(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粘度平均分子量が12,000〜16,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、シリコーン化合物(B)1質量部超7質量部以下を含有する樹脂組成物であって、
シリコーン化合物(B)は、末端にはシラノール基を含有せず、25℃での動粘度が3000mm2/sec超〜9200mm2/sec以下であり、25℃での屈折率(nD)が1.560〜1.600であり、且つ、下記式(1)を満たすことを特徴とする光学部材用ポリカーボネート樹脂組成物。
|nPC−nSi|×νSi ≦ 21 …(1)
[式中、nPCはポリカーボネート樹脂(A)の屈折率(nD)、nSiはシリコーン化合物(B)の屈折率(nD)、νSiはシリコーン化合物(B)の動粘度(25℃)である。]
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「〜」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
本発明の光学部材用ポリカーボネート樹脂組成物は、粘度平均分子量が12,000〜16,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、シリコーン化合物(B)1質量部超7質量部以下を含有する樹脂組成物であって、
シリコーン化合物(B)は、末端にはシラノール基を含有せず、25℃での動粘度が3000mm
2/sec超〜5万mm
2/sec未満であり、25℃での屈折率(nD)が1.560〜1.600であり、且つ、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
|nPC−nSi|×νSi ≦ 21 …(1)
[式中、nPCはポリカーボネート樹脂(A)の屈折率(nD)、nSiはシリコーン化合物(B)の屈折率(nD)、νSiはシリコーン化合物(B)の動粘度(25℃)である。]
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
[芳香族ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
本発明における芳香族ポリカーボネート樹脂は、
一般式:−[−O−X−O−C(=O)−]−で表される、炭酸結合を有する基本構造の重合体である。式中、Xは、芳香族炭化水素であるが、種々の特性付与のためヘテロ原子、ヘテロ結合の導入されたXを用いてもよい。
【0015】
芳香族ポリカーボネート樹脂の具体的な種類に制限は無いが、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体とを反応させてなる芳香族ポリカーボネート重合体が挙げられる。この際、芳香族ジヒドロキシ化合物及びカーボネート前駆体に加えて、ポリヒドロキシ化合物等を反応させるようにしても良い。また、二酸化炭素をカーボネート前駆体として、環状エーテルと反応させる方法も用いても良い。また芳香族ポリカーボネート重合体は、直鎖状でもよく、分岐鎖状でもよい。さらに、芳香族ポリカーボネート重合体は1種の繰り返し単位からなる単独重合体であってもよく、2種以上の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。このとき共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等、種々の共重合形態を選択することができる。なお、通常、このような芳香族ポリカーボネート重合体は、熱可塑性の樹脂となる。
【0016】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料モノマーとしての芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、以下のとおりである。
1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4−ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0017】
2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビナフチル、1,2−ジヒドロキシナフタレン、1,3−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0018】
2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテル、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0019】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−メトキシ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、
2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、
1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)(4−プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−ナフチルエタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,10−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0020】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,4−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,5−ジメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−プロピル−5−メチルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−tert−ブチル−シクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニルシクロヘキサン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0021】
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;等が挙げられる。
【0022】
これらのなかでもビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、なかでもビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0023】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0024】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0025】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0026】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0027】
本発明においては、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量が10,000〜16,000のものを用いる。粘度平均分子量が16,000以下とすることで、流動性と衝撃性のバランスに優れた樹脂組成物が得られる。粘度平均分子量は、好ましくは15,500未満であり、より好ましくは15,000未満、特には14,500未満が好ましく、また好ましくは10,500超であることがより好ましい。
粘度平均分子量をこのような範囲に調節するには、分子量調節剤の量を制御する等の公知の方法で可能である。
ポリカーボネート樹脂(A)は、一種又は2種以上を混合して使用してもよく、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して上記粘度平均分子量に調整してもよい。また、粘度平均分子量が上記の範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して、上記粘度平均分子量に調整して用いてもよい。
【0028】
ここで、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量[Mv]は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、
η=1.23×10
−4Mv
0.83 から算出される値を意味する。
また極限粘度[η]は、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出される値である。
【数1】
【0029】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の末端水酸基濃度は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、より好ましくは600ppm以下である。これにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物の滞留熱安定性及び色調をより向上させることができる。また、その下限は、特に溶融エステル交換法で製造された芳香族ポリカーボネート樹脂では、通常10ppm以上、好ましくは30ppm以上、より好ましくは40ppm以上である。これにより、分子量の低下を抑制し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的特性をより向上させることができる。
なお、末端水酸基濃度の単位は、芳香族ポリカーボネート樹脂の質量に対する、末端水酸基の質量をppmで表示したものである。その測定方法は、四塩化チタン/酢酸法による比色定量(Macromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)にて行われる。
【0030】
なお、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、芳香族ポリカーボネート樹脂の1種のみを含む態様に限定されず、モノマー組成、分子量、末端水酸基濃度等が異なる芳香族ポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
さらに、例えば、難燃性や耐衝撃性をさらに高める目的で、芳香族ポリカーボネート樹脂を、シロキサン構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性や難燃性をさらに向上させる目的でリン原子を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;熱酸化安定性を向上させる目的で、ジヒドロキシアントラキノン構造を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;光学的性質を改良するためにポリスチレン等のオレフィン系構造を有するオリゴマーまたはポリマーとの共重合体;耐薬品性を向上させる目的でポリエステル樹脂オリゴマーまたはポリマーとの共重合体;等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体として構成してもよい。
【0032】
また、成形品の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0033】
さらに芳香族ポリカーボネート樹脂は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂)であってもよい。前記の使用済みの製品としては、例えば、光学ディスク等の光記録媒体;導光板;自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材;水ボトル等の容器;メガネレンズ;防音壁、ガラス窓、波板等の建築部材などが挙げられる。また、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品またはそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
ただし、再生された芳香族ポリカーボネート樹脂は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含まれる芳香族ポリカーボネート樹脂のうち、80質量%以下であることが好ましく、なかでも50質量%以下であることがより好ましい。再生された芳香族ポリカーボネート樹脂は、熱劣化や経年劣化等の劣化を受けている可能性が高いため、このような芳香族ポリカーボネート樹脂を前記の範囲よりも多く用いた場合、色相や機械的物性を低下させる可能性があるためである。
【0034】
[シリコーン化合物(B)]
本発明に使用されるシリコーン化合物(B)は、末端にはシラノール基を含有せず、25℃での動粘度が3000mm
2/sec超〜5万mm
2/sec未満であり、25℃での屈折率(nD)が1.560〜1.600であり、且つ、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
|nPC−nSi|×νSi ≦ 21 …(1)
[式中、nPCはポリカーボネート樹脂(A)の屈折率(nD)、nSiはシリコーン化合物(B)の屈折率(nD)、νSiはシリコーン化合物(B)の動粘度(25℃)である。]
【0035】
シリコーン化合物(B)は、末端にはシラノール基を含有しない。通常シリコーン樹脂あるいはシリコーンオイルには末端がシラノール型のものと、そうではなく末端がトリメチルシロキシ基等で封鎖されたものがあるが、本発明におけるシリコーン化合物(B)は、後者の末端にはシラノール基を含有しない末端封鎖型のものである。
【0036】
シリコーン化合物(B)は、以下の一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
(式中、R
1〜R
4は、それぞれ独立して、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基であり、繰返し単位の数nは1以上である。)
【0037】
一般式(1)において、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基、オクチル基等が好ましく挙げられ、特にはメチル基が好ましい。シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、メチルシクロヘキシル基等の炭素数4〜20のシクロアルキル基が好ましい。アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、フェニル基、ナフチル基、特にフェニル基が好ましい。アリールアルキル基としては、炭素数7〜21のアリールアルキル基、例えばベンジル基、フェニルエチル基が好ましい。
【0038】
シリコーン化合物(B)としては、上記一般式(1)において、R
1がメチル基及びフェニル基であって、R
2、R
3及びR
4がメチル基又はフェニル基であるポリオルガノシロキサンが特に好ましい。
【0039】
本発明で使用するシリコーン化合物(B)は、当業者にはシリコーンオイルと呼ばれるもののであり、その中でも25℃での動粘度が3000mm
2/sec超〜5万mm
2/sec未満の範囲にあるものを使用する。動粘度が3000mm
2/sec以下では、低分子量成分の増加により付着物が増加する傾向となり、5万mm
2/sec以上になるとコンパウンド時におけるハンドリング性の低下、ポリカーボネートとの相溶性が低下するため透明性が低下する。動粘度は、好ましくは4500mm
2/sec以上であり、好ましくは2万mm
2/sec以下である。
【0040】
また、シリコーン化合物(B)は、25℃での屈折率(nD)が1.560〜1.600である。屈折率(nD)が1.560未満、または1.600を超えるとポリカーボネートとの相溶性が低下するため透明性が低下する。屈折率(nD)は、好ましくは1.570以上であり、好ましくは1.590以下である。
なお、本発明において、シリコーン化合物(B)の屈折率nDは、アッベ屈折計を用い、温度25℃において、D線(589nm)の波長を用いて測定される値である。後記するポリカーボネート樹脂(A)の屈折率nDも同様である。
【0041】
そして、本発明では、シリコーン化合物(B)の屈折率(nD)及び動粘度(25℃)は、以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
|nPC−nSi|×νSi ≦ 21 …(1)
[式中、nPCはポリカーボネート樹脂(A)の屈折率(nD)、nSiはシリコーン化合物(B)の屈折率(nD)、νSiはシリコーン化合物(B)の動粘度(25℃)である。]
上記式(1)が示すところは、ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率とシリコーン化合物(B)の屈折率の差が大きい場合はシリコーン化合物(B)の動粘度を小さくし、逆にポリカーボネート樹脂(A)とシリコーン化合物(B)の屈折率の差が小きい場合はシリコーン化合物(B)の動粘度が大きいものにして、調整することが好ましいことを意味する。
【0042】
シリコーン化合物(B)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、1質量部超7質量部以下である。シリコーン化合物(B)の含有量が1質量部以下では流動改質効果が不充分であり、7質量部を超えると耐衝撃性、耐熱性が低下する。シリコーン化合物(B)の好ましい含有量は、1.2質量部以上であり、より好ましくは1.5質量部以上であり、好ましくは6質量部以下、より好ましくは5.5質量部以下である。
【0043】
[リン系安定剤]
本発明の光学部材用ポリカーボネート樹脂組成物は、リン系安定剤を含有することが好ましい。リン系安定剤を含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の色相がより良好なものとなり、さらに耐熱変色性がより向上する。
リン系安定剤としては、公知の任意のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸;酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩;リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩;ホスフェート化合物、ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物などが挙げられるが、ホスファイト化合物が特に好ましい。ホスファイト化合物を選択することで、より高い耐変色性と連続生産性を有するポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
【0044】
ここでホスファイト化合物は、一般式:P(OR)
3で表される3価のリン化合物であり、Rは、1価または2価の有機基を表す。
このようなホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレン−ジホスファイト、6−[3−(3−tert−ブチル−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]−ジオキサホスフェピン等が挙げられる。
【0045】
このようなホスファイト化合物のなかでも、下記式(2)または(3)で表される芳香族ホスファイト化合物が、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の耐熱変色性が効果的に高まるため、より好ましい。
【0046】
【化2】
[式(2)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数6以上30以下のアリール基を表す。]
【0047】
【化3】
[式(3)中、R
4及びR
5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、炭素数6以上30以下のアリール基を表す。]
【0048】
上記式(2)で表されるホスファイト化合物としては、なかでもトリフェニルホスファイト、トリス(モノノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等が好ましく、なかでもトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトがより好ましい。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には例えば、ADEKA社製「アデカスタブ1178」、住友化学社製「スミライザーTNP」、城北化学工業社製「JP−351」、ADEKA社製「アデカスタブ2112」、BASF社製「イルガフォス168」、城北化学工業社製「JP−650」等が挙げられる。
【0049】
上記式(3)で表されるホスファイト化合物としては、なかでもビス(2,4−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトのようなペンタエリスリトールジホスファイト構造を有するものが特に好ましい。このような、有機ホスファイト化合物としては、具体的には例えば、アデカ社製「アデカスタブPEP−36」、「アデカスタブPEP−24G」、Doverchemical社製「Doverphos S−9228」等が好ましく挙げられる。
【0050】
ホスファイト化合物のなかでも、上記式(3)で表される芳香族ホスファイト化合物が、色相がより優れるため、より好ましい。
なお、リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0051】
リン系安定剤の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.005〜0.5質量部であり、より好ましくは0.007質量部以上、さらに好ましくは0.008質量部以上、特に好ましくは0.01質量部以上であり、また、より好ましくは0.4質量以下、さらに好ましくは0.3質量部以下、特に好ましくは0.2質量部以下、0.1質量部以下であることが最も好ましい。リン系安定剤の含有量が前記範囲の0.005質量部未満の場合は、色相、耐熱変色性が不十分となりやすく、リン系安定剤の含有量が0.5質量部を超える場合は、耐熱変色性がかえって悪化しやすく、湿熱安定性も低下しやすい。
【0052】
[添加剤等]
本発明の光学部材用ポリカーボネート樹脂組成物は、上記した以外のその他の添加剤、例えば、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、蛍光増白剤、顔料、染料、ポリカーボネート樹脂以外の他のポリマー、難燃剤、耐衝撃改良剤、帯電防止剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤は一種または二種以上を配合してもよい。
【0053】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法を広く採用でき、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)及びシリコーン化合物(B)、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常240〜320℃の範囲である。
【0054】
[光学部材]
本発明の光学部材用ポリカーボネート樹脂組成物は、上記したポリカーボネート樹脂組成物をペレタイズしたペレットを各種の成形法で成形して光学部材を製造することができる。またペレットを経由せずに、押出機で溶融混練された樹脂を直接、成形して光学部材にすることもできる。
【0055】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性に優れ、流動性と耐衝撃性のバランスに優れことから、特に射出成形法により、光学部材、特に薄肉の光学部材を成形するのに好適に用いられる。
【0056】
ここで、薄肉とは、通常肉厚が3mm以下、好ましくは2mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.8mm以下の板状部を有する成形品(部材)をいう。なお、板状部は、平板であっても曲板状になっていてもよく、平坦な表面であっても、表面に凹凸等を有してもよく、また断面は傾斜面を有していたり、楔型断面等であってもよい。
【0057】
光学部材としては、LED、有機EL、白熱電球、蛍光ランプ、陰極管等の光源を直接または間接に利用する機器・器具の部品が挙げられ、導光板や面発光体用部材等が代表的なものとして例示される。
導光板は、液晶バックライトユニットや各種の表示装置、照明装置の中で、LED等の光源の光を導光するためのものであり、側面または裏面等から入れた光を、通常表面に設けられた凹凸により拡散させ、均一の光を出す。その形状は、通常平板状であり、表面には凹凸を有していても有していなくてもよい。
導光板の成形は、通常、好ましくは射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法などにより行われる。
【0058】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いた導光板は、液晶バックライトユニットや各種の表示装置、照明装置の分野で好適に使用できる。このような装置の例としては、携帯電話、モバイルノート、ネットブック、スレートPC、タブレットPC、スマートフォン、タブレット型端末等の各種携帯端末、カメラ、時計、ノートパソコン、各種ディスプレイ、照明機器等が挙げられる。
【0059】
また、光学部材としては、自動車あるいはオートバイ等の車両用前照灯(ヘッドランプ)あるいはリアランプ、フォグランプ等において、LED等の光源からの光を導光するライトガイドやレンズ等も好適であり、これらにも好適に使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
以下の実施例及び比較例で使用した原料および評価方法は次の通りである。
【0061】
【表1】
【0062】
(実施例1〜3、比較例1〜10)
[樹脂組成物ペレットの製造]
上記した各成分を、以下の表2以下に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(田辺プラスチック機械社製「VS−40」)により、シリンダー温度250℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0063】
[透明性評価]
上記で得られたペレットを、110℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(住友重機械工業社製「SE8M」)を用い、
図2に示すようなしずく型金型を用いて、シリンダー温度を340℃、射出速度10mm/sec、成形サイクル10秒、金型温度40℃の条件にて、100ショット射出成形し終了後の成形品の状態を目視にて、以下の基準で、評価判定した。
○:透明である。
×:不透明である、及び/又は、シルバーストリークスの発生がある。
【0064】
なお、
図2のしずく型金型は、ゲートGから樹脂組成物を導入し、尖端P部分に発生ガスが溜まり易くなるように設計した金型である。ゲートGの幅は1mm、厚みは1mmであり、
図2において、幅h1は14.5mm、長さh2は7mm、長さh3は27mmであり、成形部の厚みは3mmである。
【0065】
[流動性評価(Q値)]
得られたペレットを110℃で5時間以上乾燥した後、JIS K7210 付属書Cに記載の方法にて、高化式フローテスターを用いて、240℃、荷重160kgfの条件下で組成物の単位時間あたりの流出量Q値(単位:×10
−2cm
3/sec)を測定し、流動性を評価した。なお、オリフィスは直径1mm×長さ10mmのものを使用した。Q値が高いほど、流動性に優れていることを示す。
【0066】
[耐衝撃性評価(シャルピー衝撃強度)]
得られたペレットを、110℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80III」)にて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃、成形サイクル45秒の条件で、ISO179−1、2に基づく3mm厚の耐衝撃性試験片を作製した。得られた試験片をR1mm/深さ2mmのノッチ切削加工を行い、測定は23℃の温度環境下においてノッチ付シャルピー衝撃強度(kJ/m
2)を測定した。
【0067】
[耐熱性評価(Tg)]
耐熱性の評価として、Tg(ガラス転移温度、単位:℃)を、JIS K7121に準じ、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「DSC220」)を用いて、各樹脂組成物のペレット約7mgを20℃/minの昇温速度で加熱してDSC曲線を測定した。次いで、JIS K7121(1987年)に準拠して、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分における曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度である補外ガラス転移開始温度を求め、これをガラス転移温度とした。Tgの数値が大きい程、耐熱性に優れることを示す。
以上の評価結果を以下の表2〜表3に示す。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
図1は、実施例と比較例の評価結果の中、流動性(横軸:Q値)と衝撃強度(縦軸:シャルピー衝撃値)をプロットしたグラフ図である。
図1のグラフから、実施例のもの(●と実線)は、比較例(▲と破線)に比べ右上方向にシフトしており、流動性と耐衝撃性の両方が顕著に向上していることが分かる。