(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶媒中に芳香族ジアミン(aromatic diamine)、芳香族ジアンヒドリド(aromatic dianhydride)および芳香族ジカルボニル(aromatic dicarbonyl compound)化合物を含む単量体を順次または同時に重合してポリアミドイミド重合体溶液を調製する段階と、
前記ポリアミドイミド重合体溶液を、別途の沈殿、乾燥および再溶解の過程なしにそのまま注型体にキャスティングして、ゲルシートを製造する段階と、
前記ゲルシートに含まれている溶媒を除去し、窒素(N2)65体積%〜85体積%および酸素(O2)15体積%〜35体積%を含む雰囲気下において、前記ゲルシートを熱処理して、ポリアミドイミドフィルムを製造する段階とを含み、
前記ポリアミドイミドフィルムの黄色度は5以下であり、
前記ポリアミドイミドフィルムの透過度が88%以上であり、
前記ポリアミドイミドフィルムのヘイズが2%以下であり、
前記ポリアミドイミドフィルムのモジュラスは5GPa以上であり、
前記単量体は、前記芳香族ジアンヒドリドおよび芳香族ジカルボニル化合物の総モルに対して、
前記芳香族ジアンヒドリドを20モル%〜50モル%で含み、
前記芳香族ジカルボニル化合物を50モル%〜80モル%で含み、
前記芳香族ジアミンは、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル(2,2'−Bis(trifluoromethyl)−4,4'−diaminobiphenyl、TFDB)を含み、
前記芳香族ジアンヒドリドは、2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンジアンヒドリド(2,2'−Bis(3,4−Dicarboxyphenyl)hexafluoropropane dianhydride、6−FDA)を含み、
前記芳香族ジカルボニル化合物は、テレフタロイルクロリド(TPC)および1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)であり、
前記芳香族ジカルボニル化合物は、前記テレフタロイルクロリド(TPC)および1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)の総モルに対して、
前記1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)を50モル%〜70モル%で含む、ポリアミドイミドフィルムの製造方法。
前記溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、m−クレゾール、テトラヒドロフラン(THF)、およびクロロホルムからなる群より選択される、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態により本発明を詳細に説明する。本発明の実施形態は、発明の要旨を変更しない限り、様々な形態に変形され得る。しかし、本発明の権利範囲が以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
本発明の要旨を曖昧にし得ると判断すれば、公知の構成および機能に関する説明は省略し得る。本明細書において「含む」ということは、特別な記載がない限り、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0018】
また、本明細書に記載された構成成分の量、反応条件などを表す全ての数字および表現は、特別な記載がない限り、全ての場合に「約」という用語により修飾されるものと理解するべきである。
【0019】
一実施形態によるポリアミドイミドフィルムの製造方法は、まず、ポリアミドイミド重合体が提供される。前記ポリアミドイミド重合体は、溶媒において単量体が重合反応して調製され得る。
【0020】
すなわち、溶媒中に芳香族ジアミン(aromatic diamine)、芳香族ジアンヒドリド(aromatic dianhydride)および芳香族ジカルボニル(aromatic dicarbonyl)化合物を含む単量体を、順次または同時に重合してポリアミドイミド重合体溶液が調製される。
【0021】
前記ポリアミドイミド重合体溶液は、ポリアミドイミド重合体を含む溶液である。
前記ポリアミドイミド重合体が形成されるために、まず、ポリアミック酸が調製され得る。
【0022】
前記ポリアミック酸が調製されるために、芳香族ジアミン(aromatic diamine)および芳香族ジアンヒドリド(aromatic dianhydride)が提供される。前記芳香族ジアミンおよび前記芳香族ジアンヒドリドは、有機溶媒中で反応してポリアミック酸溶液が形成される。その後、前記ポリアミック酸にジカルボニル化合物が添加され、ポリアミドイミド重合体溶液が調製される。ここで、前記ジカルボニル化合物は、芳香族ジカルボニル化合物(aromatic dicarbonyl compound)であり得る。
【0023】
これとは異なり、前記ポリアミドイミド重合体溶液が製造されるために、前記芳香族ジアミン、前記芳香族ジアンヒドリドおよび前記ジカルボニル化合物が同時に重合反応され得る。
【0024】
このように形成された共重合体は、前記芳香族ジアミンと前記芳香族ジアンヒドリドとの結合から由来のイミド(imide)繰り返し単位と、前記芳香族ジアミンと前記芳香族ジカルボニル化合物との結合から由来のアミド(amide)繰り返し単位を含む。
【0025】
前記芳香族ジアミンは、前記芳香族ジアンヒドリドと反応してイミド結合を形成し、前記芳香族ジカルボニル化合物と反応してアミド結合を形成する化合物である。
【0026】
一実施形態において、前記芳香族ジアミンは、下記化学式1で表される2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル(2,2'−Bis(trifluoromethyl)−4,4'−diaminobiphenyl、TFDB)であり得る。
【0028】
前記芳香族ジアンヒドリドは、複屈折値が低いため、前記ポリアミドイミドフィルムの透過度のような光学物性の向上に寄与することができる。
【0029】
一実施形態において、前記芳香族ジアンヒドリドは、下記化学式2で表される2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンジアンヒドリド(2,2'−Bis−(3、4−Dicarboxyphenyl)hexafluoropropane dianhydride、6−FDA)であり得る。
【0031】
前記芳香族ジアミンおよび前記芳香族ジアンヒドリドが重合して、ポリアミック酸を生成することができる。
次いで、前記ポリアミック酸は、脱水反応によりポリイミドに転換され得、前記ポリイミドはイミド(imide)繰り返し単位を含む。
例えば、前記ポリイミドは、下記化学式3で表される化合物を含み得るが、これに限定されるものではない。
【0032】
[化3]
前記化学式3において、nは1〜400の整数である。
【0033】
前記ポリアミック酸に芳香族ジカルボニル化合物が添加され、ポリアミドイミド重合体が形成される。
【0034】
前記芳香族ジカルボニル化合物はベンゼン環を含んでいるので、前記ポリアミドイミドフィルムの表面硬度、引張強度のような強度面における機械的物性の向上に寄与することができる。
【0035】
前記芳香族ジカルボニル化合物は、テレフタロイルクロリド(terephthaloyl chloride、TPC)および1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(1,1'−biphenyl−4,4'−dicarbonyl dichloride、BPDC)からなる群より選択され得る。より詳しくは、下記化学式4で表されるテレフタロイルクロリド(terephthaloyl chloride、TPC)と、化学式5で表される1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(1,1'−biphenyl−4,4'−dicarbonyl dichloride、BPDC)を適切に組み合わせて用いると、前記ポリアミドイミド重合体が高い耐酸化性を有し得る。
【0038】
したがって、前記芳香族ジアミンは前記芳香族ジカルボニル化合物と反応および結合して、下記化学式6および化学式7で表されるアミド(amide)繰り返し単位を形成することができる。
【0040】
[化7]
前記化学式6のxは1〜400の整数である。
前記化学式7のyは1〜400の整数である。
【0041】
また、前記芳香族ジカルボニル化合物に加えて、さらに触媒が添加され得る。前記触媒の例としては、βピコリン(β−picoline)または無水酢酸(acetic anhydride)などが挙げられる。
【0042】
前記重合反応において用いられる有機溶媒は、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide、DMF)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide、DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(N−methyl−2−pyrrolidone、NMP)、m−クレゾール(m−cresol)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)、およびクロロホルムの内のいずれか1種以上の溶媒であり得る。
【0043】
一実施形態において、前記イミド繰り返し単位およびアミド繰り返し単位の含有量を適切に調節することにより、複雑な過程がなくても光学的特性、機械的物性、および柔軟性がバランスよく改善されたポリアミドイミドフィルムが得られる。
【0044】
前記イミド繰り返し単位およびアミド繰り返し単位の含有量は、前記芳香族ジアンヒドリド化合物、芳香族ジカルボニル化合物の投入量で調節し得る。
【0045】
一実施形態による製造方法において、前記ポリアミドイミド重合体を調製するにおいて、過量の芳香族ジアミンに、前記芳香族ジアンヒドリドと前記ジカルボニル化合物とを順次投入することができる。
【0046】
具体的に、前記芳香族ジアンヒドリドおよび芳香族ジカルボニル化合物の総モルに対して、前記芳香族ジアンヒドリドを20モル%〜50モル%、前記芳香族ジカルボニル化合物を50モル%〜80モル%投入して、重合体溶液を調製し得る。前記芳香族ジアンヒドリドと前記芳香族ジカルボニル化合物の投入順番は特に限定されない。ただし、先に投入された物質が十分に撹拌されてから、次の物質を投入することが好ましい。
【0047】
前記芳香族ジアンヒドリドの含有量が50モル%を超え、前記芳香族ジカルボニル化合物の含有量が50モル%未満であると、ポリアミドイミドフィルムの表面硬度、引張強度などの機械的物性が低下され得る。
【0048】
一方、前記芳香族ジアンヒドリドの含有量が20モル%未満で、前記芳香族ジカルボニル化合物の含有量が80モル%を超えると、ポリアミドイミドフィルムの透過度、ヘイズなどの光学的物性が低下され得る。
【0049】
また一実施形態において、ポリアミドイミド重合体を調製するにおいて、前記芳香族ジカルボニル化合物として、テレフタロイルクロリド(terephthaloyl chloride、TPC)および1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(1,1'−biphenyl−4,4'−dicarbonyl dichloride、BPDC)を用い、これらの総モルに対して前記1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)を50モル%〜70モル%となるように投入するものであり得る。
【0050】
前記1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)の含有量が50モル%未満であると、ポリアミドイミドフィルムの引張強度(modulus)が低下され得、その含有量が70モル%を超えると、ヘイズなどの光学的物性が低下され得る。
【0051】
したがって、過量の芳香族ジアミン(または、残りの物質の総モルと同一含有量の芳香族ジアミン)に、i)前記芳香族ジアンヒドリドおよび芳香族ジカルボニル化合物の総モルに対して前記芳香族ジカルボニル化合物を50モル%〜80モル%に投入するが、ii)前記芳香族ジカルボニル化合物として1,1'−ビフェニル−4、4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)50モル%〜70モル%およびテレフタロイルクロリド(TPC)30モル%〜50モル%を用いて調製することが好ましい。
【0052】
これとは異なり、前記芳香族ジアミン、前記芳香族ジアンヒドリドおよび前記ジカルボニル化合物が同時に添加され、前記ポリアミドイミド重合体溶液が形成され得る。
【0053】
前記ポリアミドイミド重合体溶液の粘度は、以下のような方法により調節され得る。
前記のポリアミック酸溶液に前記芳香族ジカルボニル化合物が添加され反応するとき、前記反応系の粘度が所望の粘度まで上昇するまで、前記芳香族ジカルボニル化合物が添加される。
【0054】
これにより、前記ポリアミドイミド重合体溶液の粘度は約15万cPs〜約50万cPs、具体的には約15万cPs〜約30万cPs、または約15万cPs〜約20万cPsであり得る。このとき、前記ポリアミドイミド重合体溶液の固形分含有量は約5重量%〜約20重量%、または約10重量%〜約20重量%であり得る。より詳しく、前記ポリアミドイミド重合体溶液の固形分含有量は約12重量%〜約18重量%であり得る。
【0055】
前記ポリアミドイミド重合体の粘度および固形分の含有量が前記のような場合、後述の押出およびキャスティング工程において、効果的にポリアミドイミドフィルムが製造され得る。
【0056】
また、前記ポリアミドイミド重合体の粘度および固形分の含有量が前記のような場合、前記ポリアミドイミドフィルムは、向上されたモジュラスなどの機械的物性および低い黄色度などの光学的物性を有し得る。
【0057】
その後、前記ポリアミドイミド重合体溶液のpHは、次のような方法によって調節され得る。
【0058】
前記ポリアミドイミド重合体溶液に中和剤が添加され得る。前記中和剤の例としては、アルコキシアミン、アルキルアミンまたはアルカノールアミンなどのアミン系中和剤などが挙げられる。
【0059】
前記中和剤は、前記ポリアミドイミド重合体溶液に全体単量体を基準に、約0.1モル%〜約10モル%の当量で添加され得る。
【0060】
前記ポリアミドイミド重合体溶液のpHは、約4〜約7であり得る。より詳しく、前記ポリアミドイミド重合体溶液のpHは、約4.5〜約7であり得る。前記ポリアミドイミド重合体のpHが前記の範囲であると、後述の押出およびキャスティング工程において、装置の腐食の発生を防止することができる。
【0061】
また、前記ポリアミドイミド重合体のpHが前記範囲であると、実施形態により製造されるポリアミドイミドフィルムは、低い黄色度および少ない黄色度の増加などの向上された光学的物性を有し得る。また、前記ポリアミドイミド重合体のpHが前記範囲であると、実施形態により製造されるポリアミドイミドフィルムは、高いモジュラスなどの向上された機械的物性を有し得る。
【0062】
また、前記製造方法においては、前記ポリアミドイミド重合体が重合されるときに用いられる溶媒が含まれている重合体溶液が、押出およびキャスティング工程においてそのまま使用される。
【0063】
つまり、前記製造方法においては、前記重合体溶液のpH調節および粘度調節などと、一部の些細な処理以外に、別途の沈殿、乾燥、および再溶解工程が適用されない。
【0064】
従来は、ポリアミドイミド重合体の製造過程で生成される副産物を除去するために、別途の沈殿、乾燥過程を経た後、再び溶媒に溶解して製膜に適した組成物を調製した。しかし、このような別途の沈殿、乾燥および再溶解工程を経る場合、工程効率が大幅に低下し、収率が減少する問題があった。
【0065】
これにより、一実施形態による前記製造方法では、重合体溶液の調製過程において副産物の生成を最小限に抑え、これにより調製された重合体溶液は、これを別途沈殿、乾燥および再溶解させる過程なく、そのまま製膜工程に適用され得る。その結果、前記製造方法は、工程効率を大幅に向上させることができ、収率の面でも有利な効果を実現することができる。
【0066】
前記ポリアミドイミド重合体溶液は押出され、キャスティングロールまたはキャスティングベルトなどの注型体にキャスティングされる。
【0067】
このとき、前記ポリアミドイミド重合体溶液は、前記のような粘度および固形分含有量をもって、約5m/min〜約15m/minの速度で、400μm〜500μmの厚さで前記注型体にキャスティングされる。
【0068】
前記押出およびキャスティング速度が前記のような場合、前記製造方法によって製造されたポリアミドイミドフィルムは、向上された光学的特性および機械的特性を有し得る。すなわち、前記ポリアミドイミド重合体溶液が前記のような粘度および固形分含有量を有するときには、前記のような押出速度で押出され、キャスティングされてこそ、向上され光学的特性および機械的特性を有することができる。
【0069】
また、前記キャスティング速度で製造されたポリアミドイミドフィルムは、MD基準で約±30度〜約±50度の配向角度を有し得る。前記ポリアミドイミドフィルムが前記の配向角度を有すると、向上された光学的特性および機械的特性を有し得る。前記ポリアミドイミドフィルムの配向角度とは、前記ポリアミドイミドフィルムのキャスティングされる方向(MD方向)を基準に、フィルム内部のポリアミドイミド樹脂が配向された角度のことを意味する。
【0070】
例えば、前記のキャスティング速度で製造されたポリアミドイミドフィルムは、約5.0以下の黄色度を有し、約88%以上の透過度を有し、約5GPa以上のモジュラスを有し得る。
【0071】
その後、前記ポリアミドイミド重合体溶液が前記注型体にキャスティングされた後、前記ポリアミドイミド重合体溶液に含まれている溶媒は、乾燥工程によって除去される。これにより、前記注型体上にゲルシートが形成される。
前記乾燥工程は、約80℃〜約150℃の温度で、約5分〜約15分間行える。
【0072】
その後、前記ゲルシートは、窒素(N
2)65体積%〜85体積%および酸素(O
2)15体積%〜35体積%を含む雰囲気下で熱処理され、前記ポリアミドイミドフィルムが製造される。
【0073】
前記熱処理工程は、約150℃〜約470℃の温度で、約10分〜約20分間行える。より詳しく、前記熱処理工程は、入口の温度が約80℃〜約150℃であり、10℃/min〜25℃/minの昇温条件を有するインライン熱処理装置において約5分〜約15分間行える。
【0074】
前述のように製造された前記ポリアミドイミド重合体は、高い耐酸化性を有するので、前記熱処理工程において酸素の影響をほとんど受けない。これにより、従来のように人工的に窒素パージ(purging)を行わずに熱処理することが可能であり、これにより、工程効率が向上すると同時に、一般的な大気雰囲気と類似の環境で熱処理されても、向上された光学的特性を示す利点を有し得る。
【0075】
一実施例によれば、前記重合体溶液を調製するにおいて、前記イミド繰り返し単位およびアミド繰り返し単位の含有量などを適切に調節しているため、従来のようにポリイミド化反応、沈殿、ろ過、および乾燥、再溶解などの過程を経ることがなくても、光学的特性、機械的物性、および柔軟性がバランスよく改善されたポリアミドイミドフィルムが得られる。
【0076】
また、従来はポリイミドフィルムを製造するにおいて、製膜過程の熱処理の際、窒素ガスのパージ(purge)により前記フィルムの黄変を防止し、透明性を確保しようとしたが、本発明の一実施形態によれば、前記のような窒素ガスのパージがなくても光学的特性に優れたポリアミドイミドフィルムが得られる。
【0077】
前述のような方法により製造された一実施形態によるポリアミドイミドフィルムは、厚さ20μm〜70μm、より詳しく、約25μm〜約60μmを基準に、表面硬度が約HB以上であり得る。さらにより詳しく、本実施形態によるポリアミドイミドフィルムは、前記厚さを基準に約H以上であり得る。
【0078】
また、一実施形態により製造されたポリアミドイミドフィルムは、厚さ20μm〜70μm、より詳しく、約25μm〜約60μmを基準に、550nmで測定した透過度が88%以上であり、ヘイズが2%以下であり、黄色度(YI)が5以下の条件を満足し得る。
【0079】
より詳しく、一実施形態によるポリアミドイミドフィルムは、前記の基準に、透過度が89%以上、ヘイズが1%以下、黄色度が4以下であり得る。
さらにより詳しく、一実施形態によるポリアミドイミドフィルムは、前記の基準に、透過度が89%以上、ヘイズが1%未満、黄色度が4以下であり得る。
さらにより詳しく、一実施形態によるポリアミドイミドフィルムは、透過度が89%以上、ヘイズが0.5%以下、黄色度が3以下であり得る。
【0080】
また、一実施形態によるポリアミドイミドフィルムのモジュラスは5GPa以上であり得る。より詳しく、実施形態によるポリアミドイミドフィルムのモジュラスは5.2GPa以上であり得る。より詳しく、実施形態によるポリアミドイミドフィルムのモジュラスは5.3GPa以上であり得る。実施形態によるポリアミドイミドフィルムのモジュラスの最大値は10GPaであり得る。
【0081】
一実施例により製造されたポリアミドイミドフィルムは、無色透明でありながらも機械的物性に優れ、柔軟性に優れ、フレキシブル(flexible)ディスプレイ分野で有用に使用することができる。
[発明を実施するための形態]
【0082】
以下、本発明の一実施例をより詳細に説明する。しかしこれは、本発明の一実施例を例示するものであるのみ、本発明の内容が以下の内容に限定されるものではない。
(実施例1)
【0083】
温度調節が可能な二重ジャケットの1L用ガラス反応器に、20℃の窒素雰囲気下において、有機溶媒であるジメチルアセトアミド(DMAc)710.8gを満たした後、芳香族ジアミンである2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4、4'−ジアミノビフェニル(TFDB)64g(0.2モル)を徐々に投入しながら溶解させた。
【0084】
次いで、芳香族ジアンヒドリドである2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンジアンヒドリド(6−FDA)26.6g(0.06モル)を徐々に投入しながら1時間撹拌した。
【0085】
そして、芳香族ジカルボニル化合物として、1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)23.4g(0.084モル)を投入してから1時間撹拌させ、テレフタロイルクロリド(TPC)11.4g(0.056モル)投入してから1時間撹拌して、重合体溶液を調製した。
【0086】
前記重合体溶液をそのままガラス板に塗布した後、80℃の熱風により30分乾燥した。乾燥したポリアミドイミド重合物をガラス板から剥離した後、ピンフレームに固定して、窒素(N
2)78体積%および酸素(O
2)を21体積%含む雰囲気下で熱処理した。具体的に、前記熱処理は80℃〜300℃の温度範囲で2℃/minの速度で昇温させながら行い、その結果、厚さ30μmのポリアミドイミドフィルムを得た。
(実施例2〜実施例4および比較例1〜比較例5)
【0087】
各成分の含有料を下記表1のように異なるようにしたことを除いては、前記実施例1と同様の方法によりポリアミドイミドフィルムを製造した。
(比較例6)
【0088】
各成分の含有料が下記表1のような重合体溶液を調製した後、前記重合体溶液をそのままガラス板に塗布した後、80℃の熱風により30分乾燥した。
乾燥したポリアミドイミド重合物をガラス板から剥離した後、ピンフレームに固定して、窒素パージ条件、すなわち、窒素(N
2)99体積%以上、酸素(O
2)を1体積%以下で含む雰囲気下で熱処理した。具体的に、前記熱処理は、80℃〜300℃の温度範囲で2℃/minの速度で昇温させながら行い、その結果、厚さ30μmのポリアミドイミドフィルムを得た。
(比較例7)
【0089】
各成分の含有料が下記表1のような重合体溶液を調製した。前記重合体溶液を水50Lおよびエタノール20Lの混合物に沈殿させ副産物を除去した。沈殿した固形分をろ過して粉砕した後、100℃〜150℃で真空により約12時間乾燥させ、粉末状のポリアミドイミド樹脂を得た。次いで、前記ポリアミドイミド樹脂粉末を約20gをDMAc200gに溶かして、これをガラス板に塗布した後、80℃の熱風により30分乾燥した。次いで、25℃〜300℃の温度範囲で3℃/minの速度で昇温させながら熱処理して、厚さ30μmのポリアミドイミドフィルムを得た。
【0091】
前記表1の各材料の投入量をモル%で換算すると、下記表2の通りである。
【0093】
それぞれの実施例および比較例によるポリアミドイミドフィルムについて、次のような物性を測定および評価した。その結果を下記表3に示した。
(1)表面硬度測定
【0094】
表面硬度は、鉛筆硬度測定器(CT−PC1、CORE TECH、韓国)に鉛筆硬度測定用鉛筆を45°角度で取り付け、一定の荷重(750g)を加えながら300mm/minの速度で測定した。鉛筆はMitsubishi鉛筆を使用し、H〜9H、F、HB、B〜6B等の硬度を表す鉛筆を使用した。
(2)透過度(TT)およびヘイズ(HZ)
【0095】
日本電色工業社のヘイズメーターNDH−5000Wを使用して、550nmにおける透過度を測定し、ヘイズを測定した。
(3)黄色度(YI)
【0096】
黄色度(Yellow Index、YI)は、分光光度計(UltraScan(登録商標) PRO、Hunter Associates Laboratory)によりCIE表色系を用いて測定した。
(4)引張強度(modulus)
【0097】
インストロン社の万能試験機UTM5566Aを用いて、サンプルの主収縮方向と直交する方向に5cm以上および主収縮方向に10mmに切り、5cm間隔のクリップに装着した後、常温において5mm/minの速度で伸しながら、破断が起きるまで応力−ひずみ曲線を得た。前記応力−ひずみ曲線において、初期変形に対する荷重の傾きをモジュラス(GPa)とした。
【0099】
前記表3を参照すると、一実施形態による実施例1〜実施例4は、表面硬度HB以上、透過度89%以上、ヘイズ1%以下、黄色度3以下、引張強度5Gpa以上のすべての条件を満足することが確認できる。
【0100】
一方、比較例1の場合、前記芳香族ジカルボニル化合物であるテレフタロイルクロリド(TPC)および1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)の含有量が低すぎて、引張強度が十分でないことが分かり、比較例2の場合は、芳香族ジアンヒドリドである2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンジアンヒドリド(6−FDA)の含有量が低すぎて透過度、ヘイズおよび黄色度の光学的物性が低下したことが分かる。
【0101】
また、比較例3は、芳香族ジカルボニル化合物として1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)を含まないため、表面硬度は満足させるが、引張強度が非常に劣ることが分かり、比較例4および比較例5は、芳香族ジカルボニル化合物中の1,1'−ビフェニル−4,4'−ジカルボニルジクロリド(BPDC)の含有量が高すぎて、黄色度およびヘイズの光学的物性が低下したことが分かる。
【0102】
また、比較例6は、窒素含有量が100%に近い窒素パージ(purging)の条件において熱処理をした場合のものであり、前記実施例1〜4の場合、このような窒素パージを行わない工程条件下でも、前記比較例6と同等以上のレベルの優れた物性を実現することが確認できた。
【0103】
また、比較例7は、別途の沈殿、乾燥、および再溶解の過程を経てフィルムを製造する場合のものであり、実施例1〜4に比べて透過度、ヘイズ、表面硬度および引張強度のいずれも劣ることが確認できた。
(5)収率
【0104】
前記実施例1〜4および前記比較例7について、それぞれの重合体溶液をガラス板に塗布する直前、つまり、製膜段階の直前まで収率を測定した。具体的には、投入された原料成分のモル(mole)に対して、塗布のための溶液に残っている材料のモル(mole)の百分率を測定した。その結果は下記表4に示す通りである。
【0106】
前記表4を参照すると、比較例7のように、副産物を除去するための別途の沈殿、除去、および溶解工程を経る従来の製造方法によると、製膜段階直前の収率が約60%程度であるが、これはポリイミド化反応、沈殿、ろ過、および乾燥などの段階において、素材の損失が必然的に発生するからである。一方、一実施形態による実施例1〜4の製造方法の場合は、別途の沈殿、乾燥、および再溶解の過程なく重合体溶液を直ちに塗布してフィルムを製造したものであり、収率が80%〜100%、90%〜100%、94%〜100%、つまり、実質的に100%に近い収率を示すことが分かる。
【0107】
以上により、実験例および実施例について詳細に説明したところ、本発明の権利範囲は、前述の実験例および実施例に限定されず、以下の特許請求の範囲で定義している本発明の基本概念を利用した当業者の様々な変形および改良形態もまた、本発明の権利範囲に含まれる。