特許第6849902号(P6849902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6849902
(24)【登録日】2021年3月9日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 51/12 20060101AFI20210322BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20210322BHJP
   B29C 49/20 20060101ALI20210322BHJP
   B29C 49/04 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B29C51/12
   B29C51/10
   B29C49/20
   B29C49/04
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-194709(P2016-194709)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-52093(P2018-52093A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年7月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】林 洋介
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−036345(JP,A)
【文献】 特開2001−001392(JP,A)
【文献】 特開2004−090313(JP,A)
【文献】 特開2013−119174(JP,A)
【文献】 特開平01−031618(JP,A)
【文献】 特開平09−057827(JP,A)
【文献】 特開平09−039080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/00−51/46
B29C 49/00−49/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形品の製造方法であって、
表皮材を金型のキャビティの表面の少なくとも一部に配置するステップと、
Tダイから押出された溶融状態の熱可塑性樹脂シートを前記キャビティの側方に垂下させるステップと、
前記金型を型締めし、前記熱可塑性樹脂シートに前記表皮材を積層するように面接着させるステップと、
前記熱可塑性樹脂シート及び前記表皮材を前記キャビティ側から真空吸引するステップと、を備え
前記表皮材は微細な貫通孔を有し、前記真空吸引ステップにおいて、前記貫通孔を通じて前記熱可塑性樹脂シートが吸引され、
前記表皮材に、結晶化遅延剤を混入するステップをさらに備え、前記真空吸引ステップの後に、前記表皮材の前記貫通孔が閉環するように構成されている、製造方法。
【請求項2】
前記表皮材が加飾用樹脂層と基材層とから構成され、前記加飾用樹脂層が前記熱可塑性樹脂シートに貼合され、前記基材層が剥離されることを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂シートに貼合され樹脂成形品を形成する表皮材であって、
微細な貫通孔を有し、
前記表皮材には、結晶化遅延剤が混入されており、
前記熱可塑性樹脂シートに貼合された後に、前記貫通孔が閉環されるように構成されていることを特徴とする表皮材。
【請求項4】
加飾用樹脂層と基材層とを備え、
前記結晶化遅延剤は、前記加飾用樹脂層に混入されていることを特徴とする請求項に記載の表皮材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂シートに表皮材を積層して成形する、樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂シートと加飾シート(表皮材)を貼合して積層し、樹脂成形品を加飾成形する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、溶融状態の熱可塑性樹脂製シートを、金型のキャビティから離間状態でキャビティのまわりにはみ出すように、キャビティの側方に配置する段階と、配置された熱可塑性樹脂製シートとキャビティとで協働して形成された第1密閉空間内で、熱可塑性樹脂製シートと対向し、かつ金型のキャビティから離間状態でキャビティのまわりにはみ出すように保持された加飾シートを熱可塑性樹脂製シートに対して、積層するように面接着させる段階と、第1密閉空間内をキャビティ側から真空吸引することにより、面接着された熱可塑性樹脂製シート及び加飾シートをキャビティに対して押圧して賦形する段階とを有する加飾成形方法が、開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、Tダイから押出された可塑性樹脂シートに表皮材を合わせて一対のローラから送り出して貼合させることから、所望の領域以外にも貼合したり、成形後にバリとして切除される部分が生じたりすることから、表皮材が無駄になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−104886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、熱可塑性樹脂シートの表面に表皮材を貼合するにあたり、所望の領域のみに表皮材を貼合可能な樹脂成形品の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成によって把握される。
(1)本発明に係る第1の観点は、樹脂成形品の製造方法であって、表皮材を金型のキャビティの表面の少なくとも一部に配置するステップと、溶融状態の熱可塑性樹脂シートを前記キャビティの側方に垂下させるステップと、前記金型を型締めし、前記熱可塑性樹脂シートに前記表皮材を積層するように面接着させるステップと、前記熱可塑性樹脂シート及び前記表皮材を前記キャビティ側から真空吸引するステップと、を備えることを特徴とする。
【0008】
(2)上記(1)の構成において、前記表皮材が微細な貫通孔を有し、前記真空吸引ステップにおいて、前記貫通孔を通じて前記熱可塑性樹脂シートが吸引される。
【0009】
(3)上記(2)の構成において、前記真空吸引ステップの後に、前記表皮材の前記貫通孔が閉環するように構成されている。
【0010】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つの構成において、前記表皮材が加飾用樹脂層と基材層とから構成され、前記加飾用樹脂層が前記熱可塑性樹脂シートに貼合され、前記基材層が剥離される。
【0011】
(5)本発明に係る第2の観点は、熱可塑性樹脂シートに貼合され樹脂成形品を形成する表皮材であって、微細な貫通孔を有し、前記熱可塑性樹脂シートに貼合された後に、前記貫通孔が閉環されるように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱可塑性樹脂シートの表面に表皮材を貼合するにあたり、所望の領域のみに表皮材を貼合可能な樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る樹脂成形品の製造方法を実施する成形装置を示す全体正面図である。
図2図1の成形装置において、金型内に表皮材及び熱可塑性樹脂シートを配置した工程を示す断面図である。
図3図1の成形装置において、図2に示す態様から熱可塑性樹脂シートと金型のキャビティ間を型枠により閉じた工程を示す断面図である。
図4図1の成形装置において、図3に示す態様から金型を閉じて成形する工程を示す断面図である。
図5図1の成形装置において成形された樹脂成形品の正面側の斜視図である。
図6図1の成形装置において成形された樹脂成形品の側面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る樹脂成形品の製造方法を実施する成形装置において、金型内に一対の熱可塑性樹脂シート及び表皮材を配置した工程を示す断面図である。
図8図7の成形装置において、図7に示す態様から一対の熱可塑性樹脂シートと金型のキャビティ間を型枠により閉じた工程を示す断面図である。
図9図7の成形装置において、図8に示す態様から一対の熱可塑性樹脂シート及び表皮材をそれぞれ対応する金型のキャビティに真空吸着した工程を示す断面図である。
図10図7の成形装置において、図9の態様から金型を型締めして成形する工程を示す断面図である。
図11図7の成形装置において、図10の態様から金型を開いて樹脂成形品を取り出す工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」と称する。)について詳細に説明する。実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0015】
(第1実施形態)
まず、図1から図5を参照して、1枚の熱可塑性樹脂シートPを対象とする成形装置Xを用いた第1実施形態に係る樹脂成形品16の製造方法について説明する。成形装置Xは、図1に示すように、アキュムレータ1、プランジャー2、Tダイ3、押出機4、熱可塑性樹脂供給ホッパ5、一対のローラ6,6、一対の金型7,8を備えている。熱可塑性樹脂は、押出機4により溶融混練された後、アキュムレータ1内のアキュム室に一時的に貯留され、一定間隔ごとにプランジャー2によってTダイ3に供給される。金型7,8の外周には、型枠14,15が位置しており、また、Tダイ3には、熱可塑性樹脂シートPの厚みを調整するために、Tダイ3の先端部のスリット隙間の間隔を調整するスリット隙間調整装置19が設けられている。
【0016】
具体的には、まずアキュムレータ1、Tダイ3により押出速度が設定される。アキュムレータ1に接続される押出機4の押出し能力は樹脂成形品16の大きさにより適宜選択することが可能であるが、100Kg/時以上であることが成形サイクルを短縮させる観点から好ましい。このため、アキュムレータ1のアキュム室に貯留された熱可塑性樹脂はTダイ3のスリットの開口から1cm当り50Kg/時以上、好ましくは60Kg/時以上で押出される。
【0017】
Tダイ3に供給された熱可塑性樹脂は図示しないTダイ3本体のマニホールドから樹脂流路を通ってスリットから熱可塑性樹脂シートPとして押出される。Tダイ3本体は、一対のダイを重ね合わせてなり、Tダイ3本体の先端部分において一方のダイリップ及び他方のダイリップがスリット隙間をもって対向しており、スリット隙間の間隔はスリット隙間調整装置19により設定される。スリット隙間により押出される熱可塑性樹脂シートPの厚みが決定される。具体的には、Tダイ3から0.6〜6.0mmの厚さの熱可塑性樹脂シートPとして押出される。
【0018】
Tダイ3本体のスリット隙間調整装置19としては熱膨張式又は機械式があり、その両方の機能を併せ持つ装置を用いることが好ましい。スリット隙間調整装置19はスリットの幅方向に沿って等間隔に複数配置され、スリット隙間調整装置19によってスリット隙間を狭くしたり、広くしたりすることで幅方向における熱可塑性樹脂シートPの厚みを均一なものとする。
【0019】
機械式の調整手段として具体的には、図示しない一方のダイリップに向けて進退自在に設けたダイボルトを有し、その先端に圧力伝達部を介して調整軸が配置されている。調整軸には締結ボルトにより係合片が結合されており、係合片は一方のダイリップに連結されている。ダイボルトを前進させると圧力伝達部を介して調整軸が先端方向に押出されて一方のダイリップが押圧される。これにより、ダイリップは凹溝の部位で変形されてスリット隙間が狭くなる。スリット隙間を広くするにはこれと逆にダイボルトを後退させる。さらに、上記機械式の調整手段に合わせて熱膨張式の調整手段を用いることで精度良くスリット隙間を調整することができる。具体的には、図示しない電熱ヒーターにより調整軸を加熱して熱膨張させることで一方のダイリップが押圧され、スリット隙間が狭くなる。また、スリット隙間を広くするには電熱ヒーターを停止させ、図示しない冷却手段により調整軸を冷却して収縮させる。
【0020】
Tダイ3のスリットの開口から押出された熱可塑性樹脂シートPは、ドローダウン、ネックインなどにより肉厚のバラツキが発生することを防止するため、一対のローラ6,6間で挟圧して送り出される。
【0021】
Tダイ3のスリットの開口から押出される熱可塑性樹脂シートPは金型への転写性、追随性を良好とするため流動性の高い非晶性熱可塑性樹脂材料を用いることが好ましい。具体的には、230℃におけるメルトテンション(株式会社東洋精機製作所製メルトテンションテスターを用い、余熱温度230℃、押出速度5.7mm/分で、直径2.095mm、長さ8mmのオリフィスからストランドを押出し、このストランドを直径50mmのローラに巻き取り速度100rpmで巻き取ったときの張力を示す)が50mN以上であり、200℃におけるMFR(JIS K−7210に準じて試験温度200℃、試験荷重2.16kgにて測定)が3.0〜60g/10分、さらに好ましくは30〜50g/10分の樹脂材料を用いる。例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン(HIPS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)又はその混合物を使用することができる。
【0022】
Tダイ3より押出された溶融状態の熱可塑性樹脂シートPは、図2に示すように、間隔を開けて配置された一対のローラ6,6間に垂下する。一対のローラ6,6は、開閉機構(不図示)により開閉自在となっており、開閉機構によって一対のローラ6,6間の間隔を調整できる。一対のローラ6,6によって送り出された熱可塑性樹脂シートPは、金型7,8間に配置されることとなる。金型8には、キャビティ9が設けられており、キャビティ9は樹脂成形品16に転写されるシボ模様の転写面を有していてもよい。
【0023】
ここで、本実施形態では、キャビティ9の表面の少なくとも一部に、表皮材18(木目などの加飾を熱可塑性樹脂シートPの表面に施す加飾シートなど)が配置されている。これは、表皮材18を熱可塑性樹脂シートPの所望の領域に貼合するためのものである。表皮材18の詳細については、後述する。
【0024】
続いて、図3に示すように、金型7,8の外周に位置する型枠14,15を金型7,8に対して相対的に前進させ、溶融状態の熱可塑性樹脂シートPと密着させる。金型8には、キャビティ9の裏側に真空吸引室10及び吸引孔11が設けられており、吸引孔11から真空吸引することにより、熱可塑性樹脂シートPと表皮材18を併せてキャビティ9に吸着させ、概ねキャビティ9の形状に沿った形状とする。
【0025】
次いで、図4に示すように、熱可塑性樹脂シートPをキャビティ9に沿わせた後に型締めを行い、金型7に設けた圧力流体導入孔12から金型7,8内に加圧流体を吹き込み、熱可塑性樹脂シートPと表皮材18をキャビティ9に沿った形状に加圧形成する。これにより、熱可塑性樹脂シートPの表面に表皮材18が貼合されるとともに、凹凸形状からなるシボ模様が転写されることとなる。その後、金型7,8内で冷却された樹脂成形品16は、金型7,8を開いて離型した後に外周のバリを切除して完成する。
【0026】
表皮材18について、詳しく説明する。図5に、表面17に表皮材18が貼合された樹脂成形品16の例を示す。本実施形態では、図示したように、樹脂成形品16の所望の領域に表皮材18を貼合される。
【0027】
樹脂成形品16に表皮材18を貼合することにより複数の異なる樹脂からなる多層構造の樹脂成形品16とすることができる。表皮材18は、外観性向上、装飾性、成形品と接触する物の保護機能を有する。表皮材18の形態はシート、フィルムなどであり、印刷層が外面に付された樹脂シート、透明又は着色した樹脂シート、合成皮革等の厚みが0.1〜3.0mmのものが使用できる。なお、表皮材18の厚みが大き過ぎると金型形状に追従せず成形が困難となる。
【0028】
表皮材18の素材としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン、アクリル樹脂、熱可塑性エラストマーが挙げられる。本実施形態では、表皮材18を樹脂成形品16の表面に貼着させるため、前述のとおり、あらかじめ金型8のキャビティ9の表面に配置しておく。配置の方法は、例えば、表皮材18をキャビティ9に貼着しておくことができる。そして、熱可塑性樹脂シートPを表皮材18の側から真空吸引することにより、熱可塑性樹脂シートPと表皮材18とを熱溶着により貼合一体化することができる。と同時に、樹脂成形品16の表皮材18を貼着した側にシボ模様を転写することができる。
【0029】
表皮材18の構成について説明する。図6に示すように、表皮材18は、加飾用樹脂層181と基材層182を備えている。基材層182はキャビティ9に貼着され、加飾用樹脂層181は熱可塑性樹脂シートPに貼合される。ここで、表皮材18の側から真空吸引されるが、表皮材18は前述したような素材であるため不織布などとは異なり通気性がない。そこで、表皮材18には、表皮材18と熱可塑性樹脂シートPを一定的に吸引するため、微細な貫通孔18aが設けられている。これにより、金型8のキャビティ9の裏側に設けられている真空吸引室10及び吸引孔11から真空吸引したとき、貫通孔18aを介して熱可塑性樹脂シートPを確実に吸引することができる。ここで、後述するように、加飾用樹脂層181には結晶化遅延剤が混入されており、貫通孔18aが設けられていても、最終的には貫通孔18aが閉環して表面がきれいな樹脂成形品16を得ることができる。また、結晶化遅延剤入りの加飾用樹脂層181により、金型8の吸引孔11が樹脂成形品16に転写されてしまい見栄えが悪くなることも防止できる。なお、基材層182としては、熱可塑性樹脂シートPに貼着可能な材料から選定することができ、さらには同じ材料であることが好ましい。また、結晶化遅延剤は、少なくとも加飾用樹脂層181に混入されていればよいが、基材層182にも混入するようにしてもよい。
【0030】
基材層182は、図6に示すように、成形後に剥離されるが、加飾用樹脂層181に貫通孔18aが残存すると、樹脂成形品16の美的外観を損なう。そこで、本実施形態では、加飾用樹脂層181に残存する貫通孔18aを次のような手段で閉環させる。例えば、加飾用樹脂層181がポリプロピレンによって構成されている場合、結晶化遅延剤を混入しておくことにより、結晶化温度を10℃以上低下させて、貫通孔18aを閉環させる。なお、このように結晶化遅延剤を混入させて溶融温度を下げると、貫通孔18aを介して熱可塑性樹脂シートPを吸引し、熱可塑性樹脂シートPと表皮材18とを熱溶着により貼合一体化した後、表皮材18の溶融時間を長くすることが可能となり、型締め成形中に貫通孔18aが閉環していく。
【0031】
この閉環のメカニズムを説明すると、結晶化遅延剤が混入されていることにより、加飾用樹脂層181の結晶化温度は低下する。そのため、従来どおりに成形のステップを進行させていたとしても、表皮材18が冷却され固化するまでの時間を長く保つことが可能となる。そして、この結晶化を遅らせている間に、加飾用樹脂層181が収縮し(図6で示した矢印参照)、貫通孔18aを閉じるように作用する。これにより、加飾用樹脂層181は、美的外観上問題なく、熱可塑性樹脂シートPに転写される。なお、貫通孔18aは微細(例えば、300μm程度)であるため、貫通孔18aに熱可塑性樹脂シートPが入り込むことはない。
【0032】
結晶化遅延剤としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂であるアタクチックポリプロピレンやシリコーンオイルなどを用いることができる。シリコーンオイルの具体例としては、ジメチルポリシロキサン、モノメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アルキル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、アルキル高級アルコール変性シリコーン、アルコール変性シリコーン、クロロアルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、フッ素変性シリコーンなどが挙げられる。
【0033】
表皮材18の貫通孔18aの径、配置数、ピッチについて、説明する。表皮材18の貫通孔18aは、前述のように、最終的に閉環するように設定されることから、一般に金型8の吸引孔11よりも小さな径をもって構成される(図6で示した表皮材18の貫通孔18aと金型8の吸引孔11との位置関係を参照)。金型8の吸引孔11を成形の都度変更することは困難なことから、真空吸引の効果を得るため、表皮材18の貫通孔18aの径、配置数、ピッチが、成形の都度好適に設定される。例えば、真空吸引の引きを強くするために貫通孔18aの配置数を増やしたり、閉環が確実になされるために貫通孔18aの径を加飾用樹脂層181の厚みの2倍以下にしたり、金型8の吸引孔11を完全に閉塞してしまわないようにするために貫通孔18aのピッチを30mm以下としたりする、などである。
【0034】
(第2実施形態)
図7から図11を参照して、2枚の熱可塑性樹脂シートPを対象とする成形装置Yを用いた第2実施形態に係る樹脂成形品16の製造方法について、説明する。成形装置Yは、図示されているように、一対の熱可塑性樹脂シートP,Pを用いて樹脂成形品16を製造するものであり、アキュムレータ1、プランジャー2、Tダイ3、押出機4、熱可塑性樹脂供給ホッパ5、一対のローラ6,6のそれぞれが、一対の熱可塑性樹脂シートP,Pに対応して各別に配置されている。なお、図1から図6に示す第1実施形態の構成と同様の箇所には同符号を付して説明を省略する。
【0035】
第2実施形態では、一対の熱可塑性樹脂シートP,Pにより中空二重壁構造の樹脂成形品16を第1実施形態と同様に成形する。ここでは、中空二重壁構造の樹脂成形品16にはその両方の壁の表面に表皮材18,18が積層された例を示しているが、もちろん、一方の壁の表面のみに表皮材18を積層してもよい。また、キャビティ9によるシボ模様も表皮材18,18の両方又はいずれか一方に転写することも可能である。
【0036】
以上、実施形態及び実施例を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。なお、本実施形態は、被研磨体Sがブロー成形による成形品であっても射出成形による成形品であっても適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…アキュムレータ
2…プランジャー
3…Tダイ
4…押出機
5…熱可塑性樹脂供給ホッパ
6,6…一対のローラ
7,8…金型
9…キャビティ
10…真空吸引室
11…吸引孔
12…圧力流体導入孔
14,15…型枠
16…樹脂成形品
18…表皮材
19…スリット隙間調整装置
P…熱可塑性樹脂シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11