(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(a)〜(c)の質量含有比が、(a):(b):(c)=0.4〜3.0:0.4〜2.0:10〜40であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真機器用帯電部材。
前記(b)の含有量が、前記弾性体層に含まれるポリマー成分100質量部に対し2.0質量部以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真機器用帯電部材。
前記(c)の含有量が、前記弾性体層に含まれるポリマー成分100質量部に対し10〜40質量部の範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子写真機器用帯電部材。
前記(a)および前記(b)が、第四級アンモニウム塩および第四級ホスホニウム塩から選択された1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子写真機器用帯電部材。
前記(a)および前記(b)のアニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンまたは過塩素酸イオンであることを特徴とする請求項6に記載の電子写真機器用帯電部材。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に係る電子写真機器用帯電部材は、感光ドラムなどの被帯電体を帯電させるものであれば、特に形状が限定されるものではない。例えば、ロール状、プレート状、ブロック状などの形状のものが適用可能である。特に好ましいものとしては、ロール状のものである。以下、ロール状のもの(帯電ロール)を例に挙げて説明する。
【0015】
本発明に係る電子写真機器用帯電ロール(以下、単に帯電ロールということがある。)について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用帯電ロールの外観模式図(a)と、そのA−A線断面図(b)である。
【0016】
帯電ロール10は、軸体12と、軸体12の外周に形成された弾性体層14と、弾性体層14の外周に形成された表層16と、を備える。弾性体層14は、帯電ロール10のベースとなる層である。表層16は、帯電ロール10の表面に現れる層となっている。
【0017】
弾性体層14は、下記(a)〜(c)を含む。
(a)常温で固体のイオン導電剤
(b)常温で液体のイオン導電剤
(c)平均粒径25〜90nm、DBP吸収量152ml/100g以下の電子導電剤
【0018】
常温で液体のイオン導電剤(以下、液体イオン導電剤ということがある)は、弾性体層14の抵抗を大きく下げることができるため、比較的少ない使用量でも弾性体層14の荷電性を高める効果がある。しかし、通電時に液体イオン導電剤のイオンが弾性体層14の表面に移動しやすいため、液体イオン導電剤の消費が激しく、弾性体層14の通電耐久性を低下させる。常温とは、25℃をいう。以下、同様である。
【0019】
常温で固体のイオン導電剤(以下、固体イオン導電剤ということがある)は、弾性体層14の抵抗を下げることはできるが、比較的多く用いないと弾性体層14の荷電性を高めるまでには至らない。弾性体層14の荷電性を高めるほどに固体イオン導電剤を用いると、弾性体層14の表面に固体イオン導電剤のブルームが生じる。一方で、液体イオン導電剤に比べ、通電時の固体イオン導電剤のイオンの移動は緩やかであり、弾性体層14の通電耐久性を良好にする。しかし、固体イオン導電剤は、液体イオン導電剤と比べて分散性が悪いため、弾性体層14の均一荷電性を低下させる傾向にある。
【0020】
ここで、固体イオン導電剤も液体イオン導電剤もともに極性材料である。このため、固体イオン導電剤は、弾性体層14のベースゴムよりも液体イオン導電剤に分散しやすい(溶解しやすい)。これにより、固体イオン導電剤は、液体イオン導電剤と同じように分散することができるため、液体イオン導電剤と併用することで固体イオン導電剤の分散性が向上する。また、固体イオン導電剤と液体イオン導電剤が相互作用することで、固体イオン導電剤が通電時の液体イオン導電剤のイオンの移動を緩和して弾性体層14の通電耐久性の低下を抑える効果もある。また、相互作用によって液体イオン導電剤のブリードを抑える効果もある。
【0021】
以上より、固体イオン導電剤と液体イオン導電剤を併用すると、長期に渡って均一に高荷電できる設計を確立できる。しかし、イオン導電剤は分子の自由度が抵抗に大きく関与する。したがって、外部環境によって抵抗が変動しやすい。それに伴って荷電性も変化する。このため、固体イオン導電剤と液体イオン導電剤の併用だけでは、荷電の環境安定性に劣る。また、固体イオン導電剤と液体イオン導電剤の併用だけでは、弾性体層14の通電耐久性と液体イオン導電剤のブリード抑制を両立することができない。液体イオン導電剤が少なすぎると弾性体層14の通電耐久性を満足できず、液体イオン導電剤が多すぎると液体イオン導電剤のブリードが抑えられない。
【0022】
電子導電剤は、弾性体層14の抵抗を下げることができるため、弾性体層14の荷電性を高める効果がある。また、電子導電剤は、外部環境に左右されないため、荷電の環境安定性を良好にする。加えて、通電時に電子導電剤に通電される分、イオン導電剤の消費を緩やかにするため、弾性体層14の通電耐久性を良好にする。一方で、電子導電剤は、イオン導電剤に比べて粒径が大きく分散性が悪いため、弾性体層14の均一荷電性を低下させる。そうすると、イオン導電剤と電子導電剤を単に併用しただけでは、弾性体層14の均一荷電性を満足できない。
【0023】
ここで、用いる電子導電剤は、DBP吸収量152ml/100g以下である。電子導電剤は、DBP吸収量が小さいものほどストラクチャーが小さい。ストラクチャーが小さいものほど表面の極性官能基(−OH、−COOHなど)が多い。そして、極性官能基が多いものほど相互作用により液体イオン導電剤に分散しやすい。電子導電剤のDBP吸収量が152ml/100g以下であることで、電子導電剤が液体イオン導電剤に分散しやすく、電子導電剤の分散性が向上する。これにより、弾性体層14の均一荷電性の低下が抑えられる。また、電子導電剤と液体イオン導電剤が相互作用することで、電子導電剤が通電時の液体イオン導電剤のイオンの移動を緩和して弾性体層14の通電耐久性の低下を抑える効果もある。また、相互作用によって液体イオン導電剤のブリードを抑える効果もある。
【0024】
また、用いる電子導電剤は、平均粒径25〜90nmである。電子導電剤は、粒径が小さすぎると凝集力が大きく分散しにくい。電子導電剤の平均粒径が25nm以上であることで、凝集が抑えられ、分散性が向上する。電子導電剤は、粒径が大きすぎると質量当たりの個数が少なくなり導電パスが形成されにくくなって良好な荷電性が得られにくくなる。電子導電剤の平均粒径が90nm以下であることで、導電パスが形成されやすくなり、良好な荷電性が得られる。
【0025】
以上より、液体イオン導電剤と特定の電子導電剤を併用すると、荷電の環境安定性、弾性体層14の通電耐久性、弾性体層14の均一荷電性を満足する設計ができる。しかし、液体イオン導電剤と特定の電子導電剤の併用だけでは、荷電性と液体イオン導電剤のブリード抑制を両立することができない。液体イオン導電剤が少なすぎると荷電性を満足できず、液体イオン導電剤が多すぎると液体イオン導電剤のブリードが抑えられない。そして、固体イオン導電剤と特定の電子導電剤の併用だけでは、弾性体層14の均一荷電性を満足することができない。
【0026】
本発明は、これらの欠点を補うことができるものであり、固体イオン導電剤と液体イオン導電剤と特定の電子導電剤を組み合わせて用いることで、固体イオン導電剤と液体イオン導電剤、液体イオン導電剤と特定の電子導電剤が相互に作用し、荷電性と、弾性体層14の通電耐久性と、荷電の環境安定性と、弾性体層14の均一荷電性と、イオン導電剤のブルーム・ブリード抑制と、を満足することができるようになる。これにより、低温低湿環境下から高温高湿環境下において、長期に渡り一定で優れた均一荷電性を有し、かつブリードの発生が抑えられたものとすることができる。
【0027】
電子導電剤のDBP吸収量は、液体イオン導電剤との相互作用による電子導電剤の分散性を向上する、液体イオン導電剤との相互作用による通電時の液体イオン導電剤のイオンの移動を緩和するなどの観点から、130ml/100g以下が好ましい。一方、電子導電剤と液体イオン導電剤の相互作用を適度に抑えて液体イオン導電剤のイオンの移動を抑えすぎないようにするなどの観点から、70ml/100g以上が好ましい。より好ましくは80ml/100g以上、さらに好ましくは90ml/100g以上である。電子導電剤のDBP吸収量は、JIS K6221に準拠して電子導電剤100gが吸収するDBP(ジブチルフタレート)量から算出される。
【0028】
電子導電剤の平均粒径は、分散性の向上の観点から、30nm以上が好ましい。また、良好な荷電性の観点から、80nm以下が好ましい。より好ましくは70nm以下である。電子導電剤の平均粒径は、電子導電剤を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径で表される。
【0029】
(a)固体イオン導電剤と(b)液体イオン導電剤と(c)特定の電子導電剤は、所定の配合割合とすることが好ましい。具体的には、(a)〜(c)の質量含有比は、(a):(b):(c)=0.4〜3.0:0.4〜2.0:10〜40であることが好ましい。特定の電子導電剤の割合が多くなると、弾性体層14の均一荷電性が低下しやすい。イオン導電剤の割合が多くなると、荷電の環境安定性が低下しやすい。液体イオン導電剤の割合が多くなると、液体イオン導電剤のブリードが発生しやすい。液体イオン導電剤の割合が少なくなると、荷電性や固体イオン導電剤や特定の電子導電剤の分散性が低下しやすい。固体イオン導電剤の割合が多くなると、弾性体層14の均一荷電性が低下しやすい。固体イオン導電剤の割合が少なくなると、液体イオン導電剤のブリード抑制効果が低下しやすい。
【0030】
(a)の含有量は、固体イオン導電剤のブリード(ブルーム)が抑えられやすいなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し3.0質量部以下であることが好ましい。また、荷電の環境安定性が向上するなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し2.0質量部以下であることが好ましい。より好ましくは1.5質量部以下である。一方、(a)の含有量は、液体イオン導電剤のブリードを抑える効果により優れるなどの観点から、ポリマー成分100質量部に対し0.5質量部以上であることが好ましい。
【0031】
(b)の含有量は、液体イオン導電剤のブリードが抑えられやすいなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し2.0質量部以下であることが好ましい。また、荷電の環境安定性が向上するなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し1.5質量部以下であることが好ましい。一方、(b)の含有量は、荷電性、弾性体層14の均一荷電性を高くする効果により優れるなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し0.5質量部以上であることが好ましい。
【0032】
(c)の含有量は、荷電の環境安定性を向上する効果により優れるなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し10質量部以上であることが好ましい。また、液体イオン導電剤のブリードを抑える効果により優れるなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し15質量部以上であることが好ましい。一方、(c)の含有量は、弾性体層14の均一荷電性の低下が抑えられやすいなどの観点から、弾性体層14に含まれるポリマー成分100質量部に対し40質量部以下であることが好ましい。より好ましくは30質量部以下である。
【0033】
固体イオン導電剤や液体イオン導電剤としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤などが挙げられる。
【0034】
第四級アンモニウム塩や第四級ホスホニウム塩としては、例えば、炭素数1〜18程度のアルキル基またはアリール基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、キシリル基など)を1種または2種以上有するものであって、ハロゲンイオン、ClO
4−、BF
4−、SO
42−、HSO
4−、C
2H
5SO
4−、CF
3COO
−、CF
3SO
3−、(CF
3SO
2)
2N
−、PF
6−、(CF
3CF
2SO
2)
2N
−、CF
3(CF
2)
3SO
3−、(CF
3SO
2)
3C
−、CF
3(CF
2)
2COO
−などの陰イオンを含むものなどが挙げられる。
【0035】
ホウ酸塩としては、例えば、炭素数1〜18程度のアルキル基またはアリール基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、フェニル基、キシリル基など)を1種または2種以上有するものであって、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどのアルカリ金属イオンもしくはアルカリ土類金属イオンを含むものなどが挙げられる。
【0036】
固体イオン導電剤としての第四級アンモニウム塩としては、4つのアルキル基が全て同じテトラアルキルアンモニウム塩や4つのアリール基が全て同じテトラアリールアンモニウム塩などが挙げられる。より具体的には、過塩素酸テトラブチルアンモニウムなどが挙げられる。固体イオン導電剤としての第四級ホスホニウム塩としては、4つのアルキル基が全て同じテトラアルキルホスホニウム塩や4つのアリール基が全て同じテトラアリールホスホニウム塩などが挙げられる。より具体的には、テトラブチルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。
【0037】
液体イオン導電剤としての第四級アンモニウム塩としては、4つのアルキル基のうちの1つが他と異なるアンモニウム塩や4つのアリール基のうちの1つが他と異なるアンモニウム塩などが挙げられる。より具体的には、トリメチルヘキシルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。液体イオン導電剤としての第四級ホスホニウム塩としては、4つのアルキル基のうちの1つが他と異なるホスホニウム塩や4つのアリール基のうちの1つが他と異なるホスホニウム塩などが挙げられる。より具体的には、トリブチルドデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどが挙げられる。液体イオン導電剤としてのホウ酸塩としては、より具体的には、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロほう酸塩などが挙げられる。
【0038】
(a)および(b)は、互いに相互作用しやすい、すなわち、固体イオン導電剤が液体イオン導電剤に分散しやすい(溶解しやすい)、固体イオン導電剤が通電時の液体イオン導電剤のイオンの移動を緩和しやすいなどの観点から、第四級アンモニウム塩および第四級ホスホニウム塩から選択された1種または2種以上であることが好ましい。この際、(a)および(b)は、同じ種類のものであってもよいし、異なる種類のものであってもよい。同じ種類とは、例えば(a)および(b)がいずれも第四級アンモニウム塩であること、あるいは、(a)および(b)がいずれも第四級ホスホニウム塩であることが挙げられる。また、(a)および(b)は、アニオンが、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF
3CF
2SO
2)
2N
−)または過塩素酸イオン(ClO
4−)であることが好ましい。
【0039】
(c)の電子導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト、c−TiO
2、c−ZnO、c−SnO
2(c−は、導電性を意味する。)などの導電性酸化物などが挙げられる。これらのうちでは、極性官能基を多く持ち、液体イオン導電剤に分散しやすいなどの観点から、カーボンブラック、グラファイトが好ましい。
【0040】
弾性体層14は、ベースゴム(ポリマー成分)を含む。これにより、ゴム弾性を有する層となる。弾性体層14は、上記(a)〜(c)とベースゴムを含有する導電性ゴム組成物により形成される。ベースゴム(架橋ゴム)は、未架橋ゴムを架橋することにより得られる。未架橋ゴムは、極性ゴムであってもよいし、非極性ゴムであってもよい。導電性に優れるなどの観点から、未架橋ゴムは極性ゴムがより好ましい。
【0041】
極性ゴムは、極性基を有するゴムであり、極性基としては、クロロ基、ニトリル基、カルボキシル基、エポキシ基などを挙げることができる。極性ゴムとしては、具体的には、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(アクリル酸エステルと2−クロロエチルビニルエーテルとの共重合体、ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)などを挙げることができる。極性ゴムのうちでは、体積抵抗率が特に低くなりやすいなどの観点から、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)がより好ましい。
【0042】
ヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などを挙げることができる。
【0043】
ウレタンゴムとしては、分子内にエーテル結合を有するポリエーテル型のウレタンゴムを挙げることができる。ポリエーテル型のウレタンゴムは、両末端にヒドロキシル基を有するポリエーテルとジイソシアネートとの反応により製造できる。ポリエーテルとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。ジイソシアネートとしては、特に限定されるものではないが、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0044】
非極性ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。
【0045】
架橋剤としては、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤、脱塩素架橋剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0046】
硫黄架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、塩化硫黄、チウラム系加硫促進剤、高分子多硫化物などの従来より公知の硫黄架橋剤を挙げることができる。
【0047】
過酸化物架橋剤としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどの従来より公知の過酸化物架橋剤を挙げることができる。
【0048】
脱塩素架橋剤としては、ジチオカーボネート化合物を挙げることができる。より具体的には、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−イソプロピルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートなどを挙げることができる。
【0049】
架橋剤の配合量としては、ブリードしにくいなどの観点から、未架橋ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部の範囲内、より好ましくは0.3〜1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲内である。
【0050】
架橋剤として脱塩素架橋剤を用いる場合には、脱塩素架橋促進剤を併用しても良い。脱塩素架橋促進剤としては、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(以下、DBUと略称する。)もしくはその弱酸塩を挙げることができる。脱塩素架橋促進剤は、DBUの形態として用いても良いが、その取り扱い面から、その弱酸塩の形態として用いることが好ましい。DBUの弱酸塩としては、炭酸塩、ステアリン酸塩、2−エチルヘキシル酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、フェノール樹脂塩、2−メルカプトベンゾチアゾール塩、2−メルカプトベンズイミダゾール塩などを挙げることができる。
【0051】
脱塩素架橋促進剤の含有量としては、ブリードしにくいなどの観点から、未架橋ゴム100質量部に対して、0.1〜2質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.3〜1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲内である。
【0052】
弾性体層14には、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。
【0053】
弾性体層14は、架橋ゴムの種類、イオン導電剤の配合量、電子導電剤の配合などにより、所定の体積抵抗率に調整することができる。弾性体層14の体積抵抗率は、用途などに応じて10
2〜10
10Ω・cm、10
3〜10
9Ω・cm、10
4〜10
8Ω・cmの範囲などに適宜設定すればよい。
【0054】
弾性体層14の厚みは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて0.1〜10mmの範囲内などで適宜設定すればよい。弾性体層14は、発泡体であってもよいし、非発泡体であってもよい。
【0055】
弾性体層14は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、軸体12をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、未架橋の導電性ゴム組成物を注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型するか、あるいは、軸体12の表面に未架橋の導電性ゴム組成物を押出成形するなどにより、軸体12の外周に弾性体層14を形成する。
【0056】
表層16は、バインダーを含む。バインダーとしては、(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂、メタクリル樹脂)、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、メラミン樹脂、シリコーン系樹脂などが挙げられる。これらは、表層16のバインダーとして1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、表面特性などの観点から、(メタ)アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネートがより好ましい。
【0057】
表層16は、表層の表面に粗さを形成するための粗さ形成用粒子や、添加剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。添加剤としては、導電剤、充填剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離形剤、染料、顔料、難燃剤などが挙げられる。
【0058】
導電剤としては、イオン導電剤、電子導電剤が挙げられる。イオン導電剤としては、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤などが挙げられる。電子導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト、c−TiO
2、c−ZnO、c−SnO
2(c−は、導電性を意味する。)などの導電性酸化物などが挙げられる。
【0059】
表層16は、材料種、導電剤の配合などにより、所定の体積抵抗率に調整することができる。表層16の体積抵抗率は、用途などに応じて10
5〜10
11Ω・cm、10
8〜10
10Ω・cmの範囲などに適宜設定すればよい。
【0060】
表層16の厚みは、荷電性を良好にしやすいなどの観点から、15μm以下であることが好ましい。より好ましくは12μm以下である。また、帯電部材10の表面に導電剤がブリード・ブルームするのを抑えやすいなどの観点から、3.0μm以上であることが好ましい。より好ましくは5.0μm以上である。
【0061】
表層16は、表層形成用組成物を弾性体層14の外周面に塗布・乾燥することにより形成することができる。表層形成用組成物は、バインダーを含む。また、必要に応じ、粗さ形成用粒子を含む。また、必要に応じ、表層に添加される各種添加剤を1種または2種以上含む。また、必要に応じ、溶媒を含む。
【0062】
軸体12は、導電性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属製の中実体、中空体からなる芯金などを例示することができる。軸体12の表面には、必要に応じて、接着剤、プライマーなどを塗布しても良い。つまり、弾性体層14は、接着剤層(プライマー層)を介して軸体12に接着されていてもよい。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行なっても良い。
【0063】
以上の構成の帯電ロール10によれば、弾性体層14が(a)常温で固体のイオン導電剤(b)常温で液体のイオン導電剤(c)平均粒径25〜90nm、DBP吸収量152ml/100g以下の電子導電剤を含むことで、低温低湿環境下から高温高湿環境下において、長期に渡り一定で優れた均一荷電性を有し、かつブリードの発生が抑えられる。
【0064】
本発明に係る帯電ロールの構成としては、
図1に示す構成に限定されるものではない。例えば、
図1に示す帯電ロール10において、軸体12と弾性体層14との間に他の弾性体層を備えた構成であってもよい。この場合、他の弾性体層は、帯電ロールのベースとなる層であり、弾性体層14が帯電ロールの抵抗調整を行う抵抗調整層などとして機能する。他の弾性体層は、例えば、弾性体層14を構成する材料として挙げられた材料のいずれかにより構成することができる。また、例えば、
図1に示す帯電ロール10において、弾性体層14と表層16との間に他の弾性体層を備えた構成であってもよい。この場合、弾性体層14が帯電ロールのベースとなる層であり、他の弾性体層は、帯電ロールの抵抗調整を行う抵抗調整層などとして機能する。
【実施例】
【0065】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0066】
(実施例1〜13、比較例1〜3)
<導電性ゴム組成物の調製>
ヒドリンゴム(ECO、ダイソー製「エピクロマーCG102」)100質量部に対し、加硫助剤(酸化亜鉛、三井金属製「酸化亜鉛2種」)を5質量部、加硫促進剤(2−メルカプトベンゾチアゾール、大内新興化学工業社製「ノクセラーM−P」)を0.5質量部、硫黄(鶴見化学工業社製、「サルファックスPTC」)を2質量部、充填剤(炭酸カルシウム、白石工業製「白艶華CC」)を50質量部添加し、表1に記載の配合量で電子導電剤とイオン導電剤を配合し、これらを攪拌機により撹拌、混合して導電性ゴム組成物を調製した。
【0067】
導電性ゴム組成物の調製に用いた電子導電剤およびイオン導電剤の詳細は以下の通りである。電子導電剤のDBP吸収量および平均径は、カタログ値である。固体イオン導電剤は、常温(25℃)で固体のイオン導電剤であり、液体イオン導電剤は、常温(25℃)で液体のイオン導電剤である。
・電子導電剤(1):カーボンブラック(旭カーボン製「旭#60H」)
・電子導電剤(2):カーボンブラック(東海カーボン製「シーストFY」)
・電子導電剤(3):カーボンブラック(旭カーボン製「旭#50U」)
・電子導電剤(4):カーボンブラック(新日化カーボン製「ニテロン#S」)
・電子導電剤(5):カーボンブラック(東海カーボン製「シーストKH」)
・電子導電剤(6):カーボンブラック(旭カーボン製「旭F−200」)
・電子導電剤(7):カーボンブラック(旭カーボン製「旭#51」)
・電子導電剤(8):カーボンブラック(東海カーボン製「シースト600」)
・固体イオン導電剤(1)P系:テトラブチルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(試薬)
・固体イオン導電剤(2)N系:過塩素酸テトラブチルアンモニウム(試薬)
・液体イオン導電剤(1)N系:トリメチルヘキシルアンモニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(試薬)
・液体イオン導電剤(2)P系:トリブチルドデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(試薬)
【0068】
<弾性体層の作製>
成形金型(パイプ状)に芯金(軸体、直径6mm)をセットし、上記の導電性ゴム組成物を注入し、180℃で30分加熱した後、冷却、脱型して、芯金の外周に厚み1.9mmの弾性体層を形成した。
【0069】
<表層の作製>
バインダー樹脂(N−メトキシメチル化ナイロン、ナガセケムテックス社製、「EF30T」)を用い、固形分濃度20質量%となるようにメチルエチルケトン(MEK)を加え、混合攪拌することにより、表層形成用の液状組成物を調製した。次いで、この液状組成物を弾性体層の外周面にロールコートし、熱処理を施すことにより、弾性体層の外周に表層(厚み10μm)を形成した。これにより、帯電ロールを作製した。
【0070】
(比較例4)
導電性ゴム組成物の調製において電子導電剤を配合しなかった以外は実施例と同様にして、導電性ゴム組成物の調製および帯電ロールの作製を行った。
【0071】
(比較例5〜6)
導電性ゴム組成物の調製において固体イオン導電剤を配合しなかった以外は実施例と同様にして、導電性ゴム組成物の調製および帯電ロールの作製を行った。
【0072】
(比較例7〜8)
導電性ゴム組成物の調製において液体イオン導電剤を配合しなかった以外は実施例と同様にして、導電性ゴム組成物の調製および帯電ロールの作製を行った。
【0073】
(比較例9)
導電性ゴム組成物の調製において電子導電剤と液体イオン導電剤を配合しなかった以外は実施例と同様にして、導電性ゴム組成物の調製および帯電ロールの作製を行った。
【0074】
作製した各帯電ロールについて、荷電性、荷電の経時変化(通電耐久性)、荷電の環境安定性、均一荷電性、耐ブリード性(ブリード・ブルーム抑制)を評価した。また、比較例について、リークアウトの評価も行った。
【0075】
(荷電性)
作製した帯電ロールを実機(RICOH製「MPC5503」)に組み、15℃×10%RH環境下にて、印刷画像の1枚目が良好な印字になるよう調整した帯電ロールにかかる電圧で判定した。電圧が小さいほど良好であり、電圧1.25kV以下を「◎」、電圧1.26kV〜1.30kVを「○」、電圧1.31kV以上を「×」とした。
【0076】
(荷電の経時変化)
作製した帯電ロールを実機(RICOH製「MPC5503」)に組み、15℃×10%RH環境下にて、印刷画像の1枚目と50万枚目の帯電ロールにかかる電圧差で判定した。電圧差が小さいほど良好であり、電圧差0.10kV以下を「◎」、電圧差0.11kV〜0.20kVを「○」、電圧差0.21kV以上を「×」とした。
【0077】
(荷電の環境安定性)
作製した帯電ロールを実機(RICOH製「MPC5503」)に組み、低温低湿環境LL(15℃×10%RH)と高温高湿環境HH(35℃×85%RH)の帯電ロールにかかる電圧差で判定した。電圧差が小さいほど良好であり、電圧差0.10kV以下を「◎」、電圧差0.11kV〜0.15kVを「○」、電圧差0.16kV以上を「×」とした。
【0078】
(均一荷電性)
同じ処方の帯電ロールを5本用意し、それぞれ実機(RICOH製「MPC5503」)に組み、15℃×10%RH環境下にて、印刷画像の1枚目が良好な印字になるよう調整した帯電ロールにかかる電圧を測定し、電圧が最も大きかったものと最も小さかったものの差で判定した。電圧差が小さいほど良好であり、電圧差0.05kV以下を「◎」、電圧差0.06kV〜0.10kVを「○」、電圧差0.11kV以上を「×」とした。
【0079】
(耐ブリード性)
同じ処方の帯電ロールを5本用意し、それぞれ実機(RICOH製「MPC5503」)に組み、15℃×10%RH環境下にて50万枚印刷したとき、ロール表面にイオン導電剤の染み出しが確認できるかで判定した。イオン導電剤の染み出しが確認された場合を「×」、イオン導電剤の染み出しが微量に確認されたが画像に影響が無かった場合を「〇」、イオン導電剤の染み出しが確認されなかった場合を「○」とした。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
実施例1,6,7,9〜12と比較例4〜8を見れば、液体イオン導電剤と固体イオン導電剤と電子導電剤を併用することで、荷電性、通電耐久性、荷電の環境安定性、均一荷電性、耐ブリード性を満足できることがわかる。比較例4から、液体イオン導電剤と固体イオン導電剤の併用だけでは、通電耐久性、荷電の環境安定性を満足できない。比較例7〜8から、固体イオン導電剤と電子導電剤の併用だけでは、均一荷電性を満足することができない。比較例5〜6から、液体イオン導電剤と電子導電剤の併用だけでは、荷電性、耐ブリード性を両立することができない。
【0083】
ただし、このためには、実施例1〜5と比較例1〜3から、電子導電剤のDBP吸収量が152ml/100g以下、電子導電剤の平均粒径が25〜90nmであることも必要である。電子導電剤のDBP吸収量が大きいものは、ストラクチャーが大きいため、表面の極性官能基が少なく、液体イオン導電剤への分散が悪化し、弾性体層全体に均一に分散されにくくなる。これにより、均一荷電性が悪くなる。電子導電剤の平均粒径が小さすぎると、電子導電剤の凝集が激しくなり、弾性体層全体に均一に分散されにくくなる。電子導電剤の平均粒径が大きすぎると、弾性体層全体に均一に導電パスが形成されにくい。これにより、均一荷電性が悪くなる。また、電子導電剤の平均粒径が小さすぎたり大きすぎたりすると(適度でないと)、電子導電剤の配合効果が十分に発揮されず、荷電性、通電耐久性、荷電の環境安定性も低下している。
【0084】
そして、実施例1,6,7,9〜12と比較例4、7〜9を見れば、液体イオン導電剤と併用することで固体イオン導電剤の分散性が向上し、均一荷電性が向上していることがわかる。このように、固体イオン導電剤が液体イオン導電剤と同様の高い分散性を示すようになったことで、液体イオン導電剤の一部に代えて固体イオン導電剤を用いることができるようになり(例えば実施例1と比較例6)、液体イオン導電剤を少なくして液体イオン導電剤のブリードを抑えることができるようになることがわかる。また、実施例11と比較例6を見れば、固体イオン導電剤と併用することで液体イオン導電剤のブリードも抑えられることがわかる。これは、互いに極性材料である固体イオン導電剤と液体イオン導電剤の相互作用によるものと推察される。
【0085】
また、実施例1,6,7,9〜12と比較例5〜8を見れば、液体イオン導電剤と併用することで電子導電剤の分散性が向上し、均一荷電性が向上していることがわかる。
【0086】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。