(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アレイ探触子から出射され、試験体への入射位置が設定されている複数の走査線の走査線ごとに、エコー高さが対応付けられているエコー高さ分布情報を取得する取得部と、
前記エコー高さ分布情報におけるエコー高さの分布状況を分析し、分析結果に基づいて前記エコー高さがノイズかどうかを判定する判定部と
を備え、
前記エコー高さ分布情報は、
格子状に横方向と縦方向とに並ぶ複数のセルに分割されている展開図であって、前記横方向と前記縦方向とのうち一方が試験体の長手方向を示し、他方が試験体の周に沿う方向を示し、各セルは、アレイ探触子の出射する1本の走査線が入射し入射した前記走査線のエコーが出射する前記試験体の表面の一部に対応し、かつ、前記エコー高さが設定されている電子データの展開図である試験体展開図であり、
前記判定部は、
前記試験体展開図に含まれる複数のセルの中から、前記エコー高さに基づいて、前記エコー高さが傷を示すと予想される傷セルを検出する第1検出部と、
検出された前記傷セルの周囲から、少なくとも一つの前記セルをチェックセルとして選択するチェックセル選択部と、
選択された前記チェックセルの中から前記第1検出部が検出した前記傷セルである検出傷セルと異なる傷セルである参照傷セルを、前記チェックセルのエコー高さに基づいて検出する第2検出部と、
前記第2検出部の検出結果に基づいて、前記第1検出部が検出した前記検出傷セルのエコー高さがノイズかどうかを識別するノイズ識別部と
を備える超音波探傷装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、接触媒質に含まれる異物によるエコーが検出エコーに含まれている場合に、検出エコーに対する信号処理によって、検出エコーのうち異物によるエコーをノイズとして特定する超音波探傷装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の超音波探傷装置は、
アレイ探触子から出射され、試験体への入射位置が設定されている複数の走査線の走査線ごとに、エコー高さが対応付けられているエコー高さ分布情報を取得する取得部と、
前記エコー高さ分布情報におけるエコー高さの分布状況を分析し、分析結果に基づいて前記エコー高さがノイズかどうかを判定する判定部と
を備える。
【0006】
前記エコー高さ分布情報は、
格子状に横方向と縦方向とに並ぶ複数のセルに分割されている展開図であって、前記横方向と前記縦方向とのうち一方が試験体の長手方向を示し、他方が試験体の周に沿う方向を示し、各セルは、アレイ探触子の出射する1本の走査線が入射し入射した前記走査線のエコーが出射する前記試験体の表面の一部に対応し、かつ、前記エコー高さが設定されている電子データの展開図である試験体展開図であり、
前記判定部は、
前記試験体展開図に含まれる複数のセルの中から、前記エコー高さに基づいて、前記エコー高さが傷を示すと予想される傷セルを検出する第1検出部と、
検出された前記傷セルの周囲から、少なくとも一つの前記セルをチェックセルとして選択するチェックセル選択部と、
選択された前記チェックセルの中から前記第1検出部が検出した前記傷セルである検出傷セルと異なる傷セルである参照傷セルを、前記チェックセルのエコー高さに基づいて検出する第2検出部と、
前記第2検出部の検出結果に基づいて、前記第1検出部が検出した前記検出傷セルのエコー高さがノイズかどうかを識別するノイズ識別部と
を備える。
【0007】
前記超音波探傷装置は、
前記1本の走査線が時間を異にして一つの前記セルに対応する前記試験体の表面の一部に複数回入射する場合、各時間における最大のエコー高さをその時間に入射する前記走査線のエコー高さの候補として採用し、採用した複数個のエコー高さのうち、時間的に連続して閾値を超える複数個のエコー高さが存在しないときは、採用した前記複数個のエコー高さのうち前記閾値未満のいずれかの前記エコー高さを、前記セルのエコー高さとして設定するエコー高さ設定部を備える。
【0008】
前記試験体展開図において前記試験体の長手方向に一列に並ぶ複数の前記セルの一列は、
複数本の走査線を出射する前記アレイ探触子の前記複数本の走査線のうちの同一の1本の走査線が入射される前記試験体の表面を示し、
前記試験体展開図の前記試験体の長手方向は、
前記試験体の搬送方向であり、
前記チェックセル選択部は、
前記試験体の長手方向に一列に並ぶ複数の前記セルのうち前記第1検出部が検出した前記検出傷セルを起点として、前記試験体が搬送される方向と逆の方向に並ぶ少なくとも一つの前記セルを前記チェックセルとして選択する。
【0009】
前記ノイズ識別部は、
前記第2検出部によってすべての前記チェックセルが前記参照傷セルとして検出される以外は、前記第1検出部が検出した前記検出傷セルのエコー高さを、ノイズと識別する。
【0010】
前記ノイズ識別部は、
前記第2検出部によって少なくとも一つの前記チェックセルが前記参照傷セルとして検出される場合、前記第1検出部が検出した前記検出傷セルのエコー高さを、ノイズと識別しない。
【0011】
前記試験体展開図の各セルは、
前記エコー高さに加え、前記エコー高さの発生するエコー深さが設定されており、
前記第2検出部は、
各セルに設定された前記エコー高さと、前記エコー高さの発生するエコー深さとに基づいて、前記参照傷セルを検出する。
【0012】
前記ノイズ識別部は、
前記アレイ探触子の出射する1本の走査線のエコーのエコー深さが前記試験体の表面の位置よりも浅い場合には、前記1本の走査線によって検出されたエコーの全部を、ノイズと識別する。
【0013】
前記試験体は、
長手方向が搬送方向であり、
前記ノイズ識別部は、
前記試験体の搬送方向と直交する方向に対向するように配置されて互いの間を前記試験体が搬送され、搬送される前記試験体に互いに向かい合う走査線を出射する2つのアレイ探触子のそれぞれから出射された前記走査線による検出結果を照合し、照合の結果、一方の走査線のみで検出されたエコーをノイズと認識する。
【0014】
前記ノイズ識別部は、
1本の走査線である第1の走査線を出射する第1のアレイ探触子の前記第1の走査線による検出結果と、前記第1のアレイ探触子よりも前記試験体の搬送方向の位置に配置されたアレイ探触子であり、前記第1のアレイ探触子と試験体の同じ断面を探傷するように設定されており前記第1の走査線と同じ向きで前記断面に入射する第2の走査線を出射するアレイ探触子である第2のアレイ探触子の前記第2の走査線による検出結果とを照合し、照合の結果、一方の走査線のみで検出されたエコーをノイズと認識する。
【0015】
前記ノイズ識別部は、
前記試験体の表面エコーが連続して検出されることにより前記試験体の存在を認識し、前記試験体が存在しないと認識する場合に検出されるエコーをノイズと識別する。
【0016】
この発明の超音波探傷プログラムは、
コンピュータに、
アレイ探触子から出射され、試験体への入射位置が設定されている複数の走査線の走査線ごとに、エコー高さが対応付けられているエコー高さ分布情報を取得する処理と、
前記エコー高さ分布情報におけるエコー高さの分布状況を分析し、分析結果に基づいて前記エコー高さがノイズかどうかを判定する処理と
を実行させる。
【0017】
この発明の超音波探傷方法は、
コンピュータが、
アレイ探触子から出射され、試験体への入射位置が設定されている複数の走査線の走査線ごとに、エコー高さが対応付けられているエコー高さ分布情報を取得しと、
前記エコー高さ分布情報におけるエコー高さの分布状況を分析し、分析結果に基づいて前記エコー高さがノイズかどうかを判定する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、接触媒質に含まれる異物によるエコーが検出エコーに含まれている場合に、検出エコーに対する信号処理によって、検出エコーのうち異物によるエコーをノイズとして特定する超音波探傷装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には、同一符号を付している。実施の形態の説明において、同一または相当する部分については、説明を適宜省略または簡略化する。
【0021】
図1は、探傷システム50を模式的に示す図である。探傷システム50は接触媒質を使用する。従って、複数のアレイ探触子は槽に満たされている接触媒質の中に配置される。探傷システム50は接触媒質として水を使用する例で説明するが、接触媒質は水に限らず不凍液あるいはその他の液体でもよい。探傷システム50では水槽200に満たされた水の中で試験体30の超音波探傷を行う。探傷システム50では複数のアレイ探触子は、水槽200に満たされた水の中に配置される。
図2は、
図1における4つのアレイ探触子T1からT4の配置を、斜視図として、模式的に示す図である。
図3は、8個のアレイ探触子T1からT4,T11からT14を使用する場合の取付配置を示す。
図4は、
図2及び
図3のX方向矢視におけるアレイ探触子の配置を模式的に示している。なお、X方向は試験体30の搬送方向102に同じである。
図5は、超音波探傷装置10のハードウェア構成を示す。
【0022】
(超音波探傷の概要)
図1に示すように、試験体30は、入り口側押さえ機構部310の上側ロール機構311と下側ロール機構312とに押さえられながら、下側ロール機構312によって搬送方向102へ送り出される。これにより、試験体30は、入り口側パッキン210から水槽200内部の水104の中に入っていく。
図1の例では、水槽200の水中には、4個のアレイ探触子T1からアレイ探触子T4が設置されている。4個のアレイ探触子T1からアレイ探触子T4は探触子ホルダ230に取り付けられている。試験体30は、この4個のアレイ探触子から超音波を照射されながら、出口側パッキン220から送り出され、その先端が出口側押さえ機構部320に達する。試験体30の先端が出口側押さえ機構部320に達すると、上側ロール機構321が下降して下側ロール機構322と共に試験体30を押さえ、下側ロール機構322の駆動で試験体30を搬送方向102へ送り出す。以上の動作により、4つのアレイ探触子で、試験体30の超音波探傷が実施される。なお、水槽200の水104の中にアレイ探触子を配置して、水中で超音波探傷を行うのは、アレイ探触子T1〜Tと試験体30との間における超音波の伝達効率を高めるためである。
図1では、
図2のように、4個のアレイ探触子が搬送方向102に一つずつ、仮想円柱101の各断面を示すA−A断面、B−B断面、C−C断面及びD−D断面に配置されている。
図2のA−A断面、B−B断面、C−C断面及びD−D断面は、
図1に示すA−A断面、B−B断面、C−C断面及びD−D断面に対応する。
【0023】
図3では、
図2の範囲L1のアレイ探触子T1からT4の配置が、範囲L2で繰り返されている。つまり、4個のアレイ探触子T1からアレイ探触子T4の並びが、アレイ探触子T11からアレイ探触子T14の並びとして繰り返されている。
図3に示すアレイ探触子を8個使用する方式は、後述する。
【0024】
(アレイ探触子のエコー検出範囲)
図4を参照して、アレイ探触子のエコーの検出範囲を説明する。アレイ探触子T1は範囲21のエコーを検出し、アレイ探触子T2は範囲22のエコーを検出し、アレイ探触子T3は範囲23のエコーを検出し、アレイ探触子T4は範囲24のエコーを検出する。
具体的には、
図2において、試験体30の搬送方向102の全長における全周を、アレイ探触子T1からアレイ探触子T4で探傷する。同様に、アレイ探触子T11は範囲21のエコーを検出し、アレイ探触子T12は範囲22のエコーを検出し、アレイ探触子T13は範囲23のエコーを検出し、アレイ探触子T14は範囲24のエコーを検出する。試験体30の搬送方向102の全長における全周を、アレイ探触子T11からアレイ探触子T14で、アレイ探触子T1からアレイ探触子T4と同様に、再度、探傷する。
【0025】
(試験体30)
試験体30は、水槽200の水中を略直線的な軌道で通過する棒状体を想定する。試験体30は、入り口側押さえ機構部310によって搬送されることにより、水槽200に形成された入り口側パッキン210を介して、大気中から水槽200の水中に進入する。そして、試験体30は、出口側押さえ機構部320によって水槽200から引き出されるようにして、水槽200に形成された出口側パッキン220を介して水中から大気中へ出ていく。試験体30は、例えば、長さが3m〜6m程度であり、直径φdは18mm〜120mm程度である。ただし、この寸法は一例であり、試験体30の寸法はこれらに限定されない。
試験体30は、断面が円形、矩形、多角形等であるが、特に限定されない。
図1の探傷システム50では、上記のような寸法の試験体30が、0.5秒程度の間隔で、水槽200の中に搬入される。
【0026】
(アレイ探触子)
図1に示すように、アレイ探触子T1からアレイ探触子T4は、試験体30が入り口側パッキン210から出口側パッキン220に向かう搬送方向102において、順次一つずつ設置されている。
図1に示すように、A−A断面位置にはアレイ探触子T1が設置され、B−B断面位置にはアレイ探触子T2が設置され、C−C断面位置にはアレイ探触子T3が設置され、D−D断面位置にはアレイ探触子T4が設置されている。
【0027】
***構成の説明***
図5の左側は、
図1のX方向矢視における4つのアレイ探触子T1からT4の配置の概略図である。
図5の右側は超音波探傷装置10のハードウェア構成を示している。
図5のように、4つのアレイ探触子T1からT4は、試験体30のまわりに配置されている。各アレイ探触子は、走査線を発する。走査線は超音波ビームと呼ばれることもある。本明細書では走査線と表記する。
【0028】
図5に示すように超音波探傷装置10は、ハードウェア構成として、プロセッサ11、主記憶装置12、補助記憶装置13、送受信部14、アレイ探触子T1、T2、T3、T4を備えている。超音波探傷装置10はコンピュータである。アレイ探触子の個数は4個でもよいし8個でも良いし、それ以外の複数個でも良い。プロセッサ11、主記憶装置12、補助記憶装置13、送受信部14は、バス15で接続されている。
【0029】
各アレイ探触子は、信号線18によって、送受信部14と接続している。各アレイ探触子は、試験体30に向けて超音波を送信し、そのエコーを受信する。一つのアレイ探触子は、複数の振動子を有している。複数の振動子の発振によって一本の走査線が形成される。送受信部14は、アレイ探触子を用いて走査線を送信し、送信した走査線のエコーを受信する。
【0030】
超音波探傷装置10は機能要素として、制御部110、取得部120、判定部130を備える。判定部130は、第1検出部131、チェックセル選択部132、第2検出部133、ノイズ識別部134、エコー高さ設定部135を備えている。制御部110、取得部120及び判定部130を実現する超音波探傷プログラムは、補助記憶装置13に格納されている。制御部110、取得部120及び判定部130を実現する超音波探傷プログラムは、プロセッサ11により主記憶装置12に読み出され、プロセッサ11が主記憶装置12から読み出して実行することで、制御部110、取得部120及び判定部130の機能が実現される。
なお超音波探傷プログラムは、記録媒体に記録されてもよいし、プログラムプロダクトとして提供されてもよい。
【0031】
***動作の説明***
図6から
図26を参照して、超音波探傷装置10の動作を説明する。超音波探傷装置10の動作は、制御部110、取得部120及び判定部130が実行する。超音波探傷装置10の動作は超音波探傷プログラムによって行われる。超音波探傷装置10の動作は超音波探傷方法である。アレイ探触子では、取得部120による、送受信素子の選択及び各種の送受信設定に従って、1本の走査線が形成される。
図6は、垂直走査線を示す図である。
図7は、斜角探傷に使用される斜角走査線を示す図である。指定された探傷方式に従って、垂直探傷に使用される
図6に示す垂直走査線、斜角探傷に使用される
図7に示す斜角走査線などの探傷用の走査線が制御部110の制御によってアレイ探触子から送信され、超音波探傷が行われる。
【0032】
図8は、スキャンとステップとの関係を示す図である。本実施の形態では、1スキャンとは、一つのアレイ探触子において複数の走査線を順次送信する一巡をいう。
図8では、走査線1、走査線2、走査線3、走査線4の4本が一巡である例を示している。1スキャンの次は、次の1スキャンとなるが、次の1スキャンも走査線1、走査線2、走査線3、走査線4の一巡である。このように、走査線1から走査線4の走査線の一巡をスキャンと称し、スキャン中の各走査線による探傷をステップと称する。
図8の例のように、ステップ<1>は素子1〜素子20の20個の素子を制御部110が送信制御することにより一本の走査線1を生成する工程である。ステップ<2>は、素子21〜素子40を制御部110が送信制御することにより一本の走査線2を生成する工程である。ステップ<3>は、素子41〜素子60を制御部110が送信制御することにより一本の走査線3を生成する工程である。ステップ<4>は、素子61〜素子80を制御部110が送信制御することにより一本の走査線4を生成する工程である。
【0033】
(ノイズと試験体内傷の識別方法)
アレイ探触子では送受信素子の選択及び各種の送受信設定に従って、1つの走査線が形成されるが、実施する探傷方式に従って、垂直探傷を行う垂直走査線、斜角探傷を行う斜角走査線のような走査線を用いて超音波探傷が行われる。
図8で述べたように、設定された走査線の一巡をスキャンと称し、スキャン中の各走査線の探傷をステップと称する。
【0034】
以下に、取得部120及び判定部130が実行する、ノイズ識別方法Aからノイズ識別方法Dの4つのノイズ識別方法を説明する。
【0035】
<ノイズ識別法A>
ノイズ識別法Aとしてエコー高さの領域的な連続性によるノイズ識別を説明する。
【0036】
(基本的な考え方)
検出傷に対し、アレイ探触子から発振される走査線は傷を検出するのに十分なビーム幅を持っている。よって、傷は隣接する走査線でも検出される。これに対し、異物は走査線単体、つまり1本の走査線で検出されやすい特性がある。
図9は、超音波探傷を説明するである。
図9の内容を
図10を用いて説明する。
【0037】
図10は、異物の検出状況を説明する図である。
図10はアレイ探触子T1が垂直走査線を発振する場合を示している。
図10ではアレイ探触子T1は走査線1から走査線5を送信するものとする。<1>から<5>は、走査線1から走査線5の発振元を概念的に示している。アレイ探触子は走査線1から走査線5のうち、最初に、走査線3を送信する。傷は隣接する走査線でも検出される。つまり、走査線3の送信後に、走査線2、走査線4によっても、傷は検出される。しかし、走査線3を送信後に、走査線2、走査線4を送信した場合、異物は、走査線2及び走査線4で検出されにくい。このような、傷と異物とのエコーの特性の相違から、後述するエコー高さの連続性の判定により、エコー高さに対してそのエコー高さがノイズであるか傷であるかを識別する。また、エコー高さの連続性の判定の効果を上げる為、走査線の送信順は隣接する走査線から離れた位置の走査線から発振を行い、隣接する走査線を連続的に発振しないように設定する。具体的には
図10において、最初に走査線3を送信した場合は、制御部110は、走査線3の隣接走査線である走査線2及び走査線4は送信せず、走査線2及び走査線4以外の走査線、つまり走査線1または走査線5を走査線1の次に送信する。
図10では、発振の順番は、早い順に、走査線3、走査線1、走査線5、走査線2、走査線4である。このような走査線の送信順序であれば、最初の走査線3で異物のエコーを検出した場合、走査線3の隣接走査線2,4が送信されるまで、走査線1及び走査線5を発振する時間△Tが生じる。この時間△Tの間に異物が移動して隣接走査線2,4によって異物が検出される可能性がさらに低くなる。したがって、制御部110が隣接走査線を連続的に発振しないことで、エコー連続性の判定の効果があがる。
【0038】
図11は、
図10の走査線3、走査線1、走査線5、走査線2及び走査線4による、エコーデータの検出結果の例を示す。5つの各グラフにおいて、横軸は深さ(または時間)を示し、縦軸はエコー高さを示す。エコー高さはエコーの信号強度を示す。
図11にはエコー高さの閾値であるエコー閾値THを記載している。走査線3によって、傷の可能性のあるエコー81、異物の直接反射エコーの可能性のあるエコー98及び異物の多重反射エコーの可能性のあるエコー99が検出されている。
図10の説明で述べた「傷と異物との特性の相違」によって、走査線1、走査線5及び走査線2のグラフでは、エコー98及びエコー99は出現していない。言い換えれば、出現していないエコーの高さをゼロと考えれば、エコー98及びエコー99のエコー高さはエコー閾値THよりも低い。
走査線4のグラフではエコー99が出現しているがエコー99のエコー高さはエコー閾値THよりも低い。一方、5つのグラフの全てにおいてエコー81はエコー閾値THを超えており、エコー高さの連続性がある。
【0039】
判定部130は、例えば、エコー高さの連続性の判定を例えば以下のように行う。走査線1、走査線5、走査線2及び走査線4のグラフでは、エコー閾値TH以上のエコーはエコー81のみである。つまり、走査線3、1、5、2、4に関してエコー高さの連続性のあるエコーは、Sエコー及びBエコーを除きエコー81のみでる。よって、判定部130はエコー高さの連続性がないエコー98及びエコー99をノイズと判定する。一方、判定部130は、エコー高さの連続性のあるエコー81を傷エコーであると判定する。
【0040】
超音波探傷装置10は「エコー高さの連続性によるノイズ識別の判定方式」を実行し、エコー高さがノイズかどうかを識別する。
以下に示す判定方式A1と判定方式A3では、取得部120は、アレイ探触子から出射され、試験体30への入射位置が設定されている複数の走査線の走査線ごとに、エコー高さが対応付けられているエコー高さ分布情報を取得する。エコー高さ分布情報の例は後述の平面展開
図400である。判定部130は、エコー高さ分布情報におけるエコー高さの分布状況を分析し、分析結果に基づいてエコー高さがノイズかどうかを判定する。以下に、「エコー高さの連続性によるノイズ識別の判定方式」として、判定方式A1、判定方式A2及び判定方式A3を説明する。判定方式A1、判定方式A2及び判定方式A3は、互いに独立の判定方式である。
【0041】
(探傷結果の試験体展開図)
判定方式A1から判定方式A3の説明の前に、判定方式A1から判定方式A3の基礎となる探傷結果の試験体展開
図400を説明する。
図12は、試験体展開
図400を示す。
図13は、平面展開
図400と試験体30の表面との関係を説明する図である。
図13では、アレイ探触子Tは省略しているがアレイ探触子Tの配置は
図2と同じである。
平面展開
図400は電子データである。
図12の平面展開
図400は、
図13の0度から360度の試験体30の表面が展開されたものに相当する。
図14は、
図13の左の端部をX方向から見た図であり、4つのアレイ探触子の配置を模式的に示す。アレイ探触子Tの配置は
図4と同じであるが、見易さのため、アレイ探触子Tを試験体30の周方向にずらしている。
図14では1本の走査線<3>をハッチングで示しているが他の走査線も走査線<3>と同様である。
図15は、
図14の4つのアレイ探触子の配置と試験体30との関係を模式的に示す。
図15では試験体30の長手方向(搬送方向102に同じ)に配置された4つのアレイ探触子と周に沿う角度との関係も示している。
【0042】
図12に示すように、試験体展開
図400は、格子状に横方向と縦方向とに並ぶ複数のセルに分割されている展開図である。平面展開
図400は、横方向と縦方向とのうち一方が試験体30の長手方向を示し、他方が試験体30の周に沿う方向を示す。
図12では横方向が試験体30の長手方向であり、縦方向が試験体30の周に沿う方向である。試験体展開
図400では、各セルは、アレイ探触子の出射する1本の走査線が入射し入射した走査線のエコーが出射する試験体30の表面の一部に対応する。
図12において<1>等はアレイ探触子の走査線1等の発振元に対応するセルであることを示している。例えばアレイ探触子T1に対応する各セルには、エコー高さが設定されている。
試験体展開
図400において試験体30の長手方向である搬送方向102に一列に並ぶ複数のセルの一列は、複数本の走査線を出射するアレイ探触子の複数本の走査線のうちの同一の1本の走査線が入射される試験体30の表面を示す。つまり
図12のアレイ探触子T1の最上段の横一列の各セルには走査線1のエコー高さが設定される。以下の
図16から
図21、及び
図25では、0度から360度のうち周に沿う方向の一部を模式的に表している。
【0043】
図16は、試験体30に対する探傷結果の試験体展開
図400の例を示している。
図16では、わかり易さのため、便宜的に試験体展開
図400にアレイ探触子T1を記載している。アレイ探触子T1は走査線1から走査線5を発振する。
図16の左側には、試験体30及びアレイ探触子TのX方向矢視を概念的に記載している。試験体30を示す試験体展開
図400には、走査線1の探傷結果が格納される上から1番目の横並びの複数のセルと、走査線2の探傷結果を格納される上から2番目の横並びの複数のセルと、走査線3の探傷結果を格納される上から3番目の横並びの複数のセルと、走査線4の探傷結果を格納される上から4番目の横並びの複数のセルと、走査線5の探傷結果を格納される上から5番目の横並びの複数のセルと、が設定されている。それぞれの横並びのセルは、各走査線に対応する。走査線1を例にすれば、一つのセルは走査線1の1回または複数回の発振に対応している。
【0044】
試験体展開
図400の各セルには、エコー高さ設定部135によって、探傷結果であるエコー高さが設定されている。探傷結果は補助記憶装置13に記憶されている。エコー高さ設定部135は、記憶されているデータを補助記憶装置13から取得して試験体展開
図400に設定し、データを設定した平面展開
図400を補助記憶装置13に格納する。取得部120は、処理が必要な場合は補助記憶装置13から平面展開
図400を取得する。判定部130は、取得部120の取得した平面展開
図400を処理する。
図16では試験体展開
図400の縦の列(Y方向の列)は、一つのアレイ探触子の走査線1から走査線5の探傷結果を示す。試験体展開
図400の横方向(X方向)は試験体30の搬送方向102の長さを表す。Y方向は試験体30の周に沿う方向を示す。
【0045】
(判定方式A1)
エコー高さの連続性によるノイズ識別の判定方式A1は、ステップ方向(
図8)の連続性判定である。後述の
図17で説明するが、チェックエリアに「連続性のあるエコー高さ」が検出されない場合、ノイズ識別部134は、エコー閾値THを超えたエコーであってもそのエコーをノイズと判定する。
【0046】
(連続性のあるエコー高さの定義)
「連続性のあるエコー高さ」とは、以下の定義1または定義2の場合をいう。「連続性のあるエコー高さ」の定義として定義1を採用するか定義2を採用するか、判定部130に自由に設定できる。
【0047】
定義1:エコー閾値TH以上のエコー高さが連続する」場合に、連続性のあるエコー高さという。
定義2:エコー閾値TH以上のエコー高さ、かつ、同じエコー深さが連続する」場合を、連続性のあるエコー高さという。そのエコーが「連続性のあるエコー高さ」に該当しない場合、ノイズ識別部134は、そのエコーをノイズと判定する。詳細は後述する。
【0048】
図17は、判定方式A1を説明する図である。
図18は、超音波探傷装置10の判定方式A1の動作を示すフローチャートである。
図17は、
図16のうち走査線2から走査線4を示している。
図17では各セルには走査線が1回送信された際のエコー高さが格納されるとする。
【0049】
(1)ステップ10において、第1検出部131は、試験体展開
図400に含まれる複数のセルの中から、エコー高さに基づいて、エコー高さが傷を示すと予想される傷セルを検出する。試験体展開
図400は取得部120が取得する。具体的には、第1検出部131は、走査線3のセル[0]にエコー閾値THを超えるエコー高さが設定されていることを検出する。検出されるセル[0]は検出傷セルである。
(2)ステップ20において、チェックセル選択部132は、検出された検出傷セルの周囲から、少なくとも一つのセルをチェックセルとして選択する。つまり、チェックセル選択部132は、セル[0]の周囲から少なくとも一つのセルをチェックセルとして選択する。
図17では、チェックセル選択部132は、チェックセルとして、走査線2の探傷結果が格納されているセル[1]からセル[5]、走査線4の探傷結果が格納されているセル[6]からセル[10]をチェックセルとして選択している。チェックセルの領域をチェックエリアと呼ぶ。チェックセル選択部132によるチェックセルの選択個数は自由に設定できる。例えば、チェックセル選択部132によるチェックセルの選択規則は予めチェックセル選択部132のプログラムに設定されていてもよいし、チェックセル選択部132が機械学習によりチェックセルの選択規則を学習してもよい。但しエコー高さの連続性の確認をするので、セル[0]に隣接するセル、その隣接するセルに隣接するセル・・・というように、チェックセルは隣接関係が連続するように選択されることが好ましい。(3)ステップ30において、第2検出部133は、選択されたチェックセルの中から第1検出部131が検出した傷セルである検出傷セルと異なる傷セルである参照傷セルを、チェックセルのエコー高さに基づいて検出する。具体的には第2検出部133は、チェックセルとして選択されたセル[1]からセル[5]、及び、セル[6]からセル[10]から照合傷セルを検出する。第2検出部133による照合傷セルの検出方法は上記の(a)または(b)による。
以下に(a)の場合と(b)の場合を分けて説明する。
【0050】
(定義1の場合)
(3−1)定義1の場合、
第2検出部133は、セル[1]からセル[5]及びセル[6]からセル[10]のなかから、エコー閾値TH以上のエコー高さが格納されているセルを照合傷セルとして検出する。ノイズ識別部134は、第2検出部133の検出結果に基づいて、第1検出部131が検出した検出傷セルのエコー高さがノイズかどうかを識別する(ステップ40)。ここではノイズ識別部134は、第2検出部133によって一つでも照合傷セルが検出された場合、検出傷セルであるセル[0]に格納されているエコー高さに連続性があると判定し、セル[0]のエコー高さをノイズとは識別しない。このように、ノイズ識別部134は、第2検出部133によって少なくとも一つのチェックセルが参照傷セルとして検出される場合に、第1検出部131が検出した検出傷セルのエコー高さを、ノイズと識別しない。第2検出部133によって、セル[1]からセル[5]及びセル[6]からセル[10]の全部のセルが照合傷セルとして検出されない場合にのみ、ノイズ識別部134は、セル[0]に格納されているエコー高さに連続性がなく、セル[0]に格納されているエコー高さをノイズと判定する。
【0051】
(定義2の場合)
(3−2)定義2の場合、第2検出部133は、さらに、エコー深さの同一性をチェックする。エコー深さの同一性とは、検出傷セルであるセル[0]のエコーの深さと、チェックセル選択部132が選択するチェックセルのエコー深さとの差分(絶対値)が許容範囲に納まる場合である。具体例で述べる。許容範囲を0.3mmとする。セル[1]からセル[10]のエコー高さは全部エコー閾値TH以上であるとする。セル[0]のエコー深さが10.3mmであり、セル[1]からセル[9]が10.1mmであり、セル[10]のエコー深さが10.7mmまたは9.9mmの場合、許容範囲の0.3mmを超えるため、セル[0]のエコー高さには連続性がない。第2検出部133は、チェックセルのなかから照合傷セルとして、エコー閾値TH以上のエコー高さ、かつ、検出傷セルとエコー深さの同一性あるセルを検出する。ノイズ識別部134は、第2検出部133の検出結果に基づいて、第1検出部131が検出した検出傷セルのエコー高さがノイズかどうかを識別する(ステップ40)。この場合も、ノイズ識別部134は、第2検出部133によって少なくとも一つのチェックセルが参照傷セルとして検出される場合に、第1検出部131が検出した検出傷セルのエコー高さを、ノイズとは識別しない。
【0052】
(判定方式A2)
エコー高さの連続性によるノイズ識別の判定方式A2は、セル内でのエコー高さの連続性の判定である。判定方式A2は、エコー高さ設定部135によって、ある一つのセルにエコー高さを設定する際の判定方式である。判定方式A2は、一つのセルに複数のエコーが対応していることが前提である。
エコー高さ設定部135は、「連続性のあるエコー高さ」を検出した場合、検出したエコー高さをセルに設定する。判定方式A2では、エコー高さ設定部135は、1本の走査線が時間を異にして一つのセルに対応する試験体30の表面の一部に複数回入射する場合、各時間における最大のエコー高さをその時間に入射する走査線のエコー高さの候補として採用する。エコー高さ設定部135は、採用した複数個のエコー高さのうち、時間的に連続してエコー閾値THを超える複数個のエコー高さが存在しないときは、採用した複数個のエコー高さのうち閾値未満のいずれかのエコー高さを(通常、最小値)、セルのエコー高さとして設定する。「連続性のあるエコー高さ」の定義は上記の定義1,定義2のとおりである。エコー高さ設定部135は、「連続性のあるエコー高さ」のセルが検出されない場合、エコー閾値TH以上の信号強度を持つエコーであっても採用しない。具体的には以下のようである。
図19は、判定方式A2を説明する図である。
図19を参照して説明する。
【0053】
(定義1の場合)
エコー閾値THは20とする。セル[0]に対応する走査線3の5回の発振で検出されたエコー高さが検出順に「30,30,5,5,5」とする。すなわち、エコー高さ設定部135は、1本の走査線<3>が時間を異にして一つのセル[0]に対応する試験体30の表面の一部に5回入射する場合、各時間における最大のエコー高さをその時間に入射する走査線のエコー高さの候補として、「30,30,5,5,5」と採用する。「30,30,5,5,5」の場合、エコー閾値THの値20を超えるエコー高さ30は連続性がある。よってエコー高さ設定部135は、エコー高さ30を採用し、セル[0]に30を設定する。
図19を例に述べれば、「30,30,5,5,5」は、セル[0]において5回連続する走査線3の1回目から5回目の最大のエコー高さである。この場合、エコー高さ設定部135は、1本の走査線<3>が時間を異にして一つのセル[0]に対応する試験体30の表面の一部に5回入射する場合、各時間における最大のエコー高さをその時間に入射する走査線のエコー高さを候補として,「30,30,5,5,5」と採用する。エコー高さ設定部135は30,30が連続するので、セル[0]のエコー高さとして30を設定する。一方、エコー高さが検出順に「30,5,5,5,30」のような場合、エコー高さの出現に連続性がないので、エコー高さ設定部135は、エコー高さ30を採用せずセル[0]のエコー高さに、最低値のエコー高さ5を設定する。エコー高さ設定部135は、採用する複数個のエコー高さ「30,5,5,5,30」のうち、時間的に連続してエコー閾値THを超える複数個のエコー高さが存在しないときは、採用する複数個のエコー高さのうち閾値未満のいずれかのエコー高さを(通常、最小値)、セルのエコー高さとして設定する。
【0054】
(定義2の場合)
定義2の場合の場合は、エコー高さ設定部135は、エコー深さもチェックするので以下のようである。定義1の場合は「30,30,5,5,5」についてはエコー高さとしてエコー高さ設定部135により30がセル[0]に設定される。定義2の場合、「30,30,5,5,5」を例にとれば、最初の30と2番目の30とのエコー深さの差分が0.3mmを超える場合はエコー高さの連続性がないので、エコー高さ設定部135は、エコー高さとして30を採用せず、セル[0]のエコー高さに5を採用してセル[0]に設定する。
【0055】
(判定方式A3)
エコー高さの連続性によるノイズ識別の判定方式A3では、エコー高さ設定部135は、照合傷セルが検出傷セルに対して搬送方向102と逆方向に連続するかどうかを判定する
検出傷セルを起点として搬送方向102と逆方向に照合傷セルが連続しない場合、検出傷セルのエコー高さがエコー閾値TH以上あっても、ノイズ識別部134は検出傷セルのエコー高さをノイズと判定する。
図20は、判定方式A3を説明する図である。試験体展開
図400において試験体30の長手方向である搬送方向102に一列に並ぶ複数のセルの一列は、複数本の走査線を出射するアレイ探触子の複数本の走査線のうちの同一の1本の走査線が入射される試験体30の表面を示す。これは
図12等の説明で述べたとおりである。試験体展開
図400の試験体30の長手方向は、試験体30の搬送方向102である。
図20において、チェックセル選択部132は、試験体30の長手方向に一列に並ぶ複数のセルのうち第1検出部131が検出した検出傷セルであるセル[0]を起点として、試験体30が搬送される方向と逆の方向に並ぶ少なくとも一つのセルをチェックセルとして選択する。
図20ではセル[1],セル[2]がチェックセルとして選択された状態を示している。しかしチェックセル選択部132は、走査線3のセルの一列において、セル[0]を起点として連続するチェックセルとして、セル[1]のみを選択してもよいし、セル[2]の左へ連続するセルを設定してもよい。第2検出部133は、チェックセルとして選択されたセル[1]、セル[2]から照合傷セルを検出する。第2検出部133による検出方法は判定方式A1で述べた(a)または(b)と同様である。
【0056】
ノイズ識別部134は、セル[0]に対して「連続性のあるエコー高さ」が検出されない場合、セル[0]のエコー高さがエコー閾値TH以上であってもノイズと認識する。
具体的には以下のようである。
【0057】
(定義1の場合)
エコー閾値THは20とする。
図20において、セル[0]のエコー高さが30であるとする。第2検出部133は、セル[1]及びセル[2]のエコー高さが20以上であれば、両方のセルを照合傷セルとして検出する。判定方式A3の場合、ノイズ識別部134は、第2検出部133によってすべてのチェックセルが参照傷セルとして検出される以外は、第1検出部131が検出した検出傷セルのエコー高さを、ノイズと識別する。
【0058】
(定義2の場合)
定義1の場合は、チェックセルのエコー高さが20以上であれば第2検出部133は、チェックセルを照合傷セルとして検出する。これに対して定義2の場合は、第2検出部133はチェックセルのエコー深さもチェックするので、セル[1]及びセル[2]のエコー高さが20以上であっても、セル[0]のエコー深さとの差分が0.3mmを超える場合は、そのチェックセルは照合傷セルとして検出しない。
ノイズ識別部134の動作は定義1と同じである。
【0059】
(判定方式A1のバリエーション)
図21は、判定方式A1のバリエーションを示す。
図21は、
図3に示す8連のアレイ探触子の配置において、アレイ探触子T1とアレイ探触子T11との連携を示す。アレイ探触子T1とアレイ探触子T11とはX方向矢視で同じ位置にある(
図4)。アレイ探触子T1及びアレイ探触子T11に関する説明はX方向矢視で同じ位置にある、アレイ探触子T2とアレイ探触子T12、アレイ探触子T3とアレイ探触子T13及びアレイ探触子T4とアレイ探触子T14にも当てはまる。
【0060】
図21の最上段は、アレイ探触子T1とアレイ探触子T11の配置を示している。アレイ探触子T1では走査線1,走査線3及び走査線5が使用され、アレイ探触子T11では走査線2及び走査線4が使用される。
図21の中段は、試験体30がアレイ探触子T1を通過している状態を示す。この状態の探傷結果として、セル[0]にエコー高さとして30が格納されているとする。
図21の下段は、試験体30がアレイ探触子T11を通過している状態を示す。この状態で、判定部130は、走査線2で探傷されたチェックエリアであるセル[1]からセル[5]と、走査線4で探傷されたチェックエリアであるセル[6]からセル[10]を対象に、
図17と同様に、エコー高さの連続性をチェックする。
図21の場合は、セル[0]のエコー高さはアレイ探触子T1によって検出されており、チェックエリアのセル[1]からセル[10]のエコー高さはアレイ探触子T11によって検出されているので、セル[0]とチェックエリアのセルとは検出環境が異なる。このため、アレイ探触子T1でエコー閾値TH以上として検出された異物エコーは、アレイ探触子T11で検出されない可能性が高いので、判定方式A1において異物エコーをノイズとして判定する精度が向上する。
【0061】
<ノイズ識別法B>
次にノイズ識別法Bを説明する。ノイズ識別法Bでは、ノイズ識別部134は、アレイ探触子の出射する1本の走査線のエコーのエコー深さが試験体30の表面の位置よりも浅い場合には、この1本の走査線によって検出される複数のエコーの全部をノイズと識別する。具体的にはノイズ識別法Bは次のようである。ノイズ識別部134は、異物による直接反射エコーの検出があった場合、その走査線によって検出されるエコーの全部をノイズと判断する。つまり、
図11においてSエコーよりも深さの浅いエコーを検出した走査線によって、その他のエコーが検出された場合、ノイズ識別部134は全部のエコーをノイズと判定する。
【0062】
<ノイズ識別法C>
次にノイズ識別法Cを説明する。
図22は、対向するアレイ探触子どうしによるノイズ識別を説明する図である。
図23は、ノイズ識別法Cにおけるアレイ探触子の配置を示し、
図22の具体的なアレイ探触子の配置を示す。試験体30は、長手方向が搬送方向102である。ノイズ識別部134は、試験体30の搬送方向102と直交する方向に対向するように配置されて互いの間を試験体30が搬送され、搬送される試験体30に互いに向かい合う走査線を出射する2つのアレイ探触子のそれぞれから出射される走査線による検出結果を照合する。2つのアレイ探触子とは、
図23のアレイ探触子T1とT1a、または、アレイ探触子T2とT2a、または、アレイ探触子T3とT3a、または、アレイ探触子T4とTaである。ノイズ識別部134は、照合の結果、一方の走査線のみで検出されたエコーをノイズと認識する。
図23は
図3に対して、アレイ探触子T1からアレイ探触子T4と対向するアレイ探触子T1aからアレイ探触子T4aを設けた構成である。このようにノイズ識別法Cでは、ノイズ識別部134は、対向する一方の走査線での検出エコーがエコー閾値TH以上であっても他方のアレイ探触子で検出が無い場合、エコー閾値TH以上のエコー高さを異物によるノイズと判断する。
【0063】
<ノイズ識別法D>
ノイズ識別法Dは、試験体30の同一箇所の断面に同一角度で入射する走査線を出射し、搬送方向102で異なる位置に配置された2つのアレイ探触子の探傷結果の照合によるノイズ識別である。
ノイズ識別法Dでは、ノイズ識別部134は、1本の走査線である第1の走査線を出射する第1のアレイ探触子T1の第1の走査線による検出結果と、第2のアレイ探触子T2の第2の走査線による検出結果とを照合する。第2のアレイ探触子T2は、第1のアレイ探触子よりも試験体30の搬送方向の位置に配置されたアレイ探触子である。第2のアレイ探触子T2は、1本の走査線である第2の走査線を出射する。第2の走査線は、第1のアレイ探触子と試験体30の同じ断面を探傷するように設定されており第1の走査線と同じ向きで試験体30の断面に入射する。ノイズ識別部134は、照合の結果、一方の走査線のみで検出されたエコーをノイズと認識する。
以下に具体的に説明する。
図24は、試験体30の同一箇所の断面に同一角度で入射する走査線を出射し、搬送方向102で異なる位置に配置された2つのアレイ探触子の探傷結果の照合によるノイズ識別を説明する図である。
図25は、ノイズ識別法Dにおけるアレイ探触子の配置を示し、
図23の具体的なアレイ探触子の配置を示す。
図25のアレイ探触子の配置は
図3に示す8連である。
図25は
図21に対して、アレイ探触子T1とアレイ探触子T11とは同じ状態の走査線を発振する。つまりアレイ探触子T1は走査線3、1、5、2、4の順に発振するとすれば、アレイ探触子T11も同様に走査線3、1、5、2、4の順に発振する。ノイズ識別部134は、
図3のアレイ探触子T1とアレイ探触子T11のように、試験体30の同一箇所の断面に同一角度で入射する走査線を出射し、搬送方向102で異なる位置に配置された2つのアレイ探触子の走査線どうしの照合を行い、一方で検出が無い場合はノイズ識別部134は異物によるノイズと判断する。
【0064】
(組合わせノイズ識別)
上述のノイズ識別法Aからのノイズ識別法Dを組合わせる事でノイズ除去レベルを設定する。
【0065】
(探傷開始、終了地点ずれノイズ除去)
図26は、試験体30の探傷開始及び探傷終了の状況を示す。ノイズ識別部134は、試験体30の表面エコーが連続して検出されることにより試験体30の存在を認識する。ノイズ識別部134は、試験体30が存在しないと認識する場合に検出されるエコーをノイズと識別する。具体的には以下のようである。試験体30を搬送してアレイ探触子直下で探傷を開始する場合、探傷開始タイミング及び探傷終了タイミングが、試験体30の速度検出及び通過センサ検出誤差のためずれることがある。その場合、接触媒質または試験体30の角が探傷された時に、ノイズが発生する。そこで、試験材30がアレイ探触子の直下に無い場合にはSエコー反射が無い事を利用し、探傷開始と探傷終了の設定区間においては、ノイズ識別部134は、アレイ探触子の各走査線Sエコー検出に連続性が無いときに検出されたエコーをノイズと判断する。
【0066】
***実施の形態1の効果***
実施の形態1の超音波探傷装置はエコー高さの分布状況を分析するので、媒質接触中の異物による多重ノイズと試験体内の傷との識別を、信号処理によって行うことができる。
また、実施の形態1の超音波探傷装置は、異物の特性を使用してエコー高さがノイズかどうかを識別するので、高い精度でノイズ識別を行うことができる。