(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ジチオカルバミン酸系キレート剤として、ジカリウム=ピペラジン−1,4−ビス(カルボジチオアート)を添加することを特徴とする請求項5に記載の複合処理方法。
前記酸性ガス中和剤を、前記酸性ガスに添加して、酸性ガス中和処理を施した後の前記焼却灰に対し、前記非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム及び前記非結晶性アルミナの少なくとも1種と、前記ジチオカルバミン酸系キレート剤を添加することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の複合処理方法。
前記酸性ガス中和剤と、前記非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム及び前記非結晶性アルミナの少なくとも1種と、前記ジチオカルバミン酸系キレート剤とを含む複合処理剤を、酸性ガス中和処理前の前記焼却灰に添加することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の複合処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0024】
<第1の実施の形態:少なくとも鉛と水銀の溶出防止効果の高い複合処理剤>
本発明者らは、焼却灰中の酸性ガス除去のほか、有害元素として少なくとも鉛(Pb)と、水銀(Hg)の溶出を防止し、有害元素の安定化を図るべく、鋭意研究を重ねた結果、例えば、酸性ガス中和剤と水酸化アルミニウムの組み合わせでは、特に水銀に対する効果が低いことに鑑み、複合処理剤の薬剤成分を開発するに至った。
【0025】
すなわち、第1の実施の形態における複合処理剤は、(1)酸性ガス中和剤と、(2)塩基中和剤として、無水硫酸アルミニウム、非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナの少なくともいずれか1種と、(3)ジチオカルバミン酸系キレート剤と、を含有することを特徴とする。
【0026】
ここで、「焼却灰」とは、焼却炉内から出る燃えカスを主灰(ボトムアッシュ)と、気流に乗って飛ばされる、ばいじんや薬剤などが混ざった飛灰(フライアッシュ)の2つに細分化され、本実施の形態においては、特に、これらを区別するものではない。以下、焼却灰と表現する場合には、主灰と飛灰とを区別せず用いる。
【0027】
また、複合処理剤は、焼却灰が、煙道を通ってバグフィルタ等の集塵機に至る途中で噴霧され、或いは、集塵機を通って、水と混練処理される。本実施の形態における複合処理剤は、上記した酸性ガス中和剤と、塩基中和剤と、ジチオカルバミン酸系キレート剤を含むが、これら薬剤を混合して焼却灰に添加してもよいし、これら薬剤を別々のタイミングで焼却灰に添加してもよい。すなわち、本実施の形態における複合処理剤は、それを構成する各薬剤の添加タイミングまでを問うものではない。
【0028】
以下、酸性ガス中和剤、塩基中和剤、及び、ジチオカルバミン酸系キレート剤について、詳細に説明する。
【0029】
((1)酸性ガス中和剤)
酸性ガス中和剤とは、酸性ガス(塩化水素や、硫黄酸化物等)を含む焼却灰と反応して中和する薬剤である。
【0030】
酸性ガス中和剤は、例えば、酸性ガス発生施設の煙道に混合した他の薬剤と共に吹込み、バグフィルタ等の集塵機で飛灰と共に回収される。
【0031】
ここで、酸性ガス中和剤を限定するものではないが、例えば、特号消石灰、高反応消石灰、水酸化ドロマイト、重曹、酸化マグネシウム、或いは、水酸化マグネシウムから少なくとも1種を選択することができる。
【0032】
なお、上記に挙げた酸性ガス中和剤のうち、特号用消石灰よりも比表面積が大きい高反応消石灰を用いる方が、後述の塩基中和剤の焼却灰に対する使用量を少なくすることができるため好ましい。
【0033】
また、水酸化カルシウムや、水酸化マグネシウム、その他、鉄やアルミニウムの水酸化物などは、ヒ素(As)を不溶化する作用がある。
【0034】
((2)塩基中和剤)
本実施の形態では、塩基中和剤として、無水硫酸アルミニウム、非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム(以下、非結晶性塩基性硫酸アルミニウムと称する)、及び非結晶性アルミナのうち少なくとも1種を選択することができる。
【0035】
塩基性硫酸アルミニウムについて説明する。塩基性硫酸アルミニウムは、Al(OH)
x(SO
4)
yの化学式で表すことができ、非結晶性構造を有する。ここで、化学式のxは、例えば、2.0〜2.94であり、yは、0.03〜0.50である。
【0036】
なお、本明細書においては、「〜」の下限値及び上限値の双方の数値を含む。以下においても同様である。
【0037】
図1に示すように、X線回折により、非結晶性水酸化アルミニウムでは、10°、40°及び65°付近にブロードなピーク(2θ)が発現するが、非結晶性塩基性硫酸アルミニウムでは、10°、20°、40°及び65°付近にブロードなピーク(2θ)が発現する。したがって、X線回折によるピークの測定により、非結晶性塩基性硫酸アルミニウムの存在を確認することができる。
【0038】
また、塩基性硫酸アルミニウムの組成分析方法を限定するものではないが、例えば、以下の分析方法を提示することができる。
【0039】
すなわち、アルミニウム(Al)に関しては、JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)や、JIS R 9011:2006(石灰の試験方法)を参照することができる。
【0040】
また、硫酸イオンに関しては、JIS M 8813:2006(石炭類及びコークス類−元素分析方法)や高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を参照して、硫黄の含有量を測定し、硫酸イオン量に換算することができる。
また、水酸化物イオンに関しては、Alと硫酸イオンの数量から計算することができる。
【0041】
塩基中和剤として、非結晶性塩基性硫酸アルミニウムを用いることで、潮解性及び、吸湿性ともに示さず、消石灰など他の粉末薬剤と調合した場合でも固結を起こすことがない。
【0042】
次に、非結晶性アルミナについて説明する。限定するものではないが、非結晶性アルミナは、非結晶性構造を持つ水酸化アルミニウムや、塩基性硫酸アルミニウムを、200℃を超える温度(例えば、250℃付近)で焼成した際に発生するアルミナである。なお、非結晶性アルミナ中には、原料物質によって、硫酸イオンやリン酸イオンなどを含有することがある。
【0043】
図2は、非結晶性硫酸アルミニウムと、非結晶性硫酸アルミニウムから焼成した非結晶性アルミナ(焼成物)のX線回折を示すグラフである。
図2に示すように、非結晶性硫酸アルミニウムと非結晶性アルミナは、10°、40°、65°付近にブロードな共通のピーク(2θ)を有するが、焼成温度が高くなるに従って、ピークの大きさに変化が現れる。そして、非結晶性アルミナでは、焼成温度が高くなるに従って、硫酸イオン由来の20°付近のピークが25°付近までずれることがわかる。よって、20°から25°付近へのピークずれを測定することで、非結晶性アルミナの存在を確認することができる。
【0044】
また、非結晶性アルミナの組成分析方法を限定するものではないが、例えば、以下の分析方法を提示することができる。
【0045】
すなわち、アルミニウムに関しては、JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)や、JIS R 9011:2006(石灰の試験方法)を参照することができる。
【0046】
また、硫酸イオンに関しては、JIS M 8813:2006(石炭類及びコークス類−元素分析方法)や高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法を参照して、硫黄の含有量を測定し、硫酸イオン量に換算することができる。
また、酸素に関しては、不活性ガス融解−赤外線吸収法により測定することができる。
【0047】
塩基中和剤として、非結晶性アルミナを用いることで、非結晶性塩基性硫酸アルミニウムと同様に、消石灰など他の粉末薬剤と調合した場合でも固結を起こすことがない。
本実施の形態では、無水硫酸アルミニウム、非結晶性塩基性硫酸アルミニウム、及び非結晶性アルミナを2種以上選択することも可能である。
【0048】
((3)ジチオカルバミン酸系キレート剤)
本実施の形態では、キレート剤として、ジチオカルバミン酸基を有する有機化合物を含む。
なお、ジチオカルバミン酸系キレート剤としては、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、及び、鉄塩を用いることができる。
【0049】
ジチオカルバミン酸系キレート剤は、粉末及び液体の別を問わないが、他の粉末薬剤と混合する場合には、粉末を用いることが好ましい。
【0050】
ジチオカルバミン酸系キレート剤としては、例えば、ジエチルジチオカルバミン酸の金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸の金属塩、ピペラジン−1,4−ビス(カルボジチオアート)の金属塩、N−エチル−N−フェニルジチオカルバミン酸の金属塩、N(1),N(2),N(3),N(5)−テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミンの金属塩、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸の金属塩、ジベンジルジチオカルバミン酸の金属塩、ジブチルジチオカルバミン酸の金属塩、及び、N−ペンタメチレンジチオカルバミン酸の金属塩から少なくとも1種を選択することができる。
【0051】
特に、ジチオカルバミン酸系キレート剤としては、ジカリウム=ピペラジン−1,4−ビス(カルボジチオアート)を用いることが好ましい。
【0052】
また、ジチオカルバミン酸系キレート剤の分析方法を限定するものではないが、例えば、キレート剤をジイソブチルケトンなどの有機溶媒で抽出し、精製することでX線回折やフーリエ変換赤外分光法、蛍光X線分析、液体クロマトグラフィー/質量分析の組み合わせにより、定性分析及び定量分析を行うことが可能である。
【0053】
第1の実施の形態の複合処理剤では、有害元素として、少なくとも鉛と、水銀の溶出を防止することができる。ここで、「溶出防止」とは、埋立基準値を下回ることを指す。
【0054】
第1の実施の形態では、ジチオカルバミン酸系キレート剤を用いることで、ジチオカルバミン酸基と水銀イオンを選択的に結合させることができ、水銀を特異的に不溶化することができる。特に、ジチオカルバミン酸系キレート剤と塩基中和剤を併用することで、水銀を高濃度で含有し溶出する焼却灰に対して、強力な水銀不溶化作用を発揮でき、水銀の不溶化処理が可能になる。
【0055】
第1の実施の形態では、塩基中和剤として、無水硫酸アルミニウム、非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナの少なくともいずれか1種を選択することで、従来のように、水酸化アルミニウムを含む薬剤成分に比べて、鉛の溶出を埋立基準値以下に、安定して抑えることができる。
【0056】
ところで、従来使用される液体キレート剤による重金属の不溶化処理では、キレート剤の添加量が、焼却灰に対して過剰量となることが多く、最終処分場に埋め立てた際に、処理物からキレート剤が溶出する不具合が生じた。
【0057】
また、従来の液体キレート剤で処理すると、高いCODを示すことや、従来の液体キレート剤がチオ尿素系の構造を有するために、最終処分場の浸出水の処理段階において、硝化阻害を引き起こすなどの問題が発生した。
【0058】
また、従来では、焼却灰の有害物質を処理する場合、キレート剤による単独処理が、一般的に行われていた。しかしながら、焼却灰中の水銀含有量が高い場合、キレート剤の単独処理では、キレート剤の添加量によっては、水銀の溶出量が増加する再溶出が発生し、埋め立て基準値を超過することがあった。
【0059】
これに対し、本実施の形態における複合処理剤では、従来のキレート剤を単独で使用して焼却灰を処理した場合と比較して、大幅にキレート剤の使用量を減らすことが可能であり、最終処分場の浸出水による硝化阻害を防ぐことができる。
【0060】
また、本実施の形態のように、塩基中和剤とジチオカルバミン酸系キレート剤を配合した複合処理剤を用いることで、水銀イオンに対する極めて高い特異的な不溶化作用を得ることができる。このような特異的な不溶化作用は、従来用いられてきた複合処理剤では達成することができない新たな効果である。
【0061】
本実施の形態の複合処理剤では、鉛及び水銀以外に、カドミウム(カドミウム)やヒ素(As)といった有害物質の溶出も防止することができる。また、処理灰から浸出するCODの抑制を行うことができる。
【0062】
更に、本実施の形態では、(4)還元剤を含有することができる。還元剤について、以下に説明する。
【0063】
((4)還元剤)
還元剤の添加により、主として、六価クロム(Cr(VI))の溶出を防止することができる。なお、六価クロムは、高温環境下、酸化カルシウムなどの塩基、酸素の存在により、三価クロムが酸化されることによって発生する。焼却炉では、耐火材や廃棄物中の顔料及び防腐剤中の三価クロムにより、六価クロムが発生することがある。六価クロムは、毒性を有するため、六価クロムが検出される焼却場においては、複合処理剤中に、上記(1)〜(3)とともに、還元剤を含有して、六価クロムを処理することが好ましい。
【0064】
還元剤を限定するものではないが、例えば、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、無水チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸塩、タンニン酸塩、没食子酸塩、没食子酸プロピル、エリソルビン酸塩、ピロ亜硫酸塩、亜硫酸塩、カテキン、硫化第一鉄、クエン酸第一鉄、水硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム、多硫化カルシウム、及び、ブチルヒドロキシアニソールのうち少なくとも1種を選択することができる。
【0065】
(その他)
また、本実施の形態の複合処理剤には、必要に応じて、ダイオキシン処理用の活性炭を含むことができる。
【0066】
また、酸性ガス中和剤、塩基中和剤、ジチオカルバミン酸系キレート剤、及び、還元剤の配合比率については、特に限定されるものではないが、焼却灰中の酸性ガスの処理効率や、焼却灰中の未反応消石灰などの塩基のバランス等を考慮すると、以下の範囲内とすることが好ましい。
【0067】
すなわち、(酸性ガス中和剤:その他の薬剤)=5:5〜9:1とすることが好ましい。なお、比率は、質量比であり、以下も同じである。また、「その他の薬剤」とは、複合処理剤中に含まれる酸性ガス中和剤を除いた薬剤を指す。
また、(酸性ガス中和剤:その他の薬剤)=6:4〜8:2であることがより好ましい。
【0068】
酸性ガス中和剤以外の薬剤の比率は、焼却灰中に含まれる有害物質の量によって調整されるべきものであるため、特に配合比率を限定するものではないが、例えば、以下の比率とすることができる。
(塩基中和剤:ジチオカルバミン酸系キレート剤:還元剤)=5〜9.95:0.05〜1:0〜5であることが好ましい。
【0069】
また、(塩基中和剤:ジチオカルバミン酸系キレート剤:還元剤)=6.5〜9.95:0.05〜1:0〜5であることがより好ましい。
【0070】
<第2の実施の形態:少なくとも鉛の溶出防止効果の高い複合処理剤>
本発明者らは、焼却灰中の酸性ガス除去のほか、有害元素として少なくとも鉛の溶出を防止して、有害元素の安定化を図るべく、鋭意研究を重ねた結果、鉛の溶出防止に効果的な複合処理剤の薬剤成分を開発するに至った。
【0071】
すなわち、第2の実施の形態における複合処理剤は、(1)酸性ガス中和剤と、(2)塩基中和剤として、無水硫酸アルミニウム、非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナの少なくともいずれか1種と、を含有することを特徴とする。
【0072】
第2の実施の形態の複合処理剤に含まれる酸性ガス中和剤、及び塩基中和剤については、上記した第1の実施の形態の説明を参照されたい。また、第2の実施の形態については、上記で説明した還元剤を含めることができる。更には、上記した(その他)を適用することができる。このうち、酸性ガス中和剤以外の薬剤の比率としては、(塩基中和剤:還元剤)=5〜10:0〜5であることが好ましく、6.5〜10:0〜3.5であることがより好ましい。
【0073】
第2の実施の形態では、塩基中和剤として、無水硫酸アルミニウム、非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナの少なくともいずれか1種を選択することで、従来のように、水酸化アルミニウムを含む薬剤成分に比べて、鉛の溶出を、埋立基準値以下に安定して抑えることができる。
【0074】
<複合処理方法>
続いて、本実施の形態における焼却灰に対する複合処理方法について説明する。本実施の形態の複合処理方法では、上記に記載した第1の実施の形態、或いは、第2の実施の形態の複合処理剤を、煙道に噴霧する。
【0075】
このとき、複合処理剤に含まれる薬剤全てを混合して噴霧してもよいし、或いは、これら各薬剤を別々のタイミングにて焼却灰に添加することもできる。「別々のタイミング」としては、各薬剤を、焼却灰が集塵機を通る前のタイミングや、集塵機を通る前後のタイミングで別々に添加することができる。例えば、後述する実験で示すように、酸性ガス中和剤により、酸性ガス中和処理済みの焼却灰に対して、塩基中和剤及びジチオカルバミン酸系キレート剤を添加することができる。このとき、塩基性中和剤及びジチオカルバミン酸系キレート剤を夫々混合して添加してもよいし、塩基性中和剤及びジチオカルバミン酸系キレート剤を別々のタイミングで添加することもできる。例えば、ジチオカルバミン酸系キレート剤を、集塵機を通った飛灰に対し、水と混練して用いることができる。
【0076】
従来では、酸性ガス中和剤を煙道に吹込んで、焼却灰中の酸性ガスを除去したうえで、更に、集塵機に通した焼却灰を、混錬機で、水と液体キレートで捏ねて、処理灰としていた。
【0077】
この方法では、酸性ガス中和剤と酸性ガスの反応効率の問題から、焼却灰中に、アルカリ成分が多量に残り、焼却灰のpHは、強アルカリ(pH12〜13程度)を示した。
【0078】
また、液体キレート剤は、重金属と特異的に反応するが、有機系薬剤のため、処理灰の埋立処理後の浸出水のCOD上昇や、硝化阻害作用などで排水処理に負荷がかかる等の問題があった。
【0079】
また、従来の処理方法では、焼却灰中の水銀処理が不完全であり、水銀の埋立基準値を超えてしまい、焼却炉の運転を停止しなければいけないケース等が生じることがあった。
【0080】
これに対し、本実施の形態では、上記に記載した第1の実施の形態、或いは、第2の実施の形態の複合処理剤を、煙道に噴霧することで、第1の実施の形態の混合処理剤を用いた場合は、焼却灰中の有害物質として少なくとも鉛及び水銀を安定して不溶化処理することができる。また、第2の実施の形態の混合処理剤を用いた場合は、焼却灰中の有害物質として少なくとも鉛を安定して不溶化処理することができる。
【0081】
また、本実施の形態では、ジチオカルバミン酸系キレート剤として粉体キレート剤を用い、或いは、該粉体キレート剤と液体キレート剤の組み合わせで水銀を特異的に不溶化処理することを可能とする。
【0082】
なお、粉体キレートを配合することで、液体キレートの使用率を効果的に下げることが可能となる。
【0083】
また、本実施の形態では、バグフィルターで回収された焼却灰には、塩基中和剤などが混合されているため、混錬機で水と練るだけで未反応の酸性ガス中和剤と塩基性中和剤が反応し、pHを10程度の弱アルカリ性に変化させることができる。このように、弱アルカリ性にすることができ、鉛などは水酸化鉛などの不溶性の塩を生じ、安定して、埋立基準値以下に処理することが可能になる。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の実施例及び比較例により本発明の効果を説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0085】
[実験例1]
実験例1では、鉛とカドミウムの溶出量の測定を行った。
試験試料として、以下の水酸化アルミニウム、無水硫酸アルミニウム、非結晶性塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナを用いた。
水酸化アルミニウム・・・ナカライテスク(株)製 X線回折にて結晶性(ギブサイト)であることを確認した。
無水硫酸アルミニウム・・・関東化学(株)製
非結晶性塩基性硫酸アルミニウム・・・硫酸アルミニウム水溶液を水酸化ナトリウムでpH=7.0に中和し、得られたゲルを脱塩し、105℃で恒量になるまで乾燥した。組成分析を行ったところ、Al(OH)
2.62(SO
4)
0.19であった。
非結晶性アルミナ・・・上記の非結晶性塩基性硫酸アルミニウムを電気炉で600℃、1時間焼成して調整した。
【0086】
実験では、高反応消石灰により、酸性ガス中和処理済みの焼却灰に対して、上記の各塩基中和剤を添加し、鉛とカドミウムの溶出量の測定を行った。測定方法としては、環境庁告示13号試験による溶出試験を行い、溶出液を、JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)に従って分析を行った。
【0087】
その実験結果を以下の表1に示した。なお、表1に示す「添加率%」は、焼却灰を基準にした質量%である。例えば、薬剤8%添加とは、焼却灰100gに対して薬剤を8g添加したことを意味する。実験例1以外の実験に関しても同様である。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示すように、水酸化アルミニウムでは、鉛(Pb)及びカドミウム(Cd)の溶出量が多くなり、埋立基準値を超えることがわかった。一方、無水硫酸アルミニウム、非結晶性塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナでは、鉛及びカドミウムの溶出を効果的に抑えることができるとわかった。
【0090】
また、pHに関しては、水酸化アルミニウムを用いた比較例1では、pH=12程度であるのに対し、本実施例では、pH=10程度の弱アルカリ性に変化させることができるとわかった。このことからも、本実施例では、鉛などは水酸化鉛などの不溶性の塩になったと推測され、安定して埋立基準値以下に処理することができた。
【0091】
なお、上記実験に示すように、硫酸アルミニウムには、無水塩を用いた。無水塩を用いたのは、水和物(例えば、一般的な14〜18水和物)では、混合処理剤を、焼却炉の煙道(100〜200℃の高温環境)に吹き込んだ際に、125℃付近で溶解が発生し、混合処理剤の固化が懸念されるためである。
【0092】
[実験例2]
実験例2では、六価クロムとヒ素の溶出量を測定した。
試験試料として、薬剤A(水酸化カルシウム:非結晶性塩基性硫酸アルミニウム=70:30)、薬剤B(水酸化カルシウム:非結晶性塩基性硫酸アルミニウム:硫酸第一鉄・一水和物=70:27:3)、及び、薬剤C(水酸化カルシウム:非結晶性塩基性硫酸アルミニウム:無水チオ硫酸ナトリウム=70:29:1)を用いた。
水酸化カルシウム・・・関東化学(株)製の特級水酸化カルシウム
非結晶性塩基性硫酸アルミニウム:実験例1で用いたものと同じ
硫酸第一鉄・一水和物・・・石原テクノ(株)
無水チオ硫酸ナトリウム・・・関東化学(株)製の特級 チオ硫酸ナトリウム
【0093】
実験では、酸性ガス中和処理前の焼却灰に対して、上記した薬剤A、薬剤B及び薬剤Cの添加を行い、六価クロムの溶出量を測定した。測定方法としては、環境庁告示13号試験による溶出試験を行い、溶出液を、JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)に従って分析を行った。その実験結果を、以下の表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
表2に示す「参照例」とは、混合処理剤に含まれる薬剤成分は、本実施例に該当するものの、この実験に関しては、他の実施例よりも効果が薄く、他の実施例との比較対象とされる試料を指す。
【0096】
表2に示すように、実施例4、及び実施例5では、硫酸第一鉄・一水和物や無水チオ硫酸ナトリウムといった還元剤を含んでおり、六価クロム(Cr(VI))の溶出量を埋立基準値以下に抑えることができるとわかった。一方、還元剤を含まない参照例1では、実施例4、及び実施例5と同様にヒ素(As)の溶出量を効果的に抑えることができたが、実施例4及び実施例5に比べて、六価クロムの溶出量が大きくなった。ただし、混合処理剤を添加しない無処理に比べて、六価クロムの溶出量を低く抑えることができた。
【0097】
<実験例3>
実験例3では、鉛と水銀の溶出量を測定した。試験試料として、液体ピペラジン系キレート剤、非結晶性硫酸アルミニウム、薬剤D及び、薬剤Eを用いた。
非結晶性塩基性硫酸アルミニウム、非結晶性アルミナ・・・実験例1で用いたものを使用した。
液体ピペラジン系キレート剤・・・(株)ポーラーズ研究所製のアッシュワンL−810(主成分:ジカリウム=ピペラジン−1,4−ビス(カルボジチオアート))
ピペラジン系キレート粉末・・・アッシュワンL−810を、スプレードライヤーで乾燥した。
【0098】
実験では、高反応消石灰により、酸性ガス中和処理済みの焼却灰に対して、上記の塩基中和剤やピペラジン系キレート剤を添加し、鉛と水銀の溶出量を測定した。測定方法としては、環境庁告示13号試験による溶出試験を行い、溶出液を、JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)に従って分析を行った。その実験結果を以下の表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
水銀(Hg)の溶出量は、最低でも埋立基準値以下とし、埋立基準値の1/10以下とすることが好ましい。
【0101】
表3に示すように、液体ピペラジン系キレート剤と非結晶性塩基性硫酸アルミニウムを単独で使用した場合は、水銀(Hg)の溶出量を、埋立基準値にすることができなかった。
【0102】
すなわち、液体ピペラジン系キレート剤を用いた比較例2では、添加率を増やすことで、鉛に対する効果を期待できるが、水銀の溶出量が増加し、水銀の埋立基準値である0.005mg/Lを超過することがわかった。液体ピペラジン系キレート剤を用いた比較例2では、実施例6、及び実施例7に比して、pHが大きく、このことも水銀の溶出量の増加や不安定化に繋がっているものと考えられる。
【0103】
非結晶性塩基性硫酸アルミニウムを用いた参照例2では、水銀の溶出量をある程度まで低下させることができるが、埋立基準値以下とならず、水銀に対する効果は、実施例6、及び実施例7に比べて低く不安定であることがわかった。
【0104】
これに対し、薬剤D及び薬剤Eを用いた実施例6及び実施例7では、水銀を特異的に不溶化することができた。特に、埋立基準値の1/10以下にできることがわかった。
【0105】
<実験例4>
実験例4では、鉛とCOD
Mnの測定を行った。試験試料として、液体ピペラジン系キレート剤、非結晶性塩基性硫酸アルミニウム、及び、薬剤Fを用いた。
非結晶性塩基性硫酸アルミニウム、ピペラジン系キレート粉末、及び、液体ピペラジン系キレート剤・・・実験例1や実験例3で用いたものを使用した。
【0106】
実験では、消石灰による酸性ガス中和剤済みの焼却灰に対して、液体ピペラジン系キレート剤や、非結晶性塩基性硫酸アルミニウム、薬剤Fの添加を行い、鉛とCOD
Mnの測定を行った。測定方法としては、環境庁告示13号試験による溶出試験を行い、溶出液を、JIS K 0102:2016(工場排水試験方法)に従って分析を行った。その実験結果を以下の表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
表4に示す通り、液体ピペラジン系キレート剤を用いた比較例3では、液体キレート剤を添加するに従って大きくCODが大きく上昇することがわかった。ここで、COD
Mnは、化学的酸素消費量を示す指標で、大きければ大きいほど環境負荷が大きくなる。
【0109】
これに対し、非結晶性塩基性硫酸アルミニウムを用いた実施例8や、薬剤Fを用いた実施例9では、COD
Mnを、比較例2に比べて低くすることができるとともに、鉛の溶出量を、埋立基準値以下に抑えることができるとわかった。
【解決手段】本発明の複合処理剤は、焼却灰中の有害物質として、少なくとも、鉛、及び、水銀の溶出を防止する複合処理剤であって、酸性ガス中和剤と、塩基中和剤として、無水硫酸アルミニウム、非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナの少なくとも1種と、ジチオカルバミン酸系キレート剤と、を含有することを特徴とする。本発明の複合処理方法は、焼却灰に、酸性ガス中和剤と、塩基中和剤として、無水硫酸アルミニウム、非結晶構造を有する塩基性硫酸アルミニウム、及び、非結晶性アルミナの少なくとも1種と、ジチオカルバミン酸系キレート剤とを、添加する工程、を含有することを特徴とする。