【実施例】
【0029】
実施例1:わかめからのフコキサンチンの抽出
わかめの根は、脱塩の後、乾燥させ、粉末とした。この粉末200gに1.5Lのメタノールの割合で2回抽出し、合計3Lのメタノールからエバポレーションした(1回分)。ヘキサン二層分配法により抽出したあと、エバポレーションにより濃縮した。これを、シリカゲルクロマトグラフィーにより細分画し、フコキサンチンは薄層クロマトグラフィー、フォトダイオードアレイ検出器による高速液体クロマトグラフィー解析により分離精製した。
【0030】
実施例2:NC/Ngaマウスにおける、フコキサンチンの痒み抑制効果
アトピー性皮膚炎(AD)のモデルとして知られるNC/Ngaマウスを用いて、アトピー性皮膚炎に対するフコキサンチン(FX)の効果を検証した。
NC/Ngaマウスは、ダニの寄生により自然発症皮膚炎を発症し、掻痒症、発赤、浮腫、擦創・糜爛、痂皮形成・乾燥などのアトピー性皮膚炎と酷似する症状を示す。このアトピー性皮膚炎(AD)様症状は、NC/Ngaマウスの皮膚の同一部位に対する塩化ピクリル(PiCl)の繰り返し塗布によってもまたもたらされる。
5週齢の雌NC/Ngaマウスを、日本エスエルシー株式会社から購入した。
図1Aに示すように、ワセリン又は0.1%(w/w)フコキサンチン含有ワセリン500 mgを、1日1回5週間マウスの背中に塗布し、ワセリン又はフコキサンチン塗布開始後12日目、19日目、26日目、33日目には更に0.8%塩化ピクリル(PiCl)を塗布した。マウスの行動はビデオモニタリングにより観察した。ワセリン又はフコキサンチン塗布開始後34日目に、ブロモデオキシウリジン(BrdU、ナカライテスク)をマウスの腹腔内に(0.125 g/ g weight)投与した。ワセリン又はフコキサンチン塗布開始5週間後、ビデオモニタリングにより、それぞれのマウスが10分間で引っ掻き行動を行っていた時間を測定した。その後、マウスを屠殺し、当該マウスの耳介リンパ節、血液及び皮膚を採取した。血清中のIgE量を、マウスIgEアッセイキット(株式会社森永生科学研究所)を用い酵素結合免疫吸着法(ELISA)により測定した。耳介リンパ節は、0.1%トリプシン/ 0.1%コラゲナーゼにより消化し、ピペッティングにより得た細胞を懸濁した。10 %ウシ胎仔血清 (FBS)含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(和光純薬工業株式会社)により反応を停止させた。BrdUは、Colorimetric細胞増殖ELISAキット (ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用い、ELISAにより測定した。
【0031】
ワセリン又はフコキサンチン塗布開始直後には、ワセリンを塗布したマウスとフコキサンチンを塗布したマウスの間に違いは観察されなかった。しかしながら、塗布開始5週間後、ワセリンを塗布したマウスとフコキサンチンを塗布したマウスの間で、引っ掻き行動に費やす時間に差が見られた(
図1C)。ワセリンを塗布したマウスと比較して、フコキサンチンを塗布したマウスでは、引っ掻き行動に費やす時間が著しく短いことが見出された。一方、血中IgEレベルは、どちらのマウスにも変化はなかった(
図1D)。耳介リンパ節の腫れ及びBrdUの取り込みは、フコキサンチンの塗布によって影響を受けなかった(
図1E、F)。
以上の結果から、フコキサンチンの局所塗布は、マウスの引っ掻き行動を抑制し、痒みを抑制する効果を有することが見出された。しかしながら、マウス行動に明らかに影響を与えたにも関わらず、血中のIgEレベル、耳介リンパ節の腫れ、細胞増殖において違いは見られなかった。フコキサンチンは、全身性の影響というより局所的に免疫細胞に影響を与えているはずであることが示唆された。
【0032】
実施例3:フコキサンチン塗布によるマスト細胞数の減少
次に、フコキサンチン塗布によるマスト細胞への影響について検証した。
実施例2と同様に、ワセリン又はフコキサンチン、及びPiClをマウスに塗布した。ワセリン又はフコキサンチン塗布開始5週間後、マウスを屠殺し、皮膚を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンで包埋した。皮膚標本を、トルイジンブルー(TB)(pH=4.1)で染色した。染色標本は、バーチャルスライドシステム(Olympus)により撮影した。
ワセリンを塗布したマウスと比較して、フコキサンチンを塗布したマウスは、トルイジンブルー(TB)陽性細胞の数が、顕著に少なかった(
図2A及び2B)。
この結果から、フコキサンチンは、顆粒を有するマスト細胞の数を減少させることが示唆された。
【0033】
実施例4:フコキサンチンによる、骨髄由来マスト細胞(BMMC)形成の抑制
次に、フコキサンチンがマスト細胞(BMMC)の成熟化に対して与える影響について検討した。
8週齢の雌マウスから骨髄細胞を採取し、WEHI-3細胞(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)を含有する馴化培地中で培養した。培養は、Yamashita U et al. (2005) Strain difference of murine bone marrow-derived mast cell functions. J Leukoc Biol 78(3):605-611.に記載の方法に準じて、行った。0.1μMフコキサンチン、1μMフコキサンチン、10μMフコキサンチン、又はコントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)で、骨髄細胞を処理した。1ウェルごとに10視野(100μm×100μm)に含まれる骨髄由来マスト細胞の細胞数を計測した(
図2C)。
WEHI-3細胞(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所)を含有する馴化培地中で培養することにより、骨髄細胞から骨髄由来マスト細胞が形成された。フコキサンチンは用量依存的にBMMC形成を抑制した。
【0034】
実施例5:フコキサンチンによる、骨髄由来マスト細胞(BMMC)脱顆粒の抑制
次に、フコキサンチンがマスト細胞(BMMC)の脱顆粒に対して与える影響について検討した。
BMMCの脱顆粒は、成熟マスト細胞培養液中のβヘキソサミニダーゼの活性を測定することにより評価した。8週齢の雌マウスから採取した骨髄細胞を、IL-3を含む馴化培地中で4週間培養することにより、成熟マスト細胞を得た。作製した成熟マスト細胞を、24ウェルプレート(5×10
5cells/well)で、一晩培養した。次に、抗DNP-IgE (50ng/mL) (Sigma Chemicals)で、37℃で2時間、細胞を感作した。MTバッファー(137mmol/L NaCl、2.7mmol/L KCl, 1.8mmol/L CaCl
2、1mmol/L MgCl
2・6H
2O、5.6mmol/Lグルコース、20mmol/L HEPES、0.1%BSA、pH7.3)で該細胞を洗浄後、該細胞を0.1μMフコキサンチン、1μMフコキサンチン、10μMフコキサンチン又はジメチルスルホキシド(DMSO)で、10分間前処理を行った。その後、細胞を、2.5μg/mL DNP-標識ヒト血清アルブミン ( Sigma Chemicals)で、37℃、30分間処理した。インキュベーション後、上清を96ウェルプレートに移し、3.3mM p-ニトロフェニル-2-アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシドで、25分間、37℃でインキュベートした。405nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダーを用いて測定した。結果を、全βヘキソサミニダーゼのパーセンテージとして示す。
結果を
図2Dに示す。0.1μMフコキサンチン、1μMフコキサンチン又は10μMフコキサンチンで処理した成熟マスト細胞は、DMSOで処理した細胞と比較して、βヘキソサミニダーゼの放出が少なかった。このフコキサンチンによるβヘキソサミニダーゼの放出は、濃度依存的であった。
【0035】
実施例6:フコキサンチンによる、骨髄由来マスト細胞(BMMC)における顆粒形成の抑制
顆粒形成に対するフコキサンチンの効果を明確にするため、マスト細胞の顆粒マーカーであるトリプターゼを用いた免疫染色を検証した。
実施例5と同様に、成熟マスト細胞を作製した。作製したBMMCをスライドに乗せ、熱により固定した。スライドの解析は、Kosaka T, Fukui R, Matsui M et al. (2014) RAGE, Receptor of Advanced Glycation Endoproducts, Negatively Regulates Chondrocytes Differentiation. PLOS One 9(10): e108819.に記載の方法に準じて行った。細胞を、マウス抗マスト細胞トリプターゼ抗体(AB2378, Abcam, Tokyo, Japan)と反応させた。次に、FITC共役抗マウスIgG (Santa Cruz Biotechnology, Inc.)及び1μg/ml DAPI (4', 6-ジアミジノ-2-フェニルインドール ジヒドロクロリド)と、細胞を反応させた。蛍光画像は、EVOS(登録商標)FLセルイメージングシステム(Life Technologies Corp)により、解析した。
10μMフコキサンチン処理した成熟マスト細胞におけるトリプターゼ免疫反応性は、ワセリンで処理した細胞と比較すると、ごくわずかしか観察されなかった。つまり、トリプターゼ抗体を用いた免疫染色解析により、フコキサンチンはほぼ完全に顆粒形成を阻害することが見出された(
図2E)。
以上の結果は、フコキサンチン処理は、マスト細胞の成熟及び脱顆粒を妨害することにより、直接的又は局所的に、アトピー性皮膚炎(AD)に関連するかゆみを減少させることを実証した。
【0036】
実施例7:フコキサンチン処理による遺伝子発現の変化
フコキサンチンが、マスト細胞の分化に関連する転写因子の発現に影響を与えるか検討するため、フコキサンチン処理による遺伝子発現の変化をリアルタイムPCRにより検証した。
8週齢の雌マウスから採取した骨髄細胞を、IL-3を含む馴化培地で培養した。培養0日目(骨髄を採取した日(day0))に、10μMフコキサンチン、又はコントロールとしてジメチルスルホキシド(DMSO)を、培養液に添加し、1、2、3又は4週間培養した。定量的リアルタイムPCRは、上記のKosaka et al.に記載の方法に準じて行った。実験には、5つの異なるcDNAプール希釈液を用いた。PCR産物は、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDH又はβ-アクチンに対して標準化し、サンプル間の測定値を、サイクル閾値(Ct値)により比較した。使用したプライマーを以下に示す。
GAPDH-F 5’- TGCACCACCAACTGCTTAG-3’(配列番号1)
GAPDH-R 5’-GGATGCAGGGATGATGTTC-3’ (配列番号2)
βアクチン-F 5’- AGCCTCGCCTTTGCCGATCC-3’ (配列番号3)
βアクチン-R 5’- TTGCACATGCCGGAGCCGTT-3’ (配列番号4)
GATA-1-F 5’-CGCTCCCTGTCACCGGCAGTGC-3’ (配列番号5)
GATA-1-R 5’-CCGCCACAGTGGAGTAGCCGTT-3(配列番号6)
GATA-2-F 5’-CTCCCGACGAGGTGGATGTCTT-3’ (配列番号7)
GATA-2-R 5’-CCTGGGCTGTGCAACAAGTGTG-3’ (配列番号8)
Mitf1-F 5’-AGCAACGAGCTAAGGACC-3’ (配列番号9)
Mitf1-R 5’-GGATGGGATAAGGGAAAGT-3’ (配列番号10)
PU.1-F 5’-TGTCCACAACAACGAG-3’ (配列番号11)
PU.1-R 5’-GGGACAAGGTTTGATA-3’ (配列番号12)
FcεRlα-F 5’-TGCCACCGTTCAAGACAG-3’ (配列番号13)
FcεRlα-R 5’-TTGCGGACATTCCAGTTC-3’ (配列番号14)
Hdc-F 5’-GAGCCCGATGCTAATGAGTC-3’ (配列番号15)
Hdc-R 5’-GAGAAGTTGTCGTCCACAGGTA-3’ (配列番号16)
Cebpα-F 5’-GCATCTGCGAGCACGAGACGCT-3’ (配列番号17)
Cebpα-R 5’-CGCCTTGGCCTTCTCCTGCTGT-3’ (配列番号18)
ハウスキーピング遺伝子であるGAPDH及びβアクチンは、内在性コントロールとして、標準化に用いた。全ての測定は、4回ずつ行った。
結果を
図3A〜Gに示す。
図3A及びBに示すように、全てのステージにおいて、Mitf1及びPU.1は顕著な変化を示さなかった。しかしながら、GATA-1、GATA-2、FcεRIα (マスト細胞及び好塩基球マーカー)及びヒスチジンデカルボキシラーゼ(Hdc)は、フコキサンチンによって下方制御された(
図3C〜F)。Cebpαは最初の2週間フコキサンチンによって下方制御され、しかし、培養3〜4週間において、フコキサンチンによって顕著に上方制御された(
図3G)。
特に、GATA転写因子は、マスト細胞の初期分化と関係しており、Cebpαは、後期の分化にとって重要なスイッチ因子である(Rao KN, et al. (2013) Blood 122(15):2572-2581.)。
従って、これらのデータは、GATA転写因子に作用することによってフコキサンチンがマスト細胞の成熟を直接阻害することを示唆する。
【0037】
実施例8:フコキサンチン処理細胞を用いたレポーターアッセイ
実施例7の結果を検証するため、3つのタンデムなGATA応答要素(responsive element)と融合させたレポーターベクターを用いてレポーターアッセイを行った。
pGL3‐Cebpαプロモーター‐luc、及びpGL3‐Mitf1プロモーターlucはHua Huang 博士(University of Colorado school, Denver, USA)から提供され、NFκB‐lucはAgilent Technologies (Santa Clara, CA)から購入し、GATA 応答レポーターベクターはIshijima博士(Takasaki University of Health and welfare, Gunma, Japan)から提供いただいた。マウスのα‐1 グロブリン遺伝子のGATAモチーフ(5’‐TGATAA‐3’)は、pRBGP3のSmaI サイトにタンデムに3つ挿入した。HDC プロモーターは、Ootsu博士(Tohoku University school of Medicine, Sendai, Japan)から提供いただき、KpnI-HindIIIサイトを使ってpGL4.10にクローニングした( Hdcプロモーター‐luc)。Kanatani N, et alに記載の方法に準じて、レポーターアッセイを行った。それぞれのルシフェラーゼコンストラクト0.2μg又は0.001μg pRL-CMV (Promega, Madison, WI)を、HEK293細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションの3時間後、フコキサンチン (0.1μM, 1μM, 10μM)又はDMSOで48時間処理し、Dual-Luciferase(登録商標) Reporter Assay System (Promega)を用いてレポーターアッセイを行った。ルミノメーターモデルTD20/20n (Turner BioSystems, Sunnyvale, CA)を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定し、CMVプロモーターにより発現させたRenillaルシフェラーゼ活性に対して標準化した。
結果を
図3H〜Lに示す。Mitf1-luc, Hdc-luc及びCebpα-lucは、フコキサンチンによって制御されなかった(
図3I〜K)。また、NF-κBの阻害は、Hdc 誘導の減少を引き起こすことが報告されているが、NF-κB活性は、フコキサンチンによって影響を受けなかった(
図3L)。フコキサンチン処理により、GATA-lucのみがダウンレギュレートされた (
図3H)。
【0038】
実施例9:フコキサンチンによるフィラグリンの免疫組織化学解析
ワセリン又はフコキサンチン処理したNC/Ngaマウスを用いて、フィラグリン(Flg)又はロリクリン(Lor)に対する蛍光免疫組織化学解析を行った。
実施例2と同様に、ワセリン又はフコキサンチン、及びPiClをマウスに塗布した。ワセリン又はフコキサンチン塗布開始5週間後、マウスを屠殺し、皮膚を4%パラホルムアルデヒドで固定し、Kosaka T, et al.に記載の方法に準じて解析を行った。ウサギ抗フィラグリン抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc.)、又はウサギ抗ロリクリン抗体 (Covance)を用いて、切片 (10μm thick)の免疫組織化学解析を行った。次に、サンプルをFITC共役抗ウサギ IgG (Santa Cruz Biotechnology, Inc.)と反応させた。
NC/Ngaマウスにおいて、フコキサンチンはフィラグリン及びロリクリンの発現を誘導した。フコキサンチン処理後5週間において、フィラグリン(Flg)及びロリクリン(Lor)の発現レベルはいずれも、表皮で上昇した(
図4A及びB)。FITCにより標識されたフィラグリンの局在は、フコキサンチン処理した皮膚角質層に豊富に見られ、Lorはフコキサンチン処理した皮膚全体に多くみられた。
フィラグリンは重要な皮膚のバリアタンパク質であり、一方、ロリクリンもまた、皮膚バリアの形成に必要である。
【0039】
実施例10:フコキサンチンによるフィラグリンの半定量的解析
イムノブロットによる半定量的解析を行った。
イムノブロット解析は、Kosaka T, et al.に記載の方法に準じて行った。タンパク質をSDS-10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。ブロットをまずウサギ抗フィラグリン抗体(フィラグリン)、ウサギ抗アクチン (Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)、抗ロリクリン (Covance, Berkeley, CA)とインキュベートし、西洋ワサビペルオキシダーゼ共役抗ウサギIgG又は抗ロバIgG (Santa Cruz Biotechnology, Inc.)と反応させた。
フコキサンチン処理したNC/Ngaマウスの皮膚において、フィラグリン及びロリクリンの発現レベルは、上昇していた。(
図4C及びD)
【0040】
実施例11:カロテノイド処理細胞を用いたレポーターアッセイ
実施例8で作製したGATA-lucを発現するHEK293細胞を用いて、フコキサンチンのかわりに各種カロテノイド(フコキサンチン、アスタキサンチン、リコペン、βカロテン又はレチノイン酸)を用いることを除いては実施例8と同様に、GATAレポーターアッセイを行った。
結果を
図5に示す。フコキサンチン処理により、GATA-lucがダウンレギュレートされたが、アスタキサンチン又はリコペンで処理した細胞では、GATA-lucのダウンレギュレートは起こらなかった。一方、βカロテン又はレチノイン酸で処理した細胞では、GATA-lucがアップレギュレートされた。
【0041】
実施例12:BMMC及びNC/Ngaマウスに及ぼすフコキサンチンとアスタキサンチンの効果の比較
マスト細胞における顆粒形成に及ぼすフコキサンチンの効果が、カロテノイド類に共通のものではなく、フコキサンチンに特異的であることを確かめるため、フコキサンチン処理したBMMCとアスタキサンチン処理したBMMCとの間で、トリプターゼの免疫染色により顆粒形成を比較した。免疫染色アッセイは実施例6と同様の方法で実施した。
結果を
図6Aに示す。トリプターゼ陽性細胞はフコキサンチン処理したBMMCで顕著に減少したのに対し、アスタキサンチン処理したBMMCでは有意に減少しなかった。
次に、NC/Ngaマウスの皮膚炎の症状に対するフコキサンチン及びアスタキサンチンの効果を調べた。実施例2と同様にして、フコキサンチン又はアスタキサンチンとPiClとをNC/Ngaマウスに塗布した。フコキサンチン又はアスタキサンチンの塗布開始から5週間後に、各マウスの皮膚炎の症状を観察した。
結果を
図6Bに示す。皮膚炎の症状は、アスタキサンチン処理したマウス(右)と比較して、フコキサンチン処理したマウス(左)で顕著に改善された。
【0042】
上記の実施例より、フコキサンチンは、マスト細胞の形成や機能を阻害するだけでなく、フィラグリンやロリクリン等のバリアタンパク質を誘導することにより、皮膚のバリア機能を改善することで、皮膚疾患を抑制していることが示唆される(
図7)。
【0043】
実施例13:NC/Ngaマウスにおける皮膚の症状、耳の腫脹及び血清IgEレベルに及ぼす効果におけるフコキサンチンとタクロリムスの比較
次に、NC/Ngaマウスの皮膚炎の症状に対するフコキサンチンの効果を、アトピー性皮膚炎の治療に広く使用されている免疫抑制剤であるタクロリムスと比較した。
実施例2に記載の方法と同様にして、ワセリン、フコキサンチン又はタクロリムスと、PiClとをNC/Ngaマウスに塗布した。ワセリン、フコキサンチン又はタクロリムスの塗布開始から5週間後に、各薬剤を塗布したマウスにおける皮膚の症状を観察・比較した。また、各マウスにおける血清IgEレベルと耳介リンパ節の腫脹を、実施例2と同様にして測定した。
結果を
図8及び
図9に示す。タクロリムスは部分的にAD症状を軽減したのに対し、フコキサンチンはほぼ完全にAD症状を抑えることができた(
図8)。一方、フコキサンチン又はタクロリムスの塗布は、いずれも耳の腫脹 (
図9A) や血清IgEレベル (
図9B) には影響しなかった。
これらの結果は、フコキサンチン又はタクロリムスの局所投与が全身性の免疫バランスに影響しないことを明確に示している。
【0044】
実施例14:フコキサンチンはNC/Ngaマウスのかゆみに対してタクロリムスより即効性である
次に、タクロリムスと比較した、フコキサンチンのかゆみ抑制の即効性とバリア機能改善効果について評価した。
実施例2に記載の方法と同様にして、ワセリン、フコキサンチン又はタクロリムスと、PiClとをNC/Ngaマウスに塗布した。ワセリン、フコキサンチン又はタクロリムスの塗布開始から5週間後に、フコキサンチン処理したマウスにおける10分あたりに引っ掻き行動に費やした時間を測定し、タクロリムス処理したマウスの場合と比較した。また、フコキサンチン処理したマウスの皮膚における経皮水分蒸散量 (TEWL) を測定し、タクロリムス処理したマウスの場合と比較した。
結果を
図10に示す。フコキサンチン (FX) は該マウスにおけるかゆみに対してタクロリムス (FK) よりも即効性であった(
図10A)。フコキサンチン処理 (FX) はNC/Ngaマウスの皮膚からの水分蒸散を阻害したのに対し、タクロリムス処理 (FK) は該マウスにおけるTEWLに影響しなかった。
これらの結果は、
図7に示したフコキサンチンの二面的な機能が、皮膚バリア機能改善作用を欠くタクロリムスと比較したフコキサンチンの即効性をもたらしていることを示唆している。