特許第6850417号(P6850417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6850417環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850417
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/331 20060101AFI20210322BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C08G65/331
   A61K47/10
【請求項の数】8
【全頁数】59
(21)【出願番号】特願2016-190528(P2016-190528)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-66397(P2017-66397A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2019年9月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-193103(P2015-193103)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】粒崎 拓真
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕二
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6631827(JP,B2)
【文献】 特開2014−208794(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096690(WO,A1)
【文献】 HUANG, X. et al.,pH-labile sheddable block copolymers by RAFT polymerization: Synthesis and potential use as siRNA conjugates,European Polymer Journal,2013年,Vol. 49,p. 2895-2905
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00−67/04
A61K 47/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される、環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体。
【化1】

(式(1)中、
R1およびR6はそれぞれ独立して水素原子または炭化水素基であり;
R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して電子求引性もしくは電子供与性の置換基、または水素原子であり;
R7は、下記式(A)または式(B)から選択される置換基であり;
Pは親水性ポリマーであり;
s=1または2、t=0または1、かつs+t=1または2であり;
およびZ1およびZ2はそれぞれ独立して選択された2価のスペーサーである。)

【化2】
(式(A)、式(B)中、
R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数8〜24の炭化水素基またはアシル基であり;
Mは、水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基である。)
【請求項2】
s=1かつt=0であり、R2およびR5は水素原子であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−0.70≦Σσ≦0.76である、請求項1に記載の脂質誘導体。
【請求項3】
s=1かつt=0であり、R2とR5との少なくとも一方が前記置換基であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−2.11≦Σσ≦0.59である、請求項1に記載の脂質誘導体。
【請求項4】
s=1かつt=1、またはs=2かつt=0であり、R2およびR5は水素原子であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−0.41≦Σσ≦0.41である、請求項1に記載の脂質誘導体。
【請求項5】
s=1かつt=1、またはs=2かつt=0であり、R2とR5との少なくとも一方が前記置換基であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−1.21≦Σσ≦0.31である、請求項1に記載の脂質誘導体。
【請求項6】
Z1およびZ2がそれぞれ独立してエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z1とZ2との少なくとも一方がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の脂質誘導体。
【請求項7】
Pが、ポリエチレングリコールである、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の脂質誘導体。
【請求項8】
Pが、末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する直鎖型または分岐型のポリエチレングリコールである、請求項1〜のいずれか一つの請求項に記載の脂質誘導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポソーム、ミセル、ベシクル、脂質微粒子などの脂質膜構造体から成るキャリアの表面修飾に用いられる、酸加水分解可能なアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸医薬品に用いられる機能性核酸(siRNA、mRNA、アンチセンスなど)、生理活性を示すタンパク質および抗癌剤などの薬剤には、生体内の酵素などによる分解を抑制したり、組織選択的に薬剤を送達させることを目的として、キャリアの利用が検討されている。特に機能性核酸や抗癌剤は、細胞内へ取り込まれてから初めて活性を発現することから、細胞内への取り込み能を高めるためにも、キャリアの利用が必須となっている。キャリアとしては、リン脂質やカチオン性脂質などから構成される脂質膜構造体(リポソーム、ミセル、ベシクル、脂質微粒子等)が特に盛んに利用されている。
【0003】
脂質膜構造体は生体内では異物として認識されるため、細網内皮系に捕捉され血中から速やかに排出されてしまう。これに対して、抗原性の低い親水性ポリマーが結合した脂質誘導体で脂質膜構造体の表面を修飾する手法は、脂質膜構造体の血中循環時間を延長させることができる。特に、腫瘍組織周辺では正常組織に比べ血管透過性が亢進していることから、血中循環時間を延長させることで脂質膜構造体を腫瘍組織周辺に効果的に集積させることができるため、有効である。
【0004】
その一方で、脂質膜構造体がターゲットとする組織や部位に輸送された後、当該親水性ポリマーが形成する水和層が細胞膜との相互作用を低下させ、細胞への取り込みやエンドソーム脱出といった体内・細胞内動態を阻害することが知られている。このような問題に対して、親水性ポリマーを好適なタイミングで脂質膜構造体から脱離させることによって克服しようとするアプローチが行なわれている。その戦略の多くは還元的環境、特異的酵素の有無といった、生体内の各組織における環境変化を親水性ポリマー脱離の引き金として利用するものであり、その中の1つがpHの変化を利用する手法である。
【0005】
生体内の腫瘍組織周辺は正常組織と比較して酸性であることが知られており、また、薬物等がエンドサイトーシス経路により細胞内へ導入された後のエンドソーム内部も酸性である。そこで、これらの酸性環境下において脂質膜構造体から親水性ポリマーを選択的に脱離させることを目的として、酸加水分解性を有するリンカーを介して親水性ポリマーを結合した脂質誘導体の合成例が報告されている。
【0006】
例えば、特許文献1では親水性ポリマーであるポリエチレングリコールと脂質との間にケタール構造またはアセタール構造もしくはイミン構造を有するリンカーを導入することで酸性条件下での加水分解性を付与している。しかし、加水分解速度を精密に制御するといった概念は無く、加水分解速度を比較するデータも示されていない。
【0007】
他の酸加水分解性リンカーとして、非特許文献1ではポリエチレングリコールとリン脂質の間にヒドラゾンリンカーを導入している。さらに、ヒドラゾンリンカーとリン脂質の間のスペーサーの炭素数を調節することで加水分解速度の調節を試みているが、酸性条件下(pH5.5)での加水分解速度はスペーサー炭素数に関わらず一定であり、加水分解速度を精密に制御することはできていない。
【0008】
また、非特許文献2では、ヒドラゾンの加水分解に関する速度的研究が行われており、ヒドラゾンの加水分解において、近傍のベンゼン環の置換基の違いが加水分解速度に与える影響は小さいことが示されている。したがって、加水分解速度を調節するという目的においては、ヒドラゾンは最良の選択肢ではない可能性がある。
【0009】
このように、生体内の酸性環境下で親水性ポリマー鎖を脱離させることを目的として、構造中に酸加水分解性リンカーを導入した脂質誘導体の例は多数あるものの、任意のpHにおける加水分解速度を精密に制御可能な酸加水分解性リンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体は、今まで無かった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】BioconjugateChem. 2007, 18, 363-370
【非特許文献2】An-Najah J. Res.1989, Vol. 1, No. 6, 23-33
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】WO2010/057150A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
生体内の各組織におけるpHの偏りは非常に小さく、例えば腫瘍組織周辺は正常組織のpH7.4と比較して酸性環境であるものの、pHはおよそ6.4〜6.9の弱酸性である。また、エンドソーム内部もpHは5.5〜6.0の弱酸性である。エンドソーム内部は次第に酸性化してリソソームのpH 4.5〜5.0に近づき、最終的にリソソームと融合するため、エンドソーム内に取り込まれた薬物等がリソソーム内の酵素による分解を回避するためには、pH 5.5付近でのエンドソーム脱出が求められる。このように、腫瘍組織周辺またはエンドソーム内部などの生体内の各組織における僅かなpHの差を利用して親水性ポリマーを脱離させ、脂質膜構造体の組織選択的な細胞内取り込みやエンドソーム脱出といった体内・細胞内動態を調節しようとする場合、生体内の弱酸性環境のpHにおける親水性ポリマーの脱離速度を的確に制御する必要がある。
【0013】
本発明の課題は、生体内の弱酸性環境のpHにおける加水分解速度を的確に制御し、親水性ポリマーを脂質膜構造体から脱離させることができる、アセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、生体内の弱酸性環境のpHにおける加水分解速度を的確に制御可能である環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体を開発した。
【0015】
本発明の特徴は、親水性ポリマーと脂質が、置換基を有する環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して結合していることにある。環状ベンジリデンアセタールリンカーのベンゼン環上における置換基の種類および位置を適切に選択することで、アセタールリンカーの加水分解速度に影響を与えるアセタール基周辺の電子密度および立体障害の度合いを調節できる。この特長により、アセタールリンカーに所望の加水分解速度を付与することができ、当該脂質誘導体を構成成分に含む脂質膜構造体の表面から、任意の速度で親水性ポリマーを脱離させることが可能となる。
【0016】
即ち、本発明は以下のものである。

[1] 式(1)で示される、環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体。
【化1】
(式(1)中、R1およびR6はそれぞれ独立して水素原子または炭化水素基であり;
R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して電子求引性もしくは電子供与性の置換基、または水素原子であり;
R7下記式(A)または式(B)から選択される置換基であり;
Pは親水性ポリマーであり;
s=1または2、t=0または1、かつs+t=1または2であり;
およびZ1およびZ2はそれぞれ独立して選択された2価のスペーサーである。)

【化2】


(式(A)、式(B)中、
R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数8〜24の炭化水素基またはアシル基であり;
Mは、水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基である。)

[2] s=1かつt=0であり、R2およびR5は水素原子であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−0.70≦Σσ≦0.76である、[1]の脂質誘導体。

[3] s=1かつt=0であり、R2とR5との少なくとも一方が前記置換基であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−2.11≦Σσ≦0.59である、[1]の脂質誘導体。

[4] s=1かつt=1、またはs=2かつt=0であり、R2およびR5は水素原子であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−0.41≦Σσ≦0.41である、[1]の脂質誘導体。

[5] s=1かつt=1、またはs=2かつt=0であり、R2とR5との少なくとも一方が前記置換基であり、R3、R4およびP-Z1における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−1.21≦Σσ≦0.31である、[1]の脂質誘導体。

[6] Z1およびZ2がそれぞれ独立してエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基であり、Z1とZ2との少なくとも一方がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である、[1]〜[5]のいずれか一つの脂質誘導体。

[7] Pが、ポリエチレングリコールである、[1]〜[6]のいずれか一つの脂質誘導体。

[8] Pが、末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する直鎖型または分岐型のポリエチレングリコールである、[1]〜[6]のいずれか一つの脂質誘導体。
【発明の効果】
【0017】
本発明による環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体は、生体内の弱酸性環境のpHに合わせて環状ベンジリデンアセタールリンカーの加水分解速度を調節でき、当該脂質誘導体を構成成分に含む脂質膜構造体から、ターゲット組織のpHにおいて選択的に親水性ポリマーを脱離させることが可能である。したがって、当該脂質誘導体を構成成分に含むキャリアがターゲットとする組織や部位に輸送された後、親水性ポリマーが脱離することで、従来親水性ポリマーによる表面修飾の欠点であった親水性ポリマーの水和層形成に起因する細胞内取り込みやエンドソーム脱出の阻害といった問題を根本的に排除することができる。即ち、当該脂質誘導体を脂質膜構造体の表面修飾に使用することで、脂質膜構造体と細胞表面の相互作用を妨げることなく、血中循環時間の延長および組織選択的な送達といった親水性ポリマーによる表面修飾の利点のみを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例に記載の式(24)、式(31)、式(35)および式(37)の化合物を用いた、pD5.5のMES重水緩衝液中、37℃における加水分解試験の結果である。
図2】実施例に記載の式(27)、式(33)、式(36)、式(47)および式(52)の化合物を用いた、pD5.5のMES重水緩衝液中、37℃における加水分解試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書で使用する用語「アセタール」とは、アルデヒド類から誘導されるアセタール構造およびケトン類から誘導されるアセタール構造、即ちケタール構造の両方を意味する。
【0020】
本発明の「環状アセタール」とは、式(1)でs=1かつt=0である5員環の1,3-ジオキソラン構造および式(1)でs=1かつt=1、またはs=2かつt=0である6員環の1,3-ジオキサン構造の両方を意味する。
【0021】
本発明の式(1)におけるR1およびR6は水素原子または炭化水素基であり、炭化水素基の炭素数は10以下が好ましく、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R1およびR6の好ましい実施形態としては水素原子またはメチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
【0022】
本発明の式(1)におけるベンゼン環は複数の置換基を有していてよい。ベンゼン環上における置換基の種類、位置および電子供与性と電子求引性の度合いを適切に選択することで、環状アセタールリンカーの加水分解速度に影響を与えるアセタール基周辺の電子密度および立体障害の度合いを調節できる。これにより、環状アセタールリンカーに所望の加水分解速度を付与することができる。
【0023】
本明細書において、式(1)におけるベンゼン環上の置換基は「置換基定数(σ)」を用いて説明しているが、これはベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したHammett則における置換基定数を意味する。しかし、公知のようにHammett則はパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体のみに適用され、立体障害の影響を受けるオルト置換ベンゼン誘導体には適用できない。そこで、オルト置換ベンゼン誘導体の場合には、上記Hammett則を拡張したTaftの式における置換基定数を意味する。
【0024】
上記パラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体において、Hammett則は下記式(2)で表わされる。

log(k/k0)=ρσ (2)

(式中、kはパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体の任意の反応における速度定数または平衡定数であり、k0は上記ベンゼン誘導体が上記置換基を有さない場合、即ち置換基が水素原子である場合の速度定数または平衡定数であり、ρは反応定数であり、σは置換基定数である。)
【0025】
上記式(2)における反応定数(ρ)は、反応の種類、温度、および溶媒等の反応条件によって定まる定数であり、これはHammettプロットの傾きから算出できる。本発明の脂質誘導体の中間体である環状ベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体の酸加水分解反応においては、1,3-ジオキソラン構造の場合には、実施例に記載の式(24)および式(31)の化合物について実施した加水分解試験の結果から、「ρ=−2.7」と算出される。また、1,3-ジオキサン構造の場合には、実施例に記載の式(35)および式(37)の化合物について実施した加水分解試験の結果から、「ρ=−4.8」と算出される。
【0026】
上記式(2)における置換基定数(σ)は、反応の種類に関係なく、置換基の種類と位置によってのみ定まる定数であり、置換基を有さない場合、即ち置換基が水素原子である場合は「0」である。本明細書で使用する用語「電子求引性」とはσが正の値である場合を意味し、用語「電子供与性」とはσが負の値である場合を意味する。
【0027】
前述のように、Hammett則はパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体のみに適用され、立体障害の影響を受けるオルト置換ベンゼン誘導体の場合には適用できない。そこで、そのような立体障害の影響を位置の因子、即ち置換基の位置定数(Es)として導入し、オルト置換ベンゼン誘導体の場合にも適用できるように、Hammett則を拡張したのがTaftの式である。Taftの式は下記式(3)で表わされる。

log(k/k0)=ρ*σ*+Es (3)

(式中、kはパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体の任意の反応における速度定数または平衡定数であり、k0は上記ベンゼン誘導体が上記置換基を有さない場合、即ち置換基が水素原子である場合の速度定数または平衡定数であり、ρ*は反応定数であり、σ*は置換基定数であり、Esは置換基の位置定数である。)
【0028】
公知のように、パラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体の反応定数(ρ)とオルト置換ベンゼン誘導体の反応定数(ρ*)はほぼ等しいことから、本明細書ではρとρ*は同じものと定義する。また、オルト位の置換基定数(σ*)は、例えば「Charton,
M. Can. J. Chem. 1960, 38, 2493-2499」で述べられているように、パラ位の置換基定数に類似していることから、本明細書におけるオルト位の置換基定数は、相当するパラ位の置換基定数を適用する。
【0029】
パラ位およびメタ位における置換基定数(σ)は「Hansch, C.; Leo,
A.; Taft, R. W. Chem. Rev. 1991, 91, 165-195」に記載されており、置換基定数(σ)が未知の置換基については「Hammett,
L. P. Chem. Rev. 1935, 17(1), 125-136」に記載の方法で測定し求めることができる。また、位置定数(Es)は「Unger, S. H. ; Hansch, C. Prog. Phys. Org.
Chem. 1976, 12, 91-118」に記載されている。ただし、本明細書で使用するEsは、水素原子を「0」と定義したものである。
【0030】
式(1)において、ベンゼン環上に複数の置換基を有する場合、それらの置換基定数(σ)および位置定数(Es)には加成性が成り立つと定義し、σの合計を「Σσ」、Esの合計を「ΣEs」とそれぞれ表わす。
【0031】
Z1は環状ベンジリデンアセタールのベンゼン環に結合しており、P-Z1もベンゼン環の置換基である。P-Z1の置換基定数は、Pの組成と重合度およびZ1との組み合わせについて、それぞれ個別に測定し求めることができるが、実質的にP-Z1の置換基定数はベンゼン環との結合部近傍の構造に大きく影響を受けるため、それ以外の部分の影響は無視できるほど非常に小さい。したがって、P-Z1について個別に置換基定数を測定する代わりに、ベンゼン環との結合部近傍の構造に類似した構造の既知の置換基定数で代用することが可能である。
【0032】
本明細書におけるP-Z1の置換基定数は、P-Z1の主鎖の骨格原子をベンゼン環に結合した原子から数えて、3番目の原子に結合した2番目の原子以外の原子を水素原子で置き換えた構造の置換基定数で代用できると定義する。ただし、水素原子で置き換えるとカルボキシ基になる場合は、水素原子の代わりにメチル基で置き換えた構造の置換基定数で代用できると定義する。
【0033】
P-Z1におけるベンゼン環との結合部分の構造と代用する構造の具体例を以下に示す。P-Z1のベンゼン環との結合部分がエーテル結合である下記(r1)の場合は、下記(r2)の置換基定数を適用する。P-Z1のベンゼン環との結合部分がアミド結合である下記(r3)、(r5)の場合は、それぞれ下記(r4)、(r6)の置換基定数を適用する。P-Z1のベンゼン環との結合部分がウレタン結合である下記(r7)の場合は、下記(r8)の置換基定数を適用する。
【0034】
【化3】

【0035】
本発明の環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体の好適な加水分解速度は、pH 5.5、37℃の緩衝液中における加水分解半減期(t1/2)が5分間〜1ヶ月の範囲であり、より好ましくは5分間〜24時間の範囲である。本明細書では、上記加水分解条件でt1/2が12時間である、実施例に記載の式(31)の化合物から導出される数値を用いて、1,3-ジオキソラン構造である場合の好適な置換基定数の合計(Σσ)の範囲を規定する。式(2)を用いて、式(31)の化合物についてのlog(k/k0)を算出すると、下記式(4)が得られる。ただし、前記に定義したとおり、式(31)の化合物におけるP-Z1はエトキシ基(CH3CH2O-)で代用する。

log(k/k0)=−2.7×(0.34−0.24)=−0.27 (4)
【0036】
上記式(4)および式(2)を用いて、式(1)のR2およびR5が水素原子である場合にt1/2が24時間であるときの速度定数をk’としてlog(k’/k0)を算出すると、下記式(5)が得られる。

log(k’/k)=log{(12/24)k/k}=−0.30

式を変形して

log(k’/k)=log[(k’/k0)/(k/k0)]=−0.30
log(k’/k0)−log(k/k0)=−0.30

上記式(4)を代入すると

log(k’/k0)−(−0.27)=−0.30
log(k’/k0)=−0.57 (5)
ここで、上記式(5)および式(2)を用いて置換基定数の合計(Σσ)を算出すると、下記式(6)が得られる。

log(k’/k0)=−2.7×Σσ=−0.57
Σσ=0.21 (6)
【0037】
同様に、式(1)のR2およびR5が水素原子である場合にt1/2が5分間であるときの速度定数をk”としてlog(k”/k0)を算出すると、下記式(7)が得られる。

log(k”/k)=log{(12×60/5)k/k}=2.16

式を変形して

log(k”/k)=log[(k”/k0)/(k/k0)]=2.16
log(k”/k0)−log(k/k0)=2.16

上記式(4)を代入すると

log(k”/k0)−(−0.27)=2.16
log(k”/k0)=1.89 (7)

ここで、上記式(7)および式(2)を用いて置換基定数の合計(Σσ)を算出すると、下記式(8)が得られる。

log(k”/k0)=−2.7×Σσ=1.89
Σσ=−0.70 (8)
【0038】
式(6)および式(8)より、式(1)が1,3-ジオキソラン構造で、R2およびR5が水素原子である場合、−0.70≦Σσ≦0.21であれば当該親水性ポリマー誘導体のt1/2は5分間≦t1/2≦24時間である。同様に5分間≦t1/2≦1ヶ月におけるΣσの範囲を算出すると、−0.70≦Σσ≦0.76である。
【0039】
本発明で使用可能な置換基は、当該脂質誘導体の合成過程における反応を阻害しない置換基である。
【0040】
上記条件を満たすものであれば、電子求引性の置換基または電子供与性の置換基のいずれでもよく、それぞれ単独もしくは組み合わせて使用してもよい。電子求引性の置換基としては、炭素数2〜5のアシル基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜5のカルバモイル基、炭素数2〜5のアシルオキシ基、炭素数2〜5のアシルアミノ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜4のアルキルスルファニル基、炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、炭素数6〜10のアリールスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基およびシアノ基であり、好ましい例としてはアセチル基、メトキシカルボニル基、メチルカルバモイル基、アセトキシ基、アセトアミド基、メトキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルファニル基、フェニルスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基およびシアノ基が挙げられる。電子供与性の置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基および炭素数1〜4のウレイド基であり、好ましい例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基およびウレイド基が挙げられる。メタ位では電子求引性、パラ位およびオルト位では電子供与性である置換基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数6〜10のアリールオキシ基であり、好ましい例としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基、フェニル基およびフェノキシ基が挙げられる。
【0041】
式(1)が1,3-ジオキソラン構造で、R2とR5との少なくとも一方が水素原子以外の置換基である場合については、上記置換基で立体障害の影響が最も大きいフェニル基および最も小さいフッ素原子の位置定数(Es)を用いて、pH 5.5、37℃の緩衝液中におけるt1/2が5分間≦t1/2≦24時間、5分間≦t1/2≦1ヶ月であるΣσの範囲をTaftの式(3)を用いてそれぞれ算出すると、5分間≦t1/2≦24時間のときは−2.11≦Σσ≦0.04であり、5分間≦t1/2≦1ヶ月のときは−2.11≦Σσ≦0.59である。
【0042】
式(1)が1,3-ジオキソラン構造で、R2およびR5が水素原子である場合、例えば5分間≦t1/2≦24時間のときに−0.70≦Σσ≦0.21を満たす好ましい実施形態を以下に示す。ただし、ここに示す置換基はR3およびR4、並びに前述の定義にしたがってP-Z1の代わりに用いる構造を意味する。5分間≦t1/2<1時間の場合、式(1)のパラ位のうち1つがメトキシ基またはエトキシ基であり、かつメタ位の少なくとも1つがメチル基、エチル基、またはプロピル基である。より好ましくはパラ位がエトキシ基、かつメタ位の2つがメチル基である。1時間≦t1/2<12時間の場合、式(1)のパラ位がメトキシ基、エトキシ基、またはアセトアミド基である。より好ましくはパラ位がエトキシ基である。12時間≦t1/2≦24時間の場合、式(1)のパラ位がメトキシ基、エトキシ基またはアセトアミド基であり、かつメタ位の少なくとも1つがフッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である。より好ましくはパラ位がエトキシ基、かつメタ位の1つがフッ素原子である。
【0043】
また、式(1)が1,3-ジオキソラン構造で、R2とR5との少なくとも一方が水素原子以外の置換基である場合、例えば5分間≦t1/2≦24時間のときに−2.11≦Σσ≦0.04を満たす好ましい実施形態を以下に示す。ただし、ここに示す置換基はR3およびR4、並びに前述の定義にしたがってP-Z1の代わりに用いる構造を意味する。5分間≦t1/2<1時間の場合、式(1)のR2およびR5のうち一方がメトキシ基であり、もう一方が水素原子であるときは、パラ位がエトキシ基である。式(1)のR2およびR5の両方がメトキシ基であるときは、パラ位がエトキシ基である。1時間≦t1/2<12時間の場合、式(1)のR2およびR5のうち一方がメトキシ基であり、もう一方が水素原子であるときは、メタ位がエトキシ基またはパラ位がアセトアミド基である。式(1)のR2およびR5のうち一方がメチル基であり、もう一方が水素原子であるときは、パラ位がエトキシ基である。式(1)のR2およびR5のうち一方がフッ素原子であり、もう一方が水素原子であるときは、パラ位がエトキシ基またはウレイド基である。12時間≦t1/2≦24時間の場合、式(1)のR2およびR5のうち一方がメトキシ基であり、もう一方が水素原子であるときは、メタ位がアセトアミド基であり、式(1)のR2およびR5の両方がメトキシ基であるときは、メタ位がメチルカルバモイル基である。
【0044】
更に、pH 5.5、37℃の緩衝液中における加水分解半減期(t1/2)が24時間である、実施例に記載の式(35)の化合物から導出される数値を用いて、式(1)が1,3-ジオキサン構造である場合についても好適な置換基定数の合計(Σσ)の範囲を規定できる。
【0045】
式(1)が1,3-ジオキサン構造で、R2およびR5が水素原子である場合、−0.41≦Σσ≦0.10であれば当該親水性ポリマー誘導体のt1/2は5分間≦t1/2≦24時間である。同様に5分間≦t1/2≦1ヶ月におけるΣσの範囲を算出すると、−0.41≦Σσ≦0.41である。
【0046】
また、式(1)が1,3-ジオキサン構造で、R2とR5との少なくとも一方が水素原子以外の置換基である場合については、前記置換基で立体障害の影響が最も大きいフェニル基および最も小さいフッ素原子の位置定数(Es)を用いて、pH 5.5、37℃の緩衝液中におけるt1/2が5分間≦t1/2≦24時間、5分間≦t1/2≦1ヶ月であるΣσの範囲をTaftの式(3)を用いてそれぞれ算出すると、5分間≦t1/2≦24時間のときは−1.21≦Σσ≦0.00であり、5分間≦t1/2≦1ヶ月のときは−1.21≦Σσ≦0.31である。
【0047】
このように、本発明の環状ベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体に所望の加水分解性を付与するための適切な置換基の種類および位置は、式(2)および式(3)を用いて上述の計算を行なうことで合理的に設定可能である。
【0048】
本発明の式(1)におけるZ1は環状ベンジリデンアセタール基のベンゼン環と親水性ポリマー間の2価のスペーサーであり、Z2は脂質と環状ベンジリデンアセタール基間の2価のスペーサーである。これらは共有結合で構成され、環状ベンジリデンアセタール基よりも酸加水分解に対して安定であれば特に制限は無いが、好ましくはエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜24である。
説明のためであって、制限するものではないが、アルキレン基の好ましい例としては、(z1)のような構造が挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z2)または(z3)のような構造が挙げられる。エステル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z4)のような構造が挙げられる。カーボネート結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z5)のような構造が挙げられる。ウレタン結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z6)のような構造が挙げられる。アミド結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z7)のような構造が挙げられる。2級アミノ基を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z8)のような構造が挙げられる。好ましい実施形態において、pおよびqは独立して1〜12の整数である。ただし、Z1とZ2との少なくとも一方が、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である。
【0049】
【化4】

【0050】
本発明の式(1)におけるPは親水性ポリマーであり、具体的な例としては、ポリアルキレングリコール、ポリオキサゾリン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアミノ酸、並びに上記ポリマーに由来するコポリマーなどが挙げられ、好ましくはポリアルキレングリコールであり、更に好ましくはポリエチレングリコールである。
【0051】
本明細書で使用する用語「ポリエチレングリコール」は、エチレンオキシドの重合で得られる分子量分布を有するポリエチレングリコール、並びに単一分子量のオリゴエチレングリコール類をカップリング反応で結合した単分散のポリエチレングリコールの両方を意味する。
【0052】
本発明の一態様では、式(1)におけるPは直鎖型または分岐型のポリエチレングリコールである。
【0053】
この態様の好ましい実施形態では、式(1)のPは式(p1)、式(p2)、式(p3) 、式(p4) 、式(p5)または式(p6)で示される。
【0054】
【化5】

【0055】
式中、nはポリエチレングリコール鎖1本あたりの繰り返しユニット数であり、分子量分布を有するポリエチレングリコールにおいては、化合物の平均分子量に基づいて、各種理論的な計算をすることにより算出することと定義する。
【0056】
式(p1)におけるnの好適な範囲は3〜1000であり、より好ましくは10〜500であり、更に好ましくは20〜300であり、最も好ましくは40〜150である。また、式(p2)および式(p6)におけるnの好適な範囲は3〜500であり、より好ましくは5〜250であり、更に好ましくは10〜150であり、最も好ましくは20〜80である。また、式(p3)、式(p4)および式(p5)におけるnの好適な範囲は3〜400であり、より好ましくは5〜200であり、更に好ましくは10〜100であり、最も好ましくは20〜80である。
【0057】
式中、mはメチレン基の数である。具体的な例としては1〜6であるが、好ましくは3〜5であり、更に好ましくは4である。
【0058】
式中、Xは炭素数1〜7の炭化水素基、または式(x1)で表される化学反応可能な官能基である。
【化6】
【0059】
炭素数1〜7の炭化水素基の具体的な例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、フェニル基、トリル基およびベンジル基などが挙げられ、好ましくは炭素数1〜3の炭化水素基、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0060】
式中、Yは化学反応可能な官能基であり、Z3は官能基Yとポリエチレングリコール鎖間の2価のスペーサーである。当該ポリエチレングリコール誘導体は、例えばYに標的指向性分子を結合させることで、標的指向性を有する脂質膜構造体を提供することができる。
【0061】
Yの好ましい例を挙げれば、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、アミノ基、オキシアミノ基、ヒドラジド基およびアジド基である。
更に具体的には、生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基またはカルボキシ基であり、生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基またはビニル基であり、生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、チオール基、アミノ基、オキシアミノ基またはヒドラジド基であり、生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、チオール基またはアジド基であり、生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基はアルキニル基である。
【0062】
本発明の好適な実施形態において、Yは群(I)、群(II)、群(III)、群(IV)または群(V)で示される基である。

群(I):生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)
群(II):生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)および(j)
群(III):生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(k)、(l)および(m)
群(IV):生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能

下記の(g)、(k)、(l)、(m)および(n)
群(V):生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(j)
【0063】
【化7】

【0064】
式中、R10は水素原子またはスルホ基であり、スルホ基として具体的にはスルホン酸ナトリウムおよびスルホン酸カリウムが挙げられるが、好ましくは水素原子である。R11、R14は水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基およびペンチル基などが挙げられる。R12はハロゲン原子を含んでもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、4-メチルフェニル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、4-(トリフルオロメトキシ)フェニル基、ビニル基、クロロエチル基、ブロモエチル基およびヨードエチル基などが挙げられるが、好ましくはメチル基、ビニル基、4-メチルフェニル基または2,2,2-トリフルオロエチル基である。R13は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。
【0065】
Z3は共有結合で構成され、環状ベンジリデンアセタール基よりも酸加水分解に対して安定であれば特に制限は無いが、好ましくはエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜24である。
【0066】
説明のためであって、制限するものではないが、アルキレン基の好ましい例としては、(z1)のような構造が挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z2)または(z3)のような構造が挙げられる。エステル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z4)のような構造が挙げられる。カーボネート結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z5)のような構造が挙げられる。ウレタン結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z6)のような構造が挙げられる。アミド結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z7)のような構造が挙げられる。2級アミノ基を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z8)のような構造が挙げられる。好ましい実施形態において、pおよびqは独立して1〜12の整数である。例えば、官能基Yをタンパク質内部のような疎水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは大きい方が好ましく、親水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは小さい方が好ましい。ただし、Z3が、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基であって、複数の同一構造単位が結合している場合における前記構造単位の数は2以下である。
【0067】
【化8】

【0068】
本発明の式(1)におけるR7は、炭素数8〜24の炭化水素基、炭素数8〜24のアシル基、コレステロール誘導体、グリセロ脂質、リン脂質またはスフィンゴ脂質である。これらの中では、コレステロール誘導体、グリセロ脂質、リン脂質、スフィンゴ脂質が好ましく、グリセロ脂質、リン脂質がより好ましい。
【0069】
本発明の一態様では、式(1)におけるR7は、グリセロ脂質またはリン脂質である。
【0070】
この態様の好ましい実施形態では、式(1)のR7は式(a)、または式(b)で示される。
【化9】

【0071】
式中R8およびR9は炭素数8〜24の炭化水素基またはアシル基である。炭素数8〜24の炭化水素基は直鎖型であっても分岐型であってもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。具体的にはオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、オクタジエニル基、ノナジエニル基、デカジエニル基、ウンデカジエニル基、ドデカジエニル基、トリデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、ノナデカジエニル基、イコサジエニル基、ヘンイコサジエニル基、ドコサジエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基、イコサテトラエニル基、イコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、イソステアリル基、テトラメチルヘキサデセニル基(フィチル基)等が挙げられ、好ましくはデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ヘキサデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、デカジエニル基、ドデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、オクタデカジエニル基、イコサジエニル基等の炭素数10〜20の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはテトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数14〜20の炭化水素基である。
【0072】
式中R8およびR9の炭素数8〜24のアシル基は直鎖型であっても分岐型であってもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。具体的にはオクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ペンタデカノイル基、ヘキサデカノイル基、ヘプタデカノイル基、オクタデカノイル基、ノナデカノイル基、イコサノイル基、ヘンイコサノイル基、ドコサノイル基、オクタエノイル基、ノナエノイル基、デカエノイル基、ウンデカエノイル基、ドデカエノイル基、トリデカエノイル基、テトラデカエノイル基、ペンタデカエノイル基、ヘキサデカエノイル基、ヘプタデカエノイル基、オクタデカエノイル基、ノナデカエノイル基、イコサエノイル基、ヘンイコサエノイル基、ドコサエノイル基、オクタジエノイル基、ノナジエノイル基、デカジエノイル基、ウンデカジエノイル基、ドデカジエノイル基、トリデカジエノイル基、テトラデカジエノイル基、ペンタデカジエノイル基、ヘキサデカジエノイル基、ヘプタデカジエノイル基、オクタデカジエノイル基、ノナデカジエノイル基、イコサジエノイル基、ヘンイコサジエノイル基、ドコサジエノイル基、オクタデカトリエノイル基、イコサトリエノイル基、イコサテトラエノイル基、イコサペンタエノイル基、ドコサヘキサエノイル基、イソステアロイル基、テトラメチルヘキサデカノイル基(フィタノイル基)、レチノイル基等が挙げられ、好ましくはデカノイル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イコサノイル基、デカエノイル基、ドデカエノイル基、テトラデカエノイル基、ヘキサデカエノイル基、オクタデカエノイル基、イコサエノイル基、デカジエノイル基、ドデカジエノイル基、テトラデカジエノイル基、ヘキサデカジエノイル基、オクタデカジエノイル基、イコサジエノイル基等の炭素数10〜20のアシル基であり、より好ましくはテトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イコサノイル基等の炭素数14〜20のアシル基である。
【0073】
式中、Mは、水素原子、アルカリ金属またはアンモニウム基である。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられるが、好ましくはナトリウム、カリウムであり、より好ましくはナトリウムである。
【0074】
本発明の環状ベンジリデンアセタールリンカーを介して親水性ポリマーが結合した脂質誘導体は、環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物と親水性ポリマー誘導体をカップリング反応させた後に、当該環状ベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体と脂質をカップリング反応させるか、もしくは環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物と脂質をカップリング反応させた後に、当該環状ベンジリデンアセタールリンカーを有する脂質誘導体と親水性ポリマー誘導体をカップリング反応させることにより合成できる。このカップリング反応によって生じる結合は、反応に使用される官能基の組み合わせによって決定される。
【0075】
環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物と親水性ポリマー中間体をカップリング反応させ、更に脂質とカップリング反応させる典型的な例としては、以下のような工程が挙げられる。ここでは代表的な親水性ポリマーであるポリエチレングリコールを例として説明する。
【0076】
(A) 環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物の合成
【化10】


(式中、R1は水素原子または炭化水素基であり;
R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して電子求引性もしくは電子供与性の置換基、または水素原子である。)
【0077】
【化11】

【0078】
化学反応可能な官能基であるヒドロキシ基を有する式(9)のカルボニル化合物、およびアミノ基がフタロイル基で保護されたフタルイミド基を有する式(10)の1,2-ジオール誘導体をトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、酸触媒存在下、反応させることで環状ベンジリデンアセタール基を有する下記式(11)の化合物を得る。得られた化合物は、抽出、再結晶、吸着剤処理またはカラムクロマトグラフィーなどで精製してもよい。カルボニル化合物の代わりに、対応する低級アルコールのアセタール誘導体を使用することもできる。低級アルコールは好ましくは炭素数1〜5のアルコールであり、更に好ましくはメタノールまたはエタノールである。酸触媒は有機酸または無機酸のいずれでもよく、特に制限は無いが、具体的な例を挙げればp-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム、メタンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、塩化水素、ヨウ素、塩化アンモニウム、シュウ酸および三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体などである。
【0079】
【化12】

【0080】
ここで「保護基」とは、ある反応条件下で分子中の特定の化学反応可能な官能基の反応を防止または阻止する成分である。保護基は、保護される化学反応可能な官能基の種類、使用される条件および分子中の他の官能基もしくは保護基の存在により変化する。保護基の具体的な例は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば「Wuts, P. G. M.; Greene, T. W. Protective Groups in Organic
Synthesis, 4th ed.; Wiley-Interscience: New York, 2007」に記載されている。また、保護基で保護された官能基は、それぞれの保護基に適した反応条件を用いて脱保護、すなわち化学反応させることで、元の官能基を再生させることができる。したがって、本明細書では、保護基で保護されており、各種反応によって脱保護が可能な官能基は「化学反応可能な官能基」に含む。保護基の代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されている。
【0081】
式(9)の化合物の化学反応可能な官能基は、ヒドロキシ基以外の官能基も用いることができる。具体的な例としては、ヒドロキシアルキル基、アミノ基、アミノアルキル基、カルボキシ基およびカルボキシアルキル基などが挙げられる。また、上記官能基は、アセタール化反応の酸性条件で安定、かつ環状ベンジリデンアセタール基が分解する接触還元以外の反応条件で脱保護可能な保護基で保護されていてもよい。
保護される官能基と保護基の好ましい組み合わせとして、保護される官能基がヒドロキシ基またはヒドロキシアルキル基のときは、例えばシリル系保護基およびアシル系保護基が挙げられ、具体的にはt-ブチルジフェニルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、アセチル基およびピバロイル基などが挙げられる。保護される官能基がアミノ基またはアミノアルキル基のときは、例えばアシル系保護基およびカーバメート系保護基が挙げられ、具体的にはトリフルオロアセチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基および2-(トリメチルシリル)エチルオキシカルボニル基などが挙げられる。保護される官能基がカルボキシ基またはカルボキシアルキル基のときは、例えばアルキルエステル系保護基およびシリルエステル系保護基が挙げられ、具体的にはメチル基、9-フルオレニルメチル基およびt-ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。具体的な保護基の種類および代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されており、それぞれの保護基に適した反応条件を選択し、親水性ポリマー中間体との反応前に脱保護を行うことができる。
【0082】
また、式(10)の化合物の1,2-ジオール部分を除く化学反応可能な官能基には、フタルイミド基以外の官能基も用いることができる。化学反応可能な官能基が保護基で保護された官能基である場合は、保護基はアセタール化反応の酸性条件で安定、かつベンジリデンアセタール基が分解する接触還元以外の反応条件で脱保護可能である必要がある。
保護される官能基と保護基の好ましい組み合わせとして、保護される官能基がアミノ基のときは、例えばアシル系保護基およびカーバメート系保護基が挙げられ、具体的にはトリフルオロアセチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基および2-(トリメチルシリル)エチルオキシカルボニル基などが挙げられる。また、保護される官能基がヒドロキシ基のときは、例えばシリル系保護基およびアシル系保護基が挙げられ、具体的にはt-ブチルジフェニルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、アセチル基およびピバロイル基などが挙げられる。保護される官能基がカルボキシ基のときは、例えばアルキルエステル系保護基およびシリルエステル系保護基が挙げられ、具体的にはメチル基、9-フルオレニルメチル基およびt-ブチルジメチルシリル基などが挙げられる。保護される官能基がスルファニル基のときは、例えばチオエーテル系保護基、チオカーボネート系保護基およびジスルフィド系保護基が挙げられ、具体的にはS-2,4-ジニトロフェニル基、S-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基およびS-t-ブチルジスルフィド基などが挙げられる。保護基の代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されており、それぞれの保護基に適した反応条件を選択することができる。ただし、化学反応可能な官能基が、保護基で保護されていなくてもアセタール化反応を阻害しない官能基の場合は、保護基を使用する必要は無い。
【0083】
(B) ポリエチレングリコール中間体の合成
開始剤であるメタノールをトルエン中もしくは無溶媒で、金属ナトリウム、金属カリウム、水素化ナトリウムまたは水素化カリウムなどのアルカリ条件下、エチレンオキシドをメタノールに対して3〜1000モル当量重合させ、式(12)のポリエチレングリコールを得る。
開始剤としては炭素数1〜24の炭化水素基を有するアルコールが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、フェノールおよびベンジルアルコールなどが挙げられる。当該ポリエチレングリコールは、化学反応可能な官能基であるヒドロキシ基を有するため、そのまま環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物とのカップリング反応に用いることもできる。
【0084】
【化13】

【0085】
式(12)のポリエチレングリコールをトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンなどの有機塩基、もしくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの無機塩基の存在下、塩化メタンスルホニルと反応させることで、式(13)のポリエチレングリコール中間体を得る。上記有機塩基、無機塩基は用いなくとも良い。有機塩基、無機塩基の使用割合は、特に制限はないが、式(12)のポリエチレングリコールの水酸基に対して等モル以上が好ましい。また、有機塩基を溶媒として用いてもよい。得られた化合物は、抽出、再結晶、吸着剤処理、再沈殿、カラムクロマトグラフィーまたは超臨界抽出等の精製手段にて精製してもよい。
【0086】
【化14】

【0087】
式(13)のポリエチレングリコール中間体における化学反応可能な官能基は他の官能基も用いることができる。化学反応可能な官能基の好ましい例としては、当該ポリエチレングリコール中間体と前記環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物のカップリング反応によって生じる結合が、式(1)の2価のスペーサーZ1に含まれるエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合、2級アミノ基もしくはこれらを含むアルキレン基、単結合またはアルキレン基となる官能基であり、具体的にはハロゲン原子、活性エステル、活性カーボネート、アルデヒド基、アミノ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基などが挙げられる。
【0088】
(C) 環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物とポリエチレングリコール中間体のカップリング反応
式(11)のベンジリデンアセタールリンカー化合物と式(13)のポリエチレングリコール中間体をトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、t-ブトキシカリウムまたはヘキサメチルジシラザンナトリウムなどの有機塩基、もしくは炭酸カリウム、水酸化カリウムまたは水素化ナトリウムなどの無機塩基の存在下、カップリング反応させることで、式(14)の化合物を得る。有機塩基、無機塩基の使用割合は、特に制限はないが、式(13)のポリエチレングリコール中間体の化学反応可能な官能基に対して等モル以上が好ましい。また、有機塩基を溶媒として用いてもよい。得られた化合物は、前述の精製手段にて精製してもよい。
【0089】
【化15】

【0090】
環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物の化学反応可能な官能基は、ポリエチレングリコール中間体とのカップリング反応の前に官能基変換を行ってもよい。カップリング反応の反応条件は、環状ベンジリデンアセタールリンカー化合物の化学反応可能な官能基およびポリエチレングリコール中間体の化学反応可能な官能基の組み合わせによって決定されるものであり、従来公知の方法を用いることができるが、式(1)の環状ベンジリデンアセタール基、前記2価のスペーサーZ1およびZ2に含まれる結合を分解しない条件を適切に選択する必要がある。
【0091】
(D) 環状ベンジリデンアセタールリンカーを有するポリエチレングリコール誘導体の末端官能基変換
式(14)の化合物を水、メタノールまたはエタノールなどのプロトン性溶媒、もしくはアセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、エチレンジアミン、メチルヒドラジンまたはメチルアミンなどの塩基性有機化合物、もしくはヒドラジン、ヒドロキシアミンまたは水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物を用いて処理することで、フタルイミド基が脱保護されてアミノ基に変換された式(15)の化合物を得る。塩基性化合物の使用割合は、特に制限はないが、式(14)の化合物の化学反応可能な官能基に対して等モル以上が好ましい。また、塩基性化合物を溶媒として用いてもよい。得られた化合物は、前述の精製手段にて精製してもよい。
【0092】
【化16】

【0093】
更に、式(15)の化合物をトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンなどの有機塩基、もしくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの無機塩基の存在下、1,2-ジアルキル-3-(N-スクシンイミジルカルボキシ)-グリセロールと反応させることで、式(16)の化合物を得る。上記有機塩基、無機塩基は用いなくとも良い。有機塩基、無機塩基の使用割合は、特に制限はないが、式(15)の化合物の化学反応可能な官能基に対して等モル以上が好ましい。また、有機塩基を溶媒として用いてもよい。得られた化合物は、前述の精製手段にて精製してもよい。
【0094】
【化17】

【実施例】
【0095】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
1H-NMR分析では日本電子データム(株)製JNM-ECP400またはJNM-ECA600を使用した。測定にはφ5mmチューブを用い、重水素化溶媒がCDCl3、CD3CNまたはCD3ODの場合は、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を使用し、D2Oの場合はHDOを基準とした。
【0096】
水酸基価測定による平均分子量の算出では、JIS K1557-1に従い、A法(無水酢酸/ピリジン)にて水酸基価を測定し、その値から平均分子量を以下の式によって算出した。

(平均分子量)=56.1×1,000/(水酸基価)
【0097】
TOF-MSによる平均分子量の測定では、TOF-MS(Bruker製、autoflexIII)を用い、マトリクスとしてDithranolまたは2,5-ジヒドロキシ安息香酸を、塩としてトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いて測定を行った。解析はFlexAnalysisを用い、Polytoolsにて分子量分布解析を行った。得られた数平均分子量(Mn)を平均分子量の値として記載した。
【0098】
加水分解試験で使用するpD 5.5のMES(2-morpholinoethanesulfonic acid)重水緩衝液は、0.1MのMES重水溶液に0.1Mの水酸化ナトリウム重水溶液を加え、「Glasoe, P. K.; Long, F. A. J. Phys. Chem.1960, 64, 188-190」に記載されている以下の関係式に基づいて調製した。

pD=pHメーターの測定値+0.40
【0099】
加水分解率は1H-NMRで評価し、アセタール基の水素の積分値をI1、加水分解で生成するアルデヒド基の水素の積分値をI2として、次の計算式により算出した。

加水分解率(%)=[I2/(I1+I2)]×100
【0100】
(実施例1)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した200 mLの三つ口フラスコに1,2,6-ヘキサントリオール(30.0 g, 0.224 mol)、アセトンジメチルアセタール(25.6 g, 0.246 mol)およびp-トルエンスルホン酸一水和物(0.426 g, 2.24 mmol)を仕込み、80℃にてメタノールの留去を行いながら、3時間反応を行った。トリエチルアミン(0.453 g, 4.48 mmol)を加えてしばらく攪拌し、酢酸エチルで希釈後、20wt%食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後、溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、式(17)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.35(3H, s, -CH3), 1.41(3H, s, -CH3),1.49-1.67(6H,
m, >CHCH2CH2CH2-),2.07(1H,
brs, -OH), 3.51(1H, t, -OCH2CH<), 3.64(2H,t, -CH2OH),
4.04(1H, dd, -OCH2CH<), 4.07-4.10(1H,m, -OCH2CH<)
【0101】
【化18】

【0102】
(実施例2)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した500 mLの四つ口フラスコに式(17)の化合物(20.0 g, 0.115 mol)、トリエチルアミン(23.3 g, 0.230
mol)およびトルエン(200 g)を仕込み、10℃以下に冷却した。冷却を続けながら、滴下漏斗に準備した塩化メタンスルホニル(19.8 g, 0.173 mol)を徐々に滴下した。滴下終了後、20℃で2時間反応を行った。エタノール(7.97 g, 0.173 mol)を加えてしばらく攪拌し、濾過後、有機層をイオン交換水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後、溶媒を減圧留去して式(18)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.35(3H, s, -CH3), 1.40(3H, s, -CH3),1.44-1.83(6H,
m, >CHCH2CH2CH2-),3.01(3H,
s, -OSO2CH3), 3.51(1H, t, -OCH2CH<),4.03-4.11(2H,
m, -OCH2CH<,-OCH2CH<),4.24(2H,
t, -CH2OSO2CH3)
【0103】
【化19】

【0104】
(実施例3)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した500 mLの四つ口フラスコに式(18)の化合物(20.0 g, 79.3 mmol)、フタルイミドカリウム(17.6 g, 95.2
mmol)および脱水ジメチルホルムアミド(200 g)を仕込み、60℃で2時間反応を行った。10℃以下に冷却し、イオン交換水(400 g)を加えてしばらく攪拌した後、酢酸エチル/ヘキサン(60/40, v/v)混合溶液で抽出した。有機層を0.2wt%炭酸カリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して式(19)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.34(3H, s, -CH3),1.39(3H, s, -CH3),1.44-1.75(6H,
m, >CHCH2CH2CH2-),3.50(1H,
t, -OCH2CH<), 3.69(2H, t, -CH2-phthalimide),4.01-4.09(2H,
m, -OCH2CH<, -OCH2CH<),7.71-7.85(4H,
m, -phthalimide)
【0105】
【化20】

【0106】
(実施例4)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した1 Lの四つ口フラスコに式(19)の化合物(15.2 g, 50.0 mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(951 mg, 5.00 mmol)およびメタノール(500 mL)を仕込み、室温で4時間反応を行った。トリエチルアミン(1.01 g, 10.0 mmol)を加えてしばらく攪拌した後、溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶解し、イオン交換水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して式(20)の化合物を得た。

1H-NMR(CD3CN, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.24-1.61(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),2.69(1H,
t, -OH), 2.75(1H, d, -OH), 3.17-3.21(1H, m, -OCH2CH<),3.31-3.37(1H,
m, -OCH2CH<), 3.39-3.43(1H, m, -OCH2CH<),3.54(2H,
t, -CH2-phthalimide), 7.67-7.75(4H, m, -phthalimide)
【0107】
【化21】

【0108】
(実施例5)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した300 mLの三つ口フラスコに式(20)の化合物(3.87 g, 14.7 mmol)、4-ヒドロキシベンズアルデヒド(1.20 g, 9.83 mmol)、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム(247 mg, 0.983 mmol)およびトルエン(180 g)を仕込み、副生する水をトルエンで共沸除去しながら4時間反応を行った。トリエチルアミン(199 mg, 1.97 mmol)を加えてしばらく攪拌した後、溶媒を減圧留去した。残渣をクロロホルムに溶解し、20wt%食塩水、イオン交換水の順で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して式(21)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.41-1.80(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),3.57-4.26(5H,
m, -OCH2CH<, -CH2-phthalimide),5.71(0.6H,
s, >CH-), 5.82(0.4H, s, >CH-), 6.79-6.82(2H, m, arom.H),
7.31-7.35(2H, m, arom. H), 7.70-7.86(4H, m, -phthalimide)
【0109】
【化22】

【0110】
(実施例6)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した300 mLの四つ口フラスコに脱水メタノール(12.8 g, 0.400 mol)、脱水トルエン(150 g)および金属ナトリウム0.3 g(13 mmol)を仕込み、窒素を吹き込みながら金属ナトリウムが溶解するまで室温で攪拌した。この溶液を5 Lオートクレーブへ仕込み、系内を窒素置換後、100℃に昇温した。100〜130 ℃、1 MPa以下の圧力でエチレンオキシド(793 g, 18.0 mol)を加えた後、更に2時間反応を続けた。減圧にて未反応のエチレンオキシドガスを除去後、60℃に冷却し、85%リン酸水溶液でpH
7.5に調整して式(22)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
2.68(1H, t, -OH), 3.38(3H, s, CH3O-),3.49-3.85(180H,
m, -(OCH2CH2)n-)
平均分子量(水酸基価より算出): 2,098
【0111】
【化23】

【0112】
(実施例7)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した500 mLの三つ口フラスコに式(22)の化合物(40 g, 20.0 mmol)とトルエン(250 g)を仕込み、水をトルエンで共沸除去した。40℃へ冷却後、トリエチルアミン(3.24 g, 32.0 mmol)を仕込み、滴下漏斗に準備した塩化メタンスルホニル(2.75
g, 24.0 mmol)を徐々に滴下した。滴下終了後、40℃で3時間反応を行った。エタノール(1.11 g, 24.0 mmol)を加えてしばらく攪拌し、濾過後、酢酸エチル(200 g)で希釈した。ヘキサン(500 g)を添加して晶析を行い、濾過後、結晶を酢酸エチル(500 g)に溶解させた。ヘキサン(500 g)を添加して再度晶析を行い、濾過後、減圧下で乾燥して式(23)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
3.08(3H, s, -OSO2CH3), 3.38(3H,s,
CH3O-), 3.52-3.85(178H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-),4.37-4.39(2H,
m, -CH2OSO2CH3)
【0113】
【化24】

【0114】
(実施例8)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した100 mLの三つ口フラスコに式(23)の化合物(2.00 g, 1.00 mmol)、式(21)の化合物(551 mg, 1.50 mmol)、炭酸カリウム(691 mg, 5.00
mmol)およびアセトニトリル(25 g)を仕込み、80℃で4時間反応を行った。溶媒を減圧留去した後、残渣を酢酸エチル(100 g)に溶解し、濾過を行った。ヘキサン(100 g)を添加して晶析を行い、濾過後、減圧下で乾燥して式(24)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.40-1.81(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),3.38(3H,
s, CH3O-), 3.52-4.25(184H, m, -(OCH2CH2)n-,-OCH2CH<,
-CH2-phthalimide),5.72(0.6H, s, >CH-), 5.84(0.4H,
s, >CH-), 6.89-6.91(2H, m, arom.H), 7.35-7.39(2H, m, arom.
H), 7.70-7.86(4H, m, -phthalimide)
【0115】
【化25】

【0116】
(実施例9)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した50 mLの三つ口フラスコに式(24)の化合物(800 mg, 0.400 mmol)、メタノール(7 g)およびエチレンジアミン一水和物(0.781 g, 10.0 mmol)を仕込み、40℃にて4時間反応を行った。20wt%食塩水で希釈し、ジクロロメタンで抽出後、溶媒を減圧留去した。残渣を酢酸エチル(50 g)に溶解して無水硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過後、ヘキサン(50 g)を添加して晶析を行った。濾過後、減圧下で乾燥して式(25)の化合物を得た。

1H-NMR(CD3OD, 内部標準TMS);δ(ppm):
1.43-1.79(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),
2.77(2H, t, -CH2-NH2), 3.36(3H, s, CH3O-),
3.50-4.29(182H, m, -(OCH2CH2)n-,
-OCH2CH<), 5.70(0.6H, s, >CH-),
5.81(0.4H, s, >CH-), 6.93-6.98(2H, m, arom. H), 7.33-7.41(2H,
m, arom. H)
【0117】
【化26】

【0118】
(実施例10)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を装備した三つ口フラスコにN,N'-ジスクシンイミジルカーボネート(786 mg、3.068 mmol)とジクロロメタン(5.00g)を仕込み、20℃で攪拌した。そこに、1,2-ジミリスチル-グリセロール(1.00 g、2.046
mmol)とトリエチルアミン(414 mg、4.091
mmol)をジクロロメタン(5.00 g)に溶解した溶液を滴下した。4時間攪拌した後、析出物をろ別し、ろ液を濃縮した。残渣をアセトン(10.0 g)で4回再結晶し、式(26)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
0.88(6H,t,-CH2CH3),1.20-1.41(44H,m,-OCH2CH2(CH2)11CH3),1.52-1.59(4H,m,-OCH2CH2(CH2)11CH3),2.83(4H,s,-succinimide),
3.38-3.61(6H,m,-OCH2CH2-,>CHCH2OCH2-),3.70(1H,m,>CHOCH2-),4.33-4.48(2H,m,-CH2-O-COO-succinimide)
【0119】
【化27】

【0120】
(実施例11)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を装備した100 mL三つ口フラスコに、式(25)の化合物(1.00 g、0.500 mmol)、式(26)の化合物(344 mg、0.550
mmol)およびトルエン(10 g)を仕込み、40℃で2時間反応を行った。反応溶液にキョーワード2000(協和化学工業株式会社製)を添加し、40℃で0.5時間撹拌した。ろ過後、ろ液を濃縮し、残渣をアセトニトリルに溶解してヘキサンで洗浄した。アセトニトリルを留去後、減圧下で乾燥して式(27)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
0.88(6H,t,-CH2CH3),1.20-1.41(44H,m,-OCH2CH2(CH2)11CH3),1.43-1.79(10H, m, >CHCH2CH2CH2-,-OCH2CH2(CH2)11CH3),3.22-4.29(199H,
m, >CHOCH2-,CH3O-,-(OCH2CH2)n-, >CHOCH2CH<,-OCH2CH2-,>CHCH2OCH2-,-CH2-NH-CO-OCH2CH<), 5.70(0.6H,s,
>CH-), 5.81(0.4H, s, >CH-), 6.93-6.98(2H, m, arom. H),7.33-7.41(2H,
m, arom. H)
平均分子量(TOF-MSによる測定):2,589
【0121】
【化28】

【0122】
(実施例12)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した300 mLの三つ口フラスコに1,2,6-ヘキサントリオール(2.01 g, 15.0 mmol)、3-フルオロ-4-ヒドロキシベンズアルデヒド(1.40 g, 10.0 mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(19.0 mg, 0.100 mmol)およびトルエン(210 g)を仕込み、副生する水をトルエンで共沸除去しながら4時間反応を行った。トリエチルアミン(20.2 mg, 0.200 mmol)を加えてしばらく攪拌し、10wt%食塩水で洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して式(28)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
1.40-1.81(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),3.52-4.23(3H,m,-OCH2CH<,-CH2OH),5.70(0.6H,s,>CH-),5.82(0.4H,s,>CH-),6.95-7.21(3H,m,arom.H)
【0123】
【化29】

【0124】
(実施例13)
実施例6と同様の方法にて式(29)の化合物を得た。
1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
2.68(1H, t, -OH), 3.38(3H, s, CH3O-),3.49-3.85(452H,
m, -(OCH2CH2)n-)
平均分子量(水酸基価より算出):5,116
【0125】
【化30】

【0126】
(実施例14)
実施例7と同様の方法にて式(30)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
3.08(3H, s, -OSO2CH3), 3.38(3H,s,
CH3O-), 3.52-3.85(450H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-),4.37-4.39(2H,
m, -CH2OSO2CH3)
【0127】
【化31】

【0128】
(実施例15)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した100 mLの三つ口フラスコに式(30)の化合物(5.00 g, 1.00 mmol)、式(28)の化合物(384 mg, 1.50 mmol)、炭酸カリウム(691 mg, 5.00
mmol)およびアセトニトリル(25 g)を仕込み、80℃で4時間反応を行った。溶媒を減圧留去した後、残渣を酢酸エチル(100 g)に溶解し、濾過を行った。ヘキサン(100 g)を添加して晶析を行い、濾過後、減圧下で乾燥して式(31)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
1.40-1.81(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),3.38(3H,s,CH3O-),3.52-4.23(456H,m,-(OCH2CH2)n-,-OCH2CH<,-CH2OH),5.72(0.6H, s, >CH-), 5.84(0.4H, s, >CH-),6.95-7.21(3H,m,arom.H)
【0129】
【化32】

【0130】
(実施例16)
式(31)の化合物をトリエチルアミン存在下、ジクロロメタン中、N,N’-ジスクシンイミジルカーボネートと反応させることで、式(32)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.45-1.87(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),2.84(4H,
two singlets, -succinimide), 3.38(3H, s, CH3O-),3.52-4.38(456H,
m, -(OCH2CH2)n-,-OCH2CH<,
-CH2O-COO-succinimide),5.72(0.6H, s, >CH-),
5.84(0.4H, s, >CH-), 6.95-7.21(3H,m,arom.H)
【0131】
【化33】

【0132】
(実施例17)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を装備した100mL三つ口フラスコに式(32)の化合物(2.00 g、0.400 mmol)、1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(329
mg、0.440 mmol)およびトルエン(10 g)を仕込み、40℃で攪拌した。そこに酢酸ナトリウム(164 mg、2.000 mmol)を加えた後、65℃まで昇温し、2時間反応を行った。反応溶液をろ過し、ろ液にキョーワード700(協和化学工業株式会社製)(0.20 g)とトルエン(2.00 g)のスラリーを加え、40℃で0.5時間攪拌した後、ろ過した。この操作をさらに1回行った後、ろ液に酢酸エチル(8 g)を加え、冷却晶析を行った。析出した結晶をろ過によって回収し、結晶に酢酸エチル(12 g)を加え、再度冷却晶析を行った。結晶をろ過後、減圧下で乾燥して式(33)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
0.85(6H, t, -CH2CH3), 1.20-1.41(56H,m,
-O-CO-CH2CH2(CH2)14CH3),1.45-1.87(10H,
m, >CHCH2CH2CH2-, -O-CO-CH2CH2(CH2)14CH3),2.22-2.38(4H,
m, -O-CO-CH2CH2(CH2)14CH3),3.35-3.37(2H,
m, -NHCH2CH2O-), 3.38(3H, s, CH3O-),3.52-4.41(462H,
m, -(OCH2CH2)n-,-OCH2CH<, -NHCH2CH2O-,-P(O)(ONa)OCH2CH<,
>CHCH2O-CO-CH2-,-CH2O-CONH-),
5.22(1H, m, >CH-O-CO-), 5.72(0.6H, s,>CH-), 5.84(0.4H, s,
>CH-), 6.95-7.21(3H, m, arom. H)
平均分子量(TOF-MSによる測定):5,894
【0133】
【化34】

【0134】
(実施例18)
実施例1〜4と同様の方法にて式(34)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.89 (2H, m, -CH2CH2-phthalimide),3.19
(1H, m, -OCH2CH<), 3.50-4.28 (6H, m, -OCH2CH<,-CH2CH2CH2-phthalimide),
7.70-7.86(4H, m, -phthalimide)
【0135】
【化35】

【0136】
(実施例19)
実施例5〜8と同様の方法にて式(35)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.89(2H, m, -CH2CH2-phthalimide),3.19(1H,
m, -OCH2CH<), 3.38(3H, s, CH3O-),3.52-4.41(185H,
m, -(OCH2CH2)n-,-OCH2CH<,
-CH2CH2CH2-phthalimide),5.34(0.8H,
s, >CH-), 5.42(0.2H, s, >CH-), 6.95-7.25(3H, m, arom.H),
7.70-7.86(4H, m, -phthalimide)
【0137】
【化36】

【0138】
(実施例20)
実施例9〜11と同様の方法にて式(36)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
0.88(6H, t, -CH2CH3),1.20-1.41(44H,
m, -OCH2CH2(CH2)11CH3),1.43-1.79(4H, m, -OCH2CH2(CH2)11CH3),
1.89(2H, m, -CH2CH2-NH-), 3.19(1H, m, -OCH2CH<),3.22-4.29(197H,
m, >CHOCH2-, CH3O-, -(OCH2CH2)n-,>CHOCH2CH<,
-OCH2CH2CH2NH-,>CHCH2OCH2-,
-NH-CO-OCH2CH<),5.34(0.8H, s, >CH-), 5.42(0.2H,
s, >CH-), 6.95-7.25(3H, m, arom.H)
平均分子量(TOF-MSによる測定):2,620
【0139】
【化37】

【0140】
(実施例21)
実施例12〜15と同様の方法にて式(37)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.89 (2H, m, -CH2CH2-OH), 3.19 (1H,m,
-OCH2CH<), 3.38 (3H, s, CH3O-), 3.52-4.41(457H,
m, -(OCH2CH2)n-, -OCH2CH<,-CH2CH2CH2-OH),
5.61 (0.8H, s,>CH-), 5.68 (0.2H, s, >CH-), 6.78-7.40 (3H,
m, arom. H)
【0141】
【化38】

【0142】
(実施例22)
実施例16、17と同様の方法にて式(38)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
0.85(6H, t, -CH2CH3), 1.20-1.41(56H,m,
-O-CO-CH2CH2(CH2)14CH3), 1.45-1.89(6H,m,
-O-CO-CH2CH2(CH2)14CH3,-CH2CH2-O-CONH-),
2.22-2.38(4H, m, -O-CO-CH2CH2(CH2)14CH3),3.19(1H,
m, >CHOCH2CH<), 3.35-3.37(2H, m, -NHCH2CH2O-),3.38(3H, s, CH3O-), 3.52-4.38(463H, m, -(OCH2CH2)n-,-OCH2CH2CH2O-,
>CHOCH2CH<,-NHCH2CH2O-, -P(O)(ONa)OCH2CH<,>CHCH2O-CO-CH2-),
5.22(1H, m, >CH-O-CO-),5.61(0.8H, s, >CH-), 5.68(0.2H, s,
>CH-), 6.78-7.40(3H, m, arom.H)
平均分子量(TOF-MSによる測定):5,969
【0143】
【化39】

【0144】
(実施例23)
【化40】

【0145】
特開2010-248504号公報に記載の方法で合成した式(39)の化合物に対して、塩酸を用いてt-ブチル基を除去することで、式(40)の化合物を得た。

1H-NMR(D2O, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.14(2H, t, -CH2NH2), 3.40-4.00(180H, m, -(OCH2CH2)n-)
【0146】
【化41】

【0147】
(実施例24)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機および冷却管を装備した100 mLの三つ口フラスコへ式(40)の化合物(5.00 g, 2.50 mmol)、ジクロロメタン(30 g)、およびトリエチルアミン(1.52 g, 15.0 mmol)を仕込み、トリフルオロ酢酸無水物(1.58 g, 7.50 mmol)を加えて25℃にて3時間反応を行った。pH 7.0のリン酸緩衝液を加えてしばらく攪拌した後、ジクロロメタン層を回収して、溶媒を減圧留去した。残渣を酢酸エチル(100 g)に溶解して無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過後、ヘキサン(100 g)を添加して晶析を行った。濾過後、減圧下で乾燥して式(41)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
2.58(1H, t, -OH), 3.40-3.95(182H, m, -(OCH2CH2)n-), 7.34(1H,brs,
-HNCOCF3)
【0148】
【化42】

【0149】
(実施例25)
式(41)の化合物に対して、実施例7と類似の方法にて塩化メタンスルホニルを反応させることで、式(42)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.08(3H, s, -OSO2CH3), 3.40-3.95(180H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-),4.37-4.39(2H,
m, -CH2OSO2CH3), 7.34(1H,brs, -HNCOCF3)
【0150】
【化43】

【0151】
(実施例26)
式(42)の化合物と式(28)の化合物を用いて、実施例15と同様の方法にて式(43)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.40-1.81(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),3.40-4.25(187H, m, -(OCH2CH2)n-, -OCH2CH<,-CH2-OH),
5.70(0.6H, s, >CH-), 5.82(0.4H, s, >CH-),6.95-7.21(3H, m, arom.
H), 7.34(1H, brs, -HNCOCF3)
【0152】
【化44】

【0153】
(実施例27)
式(43)の化合物に対して、実施例16と同様の方法にてN,N’-ジスクシンイミジルカーボネートを反応させることで、式(44)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.40-1.81(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),2.84(4H,
s, -succinimide), 3.40-4.25(185H, m, -(OCH2CH2)n-, -OCH2CH<),4.33(2H,
dd, -CH2O-COO-succinimide), 5.70(0.6H, s, >CH-),5.82(0.4H,
s, >CH-), 6.95-7.21(3H, m, arom. H), 7.34(1H, brs,-HNCOCF3)
【0154】
【化45】

【0155】
(実施例28)
1,2-ジステアリル-グリセロールをアゾジカルボン酸ジイソプロピルおよびトリフェニルホスフィン存在下、フタルイミドと反応させた後、さらにエチレンジアミン一水和物で処理することで、式(45)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
0.88(6H, t, -CH2CH3), 1.20-1.41(60H,m,
-OCH2CH2(CH2)15CH3),1.52-1.63(4H,
m, -OCH2CH2(CH2)15CH3), 2.72-2.88(2H,m,
H2NCH2-), 3.36-3.51(6H, m, -OCH2CH2-,>CHCH2OCH2-),
3.62(1H, m, >CHOCH2-)
【0156】
【化46】

【0157】
(実施例29)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を装備した100 mL三つ口フラスコに、式(44)の化合物(1.00 g、0.500 mmol)、式(45)の化合物(328 mg、0.550
mmol)およびトルエン(10 g)を仕込み、40℃で2時間反応を行った。反応溶液にキョーワード2000(協和化学工業株式会社製)を添加し、40℃で0.5時間撹拌した。ろ過後、ろ液を濃縮し、残渣をアセトニトリルに溶解してヘキサンで洗浄した。アセトニトリルを留去後、減圧下で乾燥して式(46)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
0.88(6H,t,-CH2CH3),1.20-1.41(60H,m,-OCH2CH2(CH2)15CH3),1.43-1.79(10H, m, >CHCH2CH2CH2-,-OCH2CH2(CH2)15CH3),3.22-4.29(196H,
m, >CHOCH2-,CH3O-,-(OCH2CH2)n-, >CHOCH2CH<,-OCH2CH2-,>CHCH2OCH2-,-CH2-O-CO-NHCH2CH<), 5.70(0.6H,s,
>CH-), 5.81(0.4H, s, >CH-), 6.95-7.21(3H, m, arom. H),7.34(1H,brs, -HNCOCF3)
【0158】
【化47】

【0159】
(実施例30)
式(46)の化合物を1M炭酸カリウム水溶液中、25℃にて2時間反応させることで、トリフルオロアセチル基を脱保護した後、トルエン中、3-マレイミドプロピオン酸N-スクシンイミジルと反応させることで、式(47)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);δ(ppm):
0.88(6H,t,-CH2CH3),1.20-1.41(60H,m,-OCH2CH2(CH2)15CH3),1.43-1.79(10H, m, >CHCH2CH2CH2-,-OCH2CH2(CH2)15CH3),2.44(2H,
t, -CH2CH2-maleimide),3.22-4.29(198H,
m, >CHOCH2-,CH3O-,-(OCH2CH2)n-,>CHOCH2CH<,-OCH2CH2-,>CHCH2OCH2-,-CH2-O-CO-NHCH2CH<, -CH2CH2-maleimide),
5.19(1H, brs, -HNCOO-),5.70(0.6H, s, >CH-), 5.81(0.4H, s,
>CH-), 6.15(1H, brs, -HNCO-),6.70(2H, s, -maleimide), 6.95-7.21(3H,
m, arom. H)
平均分子量(TOF-MSによる測定):2,885
【0160】
【化48】

【0161】
(実施例31)
【化49】

【0162】
特開2004-197077号公報に記載の方法で合成した式(48)の化合物に対して、実施例7と同様の方法にて塩化メタンスルホニルを反応させることで、式(49)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
3.08(3H, s, -OSO2CH3), 3.38(6H,s,
CH3O-), 3.40-4.00(450H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,-(OCH2CH2)n-OCH<),4.26-4.42(2H,
m, -CH2OSO2CH3)
【0163】
【化50】

【0164】
(実施例32)
4-ヒドロキシベンズアルデヒドと式(49)の化合物を用いて、実施例12および15と同様の方法にて式(50)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS); δ(ppm):
1.38-1.80(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),3.38(6H,
s, CH3O-), 3.40-4.23(457H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,-(OCH2CH2)n-OCH<,
-OCH2CH<,-CH2-OH), 5.70(0.6H,
s, >CH-), 5.81(0.4H, s, >CH-),6.93-6.98(2H, m, arom. H), 7.33-7.41(2H, m, arom.H)
【0165】
【化51】

【0166】
(実施例33)
式(50)の化合物をトリエチルアミン存在下、ジクロロメタン中、4-ニトロフェニルクロロホルメートと反応させることで、式(51)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
1.45-1.87(6H, m, >CHCH2CH2CH2-),3.38(3H,
s, CH3O-), 3.40-4.52(457H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,-(OCH2CH2)n-OCH<,
-OCH2CH<, -CH2O-COO-(4-nitrophenyl)),
5.70(0.6H, s, >CH-), 5.81(0.4H, s, >CH-), 6.93-6.98(2H, m, arom.H),
7.33-7.42(4H, m, arom.H),8.27-8.30(2H,m,arom.H)
【0167】
【化52】

【0168】
(実施例34)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機を装備した100mL三つ口フラスコに式(51)の化合物(2.00 g、0.400 mmol)、1,2-Dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine(327
mg、0.440 mmol)およびトルエン(10 g)を仕込み、40℃で攪拌した。そこに酢酸ナトリウム(164 mg、2.000 mmol)を加えた後、65℃まで昇温し、2時間反応を行った。反応溶液をろ過し、ろ液にキョーワード700(協和化学工業株式会社製)(0.20 g)とトルエン(2.00 g)のスラリーを加え、40℃で0.5時間攪拌した後、ろ過した。この操作をさらに1回行った後、ろ液に酢酸エチル(8 g)を加え、冷却晶析を行った。析出した結晶をろ過によって回収し、結晶に酢酸エチル(12 g)を加え、再度冷却晶析を行った。結晶をろ過後、減圧下で乾燥して式(52)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3, 内部標準TMS);
δ(ppm):
0.88(6H, t, -CH2CH3), 1.18-1.43(40H,m,
-O-CO-CH2CH2(CH2)4CH2CH=CHCH2(CH2)6CH3),1.45-1.87(10H,
m, >CHCH2CH2CH2-, -O-CO-CH2CH2(CH2)4CH2CH=CHCH2(CH2)6CH3),1.99-2.08(8H,
m, -O-CO-CH2CH2(CH2)4CH2CH=CHCH2(CH2)6CH3),2.22-2.38(4H,
m, -O-CO-CH2CH2(CH2)4CH2CH=CHCH2(CH2)6CH3),3.35-3.37(2H,
m, -NHCH2CH2O-), 3.38(6H, s, CH3O-),3.52-4.41(465H,
m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,-(OCH2CH2)n-OCH<,
-OCH2CH<, -NHCH2CH2O-,-P(O)(ONa)OCH2CH<,
>CHCH2O-CO-CH2-,-CH2O-CONH-),
5.22(1H, m, >CH-O-CO-), 5.28-5.38(4H,m, -O-CO-CH2CH2(CH2)4CH2CH=CHCH2(CH2)6CH3),5.70(0.6H,s,
>CH-), 5.81(0.4H, s, >CH-), 6.93-6.98(2H, m, arom.H),
7.33-7.41(2H, m, arom.H)
平均分子量(TOF-MSによる測定):5,875
【0169】
【化53】

【0170】
(試験例1)
[加水分解試験1]
式(24)、式(31)、式(35)および式(37)の化合物20mgを、それぞれpD5.5のMES重水緩衝液1mlに溶解し、37℃の恒温槽で静置した。静置後、数時間毎に1H-NMRを測定し、測定結果を基に、アセタール基の水素の積分値とアルデヒド基の水素の積分値から、各測定時間における加水分解率を算出した。
【0171】
【表1】

【0172】
式(24)、式(31)、式(35)および式(37)の化合物の加水分解率の推移を図1に示した。この結果から、加水分解半減期(t1/2)はそれぞれ2時間、12時間、24時間、6ヶ月だった。
【0173】
(試験例2)
[加水分解試験2]
式(27)、式(33)、式(36)、式(47)および式(52)の化合物1mgを、それぞれpD 5.5のMES重水緩衝液1mlに溶解し、1H-NMRを測定した。測定結果を基に、アセタール基の水素の積分値とアルデヒド基の水素の積分値から、各測定時間における加水分解率を算出した。
【0174】
【表2】

【0175】
式(27)、式(33)、式(36)、式(47)および式(52)の化合物の加水分解率の推移を図2に示した。この結果から、環状ベンジリデンアセタールリンカーの構造が同じである式(27)と式(52)の化合物の加水分解半減期(t1/2)はいずれも2時間であり、同じリンカー構造を有する式(24)の化合物の加水分解半減期(t1/2)と同等であった。また、環状ベンジリデンアセタールリンカーの構造が同じである式(33)と式(47)の化合物の加水分解半減期(t1/2)はいずれも12時間であり、同じリンカー構造を有する式(31)の化合物の加水分解半減期(t1/2)と同等であった。
【0176】
以上より、環状ベンジリデンアセタールリンカーの構造が同じであれば、結合する親水性ポリマーまたは脂質の種類や分子量に関係なく、加水分解速度が同じであることが示された。また、その加水分解速度は、環状ベンジリデンアセタールリンカーのベンゼン環上における置換基の種類および位置を適切に選択することで、的確に制御できることが分かった。
図1
図2