【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例は、設計したプライマーのSMN1遺伝子及びSMN2遺伝子配列に対する反応性を比較した例である。
【0028】
〔実施例1〕SMN1遺伝子特異的フォワードプライマーを用いたSMN1遺伝子定量系
(a)試験材料
(a−1)SMN1遺伝子増幅用フォワードプライマー
SMN1遺伝子増幅用のフォワードプライマー(表1;配列番号1〜9)及び共通リバースプライマー(表1;配列番号10)をシグマ-アルドリッチ社に合成依頼したものを用いた。
【0029】
【表1】
【0030】
(a−2)プラスミド
PCR反応の鋳型として、下記に示すSMN1遺伝子及びSMN2遺伝子のエクソン7を含む部分配列をベクターに組み込んだプラスミドを、ユーロフィン社に合成依頼したものを用いた。下記配列番号11の下線部は、SMN1遺伝子のエクソン7の配列(54bp)を示し、その上流がイントロン6の部分配列であり、下流はイントロン7の部分配列を示す。配列番号12の下線部は、SMN2遺伝子のエクソン7の配列(54bp)を示し、その上流がイントロン6の部分配列であり、下流はイントロン7の部分配列を示す。
SMN1遺伝子のエクソン7の6番目はCであり、SMN2遺伝子のエクソン7の6番目はTである。
【0031】
エクソン7を含むSMN1遺伝子部分配列(配列番号11)
CAACTTAATTTCTGATCATATTTTGTTGAATAAAATAAGTAAAATGTCTTGTGAAACAAAATGCTTTTTAACATCCATATAAAGCTATCTATATATAGCTATCTATGTCTATATAGCTATTTTTTTTAACTTCCTTTATTTTCCTTACAG
GGTTTCAGACAAAATCAAAAAGAAGGAAGGTGCTCACATTCCTTAAATTAAGGAGTAAGTCTGCCAGCATTATGAAAGTGAATCTTACTTTTGTAAAACTTTATGGTTTGTGGAAAACAAATGTTTTTGAACATTTAAAAAGTTCAGATGTTAAAAAGTTGAAAGGTTAATGTAAAACAATCAATATTAAAGAATTTTGATGCCAAAACTATTAGATAAAAGGTTAATCTACATCCCTACTAGAATTCTC
【0032】
エクソン7を含むSMN2遺伝子部分配列(配列番号12)
CAACTTAATTTCTGATCATATTTTGTTGAATAAAATAAGTAAAATGTCTTGTGAAACAAAATGCTTTTTAACATCCATATAAAGCTATCTATATATAGCTATCTATATCTATATAGCTATTTTTTTTAACTTCCTTTATTTTCCTTACAG
GGTTTTAGACAAAATCAAAAAGAAGGAAGGTGCTCACATTCCTTAAATTAAGGAGTAAGTCTGCCAGCATTATGAAAGTGAATCTTACTTTTGTAAAACTTTATGGTTTGTGGAAAACAAATGTTTTTGAACATTTAAAAAGTTCAGATGTTAGAAAGTTGAAAGGTTAATGTAAAACAATCAATATTAAAGAATTTTGATGCCAAAACTATTAGATAAAAGGTTAATCTACATCCCTACTAGAATTCTC
【0033】
(b)PCR試薬
PCR試薬の組成を以下に示す。
1×(終濃度)PCRバッファー(Ampdirect Plus;島津製作所社)
0.2μM(終濃度)SMN1遺伝子用フォワードプライマー(配列番号1〜9)
0.2μM(終濃度)共通リバースプライマー(配列番号10)
0.025U/μL(終濃度)BIOTAQ HSDNAポリメラーゼ
0.5×(終濃度) EvaGreen
【0034】
(c)プラスミド希釈系列
SMN1遺伝子プラスミド (終濃度)100,000copy/反応、10,000copy/反応、1,000copy/反応、100copy/反応
SMN2遺伝子プラスミド (終濃度)100,000copy/反応、10,000copy/反応
【0035】
(d)PCR反応の条件
(i)95℃:15分
(ii)95℃:15秒、61〜65℃:80秒(45サイクル)
(iii)37℃:5分
【0036】
(e)インターカレーターによるリアルタイムPCR測定
(e−1)測定方法
以下の手順で測定した。
(i)PCR試薬とプラスミドを、上記終濃度となるように混ぜ、その40μLを分注したPCRチューブを用意した。
(ii)サーマルサイクラー装置(CFX96;バイオラッド社)を用いて、リアルタイムPCR測定を行い、各プラスミド濃度のCq値を算出した。
(e−2)測定結果
結果を表2に示す。各プライマーと各増幅伸長温度との組み合わせ条件の中で、SMN2遺伝子への反応が、SMN1遺伝子の1%未満である組み合わせ、即ちSMN1遺伝子 100copy/反応のCq値から、SMN2遺伝子 10、000copy/反応のCq値を差し引いた場合のΔCq値が−0.1未満を満たす組み合わせは、11通りとなり、フォワードプライマーの配列番号1〜9では適用可能であった。
【0037】
【表2】
【0038】
〔実施例2〕SMN1遺伝子特異的リバースプライマーを用いたSMN1遺伝子定量系
(f)試験材料
(f−1)SMN1遺伝子増幅用リバースプライマー
SMN1遺伝子増幅用のリバースプライマー(表3;配列番号14〜22)及び共通フォワードプライマー(表3;配列番号13)をシグマ-アルドリッチ社に合成依頼したものを用いた。
【0039】
【表3】
【0040】
(f−2)プラスミド
上記、(a−2)と同じプラスミドを用いた。
【0041】
(g)PCR試薬
PCR試薬の組成を以下に示す。
1×(終濃度)PCRバッファー(AMpdirect Plus;島津製作所社)
0.2μM(終濃度)共有フォワードプライマー(配列番号13)
0.2μM(終濃度)SMN1遺伝子用リバースプライマー(配列番号14〜22)
0.025U/μL(終濃度)BIOTAQ HSDNAポリメラーゼ
0.5×(終濃度) EvaGreen
【0042】
(h)プラスミド希釈系列
上記、(c)と同じプラスミド希釈系列を用いた。
【0043】
(i)PCR反応の条件
上記、(d)と同じ条件で実施した。
【0044】
(j)インターカレーターによるリアルタイムPCR測定
(j−1)測定方法
以下の手順で測定した。
(i)PCR試薬とプラスミドを、上記終濃度となるように混ぜ、その40μLを分注したPCRチューブを用意した。
(ii)サーマルサイクラー装置(CFX96;バイオラッド社)を用いて、リアルタイムPCR測定を行い、各プラスミド濃度のCq値を算出した。
(j−2)測定結果
結果を表4に示す。各プライマーと各増幅伸長温度との組み合わせ条件の中で、SMN2遺伝子への反応が、SMN1遺伝子の1%未満である組み合わせ、即ちSMN1遺伝子 100copy/反応のCq値から、SMN2遺伝子 10、000copy/反応のCq値を差し引いた場合のΔCq値が−0.1未満を満たす組み合わせは、8通りとなり、リバースプライマーの配列番号16〜21では適用可能であった。
【0045】
【表4】
【0046】
〔実施例3〕乾燥ろ紙血パンチ片が共存したSMN1遺伝子定量系のSMN2クロス増幅反応の検証
(a)試験材料
(a−1)SMN1遺伝子増幅用プライマー
SMN1増幅用のプライマーとして、下記のプライマーをシグマ-アルドリッチ社に合成依頼したものを用いた。
SMN1用特異的フォワードプライマー; 上記、表1の配列番号6
SMN1用共通リバースプライマー; 上記、表1の配列番号10
【0047】
(a−2)SMN1検出プローブ
SMN1のPCR増幅を確認するためのプローブとして、蛍光標識を施した下記の検出プローブを、プライムテック社に合成依頼して作成したものを用いた。
SMN1用検出プローブ
5‘−(Quasar670)−GGAAGGTGCTCACATTCCTTAAATTAAGGA−(BHQ3)−3’(塩基配列部分は配列番号23)
【0048】
(b)PCR試薬
PCR試薬の組成を以下に示す。
PCRバッファー(Ampdirect Plus;島津製作所社)
0.2μM (終濃度)SMN1用特異的フォワードプライマー
0.2μM (終濃度)SMN1用共通リバースプライマー
0.1μM (終濃度)SMN1用検出プローブ
0.025U/μL BIOTAQ HSDNAポリメラーゼ
【0049】
(c)検量線用標準品含有PCR試薬
上記(b)のPCR試薬にSMN1部分配列(配列番号11)が組み込まれたプラスミドを添加して、以下の標準品(希釈系列;STD1〜4)含有PCR試薬を調製した。かっこ内は、それぞれの遺伝子のPCR1反応あたりのコピー数を示す。本試薬は、乾燥ろ紙血に含ませることなく、溶液状態で用いられた。
STD1(SMN1 100,000copy/反応)、STD2(SMN1 10,000copy/反応)、STD3(SMN11000copy/反応)、STD4(SMN1100copy/反応)
【0050】
(d)SMN2クロス試験用PCR試薬
上記(b)のPCR試薬にSMN2の部分配列(配列番号12)が組み込まれたプラスミドを、50,000copy/反応となるように添加して、SMN2クロス試験用PCR試薬を調製した。
【0051】
(e)DNA不含乾燥ろ紙血
白血球を除去したヒト赤血球画分とヒト血漿(EDTA)を、6:4の割合で混合した血液を、採血用ろ紙(アドバンテック社)に40μL染み込ませ、そのまま乾燥させたものを、DNA不含乾燥ろ紙血とした。すなわち、本乾燥ろ紙血にはSMN1とSMN2は含まれていない。
【0052】
(f)PCR反応の条件
(i)95℃:15分
(ii)95℃:15秒、63℃:60秒(40サイクル)
(iii)37℃:5分
【0053】
(g)リアルタイムPCR測定
(g−1)測定方法
以下の手順で測定した。
(i)DNA不含乾燥ろ紙血から、パンチャーを用いて直径1.5mmの円形のパンチ片を採取した。対象として、採血用ろ紙(アドバンテック社)から、同じ大きさのパンチ片(空のパンチ片)を採取した。
(ii)PCR反応用のチューブ(ロッシュ社製:LightCycler8−TubeStrips、ポリプロピレン製)に上記それぞれのパンチ片を投入した。
(iii)前記PCR反応用のチューブに40μLのSMN2クロス試験用PCR試薬をそれぞれ加えた後、キャップ(前記チューブとセットになっているもの)をして密閉した。
(iv)検量線用標準品含有PCR試薬も、それぞれ40μLをチューブに分注したものを用意した(なおチューブにはパンチ片は含まれていない)。
(v)サーマルサイクラー装置(LightCycler96;ロッシュ社)を用いて、SMN1のリアルタイムPCR測定並びにSMN2へのクロス反応の検証を行った。
【0054】
(f−2)測定結果
(i)検量線用標準品含有PCR試薬の増幅反応曲線を
図1に示す。
SMN1 100copy/反応までは、良好に増幅することが確認された。
(ii) SMN2クロス試験用PCR試薬の増幅反応曲線の25〜40サイクルの部分を
図2に示す。
DNA不含乾燥ろ紙血のパンチ片を共存させると、興味深いことに、空のパンチ片(血液を含まないパンチ片)を共存させた場合(図中実線)と比較して、増幅の立ち上がりがCq値として1程度遅れていることが確認された(図中点線)。この条件では、SMN2に対するクロス反応が、コピー数に換算すると約50%低下することになる。即ち、本発明においてSMN2遺伝子への反応性が、SMN1遺伝子への反応性の1%未満となるように設計されたプライマーを、乾燥ろ紙血を検体として用いた場合に、SMN2遺伝子への反応性が弱まることがわかった。すなわち、本発明のプライマーを用いてPCR反応を行った場合に、乾燥ろ紙血のパンチ片が当該反応系に存在することで、SMN2遺伝子へのクロス反応が、より低下することを見出した。
したがって、本発明によれば新生児のスクリーニング検査において、SMN1ホモ欠損であるSMA患者の見逃しのリスク(偽陰性)を低下させることにつながる。
なお、SMN1についても上記同様に試験を行ったところ、乾燥ろ紙血による増幅阻害は認められなかった(結果図示せず)。したがって、上記の乾燥ろ紙血の共存による増幅の立ち上がりが遅れる現象は、SMN2遺伝子の増幅反応における特有の現象であることがわかった。したがって、本願発明は、乾燥ろ紙血中のSMN1遺伝子をリアルタイムPCRにより検出する方法において、特定プライマーを用いることによりSMN2遺伝子への反応性を弱める方法とも言える。