【文献】
HECHT, David L.,Analysis of serial versus simultaneous XY acoustooptic deflectors,2005 IEEE Ultrasonics Symposium,米国,IEEE,2005年 9月18日,pp.194-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について
図1〜
図3を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の第一実施形態に係るレーザー光路変更装置を示す全体構成図である。
図2は、結合器の構成の一例を示す概略構成図である。
【0014】
本発明の第一実施形態に係るレーザー光路変更装置1は、
図1に示したように、入力されたレーザー光Lを透過光Ltと回折光Ldとに分散させる三台の音響光学偏光器2(第一音響光学偏光器2a、第二音響光学偏光器2b、第三音響光学偏光器2c)と、各音響光学偏光器2で生じた回折光Ldを一つのレーザー光L′に集約する結合器3と、音響光学偏光器2の回折角θを制御する高周波信号発生器4と、を備え、音響光学偏光器2は、第二音響光学偏光器2bに第一音響光学偏光器2aの透過光Ltが入力され、第三音響光学偏光器2cに第二音響光学偏光器2bの透過光Ltが入力されるように接続された構成を有している。
【0015】
レーザー光Lは、
図1に示したように、レーザー発生装置5により発振される。レーザー発生装置5は、レーザー光の出力等の条件に応じて、既存の種々のレーザー発生装置の中から任意に選択することができる。レーザー光Lは、例えば、光ファイバーによって伝送される。
【0016】
音響光学偏光器2は、いわゆるAOD(Acousto-Optic Deflector)である。音響光学偏光器2は、
図1に示したように、高周波信号発生器4(RF信号発生器)に接続されており、高周波信号発生器4から音響光学偏光器2の素子に任意の周波数の高周波信号(RF信号)を印加することができるように構成されている。レーザー光路変更装置1を宇宙空間や原子力発電所等で使用する場合には、高周波信号発生器4として、産業用の小型RF信号発生器を耐放射線仕様に調整したものを使用してもよい。
【0017】
音響光学偏光器2におけるレーザー光Lの偏向位置は、印加するRF周波数に線形的に比例することから、高い周波数のRF信号を印加すると回折角θを大きくすることができ、低い周波数のRF信号を印加すると回折角θを小さくすることができる。
【0018】
したがって、音響光学偏光器2は、光路切替スイッチとして作用し、回折角θはRF信号の周波数によって任意に調整することができることから、出力チャネルは複数設けることができる。
図1に示した実施形態では、レーザー光Lを使用するクライアント機器C
1,C
2が二箇所であることから、出力チャネルを透過光用と回折光用の二つに設定している。
【0019】
すなわち、音響光学偏光器2は、一つの入力チャネルIと二つの出力チャネルO
1,O
2を有している。入力チャネルIは、音響光学偏光器2に入力するレーザー光L(透過光Ltを含む)を伝送する光ファイバーの一端を支持する構造体を含んでいる。また、入力チャネルIは、光軸の集束性を高めるレンズ等の光学部品を含んでいてもよい。
【0020】
出力チャネルO
1は、透過光Lt用の出力チャネルであり、出力チャネルO
2は、回折光Ld用の出力チャネルである。出力チャネルO
1,O
2は、透過光Lt又は回折光Ldを所定の場所に伝送する光ファイバーの一端を支持する構造体を含んでいる。また、出力チャネルO
1,O
2は、光軸の集束性を高めるレンズ等の光学部品を含んでいてもよい。
【0021】
ここで、三台の音響光学偏光器2は、第一音響光学偏光器2aの透過光Ltが第二音響光学偏光器2bの入力チャネルIまで光ファイバーによって伝送され、第二音響光学偏光器2bの透過光Ltが第三音響光学偏光器2cの入力チャネルIまで光ファイバーによって伝送されるように構成されている。そして、音響光学偏光器2を回折させない場合(非回折時)には、第三音響光学偏光器2cの透過光Ltは、伝送先の一つであるクライアント機器C
1に伝送される。
【0022】
また、第一音響光学偏光器2a、第二音響光学偏光器2b及び第三音響光学偏光器2cの回折光Ldは、それぞれ結合器3まで光ファイバーを介して伝送され、一つのレーザー光L′に集約されて伝送先の一つであるクライアント機器C
2に伝送される。
【0023】
結合器3は、位相の異なる三つの回折光Ldを一つのレーザー光L′に集約することから、回折光Ldの位相同期を行う位相調整機構31を含んでいてもよい。位相調整機構31は、例えば、
図2に示したように、MEMSミラー31aと、MEMSミラー31aの反射波を偏向するミラー31bと、レーザー光L′の一部を僅かに抽出するスプリッタ31cと、MEMSミラー31a及びスプリッタ31cに接続された制御装置32と、を備えている。
【0024】
制御装置32は、スプリッタ31cにより抽出されたレーザー光を受光し、レーザー光L′の出力を計測し、レーザー光L′の出力が最大となるようにMEMSミラー31aの位置又は角度を調節する。このように、MEMSミラー31aを制御することにより、回折光Ldの光路長を制御することができ、回折光Ldを位相同期させてレーザー光L′の出力を増大させることができる。
【0025】
本実施形態では、三つの回折光Ldを集約しているが、
図2に示したように、例えば、第一音響光学偏光器2aの回折光Ldについては光路長を調整する機構(MEMSミラー31a及びミラー31b)を省略し、残りの第二音響光学偏光器2b及び第三音響光学偏光器2cの回折光Ldについて光路長を調整する機構(MEMSミラー31a及びミラー31b)を挿入するようにしてもよい。かかる構成により、装置の軽量化及び低廉化を図ることができる。勿論、全ての回折光Ldについて光路長を調整する機構(MEMSミラー31a及びミラー31b)を挿入してもよい。
【0026】
なお、図示した位相調整機構31の構成は単なる一例であり、回折光Ldを伝送する光ファイバーの長さを予め調整しておくことにより、位相同期させるようにしてもよい。この場合、MEMSミラー31a、ミラー31b、スプリッタ31c及び制御装置32を省略することができ、装置の軽量化及び低廉化を図ることができる。
【0027】
また、音響光学偏光器2の内部では、レーザーエネルギーの数%が吸収されることによる発熱を生じる。例えば、kW級のパワーレーザーを伝送する場合には100W級の発熱を生じる。そこで、音響光学偏光器2の排熱を行うコールドプレート6(冷却器)を配置するようにしてもよい。例えば、音響光学偏光器2は、コールドプレート6の上面に密着して固定するようにしてもよいし、コールドプレート6で全体を覆うようにしてもよい。なお、冷却器は、音響光学偏光器2の排熱を行うことができるものであればよく、コールドプレート6に限定されるものではない。
【0028】
図1では、各音響光学偏光器2にコールドプレート6を個別に配置しているが、全ての音響光学偏光器2を一つのコールドプレート上の配置するようにしてもよい。また、コールドプレート6には、従来の宇宙機で採用されているヒートパイプ等の排熱ループを内蔵したものを使用してもよい。なお、入力チャネルI及び出力チャネルO
1,O
2は、
図1に示したように、コールドプレート6上に配置してもよいし、コールドプレート6の形状や大きさに応じてコールドプレート6の外側に配置してもよい。
【0029】
ところで、現在の音響光学偏光器2(AOD)の回折効率は非回折時の透過光Ltの出力の65〜70%である。すなわち、100%の入力光に対して30〜35%は回折せずに透過光Ltとして漏れることとなる。したがって、レーザー光Lの光路を切り替える際に、如何にレーザー光を高効率に伝送できるか否かが重要となる。
【0030】
そこで、本実施形態では、音響光学偏光器2を多段(例えば、三段)に配列して、それぞれの音響光学偏光器2からの回折光Ldを回収して集約することによりレーザー光の出力効率を向上させている。
【0031】
ここで、本実施形態に係るレーザー光路変更装置1を用いた場合の出力効率について、表1〜表3を用いて説明する。表1はレーザー光Lを回折させない場合(非回折時)の出力効率を示し、表2は回折効率が65%の場合の出力効率を示し、表3は回折効率が70%の場合の出力効率を示している。
【0033】
まず、レーザー光Lを回折させない場合(非回折時)について説明する。第一音響光学偏光器2aに100%のレーザー光Lを入力すると、約3%の熱ロスを生じることから、熱ロス後の出力は97%となる。第一音響光学偏光器2aは回折光Ldを生じないように制御されていることから、透過光Ltの出力は97%となり、この透過光Ltが第二音響光学偏光器2bにそのまま入力される。
【0034】
第二音響光学偏光器2bでは、入力光の出力が若干低下していることから、約2.9%の熱ロスを生じ、熱ロス後の出力は94.1%となる。第二音響光学偏光器2bは回折光Ldを生じないように制御されていることから、透過光Ltの出力は94.1%となり、この透過光Ltが第三音響光学偏光器2cにそのまま入力される。
【0035】
第三音響光学偏光器2cでは、入力光の出力がさらに低下していることから、約2.8%の熱ロスを生じ、熱ロス後の出力は91.3%となる。第三音響光学偏光器2cは回折光Ldを生じないように制御されていることから、透過光Ltの出力は91.3%となり、この透過光Ltがクライアント機器C
1に伝送される。すなわち、非回折時におけるレーザー光路変更装置1の出力効率は91.3%となる。
【0037】
次に、音響光学偏光器2の回折効率が65%の場合について説明する。第一音響光学偏光器2aに100%のレーザー光Lを入力すると、約3%の熱ロスを生じることから、熱ロス後の出力は97%となる。いま第一音響光学偏光器2aの回折効率は65%であるから、回折光Ldの出力は63.05%、透過光Ltの出力は33.95%となる。そして、33.95%の透過光Ltが第二音響光学偏光器2bに入力される。
【0038】
第二音響光学偏光器2bでは、入力光の出力が低下していることから、約1%の熱ロスを生じ、熱ロス後の出力は32.95%となる。いま第二音響光学偏光器2bの回折効率は65%であるから、回折光Ldの出力は21.42%、透過光Ltの出力は11.53%となる。そして、11.53%の透過光Ltが第三音響光学偏光器2cに入力される。
【0039】
第三音響光学偏光器2cでは、入力光の出力がさらに低下していることから、約0.1%の熱ロスを生じ、熱ロス後の出力は95.99%となる。いま第三音響光学偏光器2cの回折効率は65%であるから、回折光Ldの出力は7.43%、透過光Ltの出力は4%となる。
【0040】
また、各音響光学偏光器2の回折光Ldは結合器3に伝送され、結合器3によって一つのレーザー光L′に集約される。したがって、レーザー光L′の出力は、63.05%+21.42%+7.43%=91.9%となり、このレーザー光L′がクライアント機器C
2に伝送される。すなわち、回折時におけるレーザー光路変更装置1の出力効率は91.9%となる。
【0042】
次に、音響光学偏光器2の回折効率が70%の場合について説明する。第一音響光学偏光器2aに100%のレーザー光Lを入力すると、約3%の熱ロスを生じることから、熱ロス後の出力は97%となる。いま第一音響光学偏光器2aの回折効率は70%であるから、回折光Ldの出力は67.9%、透過光Ltの出力は29.1%となる。そして、29.1%の透過光Ltが第二音響光学偏光器2bに入力される。
【0043】
第二音響光学偏光器2bでは、入力光の出力が低下していることから、約1%の熱ロスを生じ、熱ロス後の出力は28.1%となる。いま第二音響光学偏光器2bの回折効率は70%であるから、回折光Ldの出力は19.67%、透過光Ltの出力は8.43%となる。そして、8.43%の透過光Ltが第三音響光学偏光器2cに入力される。
【0044】
第三音響光学偏光器2cでは、入力光の出力がさらに低下していることから、約0.1%の熱ロスを生じ、熱ロス後の出力は8.42%となる。いま第三音響光学偏光器2cの回折効率は70%であるから、回折光Ldの出力は5.89%、透過光Ltの出力は2.53%となる。
【0045】
また、各音響光学偏光器2の回折光Ldは結合器3に伝送され、結合器3によって一つのレーザー光L′に集約される。したがって、レーザー光L′の出力は、67.9%+19.67%+5.89%=93.46%となり、このレーザー光L′がクライアント機器C
2に伝送される。すなわち、回折時におけるレーザー光路変更装置1の出力効率は93.46%となる。
【0046】
このように、三台の音響光学偏光器2を用いることにより、非回折時及び回折時の両方の場合において出力効率を90%以上に保持することができ、クライアント機器C
1,C
2に伝送されるレーザー光の高効率化を図ることができる。
【0047】
なお、本実施形態では三台の音響光学偏光器2を用いた場合について説明したが、例えば、回折効率の高い音響光学偏光器が開発された場合には音響光学偏光器2を二台にしてもよいし、熱ロスの少ない音響光学偏光器を用いる場合には音響光学偏光器2を四台以上にしてもよい。
【0048】
上述した本実施形態に係るレーザー光路変更装置1によれば、レーザー光Lの光路を偏向する機器として音響光学偏光器2を採用したことにより、機械駆動部を有していないことから、装置の小型化及び長寿命化を図ることができる。また、音響光学偏光器2を採用したことにより、スイッチング速度をμs単位まで高速化することができる。また、音響光学偏光器2を採用したことにより、高電圧源を使用する必要がなく、装置の低廉化を図ることができる。
【0049】
次に、本発明の第二実施形態に係るレーザー光路変更装置1について、
図3を参照しつつ説明する。ここで、
図3は、本発明の第二実施形態に係るレーザー光路変更装置を示す全体構成図である。なお、
図1に示した第一実施形態と同一の構成部品については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0050】
上述したように、音響光学偏光器2は、回折角θをRF信号の周波数に応じて変更できることから、出力チャネルをn個(nは2以上の整数)に設定することができる。
図3に示したレーザー光路変更装置1は、n個のクライアント機器C
i(iは1〜nの整数)を有し、各音響光学偏光器2がn個の出力チャネルO
i(iは1〜nの整数)を有している。ここで、出力チャネルO
1は透過光Lt用であることから、n−1個の出力チャネルO
2〜O
nが回折光Ld用となる。
【0051】
本実施形態においても、レーザー光Lを回折させない場合(非回折時)には、第一音響光学偏光器2aの透過光Ltが第二音響光学偏光器2bに伝送され、第二音響光学偏光器2bの透過光Ltが第三音響光学偏光器2cに伝送され、最終的に第三音響光学偏光器2cの透過光Ltがクライアント機器C
1に伝送される。すなわち、音響光学偏光器2は、二番目以降の音響光学偏光器2に一つ前の音響光学偏光器2の透過光Ltが入力されるように直列に接続された構成を有している。
【0052】
また、n−1個のクライアント機器C
i(iは2〜nの整数)には、結合器3
i(iは2〜nの整数)が接続されており、各結合器3
iは制御装置32に接続されている。そして、各音響光学偏光器2における出力チャネルO
i(iは2〜nの整数)から出力される回折光Ldは、それぞれ同じ番号の結合器3
i(iは2〜nの整数)に伝送され、一つのレーザー光L′に集約される。すなわち、各音響光学偏光器2で生じた回折光のうち同一の回折角θを有する回折光Ldが一つのレーザー光L′に集約される。
【0053】
本実施形態に係るレーザー光路変更装置1によれば、クライアント機器C
iの個数に応じて、音響光学偏光器2の出力チャネルO
iの個数を設定することができ、各クライアント機器C
iに高出力のレーザー光を伝送することができる。
【0054】
上述した第一実施形態及び第二実施形態に係るレーザー光路変更装置1において、クライアント機器C
iは、例えば、宇宙太陽光発電送電施設、レーザー推進器、デブリ軌道変換用レーザー照射装置等の宇宙インフラ設備である。したがって、上述したレーザー光路変更装置1は、宇宙空間という放射線環境下で信頼性の高い動作が求められる場合を想定している。
【0055】
しかしながら、上述したレーザー光路変更装置1は、宇宙空間での使用に限定されるものではなく、類似する環境下である原子力発電設備内や作業者が立ち入ることができない高所作業等においても使用することができる。例えば、原子力発電設備内では、点検・補修・解体等に使用される多腕型又は多指型のレーザープロセッシング無人ロボットにレーザー光路変更装置1を使用することができる。
【0056】
本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。