(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持基板、圧電性材料基板、および前記支持基板と前記圧電性材料基板との間の多層膜部を備えており、前記多層膜部が、第一層、第二層、第三層および第四層をこの順で積層してなる多層膜を有する接合体、および
前記圧電性材料基板上に設けられた電極
を備えており、前記第一層および前記第三層が珪素酸化物からなり、前記第二層および第四層が金属酸化物からなり、前記第二層の屈折率が前記第一層の屈折率および前記第三層の屈折率よりも高く、前記第二層の前記屈折率が前記第四層の屈折率と異なることを特徴とする、周波数3.5〜6GHzの弾性波用の弾性波素子。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1(a)に示すように、圧電性材料基板1は一対の表面1aと1bとを有する。この一方の表面1aに多層膜
部22を成膜する。本例では、多層膜
部22は、圧電性材料基板1上に例えば2
層の
多層膜2を
積層することで得られる。各
多層膜2は、圧電性材料基板1側から見て、第一層3A、第二層7A、第三層3B、第四層7Bを交互に設けた構造になっている。なお、本例では、圧電性材料基板側から第一層、第二層、第三層、第四層を順次積層しているが、圧電性材料基板1側から見て第四層、第三層、第二層、第一層を順次積層することもできる。
【0017】
図1(b)に示すように、多層膜
部22の表面22aに接合層4を更に設けることができる。この場合には、
図1(c)に示すように、接合層4の表面に対して矢印Aのように中性化ビームを照射し、接合層4の表面を活性化して活性化面5とすることができる。
【0018】
一方、
図2(a)に示すように、支持基板6の表面に対して、矢印Bのように中性化ビームを照射し、支持基板6の表面を活性化して活性化面6aとする。次いで、
図2(b)に示すように、第一の接合層4の活性化面5と支持基板6の活性化面6aとを直接接触させ、圧力を加えることで、
図2(b)に示すように接合体9を得る。矢印Cは接合境界である。
【0019】
好適な実施形態においては、接合体9の圧電性材料基板1の表面1bを更に研磨加工し、
図3(a)に示すように圧電性材料基板1Aの厚さを小さくし、接合体9Aを得る。1cは研磨面である。
図3(b)では、圧電性材料基板1Aの研磨面1c上に所定の電極11を形成することによって、弾性波素子10Aを作製している。
【0020】
好適な実施形態においては、支持基板上にも接合層14を設け、多層膜上の接合層と直接接合する。これによって、
図4(a)に示すような接合体9Bが得られる。接合境界を矢印Cによって示す。
図4(b)に示すように、この接合体の圧電性材料基板1A上に電極11を設けることによって、弾性波素子10Bを得ることができる。
【0021】
また、好適な実施形態においては、支持基板と多層膜とを直接接合する。これによって、
図5(a)に示すような接合体9Cが得られる。接合境界を矢印Cによって示す。
図5(b)に示すように、この接合体の圧電性材料基板1A上に電極11を設けることによって、弾性波素子10Cを得ることができる。
【0022】
本発明において、支持基板と圧電性材料基板との間に設けられる多層膜
部は、第一層、第二層、第三層および第四層をこの順で積層
してなる多層膜を有しており、第一層および第三層が珪素酸化物からなり、第二層および第四層が金属酸化物からなり、第二層の屈折率が第一層の屈折率および第三層の屈折率よりも高く、第二層の屈折率と第四層の屈折率とが異なるようにする。第一層、第二層、第三層および第四層は、支持基体側から圧電性材料基板側へと向かってこの順で配列されていてよく、あるいは圧電性材料基板側から支持基体側へと向かってこの順で配列されていてもよい。
【0023】
第一層および第三層を構成する珪素酸化物は、好ましくはSiO
x(1.80≦x≦2.50)の組成を有する。
【0024】
また、第二層および第四層を構成する金属酸化物は特に限定されないが、Q値向上の観点からは、ハフニウム酸化物、タンタル酸化物またはジルコニウム酸化物であることが特に好ましい。
【0025】
ここで、ハフニウム酸化物の組成は、HfO
z(1.80≦z≦2.50)であることが好ましい。タンタル酸化物の組成は、Ta
2O
y(4.60≦y≦5.50)であることが好ましい。また、ジルコニウム酸化物の組成は、ZrO
z(1.80≦z≦2.50)であることが好ましい。
【0026】
好適な実施形態においては、多層膜
部が複数の前記
多層膜を有する。これによって屈折率変調が有効となり、Q値が一層効果的に低減される。多層膜
部が有する
多層膜の
層数は、2以上が好ましい。ただし、
多層膜の
層数が多くなりすぎると、支持基板による圧電性材料基板の拘束効果が少なくなるので、層数は5以下が好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明の観点からは、第二層の屈折率と第一層の屈折率との差、第三層の屈折率との差は、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがさらに好ましい。一方、第二層の屈折率と第一層の屈折率との差、第三層の屈折率との差は、0.8以下であることが好ましく、0.6以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明の観点からは、第四層の屈折率と第二層の屈折率との差を0.02以上とすることが好ましく、0.03以上とすることがさらに好ましい。一方、この差は0.10以下とすることが好ましい。
【0029】
第一層、第三層は珪素酸化物からなるが、屈折率は通常1.40〜1.58である。第一層の屈折率と第三層の屈折率とは略同一にすることが好ましく、この観点からは、第一層の屈折率と第三層の屈折率との差は0.01以下であることが好ましい。ただし、第一層の屈折率と第三層の屈折率との間に差異を設けることで、Q値をさらに向上させることもできるので、この観点からは、第一層と第三層の屈折率との差を0.02以上とすることが好ましく、0.03以上とすることがさらに好ましい。しかし、この差は0.10以下とすることが好ましい。
【0030】
各層の屈折率は以下の条件で測定するものとする。
高速分光エリプソメーターにて以下装置及び測定条件にて測定を実施した。
「装置」
M-2000(J.A.Woollam社製)、回転補償子型
「測定条件」
入射角:65,70,75度
測定波長:195〜1680nm
ビーム径:2mm×8mm
その後、以下解析を実施した。
「解析モデル」
金属酸化物/珪素酸化物/金属酸化物/珪素酸化物/金属酸化物/珪素酸化物/金属酸化物/珪素酸化物/基板
「解析方法」
測定されたΔ(位相差)とψ(振幅反射率)のスペクトルを上記解析モデルから算出された(Δ、ψ)と比較し、測定値(Δ、ψ)に近づくように誘電関数や膜厚を変化させてフィッティングを行う。それぞれの膜の光学定数は単層成膜時のリファレンスから得られた値を初期値とした。測定値と理論値がベストフィット(平均二乗誤差が最小に収束)した結果にて、屈折率の波長分散を得る。
【0031】
第一層の厚さ、第二層の厚さ、第三層の厚さおよび第四層の厚さは、それぞれ20nm以上とすることが好ましく、100nm以上とすることがさらに好ましい。一方、各層の厚さが厚くなりすぎると支持基板による圧電性材料基板の拘束が弱くなるので、この観点からは、各層の厚さは300nm以下が好ましい。
【0032】
多層膜を構成する第一層、第二層、第三層、第四層の成膜方法は限定されないが、スパッタリング(sputtering)法、化学的気相成長法(CVD)、蒸着を例示できる。例えば、スパッタリングの場合には、バイアス電圧の有無によって第二層の屈折率と第四層の屈折率を変化させることができる。すなわち、バイアス電圧を印加することで金属酸化物層の屈折率を相対的に高くでき、バイアス電圧を印加しないことで同じ金属酸化物層の屈折率を低くできる。また、イオンアシスト蒸着の場合はアシストエネルギーによって各層の屈折率を調整できる。すなわち、アシストエネルギーを大きくすることで金属酸化物層の屈折率を相対的に高くでき、アシストエネルギーを小さくすることで同じ金属酸化物層の屈折率を低くできる。
【0033】
多層膜を構成する各層の具体的な製造条件はチャンバー仕様によるので適宜選択するが、好適例では、全圧を0.28〜0.34Paとし、酸素分圧を1.2×10
―3〜5.7×10
−2Paとし、成膜温度を常温とする。
【0034】
好適な実施形態においては、圧電性材料基板と支持基板との間に、一層または複数層の接合層を設けることができる。こうした接合層の材質としては、以下を例示できる。
Si
(1−v)O
v、Ta
2O
5、Al
2O
3、Nb
2O
5,TiO
2。
【0035】
更に好適な実施形態においては、支持基板と圧電性材料基板との間に設けられる前記接合層が、Si
(1−v)O
v(0.008≦v≦0.408)の組成を有する。
【0036】
この組成は、SiO
2(v=0.667に対応する)に比べて酸素比率がかなり低くされている組成である。このような組成の珪素酸化物Si
(1−v)O
vからなる接合層を更に介在させることで、接合層における絶縁性を更に高くすることができる。
【0037】
各接合層を構成するSi
(1−v)O
vの組成において、vが0.008未満であると、接合層における電気抵抗が低くなる。このため、vを0.008以上とすることが好ましく、0.010以上が更に好ましく、0.020以上が特に好ましく、0.024以上が特に好ましい。またvを0.408以下とすることによって、接合強度が更に向上するので、vを0.408以下とすることが好ましく、0.225以下とすることが更に好ましい。
【0038】
各接合層の厚さは、特に限定されないが、製造コストの観点からは0.01〜10μmが好ましく、0.01〜0.5μmが更に好ましい。
【0039】
各接合層の成膜方法は限定されないが、スパッタリング(sputtering)法、化学的気相成長法(CVD)、蒸着を例示できる。ここで、特に好ましくは、スパッタターゲットをSiとした反応性スパッタリングの際に、チャンバー内に流す酸素ガス量を調整することによって、各接合層の酸素比率(v)をコントロールすることが可能である。
【0040】
各接合層の具体的な製造条件はチャンバー仕様によるので適宜選択するが、好適例では、全圧を0.28〜0.34Paとし、酸素分圧を1.2×10
―3〜5.7×10
−2Paとし、成膜温度を常温とする。また、SiターゲットとしてはBドープSiを例示できる。
【0041】
接合層の酸素濃度はEDSによって以下の条件で測定する。
測定装置:
元素分析装置(日本電子 JEM-ARM200F)を用いて元素分析を行う。
測定条件:
FIB(集束イオンビーム)法にて薄片化したサンプルに対して、加速電圧200kVにて観察する。
【0042】
本発明では、支持基板は、単結晶からなっていてよく、多結晶からなっていてもよい。支持基板の材質は、好ましくは、シリコン、サイアロン、サファイア、コージェライト、ムライトおよびアルミナからなる群より選ばれる。アルミナは好ましくは透光性アルミナである。
【0043】
シリコンは、単結晶シリコンでも多結晶シリコンでもよく、また高抵抗シリコンであってもよい。
サイアロンは、窒化珪素とアルミナとの混合物を焼結して得られるセラミックスであり、以下のような組成を有する。
Si
6−wAl
wO
wN
8−w
すなわち、サイアロンは、窒化珪素中にアルミナが混合された組成を有しており、wがアルミナの混合比率を示している。wは、0.5以上が更に好ましい。また、wは、4.0以下が更に好ましい。
【0044】
サファイアはAl
2O
3の組成を有する単結晶であり、アルミナはAl
2O
3の組成を有する多結晶である。コージェライトは、2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2の組成を有するセラミックスである。ムライトは、3Al
2O
3・2SiO
2〜2Al
2O
3・SiO
2の範囲の組成を有するセラミックスである。
【0045】
圧電性材料基板の材質は、必要な圧電性を有する限り限定されないが、LiAO
3の組成を有する単結晶が好ましい。ここで、Aは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である。このため、LiAO
3は、ニオブ酸リチウムであってよく、タンタル酸リチウムであってよく、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体であってよい。
【0046】
以下、本発明の各構成要素について更に説明する。
本発明の接合体の用途は特に限定されず、例えば、弾性波素子や光学素子に好適に適用できる。
弾性波素子としては、弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などが知られている。例えば、弾性表面波デバイスは、圧電性材料基板の表面に、弾性表面波を励振する入力側のIDT(Interdigital Transducer)電極(櫛形電極、すだれ状電極ともいう)と弾性表面波を受信する出力側のIDT電極とを設けたものである。入力側のIDT電極に高周波信号を印加すると、電極間に電界が発生し、弾性表面波が励振されて圧電性材料基板上を伝搬していく。そして、伝搬方向に設けられた出力側のIDT電極から、伝搬された弾性表面波を電気信号として取り出すことができる。
【0047】
圧電性材料基板の底面に金属膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとしてラム波素子を製造した際に、圧電性材料基板の裏面近傍の電気機械結合係数を大きくする役割を果たす。この場合、ラム波素子は、圧電性材料基板の表面に櫛歯電極が形成され、支持基板に設けられたキャビティによって圧電性材料基板の金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、金などが挙げられる。なお、ラム波素子を製造する場合、底面に金属膜を有さない圧電性材料層を備えた複合基板を用いてもよい。
【0048】
また、圧電性材料基板の底面に金属膜と絶縁膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとして薄膜共振子を製造した際に、電極の役割を果たす。この場合、薄膜共振子は、圧電性材料基板の表裏面に電極が形成され、絶縁膜をキャビティにすることによって圧電性材料基板の金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えば、モリブデン、ルテニウム、タングステン、クロム、アルミニウムなどが挙げられる。また、絶縁膜の材質としては、例えば、二酸化ケイ素、リンシリカガラス、ボロンリンシリカガラスなどが挙げられる。
【0049】
また、光学素子としては、光スイッチング素子、波長変換素子、光変調素子を例示できる。また、圧電性材料基板中に周期分極反転構造を形成することができる。
【0050】
本発明の対象が弾性波素子であり、圧電性材料基板の材質がタンタル酸リチウムである場合には、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に123〜133°(例えば128°)回転した方向のものを用いるのが伝搬損失が小さいため好ましい。
また圧電性材料基板がニオブ酸リチウムからなる場合には、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に86〜94°(例えば90°)回転した方向のものを用いるのが伝搬損失が小さいため好ましい。更に、圧電性材料基板の大きさは、特に限定されないが、例えば、直径50〜150mm,厚さが0.2〜60μmである。
【0051】
本発明の接合体を得るためには、以下の方法が好ましい。
まず、接合すべき表面(多層膜の表面、接合層の表面、圧電性材料基板の表面、支持基板の表面)を平坦化して平坦面を得る。ここで、各表面を平坦化する方法は、ラップ(lap)研磨、化学機械研磨加工(CMP)などがある。また、平坦面は、Ra≦1nmが好ましく、0.3nm以下にすると更に好ましい。
【0052】
次いで、研磨剤の残渣や加工変質層の除去のため、各接合層の各表面を洗浄する。表面を洗浄する方法は、ウエット洗浄、ドライ洗浄、スクラブ洗浄などがあるが、簡便かつ効率的に清浄表面を得るためには、スクラブ洗浄が好ましい。この際には、洗浄液としてサンウオッシュLH540を用いた後に、アセトンとIPAの混合溶液を用いてスクラブ洗浄機にて洗浄することが特に好ましい。
【0053】
次いで、各接合面に中性化ビームを照射することで、各接合面を活性化する。
中性化ビームによる表面活性化を行う際には、特許文献2に記載のような装置を使用して中性化ビームを発生させ、照射することが好ましい。すなわち、ビーム源として、サドルフィールド型の高速原子ビーム源を使用する。そして、チャンバーに不活性ガスを導入し、電極へ直流電源から高電圧を印加する。これにより、電極(正極)と筺体(負極)との間に生じるサドルフィールド型の電界により、電子eが運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、不活性ガス(アルゴン、窒素等)が好ましい。
ビーム照射による活性化時の電圧は0.5〜2.0kVとすることが好ましく、電流は50〜200mAとすることが好ましい。
【0054】
次いで、真空雰囲気で、活性化された接合面同士を接触させ、接合する。この際の温度は常温であるが、具体的には40℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。また、接合時の温度は20℃以上、25℃以下が特に好ましい。接合時の圧力は、100〜20000Nが好ましい。
【実施例】
【0055】
(予備実験)
最初に、圧電性材料基板上に酸化珪素層や酸化ハフニウム層を成膜し、以下のような各層が得られるような成膜条件を記録した。ただし、ハフニウム酸化物層の屈折率を調節するために、バイアス電圧を以下のように調節した。
珪素酸化物層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.52
ハフニウム酸化物層(HfO
2):バイアス電圧 100V:
厚さ150nm、屈折率2.07
ハフニウム酸化物層(HfO
2):バイアス電圧 200V:
厚さ150nm、屈折率2.12
ハフニウム酸化物層(HfO
2):バイアス電圧 400V:
厚さ150nm、屈折率2.15
【0056】
(実施例A1)
次いで、
図1〜
図3を参照しつつ説明した方法により、弾性表面波素子を試作した。
具体的には、OF部を有し、直径が4インチ,厚さが250μmのタンタル酸リチウム基板(LT基板)を、圧電性材料基板1として使用した。LT基板は、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である128°YカットX伝搬LT基板を用いた。圧電性材料基板1の表面1aは、算術平均粗さRaが0.3nmとなるように鏡面研磨しておいた。ただし、Raは、原子間力顕微鏡(AFM)によって10μm×10μmの視野で測定する。
【0057】
次いで、圧電性材料基板1上に、スパッタリング法によって、積層構造2を2つ順次形成し、多層膜22を得た。ただし、圧電性材料基板上にはまず酸化珪素からなる第一層を成膜し、第二層、第三層、第四層を順次成膜した。各層の厚さおよび屈折率は、予備実験に従って以下のようになるように調節した。
第一層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第二層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.12
第三層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第四層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.07
【0058】
次いで、多層膜2上に、接合層4を成膜した。具体的には、直流スパッタリング法を使用し、ターゲットにはボロンドープのSiを使用した。また、酸素源として酸素ガスを導入した。この際、酸素ガス導入量を調節することによって、チャンバー内の雰囲気の全圧と酸素分圧を調節した。接合層4の厚さは50nmとした。接合層4の表面の算術平均粗さRaは0.2〜0.6nmであった。次いで、接合層4を化学機械研磨加工(CMP)し、膜厚を80〜190nmとし、Raを0.08〜0.4nmとした。
【0059】
一方、支持基板6として、オリエンテーションフラット(OF)部を有し、直径が4インチ,厚さが500μmのシリコンからなる支持基板6を用意した。支持基板6の表面は、化学機械研磨加工(CMP)によって仕上げ加工されており、算術平均粗さRaは0.2nmとなっている。
【0060】
次いで、接合層4の表面及び支持基板6であるSi基板表面に中性化ビームを照射して表面を活性化して直接接合した。
具体的には、接合層4の表面と支持基板6の表面とを洗浄し、汚れを取った後、真空チャンバーに導入した。10
−6Pa台まで真空引きした後、各表面に高速原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量27sccm)を120sec間照射した。ついで、接合層4のビーム照射面(活性化面)と支持基板6の活性化面とを接触させた後、10000Nで2分間加圧して接合した。次いで、得られた各例の接合体を100℃で20時間加熱した。得られた接合体を光学エリプソメトリーによって測定し、
図6に示すような屈折率チャートを得た。
【0061】
次いで、圧電性材料基板1の表面を厚みが当初の250μmから1μmになるように研削及び研磨した。次いで、測定用電極パターンを形成し、弾性表面波素子を得た。そして、周波数5.5GHzでのQ値を測定し、表1に示す。
【0062】
ただし、Q値は以下のようにして測定した。
ウエハー上に表面弾性波共振子を作成し、ネットワークアナライザーを用いて周波数特性を測定した。これにより得られた周波数特性から共振周波数f
r、およびその半値幅Δf
rを算出し、f
r/Δf
rを求めることでQ値を得た。
【0063】
(実施例A2)
実施例A1と同様にして接合体および弾性表面波素子を得た。ただし、多層膜を構成する各層は以下のように調節した。得られた素子について、周波数5.5GHzでのQ値を測定し、表1に示す。
第一層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第二層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.15
第三層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第四層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.05
【0064】
(比較例A1)
実施例A1と同様にして接合体および弾性表面波素子を得た。ただし、多層膜を構成する各層は以下のように調節した。得られた接合体を光学エリプソメトリーによって測定し、
図7に示すような屈折率チャートを得た。また、得られた素子について、周波数5.5GHzでのQ値を測定し、表1に示す。
第一層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第二層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.07
第三層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第四層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.07
【0065】
(比較例A2)
実施例A1と同様にして接合体および弾性表面波素子を得た。ただし、多層膜を構成する各層は以下のように調節した。得られた接合体を光学エリプソメトリーによって測定し、
図8に示すような屈折率チャートを得た。また、得られた素子について、周波数5.5GHzでのQ値を測定し、表1に示す。
第一層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第二層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.12
第三層(SiO
2):厚さ150nm、屈折率1.53
第四層(HfO
2):厚さ150nm、屈折率2.12
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、比較例A1では、第二層、第四層の屈折率を低めに調節したが、
図7に示すように、第二層、第四層の屈折率が予備実験で得られた屈折率と同程度であった。
比較例A2では、第二層、第四層の屈折率を高めに調節したが、
図8に示すように、第二層、第四層の屈折率が予備実験で得られた屈折率と同程度であった。また、Q値は、比較例A1におけるQ値と同じであり、屈折率を高くすることによる効果は見られなかった。
【0068】
実施例A1では、
図6に示すような屈折率分布が得られた。
さらに、表1に示すように、Q値が基準値に対して20%も向上していることが判明した。
【0069】
実施例A2でも、第二層の屈折率と第四層の屈折率とを変化させたが、
図6と類似の厚さ方向に見た屈折率変調が観察された。
さらに、表1に示すように、Q値が基準値に対して大きく向上していることが判明した。
【0070】
(実施例B1、B2、比較例B1、B2)
実施例A1、A2、比較例A1、A2において、第二層の材質を、HfO
2からTa
2O
5に変更した。そして、得られた素子についてQ値を測定したところ、実施例A1、A2、比較例A1、A2と同様の結果が得られた。
【0071】
(実施例C1、C2、比較例C1、C2)
実施例A1、A2、比較例A1、A2において、第二層の材質を、HfO
2からZrO
2に変更した。そして、得られた素子についてQ値を測定したところ、実施例A1、A2、比較例A1、A2と同様の結果が得られた。
【解決手段】接合体9Aは、支持基板6、圧電性材料基板1A、および支持基板と圧電性材料基板との間の多層膜22を備える。多層膜22は、第一層3、第二層7A、第三層3および第四層7Aをこの順で有する積層構造2を有する。第一層3および第三層3が珪素酸化物からなり、第二層7Aおよび第四層7Bが金属酸化物からなる。第二層7Aの屈折率が第一層3の屈折率および第三層3の屈折率よりも高い。第二層7Aの屈折率が第四層7Bの屈折率と異なる。