腰部から大腿部の外側部に至るように、かつ水着61の下端部まで延びるように配置されている。緊締部63は、腰部から大腿部の内側部に至るように配置されている。水着61は、緊締部62及び63、並びに緊締部62及び63の交点64の配置以外は、
図5に示した水着と同じ構成でよい。
【0039】
該実施形態の水着61において、大腿部を覆う領域において、緊締部62と緊締部63で挟まれた領域を構成する生地104は、膝の動きを滑らかにする観点から、生地102より、体長方向の伸長率が高いことが好ましい。その他の実施形態でも、緊締部22と緊締部23で挟まれた領域を構成する生地は、生地102より、体長方向の伸長率が高いものであってもよい。
【0040】
図8は、本発明の他の一実施形態の水着の裏側(体表面側)の模式図であり、(a)は正面図であり、(b)は左側面図であり、(c)は背面図である。水着71は、女性用ハーフスパッツ型水着である。
図8(c)に示されているように、該実施形態の水着71には、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部72及び73が互いに交差するように配置されており、緊締部72及び73の交点74は、臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置する。緊締部72は、腰部から大腿部内側部に至るように、かつ水着71の下端部まで延びるように配置されている。左右の緊締部72は、臀部の上部中央において交差している。緊締部73は、腰部から大腿部の内側部に至るように配置されている。水着71は、緊締部72及び73、並びに緊締部72及び73の交点74の配置以外は、
図5に示した水着と同じ構成でよい。
【0041】
図1〜
図8に示された水着は、好ましい形態であり、緊締部は水着の裏側(体表面側)に配置されているが、本発明の水着は、これらに限定されない。例えば、必要に応じて、緊締部の全部又は一部は水着の表側に配置されていてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
実施例及び比較例では、下記の生地を用いた。
生地101:平織りの織物で、目付けは133g/m
2であり、織物の繊維組成は、ナイロン繊維65%、ポリウレタン弾性繊維35%であった。経糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:78dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数:10本)をカバーリングした糸を用いた。緯糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:55dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数10本)をカバーリングした糸を用いた。密度(打ち込み本数)は、経糸188本/インチ、緯糸182本/インチであった。該生地を経糸が周方向に沿うように用いた。生地101の体長方向の伸長率は41.7%であり、身幅方向の伸長率は35.2%であった。
生地102:二重生地を用いた。表側生地は、平織りと二重織を組み合わせた織物で、目付けは138g/m
2であり、織物の繊維組成は、ナイロン繊維65%、ポリウレタン弾性繊維35%であった。経糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:78dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数:10本)をカバーリングした糸を用いた。緯糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:55dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数10本)をカバーリングした糸とポリウレタン弾性繊維(繊度:44dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数10本)をカバーリングした糸を用いた。密度(打ち込み本数)は、経糸184本/インチ、緯糸188本/インチであった。裏側生地は、平織りの織物で、目付けは114g/m
2であり、織物の繊維組成は、ナイロン繊維66%、ポリウレタン弾性繊維34%であった。経糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:55dtex)にナイロン繊維(繊度:24dtex、フィラメント数:7本)をカバーリングした糸を用いた。緯糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:44dtex)にナイロン繊維(繊度:24dtex、フィラメント数7本)をカバーリングした糸を用いた。密度(打ち込み本数)は、経糸219本/インチ、緯糸187本/インチであった。表側生地と裏側生地をホットメルト接着剤(ユタックス社製、品名「J861」)で生地端を貼り合わせた得られた二重生地を生地102として用いた。なお、表側生地と裏側生地は、いずれも経糸が周方向に沿うように用いた。生地102の体長方向の伸長率は30.9%であり、身幅方向の伸長率は56.8%であった。
生地103:平織りの織物で、目付けは140g/m
2であり、織物の繊維組成は、ナイロン繊維63%、ポリウレタン弾性繊維37%であった。経糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:78dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数:10本)をカバーリングした糸を用いた。緯糸は、ポリウレタン弾性繊維(繊度:55dtex)にナイロン繊維(繊度:33dtex、フィラメント数10本)をカバーリングした糸を用いた。密度(打ち込み本数)は、経糸178本/インチ、緯糸180本/インチであった。該生地を経糸が周方向に沿うように用いた。生地103の体長方向の伸長率は56.2%であり、身幅方向の伸長率は46.2%であった。
なお、生地の伸長率は、JIS L 1096 8.14.1 A法(荷重17.6N、引張速度200mm/min)に基づいて測定した。
【0044】
(実施例1)
生地101、生地102及び103を用い、
図1に示すような男性用ハーフスパッツ型水着1(JASPO規格Mサイズ)を作製した。
図1(c)に示されているように、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部2及び3が互いに交差するように、かつ、緊締部2及び3の交点4が臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置するように配置した。具体的には、緊締部2は、腰部、具体的には水着1の上端部から大腿部の内側部に至るように、かつ水着1の下端部まで延びるように配置された。緊締部3は、腰部、具体的には水着1の上端部から大腿部の内側部に至るように配置された。交点4は、臀部の下縁から臀溝付近に位置するように配置された。ここで「臀部の下縁」とは、大殿筋の上端から下端までの身長方向の長さを100%とした場合、下端からの距離が100%/4である部位をいう。緊締部2及び3は、生地102の裏側(体表面側)に、先ず張力テープ(サン化成株式会社製の「RF−6200」、ポリエステル系繊維で構成されたニット、幅10mm、体長方向の弾性率17.5×10
-5N/mm
2)をその長手方向が体長方向に沿うようホットメルト接着剤で貼り合わせた後、その上からさらに幅20mmのテープ状にカットした生地103を前記張力テープを覆うように、かつ該テープ状の伸縮性生地103の長手方向が体長方向に沿うようにホットメルト接着剤で貼り合わせることで設けた。鼠径部を覆う領域に配置した緊締部5も、緊締部2及び3と同様にして設けた。実施例1の水着の臀部の周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ラインを含めたシームの本数は合計で9本であった。また、実施例1の水着の左右の大腿部の股下から膝上までのそれぞれの周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ラインを含めたシームの本数は合計で4本以下であった。
【0045】
(実施例2)
生地101、生地102及び103を用い、
図5に示すような女性用ハーフスパッツ型水着41(JASPO規格Mサイズ)を作製した。
図5(c)に示されているように、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部42及び33が互いに交差するように、かつ、緊締部42及び33の交点44が臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置するように配置した。具体的には、緊締部42は、腰部から大腿部の内側部に至るように、かつ水着41の下端部まで延びるように配置された。緊締部43は、腰部から大腿部の内側部に至るように配置された。交点44は、臀部の下縁から臀溝付近に位置するように配置された。緊締部42及び43は、生地102の裏側(体表面側)に、先ず張力テープ(サン化成株式会社製の「RF−6200」、ポリエステル系繊維で構成されたニット、幅10mm、体長方向の弾性率17.5×10
-5N/mm
2)その長手方向が体長方向に沿うようホットメルト接着剤で貼り合わせた後、その上からさらに幅20mmのテープ状にカットした生地103を前記張力テープを覆うように、かつ該テープ状の伸縮性生地103の長手方向が体長方向に沿うようにホットメルト接着剤で貼り合わせることで設けた。鼠径部を覆う領域に配置された緊締部35及び水着の側面に配置された側面緊締部36も、緊締部42及び33と同様にして設けた。実施例2の水着の臀部の周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ラインを含めたシームの本数は合計で11本であった。また、実施例2の水着の左右の大腿部の股下から膝上までのそれぞれの周方向において、下半身背部膝上緊締部の本数、縫製ライン、生地を貼りあわせた接着ラインを含めたシームの本数は合計で4本であった。
【0046】
(比較例1)
生地101、生地102及び103を用い、
図11に示すような男性用ハーフスパッツ型水着81(JASPO規格Mサイズ)を作製した。
図11(c)に示されているように、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部82及び83が互いに交差しないように配置された。緊締部82は、腰部、具体的には水着81の上端部から大腿部の内側部に至るように配置され、緊締部83は、腰部、具体的には水着81の上端部から大腿部の内側部に至るように、かつ、水着81の下端部までに延びるように配置された。比較例1の水着は、緊締部82及び83の配置以外は、実施例1の水着と同様の構成であった。
【0047】
(比較例2)
生地101、生地102及び103を用い、
図12に示すような女性用ハーフスパッツ型水着91(JASPO規格Mサイズ)を作製した。
図12(c)に示されているように、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部92及び93が互いに交差しないように配置された。緊締部92は、腰部から大腿部の内側部に至るように配置され、緊締部93は、腰部から大腿部の内側部に至るように、かつ、水着91の下端部までに延びるように配置された。比較例2の水着は、緊締部92及び93の配置以外は、実施例2の水着と同様の構成であった。
【0048】
水着1から、
図1(c)に示されているように、幅5cm、長さ15cmの生地片300(緊締部の引張弾性率測定用)、及び幅5cm、長さ15cmの生地片400(交点の引張弾性率測定用)、幅5cm、長さ15cmの生地片500(その他の部分の引張弾性率測定用)をカットして、伸縮性生地、緊締部及び交点の体長方向の引張弾性率を測定した。水着81から、
図11に示すように、二本の緊締部を含むように幅5cm、長さ15cmの生地片600(2本の緊締部)をカットして引張弾性率を測定した。
【0049】
(引張弾性率の測定)
JIS L 1096 8.14.A法に基づいて、具体的には、生地片を幅5cm、長さ10cmになるように引張試験機に固定し、5%伸長時の応力の傾きから体長方向の引張弾性率(N/mm
2)を求めた。
【0050】
【表1】
【0051】
表1のデータから分かるように、皮膚が伸びやすい領域に配置した2本の緊締部が交差している交点の体長方向の引張弾性率が、2本の交差していない緊締部を含む場合の体長方向の引張弾性率より高く、水中姿勢を安定化させるとともに、ハムストリングスの動きを効果的にサポートすることができる。
【0052】
実施例1の水着及び比較例1の水着を全国大会上位レベル男子大学生8名に着用させ、12.5mSLDにおけるタイムを測定した。また、実施例2及び比較例2の水着全国大会上位レベル女子大学生6名に着用させ、15mSLDにおけるタイムを測定した。その結果を下記表2及び表3に示した。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
上記表2及び表3の結果から分かるように、実施例の水着を着用した方が、比較例の水を着用した場合と比べて、タイムが速く、ハムストリングスの動き、具体的には水中での姿勢保持を効果的にサポートすることができた
【0056】
実施例1と比較例1の水着を着用して水泳する際(クロール時)の関節伸筋群及び股関節内旋筋群の筋張力を、特許5920724特許3831348号公報に記載の手法を用いて評価し、その結果を下記表4に示した。股関節伸筋群は、大臀筋、中臀筋、小殿筋及びハムストリングスを含み、股関節内旋筋群は、半腱様筋、半腱膜筋、中臀筋(外側)、小殿筋(外側)及び大腿筋膜張筋を含む。
【0057】
【表4】
【0058】
表4のデータから、実施例の水着を着用した場合、比較例の水着を着用した場合に比べて、クロール動作時の股関節伸筋群及び股関節内旋筋群の筋張力が小さく、左右それぞれの臀部から大腿部に掛けて、体長方向に沿って2本の帯状の緊締部を互いに交差するように、かつ、2本以上の帯状の緊締部の交点が臀部のトップからハムストリングスの近位1/3の間に位置するように配置することで、ハムストリングスがサポートされ、ひいては股関節伸筋群及び股関節内旋筋群がサポートされていることが分かった。