特許第6850296号(P6850296)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850296
(24)【登録日】2021年3月9日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 3/00 20060101AFI20210322BHJP
   C12G 3/00 20190101ALI20210322BHJP
【FI】
   C12C3/00 A
   C12G3/00
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-533357(P2018-533357)
(86)(22)【出願日】2016年8月10日
(86)【国際出願番号】JP2016073553
(87)【国際公開番号】WO2018029803
(87)【国際公開日】20180215
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】林 智恵
(72)【発明者】
【氏名】乾 隆子
(72)【発明者】
【氏名】山村 進一郎
【審査官】 白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−087968(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00173479(EP,A1)
【文献】 特開昭61−238754(JP,A)
【文献】 特開平02−177881(JP,A)
【文献】 特表平8−505057(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102009006539(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内で、ホップ含有水(但し、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含むものを除く)を温度105℃以上130℃以下、圧力0.12MPa以上0.27MPa以下の条件下で加熱し、加熱後の温度が10℃以上90℃以下となったホップ処理物を、密閉容器から原料液に添加することを特徴とする、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
密閉容器内での処理温度が110℃以上130℃以下である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
原料液に添加時のホップ処理物の温度が10℃以上40℃以下である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
ホップ処理物のホップ濃度が30g/L以上である、請求項1〜3いずれか記載の製造方法。
【請求項5】
密閉容器内で、ホップ含有水(但し、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含むものを除く)を温度105℃以上130℃以下、圧力0.12MPa以上0.27MPa以下の条件下で加熱し前記密閉容器の圧を解除せずに10℃以上90℃以下に冷却することによって得られる、ホップ処理物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料の製造方法に関する。より詳しくは、ホップを用いたビールテイスト飲料の製造方法及び当該製造方法に用いられるホップ処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビールテイスト飲料の製造においては、麦汁にホップを何ら処理せずに添加して煮沸する工程がよく行われている。しかし、煮沸工程における加熱はビールテイスト飲料の品質に大きな影響を及ぼすので、ホップを別途加工することでホップに含まれる成分を有効に活用する技術が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、最終的な製品に付加されるホップ香気成分を低減または除去することを目的として、ホップと原料液を異なる加熱条件で別々に煮沸することで、ホップ香気成分を効率的に蒸散させながら、ホップ苦味成分を抽出する方法を開示している。具体的には、大気圧下で、90℃に加熱した溶媒にホップを加え、これらの混合物を約90〜100℃の範囲内の温度で約30〜180分間保持することで、香気成分を所定量蒸発させてα酸を溶媒中に十分抽出した後、原料液に添加している。
【0004】
また、特許文献2では、ホップに含まれるα酸の異性化を改善するために、ホップ抽出物をマイクロエマルションとすることで、ホップ抽出物の液滴サイズを小さくして比表面積を増大し、麦汁への苦味成分付与を行っている。ここで、ホップ抽出物としては液体又はペースト状のものが用いられており、それを水性流体と混合して剪断攪拌によりマクロエマルションを生成した後、100バールより高い圧力まで加圧し、次いで圧力緩和することでマイクロエマルションを生成する方法が採用されている。また、エマルションの生成中には異性化の温度条件とすることでα酸のイソ化も進行するため、このように調製されたホップ加工物を用いることで、麦汁の煮沸時間を大幅に短縮できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−77730号公報
【特許文献2】特表2014−511707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では苦味成分のみを考慮したものであり、近年の消費者の嗜好の多様化には十分対応できないものである。また、特許文献2の方法は煩雑な操作を経ることから、更なる改良が求められる。
【0007】
本発明の課題は、苦味成分と香気成分を良好、かつ、簡便に付与できるビールテイスト飲料の製造方法及び当該製造方法に用いられるホップ処理物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記〔1〕〜〔2〕に関する。
〔1〕 密閉容器内で、ホップ含有水を温度100℃以上130℃以下、圧力0.01MPa以上0.36MPa以下の条件下で加熱し、加熱後の温度が10℃以上90℃以下となったホップ処理物を、密閉容器から原料液に添加することを特徴とする、ビールテイスト飲料の製造方法。
〔2〕 ホップ含有水を、温度100℃以上130℃以下、圧力0.01MPa以上0.36MPa以下の条件下で処理後、10℃以上90℃以下に冷却することによって得られる、ホップ処理物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法により、ホップから所望の苦味と香気に関わる成分を高収率、短時間で抽出、変換し、所望の香味を呈するビールテイスト飲料を簡便に造りこむことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、特定の高温高圧処理を施した後、解圧前に冷却したホップ処理物を用いることに大きな特徴を有する。
【0011】
従来、ビールテイスト飲料の香味調整には、煮沸工程の初期にホップを添加して苦味を十分抽出した上で、香り付けには別途ホップを添加するといった、複数回のホップ添加がよく行われている。しかしながら、ホップ含有水を特定の高温高圧処理に施す、即ち、密閉容器内において沸騰温度よりも高い温度で加圧して煮沸することにより、ホップからの苦味成分の抽出が促進されるだけでなくα酸の異性化も促進されることを本発明者らが初めて見出した。また、そのように処理されたホップ含有水を該密閉容器内で特定温度になるまで待った後に圧を解除して原料液に添加することで、香気成分が系外へ蒸散されることなくホップ含有水に吸収されることになるから、かかる処理物を用いることで苦味と香気を同時に、かつ、より有効に付与することが可能になると推定される。ただし、これらの推測は、本発明を限定するものではない。なお、本明細書において、前記した一連の処理のことを、単に、本発明の処理と記載することもある。
【0012】
本明細書における「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風味をもつ炭酸飲料をいう。つまり、本明細書のビールテイスト飲料は、特に断わりがない場合、酵母による発酵工程の有無に拘わらず、ビール風味の炭酸飲料を全て包含する。具体的には、ビール、発泡酒、その他雑酒、リキュール類、ノンアルコール飲料などが挙げられる。
【0013】
以下に、ホップ処理物の調製方法について説明する。
【0014】
本発明におけるホップ含有水とは、ホップと水を原材料として含有するもののことを言う。即ち、本発明におけるホップ含有水とは、ホップと水を単に混合したものだけでなく、ホップと水を混合した後に何らかの処理(例えば、攪拌処理)を行ったものであってもよい。
【0015】
本発明で用いられるホップとしては、毬花(未受精の雌花が成熟したもの)全体そのまま又は粉砕したものを用いることができる。また、ホップを乾燥しただけの「乾燥毬花」、乾燥毬花を粉砕しペレット状にしたホップペレット、苞ホップ(毬花からルプリンを大幅に除去した加工品)、ホップエキス等のホップ加工品を用いることもできる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なお、ホップの産地、品種も特に限定されず、製造するビールテイスト飲料の香味に応じて適宜選択して使用することができる。
【0016】
また、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲内で、水以外に、他の溶媒を用いることができる。他の溶媒としては、水性溶媒であればよく、含水アルコール等を用いることができる。水を含めた全溶媒における水の含有量としては、飲食品への配合を考慮すると、99.5質量%以上が好ましく、99.8質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上が更に好ましい。なお、本明細書において、水と他の溶媒を含む全溶媒のことを総じて、単に処理溶媒と記載することもある。
【0017】
処理溶媒のpHは、特に限定されないが、好ましくは4.5〜9.5であり、より好ましくは5.0〜7.0である。
【0018】
前記処理溶媒にホップを混合するが、含有水中のホップ(固形分)濃度としては特に限定されないが、処理効率の観点から、30g/L以上、あるいは、45g/L以上が例示される。また、オフフレーバーの発生を抑制する観点から、45g/L以上としてもよい。なお、本発明では、高温高圧処理中に処理溶媒が蒸発することがないため、得られるホップ処理物におけるホップ濃度は前記からほぼ変動しないものである。ここでのホップ固形分とは、添加前のホップ乾燥重量のことを意味する。
【0019】
かかるホップ含有水を本発明では密閉容器内で加熱する。密閉容器とは、後述する高温高圧処理中に外部を完全に遮断した閉鎖空間を形成できる容器のことを意味し、処理時間以外は外部への開口部や外部との連絡路を有するものであってもよい。本発明では、高温高圧に耐えられる構造のものであればよく、例えば、処理時間以外は麦汁煮沸槽や沈殿槽等と配管を介して繋がる公知の処理槽(タンク)であって、処理中には弁を閉めて前記したような閉鎖空間を作れるものを用いることができる。なお、処理槽は、金属等の成分が溶出したり、有害物質が生成しないような材質であればよく、無用の反応や腐食、劣化などを防ぐためステンレスなどの素材が好ましいがこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明では、前記したような処理槽にホップ含有水を充填して高温高圧処理を行なうが、効率よく処理を行なう観点から、ホップ含有水が占める部分を除いた残りの空間体積が、次の少なくとも1つを満足する状態で処理が行なわれることが好ましい。即ち、処理槽の空隙部分の体積空間が、(i)処理槽の全体体積中、好ましくは50体積%以下、より好ましくは30体積%以下、更に好ましくは10体積%以下(下限は特に設定されない)となるようホップ含有水が充填されている状態、及び/又は(ii)窒素置換又は酸素置換されている状態、であることが好ましい。
【0021】
高温高圧処理での処理温度としては、100℃以上130℃以下となる温度であればよいが、異性化を促進する観点から、105℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。また、香気成分の分解を抑制する観点から、125℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。なお、本明細書において、処理温度とは処理槽を加熱する装置の設定温度のことを意味するが、内容物の温度が前記温度範囲内となるよう設定することが好ましい。内容物の温度は、例えば、装置に付帯した温度計により測定することができる。
【0022】
高温高圧処理での処理圧力としては、0.01MPa以上0.36MPa以下となる圧力であればよい。本明細書で「圧力」というときは「ゲージ圧力」を意味する。従って、例えば「圧力0.01MPa」は絶対圧力に換算すると、大気圧に0.01MPaを加えた圧力を意味する。なかでも、異性化を促進する観点から、0.05MPa以上が好ましく、0.10MPa以上がより好ましい。また、上限は用いる処理槽の耐圧によって一概には設定されないが、抽出成分の分解を抑制する観点から、0.30MPa以下が好ましく、0.27MPa以下がより好ましい。
【0023】
よって、好適な処理温度と処理圧力の組み合わせとしては、例えば、100℃・0.01MPaの条件、105℃・0.12MPaの条件、110℃・0.14MPaの条件、115℃・0.17MPaの条件、120℃・0.20MPaの条件、125℃・0.24MPaの条件、130℃・0.27MPaの条件等が挙げられる。
【0024】
処理時間としては、処理槽の大きさや処理温度、圧力によって一概には設定されないが、例えば、60L容程度のタンクを用いて110〜120℃の加圧処理を行なう場合は、処理温度に到達後1〜60分間が好適であり、15〜30分間がより好適である。なお、ここでの処理時間とは加熱を継続している時間のことであり、その間の圧力は継続して前記圧力を示す必要はなく、部分的に前記圧力を示せばよい。
【0025】
本発明においては、高温高圧の処理を行なった後、密閉容器の圧を解除せずに内容物の温度が10℃以上90℃以下となるまで待つことにも特徴を有する。かかる温度とすることにより、香気成分の容器外への蒸散が抑制されて得られる処理物に香気成分をより多く吸収させることが可能となるからである。内容物の温度としては、10℃以上90℃以下であればよいが、香気成分の吸収促進の観点から、好ましくは70℃以下、より好ましくは50℃以下、更に好ましくは40℃以下である。温度の低下方法としては特に限定はなく、積極的に冷却しても、自然放冷であってもよい。
【0026】
また、得られた処理物に対しては、公知の処理(例えば、ろ過、濃縮、分画、乾燥等)を行ってもよいが、本発明においては、より多くの香味成分を付与する観点から、残渣も含めた処理物全体をそのまま用いることが好ましい。具体的には、例えば、麦汁煮沸槽にそのまま処理物全体を添加して麦汁と共に更なる煮沸を行ってもよく、また、沈殿槽に添加して麦芽粕と残渣を沈殿させてもよい。発酵工程を有する場合には、沈殿槽の後に発酵タンクに添加してもよい。
【0027】
かくして、ホップ処理物が得られる。得られたホップ処理物は、α酸の抽出が十分に行われ、かつ、イソ化が進行したものでありながら、香気成分も十分含有するものである。ホップ処理物の各成分含有量は一概には設定されないが、例えば、開口部を有する処理槽を用いて開放系で100℃で処理する以外は同様にして得られた処理物と対比すると、本発明により得られたホップ処理物のイソα酸量は、好ましくは1.1質量倍以上、より好ましくは1.2質量倍以上であり、上限は特に設定されない。また、リナロール量は、好ましくは1.2質量倍以上、より好ましくは10質量倍以上であり、上限は特に設定されない。
【0028】
本発明のビールテイスト飲料の製造方法は、前記ホップ処理物を原料液に添加する工程を行う以外は、当業者に知られる通常の方法に従って行なうことができる。ここで、原料液とは、水、麦汁、液糖等を意味する。例えば、麦芽等の麦、他の穀物、でんぷん、及び糖類からなる群より選ばれる少なくとも1種に加え、必要に応じ、苦味料、色素などの原料を、仕込釜又は仕込槽に投入し、必要に応じてアミラーゼなどの酵素を添加し、糊化、糖化を行なわせた後、穀皮等を濾過により取り除いて麦汁を得る。次いで得られた麦汁に本発明のホップ処理物を、必要により、公知のホップ(ホップ加工品)と共に添加して煮沸して、清澄タンクにて凝固タンパク質などの固形分を取り除いて、清澄麦汁を得る。あるいは、得られた麦汁を清澄タンクに投入する際に、本発明のホップ処理物を共に添加して凝固タンパク質などの固形分を取り除いて、清澄麦汁を得る。これらの糖化工程、煮沸・清澄化工程、固形分除去工程などにおける条件は、公知の条件を用いればよい。
【0029】
次いで、アルコール飲料の場合には、前記で得られた清澄麦汁に酵母を添加して発酵を行なわせ、必要に応じ濾過機などで酵母を取り除いて製造することができる(発酵工程ともいう)。発酵条件は、知られている条件を用いればよい。また、発酵開始後に本発明のホップ処理物を添加してもよい。あるいは、発酵工程を経る代わりに、スピリッツなどアルコール分を有する原料を添加してもよい。更に、貯酒、必要により炭酸ガスを添加して、濾過・容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、アルコールビールテイスト飲料を得ることができる。
【0030】
一方、ノンアルコール飲料の場合、例えば、前記発酵工程を経ることなく、上記固形分除去工程に次いで、前記で得られた清澄麦汁をそのまま貯蔵、炭酸ガスを添加して、濾過・容器詰め、必要により殺菌の工程を経て、製造することができる。あるいは、前記アルコール飲料の発酵工程の後、ビール膜処理や希釈などの公知の方法によりアルコール濃度を低減させることによって、ノンアルコールビールテイスト飲料を得ることもできる。
【0031】
かくして、本発明の製造方法により、ホップ由来の苦味や香気が十分付与されたビールテイストアルコール飲料を得ることができる。本発明においては、かかるホップ処理物を用いることで、香味調整を一度に行えるという優れた効果が奏される。
【0032】
また、本発明は、前記した高温高圧処理を行なった後、冷却するという一連の処理を行なって得られる、ホップ処理物を提供する。
【0033】
本明細書における「ホップ処理物」とは、本発明の処理により得られた処理物をいい、さらにその二次加工品を含む。一例として、処理物中の残渣を除いてからエタノールを溶剤としたホップエキスや、炭酸ガスを溶剤としたホップエキス(乾燥した亜臨界状態または超臨界状態の二酸化炭素を溶剤に用いて得られたホップエキス(特許第3155003号、特許第3513877)も含む。)や、イソ化ホップ、還元ホップ、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップなどのホップ加工品が挙げられる。
【0034】
本発明はまた、本発明のホップ処理物の製造方法を提供する。具体的には、密閉容器内で、ホップ含有水を温度100℃以上130℃以下、圧力0.01MPa以上0.36MPa以下の条件下で処理し、解圧前に10℃以上90℃以下に冷却する工程を含むものであればよい。なお、前記で使用する原料や装置、反応条件については、前述の通りである。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0036】
試験例1(ホップ処理物)
ホップペレット(品種:Saaz、産地:チェコ)を表1に示す濃度となるよう水と混合し、得られた混合物を表1に示す処理槽を用いて、表1に示す条件で処理を行なった。得られた処理物は表1に示す温度となるまで自然放冷し、その後、内容物について各成分の含有量を下記測定方法に従って測定した。結果を表1に示す。なお、処理槽として、開放系又は密閉系の処理槽とは、60L容の処理槽において処理中に栓が完全に出来た場合を密閉系、栓を開けた場合を開放系とした。いずれも、処理槽における処理前のホップ含有水体積は、処理槽全体積中の50〜90体積%となる量(空隙部分の空間体積50〜10体積%)充填した。また、処理後のホップ含有水濃度は、処理後の水分減量量から算出により求めた値である。
<イソα酸量>
EBC(European Brewery Convention)が発行している分析法の規定「Analytica−EBC」のMethod 7.7に記載されている方法に従って定量し、比較例1の含有量を1として換算量を算出した。
<リナロール量>
ASBC(The American Society of Brewing Chemists)が発行している分析法の規定「ASBC Methods of Analysis」に記載されている水蒸気蒸留法により定量し、比較例1の含有量を1として換算量を算出した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1より、本発明の処理により得られた処理物は、イソα酸量もリナロール量も多く含有し、ホップから良好に抽出できていることが分かる。また、実施例1〜3と4〜6の対比より、処理後の温度をより低下することにより、リナロール量が多くなっており、香気成分の蒸散がより抑制されることが明らかである。
【0039】
試験例2(ビールの官能評価)
<ビールの製造>
通常の方法で得られた、ろ過麦汁100Lを煮沸釜にて98℃まで加熱後、表2に示すホップ処理物を添加した。1分攪拌後、ワールプールレストをとり、急冷し、冷麦汁を調製した。酵母を添加し発酵させ、ろ過後、炭酸ガス圧を調整し、ビールを製造した。
【0040】
<官能評価>
得られたビールの香味を、評点法による官能試験によって評価した。良く訓練された官能評価者5名が、「苦味のキレ」、「ホップ香の華やかさ」、及び「総合評価」について、5点満点で評価した。「とても感じる又はとても良い」を5点、「感じる又は良い」を4点、「やや感じる又はやや良い」を3点、「わずかに感じる又はわずかに良い」を2点、「感じない又は普通」を1点として、評価点の平均点を算出し、平均点に応じて下記基準に従って評価を行なった。「苦味のキレ」、「ホップ香の華やかさ」及び「総合評価」は平均点が高いほどよく、2.0以上が好ましい。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2から明らかなように、実施例4は「苦味のキレ」や「ホップの華やかさ」のバランスに優れるものであり、総合評価も良好であった。一方、比較例1は、「苦味のキレ」、「ホップ香の華やかさ」の面で劣っており、好ましくない評価となった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、ホップから苦味成分と香気成分をより簡便に抽出することが可能となり、嗜好品として新たなテイストを提供できる。