(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850494
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20210322BHJP
C08F 20/22 20060101ALI20210322BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
G02C7/04
C08F20/22
C09B67/20 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-538508(P2018-538508)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公表番号】特表2018-537729(P2018-537729A)
(43)【公表日】2018年12月20日
(86)【国際出願番号】KR2016006716
(87)【国際公開番号】WO2017065382
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2019年6月20日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0142047
(32)【優先日】2015年10月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518123763
【氏名又は名称】メディオス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MEDIOS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】バク ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】バク ヨンジュ
【審査官】
池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】
特許第2793363(JP,B2)
【文献】
特表2013−508535(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/068215(WO,A1)
【文献】
国際公開第2015/140967(WO,A1)
【文献】
特表2006−503338(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第105175640(CN,A)
【文献】
韓国公開特許第2017−0105452(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
C08F 20/22
C09B 67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記化学構造式1:
【化1】
で表されるフッ素エステル化合物
と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体、下記化学構造式2:
【化2】
(ただし、nは、0、3、6)
で表されるポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物
、及び光変色染料を含
み、
前記フッ素エステル化合物が、前記共重合体において10モル%〜30モル%の割合であり、
前記共重合体を、組成物全体において20重量%〜50重量%の量で含み、
前記ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物を、組成物全体において5重量%〜20重量%の量で含み、
前記光変色染料を、組成物全体において0.5重量%〜2重量%の量で含む
ことを特徴とする、光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物。
【請求項2】
下記段階:
(S1)フッ素エステル化合物と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体を合成する段階、
(S2)前記段階(S1)で製造された共重合体と、ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物と、光変色染料と、親水性アクリレート単量体と、架橋剤と、開始剤とを含むコンタクトレンズ組成物を混合する段階、
(S3)前記段階(S2)で混合した組成物において、前記光変色染料を常温〜40℃で溶解させる段階、
(S4)コンタクトレンズ成形用モールドに、前記段階(S3)で光変色染料を溶解させた組成物を注入する段階、
(S5)前記段階(S4)で組成物が注入されたコンタクトレンズ成形用モールドを熱処理する段階、
(S6)成形されたコンタクトレンズをモールドから分離する段階、
(S7)前記コンタクトレンズを湿潤及び消毒する段階、並びに
(S8)前記コンタクトレンズを包装及び滅菌する段階
を含み、
前記フッ素エステル化合物が、前記共重合体において10モル%〜30モル%の割合であり、
前記共重合体を、組成物全体において20重量%〜50重量%の量で使用し、
前記ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物を、組成物全体において5重量%〜20重量%の量で使用し、
前記光変色染料を、組成物全体において0.5重量%〜2重量%の量で使用する
ことを特徴とする、光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物の製造方法。
【請求項3】
前記フッ素エステル化合物が、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートであることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物が、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、及びポリプロピレングリコールモノアクリレートからなる群より選択された1つ以上であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記親水性アクリレート単量体が、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、及びメタクリル酸からなる群より選択された1つ以上であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記架橋剤が、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリールメタクリレート、及びジビニルベンゼンから選択された、2官能以上の炭素二重結合を有する単量体の1種以上が混合されたものであり、組成物全体において0.5重量%〜2重量%の量で使用することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記開始剤が、過酸化ベンゾイル、クミルパーオキサイド、ブチルパーオキサイド、及びブチルパーオキシベンゾエートからなる過酸化物、並びに、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、及び2,2’−アゾビスバレロニトリルからなるニトリル化合物の中から選択されたものであり、組成物全体において0.05重量%〜0.3重量%の量で使用することを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記光変色染料が、ナフトピラン化合物、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、チオインジゴ化合物、及びトリアリールメタン化合物から選択されたものであることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物及びその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、夜間及び室内では無色透明な状態であるにも係らず、太陽光下ではカラーを有しながら光透過率を低下させ、紫外線及び日射光を遮断して、安全で楽に装着することができる光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物及びこれを利用して製造されたコンタクトレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
光変色染料としては、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、チオインジゴ化合物、トリアリールメタン化合物などを挙げることができ、これらの化合物は、紫外線に露出すれば、その分子構造が変化してカラーを有するようになる物質として、デザイン的な分野や光学的な分野で、近年多用されている。そのうち、光学的な分野では、建築物硝子や自動車硝子に適用されている事例がある。これらは、通常は透明な硝子で、太陽光を受ければグレー又はブラウン系の濃いカラーを有する硝子となり、視野を遮断するか、又は紫外線や日射光を遮断する目的で利用されている。
【0003】
また、これらの化合物は、メガネレンズ分野でも活用される事例が徐々に増加してきている。しかし、ソフトコンタクトレンズ分野では、前記のごとき効果を獲得し難い。その理由は次のとおりである。ソフトコンタクトレンズを構成する物質、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸などは、親水性が高い物質であり、このような物質を利用して成形されたレンズは、眼球に装着するために必然的に湿潤工程を経た、水を含むレンズである。ところが、光変色染料を含むポリマーが親水性物質又は水と共存すると、やや濁るような白化現象が発生する問題があり、光変色染料のコンタクトレンズへの適用は困難であった。
【0004】
さらに、商業的かつ実用的な適用のためには、太陽光によってカラーを有するレンズが、室内又は陰に位置すれば、カラーが早急に消滅して透明な状態にならなければならない。しかし、カラーが消滅する時間が短くなければ、実効性が非常に低下した状態のレンズとなる。
【0005】
これらの問題によって、一般的な通常のソフトコンタクトレンズ組成物に光変色染料を添加して、光変色性ソフトコンタクトレンズとして活用するには多くの困難があった。
【0006】
一般に、光変色効果を発揮させるためには、特殊な染料である光変色染料をアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、又はシリコン樹脂などのバインダー樹脂に混合した後、硬化させて使用する。このような従来技術として、特許文献1には、軟質コンタクトレンズ用シリコンハイドロゲル組成物及びこの組成物によって製造された軟質コンタクトレンズが記載されている。
【0007】
本発明者らは、太陽光によって生じたカラーが、陰でより早急に消滅することにより、円滑な光変色効果を発揮するソフトコンタクトレンズを開発するために鋭意研究を重ねてきた。その結果、本発明者らは、公知のソフトコンタクトレンズ組成物にフッ素エステル化合物及びポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物を併用添加することで、太陽光によって生じたレンズのカラーが、太陽光がない状況で早急に無色透明の初期状態に復元されることを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許10−2008−0113467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、眼球に装着可能に湿潤されたソフトコンタクトレンズにおいて、白化問題が発生しないとともに、円滑な光変色効果が発揮され、太陽光によって生じたカラーが、太陽光がない状況で早急に無色透明の初期状態に復元される光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物を得ることである。
【0010】
また、本発明が解決しようとする他の技術的課題は、前記ソフトコンタクトレンズ組成物の製造方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を解決するために、本発明では、
下記化学構造式1:
【化1】
で表されるフッ素エステル化合物、及び
下記化学構造式2:
【化2】
(ただし、nは、0、3、6)
で表されるポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物
を含むことを特徴とする光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物
を提供する。
【0012】
また、前記他の技術的課題を解決するために、本発明では、
下記段階:
(S1)フッ素エステル化合物と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体を合成する段階、
(S2)前記段階(S1)で製造された共重合体と、ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物と、親水性アクリレート単量体と、架橋剤と、開始剤とを含むコンタクトレンズ組成物を配合する段階、
(S3)前記段階(S2)で配合された光変色染料を溶解する段階、
(S4)コンタクトレンズ成形用モールドに前記段階(S3)で溶解された組成物を注入する段階、
(S5)前記段階(S4)で組成物が注入されたコンタクトレンズ成形用モールドを熱処理する段階、
(S6)成形されたコンタクトレンズをモールドから分離する段階、
(S7)前記コンタクトレンズを湿潤及び消毒する段階、並びに
(S8)前記コンタクトレンズを包装及び滅菌する段階
を含むことを特徴とする光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学的に透明で白化がなく、太陽光によってカラーを有するように早急に変色し、太陽光が除去された際に早急に無色透明の初期状態に復元される光変色性ソフトコンタクトレンズを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物は、一般的なソフトコンタクトレンズ組成物において、下記化学構造式1で表されるフッ素エステル化合物と、下記化学構造式2で表されるポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物とを含むことを特徴とする。
【化3】
【化4】
(ただし、nは、0、3、6)
【0015】
一般的なソフトコンタクトレンズに主に使用されている、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸などの親水性単量体らで構成された組成物に、前記化学構造式1で表されるフッ素エステル化合物を併用すれば、コンタクトレンズを湿潤した後でも白化現象が防止され、前記化学構造式2で表されるポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物を併用すれば、この化合物がコンタクトレンズ内でスペーサとして作用し、太陽光によってカラーを有するように変色する速度が早くなり、変色してカラーを有するコンタクトレンズが、日光が除去された際に早急に無色透明の初期状態に復元する効果を発揮することができる。
【0016】
本発明の光変色性ソフトコンタクトレンズ組成物は、(S1)フッ素エステル化合物と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体を合成する段階、(S2)前記段階(S1)で製造された共重合体と、ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物と、親水性アクリレート単量体と、架橋剤と、開始剤とを含むコンタクトレンズ組成物を配合する段階、(S3)前記段階(S2)で配合された光変色染料を溶解する段階、(S4)コンタクトレンズ成形用モールドに前記段階(S3)で溶解された組成物を注入する段階、(S5)前記段階(S4)で組成物が注入されたコンタクトレンズ成形用モールドを熱処理する段階、(S6)成形されたコンタクトレンズをモールドから分離する段階、(S7)前記コンタクトレンズを湿潤及び消毒する段階、並びに(S8)前記コンタクトレンズを包装及び滅菌する段階、を含む方法によって製造され得る。
【0017】
前記フッ素エステル化合物は、下記化学構造式1で表される化合物で代表され、前記ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物は、下記化学構造式2で表される化合物で代表される。
【化5】
【化6】
(ただし、nは、0、3、6)
【0018】
前記フッ素エステル化合物としては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートが例示される。該フッ素エステル化合物と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの共重合体をあらかじめ合成して使用する理由は、次のとおりである。フッ素エステル化合物は疎水性が高く、2−ヒドロキシエチルメタクリレートは親水性が高いので、単純に両者を配合して使用すると、親水性物質同士及び疎水性物質同士、それぞれが凝集体を形成してコンタクトレンズが均一に形成されない問題が発生する場合がある。よって、事前に両者の共重合体を合成して、コンタクトレンズ組成物を配合することが望ましい。
【0019】
前記共重合体の合成は、次のとおりに行うことができる。前記化学構造式1で表されるフッ素エステル化合物と、下記化学構造式3で表される2−ヒドロキシエチルメタクリレートとを、所定の配合割合で混合し、アクリレート熱重合開始剤を添加して加熱処理する方法で熱重合させ、下記化学構造式4で表される共重合体を合成する。
【化7】
【化8】
(ただし、mは、0.1〜0.3)
【0020】
このとき、フッ素エステル化合物の割合は、10モル%〜30モル%であることが望ましい。その割合が10モル%未満であると、フッ素エステル化合物の効果を発揮することが困難であり、30モル%を超過すると、共重合体の疎水性が高くなり過ぎる恐れがある。
【0021】
また、前記共重合体は、組成物全体において20重量%〜50重量%の量で含まれることが望ましい。その量が20重量%未満であると、コンタクトレンズの湿潤時に白化問題を防止することが困難であり、50重量%を超過すると、疎水性が高くなり過ぎて、湿潤した後であってもコンタクトレンズが硬く、眼球に装着する際に不便さが生じる恐れがある。
【0022】
前記共重合体の合成に使用される熱重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、クミルパーオキサイド、ブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエートなどの過酸化物、又は2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスバレロニトリルなどのニトリル化合物から選択して使用され、その量は、アクリレート組成物全体の重量に対して0.1重量%〜2重量%であることが望ましい。その量が0.1重量%未満であると、共重合体の合成が容易でなくなる恐れがあり、2重量%を超過すると、熱重合時に固化する問題が発生する場合がある。
【0023】
共重合体を合成する際の加熱温度は、90℃〜120℃が望ましく、熱重合時に固化する問題を防止するために、有機溶剤を含有させることが可能である。有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶剤、又はシクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤を使用することが可能である。ただし、有機溶剤はコンタクトレンズ成形時の未重合や人体有害性が問題になることがあるので、コンタクトレンズ組成物を配合時に、別の工程で除去することが望ましい。
【0024】
前記化学構造式2で表されるポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物としては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートなどを例示することができ、これらの1種又は2種以上を混合して使用することが可能である。前記ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレートを、組成物全体において5重量%〜20重量%の量で使用することが望ましい。その量が5重量%未満であると、濃いカラーへと変色する速度及び変色したカラーが消滅する速度が高くならず、20重量%を超過すると、コンタクトレンズ成形時に架橋密度が低くなって物理的な剛性が低下し、モールドからコンタクトレンズを分離し難くなることがある。
【0025】
前記親水性アクリレート単量体としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチルアクリルアミド、メタクリル酸などの親水性単量体の1種以上を混合して使用することができる。
【0026】
前記架橋剤としては、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリールメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの2官能以上の炭素二重結合を有する単量体の1種以上を混合して使用することができる。前記架橋剤を、組成物全体において0.5重量%〜2重量%の量で使用することが望ましい。その量が0.5重量%未満であると、架橋結合が不充分で、コンタクトレンズの物理的な剛性及び弾性が低下する恐れがあり、2重量%を超過すると、コンタクトレンズの湿潤時に含水率が低下する恐れがある。
【0027】
前記開始剤としては、過酸化ベンゾイル、クミルパーオキサイド、ブチルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエートなどの過酸化物、又は2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタンニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパンニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビスバレロニトリルなどのニトリル化合物から選択して使用することができる。前記開始剤を、組成物全体において0.05重量%〜0.3重量%の量で使用することが望ましい。その量が0.05重量%未満であると、コンタクトレンズが未重合成分を含むおそれがあり、0.3重量%を超過すると、コンタクトレンズの弾性が低下し、モールドからコンタクトレンズを分離する際にクラックが発生する恐れがある。
【0028】
前記光変色染料は、ナフトピラン化合物、スピロピラン化合物、スピロオキサジン化合物、チオインジゴ化合物、トリアリールメタン化合物等であり、具体的には、1,3−ジハイドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]、1,3−ジハイドロ−1,3,3−トリメチルスピロ[2H−インドール−2,3’−[3H]ペナント[9,10−b][1,4]オキサジン]、1’,3’−ジハイドロ−1’,3’,3’−トリメチル−6−ニトロスピロ[2H−1−ベンゾピラン−2,2’−(2H)−インドール]、1,3,3,5−テトラメチルスピロ[イソインドール−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]、5−メトキシ−1,3,3−トリメチルスピロ[イソインドール−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]、5−クロロ−1,3,3−トリメチルスピロ[イソインドール−2,3’−ナフト[2,1−b][1,4]オキサジン]を例示することができる。前記光変色染料を、組成物全体において0.5重量%〜2重量%の量で使用することが望ましい。その量が0.5重量%未満であると、実効性のある濃度のカラーが具現され難くなり、2重量%を超過すると、カラーの濃度が飽和状態に至り、光変色染料が非常に高価であるので経済的でない。前記光変色染料は、アクリレート組成物に添加後、常温〜40℃で溶解させることが望ましい。40℃以上の温度は、アクリレート系の化合物の開始反応が誘発されることがあるので望ましくない。
【0029】
前記のごとき段階を経て得られた光変色性ソフトコンタクトレンズ成形用アクリレート組成物は、別に製作されたモールドに注入される。モールドの材質には特に制限がないが、成形されたコンタクトレンズの分離が容易である点で、ポリプロピレン材質のモールドが好適である。組成物が注入されたモールドに、60℃〜120℃の温度で、4時間〜12時間に亘って熱処理を実施することにより、モールド内の組成物が架橋結合されてコンタクトレンズとして成形される。
【0030】
次いで、前記工程で成形されたコンタクトレンズをモールドから分離し、別途調製した湿潤液に浸漬させ、膨潤及び含水処理を実施する。湿潤液としては、塩化ナトリウム含量が0.9重量%の生理食塩水又は別途調剤したものを使用可能である。湿潤処理は、1時間〜2時間に亘って常温で浸漬させて実施され、次いで、60℃〜80℃の温度で、2時間〜4時間に亘って熱処理する工程で進行される。このような熱処理を行う間に、コンタクトレンズに残存していた未反応単量体がコンタクトレンズから湿潤液へと流出するようになるので、通常、これを消毒工程と称している。
【0031】
次いで、前記工程で処理されたレンズを塩化ナトリウム含量が0.9重量%の生理食塩水が満たされたプラスチック製又は硝子製の容器に包装した後、1気圧以上の圧力を有する飽和蒸気で全ての微生物を除去する高圧蒸気滅菌工程を実施し、コンタクトレンズの製造を完了する。
【0032】
本発明によれば、光学的に透明で白化がなく、太陽光によってカラーを有するように早急に変色し、太陽光がない状況で早急に無色透明の初期状態に復元される光変色性ソフトコンタクトレンズを製造することができる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明をさらに充分に理解するために、実施例などを挙げて本発明を詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、多くの他の形態に変更することができ、本発明の範囲が下記実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を有する者に、本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0034】
<製造例1>共重合体の合成
撹拌及び加熱が可能な反応容器にトルエン137.73gを投入した後、120℃まで加熱して持続的に撹拌した。これとは別に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート104.11g(0.8モル)及び2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート33.62g(0.2モル)と、熱重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.69g(0.5重量%)とをあらかじめ均一に配合した混合物を準備した後、この混合物を、前記120℃でトルエンが加熱されている反応容器に2時間に亘って滴下投入した。その後、さらに120℃で2時間維持して、共重合体を合成した。
【0035】
<実施例1>
前記製造例1で合成した共重合体60g及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート57.85gを均一に混合した後、減圧蒸溜装置を利用して、温度60℃、圧力150torrの条件で減圧蒸溜を行い、共重合体内に含有されているトルエンをすべて除去した。次いで、これに、前記化学構造式2においてn=0であるポリエチレングリコールモノメタクリレート10g、エチレングリコールジメタクリレート1g、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.15g、及び光変色染料1gを混合した後、常温で30分間撹拌して組成物を均一に混合し、光変色染料を完全に溶解させた。ここで用いた光変色染料は、太陽光の紫外線に露出すれば黒色系列でカラーが変わる物質であり、volcanic grayという商品名で商業的に市販されている原料である。
【0036】
前記のように準備した組成物を自社で成形したポリプロピレン材質のモールドに注入した後、60℃で8時間、120℃で4時間に亘って熱処理を行い、組成物の架橋結合を完了させて、モールドから分離した。次いで、塩化ナトリウム含量が0.9重量%の生理食塩水に1時間浸漬させてコンタクトレンズが膨潤されるようにした後、80℃で4時間加熱して消毒工程を完了した。その後、塩化ナトリウム含量が0.9重量%の生理食塩水が満たされた硝子容器に包装した後、温度120℃、圧力200kPaの条件で20分間滅菌処理を行った。
【0037】
<実施例2>
前記実施例1において、ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物としてn=0であるポリエチレングリコールモノメタクリレートを用いた替わりに、n=6であるポリプロピレングリコールモノアクリレートを用いたほかは、前記実施例1と同一の方法でコンタクトレンズを製造した。
【0038】
<比較例1>
前記実施例1において、コンタクトレンズ組成物を準備する際に、ポリエチレングリコールモノメタクリレートを用いず、替わりに同量の2−ヒドロキシエチルメタクリレートを用いたほかは、前記実施例1と同一の方法でコンタクトレンズを製造した。
【0039】
<比較例2>
撹拌が可能な容器において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート80.53g及び2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート7.32gと、前記化学構造式2においてn=0であるポリエチレングリコールモノメタクリレート10gと、エチレングリコールジメタクリレート1gと、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.15gと、光変色染料1gとを混合した後、常温で30分間撹拌して組成物を均一に混合し、光変色染料を完全に溶解させた。ここで用いた光変色染料は、実施例1で用いたものと同一である。前記のように準備した組成物に対して、実施例1と同一の方法で工程を進行し、コンタクトレンズを製造した。
【0040】
<比較例3>
撹拌が可能な容器において、2−ヒドロキシエチルメタクリレート97.85g及びエチレングリコールジメタクリレート1gと、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.15gと、光変色染料1gとを混合した後、常温で30分間撹拌して組成物を均一に混合し、光変色染料を完全に溶解させた。ここで用いた光変色染料は、実施例1で用いたものと同一である。前記のように準備した組成物に対して、実施例1と同一の方法で工程を進行し、コンタクトレンズを製造した。
【0041】
前記実施例及び比較例によって製造されたコンタクトレンズについて、下記試験例の方法で評価を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
<試験例1>外観観察
前記実施例1、2並びに比較例1、2及び3で製造されたコンタクトレンズについて、染みや白化などの発生の有無を肉眼で観察した。
【0043】
<試験例2>変色速度測定
前記実施例1、2並びに比較例1、2及び3で製造されたコンタクトレンズについて、太陽光に露出したときに、カラーを有しながら濃く変色する様子を観察し、変色する時間を測定して評価した。
早い:太陽光に露出後、10秒以内に濃く変色する。
普通:太陽光に露出後、10秒〜20秒で濃く変色する。
遅い:太陽光に露出後、20秒以後に濃く変色する。
【0044】
<試験例3>消滅速度測定
前記実施例1、2並びに比較例1、2及び3で製造されたコンタクトレンズについて、太陽光に露出して濃く変色した状態で太陽光への露出を遮断した後、初期の無色透明な状態に復元される様子を観察し、復元されるまでの時間を測定して評価した。
早い:太陽光を遮断後、30秒以内に無色透明に復元される。
普通:太陽光を遮断後、30秒〜1分で無色透明に復元される。
遅い:太陽光を遮断後、1分以後に無色透明に復元される。
【0045】
【表1】
【0046】
前記表1に示したように、本発明の方法で製造された実施例1及び実施例2のコンタクトレンズは、外観が良く、変色速度及び消滅速度も早く、商業的に有用なことが分かった。
【0047】
比較例1の方法で製造されたコンタクトレンズ、すなわち、ポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物を用いていないコンタクトレンズは、変色する速度が遅く、無色透明に復元される速度も遅いことが分かった。
【0048】
比較例2の方法で製造されたコンタクトレンズの場合、すなわち、2−ヒドロキシエチルメタクリレートとフッ素エステル化合物とを共重合せずに、単純に配合して用いた場合は、コンタクトレンズが均一ではなく、染みが発生する問題があることが分かった。
【0049】
比較例3の方法で製造されたコンタクトレンズの場合、すなわち、2−ヒドロキシエチルメタクリレートとフッ素エステル化合物との共重合体及びポリエチレン(プロピレン)オキサイド含有(メタ)アクリレート化合物を用いない場合は、コンタクトレンズに白化が発生し、変色速度及び消滅速度も遅いことが分かった。
【0050】
本発明は、前記のごとく言及された望ましい実施例として説明されたが、発明の要旨及び範囲から逸脱しない限り、これらの実施例に多様な修正や変形を加えることが可能である。また、添付の特許請求の範囲は、本発明の要旨に属するこのような修正や変形を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、光学的に透明で白化がなく、太陽光によってカラーを有するように早急に変色し、太陽光が除去されると早急に無色透明の初期状態に復元される光変色性ソフトコンタクトレンズを容易に製造することができる。